恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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史実とこじつけの世界へ

 

 

 青くくすんだ寒空を、二羽の[ワタリガラス]が、濡れ羽色の両翼を忙しなく羽ばたかせて横切っていく。

 

 ……ちなみに、今の鳥ども。あれらは古生物でも何でもなくて、現生のワタリガラスをモデルに、フィクションの味付けを加えた例外的な個体だったりする。

 

 とはいえ別に、後ほどあの二羽が大っぴらに活躍したりするわけでは全然ない――やたらうるっさいってなりがちなシーンには何度か直面させられるけどな――から。どうでもいいって言えば、どうでもいいことではあったりするが。

 

 

 

 現在、ブリッジの天蓋を半球状に覆う大型モニターは全周囲が起動している状態だ。

 

 通路部分の床モニターまで含めると、ティモシーⅡの周辺状況を9割近くまで描画している。雪化粧をした針葉樹林。主にアカマツやトウヒといった葉が細く尖った常緑性の木々が、間隔を空けて立ち並んでいるのを広く大きく見渡すことができる。

 

 

 

 気候区分としては亜寒帯。そして冬。

 

 昼間にも関わらず太陽は暗く、遠く、冷え冷えとしていて。

 

 森の中に息づく生き物の音も、気配も。すべてがひどく薄まって、とっくの昔に死に絶えてしまったかのように感じられる。

 

 

 

 その意味で、さっきのワタリガラスどもはこの場所における例外的な存在ではあったわけだ。

 

 曲がりなりにも平時の活力が感じられた。反面、モニターの隅をこっそり横断していったヤツらのささやかな躍動感によって、それ以外の箇所の静けさ、大人しさがより強調された面もあるように思える。

 

 

 

 

 

 

 木々の合間、やや開けたところに着陸しているのが……っていうか。

 

 ぶっちゃけつい先ほど。樹林帯の真っ只中に、事実上墜落したところだったりするんだな、ティモシーⅡ。

 

 

 

「……状況知らせ!!」

 

 強行着陸の揺れが落ち着いた時点で、ブリッジ内にユキちゃんの檄が飛んだ。

 

 空中のタイム・ホールから飛び出た直後に緊急事態発生。あわや大惨事かといったところ、ピラルの巧みな操船で、目下の樹林の開けたところに何とかかんとか滑り込んだ。

 

 

 

 かなり制動が効いた状態で着陸できたため、ブリッジ以下、艦内の被害もそこまでではない。

 

 ただ、平坦な地面に収まりよくとまではいかなかったせいで、艦全体が4~5度ほど、斜め右向きに傾いているって状態だった。

 

 

 

「細部については報告待ちになりますが、幸いにして、艦の損傷は軽微のようです」

 

 キャプテン・シートの左隣で、戦闘態勢のカニ型を取るドライさんがそう告げた。

 

 右手のツメで挟み持つ、浅いカップ状のポータブル・デバイスへと視線が向いている。どうやらそこから艦の大まかな情報を、操縦者(ピラル)の頭越しにある程度拾って来られるらしい。

 

「しかしながら、出力低下した主動力は未だに回復しきっていません。本来補助として働くはずのサブ動力もダウンしています。その結果、反重力効果が急激に減衰し、艦全体の浮力が保てなくなった可能性が高いかと」

 

 

 

「警戒網はどうなっている。艦載機の状態は?」

 

 と、ユキちゃんが正面斜め下の操舵手席へと水を向けた。

 

「あーっとォ。ちょっと、待ってくださいね……うわっ。どうなってるんだこれ!?」

 

 のっけからのトラブル・シューティングに脳みそをフル回転させたせいで、だいぶん憔悴している様子のピラル。座席の前部コンソールの上に浮かび上がってきたホログラフのひとつ――艦載機、つまりフォロル軍の戦闘メカの線画と現時点のステータスらしきものが映っている――を見て、ぎょっとする。

 

「一番機、二番機ともに、ウンともスンとも言わなくなってる。各機体のハード部分は無事みたいですが……予備電源含めて、バッテリーが完全に上がっちゃってる? 三番機以下の予備機も、うわぁ、ゲンゴロウもダメか! なんてこった。これじゃ丸っきり、いきなり電池を引っこ抜かれたオモチャみたいだ」

