恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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無名に勝るが消えづらし

 

 

 ところで、ヒト種の一種族としての相対的な戦闘能力はかなり低い部類に入る。

 

 

 

 ……あー、VWOの世界観的にっていうか。両原作も含めた一介の登場人物としての劇中描写の話ね? 本ゲームのデザイン上の、プレイヤーキャラクターとしての使い勝手の話じゃなくって。

 

 またそれに加えて、現実世界におけるヒトって生き物の、生物学的な傾向性についての話であるとも言えようか。

 

 

 

 実在する有機生命体の基礎能力(ステイタス)は、一定のリソースを、個別要素に振り分けているって見方を採ることができる。

 

 チーターは現生哺乳類最速を誇るが、そのぶん咬合力などのパワーが他の食肉目と比べて劣っているし、巨木として有名な[ジャイアント・セコイア]は、性成熟までゆうに30年以上の年月を要する、といったような。

 

 分かりやすくゲームっぽい表現をするなら、STRとか、AGIとか、VITとか。その手の配分先の項目があって、割り振りに使える手持ちポイントの総量には、そこまで大きな違いがないってこと。

 

 ちょっとばかし単純化、シンボル化が過ぎるきらいもあるが。ともあれ項目ごとの大小はいわゆるトレード・オフ、あちらを立てればこちらが立たずの関係なんだと考えてみてもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 そして、VWO内でも、現実世界においても。野生動物として見たヒトっていうのは、相当ピーキーなつくりをしていると言っていい。

 

 

 

 体姿勢には不安定性著しい直立二足歩行を常用。また1500cc近い巨大な脳神経組織を維持管理するために、酸素なり、カロリーなり、手持ちのリソースを常時割きっぱなしにしてもいる。

 

 そのおかげでというか、そのせいでというか。身体のサイズは倍くらいあるのにも関わらず、握力はチンパンジーの五分の一程度だし、咬合力だって半分以下という体たらくである。

 

 

 

 皮膚組織や関節部の頑丈さなんかも。同サイズの哺乳類の水準からすれば、相当見劣りがすると言わざるをえない。

 

 特に首周りの脆さは深刻で、言葉通り、生命活動維持にあたってのネックな部分になりがちだ。

 

 

 

 一方、構造的に肩周りや手先が非常に柔軟なおかげで、石やら槍やらをターゲットに狙って投げつけられる。つまり『投擲』が可能なこと。

 

 この点については『恐竜惑星』劇中でも、ラプターによるドンの戦い方への分析という形で一定の評価がされている。

 

 他にも、発汗機能に基づく優れた体温調節能力によって長距離走に秀でる。みたいな長所を挙げることもできる。

 

 

 

 ああ、あと、もちろんながら知的能力も相対的に高い値を示す。

 

 ヒト一人の脳の平均的な処理能力は10ペタ[FLOPS]程度。これはだいたい2020年代後半の一般的な民生用ハードウェアのクロック数に匹敵し、ハツカネズミあたりと単純比較すれば、実に数百倍もの開きがあったりする。

 

 

 

 ただまぁ、VWOっていうゲーム的なシチュエーション上。全般的にどうしても、フィジカル面が重要視されがちなわけで。

 

 ギラグールやプグラシュティクの持つ俊敏さ、機動力。フォロルが操る三本目の腕である器用な尻尾に、彼らの手先、指先から作り出される取り回しに優れた数々の武装。

 

 ギガント特有の頑健な巨躯、並外れた腕力。あるいはエウロパ人のような卓越した身体の柔軟性や、環境適応能力などなど。

 

 

 

 そうした種族的な長所につき、ヒト種が概ね低空飛行なことに疑いはなく。必然、設定的に見て彼らは肩身の狭いポジション取りを余儀なくされている。

 

 

 

 

 

 

 ……と、ここまでわりとボロクソ言っといてなんだが。

 

 実はそんな下馬評とは打って変わって。本作におけるプレイヤーキャラクターとしてのヒトは、バリバリの肉弾系キャラとして立ち位置を確立していたりするのだった。

 

 

 

 この種族。主に地上での接近戦の間合いにおいて、全種族の中でも指折りのポテンシャルを発揮するスキルを幾つも持っていやがるのだ。

 

 

 

 

 

 

