恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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採掘者は相互に行き交う

 

 

 虎哲がタイタン大気圏内でのゲンゴロウのモニタリングを担当していたのに対し、アキラは宇宙空間で待機中のティモシーⅡを受け持っていた。

 

『ええっと……要するに、ピックさんは――』

 

『ピック、で構わないですわよ、アキラ?』

 

 

 

 現在、ティモシーⅡブリッジの正面モニターには、リックくんが謎のお茶会にお呼ばれしていた一室が映されている。

 

 そこの絵画が掛かった奥壁の手前で、ピックが背筋をまっすぐに伸ばして立ち。正面を向いているって状況だ。

 

 

 

 頭のてっぺんから、ゆったりとした淡白いスカートの上半分くらいまでがモニター・ポップアップの範囲内に収まる。

 

 先の宣言通り、彼女が「自分から出向いて」きたわけだった。虎哲の頭越しに。

 

『あっ、そう? それじゃあ、ふつうに呼ばせてもらうけど……ピックは、22億2500万年前、リィアキアン中期のあのヘンなエラー現象に、自分の意志で関与していた、ってことで良いのかな? どうもさっきまでの説明だと。そっちが衛星コンピュータとしての演算処理能力で、どのくらいまでバーチャル世界に干渉できるのかが、イマイチはっきりしなくって』

 

 

 

 

 

 

 キャプテン・シートにユキちゃん。操縦席にピラル。キャプテン・シートの斜め前のある程度開けたスペースには、向かって右側に萌さん、左サイドにハルがそれぞれ立っているってのが、ブリッジ内部における現行のポジション取りである。

 

 ゲンゴロウ搭載の通信システムをハブにして行われる、ティモシーⅡブリッジでの事情聴取は順調に進展。ちょうど今は必要事項の聞き取りを終えて、フリーの質疑応答に移りましたってなところだろうかね。

 

 

 

 ちなみにNPCとしての彼ら本来の立ち位置ってことで言うと、シート斜め前の右側ポジションにはドライさんが居ることが多い。

 

 あとハルも、1F奥にある狭苦しい実験室を巣にしているってイメージが濃いように思う。

 

 降下チームを統率中で艦内にいないドライさんの席に、代わりに萌さんが収まっている。またシナリオの要所だと時々ブリッジ(こっち)に出向いているハルが今回も出張してきた、って感じだろうな。

 

 このNPC配置については、今の会話イベント開始から、ワールド8に初侵入するまでの短い間のみ継続する例外的なものだ。

 

 

 

『ええ、(わたくし)が、あの場面に直接的な関与を行っていたことは確かです。ただ……それが、「自らの意志で」というそちらの表現に沿うものかどうかは。我がことながら、必ずしも断定できかねるのですが』

 

『っていうと?』

 

『第三惑星における時間単位での、76日ほど前。恐らく皆さんもかつて同様の経験をされたことかと思いますが……異常(エラー)に塗れたこのバーチャル世界の内部に、自分自身が囚われてしまった。そのときに』

 

 そう言って半ばまで目を伏せると。過去を思い返すようにゆっくりと、それでいて詠うかのように、ピックは告げる。

 

 通りのいい高めの声も相まって、聞こえ自体はいいものの。そのぶん文意が耳をすり抜けてしまいがちな、一種の曖昧戦略を選び取っている匂いがする。

 

『私がとっさに手掛けたのは、私そのものに対して、暗幕を掛けることだったのです。さしずめ、子ねずみが巣の最奥で、己が身を守るべく身を丸めようとするかのように』

 

 

 

 望まぬ招きを受けたその直後。彼女は、彼女自身が生じた歴史上の節目、バーチャル世界における22億2500万年前の過去太陽系に対し、遠隔での空間干渉を行ったんだそうな。

 

『少なくとも、右も左も分からぬままで。外界の何者かとの邂逅を果たすことは、あまり良い結果には繋がらないと感じたのだと思います。不測の事態を避けるために。身体を縮こめて、物陰にじっと、潜んだ』

 

