恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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月は寂しい夜の女王

 

 

 World-8:月(moon) 冥王代 45億年前

 

 

 

 月。太陽系第三惑星地球を公転する、唯一の安定的な衛星。原作での初出は『ジーンダイバー』第47話:「生命の起源を守れ!」

 

 

 

 [月の起源]についての現行の通説はジャイアント・インパクト説で概ね固まっている。しかしながら『ジーンダイバー』劇中においては、スネーカーの手によって外宇宙から飛来してきたことになっており、分類としては捕獲説に近いシナリオが採用される。

 

 天体そのものが、スネーカーが各文明の進化に介入するにあたっての移動式前線拠点として用いられていた。

 

 熱エネルギー奪取のための誘導ビーム射出装置など、オーバー・テクノロジーに基づく各種巨大建造物を内部に擁する。また、月本体移送用エンジン・ユニット付近に建設中の月面基地最奥には、スネーカーの本体ユニットが潜んでいる。

 

 

 

 ヒト時間軸における45億年前現在。この『月』は未だ地球の周回軌道には入っていない。無慣性フィールドに覆われた状態で、地球圏からおよそ20万km離れた周囲を、変則的な軌道を描いて航行している。

 

 ステージの最低侵入レベルは52。なお、本ワールドについてはこれまでと異なり、ステージ番号が振られておらず、前・中・後の3マップをリニアに進行していく形式となっている。

 

 

 主な出現エネミー:ワーム型巨大掘削機械 土竜型建築ユニット ムカデ型地上制圧ユニット 戦闘実行体後期型 強化戦闘実行体二号機、三号機 スネーカー本体ユニット など

 

 有効な攻撃属性:マシン特攻 中型特攻 大型特攻 追加効果[電撃] 追加効果[液体浸透]

 

 有効な防御属性:打撃耐性 対ビーム耐性 磁場耐性 精神干渉無効(大)

 

 

 

 

 

 

 ~アキラからのワンポイント・アドバイス~

 

 

 

「いよいよここで最後、だね。敵の数は多いし、攻撃の威力も高いから、武器、防具のどっちも。できれば最大のRank10まで上げちゃった方がいいと思うよ。

 

 スネーカー本体ユニットが頻繁に撃ってくる『広域磁場壊乱』は、名前の通り磁場耐性が有効。受けるダメージを割合減算出来るから、なるべく高めのレベルで積んでおくべきじゃないかなぁ?

 

 

 

 同じくスネーカーが使ってくる『強制催眠』も、精神干渉無効が効果的ではあるんだけど……こっちはマックスのレベル3までしっかり積まないと、無効化まで行かずに、積み損になっちゃうのが難点なんだよね。

 

 精神干渉無効の作成素材を落とすのは、ステージ6-3に出てくる大ワニみたいな姿の[グレンデル]。ただ、ドロップ率は言うほど高くなかったはず。

 

 個数を揃えられそうにないならいっそのこと、余裕をもって回避できるよう、距離を広めに取っていく。慎重な立ち回りを心がけるのが、正解なのかもしれないね。

 

 

 

 えーっと……うん。だいたい、そんなとこかな。

 

 それじゃ、こっちも精一杯サポートするから。最後まで、一緒に頑張ろう!」

 

 

 

 

 

 

 ……さぁて、とうとうVWOシナリオの締めくくり。ワールド8にまでやって参りました。

 

 

 

 今回、試しにワールド選択画面の解説文を読み上げてみたわけだけども。冒頭のとおり、このワールド、ステージ数自体は少ないんだよな。

 

 前・中・後の3ステージ。月面、基地外層エリア、基地中枢エリアをそれぞれ踏破することになる。

 

 

 

 ステージのうち、後者二つは『ジーンダイバー』劇中でユイたちが通った基地内ルートを再現したものだ。

 

