恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

24 / 53
食い物の恨みは大きい

 

 

 フネのつくりが三層構造になっているティモシーⅡの、第二層後部。

 

 見ての通り、このフロアは乗員たち用の簡易式リビング・ルームだ。

 

 

 

 奥に向かって横長の一室。内装は薄く青味を帯びたメタリックを基調としている。床も壁も、あと天井もか。雰囲気的にはフォロル軍大型航宙艇のアベレージから、さほど大きく外れたものではない。

 

 ただし、通路として広めに確保されている、フロアの左側2/5くらいを除くと。残りの右側部分には踏み心地の良さそうな白い文様入りカーペットが敷き詰められていて、「そこ」が他所から区切られた特別なスペースだってことが、ひと目で分かるようになっているのだった。

 

 

 

 

 

 

「ったく。昔の萌も似た感じがあったが、霊長人類の女の子ってのは、みんなして無茶をしがちなのかねえ」

 

 カーペットの上に、斜めに並んで生えているのは、ビスのねじ穴部分を思わせる形状の丸テーブルが二つ。

 

 その二つの周りには、これまた固定式――艦内の大物から小物まで、オブジェクトについてはだいたいそうなっている。戦闘行動時の衝撃で吹っ飛ばないよう、本体に組み込まれているわけだ――のクローバー型、大きな尻尾穴が空いた背もたれ椅子が三つずつの、合計六つ。

 

 

 

 いっとう通路寄りの椅子に腰を下ろし、砕けた姿勢で両足を組んでいるのはナオーだな。

 

 丸テーブルを挟んで斜め前。正面左の席で背中を縮こませているユイに向かって、冗談めかして嗜めるのだった。

 

「もともと、バーチャル世界の中じゃあ何が起こるかなんて分かったもんじゃない。エラー環境下かどうかって以前のハナシだな。俺たちがギリギリ間に合ってなかったら、そのかわいい顔に、でっかいキズでも付いちまってたかもしれないんだぜ? なぁ、相棒」

 

 

 

 ふいにナオーがよそ見をし、言葉と視線を投げかけた先にはリックくんがいる。

 

 前触れもなしにいきなりの相棒呼ばわりなわけだが、別段戸惑う様子もなく。ニュートラルな笑顔を浮かべて、彼も軽口らしき反応を返す。

 

 

 

 ステンレスっぽい蛇口から、温かい液体が注がれるかすかな音が響いている。テーブル側を向いてお喋りっぽい仕草をしながら、薄茶色の体毛で微細に覆われたその両手も、引き続きテキパキと動き続ける。

 

 僅かに間があって。そのあと、通路と反対側の壁際に埋め込まれているカラフルなドリンクサーバーの前にいたリックくんが、中身の入ったプラスチックカップと金属製ジョッキふたつを持って、テーブルの傍へとやってくる。

 

 

 

「おッ、サンキュー」

 

「ありがとう。……本当、ごめんなさい。二人にも、フィラさんにも、迷惑を掛けちゃった」

 

 受け取ったココアっぽい飲み物のカップにお礼を言いつつ。反省した様子で、ユイが呟く。

 

「あのとき、あの子が危ないって思ったら、とっさに身体が動いてたの。今になって振り返ると、すごく軽率だったと思うわ。これからはもっと慎重でいられるように、前もって、ちゃんと気をつけます」

 

 

 

 ちなみに、「あの子」っていうのは、フィラ&ナオーの解放クエ時に彼女が助けに飛び出していったヘミキオンの幼獣のことだな。

 

 ワールド2、鮮新世ステージに後づけで投入されたクエスト目標用マクガフィン。フィラとナオーぶんの解放クエスト完了後、怪我していた足を手当てした上で、無事に野生へと返されている。はず。

 

 

 

「ん。……まぁ、別にそこまでしょげることでもないんだけどな? こないだに関しちゃ、お前さんが突っ込んだおかげで丸く収まったって面があったのは、確かなんだし」

 

 先端に黄色い玉っころが付いたなめらかな尻尾が、ナオーの肩のすぐ傍でおどけて揺れる。

 

 尻尾穴経由で椅子の背面を半周し、そのまま手前の側に回されている。玉っころの正体は電磁吸着用のコンデンサーで、大昔にラプターにぶった斬られたらしい彼の生尻尾は、根本からまるごとメカにすげ替えられているのだった。

