恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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世界と個体のオーバーラップ

 

 

 並び立つ常緑樹の合間から見上げる灰色の空を背景に、考え込むアッケラ缶のすがたがカットインされる。

 

『それにしたって、なんでこの時代に、雪景色の樹林なんかが広がってるんだろう……』

 

 

 

 22億2500万年前のグリーンランドとは名ばかり。見た目的には明らかに新生代、それも第四紀。亜寒帯地方の針葉樹林としか思えないロケーションが、ゲーム画面に表示されているのだった。

 

 

 

 主に温帯域にある日本の雑木林と比べると、木々の密度はいくぶん薄め。

 

 スリムで背丈の高いシルエットや、針葉樹という名前通りのほっそりした硬質の葉っぱ。そうした形態的特性は、自然淘汰のなかで、より冠雪しづらいカタチが次第に選び取られてきた結果のはず。

 

 にも関わらずこうして雪化粧を免れずにいるあたり。この場所の日中気温の低さ、また天候の抑揚のなさが、否が応でも窺える。

 

 

 

 

 

 

 ドライさんがユキちゃんから人員選抜の命を受けた。

 

 未だに謎多きこの樹林帯に対し、スリーマンセルの強行偵察部隊を出すって方針が急遽持ち上がったんだな。

 

 安全性を鑑みて、ティモシーⅡは当面動かせない。その間、完全に穴熊を決め込むのではなく、こっちからある程度打って出ることで、多少なりとも状況把握を試みようって心算だろう。

 

 

 

 遊撃隊メンバーの中からドライさんが選び出したのは、ドライさん本人、フィラ、そしてリックくんの三名だった。

 

 ……んー、まぁ。後々の話運びを考えると、少々忖度感に溢れるメンバーって感じがないではないな。

 

 リックくんは事実上の主人公特権と言うべきだろうし、もう一人のフィラについても、かなり身も蓋もない解釈が可能な抜擢だったりするもので。

 

 

 

 とはいえ、これまでの実績や隊内のポジション。柔軟な対応力。あとはまぁ戦闘能力もか。

 

 ドライさんの脳内査定表がどうなっているのかはさておいて。遊撃チームの懐具合をしっかり斟酌した場合でも、それなりに順当な人選ではあるんだと思う。たぶんだが。

 

 

 

 

 

 

 ワールド6、第一ステージ。

 

 未だちらほらと雪降る森のなか。上澄み査定の三人組が、方角的には北へと向かって、さっきまでジリジリ進んでいたわけである。

 

 

 

 このオープニング・シーンが終わった後も、偵察部隊のメンバーがそのままステージ内での活動キャラクターにスライドしていく。

 

 つまり、初回入場時のパーティーメンバーはドライさんとフィラで固定だ。参加NPCの切り替えどころか、ソロ、ないし肉入りPTで挑むことすらシステム上一切できなくなっている。

 

 

 

 NPC枠二つのうち、片方だけが固定されてるって場面はこれまでにもそこそこ有ったかと思う。

 

 ただ、両方とも最初から埋まっている上に肉入りすら弾かれるってのはかなり珍しい……ていうか。このゲーム初っ端のチュートリアルステージでフィラとナオーが参加してたときと、後はせいぜい、解放クエストのいくつかくらいしか無いんじゃなかったっけかな。

 

 この後のシナリオ展開の関係で、本ステージだけかなり例外的な処理がされているのだった。

 

 

 

 

 

 

 なお、初回クリア後にステージを再周回すると、マップの構成がかなりガッツリ変化する。

 

 具体的には今流れている冒頭のムービー部分と、マップの前半戦が丸ごとカット。なかなかにヘビーなスリムアップ仕様だ。

 

 

 

 おかげで一周あたりの所要時間がかなり短く済むことから。クリア報酬目当ての所持金稼ぎとか、あと、ステージクリアの回数が達成条件になっているタイプのサブクエストを消化したいだとか。

 

 その手の目的でプレイステージをチョイスする際には、この6-1マップ。プレイヤー達からしばしば全力で使い倒されていたりもするのだった。

 

 

 

 ヘビーユーザー気味の古参プレイヤーだと、何百回、事によると何千回とココをマラソンした経験があるんじゃあなかろうか。

 

 

 

