恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します 作:あーぷ
悪い言い方をすると
さっき前のめりに倒れた場所から助け起こされ、薄灰色の部屋壁を背にして座り込んでいた彼。顔周りの毛並みが外気に晒されている。脱いで久しいアイ・スーツのメットはというと、アーマーを纏った右腿の脇に打ち捨てられている。
真っ黒くりくりした両目がややぎこちなく、ゆっくりと見開かれた。
それから大して間もおかず、マズル面がこれまた軋むように左右へ振られ……取りも直さず、まずは現況把握から。至って彼らしい堅実な積み重ねが再び始まる。
……ただ。リックくんが目覚めて以降のシーンに関して言えば、その多くがいやにオボロゲなものとして、演出上の統一感を意図的に持たせられているわけなんだが。
引き続き画面表示は三人称の俯瞰視点、ステーションの下部階層フロアを斜め上から見下ろす形で固定されている。しかしそれも、表示ウィンドウの四隅が黒いモヤのようなもので縁取られ、常時ぼんやりしているのがまぁ、ご覧のとおり。
また、他のキャラクターたちについても。
例えばティル。彼女はリックくんが気を失ったときすぐさまフォローに入り、目覚めた当初にもすぐ近くにいてくれたはずだ。
しかし画面全体に白いノイズが走った次の瞬間、少し離れたところに居るドライさんの隣に立っていた。そんな途切れ途切れのつらなりが、目の前の情景として、当面続いてゆくことになるのだった。
この場所における一連のシークエンスの、その一つ目として。ピックが、リックくんのボディに続いてセラフィーのCGアバターからも抜け出していった。
『あっ……!』
空中の、成人の肩くらいの高さで浮かんでいたセラフィー。それに対する背後霊めいた位置取りでピックが留まる。
背後で鳴り続けていたアラートと赤ランプの点滅が途絶えたせいで、驚いた声を発するアキラのカットインが挟まるが、セラフィーも、ピックも、どちらも両目を瞑ったまま気にもとめない。
顔パーツのわずかな動かし方や、カラダ全体を使った所作の傾向性など。今やどことなくリックくんを思わせる雰囲気をまといながら、ピックはしばし同じ場所で、セラフィーとともに小刻みに揺れ動いていた。
しかしやがて、伏せていた両目を、彼女だけが静かに開けた。
「必要ぶんは以上……。システムへの無理な侵入は、これまでです」
そして下部階層フロアの中空へ、溶け落ちるかのように消えてしまった。それでは皆さんごきげんよう、とか言って。
超空間通信に伴う環境音がわずかに響き、それもすぐに聞こえなくなった。
エンディング・イベントにおけるピックの出番はこれにて終了だ。
彼女は去った。自身の目論見の大半を、しっかりやり遂げていったのだった。程々に周りへ気を使いながら、でも総じて見るとそれはもう図々しく。
一応、スタッフロールを終わらせてからワールド7のロビーにまで戻ることで、クリア後追加のピックとの会話イベントを見ることが出来る。
ピックから見たリックくん、リックくんから見たピック。何故だか引き続き有機知性体めいて振る舞う、彼女の仕草、彼女の思いの真実味についての禅問答じみたやり取りだ。
『
そうした事ごとを、これから考えようと思うのです、云々、と。
その次。居なくなったピックに対する、ユイと萌さんからの寸評が為される。
少し警戒のしすぎだった。あんがいプライベートで話せていたら、彼女も気のおけない相手だったのかもしれない、みたいな感じの。
しかしながら両ヒロインが抱いたそれらの印象は、ちょっと好意的、楽観的。そして「優しすぎる」ものだったらしく……再び情報生命体側の口調へ立ち戻ったパックから、少々掣肘が加えられることになるわけだ。
「……安易な
「「えっ?」」
異なる文化に根ざし、またすれ違う利害関係を互いに抱えながら、しかし根っこの部分では共通理念を持ち併せる。
