恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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浮き世の眠りは永らく続き

 

 

 ティモシーⅡのブリッジ。ワールド6スタート時のムービーシーン冒頭から、アッケラ缶の叫び声が響き渡った。

 

『な……なぅぁんだってぇぇ~~!!?』

 

 バーチャル世界の外部。バーチャル・ステーションからのオペレートという体裁をとる彼の発言は、超時空通信経由でだいたいの面子に常時ダイレクトに伝わっている。

 

 ボリュームの調節もとっさには効かない。……なんでまぁ、艦のあちこちにいるインカム付きの面々が、揃って鼓膜にダメージを負っていたりするわけだ。

 

 

 

 どうやらリックくんもそのうちの一人だな。

 

 格納庫でパワード・スーツを着込んで、細部の調整をしていたらしい彼。ビックリして目を見開いた様子のカットインが入ってから、すぐに表示が消えていった。

 

 

 

 一応、モグラ型マスクの部分は背中側に降ろしていたようなので。覆い式のメットの中身が直撃を食らってそうだったハルなんかよりは、だいぶんマシな被害ではあったんだろうが。

 

 

 

『そ、それは本当なの女司令官(おユキさん)!? 萌ちゃんの生体反応の発信元が、その、22億2500万年前の地球からだってことが分かったっていうのは?』

 

「……事実だ。何度も言わせるな」

 

 フォロル式の内装からあからさまに浮いている、濃い赤紫のキャプテン・シートにどっしりと腰を降ろしたまま。黄金色のラインが入った仮面の裏側で、ギラグール特有の丸く巨大な瞳が、すっと細まった。

 

 少々機嫌を損ねた気配が無いでもない。ただ、ユキちゃんの場合はアッケラ缶の声量がどうのこうのというよりも、上意下達の徹底されたギラグールの猟兵部隊と比べて、意思伝達がスムーズでないことに苛立っている。そんな感じだろうか。

 

 今回の件のみならず。そもそもが単体戦力の質を優先した混成チームである以上、どうしても横の連携には、齟齬が出がちであるらしい。

 

 

 

 

 

 

「ピラル・キラ・ピロム。説明してやれ」

 

「はいはい、了解」

 

 苦笑いを浮かべ、一品物ヘルメットの横ボタンを弄りつつ。もう片方の手で、ピラルが手もとの碁盤目状コントロール・パネルをパタパタと叩く。

 

 

 

 ちなみに、ティモシーⅡのブリッジは、半球状のフロア内に「く」の字型の高台がせり出しているような形状になっている。

 

 高台=フロア上段部の中央にはユキちゃんの座るキャプテン・シート。下段には艦の管制用インターフェースが内壁に沿って弧を描いて並び、そこの正面先端部分に位置しているのが、だいたいはピラルが座っている操舵手席って構図。

 

 

 

 この艦のブリッジは、後方の出入り口付近を除くほぼ全周囲が、外部状況を映し出せるモニターである。ただ現時点では石炭紀中期の樹林帯に停泊中であり、主にエネルギーの節約のために、前面部以外は非活性時の銀色の表面を晒したままだ。

 

 

 

 操舵手席からいくらか見上げる真正面。ブリッジ前面部大型モニターの中央に、メルカトル図法で描画されたフォロル族の世界地図が表示された。

 

「これは僕らの時間線上での現代図なんだけど、今見てほしいのはそっちじゃなくて、隣に出てくる年代目盛りの方ね」

 

 言うが早いか、地図の横に一本の太い棒グラフが伸び上がる。

 

 25億年前に始まる原生代を底として、間に古生代を挟み。6600万年前の中生代白亜紀を天井とする形で、時代区分を縦向きに積み上げたものだな。

 

 

 

 続いて、そのグラフの底から一割ほど上ったところに、白い横線のラインが入った。

 

 億年単位で刻まれた目盛りを読むと……だいたい22億年前よりもちょっとだけ下。さっきアッケラ缶が口に出した年代あたりに、引かれた形になるだろう。

 

 

 

 時代区分の記載はすべてがカタカナを崩したようなフォロル族の表音文字だが、ラインのすぐ隣に薄い灰色で、「古原生代中期、リィアキアン」というプレイヤー向けの注釈が浮かんでいるのが分かると思う。

 

 

 

 

 

 