 先ごろにもイチャモンを付けた……いやいや。苦言を呈した『タイム・ブースター突進』はその最たるものである。

 

 外部システムからの補助を受けた1000倍速という裏付けのもと。全身が赤熱化したかのようなエフェクトを帯びて、15メートルほど正面に向かって体当たりを仕掛ける突進技。

 

 

 

 当たったときの単発ダメージ自体もそれなりの水準だが、見どころはもちろんそこだけじゃあない。

 

 何度でも言おう。発生速度に、移動スピードの早さに、強判定。

 

 激長リーチ。流石に外してしまうと大きく隙を晒してしまうが、ガードさせた場合であれば微有利が取れる取り回しの良さ。極めつけにはヒット時の確定スタン付与とくる。

 

 

 

 デメリほんのり、メリット山盛り。まー、ほんと、イカレた性能していらっしゃる。

 

 

 

 ……つーか、最近プグラシュティク(リックくん)使ってランクマッチやってる身として心の底から思うんだけどさ。あの無敵の長さは、マジで、何考えてやがんだろうね?

 

 こちとら見た目からして、『ハイディング・アサルト』で地面下にばっちり潜ってる。にも関わらず、飛び道具のみ無効っていう。慎ましやかな性能で日々頑張っているというのにだ。

 

 

 

 アサルト派生の『ドリアタ』含め、『ブースター突進』とどのタイミングでカチ合ってもほぼ確実に当たり負けする。そんでもって、バカでかい向こうの当たり判定にちょっとでも引っ掛けられると、その時点でスタン食らってフルコン確定。

 

 その後のだいたい十秒間、めったに起こらないコンボミス願って、ひたすらお祈りし続けるハメになるという。納得いかない。

 

 

 

 そりゃ、突進時の小回りの良さならプグラ側に分がある。そいつはわかっちゃいるともさ。

 

 さりとて、立ち回りで何とか誤魔化すにしたって、同じ土俵の上で等しいインターフェイスを用いて対峙している以上。仕様上の限度ってものがあるわけだよ。どうしたって。

 

 

 

 互いの釣り合いが取れてないのがどっからどう見ても明らか。ていうか、この二つの突進技。そっくりそのまま取り替えっこしたら、バランス的に見て丁度いいんじゃなかろうか?

 

 『ジーンダイバー』終盤のスネーカー戦にて。タイム・ブースター発動中のユイが、ティルを背中からブチ押して千倍速に無理やり入門させた描写があるから、プグラが『突進』を使うにあたり、用いる再現モーション自体には事欠かないハズ。

 

 

 

 『アサルト』と『突進』のシングルトレードを実施する。ヒトを弱体化(ナーフ)し、ついでにプグラも強化できる。

 

 対戦ダイヤグラムが大変動。今よりもよっぽどバランスの取れた、素晴らしきVWO対人環境が到来すること請け合いだ。間違いない。

 

 

 

 だからください。くれ。よこせ。

 

 

 

 

 

 

 ……ええっとぉ? そう、ヒトだな。ヒトヒト。

 

 ご想像のとおり、この種族。使い方自体はかなりシンプルに出来ている。

 

 ギラグールを空中の専門家だとすれば、ヒトは地上戦のプロと言っていいだろう。

 

 

 

 まず、『突進』などに代表される攻撃判定付き無敵移動スキルで勢いよく距離を詰める。始動技を兼ねたその一発を当てたなら、その後はバンパイアーを使った『パラライザー接触放射』や、カラテやボクシングっぽいモーションの『徒手空拳』シリーズを立て続けにブチ込んで、ごっそりとダメージを取っていく。

 

 地上コンボを主軸にした、接近戦における派手なアクションがウリとされる。奇麗にハマったときの大火力っぷりは圧巻だ。

 

 

 

 それでいて、操作難易度がギラグールをずっと下回るのが、一操作キャラクターとしての巨大な長所となっている。

 

 

 

 立ち回り用の強スキルからそのまま直接コンボに繋げられるおかげで、適当にぶんぶんしているだけで概ねそれっぽい動きになる。

 

 基礎コンボくらいは流石に覚える必要があるけれど。もともとレシピ自体そう大した長さじゃないし、チェーンを繋いでいくのに用いるスキルや通常アクションの有利フレームが、どれもこれも十二分にでかいのだ。

