恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します 作:あーぷ
「わたしも王家の騎士だ。躊躇いはしない!! とあーッ!」
スネーカー本体のタゲがティルに向かっている隙に、
そのままチェインを維持しつつ『ドレッジング・ダンス』のドリル連撃を挟み。最後はバクステ位置調整の後、『スプラッシュ・ピアース』の昇龍拳で〆るっと。
DoT――『ドリル内蔵バーナー放射』による炎上状態異常。機械体のスネーカー本体相手にはガッツリ通りが悪くなる――無しVerのプグラ用フルコンを重ねまくって、10本近くあるラスボスHPゲージを地道に削いでいきましょう。長丁場です。
「キャノンで援護する!」
で、相対比で大きくダメージを稼ぐと、途端に敵視がこっちを向くわけだ。
敵NPCの仕様に忠実。いつも通りって言えばいつも通りではあるんだけれど、普段よりも味方NPC諸賢がイマイチ頼りにならないため、プレイヤーに掛かる負担感がいや増す雰囲気濃厚だねえ。
『無駄だ』
真っ赤な目玉が露骨に向きを変えてくる。星型エンブレム付きのチェスト・アーマーに覆われたリックくんの鳩尾あたりを目掛けて、スネーカーののっぺりした虹彩中央から、『アイ・レーザー』が続けざまに飛んできた。
捏造技の触手ぶんぶんも間に何本か挟まってるな。『ハイディング・アサルト』の遠距離攻撃無効を活かしつつ、ドリアタかイカ……もとい。『スプラ』の単発当てで、コンパクトにダメージを取っていこう。こういうときこそ基本が大事ー。
「援護する!」
「とあーッ!」
「……ピラルの二の舞は避けねばな」
おっ。今のは、フィラが『フォトン・キャノン』撃つときのレア台詞だぞ。
『恐竜惑星』中盤のエピソード。カタイ潜入救出作戦時、ギラグールの野営地から脱出する折に、ピラルがキャノンを誤射して隣のフィラごとセルフ目潰しを食らってたことへの言及だと思う。目の前真っ白ってかぁ……って。あーあ。
『お前たちの情報はすべて保存され、継承される。――計画を続行する』
どーん。
「……くッ、わたしとしたことが。離脱する!」
いつもの『広域磁場壊乱』ぶっぱ。アサルトからのドリアタ連携後の硬直で身動きが取れず、セーフゾーンも遠かった。
全方位AoEに対して局所的な詰み状態に陥ってたっぽいティルが、ものの見事に巻き込まれてった形となる。
紫色のアーマー姿が、明後日に飛び退って画面外へと消えてゆく。10秒少々のジーン・ダイブ待ちへと強制ご招待ってことであるよ。
ただまぁ今回はフィラが運良く避難に成功している。おかげでいちいちケアしなくても、勝手に戦線が立て直されているパターンだな。
「援護する!」
リックくんに足すことのティル&フィラ。このメンツなら流石に安定だ。
HPゲージの束をある程度ずつ削った時点で、敵さんの攻撃パターンが段階的に激化してくってことを勘案しても。現状ママでじわじわライフを削ってけば、制限時間内に十分倒しきれるものと見られる。
いやあ、順調。いけるいける。
……しっかし、やっぱりドライさんに戦力外通告を出さざるを得なかったのが悲しいよなあ。
仮に、キャラクター操作能力が自分よりも上のプレイヤーが、事前に装備強化等を重点的にこなしてから臨むのであれば。現メンバーから更にフィラout、ユキちゃんinくらいなら何とかなるかなって感じはある。
プレイヤー側で巧く立ち回って、スネーカーの射線をしっかり誘導する。そうすれば、バッタ戦法主体の彼女なら、敵本体の背面に張り付き続けてソコソコ殴りに行けるはずなので。
例のごとく相手が巨体なせいでユキちゃんの空中コンボなんか一切入らないわけだが。そのぶん、コンボ始動の地上蹴り上げ→チェイスジャンプが連発され、このチェイスジャンプ時にそれなりの長さの全身無敵が付いているのがミソである。
チェイスジャンプの仕様上、空中でモーションをキャンセルして別スキルに繋いでしまうとその時点で無敵が切れる。
なんだけども、今回のスネーカー本体みたいに相手がデカブツで微動だにしないケースだと、追撃ができないことからユキちゃんはしばしば空中で追加のアクションを行わない。つまり無敵付きジャンプの状態で、ふわっと浮き上がり続けているってことが多い。
空コンをスカって滞空しているタイミングで、『壊乱』が飛んでくれば儲けものだ。AoEダメージをスカした上で、着地後に攻勢を継続していくことができるので。
だいたいAoE2~3回につき一回くらいかね? 普通にセーフゾーン入りできるケースも考慮に入れれば、スネーカー本体戦におけるユキちゃんの生残性は、恐らくNPC六名中、萌さんに次ぐくらいの水準があるように思う。驚き桃の木ナントヤラだ。
打って変わってドライさん。さっきまで彼込みでチャレンジし、クリア失敗を連発してきたわけだが。正直、あの人、現行仕様だとマジでどうしようもないんじゃないのか……?