「時代が、ココ。地図上のポイントは太平洋のど真ん中に位置する。でも、当時の地理座標としては、今で言う北アメリカ大陸の北東部、グリーンランドの近くかな」

 

 音量調整を終えたメットから手を離したピラルが、アッケラ缶あてに解説を行う。

 

「緯度的にみると、この時代の北アメリカ・プレートはほとんど赤道直下にあったわけだ」

 

『古原生代の中期、22億2500万年前っていうとぉ……えっと、確か。[ヒューロニアン大氷期]の終盤、ってくらいだったよね』

 

「そのとおり。度重なる寒冷化が頂点に達している時代。ちょうど地球が全球凍結、いわゆる[スノーボール・アース]状態にあったと見られている頃だね。だからグリーンランド陸塊も、ほとんど北極圏にあるらしい霊長人類の現代(そっち)同様、すっかり氷河に覆われてしまってる」

 

 

 

 雪乱吹く氷原の再現画像が、モニター内、さっきの世界地図に重ね置きするようにポップアップした。

 

 パッと見、極圏の冬かなって感じの寒々しい光景が広がっている。しかしながらあたりを照らしているのは星々や月やオーロラではなく、空を薄白く覆う雪雲の向こうに、ボヤケた太陽が孤独に頑張っているのを見つけることが出来る。

 

 真昼の光が垂直に近い。察せられる天体の位置関係から、描画風景が、極夜から相当離れたポイントであることは明白だ。

 

 

 

「低緯度地域でも、現時点だとこんな感じ。近海も大半が凍てついて、ところどころに、いくらかシャーベット状に溶けている箇所があるかもねってくらいかな」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 45億年あまりを数える地球史において。氷河時代は度々到来しているけれど、全球が丸ごと凍りつくまで行きついたケースは数えるほどしかない。

 

 そのうちのひとつが、今話題に上がったヒューロニアン氷期(マクガニン氷期とも)となる。

 

 氷河時代としては史上指折りの規模とされ、カナダのオンタリオ州や南アフリカなんかで見つかっている氷河堆積物の痕跡によると、およそ25億年前から22億年前までに渡っていた。

 

 

 

 間に大掛かりな[間氷期]を挟みつつも。生命体にとって、たいへん過酷な環境が長らく継続したらしい。

 

 

 

 とりわけその後期には、気温低下に伴って北極と南極からせり出してきた氷床が、ついに赤道直下にまで到達。

 

 ピラルの言う全球凍結現象。スノーボール・アースが起こっていたとされている。

 

 

 

 

 

 

 光学の基礎的な性質として、白は他の色よりも光の反射率(アルベド)が高い。

 

 そのため、地表の色が白みを帯れば帯びるほど、地球上に日々降りそそぐ陽の光のうち、宇宙空間へと反射される割合がいや増してゆくことになる。

 

 通常の地表が20~40%くらいの反射率に収まるところ。雪氷のアルベドは80%にも達する。

 

 

 

 氷床が発達するにつれ、海の青さは喪われていき、一方で氷の白はどんどん広がるわけだから。寒冷化が進み、南北から氷河が海原を追い詰めていくごとに、太陽光の多くが跳ね返されるようになり、地表が受け取る熱量は、加速度的に減少する。

 

 

 

 一度このプロセスが勢いに乗ると、効果は劇的だ。

 

 寒冷化が地球の受け取る熱量を減らし、それによって寒冷化がより厳しさを増す。負のサイクル。

 

 行き着く先は、遍くすべての凍りつく極寒となる。春の温もりも頼りなく、そのまま世界は、雪解けを忘れる。

 

 

 

 

 

 

 惑星全体を覆う永劫の冬。それこそがスノーボール・アースであって、惑星環境システムにおける、一種のデッド・ロックだと言えるだろう。

 

 ヒューロニアン氷期のスノーボール・アースは、それこそ7800万年という長期間にわたって、継続していたのではと見積もられていたりもする。

 

 

 

 

 

 

 この現象の大本たる、氷河期の成立要因については諸説あるけれど……とりあえず、今話題に登った時期に関しては、大きな二つのファクターが絡んでいたらしいことが分かっている。

 

 

 

 まず、ヒューロニアン氷期が始まった25億年前あたりでは、往時の超大陸[ケノーランド(英)]の分裂が進み、ちょうど現代の世界地図のように、地球上に陸地がバラけて散っている多大陸化の状態に向かっていたこと。

 

