恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

23 / 53
今と昔の対話の果てに

 

 

 ……まぁ、なんだ。仮に、この宇宙のどこかに、ヒト種以外の知的生命体が存在するとして?

 

 そんな連中がこの星にまで遠路はるばるやってきて、地球人とコンタクトをとるとして。

 

 彼らが、果たして、どういったふうなメンタリティを持っており、地球人とのあいだにどんな形の相互関係性が築かれることになるのか。というのは、SF的には極めてお約束のテーマと言える。

 

 

 

 そして、多くのケースでは、往々にして互いの違いが注目される。同じホモ・サピエンスの中ですら千差万別なんだから。当然異種族、異星人ともなれば、互いに思いもよらない考え方や、とっぴな行動を採るのではないか、みたいな。

 

 

 

 現実の地球上にも、縦に頷くのが「ノー」で、左右に首を振るのが「イエス」になっている文化圏だってあるわけだ。感情表現メソッドの食い違いに基づく、異文化交流上のちょっとしたトラブル。それが時として、悲劇的な結果を生み出す根本要因になったりもする。

 

 

 

 以前にも話題にしたとおり。原作の片一方である『ジーンダイバー』の最序盤において、『握手』という行為に付与されたジェスチャーとしての意味合いが、ヒト(友好)とプグラシュティク(敵対)との間で完全に逆を行っていたせいで、両種族の関係性が決定的に拗れてしまった、という演出があった。

 

 他にも、『恐竜惑星』のギラグールには嘘をつくという発想がない。そのせいでというか、そのおかげでというか。元来技術的にも戦力的にも明白に優位を維持していたこの種族が、フォロルやヒトに文化プロトコルの脆弱性を突かれることで、一杯食わされるケースも劇中を通してしばしば見られた。

 

 

 

 

 

 

 ヒトは、生来の文化圏というフレームワークから逃れることはできないのだと言われる。

 

 異なった背景の持ち主が相互に関わり合う場合。行き違い、すれ違いのたぐいは、いつ何時でも起こりうる。

 

 

 

 それだからこそ、自文化中心主義。要するに一方的なモノの見方は厳に慎み、互いの文化は同等のもの、互いに価値あるものとして、しっかり尊重し合っていきましょう、という。

 

 とりわけ20世紀の後半には、その手の比較相対的スタンスが隆盛を極め、いきおい、その風潮はエンターテイメント界隈にもじんわりと波及することと相なった。

 

 VWOの両原作についてもまた然りだろう。シナリオ構成における風味付けの一貫として、あちこちで顔を覗かせているってことかと思う。

 

 

 

 

 

 

 ただ……この類の見解は、どうしても偏りや、過大評価を生みやすい。

 

 研究者にしても。表現者にしても。ともすれば耳目を集めることが個々人の成功につながる立場にあることから、センセーショナルなお話を世に問おうとするために、各々の差異を、殊更強調するインセンティブが働いてしまう。

 

 その結果として、特定の文化、価値観に、実態と比べてより大げさな点数を付けてしまいがちである。

 

 

 

 評価ズレは補正されることなく。むしろ、年月とともにズレが積み重なることも少なくなく。

 

 実情から剥離した通念は糸の切れた凧となって、世間一般の空を当て所もなく漂い。時として通行人を巻き込んだ墜落事故発生で、思いもよらない大惨事の根になったりもする。

 

 

 

 そうした不毛な航空トラブルを回避するために。ある種の『普遍性』を追求することも、とりわけ今世紀以降において、それなりに重要視されるようになってきている。

 

 お仕着せの、絶対的なソレではなくて。あくまでサンプルの山から導き出されるアベレージにすぎない、反証可能な普遍性ってものを。

 

 

 

 ……とまー、このゲームのシナリオにおけるスタンスとしてはだ。その手の、20世紀末から見るとやや揺り戻しじみた考え方が、屋台骨として採用されていると言っていいんじゃないか。

 

 21世紀も中葉に差し掛かった今。それっていまいち古臭さの否めないポジショニングだとは言えようが。

 

 残念ながらこうした点にかけては、自動生成品に先進性なんて望むべくもないから仕方がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 エウロパ人とは、ヒトとはまるっきり異なる存在である。

