恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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素朴な正しさとその欺瞞

 

 

 先ごろにもちょろっと話題に出たけれど、現在序盤を進めているワールド7と、ひとつ前のワールド6。この二つの間って、ある程度の日数が経過した扱いになっていたりする。

 

 

 

 ワールド6、北欧神話モドキ世界の最終ステージにて。「ロキの城」の最奥で炎の巨人と化したロキ本人を撃退。その後、22億2500万年前のエラー空間からもほうぼうの体で脱出を果たした。

 

 

 

 その時点から見て今回のタイタン探査が実施されるまで、地味に時間が飛んでいるんだな。

 

 具体的に言うと、ゲーム内キャラクターの体感でだいたい数週間から一ヶ月。それくらいの期間が空いているって塩梅である。

 

 

 

 なんでか、というあたりを詳らかにするために。ワールド6終盤のくだりを少々振り返っておくことにするか。

 

 リックくんというプレイヤー・キャラクターの、裏事情めいた匂わせ含めて……現状把握のための、解説がてらってなところで。

 

 

 

 あのあたりはわりと一気呵成で進めてしまった。そのせいで話運びの細かなところが、だいぶんおざなりになっちゃってたからなあ。一応ここはフォローしておくべきかと。

 

 

 

 

 

 

 ワールド6最終ステージは、全体通して迷路探索めいたところがあったと言える。

 

 他ならぬ「ロキの城」のマップ構造が、入り組んだラビリンスのようになっていたからだ。

 

 

 

 窓や吹き抜けなどがほとんどない、閉鎖的な通路やフロアのマップチップをたくさんたくさん繋ぎ合わせる。「城」の3Dマップは概ねその手の建築様式で組まれていた。

 

 単純に床面積だけで言えば、城どころか都市城塞とすら言い張れそうな大規模建造物だった。

 

 

 

 内装は総じて濃い紫色を基調としており、どうも『恐竜惑星』劇中の、ギラグール本拠地に雰囲気が似せてあったんじゃないかと思う。

 

 実際、マップチップの多くがワールド3ロビーのジュラ紀後期ギラグール基地、ないし最終ステージのギラグール本拠地からまんま流用。加えて道中流れていたBGMにしても、『恐竜惑星』本編で、ギラグールサイドの描写時に用いられていた曲のアレンジ品だったはずである。

 

 

 

 恐らくフォロル都市類似のアスガルド円形都市と、対比するって名目によるものだろうなあ。このへんについては。

 

 味方の拠点と敵方の拠点。それぞれが例によって、原作からのオマージュ要素でツギハギされていたというわけだ。ただ見た目が似てるってだけで、直接的なつながりが皆無な点もリューネの都と同様である。

 

 

 

 

 

 

 神話本来の設定に倣い、千里眼を持つヘイムダル神の先導(ナビ)を受けつつ。ラビリンスに挑む。

 

 正面エントランスからスタートし、合間合間に戦闘を挟みながら、じりじりと深奥へ向かって踏み込んでいった。

 

 

 

 道中の雑魚については、巨人やドラウグの他にも、毛むくじゃらの[トロール]とか。半透明の上半身が宙に浮かんでいる人型の[ウィスプ]あたりも混じっていた。

 

 もうなんか、古生物要素どこ行っちゃったのってメンツ(一応こいつらにもしっかり古細菌特化武器の割合上昇分が乗るとはいえ、だからどうしたって感じだな)な上に、どいつもこいつもアセット産で既視感たっぷりな代物だが。まぁ今さら言うまい。

 

 

 

 あっちでうろうろ。こっちでぐるぐる。

 

 三歩進んで二歩下がるってな具合で、迷路を踏破していきまして。最終的に、アッケラ缶が逐一書き足してくれてるって設定の地図上表示で見ると、中央付近の大フロアまで辿り着く。

 

 

 

 

 

 

 背の高いアーチ型の南入り口を潜ると、周囲の雰囲気が大きく変わった。

 

 中央フロアはさながら、社交界のダンス・パーティでも開かれそうな正方形の大広間だった。

 