 大陸配置の変動に伴って、造山活動も活発化。アルプス山脈やヒマラヤ山脈を思わせる大山脈が各地に形成されていたとされる。

 

 プレート・テクトニクス的な観点からすると、ヒューロニアン氷期の頃の地球は、今まさに氷河期のさなかにある新生代第四紀と、似たようなシチュエーションにあったわけだ。

 

 

 

 そしてもうひとつ。原生代の前半部に当たる[古原生代]、今回取り上げられているだいたい20数億年前後というのは。

 

 海中にシアノ・バクテリアが大量発生し、大気中の酸素濃度を跳ね上げた[大酸化イベント(英)]と呼ばれる長期的、段階的なイベントと重なっていて、この時期に何らかの生物進化上の飛躍があったものと考えられている、ということ。

 

 

 

 この二つは、複合的な現象としても捉えることが出来る。

 

 例によって、環境と生物との共進化、ってやつだな。

 

 超大陸が分裂に向かったり、地表のどこかしらに大山脈が形成されることにより、海へと注ぎ込まれる河川の総数が世界中で増える。

 

 以前、ワールド4に入ったばかりの頃の解説でも触れたように思うが、河川数の増加はその水流によって、大陸地殻から削り出される物質各種。カルシウム・イオンなどの吸着物質や、リンなどの栄養塩をそれぞれ海へと大量に供給する。

 

 

 

 前者吸着物質はメタンや二酸化炭素といった温室効果ガスと化学反応し、それらを海底に沈降させて大気中から取り除く。

 

 そして、肝心要の後者栄養塩は、生体組織を構成する有機物の素材になることで、海全体のバイオマス、生物許容量を大幅に拡大させる効用がある。

 

 

 

 いきおい、当時の海中におけるシアノ・バクテリアの存続可能数量も桁違いに増えた。

 

 下手な鉄砲なんとやら。この手の伸長プロセスに伴う試行回数の爆発的増加こそが、何らかの「生物進化上の飛躍」を生じさせる、呼び水となった可能性もあるんじゃないかと思う。

 

 繁殖速度の効率化なり、光合成能力の高機能化なりだ。

 

 

 

 

 

 

 そもそもの地球生物史上に、シアノ・バクテリアに代表される藍藻類が出現したタイミングは、定かでない。

 

 西オーストラリアの[ピルバラ地塊]。ここのワラウーナ層群から35億年前のストロマ・トライトらしきものが発見されているものの、化石証拠としての確度は高くないし、古地球における酸素濃度の増加曲線にしても、測定方法に伴う誤差が大きすぎるせいで、イマイチ頼りきれない部分がある。

 

 

 

 ただ、ケノーランド超大陸の成立以前にも、幾つかの超大陸が存在していた可能性が高いってことを踏まえると。

 

 藍藻類の出現以後に、超大陸の成立と離散の流れ――[ウィルソン・サイクル]と呼ばれる億年単位の周期性変動――が初めて実践されたのが、ケノーランドだったって話になるのかもしれない。

 

 

 

 大発生したとされる光合成生物が死ぬと、細胞体に含まれる炭素のうち、生物風化によって分解しきれなかったぶんが海底に沈んで埋没する。

 

 前述の吸着物質による除去作用と合わさって。古代の大気中から温室効果ガスが、ゆっくりと、しかし着実に喪われていった。

 

 そうして、大氷期へと繋がる筋道が立った。

 

 

 

 ……とまぁ。同じ氷河期というトピックであっても、その時々で、地球上の凍りっぷりには大幅に差がある。

 

 氷河期の成立には、時代ごとにそれぞれ異なった要因があったものと見られる。また、複数の要因がたまたま同じ時期に重なったり、あるいは独立した要因でもそのインパクトが度を越して大きかったりすると。寒冷化が更なる寒冷化を呼び、場合によっては行き着くところまで行ってしまうことだってあり得る。

 

 

 

 ヒューロニアン大氷期に起こったスノーボール・アース現象とは、まさしくその典型例だった。

 

 

 

 極端なケース、ではあったんだろう。でも、システム上起こり得る範囲にも十分収まっているもの。

 

 そんなふうに理解しておいても、そこまでピントは外してないんじゃあないだろうか。

 

 

 

 

 

 

『それで、萌ちゃんの生体反応がこの時代から検出された。22億2500万年前の局所性エラーに、引き続き巻き込まれてはいるにしても……今のところ、何とか向こうで無事にやっている。ってことでいいのかな?』