 過去のタイタンから、過去同時期の地球へと目掛けて。観測行為を遮るための暗幕、カーテンを降ろしたのだと。ほとんど反射的な、彼女なりの防衛行動としてだ。

 

 

 

 

 

 

『目下のバーチャル世界は、常々。微細な局所性フラクタライズ・エラーの(あぶく)が散発的、継続的に発生し続ける情勢下にあると考えられます』

 

 手入れの行き届いた爪が生えている、右手の人差し指を緩く伸ばしてクルリとさせる。

 

 と、見せかけて。ピックはその一本を、画面の向こうで水平についっと横切らせた。

 

『……』

 

 その様子を観察するアキラは無言だ。緑色のセリフ用ウィンドウ脇に表示される、彼のポートレートもまた口を噤んだものになっている。

 

『泡のひとつを、時空間工学的な手法を用い、広く、大きく引き伸ばす。広まった空間をいわばカーテンのような目眩ましとして用いることで、発生当初の衛星タイタン(わたくし)は、皆様の観測網から、ひどく視えづらいものへと成り遂せた』

 

 引き続き、惑わすような手つきを小まめに繰り返しながら話している。鼻につくほどには目立たないけれど、多少は意識をそちらに割かざるを得ない塩梅だ。

 

『こうした時空間に対する干渉行為については、私が衛星コンピュータとして持ち得た処理能力が、ふんだんに活かされていたのだと思います。その点については、あなた方のご想像の通りですわ』

 

 そんなピックを見て考え込まされている、っていうよりも。アキラなりに、相手から煙に巻かれないよう、頑張って気を張っているってあたりかねえ。

 

 

 

 

 

 

『……でも。やむを得なかった、とは思われませんでしょうか』

 

 微笑みをやや薄めつつ。ピックは続けた。

 

『予め身構えておくための、一定の時間(バッファー)を求めずには居られなかった。心ともなく。これでも、私、なかなか臆病なたちのようですので』

 

『そう、なんだ?』

 

『ええ、そうなのです。……ただし、その折。予期せぬ方をお一人巻き添えにしてしまったことについては、率直に、不手際を認めざるを得ないのですけれど』

 

 と、ここでティモシーⅡのモニター表示がややズームされた。そして二割増ほどに拡大されたピックが、キャプテン・シートの右側に立っている萌さんに対し、申し訳無さそうな目線を向けるのだった。

 

 

 

 ……しっかし、ピック視点でのティモシーⅡブリッジって。いったい今、どんなふうに見えてるんだろうなあ?

 

 プレイヤー視点だと、相変わらずブリッジ側から観た正面モニターにピックの上半身が映っているって状況だ。それと似た感じに、向こうのお茶会部屋でもブリッジ内部の情景が、ホログラフ式のディスプレイか何かでリアルタイム映像として表示されているんだろうか。

 

 それとも、実際に通じているのはゲンゴロウ経由で得られた位置関係や個人座標といった数値的なデータだけで。向こうさんがそれを解析して、表面上それっぽく振る舞っているだけなのか。

 

 細かい描写を見ていく限り、どちらかというと後者に近いような気はするが。

 

 

 

 ワールド7最終ステージ参加組のティル&ドライさんも、先行していたリックくんと合流済み。現時点では三人揃ってモニター向こうにいるはずだ。

 

 にも関わらず表示画面外に漏れている彼らのことも含めて。そこらへんわりと、ナァナァで進んじゃってる雰囲気がないではないな。

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、萌さんは頬に人差し指を当てて「私?」と首を傾げた後。ああ、ナルホドね、とすぐ納得行ったふうな顔を作ってみせた。

 

 ここでやり取りの主体は、アキラから一旦彼女にバトンタッチだ。

 

「二ヶ月半くらい前、ってことはー。私が三畳紀後期のエラー空間から戻ってこれずに、そのまま行方知れずになってたタイミングと同時期だものね。察するに、あなたがその目眩ましのカーテンを降ろしたときっていうのと。私の時空間移動とが被っちゃってて、何かトラブルが起こったってことかしら?」