 

 言わば、義手ならぬ義尾ってところかね。戦闘用にも普段遣いにも便利の良いブツであるそうな。

 

「ただ、誰にだって尻尾の持ち合わせはこれ一本しかないわけだ。いくら俺のが特別製でも、伸ばして届く間合いの広さにゃ限界がある。いつでもどこでも、周りがフォローできるとは限らないってことは、しっかり覚えといてくれよな」

 

 

 

 空いた席に腰を下ろしたリックくんも、真面目な顔を作って何かしら告げる。

 

 ナオーのお叱りに付け足す形でのやんわりとした助言、忠告。そんなあたりだろう。

 

 プグラシュティク特有の頑丈な爪先を、右の人差し指だけ上に伸ばしてクルリとさせる仕草を受けて。神妙な表情で、ユイがこくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 本実況は概ねメインストーリー一本槍で進めているが、なんだかんだでこのゲームにも、そこそこの数のサブクエストが実装されている。

 

 そのうちほとんどはシンプルなお使いだ。あのステージでこれ採ってきて。別のステージであいつを倒してきて。

 

 決められた数量のノルマをこなすことで、その見返りとして消耗品や金銭などを手に入れる。というのが有りがちなパターンである。

 

 

 

 そうしたサブクエの中には、アンロック式、かつ期間限定になっているものがそこそこ混じっていたりする。

 

 本編シナリオを規定のポイントまで進めると、アンロックのフラグが立ってプレイ可能となる。

 

 しかし、更にシナリオを一定程度進行させることで、広域マップから黄色いマーカーが消滅。当該NPCからのクエスト受注がふたたびロックされてしまう。そういうタイプ。

 

 

 

 時間切れのタイミングはクエストごとに様々異なるし、消えるときは、特に警告もなしにいきなり消えているってことも多い。

 

 取り零しが気になるタイプのプレイヤーなら、前もってちゃんと情報収集しておくか。スターター出現の通知が出た時点で現地に向かい、さっさとクリアしておくのが良いかと思う。

 

 後回しにして別のタスクを積み重ねていると、そのうち一時記憶(メモリ)からすっぽ抜けてるってのが世の常だしな。

 

 

 

 

 

 

 今後もメインストーリー偏重でやっていく方針を変えるつもりはない。

 

 いちいち寄り道ばっかりしていると、どうしても画面映えしないのと。あと、周回プレイでキャラビルド部分が効率化されているおかげで物資面で余裕があり、ステージを順番通りに進めていくだけで、現状取り立てて問題がないってこともある。

 

 

 

 サブシナリオもサブシナリオなりに、それなりにストーリー性が持たされているものも少なくない。しかしあくまで寄り道、メインの余談。もしくは古生物学的な蘊蓄ネタの枠組みに収まっているものが大半を占める。

 

 それぞれ『恐竜』と『絶滅哺乳類』のサンプル収集がフォーカスされ、クリアを重ねるほど古生物図鑑の解説が充実していくツトムクエスト、ハルクエストはその典型例だったと言えるだろう。

 

 

 

 両クエストクリア時の獲得アイテムリストには、消耗品や金銭の他に、武器や防具の強化資材あたりが複数個並んでいるってことが多かった。

 

 サブクエ各種から得られる報酬についても、近いものがある。

 

 つまり、ゲーム進行に伴って確実に必要とされるが、プレイヤーの手際次第で消費総量に差が出がちなリソースの、追加供給手段。そいつがサブクエの主な役割として割り振られているってことだ。

 

 

 

 一方で、例外もある。

 

 一品物とまでは言わないけれど、そこそこレア度のある報酬が見込めるものが、サブクエストの中には含まれているのだった。

 

 今現在、ユイやナオーとの事前会話込みで進行途中のサブクエが、モロにそんな感じのやつだったりする。

 

 

 

 報酬として貰えるアイテムがわりかし有用。それでいて、フィラとナオーの解放クエスト(=ワールド5到達)が前提条件、かつ次のワールド6までシナリオを進行させてしまうと受注フラグが折れてしまう。

 