 ボリューム的には1ステージが普段の2ステージ弱ぐらいの長さがある。最終ステージに相応しいだけのリソースが割かれ、ギミックの作り込みや敵配置の厭らしさについても相応の完成度に仕上がっている。

 

 

 

 しかしまぁ、そうしたナカミ自体は正直、お定まりなシロモノのように思えるかもしれない。

 

 ハイハイ原作再現ね、お疲れさん。みたいな? 例によってネタ切れ感が否めないわけだ。

 

 

 

 他方、第一マップの「月面」については、十分以上に毛色が違った造りになっている。

 

 シナリオの頂点たる最終エンディング・シーンを除くと。ワールド8で一番話題性があるのはもう、間違いなくココだろう。

 

 

 

 というのも……前世紀の[パイオニア計画]あたりを嚆矢とし、今世紀に入ってからも各国の手で度々行われてきた月面探査に基づきまして。リアル世界における[月の海]の一角を、可能な限り正確に、3Dマップ化してあるんだな。

 

 これまでのメーン・ストリームだった古生物学、地質学関連のみならず。ここに来て天文学ファンにとっても、なかなか味わい深い逸品が御出ましになっているのであった。

 

 

 

 

 

 

 もはや歴史的一幕となって久しい1971年。[アポロ15号]乗組員たちの足跡が、この度一行が辿ることになるメイン・ルートだ。

 

 

 

 月のオモテ面、中央やや北側に位置するアペニン山脈。

 

 その一角を構成するハドリー山のふもとに、通称「腐敗の沼」という、そこら中にダメージゾーンが広がる害悪ステージを思わせる、ケッタイな名前の窪地がある。

 

 実態としてはもちろんそんなことはなく――海だの、沼だの。月面のあちこちが水にちなんだ名前を持っているのは、17世紀の解像度で月を観測した折に、相対的に黒ずんで見えた部分が、地球における海や湖と誤認されたことに拠る――玄武岩を主な構成物質とする礫と砂とに覆われた、何の変哲もない月面の一ロケーションだ。

 

 

 

 灰色のバリエーションを主体とするオブジェクトの数々。

 

 そのそれぞれが、浅い角度で東側から降り注ぐ太陽光を遮って、あちこちで黒く、長く伸び上がっている影たちの群れ。

 

 モノクローム。何ものも蠢くことのない、無機質の世界が全方位に広がる。

 

 

 

 プレイヤー&味方NPCは揃ってその場に降り立ち。低重力下特有のフワフワした足取りで、西南西へと進んでゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 目指すはスネーカーの月面基地である。

 

 月の航行用エンジン・ユニット付近に建設中の当該スポットまで、徒歩だと片道、半日程度が掛かるんだそうな。

 

 往路ではこれまでにも見てきた各種スネーカー・メカの強化型の他に、定期的にワーム型巨大掘削機械と遭遇戦をこなす。ワーム型機械はステージ・ボスとしても抜擢されており、最終的にはソイツを正面から撃破することでクリアとなる。

 

 

 

 全体的に敵数がそう多くない。また敵出現のメリハリが大きく、息の付けるタイミングが多いため、ついでとばかりに、仮想世界における月面観光が楽しめるステージ設計にもなっている。

 

 

 

 道中、南側の奥行きに、アポロ15号乗組員たちも往路の目印とした、エルボー・クレーターがぽっかりと開けていたり。

 

 路端の目立つところに、ホンモノと比べて10倍以上サイズのでかい[ジェネシス・ロック]らしきものが無造作に転がっていたり?

