恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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マスコットたちの今昔

 

 

「…かっ、わいーい!!」

 

 頭のてっぺんから抜けるような声で、萌さんが叫んだ。

 

 

 

 リックくんを操作して、ブリッジからのファストトラベルでティモシーⅡの1F格納庫マップに入った途端にコレである。

 

 妙にスリットの多い薄藍色の鋼板に、リノリウムめいたペールグリーンの床材等など。その手の建材で組まれたカーゴ・スペースの、正面右側にゲンゴロウ。逆サイドにフォロル製戦闘メカ三機が狭苦しく並んでいる。

 

 そんなフロアの奥側に居た萌さんが、にわかに早足となって、入口付近にまで駆け寄ってくる。

 

 

 

 つっても、彼女の向かう先はリックくんじゃなく。頑丈な横開き扉を固定する金属製ケーシング枠を踏み越えて、出入り口から少し先に進んだあたりに立っているユイのところだな。

 

 個人的意見だとリックくんだってしっかり可愛いんだけども、別にプレイヤーキャラがギガント男のマッシヴゴリラだろうと、このタイミングでの彼女のセリフは変わらないのだ。

 

 そもそもファストトラベルを挟んだ直後のリックくん本人は、現時点だと、まだ格納庫のフロア内に表示されてすらいなかったりするし。

 

 

 

 

 

 

 先んじてゲンゴロウ内部へ戻っておくべく、ブリッジから格納庫入りしたユイ。ひいてはその腕に抱かれたまま連れられてきたパックのことを萌さんが目撃、今の歓声へと繋がったって流れかと見られる。

 

 ユイのすぐ目の前まで来て、浅くしゃがみ込む。両脇の下をホールドされる形で、両足をだらんとさせているパックと、萌さんの目線がほとんど同じ高さになった。

 

 

 

 心なしかキラキラした笑みを浮かべつつ。パックのヒスイ色の瞳を、正面からまっすぐに見つめる。

 

 いやはや、なんとも期待と願望に満ち溢れた目をしていらっしゃる。

 

「はじめまして! あなたがパックくん?」

 

「お、おう。そうだけど?」

 

 ビミョーに狼狽え気味になっているパックに対し、萌さんはというと、右手の人差し指をそっと差し出す。

 

「これまでは声だけしか聞いたことがなかったのよね。本当にヌイグルミみたいな仔だったんだ! 私は萌、結城萌よ。今回は、よろしくね」

 

 

 

 ちょっとの間が空く。しかしやがて、程よく爪の伸びた左手で、パックが萌さんの指をつまんだ。わぁっ、と、萌さんの笑みがひときわ華やぐ。

 

 ……未だに彼女も二十歳そこそこ。これまでのデキる女戦士めいた雰囲気がにわかに薄れ、年齢相応の、女の子らしさが顕れているって感じかねえ。

 

「ああ、うん。あんたが萌ね、活躍のほどは伺ってるよ」

 

 そうして、握手っぽいやり取りが二方の間に交わされる。つんつん、ふりふり。

 

 

 

「よろしくな。なんか2チームに分けるって話だったから、現地じゃオレと一緒になるかは分かんないけど。ま、頼りにさせてもらうからさ」

 

 ちなみにパックっていうか、彼の肉体のベースとなってるパック・ロブは一応プグラシュティク文化圏に与する存在だが、現時点でのアイデンティティとしてはどっちかというと情報生命体側に寄っているから、握手というジェスチャーそのものに対して、特に思うところは無いようだな。

 

 そもそも『ジーンダイバー』劇中でも、彼の握手についてのコメントは、せいぜいプグラシュティクの性向を知識として知っている、という程度のものだったはずだし。

 

 ティモシーⅡ(ココ)に居る奴らって、どいつもこいつも妙なことやりたがるよなあ、くらいには思ってるのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 さて、目は口ほどに物を言う。引き続きしゃがんだ体勢で、ユイのことを見上げている萌さんのお求めは、言わずとも分かろう。

 

「……ねぇ、ユイちゃん? ちょっとお願いがあるんだけど~」

 

 

 

 関係良好な先輩格のひとりが、すぐ目の前で微笑ましいそぶりを見せているのに対し。当然、ユイとしても応じることに吝かでない。

 

 どうかしら? というよりも。構わないわよね? といった感じの目配せがパック宛に向かう。

 

 

 

 もはやパック個人の自由意志など風前の灯火。断るに断れない袋小路だった。

 