 道中よりも全体的に赤みを増した床や壁材に、彫り込み式の細かな装飾が少なからず。あちこちにアクセントとして用いられている濃い赤紫のガラス張りも相まって、毒々しくも鮮やかだ。

 

 

 

 そのくせ、引き続き外を見通せる窓などはなく。代わりに、大理石じみた滑らかさのあるフロアの底面には、淡白くくすんだ水晶のかけらが、夜空に浮かぶ星々のように。大小様々埋め込まれ、散りばめられているのだった。

 

 

 

 閉じた宇宙の限られた広さを思わせる。また、天井の際立った高さから、ギラグール拠点における「宇宙の眼の間」の名残も窺える。

 

 光円錐のその内側。そんなロケーションの中央で待ち受けていた、浅黒い肌をした鋭い目の男。

 

 

 

 トリックスター・ロキが、出会い頭の悪態もそこそこに、炎の巨人――これまで出てきた巨人と比べてもそのサイズは段違い。スネーカーの強化戦闘実行体すら上回る、体高15メートルクラスである――へと変貌する。そしてそのまま巨人相手の大ボス戦へと雪崩れ込む。

 

 

 

 

 

 

 ボス戦自体は、凡そセオリーどおりに推移した。

 

 燃え盛る両腕を振り回したり、全身に炎をまとって突進してきたり。相手の大ぶりな攻撃の後に生じる硬直に対し、すかさずコンボを入れては離脱するって感じのヒット&アウェイだ。

 

 

 

 炎の巨人自体はそう厄介なボスじゃない。しょせんは人型なので動きが読みやすいのと、当たり判定なんかも至ってマトモな作りになっている。おかげで理不尽に引っかけられて大ダメージ、みたいな惨状が起こりにくい相手であるため。

 

 

 

 そのへんについてはアセット産の美点だな。自動生成品にありがちな「雑さ」がない。それ自体は掛け値なしに良いことではあるだろう。

 

 

 

 それでもなんだかんだ食らうときは食らうし、ボスらしく一発ごとのダメージも痛い。他のNPCにタゲが向いているあいだに、適宜回復を挟んでいく。

 

 逆にNPCのライフが削れているときは、積極的に殴りにいってヘイトを稼ぐ場面(一度ならずミスって、ユキちゃんがジーン・ダイブ待ちに陥っていたシーンがあったような気もするが、見なかったことにしましょう)もあった。

 

 一定間隔で使ってくる、放射状炎ブレスのAoE避けも忘れずにだ。

 

 

 

 そうして、戦闘終了後。リザルトの確認をまたぎ、ワールド・コンプリート後のムービーシーンのなかで。

 

 ヒトサイズに戻った満身創痍のロキと、ヘイムダル神との間で、しばし舌戦が繰り広げられることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「苦行に身をやつし、幾たび、山のいただきに岩を持ちあげようと。そんなものはすぐさま転げ落ちて、元の木阿弥になっちまうものさ」

 

 大広間の奥まった部分は、さながら演劇の舞台のように。だいたい成人男性の肩くらいの高さまで、一段上にあがったレイアウトになっている。

 

 ボス戦で撃退され、燃え尽きて炭みたいになっていた巨人が元の姿に戻ったとき。ロキは、その舞台上で横向きに蹲っていたのだった。

 

「たとえ、どれだけ飛躍を積み重ねたとしても。どこの何者であろうが、真に何かを『成し遂げる』ことなぞ出来やしない。……個体の死によって生じる、秩序性の喪失は、不可逆なものなんだから。己の屍の先に、己が意思を継ぐものがいるだなんて、総じてご都合じみたマヤカシでしかない」

 

 よろつきながらも立ち上がる。そして舞台の前方を見下ろすようにして、プレイヤー側……ていうか。ナビ役兼味方NPCとしてボス戦にも加わっていたヘイムダル神に向けて、苛立たしげな口ぶりで、口上を述べだしたわけである。

 

 

 

「それでも、なお、我々は抗う」

 

 鎖かたびら混じりの麻服をまとった長身の伝令。光の神たるヘイムダルが、並び立っているリックくんたちを掻き分けて、前へと進み出る。

 

 そして、彼自身も舞台の上に飛び乗って、ロキに真正面から向かい合い。宣言する。

 

