恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します 作:あーぷ
※:このテキストはVWOの最終アップデート後しばらくしてから、公式サイトにて公開されたもの。ゲームのシナリオ作成に用いられたものと同一のAIライターによって出力されている、とのこと。
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『今日、僕は25歳になった。
……それで? だから? って感じの話ではあるよなあって。
まるっきり、私事だものな。だいたい、20代ド半ばの誕生日をワイワイ祝っていられる時間的、精神的余裕なんてもの。今の僕たちには、さっぱり持ち合わせがないっていうのが実情なんだし。
ワタクシゴトのたぐいは、近ごろほとんど表に出てこられない。個人個人の腹の中でギュウギュウ詰めになっちゃってる。そしてそのことに、大した疑問も持たないまま毎日が飛ぶように過ぎていく。
良くも悪くもって言うべきなのかなあ、こういうの。「僕たち」全員の目線で捉えるのなら、最近の忙しなさは明らかにプラスで、より良い未来に向かって進めていることは間違いないんだ。
ただ、個人ごと。つまり「僕自身」にとってどうなのかっていうと、ソイツはまた、いくらか違った話になってくるんだよ。
表向きの役回りだけでほとんどが占められてしまう今にちが、一点の曇りもなく幸せなのか? ……何とも言い難い問題、だと思う。
もちろん、そんなのは子どもの理屈。単なる泣き言のたぐいだって言われてしまうと、それはそれで、ご尤もだと肩を竦めるしかなかったりもするんだけれど――』
「我々霊長人類は、あなた方フォロルに対し、かつてフォロル本国が位置した地質上のスポット。僕たちの言葉で言うところの、南極大陸を割譲する用意があります」
「それは……率直に言って、たいへん有り難いご提案です」
巣主会所属のフェー上院議員は驚きの表情を作ってみせた。表情筋が統制された政治家らしい驚愕ではあったけれど、その限りじゃなく。彼の本心の上でもしっかり驚いていたんじゃないかと思う。
ま、こっちの願望が相当混ざり込んでるのかもしんないけどね。僕の眼力なんて知れたもんだし、だいたい年かさのフォロル男性の顔色なんて、異種族の目からだと、ちょっと見たくらいじゃ分かるもんでもないってこともある。
「しかしながら、こと領土の問題となると、いつの時代においても後々まで尾を引きがちかと思います。ミスター・ツトム。今しがたのご提言ですが、あなた方ヒト族全体を、如何ほどの強度で統御しうるのでしょう? 失礼ながら現時点でのそちらでは、我らが巣主会のような意思統一機関が機能していないと伺っている。そうしたなかでのあなたの言説は、種族の総意として見なすべきなのでしょうか、それとも……」
「ご心配なく。この案については既に、僕たちの時代における全世界的な同意を取り付けることができていますので」
これは本当だ。感染災害によって壊滅的被害を受けている地上の各地域。そのなかで辛うじて組織的な活動を維持できている、主要集団からの賛同が得られている。
……もっとも、現時点で唯一の宇宙空間技術を有するメディア・ステーションの優位性を、最大限笠に着ることで取り付けた賛同だから。将来的にはわりとガッツリ禍根が残る気はしているケド。
でも、悲しいかな。今は明日よりも今日の方がずっとずっと大事なのだった。自転車操業の辛さ、ってやつだ。これまでもそうだったし、これからも当分はこのまんまだろうなあ。
「ただし。先だってお渡ししたヒト世界の現代地図に則った上でお話しますが、ジーランディア地域は大半が水没していますし、その残滓である島嶼部に成立したニュージーランドと呼ばれる国家には、我々ヒト種の居住施設が国土の主要部分を覆っています。この方面への入植にあたってはまた別の手続きが必要になってくるかと。従いまして、現段階で割譲の見込みが立つのは、あなた方フォロル族の本国国土における南側2/3、といったところになりますね」
その2/3っていうのが、僕たちにとっての[南極大陸]なんだってことだ。