 

 どうやら動力系に直接作用する何らかの干渉を受けたようです。そう状況を纏めつつ、ピラルが頭を抱えている。

 

 彼の手もとで表示されている要対応箇所は、一つや二つじゃきかないようだ。

 

「そうか、分かった。戦闘員たちに対地並びに対空警戒レベルの引き上げ指示を」

 

 報告を聞きつつ検討は進んでいたようで、命令の出方はスムーズだった。

 

「艦の残存エネルギーは、設備への最低限の供給を除き、大半を艦載火器とレーダー網の維持、管理に当てよ。本艦を即席の防御陣地(トーチカ)とするのだ。いずれにせよ、第二波、第三波があり得ることを考えれば、出力が低下した状態で浮上を試みるわけにはいかん」

 

「りょ、了解!」

 

 

 

 

 

 

 22億2500万年前のグリーンランド陸塊。

 

 地球が形成されてから現代に至るまで、だいたい半分ほどが過ぎている。だのに未だ地表どころか、地中、海中においても、肉眼で個体識別可能な生き物が存在したことは一度もない。

 

 

 

 シアノ・バクテリアの活動に基づく酸素濃度の増加は未だ前哨戦の段階にあり、酸素吸収源(シンク)がそこら中に山ほど残っていた。

 

 そのせいで、真核生物以上の高等生物の多くをドライブするあの好気呼吸が、まだまだマイナーだったことと無関係ではないだろう。

 

 

 

 実質的な酸素濃度は、現代比で10万分の1程度。スノーボール・アース環境の発生以前の問題として、ヒトどころか、現生の多細胞有機生命体の多くにとって、極めて不毛な世界がどこまでもどこまでも続いていた。そのはずだった。

 

 にも関わらず、不時着したティモシーⅡの周囲に広がっているのは、ずっしりと雪降り積もった一面の針葉樹林とくる。

 

 

 

 行方不明の萌さん救出作戦実施にあたり、ここに来て初めて(もっとも、プレイヤー的にはあちこちのワールドを行ったり来たりしている場合がほとんどだろうから。今回の例外性ってのは、いまいちピンと来ないかもしれないが)遊撃チームは、ちまちま溜め込んでいた手持ちの反物質を投じることで、ティモシーⅡごと能動的な時空間移動を行った。

 

 その先でいきなり出くわしたのが、コレだ。

 

 

 

 これまで見てきた局所性フラクタライズ・エラー……つまり、バーチャル世界内部に構築された「通常の自然環境に異常が発生した」空間とは、どうみても毛色が異なる。

 

 「空間全体がまず異常な環境である」としか思えない。不自然な光景。

 

 

 

 もちろん、局所性エラーの役割にはゲーム上の都合が多分に含まれているから、そこまでカッチリと定義できるものではないとはいえ。

 

 それにしたって、現状が度を越した異常事態であることは、誰の目にも明らか。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

『ドライ。今、少し構わないか?』

 

 緊急着陸に伴う艦内の初期対応を、乗員総出で凡そやり終えた。そのあたりで格納庫内のゲンゴロウから、ティモシーⅡのブリッジに艦内通信が入った。

 

 引き続き外部の光景を映す正面モニターのやや右上。アイ・スーツとパワード・スーツを重ねて着込んだティルの映像が、横倒しの長方形フレームでポップアップしている。

 

「はい。なんでしょう、ティルさん?」

 

『今しがた、ゲンゴロウの内部状況を確認したのだが。このバッテリーの上がりよう、前にも同じような事例があった気がするんだ』

 

 

 

「と、言うと?」

 

『以前、確か43億年前の地球で、スネーカーが地球上のエネルギーを根こそぎ吸い上げていたのに巻き込まれたときだ。わたしは今回待機室で準戦闘態勢だったからユイからの又聞きになるが、タイム・ホールを抜けてこちら側に出てすぐ。この艦の周囲が、赤い光に照らされた瞬間があったのだろう?』

 

 43億年前のエネルギー吸い上げ。『ジーンダイバー』も終盤のエピソードだな。

 

 当時のスネーカーは、既に地球上における有機生命体の進化に見切りを付け、地球そのものを丸ごとコンピュータへと変えてしまう決定を下していた。

 