 幸い自分はまだ何百何千レベルには達していない。ただ、それでも数十回くらいは余裕で走った覚えがしっかりばっちりございます。

 

 正直、マップを構成するグラフィックを見ているとだんだん頭が痛くなってくる気がするぜ。

 

 そのうち吐き気すら催すかもしんない。別にこのステージ自体に、何か問題があるってわけじゃあ全然ないんだが。

 

 

 

 症状の分類としては、超絶軽度なPTSDモドキとするべきか? 不毛な単純作業がメンタルに来るのは、いつの時代も変わらないよなあ。

 

 でもまぁ、仕方ない。ルールは守らないとね。仮に作業を完全に(・・・)機械化なんかしたら、検知された途端に即BAN食らうのがオチだしな……。

 

 

 

 

 

 

「あんがい、こうした光景は一種の集団幻覚みたいなもので……実はバーチャル世界の内部にも、実体としては存在していない、というのはどうかな」

 

 閑話休題。

 

 トウヒの成木の雪被った樹冠。その影になった場所で、地面に半ばまで埋もれた横倒しの樹木に腰掛けつつ。

 

 行軍途中の小休止。手持ち火器のミゾに入り込んだ雪を払っていたフィラが、インカムの向こうのアッケラ缶に対して、さっきの疑問に応える形で推論を述べた。

 

仮想世界(バーチャル)の中での、そのまたバーチャルという入れ子構造になっているとみるわけだ。我々一同、精巧な偽物に騙されてしまっている。だとすれば私たちや、この樹林の存在がこの星の進化史に及ぼす直接的な影響は最小限に留まり、バーチャル世界という独立したシミュレーション・プログラム上、全体像が齟齬なく収まるんじゃないだろうか?」

 

 

 

『うぅーん。その手の騙し絵の可能性も、なくはないだろうケド』

 

 と、アッケラ缶が応じる。もっとも彼もそれほど深刻に事態を捉えているってほどではないんだが。

 

 実際、会話ウィンドウ脇のポートレートは最初からずっとデフォルトのままだ。あくまで小休止中のちょっとした雑談って感じだな。

 

 ちなみにリックくんは少し先で鼻づらを高くして周囲を警戒中だし、ドライさんはドライさんで、5メートルほど離れたところに伸びている別のトウヒの根本近くに屈み込んで、データ収集と通信補助の役割を持つビーコン――竹とんぼのような形状の十字アンテナ式、高さはだいたい20センチくらい――を地面に設置しているところのようだ。

 

 

 

『ただ、ボクみたいな外部オペレーターまで巻き込んで全員を騙し果せるっていうのは、フィラたち内部にいる観測人員だけを欺くよりも、ずっと難易度が高いはずなんだよねぇ』

 

「そうなのか?」

 

『うん。根本的に、内部視点と外部視点だと、空間に対する視座(パースペクティブ)っていうか。バーチャル世界という「場」を眺める遠近感みたいなものが、全然違ってくるわけだからさ。万物のシミュレーションがリアルタイムで進行していく中で、内と外の異なった視点を一緒くたに扱おうとすると、どうしても全体の整合性が保てなくなっちゃうんだ』

 

 

 

 一応、このフワっとしたアッケラ缶の言にも根拠はある。

 

 例えば『ジーンダイバー』の最終局面でのことだ。ユイたちがスネーカーの幻覚攻撃を食らい、全員の精神が別々の場所に飛ばされたというシーンがあった。

 

 

 

 あのときメディア・ステーション側の虎哲は、モニターに映るプグラシュティクの世界(ティル)や謎の生贄の祭壇(パック)。エウロパの海底(ドライ6)、そしてヒト文明上の都市部紛争地域(ユイ)といった個別の光景が、いずれも単なる擬い物にすぎず。全員の肉体そのものは、引き続き月面にあるってことをすぐさま看過できていた。

 

 

 

 純粋に技術力だけを比較するなら、スネーカーは作中人類の遥かに上を行っている。

 

 にも関わらずあっさりカラクリを見抜くことができた。そうした非対称性から、利用者を「騙す」試みへの対応力の多寡は、外部観測者の有無が相当大きなウェイトを占めているらしいことが分かる。

 

 

 