 

 他にも要所要所で用いるスキルにスタンが追加効果として付いてくるなど。操作難度の部分で、システム側からのサポートを容易に受けることができる。したがって一旦指で(・・)覚えてしまえば、そうそうコンボミスなど起こらない。

 

 

 

 一方、比較対象のギラグールはというと。相手方に攻め込むにあたり、奇襲性と引き換えに、判定の強さや持続がイマイチなジャンプ攻撃各種に頼るシーンがどうしても出てくる。

 

 空中コンボ完走のために、シビアな入力を複数回クリアする必要もある。

 

 キャラクターを操作していく中で。神経使わされるシチュエーションの多寡につき、両種族には雲泥の差があるわけだった。

 

 

 

 

 

 

 もっとも、世の中並べて良い話ばかりとはいかないのは、本件も同じだ。

 

 立ち回りが大雑把になりがちなせいで、慣れた相手にはどうしても動きを読まれやすかったり。頑張って練習して高難易度コンボをモノにしてみても、安定コンボと比べて言うほどダメージに伸びしろがなかったり。

 

 他にも、ショートレンジが主戦場のコンボキャラという特性上。コンボパーツを兼ねる近距離攻撃がスキルの大部分を占めているため、中~遠距離については、そもそもの手札自体が貧弱っていう欠点もあるか。

 

 

 

 特に射程不足に関しては、対人戦だけでなく、通常プレイにもかなりの影響が及んでいる。

 

 

 

 例えば、ワールド4の石炭紀虫まみれステージのことを思い返してみよう。

 

 あそこの大樹外観パートみたく、まっすぐに開けたマップ構造でなかったり、頭上から急襲を仕掛けてくるタイプの敵が多かったり。その手の場面だと、ひたすら『霊長類式投擲』で石を拾って投げつけるしかやることがなくなってしまうのもままあること。

 

 また、横方面に向かって突っ切るのは大得意なんだが、通常ジャンプの性能がギガントに次いで低い上に高度も最低。つまり縦向きの移動が苦手なため、アスレチック適正もかなり低い方だな。

 

 一回ミスって落っこちると、元いた場所まで戻ってくるのにずいぶん苦労させられるんだとか。

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで、別に万能キャラ、最強キャラってわけでは全然ないんだが……それでも、まぁ。お手軽強キャラの部類ではあるんだよなあ、ヒトって。

 

 

 

 使うのかんたん。動かしてて快適。それでいて、それなり以上のスペックを誰でもばっちり発揮できるっていう。

 

 

 

 おまけにこの種族。稼働初期の対人戦で調整ミスやらかして、他種族プレイヤーから盛大に不興を買った過去もあったりする。

 

 初期バージョンの『パラライザー接触放射』は、有り体に言って狂ってた。

 

 

 

 →『タイム・ブースター突進』などを当ててスタン付与

 

 →スタン中にコンボ入れて『パラライザー』で〆ると、スタンじゃなくマヒ属性の状態異常を付与できる

 

 →マヒ中はスキル発動不可&ガード不能になる。そこに相手の掴み投げやバックステップを狩れる無敵技を重ねてやることで、そのままもう一回コンボに行ける

 

 →『突進』などでコンボを〆ると、スタンのクールタイム(状態異常系はだいたい20秒前後)がギリギリ終わっているので、もう一回スタンが入って以下ループ

 

 

 

 ……つまりスタン付き突進系スキルがカスっただけで、概ね即死させられる時期があったわけだな。うーん、終わっていらっしゃる。

 

 恐らくだが、原作再現的な演出の一貫性を優先したせいで、バランス調整用のコンポーネントに何らかの齟齬が発生してたんじゃあないかしら。

 

 

 

 

 

 

 こうした環境となれば必然。当時のランクマッチにおけるヒトの暴れっぷりは、尋常じゃないレベルであった。

 

 ランダムマッチングしたら、二回に一回はヒトと当たり。開始早々、どいつもこいつも即死コンボ狙いで雑に正面から突っ込んでくるってな具合。

 

 両原作における主人公が属しているというポジション的な優位性もあって、プレイヤー数が飛び抜けて多い種族だったことも、事態に拍車をかけたと言える。

 

 

 

