恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します 作:あーぷ
「『将来の夢は、宇宙飛行士』!
いいわねえ。かっこいいじゃない。先生も、応援しているわ。
……えっ? 『三年後の中等学校からは、文武の両方で毎年結果を出し続ける』?
『その成績を裏付けに、高等学校で特待推薦を取って、王家直下の軍学校に入学したい』……。
『軍学校でも成績上位を維持し、二年次からのコース選択では、パイロットコースの優先権獲得を目指す。そこで大型機械の取り扱いと工学系技術を身につけながら、並行して、
幅広い知識なしには、やっていけない仕事のはずだから。それに、ふつうの将校という枠組みからわざと外れてみせることで、自分自身の展望を、内へ、外へ、分かりやすい形でアピールできると思うから。
カリキュラムを終えた後は、なるべく「接続点」に近い場所への赴任を狙う。なぜなら国際宇宙ステーションとの繋がりを作るために』……ええっと。
あの、あなた。他の子たちと比べて、ずいぶんしっかりとした青写真を持っているのね。
別にこの作文は全然そんな……ううん。もちろん、ダメっていうことはないのよ?
目標がある、のは良いことよね。ええ、とっても。それが素晴らしいことだとは、先生だって、ちゃんと思っているのだけれど――」
「……しっかし、勿体ないよなあ。今どき生身で宇宙だなんて。実際、最先端の華々しさからはとっくに程遠いんだろう?
こないだ読んだ一般向けの科学ジャーナルによると、コアな仕事のほとんどは、既に人工知能とメカニクス任せで賄えるようになっているってことらしいし。
人間の主な役目はトラブル・シューティングというのが、最近のトレンド。……そう言うとまだ聞こえはいいけれど、実態としては単なる掃除夫であり、修繕人。ようは雑用に過ぎないってことで、他ならぬキミにしてみれば、明らかに役不足が否めない。
それでも、まぁ。旅人やら、冒険家のたぐいに、何故を問うのもナンセンスってものなんだろうがね。
諸々の事情、承知の上ですらなお行きたい。行かざるを得ないだけの、ジックリ煮詰めた難儀な想いがあるらしい。
そうしたキミの性分に対して……一介のクラスメート如きがつべこべ言っても。今さら思い直すハズもなし、か。
せいぜい、不慮の事故に巻き込まれてあえなく頓死。なぁんてオチにならないように、身の回りにはくれぐれも気をつけてくれよ?
この学校でキミと、三年間を競り合ってきたんだ。今になってみれば良い思い出。とはいえ、散々スコアを積み重ねた挙げ句に勝ち逃げされたら、こっちとしても正直、たまったもんじゃあないからな」
「五日後、当地時刻のヒトヨンマルマルより。貴官を特任操縦士として、接続点近傍基地、第二宇宙技術部門、第六惑星衛星探査部への配属を命ずる。
スケジュールに変更在り。これより直ちに身辺整理を行いたまえ。本日午後の訓練には不参加でよい、ID等の更新については、即日中に庶務課にまで出頭のこと」
「ねえ、センパイ。
もし、今ここで、私が。玩具を買ってもらえない子どもみたいに駄々をこねて。あなたに行かないでって泣き喚いてみせたら、少しは思い直してみてくれたりなんか、しませんか?
……あはっ。冗談ですよ。ちょっと、困らせてみたかっただけ。
あなたには色々とご迷惑をお掛けしたけれど、この私からだって、今の今まで、それなりにお世話を焼いてきたって思ってますので。
目の前の薄情者に、このいよいよというところで、チクリとだけ一刺し。どうです。なかなかの手際だったとは、思われませんか?」
……ふーむ、なるほど? リックくんのキャラビルドに対応して発生する、フラッシュバックもどきの傾向性はだいたいこんな感じなのか。
ゲンゴロウの後部ハッチからタイタンの地表に降り立ち、クラーケン海の周囲に広がるモノクロ景色を探索中。今みたいな感じで、合間合間に小イベントが挟まってくるのだった。
画面上の表現としては、ステージ内での敵出現が途切れた小休止的なタイミングで、リックくんの脳裏に謎のノイズが走る、みたいな?