 

 そうした目立つオブジェクトを、プレイヤーがジェスチャーを使ってポイントしてみる。すると講釈が書かれたポップアップが表示されるか、モノによってはインカムの通信経由で、虎哲が直々に解説してくれたりもするのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……ただまぁ、冷静な目で見ると。コレってまるきり、現実味が欠如したシチュエーションではあるだろう。

 

 いくら月面が、地球上よりも遥かに自然風化の速度が遅いと言えど。45億年前と現代じゃあ、共通する景色なんて、毛の先ほども残っちゃいないのが実態なわけで。

 

 

 

 [後期重爆撃期]のことなんかも勘案すると、月面の景色を一変させる規模の小天体落下は、月の地質史においても相当な頻度で起こってきたはず。

 

 実際に、『ジーンダイバー』の劇中においても。ユイたちがスネーカー月面基地に向かうまでの短い間に、そこそこの規模の隕石落下が遠隔地で発生するっていう災害描写が挟まっていた。

 

 

 

 彼女らの探索期間を最大限多めに見たとしても、わずか数日の間でそのザマである。

 

 ひいては45億を数える月の年齢。その生涯の中での天変地異の仕事っぷりは、どこもかしこもミルフィーユもかくやの重ね塗りだったのが間違いない。

 

 

 

 だいたい、餅をつくウサギにも擬えられる月の海っていう地質構造。あれの大半は[前期インブリウム代]末期における天体衝突に由来する。クレーターの枠組みを超えた、巨大な地表のエグレ穴ぼこだと見られているんでありまして。

 

 結局、ネット上でフリーユース化されている月面地形データを丸ごと持ってきてコンバートしているにすぎず。例によって例のごとく、これまた自動生成工程簡略化の一プロセスじゃないかと言い捨てることも容易ではある。

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、その手の腐しばっかり連発するのも、褒められたことじゃあなかろうさ。

 

 丸写ししただけあって、再現性自体は折り紙付きだ。サプライズのVR月面旅行へようこそ。手抜き呼ばわりするんじゃなく、そういったふうにポジティブに捉えておいた方が、きっとより良い。

 

 

 

 荒涼とした薄灰色の砂景色は、とおいとおい未来。あるいは、プレイヤー視点たる現代(いま)からしてみると、70年だかそこらの昔に、月面車LRVが駆けぬけた道なき道である。

 

 

 

 

 

 

 何となしに頭上を見上げると、そこには、左側から照らされて1/3ほどまでが暗く欠けた、半球状の地球の姿を見ることができる。

 

 漆黒の宇宙空間を背景に。プレイヤーの視座を置く地面たる月が、現代周回起動(約38万km)よりもずっと近くにあるせいで、だいたい未来の地球から見あげる今月(いまづき)の、8倍くらいの大きさとなって浮かんでいる。

 

 

 

 その威容。その存在感。おお素晴らしきかな故郷よ、てなところか。

 

 

 

 もっとも、45億年前の形成直後じゃ、まだまだマグマが真っ赤に煮えたぎっていて地獄さながらの様相だ。

 

 地球は青かった! ……なーんて格好つけられそうにないのが、少々残念ではあるけどな。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 最終ワールドってこともあり、NPC組との交流に関しても盛り沢山となっている。

 

 これまでのセオリーに従い、冒頭のムービーシーンから見ていくとしよう。

 

 

 

 ティモシーⅡが艦丸ごと、タイム・ホールで宇宙空間に転送させられてきたってところからシーン描写が始まる。

 

 局所性エラーの多発年代にこのティモシーⅡを母艦として事前待機させておき、そこから所属の戦闘員たちがエラー発生地点に飛ばされるのを待つ。以前にも言った通り、ユキちゃん麾下の精鋭チームの通常業務はそういったものだ。

 

 

 

 てなわけで、今回のケース。つまり艦そのものがまるっと飛ばされてきたということ自体、マァマァ異常事態だったりするんだが。

 

 しかしこのチームの人員は押し並べて優秀。突発的な状況下に置かれようと、そうそう浮足立つことはないのだった。迅速果敢、円転滑脱。なんとも贅沢な話だな。

 

 

 

「…この初期段階にある第三惑星の姿には見覚えがあります。かつてスネーカーの本拠地へ、こちらから乗り込んだ局面において」

 