 生きたパックというよりも。パック型のホビー・アイテムが、レンタル用の品としてリボンでラッピングまで済まされていそうな雰囲気がある。

 

 

 

 もちろんユイとしても、萌さん的にも、何か悪気があってのことではないんだが……ともあれこの手の女性優位な盤面。マスコットポジションかつ野郎である彼の扱いがお座なりになるのはまぁ、やむを得まいさ。

 

 

 

 それでもパックは大いに勿体ぶった仕草を重ねる。ある程度焦らしておいてから。しょうがねえなあ、と小声で呟いてみせるのだった。

 

 己自身を納得させるための涙ぐましい抵抗。そんなところか。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう!」

 

 さっきブリッジにやってきたときの、人を食ったような振る舞いはどこへやら。パックの身体は敢え無くユイから萌さんの手に渡り、身の程を弁えた一個の愛玩物体と化すのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 ワールド5から間をおいて、再びワールド8においてもロビー役に抜擢されたティモシーⅡ。引き続き内部マップは四層構造、前と比べてNPCや備品の位置取りが細々変わっているって程度だ。

 

 設定上、フロア自体は他にもいくつかあるっぽいんだが。ロビーの一部として実装されているのは「3Fブリッジ」、「2Fリビング・ルーム」、「1F実験&研究室」に、ステージへの入場&他ワールドへの移動ポイントを兼ねている「1F格納庫」の四箇所である。

 

 

 

 なんで、今回の主人公同士の交流イベント発生は、ゲーム進行にあたって事実上強制されているんだな。

 

 シーンのスタート・フラグを確実に踏むことになる。ロビー内のステージ入場&ワールド移動用ポイントに向かおうとすると、絶対に「1F格納庫」入り口付近を通過する必要が出てくるからだ。

 

 

 

「ふふっ、良い手触り。もうちょっと、ゴワゴワしてるんじゃないかって思ってた」

 

 やや丸まった体勢で仰向けにされたパックの身体を、両腕で抱えて立ち上がる。そのあと右手の先で、喉もとを優しく擽っている。

 

 そんなふうな取り扱いを受けて。パックは嫌がっているってほどではないものの……なんていうかさっきから、慣れきっていない飼い猫が構い倒されて、憮然としてるって感じの顔つきだった。

 

 

 

「でしょう~。機会が有れば、あたしからもなるべくブラッシングしてあげてるのとー。それに、パックもけっこう綺麗好きで、よくよく自分で毛づくろいしてるのが大きいみたい」

 

 ちょっとばかし得意げになってユイが言う。ウチの子自慢って感じでマァ、微笑ましいこった。

 

「でもね、水浴びとか、お風呂とかはすっごく嫌がるんですよ? もう、びっくりするくらい。たまにはちゃんとシャンプーつけて、キチンと洗ってあげられたらなって、ずっと思ってるんだけど」

 

「べっつにンなことやって貰わなくったって、オレ一人でどうとでもなってるって。この身体じゃあ、背中まで届かない箇所がちょっとだけあるから、そこんとこブラシ掛けてくれるのは有り難いけどさァ……」

 

「そーお? せっかくアキラがデータ化して送ってくれてるんだけどなあ、ペット用シャンプー」

 

 

 

 要らない要らない絶対要らない。左右に激しく首を振り、全力で拒否する姿勢を取るパックであった。

 

 原作中でも中新世前期の日本で、海に入るのを殊更嫌がってた描写があったな、そういや。虎哲からはアキラともどもカナヅチ弄りのターゲットにされていたし、ストーリー的にしばらく後の暁新世西アジアじゃあ、浅瀬にジーン・ダイブさせられて見事濡れネズミになってたりもしたが。

 

 

 

 おそらくパック・ロブって生物種は、プグラシュティクの先祖(エピガウルス)やモデル生物(プレーリードッグ?)同様。グレート・プレーンズのような降雨量の少ない乾燥地帯の生息動物で、水分摂取は食物からで十分賄えるために、あんまり大量の水には馴染みがないんだろうな。

 

 ユイとの初遭遇時には、森の中の洞窟を棲み家にしていた描写もあるが。あのときはプグラシュティク連中に追い込まれて逃げてきたというのが、本人の言だったはずだ。

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、そこはレイとは違ったところよね。あの子はあんまり、濡れることには抵抗なかったはずだもの。昔、ジュラ紀のどこかの水辺で一緒に水浴びしたりもしたっけ」

 

 一方でレイ。つまり、フォロル族の直系祖先たる最初期の草食恐竜人類(レエリナサウロイド)

 