イベント発生のポイントを踏むごとに突発性の頭痛。彼の表情が顰められ、一時的に画面が暗転する。その後白文字のテキストが、ボイスとともに、画面の右から左へ流れていくって感じである。
「それはそうと。あの子のことは、どうすんの。
軍学校のスケジュールは毎日が分刻みだって聞いてる。これまでの基礎教育過程や、通常カレッジのお気楽さとは全くの別世界が待ってるんだろう?
一旦入校したら最後。キミが
……オイオイ。はぐらっかすんじゃあないよ。
一個下のさァ、向こうさんだって、満更でもないってふうだったじゃないか。学祭のとき、二人して良い雰囲気になってたのを忘れたとは言わせないぞ。
掘る前にはまず固めよ。巣壁が崩れちゃ元も子もなしだ。前もってちゃんとケリを付けておく方が、恐らく、予後が良いんじゃないかって気がするんだけど?」
『――と申します。乗り継ぎのご案内を担当させていただきます。プグラシュティク国軍、外惑星探査チームの方々ですね?
……はい、たしかに。それでは短い間となりますが、みなさまよろしくお願い致しますわ』
「それじゃ、センパイ。またお会いしましょう。
もし、全部が全部順調にいったら、五年か、六年で帰ってこられるんでしたよね。
行き帰りは、冬眠。代謝は落ちるけれど、眠っているだけの身体だから、しっかり年齢は重ねてく。
帰ってきたあなたに、私から先輩風を吹かせることはできない。次に会えたときも、あなたはやっぱり、センパイのまま。
……でも、きっと。その頃には、私もとっくに身を固めちゃっているだろうから。
もう、こんなふうに会う形にはならない。なれないだろうから。
そーうですねぇ。大事な、友人のひとりに、贈る祝いの品。土星のリング産の鉱石をあしらった、一品物のペア・アクセサリーなんてどうでしょう?
あの大リングの構成物質は、ほとんどが水の氷だったと思うけれど。中にはいくらか、岩石衛星由来の鉱物だって混じっていたはず。
あなたのせいで、私も。すっかりこういうコトに詳しくなってしまいました。ケイ素化合物ってことだからぁー……クォーツに。ジルコーンに。オリビン? 一応、オパールなんかもありえるのかなぁ。
ジュエリー用としてのお値打ちはいまひとつかしら。
だけど、たとえコモン・オパールだって、外惑星からのお土産なら希少価値。箔が付きます、ぜったい。
くださいよー。……えぇ~。いいじゃないですか、ちょっとくらい、頑張ってくれても。
期待するな? ヤです。また、五年後、期待、してますからね!!」
なお今回のリックくんバージョンと、実況前にプレイした1stキャラのときの会話文とを比較してみる場合。やり取りの相手方の属性が、バックグラウンド・レベルで違ってる箇所がいくつか見られるような気がする。
リックくんバージョンで出てきたメンツは、察するところ前から「初等学校の先生」「高等学校のクラスメート」。「軍学校がらみ」に「道中の案内人」、そして一番長いのが「一つ年下のガールフレンド」ってあたりかと思うが。
1stキャラのときだとこのリストから幾つか削れて、その代わりに「異性の同僚」とか、「同じ部族の仲間たち」みたいなカテゴリが入っていたはずだ。
おそらく選択種族に加えて性別や年齢など。キャラクリ時のスライダー割り振りによって規定されるプレイヤー・キャラクターのパーソナリティに対応し、事前に自動生成で作ってあるパターンのうちから一定数がチョイスされる。そんな形で、出てくるメンツが決定されてるんだろうけど。
前述のとおり、自キャラがプグラである場合、『ジーンダイバー』劇中よりも更に未来の世界から来ているケースとなる。
おかげでわりと
良くも悪くも、相互間のやり取りが、我々にとっての身近な情緒に寄り過ぎちゃってる感じがあるな。
この点については、わかりやすさと雰囲気作りとのトレード・オフってなところかねえ。
あ、ちなみに。今の対話イベントの登場人物だが、原作キャラを除き、ちゃんとしたグラフィックとか一切作られてないんで悪しからず。
要するに台詞オンリー存在です。一応、一人だけ似た見た目のキャラクターがゲーム内に出てくるんだけれど、その人にしたってホントにビジュアルのみに限られる。
ご本人との直接的な関連性はまったくない。したがって「ゲーム内にこの人たちは存在しない」って言い切ってもまぁ、概ね問題ないんじゃないかと思われる。
「……おめでとう。誇りたまえよ、准尉。
謙虚さは美徳とはいえ、過ぎれば嫌味になりかねないものだ。
今後、謗るものも少なからず出てこようし。騎士団を預かるこの身としても、見込み有る若人を取り逃すことを、残念に思う処が無いと言えば嘘になるがな?