 

 

 

『はい。おっしゃるとおりですわ』

 

 その節は、たいへんなご迷惑をお掛けしてしまいました。居住まいを正したピックが、そっと鼻面(マズル)を下げ、謝罪の意を示す。

 

『陳謝いたします、結城萌さん。私の手による、過去に向かっての干渉行為。そして、エラー解消に伴う貴女の未来時間軸への帰還処理。このふたつが、バーチャル世界における絶対時間上、非常に近かったことで、時間線上での予期せぬ衝突事案が発生したものと見られます』

 

 

 

 ワールド6の萌さん加入時に彼女自身が説明してくれた経緯のなかで。「視界がグネグネになった直後に、意識が一瞬フラッシュ・アウト」したって表現していたくだりがあった。

 

 たぶんそのときだろう。彼女を三畳紀→白亜紀へと送り返すためのジーン・ダイブ。現代→原生代に向かって干渉するピックの空間引き伸ばし作業と、たまたま時刻が一致していたことで、すれ違いざまの事故発生。

 

 偶然か、それとも出力上の力関係によるものか。前者が後者に巻き込まれ、そのまま過去側の原生代リィアキアンへまとめて押し込まれてしまった。正直、相当噴飯ものな顛末であると言えようさ。

 

 

 

「……ええっと。それだけ聞くと、私、良くそのとき無事だったって気がするわね」

 

 萌さんは少し身を縮こませて、苦笑いを浮かべた。

 

「私は荒ごとが専門だから、あなたの言う『空間工学的な手法』ってものについては、ちゃんと理解が及んでないかもしれないけれど。でも今聞いたそれって。不意の交通事故で跳ね飛ばされた挙げ句、ただ今お仕事中の工事現場のさなかにでも、頭のてっぺんから放り込まれたって感じじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 またしてもピックが一瞬「止まる」が、直ちに持ち直した。「他文明由来の比喩表現」を投げ込まれると、彼女にはチト厳しいってことらしい。

 

 芸細な演出と言うべきか。あるいは現代基準じゃあとっくにアナクロだと言うべきか。

 

『――時空間移動時の接触事案に関しては、相応のセーフティが事前に備わっているはずですから。そこまで危険視すべきケースでは、なかったかもしれません』

 

 

 

 原作中、時空間移動の途中で何らかのトラブルが発生した場合でも、転送対象物自体はそのまま無事に送り届けられている。

 

 『恐竜惑星』で[ノアサウルス]の群れ――余談だがコイツらも異様にサイズが大きい。本来はせいぜい華奢な大型犬ってくらいのはずが、劇中だと平気で頭の高さが1.5メートル超えててトラとかライオン並の捕食者扱いされている――から萌とレイを救うため、近隣半径5km以内の過剰接近状態でアッケラ缶が転送を強行してしまった場面においても。

 

 また、『ジーンダイバー』でゲンゴロウの月への転送処理中に、戦闘実行体がタイム・ホールの発生装置を破壊したときも。

 

 

 

 どちらの場面でも、送り先の座標が時間的、空間的に大きく狂ったというだけで済んでいた。

 

 このことから、時空間移動の対象物に対する技術的なプロテクトはそれなりに堅固であって、何らかの不備が原因となって原子レベルを超えて分解され、光の藻屑と化して[ホワイトホール]もどきから散らかされて終わる、なぁんてオチには早々ならずに済むらしいことが分かる。

 

 

 

『ただ、拡張された空間内部へ引きずり込まれた直後は、貴女にとって、間違いなく危機的状況だったことかと思います』

 

 スムーズな口ぶりで、ピックが続ける。

 

『なにしろ往時の太陽系第三惑星には、高度な有機生命体を維持できるだけの環境が整っていませんでした。局所性フラクタライズ・エラー由来の異常増殖空間も、基本的にその延長線上として構築される。したがって準備不足のままでは、現地での活動を一切望めなかったでしょうから』

 