 VWOの稼働当初はPvPよりもPvE側の調整が優先されており、おかげさまで時間的猶予は大いにあった。悪い意味で一時代が築かれたってわけだ。

 

 VWO対人戦における量産型ヒトの悪夢は、今なおこのゲーム史における語り草のひとつとなっている。

 

 

 

 

 

 

 もちろん、この即死ルートは現行バージョンだととっくに対策済みである。

 

 『パラライザー』のマヒ付与は没収された。ヒトの他スキルと同じ、スタン付与にしっかり挿げ替えられている。

 

 カオスは遠くなりにけりだ。それでも、未だに往時の理不尽を根に持っている、自分のようなプレイヤーはそれなりにー……っと。

 

 

 

 だいたい片付いたっぽいな。今しがた、リックくんのスプラ〆コンボで仕留めた棍棒持ちの巨人で、ステージ後半戦の増援は打ち止めだったと思う。お疲れさんだ。

 

 一同身構えたままで敵攻勢が途切れたことを確認する。続いて、萌さんが手持ちのバンパイアーを手早くホルスターに納める演出が入った。

 

 

 

 

 

 

 萌さん、リックくん、ドライさんの三人が、引き続き木に凭れ掛かってノックダウンしているフィラの元へと集まってくる。

 

「フィラ!! ……具合はどう? 息を吸ったときに、痛み以外の違和感はない?」

 

 一番乗りで走り寄り、傍で屈み込んで即席の問診をおこなう萌さん。

 

 弱々しいながらも微笑みを作り、ああ、大丈夫だ、とフィラが応える。……といったところで、ここでステージクリアのリザルト画面を挟むことになるのだった。

 

 

 

 そういや、今さらだが。ワールド6の雑魚として頻出するドラウグや巨人に対しては、『ドリル内蔵バーナー放射』による火炎DoTダメージが特効だった気がする。

 

 次のステージからはスキルスロットを多少弄って、炎上DoT主体の地上コンボに切り替えてみるか。

 

 実際には今居るここってちっとも地上じゃないんだが。シナリオの流れ的に、当面のあいだは地上戦主体って名目が話が進んでいく。そのため地上戦の立ち回り次第で、この先どれだけ効率的に進められるかが違ってくる。

 

 もちろんコンボ一回ごとのダメージ差なんてほんの僅かではあるだろう。でもまぁ、塵も積もればなんとやら。このタイミングで立ち回りを見直すのは、決して悪い選択じゃあないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 リザルト終了。ステージ末のイベントシーンへと移行する。

 

 画面には、事前の三人組に加えて萌さんも映り込んでいる。嬉しい再会だったことは確かだった。しかしながら、アウェイの場でけが人が出ている目下の状況、おちおち喜んでばかりもいられない。

 

「通常であれば、ミッションを完了し、帰投させられた時点で身体コンディションは元通り整うはずですが……未だに、局所性エラーの外部症状は、継続しているようですね」

 

 と、引き続き戦闘形態を保ったままのドライさんが、リックくんの肩を借りて立ち上がっているフィラの状態を概括する。

 

 

 

 どうも身体を動かすたびに激しい痛みが走るらしい。立ったり歩いたりくらいは出来るようではあるが、戦闘行動どころか、速度を落とした行軍でも、今の彼には相当負担になるっぽい感じだな。

 

「……無理は利きそうにないな、これでは」

 

 言いつつ、フィラが顔をゆがめる。ダメージの区分としては、重傷だけど軽い方(全治一ヶ月強)ってあたりだろうかね。

 

 アイ・スーツの頑丈さのおかげでこの程度の被害で済んだわけだが、そのスーツのせいで応急処置に制限が掛かってしまうらしいのはちょっとばかし残念な話かもしれない。

 

「ナノボットの鎮痛作用でごまかすにも限界がある。悔しいが、この場での私はほとんど足手まといだろう」

 

 

 

「やむを得ません。ここまでとしましょう」

 

 と、ドライさんが速やかに意思表明を行う。

 

 ユキちゃんからのお達しは、「周辺を探索して可能な限りの情報を持ち帰ること」だった。この場で萌さんと合流出来ている時点で望外の幸運と言える。調査を切り上げてとっとと戻るってのは、現場指揮官としてある意味当然の判断だろう。

 

「予定された探索範囲はカバー仕切れていませんが、元よりそこまで厳密なものではありませんでした。現時点で任務を終了し、此れより艦への帰還を優先事項とします。……ブリッジとの通信は?」

 

 水を向けられたリックくんが、左右に首を振ってみせる。

 

 

 

 例によってエラー空間内でのスムーズな通信はアッケラ缶たち外部オペレーターの特権であって、同空間内部に座標が存在する艦との相互通信は回線がひどく不安定になる。……って、そのこと話してあったっけ?