 ティモシーⅡブリッジ、正面モニターに大映しになったリアルタイムの外部画像。[原始惑星系円盤]から生まれて1億年に満たない第三惑星の、赤と黒とにブキミに燃え立つ姿を見て、まずはドライさんが口火を切った。

 

「恐らく現時点の年代は45億年前前後。この時期、スネーカーが移動拠点として用いていた第三惑星第一衛星に、かなり近い位置に転送された可能性が高いかと」

 

『ああ、今ドライが言ったことに間違いはない』

 

 ささっと裏取りを終えたらしき虎哲からも、追って通知が入る。

 

『そこは45億年前の地球から、だいたい20万km程度離れた場所だ。以前、エウロパ人のタイム・ホール発生装置の誤動作込みで、目的地の月本体からややズレた座標に飛ばされたときと、かなり近い座標に居る! 時間軸で見るとあのときよりも1500年ほど過去にあたるが、この頃には、スネーカーが直々に持ってきた月は既に地球の周りを航行中だった。後30分もすれば、無慣性フィールドに覆われたやっこさんが、有視界距離をよぎっていくことになるはずだ』

 

 念の為、艦の位置取りに気をつけておいたほうがいいだろうな、と続ける。

 

 超科学じみたバリア・フィールドが現時点の月全体を包み込んでいる。そのおかげで、肉眼視が可能なレベルのスレスレで向こうと交差しても巻き込まれるおそれは無いものの、万が一物理的接触が発生してしまった場合、当然ティモシーⅡの末路はヒサンなものとなりかねない。とのこと。

 

『相当大規模な局所性フラクタライズ・エラー反応が、あちこちで発生しているのが検知されている。しかし、どうもそのポイントは月面に集中しているようだからな。宙間領域はせいぜい言ってイエローゾーン。今のところ、スネーカーのメカなり何なりから、艦が直接狙われる心配はそこまでしなくて大丈夫だろう!』

 

 

 

 

 

 

 ドライさんと虎哲の言を容れた上で、ユキちゃんが簡潔に指示を飛ばしていく。

 

 艦の安定性確保、人員の対応準備の確認、その他諸々。

 

 艦の具体的な操船部分を手掛けるのは、当然ほとんどが操縦席にいるピラルである。今さらながらこの二人、なんだかんだ上司部下としての相性はそこそこ良いんじゃないかねえ。

 

 

 

 互いの種族が異なる以前の問題として、嗜好も、性格も、恐らく大いに違っている。その一方で、どちらも場面場面で細かな枝葉に頓着しない。結果だけを追求しがちな気質については、二人の共通点と言えるかな。

 

 

 

 もちろん、人員一名で運用可能なオートメーション・システムを備える、フォロル製航空航宙艦の優れた性能あってこそ成り立つ関係性ではあるんだろうが。

 

 それでも良き環境あってこそ初めて良き人材は輝くのだ。というのは、それなりに世にはばかった真理でもあろうさ。

 

 

 

 『恐竜惑星』のエンディング以降。フォロルとギラグールが共同歩調を取るようになってから、既に10年が経っている。

 

 両種族混成での組織運用ノウハウについては、バックグラウンドでしっかりとした蓄積が為されてきたらしい。この場におけるユキちゃんとピラルの関係性からは、そのあたりをしっかりと窺い知ることができるのだった。

 

 

 

「げっ……」

 

 さておき、早速イレギュラー発生らしい。

 

 慣れ親しんだ楽器でも奏でるかのように。キーボードや立体ビジョンの上を軽快に動いていたピラルの両手が、突然止まった。

 

「どうした、ピラル・キラ・ピロム」

 

「衛星コンピュータ、タイタンとの通信途絶。さっきの強制転移と前後して、本艦から彼女へのコンタクトが、一切取れなくなりました」

 

「なにっ?」

 