「20億年以上も前だものねえ。酸素も少ないし、オゾン層だってまだまだか。一応アイ・スーツは手持ちにあったけれど、あれだって循環システムの稼働時間は……確か、どれぐらいだったかな」

 

「……ヒト用の、萌が使っていた世代のものだと、バックアップなしでの連続稼働はせいぜい半日かそこらかな」

 

 ピラルがぽそりとフォローを入れる。良くも悪くもあけすけになりがちな普段の彼からすると、妙に腰が引けた感じの言いぶりだった。

 

 そうした不自然さからは、まず意図的に目を背けつつ。「ありがと」と萌さんが返す。それじゃあやっぱり、私、しっかり危なかったのね。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

『ですので、取り急ぎ。ヒト文明のデータ・アセットをシステムから引き出し、それを、空間そのものへと直接投射したのです。萌さん、貴女自身を一種の経路(ライン)として用いることで。この呼び水によって、元来不安定なフラクタライズ・エラー空間の環境規定値を固着し、高度有機生命体が存続可能なスポットを即席で仕立て上げることができた。もっとも……』

 

 ピックが上向きに差し出した右手の手のひらの上に、のぞき穴のような円形の画面映像が、ふっと浮かび上がった。

 

 そこには雪降る原生林。ワールド6で散々見てきたタイプの景色が、ミニチュアサイズで眼下に広がっている。

 

『事態が突発的であったこと。また往時の私の、ヒト文明に対する理解の浅さもあって、このように、ある程度危険性の残存する空間が創り出されてしまったのですが』

 

 

 

 これが最善の処置だったとは、言い難かったと思います。そう告げた上で、自らの重ね重ねの不手際につき。ピックは再び謝罪の意を、態度と言葉で示してみせる。

 

 

 

 現実問題。当時の彼女にとって、それ以上の手を打つことが難しかったのも確かのようだ。

 

 前にもピラルだったかが言ってたと思うが、基本的に局所性エラーの内部事情に対して、外部から直接干渉することは難易度が高い。

 

 また、「送り込む」よりも、「呼び戻す」方がより負担が増えるって話だったはずだ。

 

 

 

 なるべく長く自分自身の身バレを防いでおきたかったピック的には、巻き込んでしまった萌さんの生存を確保するのがギリギリの妥協点だったと。

 

 実際、リックくんの緊急転送においてアッケラ缶の乗っ取りを経由することで、偽装兼負担軽減を行ったにも関わらず、後ほど彼女の所在がバレているわけである。ピックの抱いた懸念の正しさは事実上、証明されてもいるのだった。

 

 

 

 引き続き言動が煙に巻くようで、信用しきれないところのある彼女だが。それでも基本的に嘘は言わないタイプではあるから、ここらへんの事実関係については概ね信じて良いんだろう。

 

 ……いやそりゃ、ご想像のとおり。隠し事のたぐいはココでも、今後も、バッチリやらかしてくれてるんだけどね?

 

 

 

 

 

 

「あのときの経緯については、良く分かったわ。……んー、結果的に無事だったんだから気にしないで、って言ってしまえるなら良かったんだけど」

 

 そう言いながら、萌さんはチラりと斜め後ろのキャプテン・シートに視線を向けた。その先ではユキちゃんが肩のあたりまで挙げた右手をそっと傾がせ、無言の合図を返してくる。

 

「みんなが私のことを、あのハマりの状態から救い出してくれたとき。このチームからも、基地側からも、かなりの持ち出しがあったみたいなのよね。それにアッケラ缶が受けた仕打ちの件についても、ちょっと納得のいかない部分があるし」

 

 リックくんを助けるために手を打ったにせよ。強制ハックを食らったAIプログラムとしてのアッケラ缶は、好き放題操縦された挙げ句、半死半生まで追い込まれちゃっているんだよな。

 

 萌さん目線だと、どちらかと言えば持ち出し云々よりも、そっちの方がウェイトが大きいものと思われる。

 

 

 

 だいたい、さっきのワールド7通して、威力偵察気分で散々襲撃してきた張本人でもあるんだぜ。この素知らぬ顔した直立ネズミ女。

 