 

 なんか言い忘れてた気がするぞ。まぁいいや、とにかく、今回みたくちゃんと道中にビーコン撒いてても、やっぱりダメなものはダメらしい。

 

「分かりました、引き続き発信を継続してください。司令への通達については回線の繋がり次第として、フィラさんの運搬は私が行いますから、リックさんと萌さんは――」

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

 ここで、萌さんが片手を軽く上げながら話に割り込みをかけた。

 

 それを受けてドライさんが、運搬用の間延びした体勢を取ろうとしていた変形行動を取りやめて元通りになる。カニというか、エビのような頭を傾げて、聞く姿勢を作った。

 

「なんでしょう、萌さん」

 

「ええっと。フォロルの艦で、行方知れずの私を助けに来てくれたってことなのよね。本当にありがとう。それで、そのあなた達の艦まで、ここからだとどのくらい時間が掛かるのかしら?」

 

 萌さんの問いに対し、リックくんが空いている片手を使った身振りで簡潔に応える。

 

「そちらのオフィサー・ドライが、怪我してるフィラを背負ってだと、徒歩でだいたい一時間半か……。それだったら。私が今、お世話になってるところがあるんだけど、そっちに向かう方が、直線距離でも移動時間でもだいぶん短くなる気がする」

 

 片手を頬に当ててわずかに考えたあと。そのまま、両手を左右に浅く広げて申し出る。

 

「……フィラの容態のことを考えると、手早く済むのに越したことはないわよね。艦まで戻るんじゃなく、この場はこっちの拠点に一時避難するって形にしない?」

 

 

 

「拠点……?」

 

 と、フィラ。引き続きリックくんの肩を借りた姿勢で、萌さんに向かって小さく首を傾げる。

 

『萌ちゃん。その拠点って場所に、何かしらフィラを治療するためのアテがあるってこと?』

 

「ええ。そういうことね」

 

 アッケラ缶に問われた萌さんが頷く。なお、現時点で彼女のインカムはまだ死んだままだから、今のは、拡声モードになってるリックくんのスーツ内蔵スピーカー経由のやり取りだった。

 

「ちょっとばかり突拍子がない感じなんだけど。それでも、その手段の効果自体はてきめんよ。私もここで手傷を負ってしまったときに、これまで何度か便利に使わせて貰っているもの」

 

 

 

 ……さっきからの彼女の言動につき。ビミョーにボカされてるって印象を受ける方も多いかと思う。

 

 二十歳バージョンになったことで、雰囲気が『恐竜惑星』本編時よりもかなり落ち着いているとはいえ。基本的に快活な性格の原作結城萌と比べると、違和感がある立ち振舞いかもしれない。

 

 

 

 が、別に実は彼女が真っ赤な偽物だったとか、そういうのの前フリなんかでは全然ないから安心しておくれ。

 

 これらはあくまで今後の展開を見据えて、テキスト上での明言を避けているってだけのことなので。まぁそれはそれでどうなのっていう意見もあるだろうとは思うが。

 

 

 

「萌さん。大まかで構いませんので、貴女がこれまでに辿った経緯を話していただけませんか」

 

 と、ドライさん。とりあえず判断材料を出してくれってことだな。

 

 胡乱なことばかりが起こり続ける状況下。今の彼女が言っていることを、丸呑みするってわけには流石にいかない。

 

「貴女の救助という名目でこの場にいる我々ですが、周囲の動勢についてはそこまで明るくありません。しかしながら聞く限り、この空間内には何らかの勢力が存在するのですね。意思疎通が可能な、少なくとも、一貫して敵対するばかりでないコミュニティが?」

 

 その通り、と萌さんが肯定。

 

 そんでもって彼女の口から、ここに至るまでの具体的な流れが語られるのだ。

 