 プレイするべき優先順位が高めの、時限式サブクエストの代表例ってわけである。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 さて。原作視聴済みの方ならご存知のように、ユイって女の子はかなり律儀なたちをしている。

 

 『ジーンダイバー』劇中でわざわざ[アウストラロピテクス]に対してお礼を言うことに拘ったりする――連中の脳容積はいいトコ400ccでホモ・サピエンスの30%程度、知能的にはまだまだチンパンジーなんかと変わらない――あたり、頑固と言ってもいいくらいだ。

 

 

 

 今回についても。さっきの話の流れから、助けてもらったことに対して彼女から何かしらお詫び、お礼がしたい。というふうに話が進む。

 

 

 

 もっとも、持ちかけられた側のナオーはその場で受け流そうとする。

 

 彼としても単に目の前の女の子の独断専行に釘を刺しておきたかっただけで。別に、恩義の押し売りがしたかったわけじゃあないからだな。

 

「……そーさなあ。んじゃ、こうしようぜ」

 

 それでも、あんまりすげなく断ってしまうとカドが立つと見たのか。即座に方針を軟着陸へと切り替えてみせる。

 

「ユイたち霊長人類のことを、俺たちにも詳しく聞かせてくれよ。特に、バーチャル世界内での食糧事情なんかが知りたいな。お前さんたちって、こっちでいったいどんな食生活をしてるんだ?」

 

 

 

「ご飯? そんなことでいいの?」

 

 ユイがきょとんとした顔をして、小さく首を傾げた。

 

「いやいや。俺たちみたいな仕事をしてると、食いものの良し悪しってのは、結構バカにならないんだぜ?」

 

 ナオーが唇の端を釣り上げる。隣の席で、リックくんもジョッキに口を付けつつ、苦笑いを浮かべて頷いている。

 

「食べもの、そン中でも甘味ってのは娯楽だからなあ。タコツボみたいな生活してっと、どうしてもストレスが溜まりがちってこともあるのさ。わりと昔の話だけど、ひとつきり余った官給品のバナナケーキ目当てに、大の男ふたりが掴み合いやらかしてるのを見たことあるぞ」

 

「へぇ~……」

 

 

 

「あ、もちろんケンカしてたのは俺でもフィラでも、ピラルのやつでもないからな?」

 

 と、すかさず予防線を張っていく。

 

 原作でも、VWOでも、しばしばガサツな男呼ばわりされているナオーだけれど。コミュニケーション上のバランス感覚に秀でた描写はあんがい多い。

 

 先ほど見せたスムーズな方針転換も然り。そういったところに、フォロル族生来の傾向たる人懐こさ。俗に言うコミュ強感ってやつが窺えると言えよう。

 

「そんときゃ俺は真面目に止めに入る側だったのさ。……ただし、真っ先に自分のぶんは目いっぱい確保した上で、だけどな」

 

「えっ……ふふッ。ズル~い!」

 

「要領がいいって言ってくれよ。まッ、そんなわけで、俺たちフォロル族の一兵士としては、ユイたち霊長人類の食卓について、しっかりリサーチしておく動機があるってわけだ。近ごろは種族間での物資融通も何かと増えてる。いざ物々交換ってときに、こっそり評判悪いの押し付けられたら堪んないだろ?」

 

 

 

 

 

 

「……あたしたちの食べものかぁ。ううーん、改まって考えてみると、結構悩んじゃうところかも」

 

 片頬に人差し指を当て、目線は斜め上にして思い倦ねる。

 

「そうなのか?」

 

「ええ。あたしたちって、バーチャル世界と現実世界とを小まめに行き来するって前提で、普段のスケジュールが考えられてるみたいなのよね。こっちでご飯を食べるような機会って、あんまり無いの。それに、マザー・コンピュータの暴走が起こってからは、メディア・ステーションからまとまったモノを送り込むこと自体が、ずいぶん難しくなっちゃってたって話だし……」

 

 

 

 ここのところ、他の種族との違いが出ている部分だな。

 

 恐竜人類の二種族やエウロパ人はバーチャル世界内での組織立った行動を基本としている。そのため各時代に様々な規模の基地を建造したりと、確固たる生活の場を確保しているのに対して。

 

 都度ごとにメディア・ステーションからバーチャル世界に入り込んでいるヒト種は、生活面に関しては、未だに外部世界にほぼアウトソースされているってわけだ。

 