 

 

 過去にはパックたちの母星に対しても行われたとのことで、この惑星コンピュータ化計画。良くも悪くもスネーカーの十八番だと言えるだろう。

 

 

 

 地球の内部活動を沈静化させるために、熱エネルギーの誘導ビームが月面基地から定期的に放たれており、そのトバッチリを食ったゲンゴロウもまた、エンストを起こして行動不能にさせられた。

 

 スネーカーが馴染みのプロジェクトの下拵えをしていたところ。現地に居合わせたユイたちが、たまたま巻き添えを食らったって形になる。

 

 

 

『ゲンゴロウの状態だけでなく、他にも類似点はある』

 

 金魚鉢じみたヘルメットの奥で、ティルが両目を細めた。彼女の透き通った四本ヒゲがわずかに揺れる。

 

『前のとき、月から地球に向けて誘導ビームが放たれ、赤い光がモヤとなって地上を覆った。モヤの範囲内に入り、ゲンゴロウが機能不全になったタイミングで、わたし自身も磁場酔いを起こしたが、実は今回についても一瞬気分が悪くなったんだ。磁場酔いの不愉快さは前よりも弱く、それにすぐに収まったからそこまで確証はなかったのだが、わたし同様、待機室にいたリックも似たような不調をきたしたこともあって、気になってな』

 

 あ。「わたし同様~」のくだりは、たぶん自キャラがプグラシュティクの場合のみ追加されるセリフな気がするぞ。

 

 別種族でこのムービー見たときは言ってなかったハズ。まぁ余談だが。

 

『そこで、艦内の点検を一旦フィラとナオーに任せ、こうしてゲンゴロウを内部から確かめに来たというわけだ。内燃機関(エンジン)やバッテリーのステータスを見る限り、疑いはより強まった』

 

「なるほど」

 

 

 

 今回のムービーシーンの冒頭。ティモシーⅡがタイム・ホールを抜けた直後の場面で、確かにほんの僅かな間だけ、あたり一面が赤い光に覆われていたタイミングがあった。

 

 周囲を黄昏色に染めるかのように。赤い霧を思わせる覆うような光が、目下の樹林帯や遠景の山々、吹きさらしの荒野や、[フィヨルド地形]が海ごと凍りついた山あいの氷原に至るまで。がっつりと広がっていたのだった。

 

 

 

 わずか十秒足らずで「もや」が消えてしまったこと。突発的なエンジンの出力低下により、ティモシーⅡの艦内では緊急事態を示すエマージェンシー・コール&ランプが作動。ランプは赤色の点滅式で、そのせいで乗員たちも外の異常に気づけないか、一旦気づいても思考の優先度を下げてしまっていたこと。

 

 また、ティモシーⅡ含め、フォロルの航空&宇宙艦艇はゲンゴロウとは推進系が異なっている。そのため今回のアクシデントと、以前の経験とをオーバーラップさせるには、ティルたちプグラシュティクの磁場への過敏性に頼るか、もしくは実際にゲンゴロウ内部で被害を実体験するのが手っ取り早い。

 

 

 

 タイム・ホールを抜けた際に、ティモシーⅡ格納庫内のゲンゴロウに乗り込んでいたのはユイひとり。

 

 まず彼女からティルに連絡が行った。それを受けてティルがあれこれと現場検証をし、結果として、原作の43億年前と、VWOでの22億2500万年前。このふたつで起こった現象の相似性に、気づくことができたってことかと思う。

 

 

 

「……確かに、現在のゲンゴロウの被害状況は、以前に同機体が行動不能となった43億年前でのそれと、酷似しています」

 

 ドライさんがひとしきり手もとの端末を弄り、それから所見を述べる。過去のデータとの比較、照合を済ませたんだろう。

 

「ここまでパラメータが一致するのであれば、あのときと同種のシステムに巻き込まれたと見るのが自然でしょう。ティルさんのおっしゃるとおり。スネーカーの手による地球内部のエネルギー奪取が、この時代にも同じように行われていた可能性は高そうですね」

 

 

 

 

 

 

「であれば、現状の異常事態についても」

 