このあたりは互いの認識のすり合わせが大事な部分だと考えてる。なにせ彼らフォロル族の地図だと、オーストラリアと南極はほとんど同一生活圏。昔の日本で例えるなら、北海道と本州みたいな扱いがされていたんだそうだから。
「ふむ。この地図の距離感ですと……北部第二中心都市はおそらく含まれず、それでも我らが首都リューネや、各地の鉱業都市はおおよそカバーできる見込みが立つように見えますな。……ああ、失礼。どうかお続けください」
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『思い返してみると……地球外気圏での周回軌道に乗っているこのメディア・ステーションで、ただ毎日を過ごしていただけの頃。乗組員の僕たち一同、しょっちゅうお祝いごとをやっていた。
誰かの誕生日。地上世界での記念日。
大作戦決行一週間前の前祝い、なんていうのもあったはずだし……それに。いつだかの犠牲者たちのことを悼んで、みたいなお題目のこともソコソコあった、はず。
はっきり言ってしまうと、祝うアテなんて別になんだって良かったんだろうと思う。
ステーション居住エリアでの閉じた生活。生死に関わりかねない宙間事故など、急を要するイベントも起こりかねない環境だから、安全地帯とは程遠い。
それでも、日常のほとんどは平坦な日々だ。共通の話題といえば、個人個人に課される形骸化したお勉強カリキュラムくらいのもの。中の下か下の上くらいの衣食住が確保された毎日を、それぞれが散漫に生きていた。
当然、重ねた月日のぶんだけ閉塞感がつのってく。強まる圧力を都度ごとガス抜きしておくために、「祝いごと」と称して、ときどきハメを外す必要があった。たぶん、そういうこと。
今になって思えば……お酒を飲んで不安を和らげる、みたいな場面だったのかもしれないね。ああいうのってさ。
やけっぱちめいた適当さ。まぁ、僕たちの中に「アルコールで酔っ払う」っていうことを実体験出来たものは一人もいない――ステーション内部に飲用アルコールの生産設備なんてありゃしない。安全性への配慮から、こっちでもパーティ・タイムに出てくる嗜好品はほとんど甘味オンリーだった――から。そのあたりはほとんど、想像上の話でしかなかったりもするんだけど。
ステーション乗組員の共通認識として、お酒ってものに対する理解はひどくアヤフヤだ。
せいぜい、僕含む『第一世代』の記憶にだけ辛うじて残っている、まだ平和だった頃の地上世界で。身近な大人たちの誰かが、ときどきお酒を呑んで笑ったり騒いだりしていたのを何となく覚えてる。それくらいじゃあ、ないのかな』
改めてブリーフィング・ルーム内をひと眺めしてから、続けた。
「皆さまもご存知のとおり、我々ヒトの文明は、フォロルの文明よりも時間軸で見て五千万年以上先の未来に興っています」
フォロル議事堂の一室に集まっているお偉いさん方一同。僕のつたない言葉に、しっかり耳を傾けてくれているのが見るからに分かる。
もともとフォロル族には気さくな人柄の持ち主が多いってことが知られているけれど、それを踏まえてもこの友好的態度には、驚くヒトが多そうだ。
「白亜紀末期の絶滅事変。皆さま方が言うところの『冬の王』の落着により、地球上の生態系が長期にわたって壊滅した。その後、空白化したニッチに適応放散を果たした各種哺乳類、その末裔によって築かれた文明であるから、ですね」
プレート・テクトニクスの作用により、南極大陸はフォロル族の認識よりもずっと高緯度地域にある。ヒト現代は氷河時代の間氷期にあたり、大陸の大半が氷床下、極寒の地と化している。
僕の説明に、出席者全員が小さく頷く。このへんの経過については事前にレクチャーが通っているはずだから、ただの儀礼的な確認でもあった。
「ですので純粋に居住地として見る場合には、不便が避けられないものとお考えください。何しろ永久凍土が大半ですから。もちろん、我々よりも先を行くあなた方フォロルの技術水準であれば、居住性を大幅に引き上げることも可能なのだと思います。だけど大なり小なりコストは嵩むはずだし、そのうえ皆さま方の本星は土地あまりの状態、むしろ人口不足に悩まされているとも聞いている。そんななか、本格的な移住で採算を取るのは、おそらくとてもむつかしい」