 

 

「前に月まで行ったとき、ボトル入りの非常食を頼りにして、あちこち探し回ったことならあるんだけど……」

 

 『ジーンダイバー』も終盤、スネーカーの本拠地に乗り込んだ場面のこと。

 

 劇中だと食事シーンの描写はなかったし、わりとすぐに目的地を見つけ出して、戦闘実行体との戦闘に順次突入していたが。わざわざ10日ぶんの食料と水を山積みにして台車で引きずっていたあたり、恐らく道中の探索部分は画面から省かれてたんだと思われる。

 

 他の原作中の食事描写といえば……『恐竜惑星』で水分補給用の濾過ストローや、チューブ状の携帯食料なんかが登場していたくらいかねえ。他にもあったっけな?

 

「あたしが、バーチャル世界(こっち)で自分たちの食べものを口にしたのって、本当にそのときくらいじゃないかしら。それまではメディア・ステーションの配給所通いで何とかなってた。だから、ここ最近古生代中心にゲンゴロウで動いてたあいだは、フォロルやギラグールの基地から色々融通してもらってやり繰りしてたわけでー……こないだゲンゴロウから積み降ろしを手伝ってもらったとき、出てきた運搬用のケージって。ほとんど全部、みんながいつも使ってるのとおんなじタイプだったでしょう?」

 

「なぁるほど? 霊長人類の戦用糧食(レーション)なんかにお目にかかった覚えがないのは、そういうことか。単純に出回ってるモノの数が少ないってか、事実上ゼロみたいなものなんだな」

 

「うん、そうなんだと思う。……たぶんね?」

 

 

 

 

 

 

 加えて言うと、このへんの事情については、種族間の技術格差がどうのこうのというよりも。バーチャル世界という行動空間に対する、各組織ごとのスタンスの違いが反映されているってことかと見られる。

 

 

 

 他種族、ないしスネーカーとの組織的抗争を主たる目的としている大集団と。あくまでDNAサンプルの入手などの小規模ミッションとしてバーチャル世界入りしている小集団。

 

 フォロル、ギラグール、エウロパ人、それからプグラシュティク軍隊が前者に分類され、ヒトとプグラシュティク王家の騎士組が後者にあたるだろう。

 

 

 

 ミッション内容が異なれば、必要とされる施設、物品も当然それぞれが異なってくる。そしてそのどれもが特定の形式、フォーマットへと収斂してゆく。

 

 植物の花弁の数が[フィボナッチ数]になりがちなように。

 

 各々の経験と試行錯誤によって辿り着く。合理的、かつ十人並みな解答ってことである。

 

 

 

「そんな感じだから、あたしたちの食べものの話ってことだと。本当に、枠組みのお話をするだけになっちゃう気がするのよね」

 

 困った顔を作ってみせる。そのあと、すぐに何かしら思いつき。あ、そうだ、とでも言わんばかりに、ユイの表情がくるりと変わる。

 

「そういえば。前に虎哲に『お前さんも少しは料理の練習くらいしとけ』とか言われて、レシピ集の電子データを渡されたことがあったっけ。食材とDNAデータが紐づけされてて、辞書を引くみたいにして読み進んでいくと、歴史のお勉強にもなるとか何とか」

 

 うーむ、ナチュラルに価値観が古いな。半世紀前プラスアルファって感じだ。

 

 しかしまぁ、虎哲なら言うよなあって気もする。こういうこと。

 

「あたしのメモリーディスクを引き継いで、そのままゲンゴロウのデータベースに入ってるはずだから。あれを持ってくるのが良いんじゃないかしら」

 

 

 

 

 

 

 ここで、表示画面の外から、突然発言の割り込みが入った。

 

「だったら、ユイ。お前が自分の手で、こちらで何かを作ってみるのはどうだ?」

 

「ティル?」

 

 居住区へと続いている奥の降り階段から、今しがたこのフロアまで上がってきたらしい。

 

 白仕立てのインナーにワインレッドのケープ。アイ・スーツやらを取り払った普段着のティルが、画面端からリビング・ルーム内へと現れる。

 

「ユイたちの世界の有り物は、確かにここだと手に入りづらいのかもしれないが。個別の食材であれば、やりようによっては、見つけることはそう難しくないはずだ」

 