 システムの外部からの視点を常に確保し続けることで、バーチャル世界というビッグ・データを多視的、客観的に観測する。

 

 それによって主観的な視点しか持ち得ない内部観測員の認識をしっかりと補強し、また観測員とオペレーターがお互いを観測し続けることによる波及効果として、ハイパー・バーチャル・システム自体の動作安定性を、常態的に高め続けることが可能ともなる。……らしい。

 

 ま、アッケラ缶や虎哲、あるいはツトムやアキラたち。外部オペレーター、絵面以上に超大事ってことだな。

 

 

 

『正直、今となっては旧バージョンのソフトウェアではあるんだケド』

 

 会話ウィンドウだけに飽き足らず。画面右側に挿入されたペナント型のカットインの中で、アッケラ缶がシンプルなつくりの片手をパタパタとさせた。

 

『ボクにだってその手の誤魔化し、要するに仮想世界内部の同期ズレを検知するセキュリティ・システムは備わってる。フィラたちが何らかの精神干渉を受けていると仮定して……それに対してこっちが直接的に対抗できるかはともかくとしても。異常が生じていること自体に全然勘付けないってケースは、ちょっと考えにくいよ』

 

 ふむ、とフィラが頷く。

 

 とりあえず事実関係の把握だけならイージーだと。そういうことらしい。

 

 シレッと言ってる「対抗できるかはともかく」ってあたり、空恐ろしいものがなくもないが。とはいえ彼よりも世代が先の虎哲でも幻覚攻撃の解除は無理だったんだから、そこはまぁ、仕方ないのか。アッケラ缶だし。

 

 

 

 

 

 

『多元宇宙の交差点としてのバーチャル世界は、数多くの文明がそれぞれ独自に構築した、無数のハイパー・バーチャル・システムによってその実存を裏付けられてる』

 

 更に解説を加える。フィラも銃のメンテを続けつつ耳を傾ける。

 

『個々のシステムに組み込まれた自己畳み込み式メモリーで起こっている、何かしらの演算的、物理的な異常の反映。今のところ、局所性フラクタライズ・エラーって現象を説明する有力な仮説はそういったもので……今回のコレも、バーチャル世界に存在する他の物理的実体(オブジェクト)と、性質としてはそう違わないってふうに、ボクからは見えてる』

 

 

 

 今回のコレ、と彼が言ったところで。近隣のトウヒの木(ちなみにソイツの根本近くで今もドライさんが設置作業中)の樹冠部分がフォーカスされた。

 

 さながらクリスマス・ツリーを思わせる円錐形。てっぺんまでの高さがおよそ7~8メートル、周りの同種と比べても概ね平均的な一本だ。

 

 

 

 局所性エラー独特のノイズは見られないものの。この樹木についてもやはり、これまで敵として出てきた古生物などと同じく、エラー発症有機生命体のひとつではあるんだろう。

 

 もちろん正体は樹木そのままじゃない。ベースになっている生命体が「何」なのか。というのは、現時点だとまだ明かされない。

 

『つまり、バーチャル世界の内部にいる今のフィラたちにとっても。この森には、ちゃんとした実体が在るって見ておくほうが無難なんだと思うなァ。まぁ実体って言ったって、しょせんは構造的に不安定性を抱えた仮想空間内部でのものだから、五十歩百歩って言われると、それは確かにそうなっちゃうんだろうケド』

 

 

 

「なるほど?」

 

 インカムに向かって小さく頷きつつ、手もとの作業も終わったらしい。

 

 ブラスター・ガンのグリップ底から生えているケーブルが身体に干渉しないよう、丁寧に太もものホルスターへと収める。ちなみにケーブルの反対側は、フォロル式アイ・スーツのバックパック部分に繋がっている。

 

「さっきの艦内における女司令官(コマンダー)と、ドライ・シックスとのやり取りにも通じることかもしれないが……結局。この状況は確かに異常ではあるけれど、それを過度に特別視することは、慎んだ方がいいんだね」

 

 フィラが半円形の即席長椅子から立ち上がった。粉雪がずっとちらほらしていたせいで、アイ・スーツの衣服部分やメットが白っぽくなっていたのを、全身を震わせて一振りで払い落としてみせた。

 