「白亜紀前期の基地メーン・コンピュータに対する補助体制は継続しているようです。そのため個々人のバイタル管理などに支障はなさそうですが……この頃の作戦行動においては、本艦(こっち)の計算処理についても、彼女のバックアップに頼りがちだったことを踏まえますと。マニュアル通りの立ち上げをする場合、進捗に少々遅れが出てしまいそうですね」

 

「…分かった。外部環境の捕捉はメディア・ステーションのオペレーター、いずれかに委任せよ。本艦は、30分後の月とのフライバイを最優先事項とする」

 

「了解、引き続き取り掛かります」

 

 

 

「……何か、企みあってのことと思うか?」

 

 ピラルからの報告につき、ユキちゃんが左隣りに立っているハルに意見を求めた。

 

 身につけたヘルメットの側面ボタンを操作していたハルが、右手を降ろして身体ごと向き直る。

 

「はっきりとしたことは言えない」

 

 開口一番、結論から述べる。

 

「ただ、ここの地質年代が、ヒト種の時系列で言うところの45億年前であるとするならば。スネーカーの介入による衛星コンピュータの発生が、それよりも未来であった蓋然性は高い。従ってタイタン(あれ)が、現在時刻において未だ存在しないという事実が、超時空通信の断絶という形で表面化した可能性がまず考えられる」

 

 

 

 繰り返しになるが、ジーン・ダイブに代表される「バーチャル世界内における何らかの系譜」を辿る形式での時空間移動は、力技で繋げた空間同士を行き来するタイム・ホールよりも、コスパ面で優位に立っている。

 

 プグラシュティク世界から派生した歴史線に存在するピックから、過去バーチャル世界の恐竜人類基地や、ティモシーⅡに対する計算リソースの貸与。

 

 つまり先だって成立した賠償的取引。これを実施するための方式として、40数億年前に初めて生成され、緩慢な内部進化を続けてきたピックの存在という連続性そのものを、一種の通信ケーブルモドキとして用いているってわけだな。

 

 

 

 45億年前の今だと、そいつが途切れてしまって遡れない。そのせいでティモシーⅡへの遠隔支援が途絶えてしまったってこと。なのかもしれない、ハルの言の内容としてはだ。

 

「むろん現時点で得られた情報のみでは、あの自生的無機秩序体が、何らかの意図を持って能動的に通信を遮断したというケースを排除すべきではない。しかしながら、これまでのあれの傾向性を鑑みると。このタイミングで我々に対し、表立った敵対行為に及ぶ可能性は、低いものとは思われる」

 

 

 

『そいつについてはオイラも同感だな』

 

 と、虎哲も横から口を挟んできた。

 

 ちなみにアキラはというと。今ごろピラル経由でメディア・ステーション側へ振られた哨戒任務に、全力投球させられているんじゃないだろか。苦労人だねえ、彼は。

 

『これまでのピック……衛星コンピュータ「タイタン」の行動パターンには、やつの作りヌシ、すなわち、スネーカーが長年本能的に手掛けてきた作業に近しいものがあったように思える。バーチャル世界を結節点として接続された、オイラたちやお前たちといった各種族文明のデータを収集する。その上で保管、ないし独自に解析しているってところか』

 

 判断材料は多ければ多いほどより良い。ただし、判断主体が取り扱える範囲に収まるその限りにおいて。

 

『スネーカーのように、バーチャル世界を通じて歴史改変を執り行う能力はないようだから、どこまでも受動的なものに留まっているがな。ともかく、ここに来ていきなりその方針を、切り替える意味があるとは思えない!』

 

「……フム」

 

 ユキちゃんはキャプテン・シートの上で両足を組むと、仮面の上に右手で頬杖をついた。

 

『そもそも、仮にあいつが今ココで豹変して、お前さんたちをまとめて血祭りにあげてみたってだ。任務失敗扱いで全員普段どおりにエラー空間内から叩き出されて、艦ごと基地に逆戻りさせられるだけで済んじまうかもしれんのだからな。このタイミングで後ろ弾撃つにしちゃあ、確実性が無さすぎて何のメリットも――』