「やっぱり育った環境や、生まれ持った習慣の違いなのかしら? 身体の大きさとか、あと毛並みの柔らかさなんかは、昔のあの子も、パックくんとそんなに変わらなかったのにねえ」

 

 

 

 『恐竜惑星』のマスコット、兼メインキャラクターの一人たるレイは、道具や言葉の使用が見られることから、ヒトで言うところの最古の[ホモ属]に相似する存在と見られる。

 

 生息年代的には恐らく、白亜紀末期の大絶滅が起こらなかった歴史線の新生代初期。ヒトへと至る歴史線においては[古第三紀]に属する、暁新世~始新世のあたりに位置するだろうか。

 

 

 

 往時にはまだひと塊だったオーストラリア・南極大陸は、南アメリカ亜大陸と切り離されてから間もない頃。豊富な生物相で知られる現代[マダガスカル]と、そう変わらないくらいの緯度に在ったはずである。

 

 永久凍土に覆われた現代の風景からすれば、まさしく隔世の感がある。掘削リグを用いた南太平洋海底探査によって得られた、花粉化石の内訳などに拠ると……後期新生代の氷河期サイクルへの突入以前。まだまだ地球全体の気候が温暖だったことも相まって、場所によっては、熱帯雨林中心のジャングルが生い茂っていた可能性すらあるとのこと。

 

 

 レイが、パックと違って水を恐れないのはそのあたりから来ていそうだな。

 

 彼の属する種の生息年代には、オーストラリア・南極大陸。並びに[ジーランディア]と呼ばれる、ニュージーランドあたりを中心とした現代では海中に没している亜大陸級大陸地殻――この手の元陸地の現状大陸棚というのは地球上に数多く存在し、また水没事由も様々である。比較的最近のものだと、最終氷期の終わりとともに南シナ海に沈んだ[スンダランド]あたりが有名所か――においては、グレート・プレーンズなんかとは比較にならないほど、水分豊富な住環境が広がっていたってことだろう。

 

 

 

 

 

 

「レイっていうとー。確か萌さんたちと、昔、一緒に冒険したっていう仔でしたっけ?」

 

 と、ユイが自分の右頬に人差し指を添え、思い返すように呟いた。

 

 ヒト文明が恐竜人類との再接触を果たしてから間もないVWOの時系列だと、両種族間の交流関係は、まだまだ取っ掛かり程度に過ぎないはずではある。

 

 ただし、メディア・ステーション所属のユイも一応関係者としては最前線であるため。向こうさんの歴史的経緯≒『恐竜惑星』原作の顛末につき、前もってある程度は把握済みってことらしい。

 

「そうそう! そうなのよ」

 

 萌さんは萌さんで、仄かに誇らしげな顔つきになって言った。子煩悩まがいのスタンスは、両主人公のどちらもそこまで変わらんみたいだねえ。

 

「頭の良い子でね~。この前、久しぶりに逢うことができたんだけど、あの子、今では向こうで群れのリーダーをやってるんですって。あどけなかった子どもの頃と比べたら、ずいぶんと凛々しくなっちゃって」

 

 

 

 そう言いつつ、萌さんはパックを片手抱きに抱え直すと、左手の指先で耳元のインカムをつんつんと突いた。

 

 今ので内蔵システムの機能スイッチがONになったらしい。微かな駆動音とともに、インカム外部カメラの絞り部分が動作し始める。

 

 

 

 レンズから指向性付きの光が漏れ出すのを確認した上で、そのまま身体ごと壁ぎわを向く。

 

 格納庫フロアの壁の鋼板を、スクリーン代わりの底面とする。インカムから投射された光は総じて四角錐の形を取り、全体的に多少彩度が薄まってこそいるものの、問題なく視聴可能なムービー・シーンが、一般的なホワイトボードくらいのサイズで投影される。

 

 

 

 そこには、原作エンディング時点から、だいたい10年の時を経たレイ。フォロル族の直系先祖たるフェリロの成体が映っている。

 

「これが、今のレイね。昔はパックくんみたく、片手で抱えられるくらいだったのが。最近逢ったときにはもう、こんな感じになっちゃってたのよ」

 

 萌さんが再会時にも身につけていたらしい、インカム視点での撮影だな。

 

 フォロル、ギラグールの両恐竜人類文明から、ヒト文明に対する先遣使者として。レイが、ハルと連れ立ってフォロル輸送艦の前部ハッチから現れ、喜色満面、萌さんの側に向かって走り寄ってくるってシークエンスだ。

 

 

 

 

 