復帰にタイム・ホールを用いることから、エウロパ人が死ぬと他よりもタイムロスが大きいってのは周知の通り。
ワールド7前との比較で大幅に復帰時間が短くなっていてもなお、30秒前後の一時離脱を余儀なくされる。今回、そのデメリットの足の引っ張り具合が致命傷レベルに達していたって感があった。
どのキャラであっても離脱&復帰にあたってある程度はもたつく。したがって離脱時間30秒の、更に前後10秒くらいが木偶の坊タイムだ。
死亡時に切れたバフを積み直したり、位置取りを整えたりするのにも時間は入り用。そして、定期的にぶっ放される『壊乱』のインターバルはたかだか一分半程度にすぎない。
AoE食らって退場。戻ってきて下準備してから戦線へ。再度殴り始めた直後にAoE食らって退場……とまー、ものの見事なヨーヨー状態に陥っていた。
たまたま近場にセーフゾーンが発生して安置に滑り込めたって場合を除くと、彼がダメージを稼ぎ続けられるタイミングはほとんどゼロである。ゆえに彼がPTにいると、死亡時ペナルティだけがひたすら嵩んでいくことになるのだった。
おかげさまで、VWOラスボス戦におけるドライさんは、事実上、スネーカー本体のHP増加装甲だったと断ぜざるを得ない。お労しや。
……うーん。サービス開始後、エンドコンテンツ部分を除いたバランス調整に関しては、内部数値の上げ下げが主な対処法だった本ゲーム。
AIを弄ったり、キャラクターの性能を差し替えたりは一切してこなかったと記憶している。しかしながら原作ファンを兼ねる一ユーザーの意見としては、流石に本件、許容範囲を些かオーバーしちゃってる気がするなあ。
原作メンバーを再現して挑もうとすると縛りプレイの極地ってぇのは、いくらなんでも。無情すぎる。後で文句ってか、要望を送っときましょうか。
タイム・ホールでの復帰時間を今よりも更に短くする。AIのルーチンや反応速度を強化することで、セーフゾーン入りの成功率にゲタを履かせてAoEへの対応力を高める。
現状のドライさんにはそんな感じの、何らかのアッパー調整が必須だろうと思われる。
実際、プレイヤー操作のエウロパ人キャラだと見通しは大きく異なる――狙い澄ました『汎用変形・緊急回避』でセーフゾーンに直行すれば、それだけでAoE避けを済ませられることが多い。エウロパ人の種族特性として、無敵避けはニガテでも、位置避けにはめっぽう強いのだ――んだから。そこまで大幅な仕様変更は必要ないと思う。
言うほどムチャ振りしてるって程でもないはずだ。たぶんね。
「とあーッ!」
……ところで、ティル。さっきから完全に
「とあーッ!」
立派にフラウ姉さん戦法は受け継がれているようである。うん。継がんでよろしい。
◆
分厚い束になっていた敵HPゲージを、とうとう最後の一本まで削りきると。ガクン、という派手な異音が辺りに鳴り響いた。
甚大な損傷により、フロアの照明ごとスネーカーの本体システムがシャットダウン。にわかに周囲の光量が落ち……まるで、舞台の天幕が半ば以上降りたかのような暗がりが、この場所に訪う。
見ての通り、赤い発光を繰り返していたスネーカーの目玉は、今や奥深いほら穴のごとき真っ暗闇だ。特徴的な回転運動も失われ、本体を囲う白いらせんの構成物体が、所在無さげに浮かぶのみである。
『止まっ、た……?』
『そのようだな。しかし、まだ気を抜くんじゃあないぞ!!』
恐る恐る呟くアキラに対し、虎哲からの指摘が飛ぶ。
武道における儀礼的しぐさではありつつも。決まり手後の残心ってやつには、それなりの合理性が備わっているのだった。
『前にこの状態になってから、やっこさん再起動して、ティルが背中から撃たれているからな。その後にユイが裏で交渉して、何とか丸く収めたって話だが……ユイ自身も記憶が朧げで、詳しい経緯は不明瞭なままだ。現状の異常事態下じゃあ尚のこと。ここからどうなるかなんて、知れたものじゃあないからな』