そう言いつつ、水を向ける。するとこの場の面子を代表して、またもフェー議員が簡潔な同意の言葉を口にした。おっしゃるとおりでしょうな、と。
彼の父、カーン前総司令と良く似た渋い声は耳に心地よい。さすがは本職って感じで、経験からくるソツのない重厚さが感じられる。……モノが違うよなあ、付け焼き刃のこっちとは。
「然れども先のご提案は我らフォロルにとって、大いにメリットがある話ともなりますよ。地下資源。交易上の利便性。そして何より、バーチャル世界における『本流』であるヒト文明地球に出先機関を持つことによる種存在の安定化効果を鑑みると、コミットメントを持つことに吝かでない。むしろ他種族との競合も視野に入れれば、本件は殊に拙速を尊ぶべきとすら思える。……そうではありませんかな、巣主会の同胞たちよ」
それでも、勝ち筋はちゃんと見えている。
事前のお膳立てのおかげってやつだ。そのため僕からすれば、ヘタを打たないよう気をつけながら、じりじり言葉を積み重ねる。それだけで片付くイージー・ミッションってなところかな。
……その勝ち筋を識ることができるのが、僕しかいない。だからこそこうやって、独り最前面に立たされる罰ゲームを強いられるハメになった。そーいうことでもあるんだが。
立場がヒトを作るったって、幾らなんでも限度があるよなあ。背負った荷が重すぎて、全身がギシギシ悲鳴をあげてる気がする。トホホ。
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『んー、そろそろ、この電子日記帳に言い残してしまっても良いように思う。
今までは情報漏洩リスクのことを考えて、一切合切を僕の頭のなかだけに押し込めていた。でも、まぁ。ここまで来たらもういい加減、潮時だろうって感じがね。なくもないから。
現時点でヒト種を代表する世界的機関――ウイルス変異に耐性を持っていた人間はほとんどが若年層だった。そのため地上の自治組織も年齢構成的には
一応僕にも、多少の表向きのアドバンテージはある。
まずもってステーション所属の第一世代であるし、そしてその中でも、ハイパー・バーチャル・システム経由で他文明との接触を果たした、最初の二人のうちの一人だってこと。
しかしそうした特別さを踏まえたとしても……単純にリーダーシップとか。交渉能力とか? 表立つにあたっての必携技能を適正に評価するなら、僕よりもふさわしい人員っていうのは、他にも複数人思いつく。
そんな次善のコマ未満の人間が、より秀でた連中のことを嫌々ながらも押しのけてしまっている、理由。
フェアな採点に基づいたものじゃない。したくもないズルをしているってことになる。僕だけに備わっている例外的な、裏向きのアドバンテージが、他の何よりも大きいのだった。
順を追って話すと……今からもう、15年以上も昔のこと。
まだ地上のメディア・タワーが生きていて、そこからの撤退戦が実施されるよりも、更に前。
僕たちヒト種が初めてフラクタライズ・エラーの発生に直面し、メディア・タワーのハイパー・バーチャル・システムが、多元宇宙の交差点へと接続された、そのときに。
当時バーチャル世界入りしていたのは美沙、もとい萌の一人きりだった。フォロルとギラグールとの抗争に首を突っ込み、身動きが取れなくなったアイツ――確かフィラと一緒にカタイの秘密基地に向かうって場面で、マザー・シルが仕掛けた罠にハマったんだったかな――をフォローするため、僕も追ってバーチャル世界に向かうことになった。
……なんだけど。その際にハルの手で妨害工作が行われ、僕の接続は物理的に弾かれてしまった。
バーチャル世界内で用いる僕のアカウント自体はそのときに生成されている。が、転送途中で強制切断を食らったせいで、当時のソレは、ほとんどが意味のない数字の羅列で出来たエラー・データでしかなかった。
そのあとの状況的な移り変わりから
とはいえ、ソレが僕。ツトムという一個人の、所有アカウントであることは違いない。