「バーチャル世界に息づく通常の生き物や、空間も。この冬の森めいたおかしな景色も。そして、我々バーチャル世界で活動している個人個人についても。バーチャル世界という、限りなく現実に近づいた演算空間に存在する固有パターンであるという意味で……どれもが同じ水準のものとして、引き続き、等しなみに見ておくべきだということか」

 

 

 

 

 

 

 バーチャル世界は、その設定上、多大な不安定性を本質的に抱え込んでいるんだそうだ。

 

 

 

 各可能性宇宙のハイパー・バーチャル・システムに共通して内蔵されている、「自己畳み込み式のメモリー」なるもの。

 

 システムを走らせるための膨大な計算能力を提供するハードウェアであり、また、バーチャル世界を多元宇宙の交差点として成立させるための特別なガジェットでもある。

 

 

 

 『恐竜惑星』の劇中でもアッケラ缶の言及があったこのハードウェア。実はバーチャル三部作に通底する、SF的な裏設定があったりする。

 

 フーリエ変換の逆変換がどうのこうの、みたいな詳細部分はまぁ置いといて……とりあえず「自己畳み込み式」って名称が、勘所になってくるだろう。

 

 

 

 演算処理の[コンボリューション]を何度も何度も繰り返すことで、内部的に「複雑性を自己増殖させ続ける」基礎構造。

 

 バーチャル世界という超ド級の仮想現実を描出するためのこのオペレーションには、いかにも取り扱い注意って感じがアリアリとしている。

 

 

 

 やってることからして出力データの再現性はさっぱりだろうし。動作の説明不可能性だって、間違いなくテンコ盛りである。

 

 また、システム全体がシングル・パッケージ化されていることによる帰結として、外部制御から容易に逸脱しかねない作りになっている可能性が、極めて高い。

 

 

 

 

 

 

 事実、VWOの時間軸においてはギラグールが10年前に作り上げたバイオ・コンピュータの『宇宙の眼』。

 

 こいつがたったの百いくつ程度の恐竜の生体頭脳――いくら進化上極めて重要な種のものとはいえ――を用いた処理能力で、現実世界の過去を再決定することすら可能としていたのは、バーチャル世界が持つ不安定性。或いは「構造的曖昧さ」に依拠する部分が相当程度に大きかったらしい。

 

 

 

 また『ジーンダイバー』で、スネーカーがバーチャル世界を世界改変のツールとして用いていた理由についても。

 

 常に揺らぎ続けているバーチャル世界。多元宇宙の交差点と化してなお、その性質は継続している。

 

 この曖昧性のゆらぎをそのまま各種可能性宇宙へ波及させられるのなら、有名なバタフライ・エフェクトのごとく、ほんの僅かな干渉コストで、大規模な改変効果をもたらすことができる。

 

 

 

 自分自身がその作用の巻き添えを食わない安全圏にいるという前提があるなら。改変ツールとして、これほど便利に使えるものはないわけだった。

 

 

 

 以上のように、両原作における黒幕的なギミックにつき、それぞれの方向性は、実のところかなり似通っている。

 

 ギラグールの宇宙の眼も。スネーカーによる進化介入も。

 

 ともにシステムの基礎構造が必然的に具える脆弱性を標的にすることで、バーチャル世界そのものに対して、一種のクラッキングを仕掛けていたってことなのだ。

 

 

 

 

 

 

 ……とまぁ、白亜紀のフォロル基地にいるギラグールの女科学者から聞ける話をつなぎ合わせていくと、だいたいこんなふうな解釈になってくるんであるよ。

 

 ギラグール文明における、ハイパー・バーチャル・システムの製作者だというあの女性。

 

 フォロルが使っている同システムはギラグールのバッタもんだとされる。したがって事実上、彼女は恐竜人類文明における唯一無二の発明家。最も偉大な技術者だといっても過言じゃない。

 

 

 

 にも関わらず、徹頭徹尾名無しのまんまな女科学者サマだが。ともあれこのゲームの中でも、先端技術分野では一等高水準なNPCとして扱われているのは確かではある。

 

 その優秀さを裏付けるように。彼女との通常会話のテキストは、ゲーム中のストーリー進展度に応じてどんどん核心へと向かってゆくんだな。

 

 

 

 これまでにもピラルやアッケラ缶との会話のなかで、諸々の「仮説」がちらほら顔を出していた。恐らくそれらの出どころについても、多くが彼女からのものなんだろうと思う。

 