 キャプテン・シート備え付けのL字型端末で作業をしつつ。耳だけで二人のやり取りを聞いていたユキちゃんが、会話に割り込んでくる。

 

「この、凡そすべてが。お前たちが以前に対峙したという進化への介入者、スネーカーが引き起こしたものであるということか?」

 

 片手をかざし、三本指の先端で全周囲モニターの先を指し示した。22億2500万年前の地球に実在するはずのない、謎の針葉樹林帯のことをだ。

 

 

 

 引いては、登場人物たちを長らく翻弄している、局所性フラクタライズ・エラーを中心とした不可解な現象群。それそのものをも射程に収めた問いかけでもあったろう。

 

 結局、全部スネーカーが裏で糸引いてんじゃねえのか? 的な。そんな感じ。

 

 

 

「……いえ。その点に関しては、公算が高まったとは必ずしも言えないかと」

 

 しかし、問われたドライさんは僅かに考えたあと、かぶりを振った。

 

「何故だ」

 

「ノー・テイスト。すなわちスネーカーは、この地球上の有機生命体を様々に進化させるため、繰り返しバーチャル世界に対して介入を行って来ました。三畳紀の宇宙空間に構築された巨大レンズしかり、ペルム紀末期の巨大リングを用いたカーテン状のラジエーターしかりです。そして、進化への介入の折に『彼』が用いるメカニズムには、基本的に合理性、一貫性があります」

 

「この場合のメカニズムとは、さっき言っていた『熱エネルギー奪取のための誘導ビーム発射装置』のことで良いのだな?」

 

「はい。この時代の生命進化に、全球規模の凍結現象が不可欠であるとするならば。スネーカーが使用する大規模システムは、43億年前にも用いていた、惑星コンピュータの環境整備用エネルギー誘導装置であった可能性が高いでしょう」

 

 

 

 使い回せるものはちゃんと使い回す。『地球の寒冷化』という大々的な効果を引き起こすために、毎回手を変え品を変えをする小賢しさはないってことだな。

 

 もっとも、この点についてはペルム紀末期の巨大リングという「地球寒冷化のための別のメカニズム」が実在したわけで、ビミョーに穴がある議論だとも言えるかもしれないが。

 

 

 

 ただまぁ、今回のヒューロニアン氷期の他にも、原生代後期の[スターティアン氷期]と[マリノアン氷期]の少なくとも二度。

 

 スノーボール・アースは地球史上複数回発生している。そしてまた、全球をまるっと凍りつかせたとしても。最終的には火山活動などによって齎される二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度が、だいたい現代の300~400倍になったあたりで自然解凍されるという(非常に長期スパンかつ不確実性も高いと前置きはつくものの)自律性がビルト・インされた気候現象でもある。

 

 

 

 他方、ご存知のとおりP-T境界は地球史上最大の絶滅事変だ。

 

 それを引き起こすための巨大リングとは、当然スネーカーの計画の上で、極めて重みの大きいギミックだったはず。

 

 ペルム紀末期。既に複雑な生態系を築き上げていた地球の有機生命体に対し、生かさず殺さずのインパクトを与えるための、絶妙なさじ加減が求められたのかもしれず……誘導ビームによるエネルギー奪取では調整能力不足だったって考えると、一応は辻褄が合うんじゃなかろうか。

 

 

 

 実際にティルたちが体調を崩してるってあたり。あの謎ビーム、およそ高等生物各種に見境なく影響を及ぼしそうだしな。とにかく大雑把なんだ、やってることが。

 

 

 

「というよりも、本来、前後関係としては逆に見るべきですね。スネーカーは地球で有機知的生命体の進化を促し、その結果を個別に確認した後に。有機生物の発展性に見切りをつけ、地球そのものの無機生物化、惑星コンピュータの構築に着手したのですから」

 

 ドライさんが左手を上げ、黒いカギ爪状の手のひらを開閉させた。ぎしっと特徴的な音が鳴る。

 

「有機生物の進化の一ステップとして不可欠なスノーボール・アース、ひいては各氷河時代を引き起こすために用いられる、大規模寒冷化メカニズム。それを後ほど、惑星コンピュータ構築のための環境整備において流用した。順序的には、そう推測するのが自然です」

 

 