 反抗の精神を。重みのある声色で。

 

「貴様のように、虚無的な快楽主義に身を委ねるようなことはしない。そしてまた、賢しらな教条(ドグマ)に傅くつもりもない。それは堕落であり、欺瞞だ。言葉遊びに興じることで、己自身の残酷さを看過し、ただ、逃げを打っているに等しいものだ。我々は、抗う」

 

 

 

「フン! 預言者ぶりやがって。欺瞞だと? その言葉、お前にそっくりそのまま返してやるよ!!」

 

 後へと続く真核生物の原型たるヘイムダル古細菌と、ひと世代前のその他アスガルド古細菌。中でも取り分けメジャーなロキ古細菌との分岐学的関係性に、オーバーラップさせながら。

 

 元ネタたる北欧神話のクライマックス。すなわち、神々の黄昏(ラグナロク)の場における両者の相討ちという結末へと繋げてゆく。そんなストーリー上の算段だったんだろう、たぶん。

 

 

 

 

 

 

 文壇論争じみた舌戦がしばらく続いた。終いには是非もなしと、それぞれが剣を抜き放ち一対一の決闘へと至る。

 

 両者が構え合ったまま勢いよく歩み出て、光の剣(グラム)ロキの炎剣(リーバティン)とが交錯する。

 

 

 

 まさしく演劇の一幕だった。神話本来のオチに則り、ヘイムダルとロキ、互いを互いが貫いて果てた。

 

 

 

 そのまま、倒れた二人の身体が、舞台上から掻き消えていった。

 

 局所性エラーの解消音も束の間に。後には、舞台下の広間側に居たリックくんと、他二名だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 味方だったヒト一人が致命傷を負い、大した間もおかずに消滅してしまった。

 

 そんなショッキングな光景にも関わらず。キャラクター一同、怪訝というか、身構えたような姿勢と表情とを崩さずにいたように思う。

 

 

 

 元より彼らバーチャル世界の観測員と、この神話モドキ世界の住人の間にはミゾがあった。

 

 動作や受け答えが妙にパターン化されている。固有の人格というよりも、一個のオブジェクトのような印象が連中には絶えず付き纏っていたから。

 

 

 

 そのせいで、眼の前で繰り広げられた顛末を鮮明な事実として捉え難く。それこそ舞台劇の終幕めいた、非現実的、また何かしら裏があるフィクションのたぐいとして、受け止められたってことかと思われる。

 

 

 

 ……つーか、単にこの場に連れてくるメンツを間違えてたって部分もありそうだな。

 

 萌さんだけはここの連中と数ヶ月ほど関わりがあったんだから。彼女がこの場に居れば、それなりに絡みも発生したんじゃなかろうかと今思えば。

 

 ユキちゃんとドライさんなんか引っ張ってきてる場合じゃなかった。人選ミスった。

 

 

 

 しかしまぁ、ぶっちゃけ炎の巨人って、近距離戦の間合いにいるキャラクターに対し、定期的に付与される炎のスリップダメージが多少ウザったいってくらい。

 

 ワールドごとのラスボスの中では平均やや下に位置する御方なんで、NPCメンバー最強として名高い萌さんは間違いなく過剰戦力だろうと。ステージ侵入当初はそんなことを考えてた、ような気もする。

 

 

 

 

 

 

 残念ながらそのあたりはもう、記憶(ログ)にございません。

 

 

 

 とにかく、しばしの静寂。ややあって次に、城全体がだんだん震えだす。

 

「…撤退せよ!」

 

 その場で一番階級の高い人間。本プレイだとユキちゃんが振り向きざまに指示を飛ばした。ドライさんとリックくんが、揃って視線を彼女に集める。

 

「至急艦へと戻り、時空間転移に備えるのだ。急げ!!」

 

 彼女が命を下すが早いか。城全体の震えがにわかに勢いを増し、そのままいかにもな崩壊の序曲と化した。

 

 

 

 主を失った「ロキの城」。北極海は[ガッケル海嶺]、その底にそそり立つ熱水噴出孔群をモチーフとした、無骨な外観が崩れてゆく。

 