 分けてもリックくんを集中的に狙いつつ、タイタン地表にバラ撒かれている多目的分子機械経由で精神干渉を実施。彼からの強引な情報収集を試みてきた。諸々のフラッシュバックはその結果であり、副作用でもあったんだ。

 

 彼女の行動全般に合理性を見出すこと自体はまぁ、出来なくはない。それでも常時誠実な対応だったとは、なかなか言い難いってことも間違いない。

 

 

 

 

 

 

「ピック? あなたがもし、衛星コンピュータとして抱えている処理能力に、それなり以上に余裕があるってことなら」

 

 萌さんが片手のひらを半ばまで上げ、提案のポーズを作ってみせた。

 

「私たちがこれまで対策のために費やしたリソースを、そこから補填してもらうって形にはできないかしら。別に全部まとめて元通りにしろって意味じゃなくて、可能な範囲内で構わないから。その提供をもって、過去の込み入ったいきさつについては、互いに水に流すってことで。どう?」

 

 

 

 さらっと今の条件が出てくるあたり、遊撃チーム内でも、急場仕立てなりにある程度条件が詰められていたことが覗える。

 

 ようは誠意(モノ)を見せろってことだな。出るものが出てくるなら手打ちも別段吝かでない。

 

 

 

 そういうことでしたら、とピックは表情をいつもの微笑みに戻しつつ、応答。

 

『タイタンという物質塊によって構成されるコンピューティング・プロセッサには、たしかに余剰リソースが多くあります。それらで差配可能な範囲となれば、私としても、否はありません』

 

 いざ現物交渉となってしまえば、彼女のレスポンスは非常にスムーズだ。比喩的表現なんかを前にしたときよりも、よっぽど。

 

『いつ。どの程度。どのような形で。細部については後ほど擦り合せが必要になりそうですけれど……唯今のご提案。大筋として、喜んでお受けいたしますわ』

 

 

 

「オッケー。……それじゃあ、アキラくん。とりあえず、彼女との関係で遊撃チーム(こっち)の持ち出しになってたぶんの、リストアップを済ませておいてくれる?」

 

『あっ、はい!』

 

 突然ボールをパス戻しされたアキラが狼狽えるが、持ち直すのにそこまで時間は掛からない。

 

『…えっと、分かりました。データはだいたいこっちにあるから、急いでやります』

 

「よろしくね。基地側はカーンさんか、ヒルム将軍あたりに後で話を通してもらって、それぞれリストを突き合わせるって感じでいけば。ま、たぶん。何とかなるでしょ」

 

 

 

 

 

 

 ……実際問題、何とかはなるんだろうな。

 

 なるようにしかならない、的な意味でだが。

 

 出どころの信頼性低く。規格も怪しそうな大量の資源に、計算リソースだあ?

 

 

 

 しかも基地側って言ったって、白亜紀前期のフォロル基地と、ジュラ紀後期のギラグール基地で時空を隔てた横跨ぎをやらかしている。

 

 これらの調整が一筋縄でいく未来が皆目見えないぜ。

 

 萌さんは明るいお顔でこの場を総括しているが。恐らく後ほど。ファルンなんかのバックヤード・スタッフたちが、飽和作業で地獄を観るハメになるんじゃないのかねえ、コレ。カワイソーに。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 デスマーチ避けがたき後方部署の悲哀。は、それはそれとして。

 

 今回ピックから引っ張った「援助」だけども、こいつについてはプレイヤーに対する各種間接的な補助という形で顕在化してくる。

 

 例によって、ゲームプレイへのシナリオの落とし込みってやつだな。

 

 なんでそうなるの、という理屈部分はばっさりカットされてしまっている。もっとも、仮にそのへんSF的に詰めていっても、まどろっこしくなるだけだろうからフツーに英断かと思われる。

 

 

 

 プレイヤーが「援助」によって得られるメリットは、主に次の三項目だ。

 

 1.ステージ進行中の死亡ペナルティの緩和

 