それでも、長きにわたる貴官の努力が、実ったことには違いない。
ただ、それを成し得たというだけで。貴官には、手放しの称賛を受けられるだけの価値があるのだと。
以前に翻意を促した人間からの言葉では、ひどく白々しく聞こえるかもしれないが……今ではそう思っているよ、このわたしもね」
「……。
……はぁ。
あーあ。勿体ないことしちゃったなあ。……私ったら、バカみたい」
◆
ワールド7-1に敵として出てくるお相手だが、概ね、中生代古生物の詰め合わせセットといった風情である。
土星系第一衛星、タイタン。その地表におけるスポットのあちらこちらから、モノクロベースの大型有機生命体らしきものどもが、文字通りポコポコ湧いて出てくる。
それに対してこっちが応戦を迫られるっていう、一見してマァ意味不明な流れが一頻り繰り広げられるのだった。
そして、本ステージのボスに充てられていたのがティラノサウルスだ。
もはや懐かしきワールド1-6。隕石落着間際の白亜紀末期北アメリカでもボスキャラを勤めた群れのリーダー、『恐竜惑星』本編でラプターが誇り高き戦士と称賛し、首狩りの獲物とするを拒んだあの一頭と同クラスの個体だな。
なんでココでティラノなんだよって感じは無論否めないが、さしあたって中生代らしさだけはあるチョイスとは言えよう。
ってか。周辺の地形や他の敵同様に白黒ツートンカラーなことを除くと、モーションも、行動パターンのアルゴリズムも、1-6当時の彼女と何ひとつ変わるところがなかったりする。
ステータス嵩上げしただけの良くあるコンパチだ。なもんで、ボス戦の展開は至って危なげないものだった。
ティルとナオーの援護を背後から受けつつ、リックくんを正面から雑に突っ込ませ、安定コンボをひたすら連発する作業プレイでカタが付いた。
いくら単発火力がワールド7相応に高まってようと。動きがワールド1基準じゃあ、当然当たるもんも当たらない。
それにこっちだって、いい加減プグラの動かし方なら板についたもんだ。余裕余裕。
白目をむいて横倒しに崩折れるT・レックス。その後、体長15メートルの巨体が、灰色の砂のようになって地面の岩肌へと溶け込んでいく。
「……収まった、か?」
ボス個体の完全消失を見届けた後に。ティルが油断なく構えていた右手のドリルをすっと下ろした。
いつものエラー発症生物とは明確に異なった末路だった。とはいえこの場でこれまでに倒した他の雑魚や中ボス個体も同じ消え方をしていたから、その点はもう今さらな話だな。
『そのようだな。とりあえず、後ろのゲンゴロウを起点にした半径250メートルに、お前たちに向かってくる中サイズ以上の熱源反応は存在しない』
と、インカム経由で虎哲が告げる。
『野生動物ってか、中生代の地球型生命体を模した今の動的集団に関しては、一通り駆逐できたと見て良いだろう』
それを聞いて、やや後ろで構えていたナオーも。上げ筒にしていたブラスター・ガンを片手で揺らすと、軽妙な動作で太もも脇のホルスターへと仕舞い込んだ。
「オーケー。お疲れさん」
これにて戦闘終了ってな感じかね。リザルト画面を挟み。ステージ後の演出シーンへと、そのままシームレスに移り変わっていく。
『しっかし、なんだなあ。今のはまるで、オイラたちに対して探りを入れてきていたような感じだった』
「探り、ねえ」
シーン冒頭で口火を切った虎哲に対し、ナオーが応える。言われてみるとたしかにそんなふうだったかもしれねえな、と。
「激しさっつうか。密度っつうか。俺たち三人ならどうとでも捌けるくらいの範囲に、あちらさんの勢いが、意図的に絞られてたってことだろう?」