 

 

 

 

 

 萌さんの体感時間だともう、一月近くも前のこと。

 

 三畳紀後期の局所性エラー現象――ちなみにそのときのボスは、当時隆盛を誇った[クルロタルシ類]の中でも最大級のプレデターである[ポストスクス]だったらしい――を解決した直後。バーチャル世界側から行われるオート帰還処理が、何故だかうまくいかなかった。

 

 ジーン・ダイブの転送中に突然視界がグネグネにうねり。虹色の閃光とともに、一瞬意識がフラッシュ・アウト。

 

 

 

 そうして、気が付いたときにはこの雪被る樹林に降り立っていた。

 

 

 

 外部オペレーターとの通信も途絶し、孤立無援。それでも、歴年たる彼女はこの手の緊急事態に慣れっこだったため、リカバリーは早かった。

 

 転送先での状況把握もそこそこに。今回の偵察チームが如く、周辺の確認のために慎重に移動を開始する。

 

 

 

 やがて、さっきと同じ巨人複数体とやりあっている、見知らぬヒトらしき集団を発見することに成功した。

 

 大振りなハンマーもどきを振り回す髭面の偉丈夫が一人に。彼より体格がかなり見劣りする男女二人の三人組だ。

 

 

 

 前述のとおり、巨人たちの見た目はあからさまな異形である。それに対して、主に分厚い麻布と毛皮で繕われた古代人じみた身なりではあったものの、三人組の側は恐らくヒト、同種族。

 

 その二勢力が樹林の中の開けた場所で争っている。しかも、男女二人は見るからに戦力外といった様子で、ほぼほぼ巨人と偉丈夫との多対一。

 

 後者が劣勢、追い込まれつつあるのが明らかだった。

 

 

 

 と、いうことで、偉丈夫とおまけ二人側に立って横やりを入れた。

 

 事情もよくわからないまま、武力介入することに対する躊躇いはあったらしい。しかし引き続き場のエラー症状は継続している、つまり眼前で繰り広げられているのは正常なバーチャル世界での種族間抗争ではなくて、単なる「実体のある現象」にすぎない可能性が高かった。

 

 そのため、あんまり慎重になりすぎる必要もないだろうという判断をした。とのことだった。

 

 

 

 対巨人の初戦闘において、萌さんはさっきのごとく大車輪の活躍。

 

 即席のチームワークで巨人たちを仕留め終わった後。両手を鷹揚に掲げて近づいてきた偉丈夫から、勝利の立役者としての称賛と歓迎を受けた。

 

 

 

 おお、勇猛たる戦乙女よ、云々。そのまま彼らの拠点に連れられ、引き続き偉丈夫の仲間や主君、従僕たちからも盛大に歓待される。

 

 

 

 ただし、助勢した三人組にしても、拠点における他の人々にしても。萌さんの目からすると、誰も彼も、何もかもが、どことなく「設えられた」ようなものだった。

 

 血の通った交流ではなくて、現象の観測。あるいは、本来そこにあるべきシステム的な作用が、別の形で実装されている、埋め合わせじみた代替物。

 

 

 

 その後の萌さんは一介の協力者として「拠点」内に仮宿を持ち、外敵退治を手掛けて来た。しかしながら彼女と連中との間には、未だにどことなく一線が引かれているらしい。

 

 

 

 

 

 

 そして、つい先ほど。拠点の首領である隻眼の老人から、不審な空飛ぶフネの到来が知らされた。

 

 首領はワールド6冒頭で画面端を過ぎったあの二羽のワタリガラスを通して、紫色に光る穴。タイムホールから現れたティモシーⅡのことを見ていたんだそうだ。

 

 ようするにあの鳥公は、彼が操っている生体ドローンのようなものだったんだな。

 

 

 

 空飛ぶフネ。この閉ざされた世界の内側に、元よりそんなものは存在しない。

 

 救援、ないし、自分と同じくこの空間に巻き込まれた『外部利用者』の誰かであることが、萌さんには容易に想像がついた。

 

 

 

 普段遣いの移動の脚として首領から借り受けている天馬にまたがり、教わった方角へと即急行。すると、ちょうど戦闘中の我らが一行を上空から目撃することとなった。

 