「それ、ほんとう?」

 

「ああ。なにせ新生代以降のバーチャル世界は、お前たち、霊長人類の歴史に繋がる時間線をベースに構築されているのだからな。お前たちの普段遣いの食材について、現代から過去へ、逆向きにルーツを辿ればいい。その虎哲から渡されたというアーカイブ式データにしても、恐らく、そういった使い方が前提になっているのだろう」

 

 

 

 ティモシーⅡのなかで、NPCたちは思い思いの生活をしている。

 

 そういう設定になっているんだな。プグラメカ等、これまでの施設内でもそうだったように。

 

 ただ、遊撃チームにはこれまでの面子が大凡揃い踏み。純粋にスペース内の人口密度が増しているぶん、今回のティルのように、シーン中における割り込みの頻度が増している。

 

 

 

 ドライさんに実験室で声を掛けたら横からハルが首を突っ込んできたり。ワールド6以降に格納庫で萌さんと話していると、わざわざユキちゃんがブリッジから足を伸ばして会話に混ざってきたり。あれやこれや。

 

 別にサブクエの受注過程に限ったものではなく。シナリオ演出のパターンとして、今みたいなケースはそう珍しくもないのだった。

 

 

 

「わたしも、お前たちの食生活には興味があるからな」

 

 ユイの座る椅子の近くまでやってきて、ティルがそう続ける。げっ歯類由来で耳の良い彼女は、このフロアに上がってくる前からある程度会話を把握していたらしい。

 

「この艇の実験室の一角は、調理場としても扱えると聞いている。今のところ、差し迫った作戦行動は予定されていないようだし、たまにはレクリエーションも必要だろう。お誂え向きにレシピもある。お前がひと品仕立てても、感謝はされども、文句を言われるようなことにはならないさ」

 

「そいつはいいや!」

 

 と、隣のナオーが破顔して両手を打ち合わせた。

 

「見慣れた献立のローテーションにも飽きが来てたとこだ。付け合せに、何か変わったもんが出てくるだけでだいぶん違って見えるからな。大歓迎。よろしく頼むぜ」

 

 

 

「えっと。でも、あたし、実は料理ってあんまり……」

 

「心配するな、わたしたちも手伝う」

 

 腰が引け気味なユイに向かって、ティルがリックくんに目配せしながら宣う。

 

 リックくんはリックくんで、その場で気軽に請け合い、目を細めつつ頷いてみせる。

 

 彼個人としても、他種族のエスニック料理に興味があるってことだろうか。……単に悪ノリしているだけかもしれないが。いつものごとく。

 

「これでも、炊事場での立ち回りは一通り仕込まれているつもりだ。詳細についてはレシピを見てからになるが、まったく戦力にならないということは無いと思う。ユイ、お前は大まかな舵取りと、後は出来るところだけを担当してくれれば大丈夫だ」

 

 

 

 しばしの沈黙。プロフィール的に見て料理ベタらしいユイとしては、どうしても躊躇してしまうシチュエーションではある。

 

 でも、外堀はわりと埋まっているし。ついでに言うと、もともとこのお礼話自体、彼女が自分で言い出したことでもあるわけで。

 

「……わかったわ。頑張ってみる」

 

 踏ん切りがつくまでに、そう時間は掛からない。

 

 

 

 腕を胸元まで浅く上げ、ゆるいファイティング・ポーズのような格好で、両手のひらをぎゅっと握る。そうした決意のビジュアルに重ねるように、サブクエストの受注ウィンドウが正面にポップアップしてきた。

 

 内容をざっと確認の上、OKを押す。『豆腐ハンバーグのロールキャベツ作成依頼』、受注完了だ。

 

 

 

 

 

 

 やり取りの流れからして予想がつくと思うが、このクエスト。リックくんに振られる役回りは料理の材料集めである。

 

 

 

 地理的座標が必要な農作物の原産地に近い、ような気が何となくしないでもない旧ステージへとえっちら出向く。一周そこをささっとクリアすることで、リザルト画面の取得アイテム欄に目的物が並ぶってな運びとなる。

 

 豆腐の原料である大豆の原産地は日本を含む東アジア全域(1-1)だし、キャベツはヨーロッパの比較的寒冷な地域(2-2)。

 

