恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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七面倒さのシンクロニティ

 

 

 黒幕はセラフィー。パックもその共犯である、とのこと。

 

 タネアカシの方向性としてはまぁ、そう来るわけでありました。

 

 

 

 ここに至るまでの思わせぶりな演出の数々。また、シンプルに登場キャラクターの消去法から、全然予測通りだなあって方も、少なからずなんじゃないかねえ。

 

 

 

 もちろん、この二人に何か害意があってのことじゃない。ていうかそもそも論として、黒幕とかいう呼び方をすること自体に、多大な語弊がありそうな気がしているぞ。

 

 一応二人とも、此の度の騒動における受益者の一角ではある。それでも個人単位で費やしている労力の多寡を考えれば、パックも、セラフィーも、どうみても貧乏くじを引かされているポジションってことは間違いないのだ。

 

 

 

 

 

 

 しかしまぁ、それはそれ。さっきの虎哲を呼び水として、他のメンバーも、続々と彼女のことを思い出していった。

 

 記憶の堰が半端に切られたせいで、破断部分から過去がゆるゆると溢れ出てきたのだった。

 

『お、おい、パック!! なんで、オイラは、オイラたちは、セラフィーのことを……!?』

 

「待て」

 

 と、狼狽した虎哲の問い詰めを、ユキちゃんが通信機のボリュームを落とすことで事実上遮る。続いて彼女ひとりだけがリックくんよりも前に進み出て、床上のパック入りガラス玉のことを、鋭く見下ろした。

 

「まず、お前の。…いや、お前たちの目的を言え。お前たちはバーチャル世界において、これまで何のために、何をしようとしてきたのだ?」

 

 

 

 この場における最上位者。かつ最も関係性の遠い彼女が口火を切るのは、現実問題理に適っていた。

 

 人工知能としての演算プロセスをハードウェアレベルでセラフィーと共有しているせいで、しこたま割りを食っている虎哲を筆頭として。他のメンツも、彼女との関わりの深さに応じて、大なり小なり戸惑っている感が拭えない。

 

 今みたいな状態でそれぞれが我先にとやっても、建設的な遣り取りに持っていくのが極めて難しいのは自明だから。

 

 

 

「一言で言うなら、調律かな」

 

 パックがさらりと言い切った。

 

「調律だと?」

 

「そ、調律。アチューンメント。それか、外野の目線だと、コンピュータのメンテナンスって呼んだほうがイメージが掴みやすいかもね。……っと、少し待ってな。よっと!!」

 

『えっ……!?』

 

 パック専用のアイ・スーツ――スーツってか紫ガラスの金魚鉢――の中で、背中を丸めて勢いよくジャンプする。すると、下の台座部分から金魚鉢部分がパカンと外れて、密封性がすっかりダメになってしまった。

 

『ちょ、ちょっとパック。気密スーツの外に出ちゃって、大丈夫なの!?』

 

 合成樹脂めいたモダングレーの床面に、黄色い毛並みの身体がストンと降り立つ。モニタリングしていたアキラが思わず驚きの声を上げた。

 

 さっきまでこの一行は、ほとんど大気が存在しない月面のスネーカー基地にいたわけだ。アキラの肌感覚からすれば、今のパックのアクションは一種の自殺行為としか思えないのだった。

 

 

 

「問題ないない」

 

 ところが御本人はというと、周囲の心配どこ吹く風だ。

 

「周りを見りゃあ分かると思うけど、ここはユイたちが知ってる地球の現代。メディア・ステーション、下層フロアの再現空間なんだからさ。重力の度合いだけは月側の強度(地球上の1/6程度)を引っ張ってきてるけれど、そこ以外は全部、そっち側だぞ?」

 

『こっち側って言ったって……そりゃ、見た目はそうなってるのかもしれないけどさ。でも空間的には、ふつうに月面の延長線上なんでしょ? 別にさっきから転送反応とかもなかった、はずだし』

 

 狭苦しいスーツ内から開放されたパックは、自分の近くに転がり落ちた半球ガラス・パーツを後肢で部屋の隅へと蹴り飛ばすと。自身の耳もとあたりを右脚のツメで掻き毟って、おざなりの毛づくろいに耽りだす始末である。

 

「カユカユ……それがそうでもないんだなァ。ココに入ってきたときに、半透明の膜をくぐったろ? あれを境にして、月面基地とは断絶してるってことになってるんだぜ」

 

『ええ~っ?』

 

「あ、おたくらも脱ぎたきゃ脱いでいいよ。その野暮ったい気密服。フツーに酸素呼吸ができる濃度になってっから」

 

 

 

「……確かに大気組成は、霊長人類の現代地上とだいたいおんなじみたいだね」

 