 

「うん、そういうこと」

 

 ピラルがいつもの軍人っぽくない微笑みを浮かべる。異種族の友人の安否確認が出来たことは、もちろん彼にとっても朗報だ。

 

「現地で元気にしている可能性は高いと思うよ。割り出せた萌の座標は、常識的な範囲での移動を繰り返しているようだし、それにギラグール基地から継続的に提供されている彼女のバイタル・データについても、これといって異常は見られないからね。現段階では、萌個人で対応可能な範囲に収まってるっていうのが、素直な見方さ」

 

『……よ、良かったぁ。ホント良かった』

 

 胸を撫で下ろすには両腕の可動域が足らないが、それでも全身を使って安堵を示すアッケラ缶。

 

『萌ちゃんなら大丈夫だって信じてはいたけど。正直言って、これまでところずうっと不安で不安で……それにしても、こんなの良く見つけられたね? 今までバーチャル世界側から半強制的に送り込まれる行き先は、恐らく完全に顕生代に限られてたのに。22億何千万年だなんて、どう見たって外れ値もいいとこだよね?』

 

 

 

 ここらへん、例によってメタ的な事情が大きく絡んでくる部分だな。

 

 未だに詳細がボカされっぱなしの局所性フラクタライズ・エラー周りだが。終盤明らかにされるネタバレを避けた上で、原理原則の話をすると、別にカンブリア紀以降の顕生代に偏って起こるべき必然性はなかったりするのだ。

 

 

 

 時間的な長さで見ると、顕生代なんて生物進化史上の二割に満たない。だったら今回みたいな原生代、あるいは[太古代]にも山ほどエラー空間が発生していないとおかしい。そういう話になってくる。

 

 なんだけど、この偏りを正当化する具体的な理屈は、今後も一切出てくることがない。作中のキャラクター各人も、丸呑みした上で現状を凡そ受け入れているのだった。

 

 

 

 ……ぶっちゃけてしまえば、顕生代以降でないとそれっぽい古生物が少なすぎて、マトモに攻略可能なステージが作りづらいってだけのことではあろうが。

 

 ゲーム残りの3ワールドぶん。スネーカーのメカだけに延々ご登場願い続けるってわけにもねえ。

 

 いくら何でもマンネリが過ぎるし、かといって捏造メカぞろぞろってわけにもいくまいしで。だったら多少の設定上の齟齬くらいには目を瞑ろう、というのも分かる話ではありましょうさ。

 

 

 

 

 

「まぁ、今回萌の座標を一本釣り出来たワケについては、ちゃんとした理由があるんだよ」

 

 と、ピラル。言いつつ、ちらりと目線を背後にやってみせる。

 

「ここ最近、戦闘実行体がらみのエラー反応にお呼ばれすることが多かっただろう? そしてその最後にはペルム紀末期のエウロパ人基地で大規模なエラーが発生、他ならぬ我々が、強化戦闘実行体(おおもの)と交戦させられることになった。これって、今までも同じようなパターンになっていたとも取れるんだ。似通った傾向を持つ呼び出しが繰り返され、その最後には、それまでの延長線上にあるタイプの大掛かりなイベントが待ち受けているっていうカタチ」

 

 ……うーん、言っちゃなんだが本気でメタい発言だなあココ。

 

 ステージ進めて、ラスボスに到達。倒した時点で無事1ワールドをクリアですってかあ。露骨ぅ。

 

『白亜紀末期の隕石落下時や、ギラグールの本拠地戦のときみたいにってこと? ……フーム。流石にサンプル数が少ないけど、確かに、パターン的なものが見て取れるような感じはするなァ』

 

「でしょ? その上で、大物が倒された後のしばらくは、小康状態が続きがちなんじゃないかって推測も上がっててね。もちろんそっちについても確度はそう高くないんだが……我々遊撃チームとしての裁量権はかなりの幅があるわけで、一定の可能性に基づいて、独自の指針を立てることだって出来なくはない。そこで試しに僕とフィラとで進言してみたところ、なんと、ウチの司令が大盤振る舞いしてくれたのさ」

 

 ピラルがもういちど後ろを振り返り、今度は分かりやすく顎をやった。目標は当然この艦のキャプテン・シートである。

 