 その騒乱のさなかを、一行は出口に向かって駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 そんでもって、残念ながらというか。やっぱりねっていうか。帰り路については順風満帆とはいかないわけだ。

 

 崩れ行くラビリンス、往路でも目立っていた大きめの直線通路を、我らが三人組が走り抜ける。

 

 一行がその通路の半ばあたりまで来たところで。しんがりを務めていたリックくんが危険を察知し、斜め後ろへ飛び退いた途端、直前の彼の進路へと、脱落した天井の硬材が雪崩を打って降ってきた。

 

 

 

「リックさん!! ……くッ」

 

 二番目にいたドライさんがとっさに振り向く。『汎用変形・緊急回避』のモーションを流用。全身を平たいシャクトリムシのように変形させ、後続の瓦礫の群れを跳ね除けようとするも。

 

 質量差がありすぎて如何ともし難いことを追って見て取り、変形を取りやめ、カニ型の戦闘形態へと逆戻しになった。

 

「おのれ……ッ!」

 

 先頭を行っていたユキちゃんも踵を返すが、時既に遅しだ。通路後方は今や瓦礫の壁と化し、完全にリックくんだけが分断されてしまっていた。

 

 

 

 壁ごしの状況確認に対し、リックくんからの手短な応答こそあったものの。物理的な打開手段は、壁の裏表のどちらにもない。

 

 そしてエラー空間の解消に伴う城の倒壊も、継続、かつ悪化しつつある。

 

「目立った外傷なし、しかし合流はできんか。…やむを得ん、そちらは別ルートを見出し、独自に帰投を試みよ!」

 

 瞬発的な判断とともに、ユキちゃんが叫ぶ。まぁ、この場に留まる時間が長引くほど、危険度爆上がりなのは誰が見ても明らかな場面ではあろうさ。

 

「貴様の爪が、鋭く食い入らんことを!!」

 

 そして自分たちは駆け出しつつも言い残すのだった。瓦礫の向こうのリックくんへ。言葉の意味合いとしては、幸運を祈るってな感じかね。

 

 

 

 

 

 

 それ以後しばらくはリックくんの単独行と相成る。

 

 プグラシュティクの人並み外れた跳躍力で跳んだり避けたり。崩れゆく城内部を、なんとか先へと進んでいくわけだけれど、どこまで行っても生身のヒト一人でできることには限界があった。

 

 

 

 闇雲に進む中で、体力ばかりが無為に削られ。しかし彼には正しいルートが分からない。やがて手詰まり、完全に行き場を喪ってしまった。

 

 

 

 ああ、絶体絶命。脱出ムービーに良くあるタイプの危機的状況まっしぐらだぁー。……みたいなタイミングで。

 

 

 

『……たいむほーるダ。コッチデ、たいむほーるヲ開クヨ、りっくサン!!』

 

 何者かが、アッケラ缶を外部からクラッキング。いかにもな棒読みセリフで、そんなふうなことを喋らせるんだな。

 

『いちカばちカダケド、トニカク、ヤッテミル! りっくサン、がれきカラ出来ルダケ離レテ、シッカリ身体ヲ固定シテ!!』

 

 ……いやまぁ、彼がクラックされたって判明するのは後ほどなんだけどもさ。

 

 

 

 ともあれ、いきなり言動がおかしくなったアッケラ缶が、類まれな自主性と自己犠牲精神とを発揮。リックくんを危機から救うっていう唐突な展開が繰り広げられるのでありました。

 

 その際のセリフの棒読みっぷりが中々愉快な出来栄えだったため、ネタ的な意味での人気が高かったりするんだが。それはまた別のお話だ。

 

 

 

 ムービー中の画面が、バーチャル・ステーション側へと一時的に切り替わった。クリスタルめいた結晶のらせんを背景に、アッケラ缶のボディがメタリックに輝く。

 

 あっけらぁー、かぁーん。どーん!