その手のコミュニティ同士が、相互理解を取り持つ場において。彼女たちの「優しさ」は、非常に有益なツールとなりうる。
だが、無機知性体としてのタイタンは、有機生命体が自然淘汰によって培ってきた「有機知性体としての共通項」を持ち得ないのかもしれない。
すなわち[ヒューマニズム]。そしてまた、それの射程の外側に在る、名状し難き知性の蠢き。
そうした存在を相手取るって場面においては、彼女たちの美徳が逆手に取られてしまい、相手方にとって都合の良い方向へと密かに誘導されるハメになりかねない。
異質な知性に対する警戒心を怠るな。そのたぐいの警句がパックから、少々遠回しな口ぶりで伝えられるのだった。
「だけど、スネーカーさんとは……」
「スネーカーとの和解は、奇跡的なことだった。あれを一般論だとは見做さない方が良いと思うよ、ユイ」
「……そう、なの?」
前にも言ってあると思うが、スネーカーとの和解の顛末はぼかされていて、ユイ個人としても実際細かいとこまで覚えちゃいない。
ただそれでも、なんとなく記憶の残滓があるらしく。偉大な成功体験は、彼女自身の思惟を幾分なりとも縛ってしまう。
「ああ。以前、虎哲は、彼のことをコンピュータのバケモノと呼んだ。その表現は、ある意味で真実を突いていたように見える」
『あぁん?』
「これはセラフィーがスネーカーの本体ユニットと、直接的に繋がったことで知り得たコトだけれど……かつて彼は、いや、アレは。何らかのアクシデントによって本来在るべき操縦者を喪失し、目的意識を漂流させた挙げ句。不本意にも、独歩的な行動を取らざるを得ない状況へと追い込まれてしまっていた。その意味で、確かに
『本来在るべき……操縦者だァ!?』
虎哲のカットインがビックリ顔で割り込んでくる。相変わらず急だなあ。単に顔がでかいせいでそう見えるってだけかもしれないが。
『待て待て待て。するってぇと何か? スネーカーとは、その
画面上で詰め寄りながら、インカム経由の大声を張り上げる虎哲に対し、そうだよ、とパックがあっさり頷いた。
アレの本質は、どこまでいっても『道具』だったのさ、と。
「そうであったにも関わらず、独立独歩の存在で在ることを強いられた。そのせいでアレは一種のアイデンティティ・クライシスに陥っていたんだ。だからこそ、生命進化に基づく内的モチベーションを備えた有機知性体の誰かしらを、道具の使い手、目的入力者。はっきり言ってしまえば、アレが過去に失った
使役者と被使役者とが織り成す創発と破綻、その末路。
スネーカーの本質について。ここらへん、だいぶんVWO独自の解釈が入っている気がするが、さておきパックはユイへと向かい直すと、平坦な声色で語り続ける。
「そうした出自の持ち主だったがために……アレは、『道具』でありながら
「……」
「ひとえに、『使われるもの』は。使い手の存在によって自らを定義されることを本質的に必要とし、そして、そうした状態を、この上なく正しい有り様として自己認識をしているからだ」
それこそがアレにとっての自然体なんだよ、たぶんね。
そう締めくくったパックのことを、ユイは。深い憂いの色を帯びた、神妙な面持ちを保ったままで、見つめ続ける。
スネーカーとは元来道具であって、それがために自ら積極的に道具たろうとする。
本能的とも言うべき従属気質。無機知性体としてのスネーカーは、その成り立ちからくる基礎構造の時点で、コンタクト対象として相当な安パイであったというわけだな。
比べてピックは、というよりも、衛星コンピュータ『タイタン』はそうではない。
スネーカーによって生み出されたものではありつつも、確固たる定義のない実験的な出自であるがゆえに『親』の延長線上になく。彼女の持つ行動理念は、彼女独自のものである蓋然性が高いからだ。ま、警戒レベルをしっかり維持して臨むべき相手なんだと言えようさ。
もっとも、持たざるリスクについても当然考えなくてはいけない。そのことを指摘するのはピラルである。
「独歩的に進化し、高度化した衛星コンピュータ。すなわち真なる無機知性体、