『ああ。単に相手方の物量の多寡以外にも、普段のエラー発症生物と比べて、各個体が妙に連携を取っていたってこともある』
「あの露骨なやつか。上から下から、波状式」
『うむ。初っ端のディロングと、そのすぐ後の[ディモルフォドン]が、陸空のコンビネーションを決めてきたあたりが典型例だな。前者が白亜紀前期、後者がジュラ紀前期。生息時代からして、まったく異なった二種であるにも関わらずだ!』
念のため、御浚いしておくと。ボス敵のティラノちゃん様がお出ましになるまでに、順番にお出でなすったメンツはだいたい次のような感じだった。
まず始めに、地上に降りた途端、近くの茂みモドキから飛び出してきた白亜紀前期(1-1)のディロングの群れ。
出現する順番については多少前後するが、他にもジュラ紀後期(1-2及び3)からアロサウルスが二頭。ジュラ紀前期(1-4)からは古典的名作ジュラシック・パークの頃とはすっかり復元図の変わった[ディロフォサウルス]と、虎哲の言にも出てきていた、古い分類で言う[嘴口竜亜目]に属する初期の翼竜ディモルフォドン。
白亜紀後期(1-5及び6)より、ディプロドクス科に近縁な竜脚類ティタノサウルス科の[パタゴティタン]がのっそりと。続いてトリケラトプスと石頭恐竜[パキケファロサウルス]が複数体で突っ込んできて、バカでかいサイズのトサカが特徴の中型翼竜、[ニクトサウルス](こっちは[翼指竜亜目]で現役の絶滅目分類名だな)も空から来たる。
そして最後の大トリとして、先ほどのティラノサウルス・レックスのボス個体がご登場、というのが今ステージの流れとなる。
……モデルの使い回しが極まってるよなあ。ワールド1で比較的出来がよかったやつの、摘み食いって感じがいかにもであるよ。
こうしたすべてが相手方から襲ってきたわけだった。WAVE状に複数回殺到される形式であり、今回も一種の拠点防衛型のミッションだったと言えようか。
もっとも、狙われたのはゲンゴロウじゃなくてキャラクター各人。更に裏事情まで言っちまうと、リックくん個人をピンポイントで狙ってたっていう部分は、毛色が異なっているんだけれど。
そのリックくんも、両目の黒い瞳を右側に寄せ、内蔵インカムに向かって何事か言った。
これまでも、またこれからもしばらく。土星圏だと端々で不調というか異常が見られる彼だけれど、一応、頭の回転や身体の動きに支障が出るってほどではないらしい。
ステージ初っ端から切った張ったをやれているんだからまぁ、当然か。リックくんからの指摘を受けて、そうだな、とカットイン中の虎哲が頷く。
『お前さんの言うとおり、物陰からの不意打ちや、周囲を囲んで追い詰めていくなどといった戦術行動は見られなかった。本来考えにくい異種間の連携が為されていた一方で、通常の狩猟行動であれば当然行われているべき、獲物を仕留めるためのシンプルな手管。そのあたりが、さっぱり実践されていなかったってことになる』
ちなみに、先陣を切ったディロングのように、いかにもホンモノっぽく茂みの中から出てきたやつも居るには居た。
他方、体長30メートルを超えるパタゴティタンの巨体なんかは、土中からモコモコと堆く盛り上がってゆくかのような、明らかに異常な出現っぷりを見せてくれていた。
さっきのとおり、倒された後の消え方もこれまでとはエフェクトが違っている。原則的には生物元来の生態に則って動くはずの通常エラー生物とは明らかに、一線を画する。
『総じて、連中は繰り手のいるマリオネットじみた挙動をしていたと言っていい。操ってた側の具体的な意図については未だ見当がつかんが……少なくとも、現状、我々に対して何らかの「試し」を仕掛けてきている可能性が高いと、オイラは思う!』
「ではやはり、いるのだな?