 

 原作のタイム・ホール起動シーン、後期型バージョンがレトロな絵面で再現される。

 

 淡黄色に光り輝くヒト文明式転送ゲートが出現。リックくんの全身を、一瞬ですっぽりと包み込んだ。

 

 

 

 ゲートが閉じ、彼が古原生代リィアキアンのエラー空間から掻き消えた直後。ひときわ大きな崩落が発生し、元いたあたりはすっかり埋もれてしまい。そのまま、画面は何一つ表示されない真っ暗闇となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 画面切り替わって、前期白亜紀のフォロル基地。

 

 エアポートの片隅に、タイム・ホールが開ける。

 

 

 

 コンクリで固められた地面の上に、ひとり五体満足で降り立ったリックくん。と、いったところでムービーシーンが終了だ。

 

 ワールド6のリプレイ、ここまでー。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「ねえ、ピラル。アッケラ缶の修復って、進み具合はどんな感じなのかしら」

 

 その後については直接的な描写がないため、各時代の基地(ロビー)で聞けるNPC会話からの推測になるが。そもそもの救出対象だった萌さん含め、遊撃チーム全員が無事戻ってこられたこと自体は確かだ。

 

 途中でリックくんと分断された二人は、自力でラビリンスの出口にまで辿り着いた。その後、エラー空間の解消に伴い、通常ルートで母艦ごと、まとめていずれかの時代の拠点へと送り返されたってことかと思う。

 

 

 

 人員のみならず。ティモシーⅡも、ゲンゴロウも、ともに致命的な損傷もなく還ってこられた。

 

 ただしワールド6初っ端で墜落事故を起こし、その後もダマシダマシ運用していたティモシーⅡには船体部分にガタが来ていたため、本格的にレストア送り。

 

 そうなると、当艦を母体とする遊撃チームも纏まった身動きが取れず、しばらく分隊活動そのものを休止せざるを得なくなった。ワールド6~7間の日数経過についての大まかな経緯は、たぶんそういったあたりだろう。

 

 

 

「おっと、萌か。少し待ってくれるかい? ……よし、オーケー」

 

 フォロル基地、エアポートの手前側に停泊しているエウロパ人の個人艇。ドライさんのものではないっぽいので、たぶん基地のアイテムショップ近くにいるモブエウロパ人NPC、ビター・ファイブ・フォーあたりの乗機だろうか。

 

 機体側面やや下方に位置する、横開きのハッチをピラルが閉じると。どういう仕組みか、ハッチと乳白色の装甲板との継ぎ目がふさがり、外目には丸っきり見えなくなってしまった。

 

 

 

 ……ずむっと沈み込むような感じで乗り込む半球状の上部ハッチといい。エウロパ人の技術体系も、大概ナゾなところがあるよなあ。

 

 原作中の描写を総ざらいした限りだと、文明ごとの技術力の水準は、ギラグール>フォロル≧エウロパ人>ヒト(ジーンダイバー)>プグラ≧ギガント>ヒト(恐竜惑星)って具合だと見るけれど。

 

 20世紀末の時代感覚で演出されたオーバーテクノロジー描写と、そこまで予算が潤沢でなかったアニメーションの、作画コストの関係もあって。ここらへん、中々ファジーなことになってしまってる気がするぞ。

 

 

 

 

 

 

「ええっとねえ。昨日の夕方あたりにプログラムの作動画面を確認したときは、だいたい進捗度40パーセント弱、ってあたりだったと思う」

 

 と、ピラルが黄緑色のメットの側面ボタンを左手でツンツンしながら告げた。右手持ちの工具を腰ベルトに戻し、改めて萌さんへと向き直りつつだ。

 

 

 

 今現在プレイヤーが置かれている現状のことを把握したいってなら。ワールド5の冒頭以降、だいたいいつもこの場所で何かしら弄っているピラルに話しかけるのが鉄板だったりする。

 

 純粋にテキストとして用意されている文章量が多いし、今みたいに、タイミング次第でちょっとした会話イベントが起こるってことも少なくない。

 

 ゲーム・クライアント側からの情報提供用NPCとして、便利に使い倒されている。ピラルって個人には、そういう側面がそこそこあるわけなのだった。

 

フォロル基地(ここ)のセントラル・プロセッサが計算処理を担ってる。なもんでその作業スピードについては、その日ごと、基地内で消化しなくちゃならないタスクの総量に左右される。要するにあれこれ忙しない環境なら鈍くさするし、暇してて処理能力が浮いているのなら、一転スムーズに進むってことだね。これまでの傾向で均してみると、進み具合は一日あたり数パーセントってとこだったはずだから……現時点だと、残りは凡そ。六割程度って見ておくのが妥当なところだろうね」