 窒素と酸素で4対1。と、水を向けられたうちの一人であるピラルがつぶやく。

 

 リックくんが背後を振り向くと、フォロル族である彼が、プグラシュティクのヘキサ型スカウターを片手で半ばまで掲げている様子が見えた。

 

 ティモシーⅡからわざわざ予備を持ってきたらしい。アーリーアダプター気質として、目新しいメカには目がないってことだろうか。

 

「だけどこの状況で、即座にメットを脱ぐ気にはなれないかな? さっきくぐったあの仕切り、たったのあれだけで環境を切り替えられるなら、強度的にそこまで信用して良いのか疑問符がつく。何かのはずみで、僕らにとって不適格な環境になっちゃうかもしれない。意図してか、意図せざるかは別にして、ね」

 

 

 

 この点、他のメンバーにも共通することだが、別にピラルも、パックやセラフィーに対して猜疑心を抱いているってふうじゃない。

 

 自分たちにそこまで無体は働かないだろうってくらいには、両名ともにちゃんと信頼を得ているからだ。

 

 ただ、だからって場面相応の用心を怠るわけにはいかないのだということ。

 

 

 

「少なくとも、君たちの隠しごとを洗いざらい聞き終わって、現状について概ね納得がいってからのチャレンジにするべきだって思うね。……それで、構わないだろう?」

 

 経験の積み重ねからくる慎重さ。それによって生じる一定のコスト。

 

 見方によってはウカツとも取られる真っ直ぐな信認を差し出すことが出来るのは、どこまでいっても裏表のない、若年層だけの特権と言っていい。

 

「ん、オーケー。……ま、おたくらの見方だとそうなるよねえ」

 

 言いつつ、一通り気になる箇所をつくろい終えたらしく。パックは四本脚でまっすぐに立つと、全身をぶるっとひと振りさせた。それから改めて、一行に正面から向かい合う。

 

「そんじゃ、そのままで構わない。俺から――ていうか、『僕』から。今回の具体的な経緯につき、掻い摘んで説明させていただくとするよ。裏で処理能力を目いっぱい使ってて、そのせいで外見にはすっかり眠ったようになってる。そこの計画の主要実行者(セラフィー)に代わってね」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 これからしばらくの間、パックの一人称が「俺」から「僕」へとシフトする。

 

 口調も少しだけ変わって見える。今のタイミングで彼は、思考様式を意識的に切り替えてみせたのだった。

 

 パック・ロブというプグラシュティク世界の一有機生命体と、情報生命体としてのパックとの間で。さしずめ複数言語話者が、別の習得言語に語りをスイッチさせたかの如くだな。

 

 

 

「最初に……まずは基礎的な部分からお浚いしておこうか」

 

 引き続きリックくんの目線で、パックの背中の羽根が微かに震わされているのを見下ろしている。

 

「このバーチャル世界っていう、極めて大掛かりな多元宇宙の交差点(シロモノ)だけど。ハードウェア・レベルの話をすると、数多くの文明がそれぞれ独自に構築した、無数のハイパー・バーチャル・システムが、その実存の裏付けとなっているんだ」

 

 ……今、この場にいる全員に対して話してるって体を取りつつも。現時点でパックにとっての主要な対話先は、恐らくハルやピラルといった技術者サイドってことになるのかねえ。

 

 未だに混乱状態から回復しきっていないっぽい――さっきの発言時のカットインでも、普段は丸い眼の瞳部分を十字マークにして、いかにも取り乱したって感じを見せていた――虎哲が、その中に含まれてるのかは微妙なところ。実際しばらくのあいだ、彼は完全にダンマリのままである。

 

 

 

「多次元規模の、巨大な[分散コンピューティング]のネットワーク・システムになってるんだっけ? 僕は工学畑の人間だから、高度エレクトロニクスに関しては世情に明るくないけれど」

 

「ザックリ言ってしまうと、そういうことだね」

 

 ピラルが尋ね、パックが応える。その間、リックくんの目線は適宜前や後ろを行き来する。

 

「各世界のH・V・システムに組み込まれた自己畳み込み式のメモリーが、有機生命体の脳内シナプシスみたいに、超空間通信によって網の目状に接続されているわけさ。その構造体によって成立する分散系ネットワークこそが、『現実化した仮想世界プログラム』を走らせている演算プロセッサー。いわば、バーチャル世界という空間的な広がりの、物理(ハード)的な礎となっているってこと」

 

 バーチャル世界を成立させている、物質(モノ)としての裏付け。ふんふん、とピラルが頷く。

 