 2.武器防具のRank10強化段階開放

 

 3.装備品の改造パーツ装着用スロット数の大幅拡張

 

 

 

 順番に見ていきましょう。

 

 まず項目1だが、シナリオ的には最終ワールドとなる次のワールド8においては、キャラクターがHPゼロで一時的に脱落したあとのジーン・ダイブやタイム・ホールでの復帰速度が、だいたい倍くらいまでスピードアップする。

 

 逆に死亡時の報酬減額率は大幅に下がる。これまではだいたい4回死亡で報酬ゼロだったのが、10回以上死んでもいくらか残ってくれるくらいにまで緩和される。

 

 おかげでステージを気楽に進めていけるようになるし、また、所持金が底をつき、消耗品の補充や装備の修理費用のために、過去ステージを周回させられる不毛な作業からもスッパリ開放されるってわけだ。

 

 特に不慣れな初回プレイ時においては、かなり有り難い緩和措置だと言えるだろう。

 

 

 

 次の項目2は分かりやすいな。武器防具の強化段階もこのタイミングでアンロックされ、シナリオ進行中のマックスたるRank10に手が届く。

 

 

 

 そして、最後の項目3。ワールド7のストーリークリアと同時に、「装備品の改造パーツ装着用スロット数」が自動で大きく増えるんだが。この部分についても設定上、ピックの解析能力のおかげで成し遂げられた装備理解度の進展によるもの、ってことになっているらしい。

 

 ワールド7まではスロット1~2個がせいぜいだった。それが、ワールド8入りした途端に4スロットまで一挙に全開放される。

 

 

 

 当然、今後はキャラクターのカスタマイズ幅が馬鹿みたいに広がることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……あー。えーっと。ここに来るまでのステージ合間に、リックくんの装備を弄ってるプレイ画面を視聴していたってだけだと。その場でちゃんとした解説を入れてなかったり、そもそも冗長だからカットしちゃってたりしたせいで、見落としてた方も多く居られるかと思われるが。

 

 実はこのゲーム。武器にも、防具にも、種類や改造段階ごとに異なる数の改造パーツ装着用スロットが備わっておりまして。だいたいワールド5の後半あたりから、ぼちぼちリックくんもお世話になってきてたりするんであるよ。

 

 説明入れるの忘れたってわけでは断じてないぞ。いやホントに。

 

 

 

 ――はいハイ。これこれ。装備品のパラメータ画面、2ページめの真ん中やや下のあたりね。

 

 四角い灰色の穴みたいなのが、一個ないし複数個が並んで表示されているのが当該スロットである。

 

 別途作成した改造パーツを、エンジニアNPC経由でスロットにはめ込むことでパーツの効果が発揮される。ただし、概ね装備品の改造段階と連動する「保持可能コスト数」を上回ってパーツを付けまくることは出来ないため、そのあたりはパーツごとの組み合わせ、噛み合わせを考えていく必要が出てくるわけだ。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、ひとつ具体例を出してみるか。

 

 

 

 近ごろリックくんが振りまわしている、対古細菌派生の+9ツインドリルアーム。こいつの保有スロット数は1で、保持可能なコスト数が9だ。

 

 現段階だとワールド6ラスボスの確定ドロップ品で作った、コスト5の「基礎攻撃力アップ(甲)」のパーツだけが第一スロットに収まっているって状態である。

 

 

 

 これがワールド8以降はスロット4まで拡張され、+10まで強化することで、コスト数についても10に増える。

 

 となると、シンプルに「基礎攻撃力アップ(甲)」を二つに増やすことも出来るし。あるいは、ワールド8で有効な敵が多いコスト10の「追加効果:液体浸透」に、パーツを載せ替えてみるのもいいだろう。

 

 

 

 「液体浸透」はデバフ付与効果の名称だな。非防水メカに近接攻撃を当てることによって高確率で発症。行動速度をガクッと低下させられるため、道中非常にラクになる。

 

 さっきのステージで出てきた偽物NPCズが高確率で必要素材をドロップするから、コイツが作れないってこともまずないはずだ。

 