 そこに座るユキちゃんの側からは、特にこれといってリアクションはない。視線すらほとんど動かすことなく。不自然なくらいにそのまんまだ。

 

 もしかすると内心照れていたりするんだろうか。それとも彼女にとっては当然のこと、やるべきをやったにすぎず、何ら気負うことなどないと考えているのか。……まぁ後者か。

 

 

 

「艦の通常運用に用いる処理能力を可能な限り少なくし、浮かせたメイン・コンピュータの演算容量を、アンクル・ドン保有の時空間センサーへと最大限注ぎ込むことができた。そしたら見事にビンゴ! ……というわけ」

 

 ピン、とピラルが人差し指を伸ばしてみせる。ギラグールと比べてフォロルの手周りはかなりヒト寄りの造りをしている。

 

「おそらく中生代(まえ)よりも古生代(ココ)のほうが、時間軸がやや近かったのも幸いしたんだろうね。ともあれ適切な場所、適切なタイミングで、しっかりリソースを投じたことで結果が出たってこと。ある意味当たり前ではあるけれど、当たり前というのが世の中で存外難しいものなのは、ご承知おきのとおり」

 

 

 

『なるほどねぇ。ありがとう、おユキさん、ピラル』

 

 画面上にカットインが入り、笑顔でお礼を言うアッケラ缶。しかしその表情は、とある懸念からすぐに陰ってしまうのだった。

 

『ただ、それはそれとしてなんだケド……。タイム・ホールにせよ、ジーン・ダイブにせよ、現状バーチャル空間内の座標移動に関しては、どうしても制約があるわけだよね。特に外部からの干渉はすごく難しくなってる。バーチャル・ステーション(こっち)よりもだいぶんスペックが上のメディア・ステーションのオペレーターさんも、一回転送作業を強行しただけで、オーバーヒートしてひどい目にあっちゃったって聞くし』

 

 ワールド4のラスト。カンブリア紀でのフデイシ戦の後に、突如として戦闘実行体が現れたときの話だな。

 

 連戦を回避するために無理やり離脱を試みた結果、虎哲がダウン。今のところリハビリがてら新生代でアキラの補助に回っているし、また、ドライさんのタイム・ホール発生装置も使用不能状態のまま、復旧の見込みは立っていない。

 

 

 

「んー、そうだなあ」

 

 ピラルが自前の尻尾先を顎もとに寄せ、一転難しい顔をする。

 

「実情として、僕らやギラグールが基地内施設を用いてバーチャル世界内で発生させるタイム・ホールにしても、エラー発生現場に『送り込む』のには使えても、遠隔で『呼び戻す』ためには精度、出力ともに心もとない。おまけに、そっちで萌個人を引っ張り戻すルートも塞がれてるってなると……」

 

『無理して少人数を送り込んでも、帰還の目処が立たないと二次遭難者を増やすだけになっちゃう。結局、基地側の判断だと、萌ちゃんが自力で現地のエラー症状を解消させるのを待つか、それか、遊撃チーム自体が向こうに呼ばれるのを期待するって結論になりそうだよねェ』

 

「かもね……」

 

『萌ちゃんの無事と行き先が分かったのは有り難いけれど。実は、状況としてはそこまで変わってないんじゃって感じも――』

 

 

 

 

 

 

「現時点での本艦には」

 

 と、ふいにユキちゃんが口を挟んできた。

 

「ジュラ紀基地の発生装置を用いて目標の時間軸にタイム・ホールを開き。その後、古生代以降に帰還するために、現地から再度『開き直す』ことを可能とするだけの反物質の余裕がある。また、そのストックを本件に費やす用意もだ」

 

『えっ!?』

 

 

 

「……そこまでしていただけるんですか、司令? よろしいんですか?」

 

「何を疑問に思う。あのユイシロ・モエは、幼竜のみぎりにおいてすら、我ら夕闇の民ギラグールを手こずらせた戦士の粋なのだぞ?」

 

 遊撃チーム総出による、萌さん救出へのコミットメント。おかしなことなど全くない、とでも言わんばかりの口調で、ユキちゃんが告げる。

 

「そうやすやすと、喪って良い手駒ではない。あの娘を麾下に置くにあたり、この私が手を割くだけの価値は十分にある。ただ、それだけのことだ」

 

『お、おユキさん……』

 

 

 