ティル、フィラ、そしてもちろんリックくんも。彼らにとってはわざわざ言われるまでもなく、手抜かりのない緊張感を当面しばらく保ち続ける。
……と、いったところで、ラスボス戦自体はクリアだな。お疲れさん。
いやー、手こずった手こずった。
ミスったの三回だっけ。四回だったっけ? ……ああ、四回か。ご教授どうも。そしてお目汚したいへん失礼致しました。
もし次やることがあったら絶対ソロだわこりゃ。難易度高めの終盤戦で動画映えなんて考えるもんじゃないなあ。やーれやれだ。
最終戦のリザルト画面だが、これまでのステージクリア後とはいささか趣きが異なる。
暗がりに浮かぶスネーカー本体の残骸をバックに。選択カーソルを動かす際のポインティング音すら鳴らない、無音状態が継続する。
そんな中、獲得金銭、経験値、取得アイテムといった普段通りの各項目が、一つずつしめやかに表示されてゆく。
項目の表示が最後まで済んだ。しかし、これまで各ワールドの最終ステージでのお約束であった World Completed の文言が出てこない。
しばらく待つと、リザルト画面を構成していた白い枠組みが、サラサラと崩れ落ちるように喪われる。そうしてそのまま、静けさとともにエンディング・イベントへと状況が移ってゆくのだった。
……個人的には嫌いじゃないな、こういう演出。厳粛にって言いますか。
『……どうやら、問題なさそうか』
虎哲が呟く。幸いにして、スネーカー本体が再活性するような事態とはならなかった。
「ああ。磁場は完全に消えている。アレを見る限り、エラー症状も収まっている」
と、ティル。右手のドリルの突端で、すっと頭上を指し示して言う。
『ジーンダイバー』最終話で撃たれた当人が言うんだから、これはもう信じてしまって大丈夫だろうさ。……まぁもちろん、この場にいるのが彼女じゃなくても似たようなセリフを言うんだけども。
『よぉし! 月面を中心として広がっていたフラクタライズ・エラー反応にも、明らかに沈静化の兆しが見られている。この傾向が継続するようなら、空間異常についても、じきに段階を踏んで解消していく可能性が高いはずだ』
周辺解析を行っていたらしい虎哲がそう結論づけた。それを受けてアキラが、良かったぁ、と今度こそ安堵の吐息をついた。
『……でも、そのわりに、バーチャル世界側からの転送処理が起こってないのがちょっと気がかりだよね。いつもならもう、ジーン・ダイブで基地まで送り返されても全然良い頃だと思うんだけど』
『そうだな。しかしマァ、パックのやつが言うことには、今回が最後だって話だったからな。そのせいもあって、細部にいくらか食い違いが出ているのかも……んっ!?』
「ジェネレーターのシャッターが、開いていく……?」
現地側で真っ先に変化に気づいたのは、ティルだ。
停止済みのスネーカー本体。その付け根部分の更に下方に位置する絞り式のシャッターが、軋むような駆動音をあげながら、ゆっくりと開放されていくのが目撃される。
『なんだなんだ。今さら弱点部分のガードを下げられても、だからどうしたって感じだが』
本来シャッター奥に設置されているはずのジェネレーターが、スネーカー本体を動作停止に追い込むための急所であることは確かではある。
しかし、
『だいたい、なんでこのタイミングでシャッターが開くんだ? 今回も前のときみたいに、本体ユニットからの内部操作で――……内部?』
『どうしたの、虎哲?』
アキラが怪訝そうに尋ねる。……この二人の対比からも、現状に対する「違和感」を一番覚えやすいのは虎哲だってことが分かってくるな。
一応他の連中もこれまでに時々、それっぽい逡巡をしたことがあったけれど。頻度的に見れば、間違いなく彼がぶっちぎりのトップだった。
『――ああ、いや……』
さておき。ここでリックくんが、ドリル付きの片手を掲げ、ちょいちょいとした仕草をしてみせる。
主人公らしく、スネーカー本体戦ではリックくんが一番先頭に立っていた。おかげで見通しの悪いシャッター奥につき、ティルよりも幾らか先まで視線を通すことが出来たわけだ。