 

 

 

 と、虎哲がビミョーにメタい発言を口走ったところで、突然背後の自動ドアが開いた。

 

 それとともに、見慣れた赤いジャケット等。アイ・スーツなし、いつもの外向けの格好をしたユイが、無重力空間を泳ぐようにしてブリッジへと飛び込んできた。

 

「ごめんなさい、パックが。……えっと、さっきゲンゴロウの中にいたとき、突然パックがジーン・ダイブで飛んできたんだけど」

 

 確かに彼女の両腕には、黄色くて茶色い毛玉一匹。パック・ロブがしっかり抱きとめられている。

 

 

 

 久々の出番だな。っていうか、現物としてはここが初登場か。中身はさておき、見た目自体はたいへんかわいい。

 

 

 

 ブリッジ人員の目線の多くが、今や一斉にユイのほうを向いている。浮かんだ状態から床へと降り立ち、ちょっとどぎまぎしてから、彼女は続けた。

 

「何か伝えたいことがあるらしくって。今、大丈夫だったかしら?」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 今回、遊撃チーム全員をこの時代に呼びよせたのは他ならぬパックである。

 

「ま、結論から言わせてもらうと、だいたいそういう話になるんだよ」

 

 月で起こっている大規模エラー現象解消にあたり、長丁場になりそうだったから。そして彼自身もまた、現場でヘルプするつもりでわざわざジーン・ダイブでやってきた。……らしい。

 

『おい、パック!!』

 

 パックからのざっくりしすぎた説明を受けて。ブリッジ人員のほとんどが抱いたであろう疑問を率先して口にするのは、やっぱり付き合いの長い虎哲の役割だ。

 

『お前さんが、情報生命体としての生来の特殊能力でもって、現状のバーチャル世界で起こってる異常事態に対し、ある程度干渉できるってことは分かっちゃいるがな。しかし、どうも今の言いぶりだと、これまでのフラクタライズ・エラーにまつわる一連の不可解な現象。その大本に、お前さん自身が一枚噛んでたってふうに聞こえるぞ? どうなってんだ、そこんとこは!』

 

「んー、あ~……ノー・コメント」

 

 引き続き、交差するユイの両手に引っかかるようにしてブラ下がっている。そんな姿勢のまま、パックは億劫そうな表情を作ってそう投げっぱなした。

 

 いやぁ、何とも酷い言い草だなあ。当然虎哲はキレ芸をやるわけだ。

 

『はァ!?』

 

 

 

「悪いけど、ちょっとばかし話しづらいことなんだ。それに今、それどころじゃないんだよ」

 

 しかしパックは追求を袖にした上で、そのまま、返す刀で無理やり話を押し込んでくる。

 

「知っての通り、45億年前の月を中心に、地球圏全体にフラクタライズ・エラー現象が起こってる。規模がバカでかいし、月表面でエラー吐いてる連中も、どいつもこいつも全部スネーカーのメカベースなんだぞ? 各基地にいる他の連中じゃあ、引っ張ってきたってぶつけた端から溶けてくのが見えてる。時間と労力のムダってやつだね」

 

 基本的に現時点でのパックは、『ジーンダイバー』におけるエンディング時点のステイタス。つまるところ情報生命体としての本来の人格と、パック・ロブとしての人格が統合されて以降であるため、マスコット然とした見た目や口調とは裏腹に、なかなかの食わせ者と化している。

 

「それに、今回でラストなんだ。大盤振る舞いしても問題ない。ティモシーⅡ(こいつ)なら、前にゲンゴロウで無茶したときみたいなことをやらなくたって、最大戦速でフツーに月まで乗り込めるだろうしさ」

 

『……』

 