 

 まずもって各々の生まれ故郷たるエウロパと地球では、生命体の生存環境として異世界もかくやな違いがあるし、体組織の基礎構成物質すら、ケイ素と炭素で違っている。

 

 辿ってきた進化の道筋も。また、積み上げてきた精神的な事物、産物も。お互いに目の当たりにした際に、グロテスクさすら感じられるほどの隔たりがあるはず。

 

 

 

 でも、それでいてこの両種族には共通項がある。

 

 ともに発達した知的能力を持つ社会性動物である、ということ。その一点を持って、二方は数多ある他の生命種からかけ離れ、際立って特筆すべき存在へと成り遂せているのだった。

 

 

 

 独立した、利己的な個人をおおぜい撚り合わせた社会システムを構築するにあたり……構成員に求められる特徴、スキルは、必然的に似通ってくるものと考えられる。

 

 それは、言語だったり、慣習だったり、法だったり。またユーモアの精神や、リーダーシップ。協調性、人道主義的(ヒューマニズム)な価値観だって含まれるだろう。

 

 

 

 そうした伝統の彩りは、さしずめ血液中を流れる数多の血球たちのように。コミュニティ全体を生き生きとさせるための、大事な基礎的インフラの役目を果たしてくれている。

 

 

 

 進化論的なプロセスによって育まれ、高度な社会性を手に入れた知的生命体は、それなり以上に類似した精神性を身につけるものなのではないか? 

 

 別種族との間に横たわる、差異に注目するでなく。知性体としての共通項、普遍性の部分に、ひときわフォーカスが当てられているってことなんだな。

 

 ソッチの側に無理やり話を寄せている、と言い直しても良いだろうと思う。単にお話づくりの都合――価値観がズレすぎて「ひたすら会話が通じない」というのは、初見の受け手にとって、得てしてストレスにしかならないもんだ――として、邦人と異邦人との精神構造を似通らせるに留まらず。二つの種族をわざわざ「わざとらしく」似せてある。そういう意味だ。

 

 

 

 事実、統率者とその麾下というエウロパ人独特の関係性につき。このゲーム中での演出は、無闇やたらに「ヒト」っぽい。

 

 ドライ・シックスの部下たちは、いわば取り巻きであり親衛隊である。そのため、本来連中には性別が存在しないにも関わらず、ある程度男性的な振る舞いやポジショニングが明確に割り振られている。

 

 それに対し、コロニーのコアたるドライ・シックスは、御令嬢タイプのクイーン・ビーだ。ヒエラルキーのトップに立ちながら、絶対的に庇護されるべき存在としても在り続ける。当然こちらは女性的、となる。

 

 

 

 言ってしまえば、これはドライさんを中心とした仲良しサークルの構図だ。

 

 ちょっとばかり、俗っぽすぎるとすら言えるだろう。レジスタンスの一部隊にしてはヌルすぎるんじゃないか? どこぞからその手の批判が、ポンポコ飛び出てきかねない。

 

 

 

 ま、実態として、これこそが典型例だとするつもりは、不遜な造り手(AIライター)の側にも無いんだと思う。

 

 統率者と部下たちとの関係性。単にドライ分隊ではこうだったのだ、というだけで。エウロパ人のコロニーごとに、あり方は恐らく千差万別なんじゃあなかろうか。

 

 

 

 そして、そのどれもに何処か見覚えがある。懐かしみがある。ヒトにとって(・・・・・・)身近な、馴染みある関係性だったっていうわけだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「――そうとも。我らが統率者は、なかなかに分かりやすい性格をしている」

 

 ずらりと並んだエウロパ人の、右から三番目のひとりが半歩ほど踏み出す。ドライ・シックスとドライ18とのやり取りに、別個体が横からクチバシを突っ込んできたんだな。

 

 他の個体よりも半周りほどサイズが大きい。その一挙一動からは、親愛に裏付けられた苛立ち、とでも言うべきものが、山盛りになっているのが窺える。

 