 

 だいたい体高は現代ポニーとトントンってくらいか。胴体周りがだいぶん華奢ではあるけど。

 

 引き締まった両足に、頑丈そうな尻尾。一方で、両腕の先には関節部が繊細に発達した四本指が伸びている。

 

 いわゆる中型草食獣らしい体躯というやつで、靭やかな全身の筋肉が、薄い紫色の体毛で丁寧に包み隠されている。

 

 

 

 性成熟を果たし、フォロル族の進化の歴史を確定させてから、更に発達段階を進めたれっきとした成体。実際、萌さんを前にしてのオーバー・リアクションっぷりを抜きにすれば、中々のオトコマエになったと言えよう。

 

「わぁ~……スラっとしてる。カッコイイなあ」

 

 幼獣だった頃よりもかなり低まった声で、萌さんの名前を呼びながら。喜びのあまりに周囲をくるくると纏わりついてくるレイの形貌に対し、ユイからの感想は、概ね良好のようだった。

 

 

 

「ホント、慕われてるんですね。すっごく嬉しそうにじゃれついてきてる」

 

「歓迎しすぎでモミくちゃになってんじゃんか……」

 

「たはは……普段はもっとリーダーらしく、キリっとしてるってことなのよ? とっくにお嫁さんも、子どもだっているって話だしね。ただ、その、ほんとうに久しぶりに逢えたものだから。私もこのときは、すっかり感極まっちゃった」

 

 

 

 

 

 

 そこから、10秒あまりでムービーは終わった。

 

 再会した後の細かな顛末、レイやハルの先遣大使としての具体的な活動なんかは含まれていなかった。

 

 あっけないもんだな。もともと、インカム内部に記録済みのデータ自体、そう大きなものではなかったわけだ。

 

 

 

「見ての通り、もうパックくんみたいに抱っこするのは無理があるわけなんだけど……あっ、でも」

 

 薄白く光るだけとなった映像投射を、もういちどデバイスの側面をつついてオフにしながら。少々湿っぽくなっていた萌さんの表情がくるりと変わり、ユイに向かって明るく告げる。

 

「ユイちゃんくらいの体格なら、背中に乗せてもらったりなんか出来るんじゃないかしら。走るときは背筋をピンと水平にするから、けっこう乗り心地は良いんだそうよ?」

 

「ホントですか? それってつまり、乗馬みたいに?」

 

「ええ、そんな感じね」

 

 

 

 さっきの映像のあと、私もレイから乗ってみてってせがまれたんだけどね。と、萌さんが苦笑いめいた微笑みを浮かべてみせる。

 

 ポニーサイズかつ細身となると、背丈大きめの成人女性が乗るのは、少々躊躇われたってことだろう。

 

 ウェイトの問題もあるか。その点、ユイくらいなら乗り手として程よいあたりに収まるんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 誘われた側は興味津々。乗ってみたい、是非お願いします、とユイが前のめりになって片手を上げる。

 

 『ジーンダイバー』劇中でも、パックの仲介でイルカの背中に乗せてもらってアウトドアを満喫していたあたり。あんがい彼女も、その手のアクティブな趣味とは親和性が高い人間なのだった。

 

「オッケー、機会があったら紹介したげる。近いうちに、ギラグールの最新技術を使って、地球と向こうの本星(おとめ座β星の系列惑星)との間に安定したワーム・ホールを開くんだってことらしくて……っと」

 

 

 

 と、ここまできてようやく。プレイヤーキャラたるリックくんが、フロア内に姿を現した。

 

 開けっ放しだった「格納庫」の入り口をくぐって、すぐに立ち止まる。

 

 彼の視点からすれば。ステージへの入場&移動用ポイントを兼ねる、頑丈な隔壁でブロックされたフロア奥の射出口までの道のりに、ユイと萌さん(+パック)が屯っていたせいで、通りづらくなってるって感じの配置だな。

 

「……あっ、ごめんなさい。後ろがつっかえちゃってた」

 

 振り向いたユイが、慌てて脇に何歩か譲った。ありがとう、悪いね、的な仕草をリックくんが取る。

 

 

 

 壁寄りの場所に立っていた萌さんは、位置的にそこまで通行の妨げにはならない。

 

 どうも~、と挨拶めいたジェスチャーを取ろうとしたところで、彼女は自分が相変わらずパックを抱いたままでいることを思い出す。

 

 ちょっとの間、抱きとめたパックに視線を落とすと。ニッと笑って、すたすたと逆にリックくんに向かって近づいていった。

 