 ちなみに以前アッケラ缶も、ワールド6の冒頭部分。小休止中のフィラとの雑談の中で、今のパックと似たようなことを言っていたかと思う。

 

 しょせんはSF的なガジェットだからして、どうにも聞いててフワフワした感じも否めなくはある。それでも作中で空間工学的なジャンルを多少なり齧ったことのある者であれば、ここらへんの背景事情については、当然把握していて然るべきことなんだろう。

 

 

 

「これはメディア・ステーション(ココ)の中枢コンピュータや、ギラグールやフォロル、プグラシュティクといった、おなじみの連中が作り出した各種大規模電子デバイスに限らない。仮想宇宙のシミュレーションを可能とするレベルの、高度な演算能力を実現した文明世界は、多元宇宙においては無数に存在しているからだ」

 

「……」

 

「一定水準以上の可能性文明が擁する、特定のブレイクスルーを成し遂げたコンピュータのそれぞれ。それこそが、『多元宇宙の交差点』を、物質的、実際的に成立させているというわけなのさ」

 

 

 

 無言のハルのポートレートが、パックの発言の合間に挟まっていた。

 

 今しがた彼が抱いた疑問点。それは恐らくこの異常事態におけるメンツの偏り、局所性エラーの解消役として呼ばれた顔ぶれの、種族的な画一性についてのことかと思う。

 

 

 

 地球の月に潜んだスネーカーが、長年あちこちでやらかしてきた。

 

 そのせいでとりわけこの太陽系内においては、知的文明の可能性バリエーション(例えば『ジーンダイバー』劇中では失敗作と見做されたフデイシが、将来的に築けていたかもしれない未来像だとか)が相当数存在している。若しくは、「していた」だろうことは、想像に難くない。

 

 

 

 無数の可能性文明というだけあって。本来、現行プレイアブルの6種族くらいじゃあ到底収まらないはずである。

 

 

 

 その手の両原作に存在しない架空種族を、勝手に創作して登場させるわけにはいかないっていうメタ的な事情を省くと。

 

 呼び出されるメンバーについては、パックとセラフィーの持つ「個人レベルの繋がり」が、ダイレクトに反映されている。

 

 それこそが現状生じているメンツの偏りの、直接的な原因なのだった。……衛星タイタンの件も含めて、だな。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、凄いプロジェクトだ。古今未曾有のスケールとでも、称賛するべきなんだろうね」

 

 感嘆めいたセリフを言うわりに。ピラルの表情は、いつの間にやらうんざりしたふうになっている。よく見ると、彼の紫毛並みの尻尾先がへにょりと下を向いたままだ。

 

「ただ……僕たちはこれまでバーチャル世界(それ)を在って当然のものだと。自然発生的に生じ、勝手に存続してくれるものだと考えてきた。だけど、プロジェクト、つまり能動的に管理運営していかなくちゃならないものとして捉え直してみると、相当やっかいな脆弱性を抱えてることを薄々感じる」

 

 なんだかだんだん態度がパックに似てきた気がするな。ゲンナリ感が膨張中。順調に不幸が分かち合われている、と言うべきか。

 

「正直、運用させられる側にしてみれば。卒倒しかねないような筋悪案件じゃないの、それって?」

 

 

 

「ん。ご明察。とにかくこのシステム、[複雑系]の悪い部分がてんこ盛りになっててね」

 

 パックはパックで、背中を丸めて疲れた感じを前面に押し出してみせる。

 

「分散系でありながら複雑系でもある。そのくせ内部の規格(アーキテクチャ)の画一化がされていない。まるっきりシッチャカメッチャカで、相手してるともう、イライラが募って仕方ないのさ」

 

 とっとと管理装置ごと爆破しちゃいたくなったことも、一度や二度じゃないよ。そんなことしたら、僕たち情報生命体の一派にとってはほとんど自殺みたいなもんだから、やるわけにもいかないんだけど。

 

 などと言い添えつつ、巨大なため息ひとつ。

 

 

 

 パックは、リックくんから見て部屋の奥側へと振り向くと。視線の先で座り込んでいるセラフィーが抱える、茶色い地球儀のことをじっと見つめながら、ヤケが入った声色で叫んでみせるのだった。

 

「扱っているモノがモノなんだから。それはもう、ある程度は仕方のないことではあるんだろうけどね?」

 

 言いながら、苦々しげに片頬を釣り上げる。

 

「でもホント、やれやれだよ。誰かがこの仕事をやるしかない。そして、僕たち情報生命体は偶然仕事に適性があって、都合のいいタイミングで、たまたま対応しやすいポジションに居た。つまり、僕たちからしてみれば、こんなもの、まるっきりの流れ弾も良いところなのさ!」

 

 

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