「全般的に優秀ではあるが……ひどく、感傷に流されやすい傾向がある。事実、喪われた私たちのことなど、早々に思い出にしてしまって、新たに別チームの統率に回るべきなのに、ここに来てなお、未だにそうしていないようだ。そんなことだろうとは、思っていたが」

 

「スリー=ゼロ。あなたも、ですか」

 

「ああ、私もだとも、シックス」

 

 と、ドライ30は続ける。ナンバー18よりも声のトーンがやや低く、大きめのサイズも相まって、他の個体と比べると少々威圧感が強い。

 

 それにしても、連中のナンバリングの法則性っていったいどうなってるのかね? どうも番号が若いドライさんの方が目下扱いな感じだが。

 

「むろん、こうやって話している私が、元来の私、ドライ・スリー=ゼロそのものとは言い難いのは、予測が付く。いわば今の私は、過去の焼き付けのようなものなのだろう。しかしながら、焼き付けだろうと、本物のドライ・スリー=ゼロであろうと。この場で一言一句変わらぬことを述べるのは、疑いのないことだ」

 

 外骨格があちこちピンと張っている。……これって、感情表現としてはやっぱり「怒ってる」ってことなんだろうなあ。

 

 

 

「我々のことを忘れずに居てくれるのは、喜ばしく思っている。一介の部下として。それはまったく名誉なことだ」

 

 語りかける言葉に口先じみた軽さはない。話の前置きではあるものの。今の部分も、ちゃんとドライ30の偽りない思いなんだろう。

 

「だが、それだけで済ますわけにはいかない。我らが統率者が、我々の喪失、死に囚われ続けている現状については、本意ではないから。早急に立ち直って貰わねばならず、自暴自棄になるなど、以ての外と言える。そもそも……結果が出たから良いものとはいえ。統率者たる者が、ノー・テイストの本拠地に事実上の特攻を仕掛けるなど、言語道断ではないか」

 

 あ。ちなみにノー・テイストっていうのはスネーカーのことね。

 

 エウロパ人たちはそう呼ぶ。海水の味を呼び名とするエウロパ人を無に帰そうとしているから無味、すなわちノー・テイストってことらしい。

 

 スネーカーという呼び名はティルの発案で、こっちの語源は蛇、つまり土中生活を送るげっ歯類たちの天敵に由来する。

 

 ついでに言うと、たぶん聖書の蛇もモチーフのひとつになってるんじゃないかと思う。ルシファーであり、サタンであり。そして不完全なる造物主、偽神[デミウルゴス]にも通ずるってわけだ。『恐竜惑星』も、『ジーンダイバー』も、宗教色はそこまでじゃないけど。

 

 

 

「それは……」

 

 狼狽しながらも、なんとか口を挟もうとするドライ・シックス。

 

 しかし、ドライ30は直ぐに発言を被せてくる。

 

 ……なんか、今回はほとんどこんな感じの扱いだな、ドライさん。ひたすら痛いところ突かれてタジタジってふうで、普段の怜悧さはまぁ見る影もない。

 

 元より御本人が鋭い人物であるだけに。そのぶん、自分自身に突き込む刃物も鋭くなっているってとこかと思う。

 

「確かに当時の状況は切迫していた。また、千載一遇のチャンスでもあった。だから、あのとき、我らが統率者が分の悪い賭けに身を置いたことは、最大限譲歩を重ねた上で、やむを得ないとも看做せたかもしれない。とはいえ、その後の経緯に関しては、明らかに、許容範囲を越えている」

 

「……」

 

「我らが統率者は、ノー・テイストとの戦いの佳境において、既に御身を危機に晒しておきながら。あまつさえ、その後の外宇宙の知的生命体とのコンタクト・ミッションに、半ば独断で身を投じたのだと聞かされている」

 

 

 

 『ジーンダイバー』エンディング後の話だねえ。

 

 おとめ座、β星の方角から人工物と思しき電波信号を受信。その出処を確かめるために、ゲンゴロウに乗り込んだ一行は、背景にスタッフロールの流れるなか、外宇宙へと向かって飛び立っていった。

 