……しっかし、わりと今さらな話ではあるが。VWOにおける
ここにくるまでも、言語学に、考古学に、理論化学にと縦横無尽だ。そのせいで原作『恐竜惑星』での
知的探究心にジャンル横断は常ではあるし。またSFっぽい状況説明においては彼みたいなギーク的感性の持ち主が相応しいのは確かだから、仕方ない面もあるんだろうけども。それでもまぁ、ちょっとばかし見ていて違和感が否めないぞ。
ともあれ、VWO版ピラルとしては、異質、かつハイスペックな無機秩序体とのコンタクトに前向きなスタンスを採るのだった。
「プグラシュティクの女性を模したピックという人格が、あくまで即席のエミュレーションに過ぎず。その奥に潜んでいる知性体としてのスタンスが、今なお謎に包まれているのだとしてもだよ」
ピックが出ていってしまった後。再びPC筐体のひとつを背にするポジションに戻り、処理継続の姿勢となったセラフィーのCG体へと視線をやりつつ、そんなふうに彼は問題提起をするわけだ。
「どのみち、衛星コンピュータ・タイタンは実在する。莫大な演算能力を単独で丸抱えしながらね。バーチャル世界を結節点として緩やかに連帯しているこの多次元宇宙において……そんな1プレイヤーが相当なウェイトを持ち続けること。それ自体は今後も変わらないってことを強調したいな」
仮に関係性を構築しないまま完全に放置しておくと、知らず知らずのうちに何が起きるか分かったもんじゃない。
だったら最初から積極的に関わっていって、多少なりとも相手方をコントロールすることを試みてゆくべきだ。これはこれで、意見としてはそれなりに説得力があるかと思う。
そしてまた本件につき、積極策を取りたがる個人が別途お出ましになるのだった。
「良いだろう。近々現実世界において、然るべき委員会を発足させる」
誰あろう、ユキちゃんだな。右手の三つ指を前に浅く突き出して、のっけから結論だけをブン投げてくるギラグール流会話法。
ポジティブ意見の旗振り役だったピラルですら、今の割り込みでとっさに言葉に詰まった感じだが、かく言う彼女は構わず続ける。
「バーチャル世界を通じた衛星コンピュータとの直接交渉を見据え、事前に多種族間での協議を行わねばなるまい。面倒な話ではあるがな。パック・ロブを経由した超空間通信を用いることで、この場からの情報伝達が可能であるはず。その情報をたたき台とした上で、私と、フォロル軍前総司令カーン・トゥハ・カークとの連名で狩猟院に持ち込めば、話は動く」
ちなみにこの提案。萌さん同様リックくんをも自派閥に引き入れたいという、ユキちゃんの個人的な意向にばっちり裏打ちされている。
衛星コンピュータ・タイタンとの交流を主導し、その内部に擁されるリックくん(の死体)に対する直接的なアプローチに繋げる。可能であれば再生処理、それでなくともせめてDNAサンプルを手に入れることくらいは出来るかもしれない。
クリア後に開示されるジュラ紀基地のモブNPC発言から、そんな彼女の目論見が窺い知れるわけだが、何というか、人材マニヤの面目躍如って感じだな。
とはいえ、そうした打算だけで100%じゃあないんだろうとは思う。
元より誰しもが多面的なものだし……それにたぶん彼女だって、しっかり人情家の部類ではあるのだ。ギラグールとしての彼女なりに、ではあっても。VWO内でここに至るまでの、描写各種からそのことは十二分に読み取ることができる。
「……ええっと。それだけで、動きますか?」
ビミョーに恐る恐るといったふうに、ピラルが尋ねた。動くに決まっている、とユキちゃんが即座に答えるのを受けて、心なし表情が引き攣った。
「さ、左様ですか。いやあ、トップダウン式のギラグール政治のいいトコですね。
そして本件につき、パックからも技術的な裏付けが一応得られる。マァ無理をすれば多少のデータ転送は可能ではあるよ、無理をすれば。とのこと。
そうとくれば、当然周囲からの期待の目が彼へと集まる。Please do it, okay?