 この手の裏設定まわりが気になる方は、ワールド一つをクリアするたび、フォロル基地のエンジニア・ルームに足繁く通うと良いんじゃないか。彼女が興味深いオハナシを、結構な頻度で話してくれるはずだ。

 

 

 

 今回の実況プレイじゃあ、ほとんど出向いてないからさっぱり聞けてないけどな。

 

 ぶっちゃけステージ入場ポイントからソコソコ距離が在るせいで、通い詰めるとなるとメンドいんだよねえ。あの半端にギラグール様式が混じったシュミの悪い部屋……。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 あいだに画面の暗転を挟んで、ふたたび偵察行が開始されている。

 

 積雪量が比較的少なくなっているところを、ジグザグと縫うようにして先へと進む。そうやって一行の先駆けを勤めていたリックくんが、突然足を止めると。5~6センチほどの深さの雪がパワード・スーツの靴部分に踏み固められて、ぎしっと鳴った。

 

 ドリル付きの右手を肩の高さまで上げ、後ろの二人を制止する。

 

 

 

「何か?」

 

 数メートルの距離を開けて前から二番目にいたドライさんへ、おそらく警戒を促す言葉を返すとともに。リックくんは顔全体を斜め上へと傾けると、メットの奥で鼻面をひくりとさせる。

 

 

 

 例によってプグラシュティクは、周囲の磁場の変化を敏感に感じ取ることで、離れた場所に在る一定サイズ以上の生体反応を大まかに検知することができる。

 

 もっとも、別に自キャラが他種族でもこの場で置かれる役回りは変わらない。今回その特性が活かされたのかというと、かなりアヤシイところではあるだろうが。

 

 

 

 ともかく何かが近づいてくることに、真っ先に気づいたのはリックくんだったわけだ。

 

「…これは、足音か?」

 

 続いて兆候を感じ取ったのは最後尾のフィラ。草食恐竜を祖とするフォロルもまた、聴覚面には長けているらしい。

 

 二人の反応を受けて、臨戦姿勢を、とドライさんがすかさず状況定義を行った。

 

 

 

 

 

 

 しばらくは無音。続いて、ずしゃり、ずしゃりという、相当な体重が雪を踏みしめる音が。プレイヤーの側にもだんだん聞こえて来始める。

 

 最初は微かだった足音が、次第により大きく、接近してくるのが分かる。

 

 しかしながら、その音の発生源をリックくんたちが個々の視界に見出したのは。体感的な予測よりも、まだかなり距離が遠く離れた時点からだった。

 

 

 

『きょ、巨人……!?』

 

 モニターしている映像を自前で拡大したんだろうな。インカム経由でアッケラ缶が叫び、それを聞いたリックくんが目を細め、睨みつけるように遠視した。

 

 そのリアクションに伴って、プレイ画面の表示もズームインされる。

 

 

 

 ……うむ。まさしく巨人だねえ。

 

 

 

 雪景色の勾配を乗り越えて、木々の合間からぬっと姿を表したのは、二足歩行の身体を持つ巨大なヒトガタ。

 

 周囲の木々との体長比で見ると、連中の背丈はせいぜい2:3ってところだ。大振りな看板か何かの横で並び立つ、普通の人ってふうに取れなくもない。

 

 だが、この森に立ち並ぶ樹木の多くをしめるトウヒの成木の高さを考えるなら、近づいてくる巨人の身長は、だいたい4メートルから5メートルくらいはあることが疑いない。

 

 

 

 全身の体色は強くくすんだ白系統。さながら霜色といったところの肌の上に、粗末な毛皮の衣服をまとっている。

 

 全体的なシルエットは痩せぎすだが、両手足の先は長くて太く、まるで節くれだった樹木のようにゴツゴツしている。同じく頑丈そうな首の上に乗っかっている顔には、ヒトっぽい形状の目、鼻、口がしっかり揃っているものの。

 

 どのパーツもあまりに無骨すぎて、ほぼほぼ異形の面ってな感じが否めない。

 

 

 

 そんな生き物が、のしのしと、着実に。こっち向かって近づいてきている。

 

 その数、三体。

 

 

 

 

 

 