 

 

 ……とまぁ、システムの運用方法はそんな感じ。

 

 パーツを組み合わせて更なるキャラクターの強化を。強化パーツひとつひとつの効果はそこまで大きくないものの、チリも積もれば何とやらである。

 

 前にエンドコンテンツを解説したときにも触れた通り、しっかり全身をコーディネートすれば数段上のスペックが発揮できるようになる。上位のパーツが集まってくればくるほど、加速度的に強化の勢いは増す。

 

 

 

 良くあるシステムって言えばそのとおりだ。実際、古き良きゲームにも、VWOと同じ自動生成品にも、似た系統のブツは山ほど見られる。

 

 基本的な強化システムが天井(+10)に到達した後に積み増す拡張要素としては、非常にスタンダードな部類であることは間違いない。

 

 もっとも、こういうので奇を衒っても、だいたい逆効果になるのがオチではあるので。見慣れたアレコレが置かれているってこと、それ自体はそこまで悪いモンでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 ただし現時点だと、作れる改造パーツの種類に大きく制限が掛かっている。そのため、よっぽど各ステージ周回しまくってたりしない限り、スロットがダダあまりになるだけで終わっちゃうことが多いんだけどな。

 

 何より事実上のPvE人権パーツとなっている「保持可能コスト拡張」各種――これにも(甲)(乙)(丙)とあるが、どれも装着コストが0のため、上位品の(丙)が下位品の(甲)と(乙)の純粋な上位互換となっている。そして実に腹の立つことながら、コスト数を20も増やせる「保持可能コスト拡張(丙)」を作るには、レア素材複数と莫大なゲーム内マネーが求められる――の素材が、シナリオクリア後のエンドコンテンツでしか入手できないのが致命的と言える。

 

 

 

 結局のところ、今回実施されたスロット数の大盤振る舞いは、エンドコンテンツ用拡張要素の前渡しみたいなもんなのだ。

 

 プレイアビリティーにおける影響はまだまだ少なめ。本格的な稼働は、シナリオクリア後の苦行、もとい、お楽しみとなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ……はてさて、ちょっと間をおいてから。

 

 ピックが、ところで、と再度モニター正面を向いて口を開いた。

 

『申し訳ないのですが……あなた方がバーチャル世界内で消費した反物質エネルギーを、私の手で直接充填することは少々難しいかと思いますわ』

 

『あれっ? そうなんだ』

 

 アキラから些か調子っぱずれな声があがる。

 

 萌さんからの指示に従い、早速品目のリストアップを始めてたんだろうが。彼としても、いきなり作業の出鼻を挫かれた形だな。

 

『リィアキアンへの空間干渉はすごい規模だったし、それにタイタンの地表でも、色んな生き物をあれだけ再現できちゃうんだから。てっきり燃料の精製くらい、どうとでもなるのかと思っちゃってたよ。メディア・ステーション(ウチ)じゃあ反物質燃料は使ってないけど、フォロルやギラグールだと、一般にも広く普及してるって話だし』

 

 

 

『残念ながら。製造のための設備が現状手元にありませんし、それをタイタン地表に一から造り上げるとなると、どうしても厳しいものが』

 

 目を伏せたピックが、ゆっくりと左右に首をふる。彼女の自己申告を受けて、さっきから画面の後ろで置き物と化していたユキちゃんが、仮面を被った顔を僅かに動かす。

 

 衛星コンピュータ『タイタン』が保有する技術水準。遊撃チームとしては是非とも拾っておきたい情報だろう。

 

『しょせん私は、土星系を公転し続けている自生的無機秩序体。球体の表面を分子機械のシートに分厚く覆われた、一個の巨大な計算装置にすぎない、とも言えますので。処理能力の多寡が焦点となりがちな、バーチャル世界内での時空間干渉においてはそれなりの優位性を持ちますけれど……そうでない場面だと、ハード面、ソフト面。双方の制約から逃れることはできないのです』

 