「……確かにシャッターホールの中には、ジェネレーターらしき構造物が見られないようだ」
最後尾からティルとリックくんをそれぞれ追い越し。今しがたようやく開ききったシャッター孔を覗き込んだフィラが言った。
彼がアイ・スーツの上から身につけている円形ブレストプレートの中央部を、人差し指で操作することでトーチモードへ切り替える。白いワイドビームを下方に差し向け、円形の大穴の先をしっかりとクリアリングしてゆく。
「がらんどうの空間か……? いいや、違うな。どうやら、下りの階段があって、その先には直線通路が続いているようだぞ」
「どうする、虎哲?」
自分でもシャッター奥を一頻り確認してから、ティルが尋ねた。フィラとリックくんも、それぞれ目線を傾けて、同じ問いかけを言葉なく虎哲に投げかけているのが見て取れる。
「少なくとも、今わたしが磁場で感じられる範囲に、大型の機械体などは存在していないようだ。このまま先に進んでみるか?」
『そう、だな……うーむ。いや。しばらくこの場所で待機しておいてくれるか』
何となく、先ほどの躊躇いを引きずった感を滲ませつつ。虎哲が決定を告げる。
『何が起こるか分からんからな、前もって潰せる不確定要素は可能な限り潰しておきたい。どうやらβチームの座標も、ある程度近くにまで来ているようだし。まずは向こう側を率いてるパックのやつから事情聴取をするとして、その後、改めて奥へと進むとしよう!!』
◆
一旦シーンの暗転を挟んで、画面上の表示方式がガラッと変わった。
リックくん、若しくはNPC含めたPTメンバー一行を背面から見下ろす、三人称視点だったこれまでから。
視界がグンと狭まって。見ての通りのリックくん目線で眺める一人称視点で、ここからのイベントを追っていく形になるんだな。
開いたシャッターの先に現れた階段をくだる。そして降り切った先に伸びていたスネーカー基地様式の通路を、北へと向かって進んでいく。
「こっちだ、こっち!」
金魚鉢式アイ・スーツを中からコロコロ転がして、先導してくれているパックの背中を追いながらだ。
目下のFPS視点により、プレイヤーの視界は今のところ前向きに限定される。そのせいでほとんどが画面外に行ってしまっているが、現在先頭を征くリックくんの背後には、ティモシーⅡの乗員たちがゾロゾロと付いてきているいるはずである。
戦闘参加可能NPCズの残りモノを引っくるめた別働隊(虎哲の言うβチーム)の他にも。ユイにピラル、ハルといった半非戦闘員メンバーも混じっている。この後のシーンで全員が個別に口出ししてくることから、それが分かる。
「待ってよ、パック! そんなに先まで一人で行ったら危ないわ!」
早速ユイが張り上げた声が、リックくんの背後から、前方で転がる玉っころに向かっていった。
目算で10メートル強ほど先まで行っている、薄紫色のガラス玉の動きが一旦止まる。中のパックが振り向くと、背中の両羽を震わせて応えてみせる。
「だァーいじょうぶだって。一番のデカブツを『調律』し終えて、後はもう、ココにはなんにも残っちゃいないんだから。あとは黒幕さんと面と向かって会ってもらって。ご納得いただいてからのご退場ってだけで、話は済むさ」
『黒幕だァ? いったい何処のどいつが――いや、この時代、この場所にいるべき存在と言うと――……そういえば、今やメディア・ステーションのバーチャル・システム専属オペレーターはオイラ一人じゃ――……こんなフワフワした、夢うつつみたいなことをいちいちやらかしてやがるんだ!!』
謎のノイズが二連続。一回だけならまだしも、流石に目立つぞ。
「……うーん。やっぱり虎哲のやつには、相当分かり易い形で悪影響が出ちゃうのか」
パックが頭を傾けて、面倒そうな仕草をしながら呟いた。
あん? と、虎哲のきょとんとした表情が、セリフ用ウィンドウ脇のポートレートとして表示されている。