と、ティル。
「ドライが言っていた、バーチャル世界への干渉者。独自の意思を持ち、局所性フラクタライズ・エラーへの横槍という形で水面下の行動を起こしている、何らかの存在が」
これまでの局所性エラーという『現象』とは異なり、先ほどの襲撃に何らかの意思らしきものが存在するというのなら。その意思をわざわざ土星圏くんだりまでやってきた理由、ないし目標と結びつけるのは、至って自然な発想だろう。
『そりゃ、一発ビンゴってまではいかんだろうが、相手の尻尾の先くらいは今のでフン捕まえたんじゃないか』
……隣のナオーが、メットの奥でちょっとばかし怪訝な顔を作っているが。これについては別に今後の伏線とかではないと思う。
たぶん、ちょっとしたフレーバー的演出ってやつだな。確かフィラをこの場で連れていた場合でも、今のナオーと似たような表情になっていたはずなので。
彼らフォロル族にとって「尻尾」は重要な部位である。そのため、虎哲のヒト式用法だと、今の発言は「辛うじて相手の首根っこを掴んだ」みたいな変なニュアンスを感じてしまう、ってことかと。
『ちなみに倒された疑似生物たちがトロケていく様子だが、スネーカーのマイクロ・メカに挙動が似ていた感じだった。従ってこの件に関して、スネーカーが何かしら絡んでる可能性はより強まったと……んッ。おい、ユイ!!』
『えっ、あたし? なぁに虎哲』
画面の右側に先ほどから出続けている、虎哲のカットインの逆サイド。そこにゲンゴロウ内部を正面から移した、もう一つのカットインがポップアップした。
右側がメディア・ステーション内部で浮かんでいる虎哲。左側にはアイ・スーツを着込んでゲンゴロウの操縦席に着いているユイ。
ふたつのカットインはどちらも非対称三角定規のような形状だ。30度で尖った部分を中央に向けたシンメトリーな配置となる。
ポップアップの中身同士で、対話中ってことがビジュアル的に目で見てわかる。
『おう、お前さんだ。今船外に出ているメンバーのバイタル推移を見る限り、やはりアイ・スーツさえ着込めば、活動自体に支障はなさそうではある。しかしだな、お前さんだけは引き続き、ゲンゴロウの外には出ずに、密閉された船内での活動に留まっておくように念を押しておくぞ』
紫色のメット越しに、ユイが怪訝な顔つきを作った。別に寝耳に水ってほどじゃないが、彼女目線で今さら念押しされるようなことかというと怪しい部類だ。
『もとから普段どおり、ゲンゴロウの中からサポート役をやっていくつもりだったけどー……。わざわざ、どうして?』
画面上、二人のカットインの合間に。縦長方形のウィンドウが割り込むような形で表示された。
『こいつを見てくれ。今しがた、こっちで解析が終わったばかりのデータを映像化したものだ』
パッと見、映像の中身は、真っ黒な背景にポツンと置かれたT4タイプの[バクテリオ・ファージ]って感じだが。ファージのヘッド部分が定期的に赤く明滅していたり、全体が規則正しく蠢いていたりと、一個のウイルス本体にしては、明らかに異様な挙動をしている。
データ元は、先の戦闘中にリックくんのドリルに付着した削片サンプルからとのこと。
虎哲の解説によると……この似非ファージが無数に集まってフレームと肉付けを形作ることにより、ステージ中に出てきた恐竜モドキたちが造り出されていたんだそうな。