「その上で、オレがオレ自身をネットワークのハブにして、フォロル基地のセントラル・プロセッサとこいつを超時空通信で繋いじまえば。情報処理の面でも、盤石な態勢がとれるってわけさ。最後の最後で、出し惜しみしてヘタをうつなんてバカらしいだろ? そのためにオレ、わざわざ生身でここまで飛んで来たんだぞ」

 

 

 

「確かに、その方面でのヘルプ自体はたいへん有り難いことではあるね」

 

 と、ふいにピラルが呟く。これといって裏のなさそうな、現状への感想をそのまま零したって感じの言い方だった。

 

「ちょうど、さっきまで頼りにしてた後方支援がおじゃんになったところだし? 手持ちリソースの心もとなさは否めなかった。たまたまだけど、渡りに船ってやつだ」

 

「? ……まぁいいや。そんじゃ早速、始めさせて貰うからな!」

 

『お、おい! 話はまだ終わっちゃあ――』

 

 

 

「繰り返すけど、今はあんまり時間がない。それに心配しなくったって、今回の件が一通り片付いたら、話せることについてはそのときまとめて話してやるよ。よいしょっと!!」

 

 そう言うが早いか。パックはユイの両腕から飛び出すと、ユキちゃんのキャプテン・シートのすぐ近くへと降りたった。

 

「あっ、パック!」

 

 

 

 大丈夫だよ、任せときなって。ユイに向かって、振り向きざまにそんな仕草を挟みつつ。

 

 パックは四つ足をピンと伸ばして、ブリッジの甲板の上に立った。

 

 

 

 目を細め、正面やや上を見上げる。続いて額の中心から、半透明の糸をするりと引き出す。

 

 情報生命体固有の、反則的なハッキング・ツールの糸先だ。目指すはキャプテン・シートのアームレスト付近に備え付けられた、小ぶりなフォロル製コンソールである。

 

 一瞬ユキちゃんが仮面の裏で目を細めたが、彼女としても目下の優先順位は心得ている。パックが接続しやすいように、左手の甲を使い、アームレストを僅かに横へと押し出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……うーん。こうやって見返してみても、なかなか強引な話運びってふうではあるなあ。

 

 とはいえ、パックがバーチャル世界内から超空間、ないし超時空通信を用いて遠隔地や外部に情報を転送する能力を持っている。そのこと自体は『ジーンダイバー』本編でも、度々実証されていたりするんだ。

 

 

 

 そこからさらに情報生命体としての記憶の覚醒も挟んでいるわけで。スペックアップの結果、彼ならこれくらいのムチャは遣ってのけるってことにしても、そこまで問題はないのかもしれない。

 

 

 

 ちなみにこのシーン、シナリオ的に見て重要なポイントがひとつある。

 

 パックがピック、つまり衛星コンピュータ『タイタン』の存在をしっかり認識していない。また今回、急ぎの仕事に追われていたせいで、そこらへんの追求が相当疎かになっていたってところだ。

 

 

 

 後ほど、ワールド8のプレイヤー用ロビーと化したティモシーⅡ内で、NPC各人に話しかけることで分かるんだが。さっきのタイタン(ピック)音信不通の件につき。ブリッジ内の人員間で、このあと追加の討議が行われたらしい。

 

 まず前提として、ピラルがフォロル基地との交信を済ませた。その際に得られた事実関係から。さっきのハルの推測――現在地が45億年前であることで、ピックという存在の系譜が辿れないせい――で、大筋問題なさそうだという結論に落ち着いたという。

 

 

 

 しかし、そのとき既にパックは予定していたネットワークの接続作業を終えて、ユイに連れられゲンゴロウの方へと戻ってしまっていた。

 

 今後のストーリーの展開上。この点についてはプレイヤー側がしっかり抑えておくべきポイントだと言えましょう。

 

 

 

 要するにパックは、現時点でピックに関するひと悶着のことを……ていうか。そもそもピックという存在そのものにつき、彼は良く知らない、知り得ていないということを、だな。

 

 

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