 反物質燃料については、製造する技術も、生産のための施設も共々不足している。要するに、現時点でのピックには手に余る難度のお仕事だってことらしい。

 

 

 

『結局、バーチャル世界の内部に、確たる実体を伴って存在し、囚われてしまっている以上』

 

 続けて、ピックは右手のひらをそっと口元に添え、少し、遠い目をしながら告げる。

 

『衛星コンピュータたる私が単独で成し得る、特筆すべき事象は。バーチャル世界に発生した自己増殖するひずみ、フラクタライズ・エラー現象諸般に対し、ピンポイントで介入、その傾向性をいくぶん操作する(・・・・・・・・・・・・)くらいのものかもしれませんわ。偏に、成し得ることがそう多くないのです。そのせいか、あなた方のように、バーチャル世界側からの呼び出しを受けて、局所性エラー現象の解消に出向かされることもこれまでほぼ(・・)有りませんでしたから』

 

『なるほどね~。あちこち出向かされずに済むのは良いことだろうけど、そのぶん(局所性エラー解消の報酬という形で)確たるリターンも得られない。だから、手元の有りモノだけでやりくりしなくちゃいけないってことなんだ』

 

『ええ。ですのでこちらからお出し出来るのは、一般的な物資を除くと、演算リソースの直接的な貸与が主になるのではないかしら』

 

 

 

 ただ、そうは言っても。と、最後にはしっかり笑顔に戻って、彼女は自信有りげな声色で宣言をしてみせる。

 

『数は力。大いに普遍性がありますでしょう? そちらの皆さんが、多種族間で共有されている技術水準を勘案しましても。タイタン(わたくし)という大質量から供出される処理能力は、皆さま方にとって、少なからず魅力あるものになりうる。そう考えておりますわ』

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 会話劇の〆部分にもなって意味深なことに。ピラルとハルの、ポートレート付き無言テキストがそれぞれ画面に表示された。

 

 

 

 現行シーン開始前。事情聴取の段階では彼らも技術的な部分で諸々口を挟んでいたんだろうけれど、今は二人共、ほとんど会話に入ってこようとしていなかった。

 

 何かしら、ピックというパーソナリティに対して、彼らが不信感、警戒感を抱いているのが見て取れるな。恐らくユキちゃんもスタンスとしてはこの二人に近いだろう。

 

 

 

 お茶会におけるピックとリックくんとのやり取り。また、その前に彼女がタイタンの地表上で、古生物やら、他人種やら味方NPCやらのピーコ品をけしかけてきたりしていたことなどから。

 

 リックくんに対するリサーチ行為のみならず。彼女の行動原理のひとつに、「有機知性体とのコミュニケーション・サンプルを収集すること」が入っている蓋然性は高い。そう推察される。

 

 

 

 独自のデータ集積を重ねていった上での、彼女の究極的な目標についてはイマイチはっきりしないものの。とりあえず、相手が得体の知れない交渉相手である以上、向こうの足を『出島』で留めて情報をなるべく抜かれないようにする、というのは、自衛の方針としてまずまずベーシックなものだろう。

 

 

 

 この場面、悪い言い方すれば、総じてアキラと萌さんが当て馬にされていたとも取れるのかねえ。

 

 彼らだけを矢面に立てておくことで、交流の進展に沿って学び取られるパターンを限定的なものに留める。

 

 それによってピック側の学習量を減らし、彼女の将来的な完成度を低めることで、自分たちが前面に出る未来の駆け引きを、より有利に運ぶことができるようになる。かもしれない。

 

 

 

 ……とはいえ、ピラルにせよ、ハルにせよユキちゃんにせよ。別にダメコン被害を二人に押し付けようとしているわけではなさそうだから、単なる役割分担ってだけだろうとは思うけど。

 

 あと、アキラにとっては実地での経験値稼ぎ(O J T)めいた成分も、幾らか含まれてるんじゃないのかな。

 

 

 

 たとえ火中の栗拾いであろうと。結局、現場で手掛けてみないと身に付かないもんだからねえ。何事においても。

 

 

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