 今のごとく、VWOシナリオにおけるユキちゃんの萌さんに対する評価は、だいたいの場面で高止まりしているっぽいのが見て取れる。

 

 原作での扱いと見比べた場合、かなり違和感が大きい部分かもしれない。

 

 『恐竜惑星』本編だと「哺乳人類の小娘」ってだけで、概ねギラグールの対フォロル軍事作戦に茶々を入れてくる邪魔者としか見ていなかった感じだから。

 

 

 

 ただ、ゲーム内でサブクエをやったり、あとジュラ紀のギラグール基地にいるNPCどもに小まめに話しかけることで断片的に語られる、いくつかのテキストを読み取っていくと……原作終了後の10年間。加えて、本ゲームのメインシナリオとして現在進行系である異常事態のさなかに置かれるなかで、以前の萌さんへの悪印象はすっかり払拭され、評価が180度変わったってことを察することができる。

 

 

 

 

 

 

 萌さんがまだ萌ちゃんであった頃。つまり『恐竜惑星』劇中においては、場面場面で勇敢さや瞬発力の高さこそ窺えるものの、言動や行動ともに、しばしば「愚かさ」がチラつく異人種。そんな見方がされていたものと考えられる。

 

 往時の萌自身の、年齢的な幼さもさることながら。アッケラ缶やツトム含め、バーチャル・ステーションの面々が、既に『多元宇宙の交差点』と化していたバーチャル世界のことを、ストーリーの中盤あたりまでシミュレーションのお遊びと思い込み続けていたという事情もあって。リアクション諸々が総じて悪いふうに取られがちだったわけだ。

 

 

 

 しかし、ギラグールサイドにおける認識のズレが正されることで、結城萌という一個体への見解は変化していった。

 

 10歳そこそこの未成熟個体。ギラグールの価値観で「幼竜」であり、その上大した軍事教練も受けていないにも関わらず、自分たち正規軍相手に大立ち回りをやり遂げた稀有な逸材。そういったふうに改められた。

 

 

 

 そして、そんな未完の大器たる女の子が今や成人し、引き続き優秀な戦士として活躍しているとくれば。

 

 ユキちゃん的には……ていうか、[ヴェロキラプトル]をベースとして作り出された人造恐竜人間たるラプターみたいな存在からも暗示されているように、「異なる生命形態を遺伝子操作、生体改造によって自らの社会に取り込む事により社会全体が強化される」という理念を持つ夕闇の民ギラグールにとって。

 

 萌さん株が高値で張り付きっぱなしになること自体は、わりかし腑に落ちる話じゃあないかと思う。

 

 

 

 

 

 

『いやぁ……まさに、持つべきものは友達だね』

 

 感激のあまり泣き笑いのようになったアッケラ缶が、ユキちゃんに向かって語りかける。

 

『もう、ホント、ボクからは感謝の言葉もないよ。以前にはいがみ合い、ぶつかりあったこともあるわけだけど。それはそれで、お互いを認め合うための一ステップとして役立ってるっていうかさ。哺乳人類と恐竜人類。今のこの、掛け替えのない友好にばんざい、って感じだなあ!』

 

「フン。お前たちの情緒は大げさにすぎる。……説明は終わりだ。作戦行動は明日明朝より開始する。ピラル・キラ・ピロム、ドライ・シックスに対してただちに編成の見積もりを行うよう――」

 

 

 

 

 

 

 ……なお、後の会話シーンやらでうっすら匂わされているところによると。

 

 ユキちゃんの将来的な目論見として、萌さんを筆頭とするソルジャー適正が高いバーチャル・ステーションのヒト人員を、ギラグールの自派閥に引っ張り込みたい。今回の大盤振る舞いも、その目的のための布石めいた側面があったっぽいんだな。

 

 つまりギラグールの文化的、社会的な要請の枠組みを超えて、彼女は萌さんたち(の一部)のことを、本気でヘッドハントの対象として見ているわけである。

 

 

 

 なんでアッケラ缶の思っているほど浪花節でもないんだが……しかしまぁ、それはそれ。互いの対面を保つにあたって、情緒的な物語の有効性は疑いのないところでもあるだろう。

 

 友情パワー扱いそのものは、ユキちゃん的にもまんざらではないんじゃないのかね。

 

 

 

 組織的活動における潤滑油(グリス)としての、連帯の物語。実際に今、この場はそれで、そこそこ丸く収まっているみたいだしな。

 

 

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