 その場でピンチに陥っていたフィラを救うべく。飛び入りの突撃を敢行した挙げ句、現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 萌さん自身の話に加えて、ゲーム内用語辞典(ライブラリー)の項目なんかも交えると、だいたい以上のような経緯だったらしい。

 

「結局、どこか素っ気ないギブ・アンド・テイクってやつなのよ。これまでに私が、この場所で手掛けてきたことは。……たぶんね?」

 

 「拠点」コミュニティとの関係につき。少し寂しそうな笑みを浮かべて言い表してみせる。

 

「正面切って敵対してくる、さっきの巨人みたいなのを退治する。もしくはそのための手助けを行う。『彼ら』にとってのGiveっていうのはそういったことで、こっちの行動があちらの役に立つ限りにおいて、向こうも相応にTakeしてくれる。そんなカンケイが出来上がっているってわけ」

 

 

 

 萌さん自身という一戦力を提供し、見返りとして物資の補充、衣食住の確保。怪我の治療などを頂戴する。

 

 例によって説明にはファジーさが拭えないし、なんだか無闇やたらにシステマチックな感じもする。

 

 メタ的な意味でゲームじみてるとでも言うべきか? それでもまぁ、ある種の利害の一致が背景にあるんであれば。萌さんと現地勢力との関係性については、聴取する側としても、それなりに確度があると見て構わないんだろう。

 

 

 

「そのヒトらしき一団ですが、我々と同様の、バーチャル世界に囚われている外部利用者の一派である可能性は低いと見られるのですね?」

 

 ドライさんが問う。それを受けて、再び萌さんが首を縦に振った。

 

「少なくとも、私たちと同じ、ホモ・サピエンスのお仲間さんってことはないんじゃないかなあ。身につけた衣服なんかの、いかにも昔っぽい見た目の違和感もあるんだけど……それだけじゃなくって。なんていうか、こっちとやり取りするときの一人ひとりのリアクションが、異様なまでに杓子定規に感じられるのよね」

 

 彼女の右手のひらが、肩を竦めるような姿勢で上向きになった。荒ごと続きのせいであちこち硬くなっているようだが、それでも全体としてはお上品な造りを保った指先のことが見て取れる。

 

「一応、話自体は通じるんだけど。根っこのところじゃ、ほとんど通じてないっていうか?」

 

『簡易にシミュレーションされた、低品質な模擬人格ってあたりなのかな?』

 

 と、アッケラ缶。

 

『ボクたちと同じく人工知能の一種ではあるケド。割り当てられた処理能力が少なすぎるせいで「それっぽい」やり取りしかできないタイプ。確かに萌ちゃんの言う通り、局所性エラーによって生じた「実体ある現象」の傾向と、ある程度符合している部分がありそうではあるねェ』

 

「でしょう?」

 

『ただマァ、なんで普段と違って敵対性が薄いのかとか、数週間単位で現象全体が継続しているのはどうしてかとか。依然として腑に落ちない面も少なくはないかなァ……』

 

 

 

「それでも、互いの帳尻が合う分にはちゃんと協力してもらえるみたいだし、実際にこれまで、私自身色々とお世話になってる」

 

 萌さんがそうはっきりと主張する。言い募るでなく、言葉を濁すでもなく。

 

「心から信頼を置けるかはともかく、当座の頼りとするには十分なお相手。だから、フィラの治療のために手を借りるくらいならそこまで問題はないはず。そういう判断からの提案というわけ。……どうかしら?」

 

 ドライさんが数秒考えるそぶりを見せる。そうして、彼のシリコンベースの頭脳が直ちに結論を導き出す。

 

「分かりました。信じましょう」

 

 

 

 行き先修正。方針決定。今のところ懸念材料は怪我人ひとりのみで、それも即座に命に関わるってレベルじゃない。

 

 となれば、多少リスキーではあるだろうが、取りようのないリスクってほどではないだろう。

 

 元より周囲の状況確認が任務内容だったんだから。未知の集団との接触という小目標は、当初の目的にも沿っている。

 

 

 

 てなわけで、ドライさんからの指示が定まった。さっきの任務切り上げ判断自体を覆し、一同揃って萌さんの言う「拠点」に向かってみようということだ。

 

 ワールド6-1、これにて閉幕ー。

 

 

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