無言の圧力ひしめく空気感のなか、ちょっと間があってから。投げやりな引き受けの了承とともに、深々とした溜息をつくパックなのだった。返す返す、重ね重ねもご苦労さんってか。
◆
そのあと、ピックっていう存在に対する懸念が、主にハルから再び提起されたりもする。
たとえ『最大限配慮を尽くしたコンタクト』であったとしても。相互干渉時に何らかのセキュリティ・ホールが生じることは自明であって、我々――ギラグールに限らず、有機知性体全般のこと――よりも量的な処理能力で勝る衛星コンピュータの前では、その穴を完全に塞いでおくすべは事実上存在しない。そのため安易な交渉開始は首肯できかねる、といったような。
ただまぁ、引き続きシーン描写自体が飛び飛びになっていて追いにくいし、主張の内容にしたってそこまで新味はなさそうだ。読み飛ばしてしまって構わないだろう。
どうもフォロルとギラグール、原作『恐竜惑星』における種族上の対立関係が反映されてか。革新派のピラルに対する保守派って配置にハメ込まれがちであり、ハルはハルで、ビミョーにキャラズレをやらかしている感がないではない。
そんなわけで、なんだかんだ
此の度強いられていたお仕事を終えた。いよいよエージェントたちは目覚めを迎える。正確に言うと、各々の『本体』との合一に向けて、目覚めの下準備に取り掛かることになるのだった。
つまり、この場を去る。ジーン・ダイブ、タイム・ホールと使用媒体こそ異なるが、とにかく転送という体をとって、ひとり、またひとりと、今いるメディア・タワーの下部階層から居なくなってゆくわけだった。
……リックくんという例外を除いて、だな。
衛星コンピュータ・タイタンに従属するプローブとして。対応する『本体』を正規に持たない彼だけは、目覚めが確約されていないがために。
「貴官の働きは疑いなく、称賛と栄誉に値するものだ」
去りゆくティモシーⅡの乗員たち。そのそれぞれと、リックくんとの間で交流が持たれたってふうな描写が挟まる。
「安心してくれ。リャナン家の爪と誇りに誓って、貴官の親族に対する支援を惜しむつもりは毛頭ない」
まず最初にティルから始まって、次にフォロル組。そのあとドライさんとパック、アキラに虎哲と続き、ギラグール組と萌さんが来て一段落といった感じだった。
しかし、結局。誰も彼もが概ね「最善を尽くす」といったようなことを告げるばかりで、何かしら今後の展望をガラリと変えるに足ることを告げられる者は、一人として居なかったと言うことができる。
もちろん、それは、当然のことではあったろうさ。
なぜって。誰もがリックくんに対して、誠実な態度をもって別れの場に臨もうとしたからだ。
それがために無責任な慰めを口にするわけにはいかないし……かといって冷たく突き放してしまえるほど、乾いた心の持ち主などこの場にいない。そうした葛藤のなか、手向ける言葉の幅を広げることが、極めつけに難しいのは自明のこと。
通り一遍の温もりが山積みとなった。それはそれで構わない、在り来りなものには在り来りなりの良さがあるので。
淡い微笑みとともに、リックくんは全員を見送った。メンバーが順繰りに行ってしまったあとに残された、一番最後の、ただ一人だけを除いては。
最後の一人っていうのは、ユイである。
先ほどパックに向けていたものとそう変わらない、ややナーバスな顔つきをそのままに。彼女はリックくんから、少し離れた位置で佇んでいる。
……ちなみに、1stのギガントのときはこの役回りを振られていたのは萌さんだったはずだが、やっぱりここにくるまでのプレイ内容や、自キャラの種族選択によって内部数値が変動。最後の最後でやってくるのが誰かっていうのが、変わってくる仕様になっているものと見られる。
まぁ両主人公のどっちか二択っぽいので、そこまで大した変動ポイントってふうでもないが。
さて。リックくんがわずかに首をかしげ、佇むユイの方を向いたというタイミングで、プレイヤー側の視点がユイの視界とオーバーラップする。
『ジーンダイバー』主人公たる、ユイの目を通して目の前を見る。このところ頻出の一人称視点ではあるが、しかし今目の前で見えているのは、普段の主観視点の起点たるリックくんの姿だ。