「日常におけるあの子との関わり合いの多さって他にもー。おんなじハードウェア上で走ってる、同系列のAIってことで、内部で一定程度共有されてる思考ルーチンが悪さしてんのかなァ」
訳知り顔かつゲンナリ顔。まるきり、日々の業務サイクルの中に、厄介な不備が紛れ込んでいたとでも言わんばかりの。
危機感が皆無とは言わないが、倦怠感がそれを大きく上回っているのが、アリアリと分かる。
「強制ブロックされた後に代替的に出力されてるリアクションにしたって、けっこー不自然な感じだしさ? 元々の感情プログラムが癇癪持ちっぽい調整なおかげで、これまで言うほど目立たずに済んでこれたんだろうけど……」
『何を訳の分からんことを――オイラたちオペレーターの計算処理を担っているハードウェアの共有部分――……? なんだ、これは。オイラは、さっきからいったい、何を言ってるんだ!?』
「そんでもって、少ーし
『……どうしたの、虎哲? さっきから会話の途中で、話し声が、途切れ途切れになってる感じだけど』
いよいよ表立った挙動までもがおかしくなりだした虎哲に対し、アキラの心配そうな声が掛けられる。
ココ、ビミョーに分かりづらい描写になってるが、虎哲のセリフにおける「ノイズが被さってた箇所」については、他のキャラクターには発言として認識されていない。
単に虎哲が、呆けたように黙りこくっていたと。そう見做されているってことのようだな。
翻って、現状。「誰かさん」にとって非常に都合の良い形で、個々のユーザーの認識が操作されているということをも意味するわけだ。
ともすると、さっきパックが虎哲にぶつけた思わせぶりな発言も。具体的な内容は虎哲本人にしか一切届いていなかったのかもしれない。
本来内部人員に比べるとその手の「騙し」に対してずっと堅固なはずの、外部オペレーター各員すら巻き込んで。現行バーチャル世界において、穏やかならぬ意識改変が常時実行されてきたってことが示される。
「先ほどから、セキュリティ・システムからのブロック処理が行われたことにより、プログラムを走らせているハードウェアに負荷が掛かったかのような反応ですね」
続いて、ドライさんからも指摘が入った。特定のワードを中心としたブロック処理。彼自身のその指摘につき、ドライさん本人も、特に疑問を抱いているフシはない。
「虎哲さん。何かしら、そちらのハードウェア部分に異常が出ているのではないですか?」
『そんなことは無いはずなんだが――』
「はいはい、無理すんなって。とっとと先に行って、ネタバラシを済ませちゃおう。やるべきことをやり終えたあとになって、わざわざ地雷を踏んで怪我するってのもバカらしいだろ。誰にとってみてもさ」
とまぁ、今みたいな感じの胡乱な遣り取りを、前を向いたり、後ろを振り返ったりで。リックくんの目を通して直接見るって体で、体験させられるわけだった。
いきなり今みたいな演出に切り替わったのは……たぶん、幾つか理由があるんだろうな。
現状、NPC組を数えるだけでも総員10名。他プレイヤーとの協力プレイでラスボスを撃破した場合なら、さらに1~3名が追加でこの場にいるってことになる。
これだけの人数が狭い通路を固まって歩いていくのを俯瞰視点で見ると、みっしり詰まってしまって絵面がヘンな感じになるから見せないようにしているってのが、まずひとつ。
他にも、このいよいよといった場面を主人公たるリックくんの主観視点で体験することで。
明かされてゆく「実態」を、よりダイレクトな形でプレイヤーに実感させるようにする。というのもありそうだ。
意図するところは分かり易いし、効果的。視点切り替えの演出的な使い方としては、わりと良くやっている部類なんじゃないかと思う。
ただし、これまでずっと馴染みだったTPS視点から、突然長期間に渡ってFPS視点に切り替わるせいで、弊害も幾らか起こり得る。
例えば、FPS視点だとどうしても
仮に
最後の最後で酔ってしまって、ここに来るまでのゲーム体験すべてが色褪せてしまうのも馬鹿らしいからねえ。