 希望に満ち溢れた感動の幕引きではあった。ただ、統率者という重要な地位にあるドライさん(「プグラシュティクの英雄」でありリャナン家の次期当主のはずのティルもかなりアレだけども)がひとり行くべきかというと、エウロパ人的には明らかに「大人しく後ろで座ってろ」or「せめて最低限の弾除けぐらい連れてけ」案件であり。些かならず無謀の誹りを免れ得ない行動と言えよう。

 

 

 

 なんでそんなことドライ30(あんた)が知ってんの? という話でもあるが。

 

 まぁそこはそれ。ティルに対するバン・ニーと一緒で、いつもの局所性フラクタライズ・エラーの特殊性ってことでひとつ。

 

 

 

「幸い、接触先のスタンスは友好的だった。フォロル族、夕闇の民ギラグールの両種族は、ともに元を辿れば地球発生型生命体であり、霊長人類にとっての既知の存在でもあったから。ファースト・コンタクトは平和裏に進み、将来的な交流を視野に入れた条約を締結、現在に至る」

 

 こっちは『恐竜惑星』のエンディングとのクロスオーバーだな。『宇宙の眼』を巡る攻防の果てに、恐竜人類たちは外宇宙への移民を余儀なくされた。

 

 10年後には、もう一度地球を。新生代第四紀、人新世、哺乳人類の文明が築かれた現代の地球を訪れるつもりだと。

 

 そう言い残して、バーチャル・ステーションに繋がっていたハルたちからの超空間通信は途切れることになった。

 

 そしてVWOの時間軸はまさにその10年後で、さっきのおとめ座から受信された電波こそが、彼ら恐竜人類からのものだったのだ。VWOの設定上、そんなふうに辻褄合わせがされているってこと。

 

「なるほど、我らが統率者が、またも成し遂げたというわけだ。甚だ感嘆に値する。しかし、言うまでもないことがある。そのごとき利得など、御身の安全に比すれば、まったくもって安すぎるのだということ。統率者たるものの心得として、無用なリスクをわざわざ望んで負おうなど、けっして――」

 

 

 

「まぁ、まぁ」

 

 と、ドライ18が割って入ってくる。

 

「そこまで明け透けに言わなくてもいいじゃないですか、スリー=ゼロ。我らが統率者としても……仕方のない部分があったことは、確かなんですから」

 

「だが――」

 

 ドライ30の言葉を遮りつつも。それでいて身体はドライ・シックスに向けて、ドライ18が再度、場の発言権を握った。

 

 なんつうか、単なる良い警官と悪い警官の構図だな、こりゃ。

 

「……でもね、シックス。私だって大筋意見はスリー=ゼロと変わらない。というか。この場所にいるいずれの個体も、ほとんど同じことを言いたいでしょうよ」

 

 そう言って、ドライ18が背後の他の同僚たちに視線をやると。十数名のドライ分隊、つまりドライさんの仲間たちが、一同揃って、次々分かりやすく頷いて見せた。

 

 

 

 ドライ・シックスという一人の統率者に対する、好意的な感情に裏打ちされた根強い不満。概ね、この場におけるエウロパ人の総意なんだってことらしい。

 

 

 

 

 

 

 一般論として、常に冷静かつ的確な人物造形だとされているドライさんなんだけども。

 

 実は『ジーンダイバー』劇中での立ち回りを見ていくと、あんがいポカの多いキャラクターだったりもする。

 

 

 

 もちろん、視聴者という超越的な視点で作中人物の良し悪しを決めつける、というのは、けして褒められたこととは言えない。

 

 キャラクターは、劇中のキャラクターとしての限られた判断材料に基づいて動くのであって、その枠を超えたメタ的な優秀さを見せてしまうと、むしろずさんな脚本に分類される。ごもっともな話だ。

 

 

 

 とは言うものの……できる限り客観的な評価に努めた場合であっても。ドライさんの原作中における行動が、事前の評判とイマイチ符合しない、というのも、それはそれで妥当な見方ではあるように思う。

 

 

 

 原作第二部の序盤。VWOの現ステージでも用いられているシチュエーション。

 

 ペルム紀末のエウロパ人基地が戦闘実行体の襲撃を受け、その唯一の生き残りたるドライさんが、ユイたちと初めての接触を持った。

 