長年忘れ去られていたこの異質なデータに目を付けたのが、メディア・ステーション所属のシステムオペレーターの一人。セラフィーだったんだと、彼女自身から教わることになった。当事者である僕だけが後ほど、こっそりとね』
「ところで、こちらでの滞在期間中における僕たちの活動についてなのですが。僕と美沙……いや、萌の『顔』につきましては、良いように使っていただいて構いません」
ほう? と、フェー議員。椅子に空いた穴を通って頭の後ろあたりにある彼の尻尾が、心なし左右に揺れるのが見えた。
例によって表情の方はしっかりと設えられているけれど、さっきよりかは私人らしさを覗かせているようにも思える。
「それはつまりお二方に、衆目の前へとお出でいただく運びとなってもよろしいということですか? 例えば、そう、リューネ中心部の大通りを練り歩くパレードですとか。そういった形式で」
「ええ。ご随意に。異形の神マエと、その従神ツターム、でしたか? あなた方の信ずる古き異形の神々、その
「パン……? 失礼、翻訳機にエラーが出たようだ」
「……あっと。そうでした、すみません、まだまだ慣用句には強くないんだった。つまり僕や、萌は、体の良い宣伝役を引き受けられるのではないか、ということです。あなた方フォロル族の、信仰にかかる好奇心に強く訴えかけることができる。そうしたポジションのもっとも良い使い道を考えると、やっぱりここは『前に出る』のが一番ではないでしょうか」
現代ヒト世界線における、ウイルス変異体掃討のための軍事行動。そう遠くない先に控えたこの作戦に、フォロル軍の助力は欠かせない。
軍、そして軍組織を裏付けるフォロル国民からの支持を得て、助力を引き出す。またその借りがなるべく後々まで尾を引かないようにする。そのためには僕たちヒト種に対する、ポジティブな市民感情をより強めていかなくちゃならない、てことだ。
「なるほど。今しがたミスター・ツトムの言われた『パンダ』というのは、おそらく、我々にとっての『手乗りケラトプス』のようなものなのでしょうな。少々人為的で。しかし人気があって。遊興施設の客足を伸ばすことのできる広告塔のたぐい」
「きっと、おっしゃる通りなのでしょう。また、こちらは後の話とはなりますが、アッケラ缶……そちらでは『旅を導く
僕自身と萌に続いて、賭け金もひとつ追加だ。悪いね、アッケラ缶。
「彼は現時点でデータ的に凍結されていますが、地上バーチャル・ステーションの閉鎖エリア内での無事が確認されています。メディア・タワーを再制圧し、ステーションの復旧が叶い次第。フォロルのコンピュータ向けの最適化を進め、ゆくゆくは、フェア・ユースの形で、一般に広く公開することを考えています」
「おお。それは……実に、興味深いことです」
「アッケラ缶が親しみやすいナビゲーターであることは、カーン前総司令からもお聞きかと思います。僕たち霊長類系哺乳人類についての文化案内人、ひいてはお互いの橋渡し役にはもってこいかと。……もちろん、あなた方の価値判断に照らし合わせ、彼に対するそうした扱いが許容されるのであれば。この前提がクリアされた上で、初めて進められる話かとは思いますが」
「そのご心配は杞憂でしょうとも」
と、フェー議員は朗らか半分、不敵半分といった笑みを浮かべた。
「私共にも、視座の違いには寛容たるべしというモットーがありますのでね。フォロル族は、輝かしきAIソフトのコピー・データにつき。大事な隣人、掛け替えのない友人の、その更に子どもたちとして、手厚く遇するに違いない」
でしょうね、という雑な同意が危うく出そうになったのを、何とか押し留めて言葉を選んだ。
「…ありがたい話です。それでこそ、我々は建設的な未来に向けて――」
時々、リアクションがぎこちなくなってしまう。ズルのおかげで得られている情報面、心理面でのアドバンテージは間違いなく大きいんだけど。
それらでゲタを履きつつ自然体のうわべでいるには、どうしても別途、ソコソコの精神力が欠かせないのだった。
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『5年か6年くらい前に、メディア・ステーションで発生したスネーカー絡みの事件のあと。セラフィーたちがひそかに引き受けていたっていう、バーチャル世界の『調律』作業。