『要するに、多目的分子機械の群体が、地球産有機生命体の構造や動きを模倣、再現してたってことになる。ハードウェア的な名称としてはナノ・フォグレットってやつに近いだろう。そしてどうもこいつが、スネーカーのウイルス生命体と、同じ技術体系の産物のようなんだ』
「確かに……以前に見たものと、かなり近い形状をしているな」
と、ティルも会話に首を突っ込んできた。ドリル付きの彼女の右手が、メットの頬部分を軽く突付いている。
タッチ操作に対応。現場に出ている三名のアイ・スーツのメット内投影ディスプレイにも、ゲンゴロウ正面モニター内のポップアップ映像と同じものが、しっかり共有されているらしい。
「虎哲。この点滅や規則的な動きは、分子機械同士が連携を取るためのシグナルということでいいのか? スネーカーのウイルスが、感染キャリアの体内で、相互に通信しあっていたように」
『ああ、その理解で大丈夫だ。前にお前さんから貰った、白亜紀末期に用いられた進化介入用のウイルス生命体サンプルは、当時スネーカーに操られてたウチのマザーがまとめて消去しちまったが。発する信号のパターン・データがオイラの側に残っていてな。今回のコイツが発しているパターンと、以前のそれとは、相互通信におけるシグナルの用い方、いわば語彙や文法の共通性に基づき、かなりの確度で言語的な類縁関係があるものと目される!』
……まぁ、虎哲の言うような
ファージの形状ってのはあくまで、正常な細胞に自身の遺伝情報を注入する。つまり標的の細胞をウイルスに感染させるために特殊化したギミックなわけで。
多目的ということは、単独でそれこそ千差万別なシチュエーションに随時対応させなきゃならない。先ほど実演済みの、動いて騒げる大型動物のガワの再現ってだけでも。分担すべき役割の種類は、10や20じゃ効かないだろう。
故に、ベースフォルムは多面体とか、球体とか。もっと応用性の高い形態を取っておくべき製品じゃあないかと思う。
ただ、この点については『ジーンダイバー』劇中で出てきたスネーカーのウイルス生命体と瓜二つにすることで、両者の関連性を分かりやすくしているってことだろうから。いちいち突っ込むのも野暮ってものか。
『ユイ。お前さんの体内も、未だにスネーカー製のウイルス生命体が根を張っている状態だろう?』
虎哲の指摘に、ユイがはっと目を見開く。それから、ええ、そうね、と些か居心地悪げに肯定。
『現時点だと完全に休眠状態になってる。外部への信号も止まっている。特に悪影響はないってことだが、ただ、ちゃんとした管理下にあるってわけでもないからな』
『ジーンダイバー』のエンディング時点で、ユイの体内に巣食ったウイルスの群体生命体は、自律性を獲得する前段階にまで至っていた。
引き続き潜伏。あるいは統合。それとも逆支配? 彼女とウイルスとの相互関係性が、将来的にどのような形に行き着くのかは、未来への謎というかたちで暈されたままだ。
『タイタン圏内で、さっきみたいな大型動物の模倣が形成されており、今後もあちこちで形成される見込みがある。それってぇとつまるとこ、ウイルス生命体の相互通信と似通ったインパルスが、そこらじゅうで飛び回っているってことでもあるわけだ。「似ている別モノ」の近場に居続けると、なにかの拍子でシグナルが混線するかもしれず、それによってお前さんに予期せぬ作用が起こる可能性が否定できない!』
『えぇ~……』