 

「フム。この時代に行われたエネルギー奪取は、バーチャル世界の史上においては『実際に起きたこと』。要するに、スネーカーという生命進化介入システムの、正常な動作の範疇に収まっている可能性が高い」

 

 と、ユキちゃんがL字型端末を側面に退け、仮面の頬のあたりに三本指のゲンコツを添えた。

 

「翻って、現状目の前に広がる『あるべきでない光景』はそうではない。故に、根本から異なるものとして見るべきだと。貴様が言いたいのはそういうことか」

 

「そうです。……無論、この謎の樹林帯を含め、今現在バーチャル空間内で継続的に発生している局所性フラクタライズ・エラーという不確かな現象が、総じてスネーカーの介入行為に端を発するものである可能性は排除されません。しかしながら、先ほどの熱エネルギー奪取のプロセスのみをもって、その疑いを深めることは避けるべきでしょう。周囲の光景が、明らかにこれまでとは異なるたぐいであっても」

 

 ドライさんもまた、全周囲に映し出された針葉樹林の方へと鼻先を向けた。

 

「異常は異常として、独立して検討が為されるべきかと。少なくとも、今はまだ」

 

 

 

 

 

 

 ひとまず納得したといったふうに、ユキちゃんが頷く。そしてそれを踏まえた上で議論を続ける。

 

「この時代の寒冷化現象が、元来スネーカーの介入によるものであったという裏付けは?」

 

 確かに、そこはハッキリさせておきたいところだな。

 

 バーチャル世界的に見て『スノーボール・アースがスネーカーのエネルギー奪取によって引き起こされた』のが、既定路線だという証拠があるのなら話は早い。

 

「我らギラグールも、フォロル族も、進化への介入者に関する知見は余りにも少ない。我々の進化の歴史は、過去の『冬の王』を巡る動乱のなかで、既にバーチャル世界という結節点から技術的に切り離されているからだ」

 

 

 

「残念ながら、具体的な物証は私の手もとにありません」

 

 しかし、ドライさんがもういちど首を左右に振る。右手のデバイスも下げられたままだ。

 

「過去の対スネーカーの作戦時、我々エウロパ人は、非正規的な手段でバーチャル世界に侵入せざるを得ませんでした。そのため、往時の作戦行動には大いに制限があり、地球圏におけるスネーカーの活動履歴、その把握範囲はかなり限定的なのです」

 

 

 

 実際、地球におけるエウロパ人の前線基地でもっとも過去に設営されていたのは、5億8000万年前の新原生代、エディアカランのものだった。

 

 [ディッキンソニア]――最初期の大型動物とも言われ、最大1メートルを超える平べったいカイメンのような生き物――なんかに代表される、[エディアカラ生物群]で有名な時代だな。

 

 この生物群は、前述のマリノアン氷期。つまり地球史上最後のスノーボール・アースの後に、急速に発展を遂げたとされている。

 

 

 

 そのエディアカランを起点として、カンブリア紀、デボン紀、そしてペルム紀にもそれぞれエウロパ人の基地が存在した。

 

 三畳紀でも連中はカウンター・ウイルスによるスネーカーへの妨害活動を試みていたけれど、しっかりとした現地建造物はなく。あくまで即席の発射台を用いた、出先でのゲリラ活動といった雰囲気が強かった。

 

 

 

 たぶん、三畳紀にいたエウロパ人たちは、ワールド5の最終ステージで訪れた、ドライさんがリーダーをしていたペルム紀末期のタワー状基地か。もしくはワールド4のこれまた最終ステージでちらっと画面に映った、カウンター・ウイルスがストックされていたカンブリア紀の基地から臨時に出張してたんだろう。

 

 そうしたあたりから、バーチャル世界におけるエウロパ人の主要な活動範囲は、古生代を中心とし、原生代末期から中生代の初期までに限定されていたと見ることができる。

 

 

 

「ただ、特定の時代に氷河期を引き起こすにあたって、地表からの熱的エネルギー奪取という手法はかなり分かりやすい部類と言えます。奇を衒った大掛かりな仕掛けを用いつつも、使い方については概ね平押しの枠内に留まる。そうした意味で、スネーカーらしい合理性、一貫性が窺えるということですね」