 

 

「リックさんも抱っこ、してみます? 可愛いでしょ」

 

 リックくんがちょっとだけ驚いたような顔をする。パックはというと明確にギョッとしている。

 

 両手でずいっと差し出され、アップになったパックの腹回りを背景に。いつものYES/NOの選択肢が出てきた。

 

 

 

 抱っこしますか、しませんかってことだな。……ま、ここはYESを押しとくとしますか。ムダなんだけどねー。

 

 

 

 というのも、こっちが喜び勇んで手を伸ばしてみても。プグラシュティクのリックくんでは嫌がられてしまい、暴れだしたパックは萌さんの両腕から脱出。

 

 そのままユイの方へとスタコラ逃げていってしまうんだな。うーむ、残念でした。

 

 

 

 

 

 

「きゃっ……どうしたの、パック?」

 

 ユイの首周りでマフラーのようになって、露骨に警戒した様子を見せるパックである。こんにゃろう。

 

「さっきからもう、勘弁してくれよ。四本足が自由じゃないってだけで、正直結構不安になるんだぞ。サービス期間はおしまい!!」

 

 

 

「あらあら。ごめんなさいね、パックくん」

 

 萌さんが背後を振り向いて平謝りした後に、元通り正面へ向き直った。

 

「リックさんも。勝手しすぎちゃったかな、すいませんけど、また次のサービスタイムが回ってきたときにってことで」

 

 気にするな、といったふうに、リックくんも微笑んで片手をひらひら。ま、プレイヤー的にじゃなくてリックくん目線だと、そこまで本気で言ってたわけでも無かったんだろうさ。

 

 

 

「また次ってなぁ……ったく。あんまり気乗りはしないけど、なんか美味いもんでも供えてくれるってなら、そのときの気分次第で考えてやるよ」

 

「美味しいものって、お魚とか?」

 

 と、ユイが自分の右肩口のあたりにある、パックの顔を見ながら呟いた。

 

「ああ、まぁ、そんなとこ。しっかり俺の好物をリサーチしてくること。あ、ただし、前に古生代で獲ったやつみたいな、パッサパサしたビミョーなやつだったら絶対認めないからな!」

 

 歯ブラシみたいな舌触りってやつか。生きている化石として有名な[シーラカンス]もそんな感じで大概な味わいだそうだが、時代柄を考えると、デボン紀の生魚もだいたい似たような水準だったのかねえ。

 

 

 

 

 

 

 ……ちなみに。別に今の拒絶は、未だにパックがプグラシュティクを嫌っているってことを示す描写ではない。

 

 リックくん個人。つまりプレイヤー・キャラクターに対して何か思うところがあるってわけでもない。

 

 

 

 というのも、キャラクターの種族選択次第によっては、この場面でも普通に抱っこさせて貰えるらしいのだ。

 

 抱っこするために必要となる要件。それはこっち側がヒトの女性、若しくはギガントの女性のいずれかであること。

 

 

 

 電子装置に記録された1と0の羅列である情報生命体として、実体を持たないということになっているパックだけれど。その状態にまで至る前段階においては、実在する有機的な肉体を、ちゃんと持ち合わせていた時期もあったのだった。

 

 

 

 『ジーンダイバー』劇中でも、そのビジュアルはちょっとだけ登場していたりする。

 

 背中に透き通った羽根が生えた、極めて小柄の男の子といったふうで、さながら「妖精」として思い浮かべるテンプレみたいな容姿である。

 

 かつてティルたちがパックのことを「ピュイクシー」と呼んでいたことからも分かるとおり、モデルはそのまんま[ピクシー]だ。

 

 ティル([ティル・ナ・ノーグ])といい、リャナン・シー・ノゥオ([リャナンシー])といい、連中の固有名詞は主にケルト神話から引用されている。

 

 

 

 そんなパックの美意識、ないし異性の好みも当時から丸ごと引き継がれてきている。したがってスタンダードな人型をしているヒトないしギガント、かつ性別が女性であれば。自分を抱っこさせてやることもやぶさかでないと、そういった事例っぽいのである。

 

 よーするに、パックって。かわいいマスコット枠と思わせておいて、実はわりと欲望に素直っつーか、ある意味エロガキ、エロオヤジめいた感性を持ち合わせているとも取れるわけだな。

 

 

 

 ……うん、まぁ、忘れておくのが皆さん幸せ。マスコットの中身には綿か何かが詰まっているんだ。そう考えるようにした方が、たぶん、世の公益に資する事例かと思われまする。

 

 

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