『……まぁ、悪質な電磁波や放射線のたぐいは、アイ・スーツの多層構造で99パーセント以上カットされるから、そこまで極端なことにはならんとは思うがな。それでも外に出た途端、以前にスネーカーがお前さんを座標同定用のマーカー代わりに使おうとしたときみたいに、いきなり体調不良を起こして、ひっくり返ったら目も当てられんだろう? 念のため外に出るなっていうのは、そういうことだ』
『それって、あたし、大丈夫なの?』
ユイの顔には不安の色が浮かんでいる。自分だけがハイリスクで、おまけにリスクの中身はなおも不明瞭とくると、流石にぞっとしないだろうなあ。
『なんていうか、ここに居るだけで危ないっていうふうに聞こえるんだけど。やだなぁ』
『今のはあくまで不測の事態に備えるってたぐいの話だ。ゲンゴロウにも諸々の悪条件に対する防御機構は備わっているし、それに、仮にいよいよヤバそうってなったら、その時はとっととお前さんだけ、ティモシーⅡの医療施設まで直通でジーン・ダイブさせてやるから安心しとけ』
『あ、そっか。これまでと違って、危ないときには、前みたいにジーン・ダイブで安全なところにまで「飛ばして」もらえるようになってるんだっけ』
『その通りだ。幸いなことに、本作戦には、ギラグール基地からの全面的なバックアップがあるからな。これまでのカツカツっぷりと比べりゃ、オイラ単体で扱える処理能力には天と地ほどの違いがある。局所性フラクタライズ・エラーに伴っての、時空間干渉に対する反発効果も起こってないから、お前さん一人飛ばすくらいだったら、全然楽勝だ!』
『不安は不安だけど……それならまぁなんとか、って気持ちで居られるかしら。おユキさんには感謝ね』
そういや、ユイがユキちゃんのことを「おユキさん」呼ばわりするのってココが初だったかもしれない。
古原生代における騙し絵世界、ワールド6でのあれこれが解決してから、なんだかんだで作中だとそこそこ時間が経っている。
基本、萌さん(やアッケラ缶みたいなバーチャル・ステーション組)が司令のことを砕けて呼ぶのが「おユキさん」なので。たぶん、ティモシーⅡ内や各時代の基地で両主人公がコミュニケーションを重ねる中で、彼女に対する呼び方がいつの間にか感染ったってことかと思う。
『全面協力に関しちゃ女司令官個人というよりも、ギラグールとフォロル引っくるめた恐竜人類一派の総意ってことだろうとは思うが、まッ、感謝しといてやるに越したことはないんじゃないか』
ともあれ、相変わらずの虎哲のウエメセ台詞で、この場のやり取りは一旦幕が引かれるのであった。
なお、今後ユイ個人がスネーカーのウィルス生命体の悪影響を受けて、タイタンでどうにかなるみたいなシーンは特にない。
結局、今のやり取りはプレイヤー側に対する状況説明と、ユイ個人がステージ攻略に参加しない理由づくり再びってことだな。タイム・ブースター持ちのヒトとは歩く暴力であるため、しっかりBANしておくぜという造り手側の意気込みを鮮やかなまでに邪推可能だ。
そして、ここまでの流れを見ていれば明らかなように。
領分っていうか、もういっそのこと被害担当っていうべきか?
変な頭痛に伴うフラッシュバック等々。ワールド7のステージごとに、精神攻撃まがいの遠回しな嫌がらせが彼を苛み続けることになるであろー。
……いやあ、可哀想に。涙無しには見れんね。いったい彼が何をした?
現段階だとプレイヤー目線では裏方事情が良く分からんだろうから、なかなかフラストレーションの溜まる展開かもしれないが、まぁ、当面のあいだはご寛恕いただけると幸いであるよ。