エンディング間際に不意打ちを食らうハメになるわけで。これってなかなかタチの悪いケースであろうさ。
通路の先行きを一面で塞ぐように張りつめている、半透明の膜。
以前に衛星タイタンでも見たことのある、空間を断絶させている仕切りの一種を、まずはパックが。続けてリックくんを先頭にしたメンバー全員が順番に潜り抜けていった。
ヌルリとした独特の演出が挟まる。粘着質っぽい見た目のわりに、身体に纏いつく残りカスが一切出ないのが何とも不思議な感じだな。
そうして目の前に開けたのは、機械工場を思わせる屋内だ。天井は高めで10メートルほどはあり、また広さもそれなりのものがあるものの……照明が落ちてしまっているせいで、見通しがひどく悪かった。
「……この建材の様式は」
意外なことにというか。ある意味順当と言うべきか。ここがいったい何処なのか、というのを真っ先に見抜いたのはハルである。
元々がギラグールにおける霊長類学者。俗な言い方をするなら霊長類オタクだったのが、今や霊長類『文化』オタクとのマルチクラスと化している彼。
しかも以前に一度この場に足を踏み入れた経験があるともなれば、答えを手繰り寄せるグリップ力は、今ここに居る中でも当然群を抜いている。
種族上優れた夜間視力もプラスに働いたことだろう。ついでに言っておくと、アニメか実写かという質感の違いは彼らにとって実在しない。
「どうしたの、ハル?」
リックくんの背後での遣り取りが聞こえてくる。
「この場所は、萌。お前たち霊長人類の現代水準、宙間生活用の密閉建造物である公算が高い」
「えっ? ……それじゃあ、ここって」
他のメンツもだんだん暗がりに慣れていった。そうすると、他ならぬこの建造物内で日々暮らしている人間にとって。
「ここが何処か」ということを確信させるに足る屋内のオブジェが、何かしら見つかる。
「ね、ねえアキラ」
恐らく今、ユイが背後でオブジェ某を指さしたんだろう。動作を感じ取ったリックくんの視界が、彼女に指さされた左の壁側を向いた。
「あの部屋の隅に並んでいるのって、あたしたちがいつも使ってる、学習用コンピュータのストックぶんじゃないかしら? 前にみんなで掃除と、中身がちゃんと動くかどうかを確認しにきた憶えがあるわ」
『ホントだ……。な、なんでスネーカーの月面基地から、メディア・ステーションの下部階層に繋がってるの!?』
見るからに戸惑っている
やがて、見えてくるその先。レトロなブラウン管式ディスプレイの筐体が、幾つか並んでいる片隅にて。
「……あれは?」
「何か、球状の実体を抱えたホログラフ状のユニットが在るようです」
ティルとドライさん、それぞれが呟く。
また、リックくん目線でも。一体の成人女性型AIオペレーターが、崩折れるように座り込んで、瞼を伏せているのが近づくごとにはっきりしてくる。
元々脚部がない虎哲よりも、一回りほど大きな背丈。肌は白く、明るめの金髪。
背中から伸びている真っ白な両翼は、まるでサイズの合わない外套のようにその上半身を包み込んでいる。
『こ、こいつぁ……?』
額に埋め込まれたダイヤ型の金属端末が、赤と緑とを交互に点滅を繰り返す。
ゆっくりと。静かに。まるで彼女自身の眠りの深さを示しているかのように。
『オ、オイラは……なんで……』
AIオペレーターが、膝の上に載せて抱え持っている球形のもの。それは、地球を模した茶色い模型、地球儀の一種であるように見えた。
彼女はそれを大事そうに抱きとめたまま頭を垂れ、眠りについているのだった。
あるいは、バックグラウンドで走らせている別プログラムの重さのせいで、彼女自身の人格を演算するには
『――セラフィー!!』
堰を切ったかのように。とうとう、虎哲が叫んだ。
『ジーンダイバー』の主要登場人物、最後のひとり。メディア・ステーション、ハイパー・バーチャル・システム担当第二AIオペレーター。
セラフィーの大人バージョンが、そこに居た。