 モンスターじみた外観の巨人たちの姿を、バーチャル世界内の三名もはっきりと視認した。

 

 まず最初に、フィラがインカムに向けて急ぎ確認を入れる。

 

「アッケラ缶。あれはまさか、ドンの身内か、それに近い種族なのか!?」

 

『えっ!?』

 

 恐竜人類たるフォロルの目線だと、どうしても霊長人類の人種差はイマイチ判別しづらいんだろうな。うすらでかいヒトガタ=ドンの関係者かも。というのは、瞬発的な発想としてはまずまずな意見ってとこだろう。

 

 

 

 その問いを受けて、またぞろ「ボクにも分からないよ」が飛び出す……かと思いきや。

 

『……ううん、違うと思う』

 

 大きめのサイズで挿入されたカットインのアッケラ缶は、一転キリっとした表情を作った。

 

ホモ・ギガンテウス(ドンたち)っていうのは、ボクたちの歴史における巨大霊長類、[ギガントピテクス]が独自に進化した分岐平行世界からやって来た存在のはずなんだ。ドンのあの大柄な身体は、ホモ・サピエンスから見ても、ギリギリあり得なくもないバランスに収まってた。その点、手や足の不自然な釣り合いや、異様なまでの上方向への背丈の大きさ。あの巨人は、違うよ。とても現実世界の延長線上とは思えない』

 

「バーチャル世界内部のエラー発症存在であって、我々外部利用者や、或いは現地生物の巻き込まれ組(イレギュラー)ではないのですね。となると――」

 

 

 

 言いつつドライさんが多脚を動かして体勢を変え、すかさず次の指示を出そうとする素振りを見せた。

 

 それとほぼ同時に。50から45メートルほどまで接近していた先頭の巨人が、ふいに腰に下げた皮袋へ無骨な片手を突っ込んだ。

 

 

 

 そしてすぐさま引き抜かれた掌の中には、サイズばらばら、何の変哲もない石ころが複数個ぎゅっと握り込まれている。

 

 

 

 もちろん、距離が空いているせいでそこまで詳しくは見えていないはず。それでもリックくんの表情がとっさに乱れ、全身を使った勢いのある身振りとともに、何事か叫んだ。

 

 避けろ、とか、投擲だ、とか。たぶんそんな感じの警告だったに違いない。

 

 

 

 直後に巨人が振りかぶり、おもむろに手持ちを投げ込んだ。

 

 

 

 不揃いな物体が殺到してくる風切り音が響く。すぐさまリックくんが右手のドリルを斜めに振るった。

 

 その一振りは、自分への命中コースに乗っていた飛礫のひとつを無事弾き飛ばした。

 

 ドライさんは戦闘態勢のカニ型を変形させて身を躱す。位置的に一番遠くにいたフィラには、幸い被害が行かなかったらしい。

 

 

 

「――やはり、あちらの敵対性は濃いようです」

 

 直ちに元通りとなったドライさんが周囲に叫ぶ。指揮官の指示表明に頷く間もなく。リックくんもフィラも、それぞれが動き出している。

 

「応戦します! 散開してください!!」

 

 

 

 

 

 

 ほい、いつものプレイ画面のインターフェースに切り替わった。ここからステージ前半戦が開始ってわけだ。

 

 何なんだろうコイツら、って感じがするかもしれないが。ま、今のところはとっとと迎え撃ってさくっと畳んじまおう。

 

 

 

 ワールド6の話の流れ的に、まだまだ前哨戦のそのまた前哨戦みたいなヒトコマにすぎない。

 

 この巨人ども。イカつい風貌から受ける威圧感はなかなかのもんだけれど、実は見た目ほど強靭でも、頑丈でもなかったりする。

 

 

 

 片手持ちの棍棒を振り下ろす動作は鈍いし、さっきみたいな投擲攻撃が当たっても威力は豆鉄砲。

 

 HP自体はかなり多いものの、ダメージを絶対値で減算する防御力が低い上に隙だらけなため。近づいて適当に殴っているだけで、面白いようにゲージをゴリゴリ削っていくことができる。

 

 

 

 ここにくるまでの演出やサイズも単なる見掛け倒しであって……まぁその、言っちゃなんだけどただデカいだけの雑魚ですね、ハイ。

 

 

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