 

 

 

「残り六割、ね。将来的に100パーセントまで順調に進めば、アッケラ缶は、しっかり元通りになるって思っておいていいのよね」

 

「ああ、それはもちろん」

 

 ピラルは両手を左右に浅く掲げると、事もなげな様子で言った。

 

「メディア・ステーションのアキラ君から提供を受けたオペレーター用リカバリー・プログラムは、アッケラ缶にもしっかり適用できてるからね。この手の作業を手掛ける場合、規格が合ったものを使えるっていうのは何物にも代えがたいことなのさ。基地(ウチ)からの遠隔処理だろうと心配ご無用。完了したら元通りどころか、内部コードが最適化されることで、アッケラ缶、前より性能がググッと上がっちゃうかもしれないよ」

 

 

 

「ふふっ。もしそうなったら、コンピュータにも怪我の功名があるってことになるのかしら」

 

 そう言っておいてから、萌さんはほっとした表情を作ってみせる。

 

「……ちゃんと直りそうで良かったわ。いきなり音信不通になって、その間に向こうで白目をむいて完全にひっくり返ってたらしいって聞いたときには、どうなることかと思ったもの」

 

「あー、ツトムからの又聞きで、僕も実際に現場を見たわけじゃないが。重傷通り越して、いかにも重体ってビジュアルだったらしいね?」

 

「ええ、わざわざね」

 

 両目を細めた困り顔のひたいに、そっと自身の左手を添える。セミロングを後ろで纏めたスマートな輪郭が、わずかに傾く。

 

 10年前の彼女ならまず用いそうにない。反面、今となってはしっかり似合いのジェスチャーだった。

 

「見た目を分かりやすくすることへの、利便性についても分からなくはないけど。それにしたってもうちょっとソフトにして貰いたいものだわ! 本物のケガ人みたく、その場で当たりをつけて手当てをするってわけにもいかないんだから、尚のことよね」

 

 

 

 

 

 

 ワールド6ラストにおける外部からのクラッキングと、強制的なシステム実行により、アッケラ缶は深刻なダメージを負ってしまった。

 

 リィアキアンからの帰還後、バーチャル・ステーションとのインカム経由での通信が途絶。そこでツトムが何らかの手段を用いて向こう側の状況をチェックしてみたところ、外部オペレーティング・システム、すなわちアッケラ缶の機能停止が判明した。

 

 

 

 現在鋭意修復中。……そんなわけで彼、これ以降本ゲームのシナリオにおいては事実上の戦線離脱となる。

 

 今進めてるワールド7もそうだし、最後のワールド8も同じく虎哲(とアキラ)が担当オペレーターとして話が進む。ぶっちゃけ、オペレーターを複数にすると画面がとっ散らかるから退場させとけという、身も蓋もない判断が裏にはあるんじゃないかと思う。

 

 一応、サブシナリオにまで目を向ければ彼が顔を出すシーンも幾つか残されているけれど。時系列的には、それらはあくまでパラレルって扱いかと思われる。

 

 

 

 ともあれ、アッケラ缶に対するクラッキングと、強制的なタイム・ホール起動が行われた。

 

 これにより、どうも衛星タイタンの座標から、原生代リィアキアンのグリーンランド陸塊に対する介入行動が為されていた。そんな事跡が発覚することになったのだった。

 

 どうやらあの強引な介入って、「何者か」の側としても、些か以上にイレギュラーなものだったらしいんだな。

 

 窮地に陥ったリックくんを救うため、前準備もなしに慌てて手を出すハメになってしまった。そのせいで、どうしてもある程度、物的証拠を現場に残さざるを得なかったんだろう。

 

 

 

 つまるところ、アッケラ缶がやられたおかげで、前々から横車を押していた誰かさんの尻尾を掴むことが出来たのだからして。

 

 彼の死も、けっして無駄死になどと言うべきではないのだー……いやまぁそもそも、アッケラ缶別に死んでないだろって言われれば、それはそうなんだけどもさ。

 

 

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