 

「……」

 

「この点については、スネーカーの介入が喪われて以降。過去の地球における生命進化過程を確定させるための補正プログラムを組んだ虎哲さんが居れば、より確度を高めることができるのですが……」

 

 

 

 言いつつ、何ごとか思いついたのか。ドライさんが再び手持ちの端末をいじった。

 

 今度は通信機として使おうって腹らしいが、便利だな、それ。

 

「アッケラ缶さん。当時、メディア・ステーションで虎哲さんが走らせた補正プログラムに関するデータに、そちらからアクセスすることはできませんか?」

 

 スネーカーが、この時代に月のエネルギー奪取ビームを用いていたのだとしたら。各時代におけるスネーカーの介入を再現することで地球の歴史を補正した虎哲は、当然「同じこと」が起きるようにプログラムを組んでいたはず。

 

 となると、虎哲が組んだ補正プログラムのデータがあれば、知りたいことについては一発で分かる。

 

 

 

『……ええっとぉ。ごめん、ドライさん』

 

 なんだが、相変わらず謝罪から入らざるを得ないアッケラ缶だ。……うーん、なんつうか、残念な役回りが一貫しすぎでだんだん可哀想になってくるぞ。

 

『申し訳ないけど、僕だとそれはすぐには分からないかなあ。バーチャル・ステーション(こっち)メディア・ステーション(あっち)じゃ、データベースの管轄がまず違うんだ。いちいち面倒な手続きがいるようになってるし、それに地球の熱圏よりも外に在るあっちとは物理的に距離があって、回線自体が相当細いもんだから――』

 

 

 

『それなら後であたしから、アキラにメッセージを送っておくわ』

 

 と、ユイ。ティルの脇からモニター画面に顔を覗かせてくる。

 

『発電機を動かして、ゲンゴロウのバッテリーが元通りになったら、すぐに。補正プログラムを組むときは、アキラも結構手伝ってたはずだから』

 

「よろしくお願いします、ユイさん。ところで、アッケラ缶さん。もうひとつよろしいでしょうか」

 

『は、ハイハイ?』

 

「この時代における、我々の身体倍率がどの程度なのかの見積もりをお願いしたいのです。外部状況を見る限りでは、中生代までとそう変わらない……普段通りの水準のように窺えますが。今までのパターンからすると、これも少々異常です」

 

 古生代以降においては、時代を遡るほど相対サイズが小さくなるのが今のバーチャル世界の傾向になる。劇中キャラクターの皆さんにも、ちゃんとした経験論的事実としてしっかり認知されている。

 

『ああ、そっちなら全然大丈夫! ちょっと待ってねぇ』

 

 

 

 ここで、バーチャル・ステーション側のアッケラ缶のカットインが入った。

 

 緑色の足を引っ込めて、黄色い円盤に缶の底部分をピッタリとさせる。それから、特徴的な電子音とともに、円盤の上に真っ赤な線が時計のようにくるくると回りだす。

 

 ひゅるりらひゅるりら。アッケラ缶というソフトウェアが、何らかのデータ処理を行う際に鳴らすシグナル音だな。

 

 

 

 バーチャル世界内部からでは、どうしても観測が主観的になってしまうため。サイズ差の割り出しに関しては、実用レベルの客観視が可能な『世界外からの観測』という体裁(・・)が求められる。

 

 アッケラ缶や虎哲、あるいはツトムやアキラのような。外部オペレーターの補助が欠かせない部分ってわけである。

 

 

 

 

 

 

『……んん!?』

 

 ピン、という音とともに、アッケラ缶がデータ処理を終えて元通りになった。

 

 彼が黄色い円盤ごと手前に寄ってきたせいで、カットインの映像が大きくズームされる。

 

「どうでしたか?」

 

『まるで同倍率じゃないね、コレ』

 

 さも驚きを隠せないといったふうに。アッケラ缶が叫んだ。

 

『逆に、一気に縮んでる。千分の一どころじゃきかない……今、みんなは、ミクロの世界に放り込まれちゃってるんだ!!』

 

 

 

 ……とのことだが。念のため言っておくと、このゲーム(V W O)に、ナノセイバー要素はほとんどないから悪しからず。

 

 

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