 双方が探り探りの対話のなかで、虎哲というコンピュータ・インターフェースに対して猜疑心を顕にし、パックの身柄を攫ってその場からトンズラを仕掛けた。

 

 スネーカーに本国のコンピュータを乗っ取られ、酷い目に遭っているエウロパ人として、虎哲の存在は敵方のスパイとしか思えなかった。そこまでの行動は、やむを得なかったと見るべきだろう。

 

 

 

 しかし、攫ったパックのボディチェックを怠って彼の毛皮に埋もれた通信機をそのままにしていたこと。自分たちもタイム・ホールという転送技術を普段遣いしているにも関わらず、ジーン・ダイブでパックやティルを転送可能であるという事実を始終考慮に入れていなかったこと。

 

 二つ目のエウロパ人基地のあるデボン紀後期にて。パック強奪のためにエウロパ人の戦力(おそらくドライ分隊とは別勘定)を逐次投入し、フラストレーションの溜まっていたティルに人員をバンバカ狩られて損耗したこと。

 

 そんなティルの目の前にノコノコ顔を出し、その際にうかつに提示したパックの記憶回復用の金魚鉢を撃ち抜かれたこと。

 

 

 

 特に最後のひとつが大問題で、小回りの利く記憶回復アイテムを失ったことによって、一行は原生代末期の四つ目のエウロパ人基地までパックを連れて行かざるを得なくなった。

 

 結果として、スネーカーに基地を発見され、エウロパ人たちは、バーチャル世界からの完全撤退を余儀なくされた。

 

 

 

 また、ティルの偽装投降を受けて、カンブリア紀にあった三つ目の基地に彼女とパックを連れ込み。虎哲のモニタリング経由で情報を抜いていたスネーカーからの襲撃を呼び込んだ件についても、ドライさん本人の落ち度の有無や大小はさておき、責任問題は免れないだろう。

 

 

 

 ……とまー、いくら刻々と変わりゆく状況への、対処療法の結果といえど。作中のエウロパ人戦力のうち、だいたい半分強くらいの損失は、残念ながらドライさんの失点って扱いになっちゃうんじゃないか?

 

 『ジーンダイバー』第二部の前半部分は、そんな疑問を抱いてしまう話運びに満ち溢れてたりするんだな。

 

 

 

 もし、四つのエウロパ人基地の壊滅後、ドライさんがひとりバーチャル世界に残り、スネーカーとの和解という結果を引き出せていなかったら。

 

 つまり、ドライさんがユイたちに同道せず、四つ目の基地壊滅時点で他の仲間たちと一緒にエウロパに戻っていたら。

 

 過失ある責任者のひとりとして。本国で盛大に吊し上げを食らってた可能性は、低くないように思われる。

 

 

 

 

 

 

 繰り返すが、各所における『ジーンダイバー』の作品紹介でも、ドライ・シックスはクールで頭の冴えるキャラクターだという記載がほとんどだ。

 

 遊撃チームのサブリーダーを任されるなど。その設定は、VWO内でもしっかり踏襲されている。

 

 原作中の立ち振舞いにつき、疑問点があちこち浮かび上がってきたとしても、そんなものは単なる脚本の都合であって、取るに足りないと見るべきかもしれない。

 

 

 

 ただ……劇中での描写と、キャラクター設定との間にあえて整合性を取ろうとするなら。

 

 ペルム紀の基地で身内を皆殺しにされたドライさんは、心の支えと、頼れる相談相手とを一挙に失ってしまった。

 

 それがために行動はやや短慮に。感情的にならざるを得なかった。

 

 ノー・テイスト打倒のミッションを終えてもなお、未だ心の傷は癒えず。行動の端々に捨て鉢なところが見え隠れしている。

 

 

 

 ドライ・シックスというキャラクターにつき、「全体の整合性」を尊ぶAIライターが捻り出した出力。原作だと実際にはどうだったのかは知らないけれど、とりあえずVWO中のストーリーにおいては、そんな感じの解釈が援用されているようだ。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、シックス? 別に、今すぐこの場で思考を切り替えろとは言いませんし、もし、余りにもあっけなく割り切られてしまうと、我々としても、一抹の寂しさを覚えずには居られないのかもしれませんが……でも、今更。そんなことは、どうだって良いことです」