 トマトは南アメリカ(2-4)のアンデス山脈付近が有力視され、また、ハンバーグに用いられるタイプの香辛料はインド亜大陸(1-5)に起源を持つ。

 

 

 

 ……なんか、間に入るべきプロセスを盛大に誤魔化してる気がせんでもないな。

 

 というのも、有名な[ケッペンの気候区分]あたりを思い出して貰えれば明らかなように。基本的に特定地域の植物相(フローラ)は、地理座標よりもその場所の気候を色濃く反映するものだ。

 

 そしてベネズエラの[カリアコ海盆(英)]や、日本の[水月湖(英)]といった際立って安定性の高い水底からボーリングされる[年縞堆積物]と呼ばれる試料に当たると、気候というのはあんがい不安定なもので……数百年。数十年。ことによると数年。

 

 地質学的には一瞬と言っていいほどの短時間でガラリと変わって、そのままさっぱり元通りにならなかったりする。こともある。

 

 

 

 つまり、植生とは時々によって目まぐるしく移ろうものであるってこと。

 

 仮にいくらか異なる時代の、ほぼほぼ同じスポットに行ってみることができたとしても。目的物の祖先種なんて、その場所ではまず見つかりはしないだろう。

 

 今回みたいに[]や、[]レベルで年代差があるなら尚さら言うまでもないことである。

 

 

 

 とはいえ、細かい部分にいちいち目を向けていくとキリがないというのもまた事実。ここのところはいつも通りに、ゲーム的な簡略化として丸呑みしておくべき部分かと思う。

 

 

 

 

 

 

 クリアすることで得られる前述の有用アイテムは、クエスト受注画面の予定報酬リストに出ていた『予備の赤いリボン』だ。

 

 ユイのポニーテールを結んでいるリボンの予備品が貰える。んだが、その用途は本来のアクセサリーとはかけ離れている。

 

 

 

 なんと消耗品の素材扱いであり、ハルなどエンジニアNPCに持ち込むことで、武器の強化段階(Rank)を一段回上げることができるのである。……なんでだよ。

 

 

 

 コイツの仕様として、メインシナリオ中におけるマックスのRank10を越えて上げることはできないし、それどころかRank9からRank10への最大強化にも用いることすらできない。

 

 つまるところ、Rank1~Rank9いずれかの段階でのみ使用可能な使い切り無料アップグレード・アイテムってことで。そんなんじゃ消耗品や金銭と大して差がなくないか? と、思われるかもしれない。

 

 何を隠そう、自分も初見時にはそう考えていたりした。大した報酬でもないなあって。掛かる労力のわりに。

 

 

 

 しかし、である。基本的にこのゲーム、ワールド単位で出現する強化用アイテムに、キャップを掛けることでバランス調整がされている。

 

 ワールド1だとRank2~3までの強化アイテムしか手に入らなかったし、ワールド2でもRank4まで。さっき最終ステージまでクリアしたワールド5で、ようやくRank7に手が届いた。

 

 

 

 ステージのクリア状況に事実上連動して武器、防具ともに解放段階が徐々に上がっていき、それとともにキャラクターが発揮できるスペックの天井が押し上げられていく。

 

 とりわけ、攻撃力の計算式の関係上。武器の強化度合いが殲滅スピードに与える影響は殊の外大きい。

 

 

 

 そんでもってネタバレになるから詳細は後回しにするが、次のワールド6。全ステージに渡って、特定の分類の敵ばかりがゾロゾロ出てくる構成になっている。

 

 そのせいでというか、そのおかげというか。該当する特定属性の特化武器一本で攻略上事足りることが多く。Rank8を飛び越えてRank9の特化武器をワールド6の序盤から用意しておくことができれば、本来想定されているはずのRank8武器で進めるよりも、格段にラクをすることができるのであるよ。

 

 

 

 食材集めにあたって要求されるステージクリア数は多いものの、どれもこれも序盤のステージだ。現有火力でのゴリ押しが利いてしまうから、トータルの所要時間は言うほどでもない。

 

 なんでまぁ、現タイミングでこのサブクエを消化しておくってのは中々理にかなっているかと思う。リボンクエ、オススメです。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。