プレイヤー・キャラクターとしてのリックくん。VWO主人公の姿を第三者として見つめる、これはこれで初めての体験ってことになるな。
そして、目の前に居て、こちら側を視ているリックくんの姿が。つまるところユイの目で見たリックくんの全身像がってことだが、それがほんの一瞬、変わったように見えた。
「……!」
今、彼が身につけているはずのアイ・スーツと王家の騎士バージョンのパワード・スーツの重ね着ではなく。
プグラシュティクの軍用機密服、一般兵用アーマーをより厚手にしたといったふうな、どうにも垢抜けない緑色の宇宙服に身を包んでいる。……そんな、死体。
アイ・スーツとはデザインが異なる透明な球体のヘルメット。その奥にある一対、元来黒一色であったはずの瞳はやや白く濁り、虚ろで、何処を見るでもない。
白地に茶色混じりの体毛は毛艶を失っている。また額のあたりを過ぎるように、赤黒い血糊が、わざとらしくべっとりとこびり付いている。
グロテスクさはそこまで感じられないけれど、しかし「それ」がもう生きていないということは確信できる、そのくらいの塩梅。
もちろん、そんなものは単なる幻影に過ぎなかった。
ユイ視点でも、プレイヤー側の体感時間でも、ほんの2秒くらいで元のリックくんに戻ってくれた。
夢見る夢の夢のなか。メディア・ステーションの一角を模したこの仮想的なロケーションにおいて、彼は未だ彼自身の意思を持ち続け、生きているって状態を、忘れずにいる。
だけれども、このときのユイは敏感に感じ取ってしまったわけだ。
死に抱かれた存在が漂わせるモノクロな匂いを。それは鼻腔から入り込み、嗅覚に限らずあらゆる感覚を半端に削ぎ落としながら全身を巡る。そして、歯がゆくも有り難い不完全さで、普遍的な、しかし何よりも例外的な悲劇のことを
そう、もはやその一瞬は過ぎ去って、取り返しがつかない。明らかすぎるほどに明らかなこと。いきおい彼女の表情が、じわじわと、より悲痛なものへと変わってゆくことになるのだった。
「あの……リックさん」
そうして長らく、躊躇いからくる沈黙が続いていた。でも、ようやく彼女はリックくんに話しかける決心を付けたらしかった。
本作のシナリオにおけるユイって女の子の立ち位置は、ある意味で分かりやすいものだった。
彼女は仮想化された世界のそのまた仮想的な空間のなかで、他の連中と比べてもある程度理不尽から遠ざけられ、保護されていたと言える。だけどその一方で、色んな角度で見た
他人を疑ること。己を疑ること。仕方なかった、やむを得なかった。
はっきりとしたことなどなにもない。でも、決断を下すべきタイミングはいつ何時顔を出すのか知れたものじゃないから、程々の緊張感は常々保っておく必要がある。他には、空元気の大事さだとか?
なんともくさくさする現実の数々。そうしたすべてを下敷きとした上で、ユイはこの場において、とうとう一つの役回りを得ることとなった。
……これまたなかなかの貧乏くじって感じだが、しかしまぁ、二次創作たるVWOメインストーリーの建付けとして。たとえ厳しい選択を突き付けられても、それを乗り越えることができる芯の強さこそが、原作主人公としての風格だという扱いなのかもしれないな。
ゆっくりと、彼女が何歩かリックくんの方へと踏み出した。ただその場で立ち尽くす彼の姿が、いくらか画面表示上でも大きくなる。
「あたし、こんなことを聞いていいのかどうか、分からないんだけど……」
目線をフイッと斜め前にやり、視界からリックくんのことを外してしまう。しばし、そのまま。
だが、少しして元通り正面に向き直ると、リックくんのねずみ顔を、まっすぐに見つめ直した。そして問いかけ。まるっきり、ちょっとした衝撃だけでも泣き出してしまいそうな顔をしながら。
「……後悔は、ないの?」
……これが、VWOのシナリオ上で最後のYES/NOだな。
いやはや。なかなか答えづらいことをお聞きになられるもんである。
後悔はありますか? リックくんの手前のところに、選択肢のポップアップがあからさまに表示されているわけだけれど。はてさて、この二択。いったいどんなふうに応えるべきなんだろうかねえ。