 

 ドライ18はスムーズな口調で語っていく。その言葉の端々に、ドライ・シックスに対する気遣いと、確固たる意見とが併存しているのは明らかだ。

 

 調律された滑らかな耳触りは、その淀みなさによって、告げられる側に、現実のありのままを否が応でも突きつける。

 

「とにかく、このままの調子だと、あなたの今後のキャリアにつき、弊害が大きいのは間違いありません。先人いわく、『良き味わいは急ぎ溶け去る』、ですからね。我々の弔い合戦をモチベーションにするのは程々にしてください。今みたいに、対ノー・テイスト後の燃え尽き症候群のまま、フラフラされると危なっかしいですから。自棄っぱちにもならないでください。それでは、我々が身を挺した甲斐というものがないではありませんか?」

 

 ドライ18が、そっと両手を半ばまで掲げる。少し、戯けたように。

 

「思い出は、あくまで思い出として。ふさわしい場所に据え置かれるべきです。どうせ、我々にも、勲章が山ほど降りているんでしょう? 手間を掛けさせますが、管理はよろしく頼みます。ゆくゆくは、戦勝記念碑の見栄えの良い箇所に、一同揃って名前が刻まれる、なんていうのも良いですね。名誉は永遠。今となっては、我々も、それで十分に満足ですから。……たぶんね」

 

 

 

「……ですが、あなた達は」

 

 絞り出すように、ドライ・シックスが問いかける。

 

「生き延びたこの私の、照り返しに基づく視座ではなく。他ならぬ、あなた達は。本当に、それでも構わないと言うのですか?」

 

 

 

「……ああ、頃合いだ、頃合いだ。名残惜しいが、我ら一同、これまでです」

 

 掲げた両手はそのままに、ドライ18が左右に首を振る。ドライさんの問いには答えない。……というのも、死者は、死者そのものの言葉を伝えることなど許されないので。

 

「とにかく、会えて良かった。どのほどの役割を果たせたかは分からないけれど、多少なりとも、今のあなたの背中を押すことができて良かった。我らが故郷、氷と水の衛星に栄光あれ。そして、我らが統率者の先行きが、どうか恵まれたものであらんことを。さようなら、シックス。……幸せに」

 

「待ってください! まだ――」

 

 局所性フラクタライズ・エラーの解消音がささやぐなか。ドライ分隊の全員が、その蟹状の手足を使って、何らかのリアクションを見せながら消えてゆく。

 

 それぞれが行う身振り手振りの意味合いは、はっきりとしない。でも、それらがドライさんに対する親愛の気持ちと、別れを惜しむ思いとが籠められたものであることは、まず間違いがないだろう。

 

 

 

 

 

 

「ドライさん……」

 

 エア・ポートに残っているのは遊撃チームのメンバーだけだ。しばらく無音が続いたあと。ユイが胸元に右手を添えて、ウェットな表情のまま、言葉を詰まらせる。

 

 

 

「……ドライ・シックス」

 

 と、フィラが謹厳とした気配とともに、平坦な声色で告げる。

 

「素晴らしい戦友たちだったのだね、彼らは」

 

 

 

「……ええ」

 

 ドライ・シックスは、消えていった部下たちの方角を呆然と見つめながら。さっきから当て所もなく伸ばされていた片手を、ゆっくりと下ろした。

 

 見ての通り。その人間型の輪郭は、細かく波打つかのように、あちこちが歪んで見えている。

 

「掛け替えのない、仲間です。……いえ。仲間、だった」

 

 

 

 リックくんが、消えていったエウロパ人たちの方角に向けて、利き手の手のひらを正面にかざす、プグラシュティク流の敬礼を行う。

 

 己自身と似通った、職務に従事し、屍を晒した者たちへの敬意を表する。少々毛色こそ違えていても。彼もまた、一兵士であることは違いない。

 

 両目を細め、黙祷を捧ぐ。ペルム紀末期、2億5000万年前の青白い空に向けて。静かに。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。