その仕事をこなすなかでセラフィーは、僕のエラー・アカウントも、他のメンバーと同様のメンタル・コピーの一体として、バーチャル世界内に生成しておいたんだそうだ。
しょせんは無作為データの詰め合わせにすぎないエラー・アカウントに、僕としての自意識は生じない。が、そのくせ僕の外形や基礎的動作を一通り備えている。
そんな哲学的ゾンビじみた「中身が空っぽのツトム」が、『調律』作業中にバーチャル世界内を動き回り。他種族に関する様々なこと――文化とか、習慣とか、政治的な情報。それから要人たちの個人的な好みや家族関係なども含めて――の情報収集をひそかに行い続けた。
そうして得られたデータの山を、「空っぽのツトム」の中に詰め込んでおいてから。後ほどバーチャル世界に接続した僕個人へと、他の人のケースだと自己同一性の統合を行うプロセスの場面で、データをマージした。
つまり本来なら自己同一性を統合するタイミングにおいて、通常の統合プロセスじゃなく、記録データの塊を生身の僕にブチ込む荒っぽい作業を行ったってこと。
ソレによって現実世界の僕個人に対し、『調律』中に得られた経験的記憶を、丸ごと密輸するってことを成し遂げたのだった。
かくして、各種族の裏事情に通じた
言っちゃあなんだけど、セラフィーって優秀かつ誠実なAIオペレーターだと思う。
バーチャル世界の『調律』といういかにも面倒な仕事を、彼女が率先して行っているのはまったくの善意に依るものだから。
でも、そんなセラフィーにだって私利私欲はある。たぶん彼女は愛着のあるヒト種のことを、少しばかりヒイキしたかったんだ。
現在進行系でひどい目にあっている現実世界の僕たちにとって、プラスになるようなことを、もののついでにやってしまおうと目論んだ。そのこと自体は掛け値なく、有り難い話だと言うことができる。
そのために、結果として僕も人柱みたいな形で巻き込まれてしまったわけだけれど。それもまぁ、仕方ないんじゃないかなって。
このメディア・ステーションやその乗組員たち。あるいは地上で生き延びた数少ない、それでも数多くの人々。つまるところ自分自身がれっきとして属する、ヒトという知的一種族に対する愛着は、僕にもある。
その存続のために身を削ることに、否はない。ほんとうに。
でも、そんな僕なりの賛意は脇において。何かしらそのうち、埋め合わせがあったら嬉しいなあ、とも思ったりはしてるんだけどさ?
今となってはもう、大昔の出来事みたいに感じられる。不足資源の収集目当てに、メディア・ステーションから久々にバーチャル世界へコネクトしたときソレは起こった。
さっき言った記憶のマージ、実感を伴わない記憶を生身の脳へと強引に焼き付けられたせいで、当時の僕は、まるっきりヤバい薬でも盛られたかのような症状を来すハメになったんだ。
突発性、原因不明。ウチの救命医療班も匙を投げたって聞いている。
都合3日くらい、ステーションの医療用ベッドの上でのたうち回ってたハズ。アレはホント、キツかった。
おまけに未だにちょっとフワフワした感じ(離人症とか言うらしい)が残っていて、今後それが完全に良くなるかどうかも分からないんだとさ。……ハズレクジ引いてるよなあ、これって。どうみても』
フォロル族の宗教観は基本的に緩めだと思う。
戒律に厳しかったりだとか。排外的だったりだとか。そっち系の敬虔さとはずいぶんな距離がある。
ただ、素朴なレベルでの信仰心はそこまで薄くもないようで。大多数のフォロルは、ふんわり気分で彼ら教義を長らく守り続けてもいるのだった。
「あのっ、失礼いたしますミスター・ツタム? わたくし、神祇会からの者なのですが……!」
第一回ブリーフィングの大トリだった南極絡みが一段落。そういったところで、会議参加者のうちのお一人が食い気味に話しかけてきた。
薄橙色のインカムを付けた、平均よりも少し小柄なフォロル女性だ。
これまでの実務的なやり取りにはほとんどだんまり。だったわりに、最初の面通しの時点から、彼女は僕のことを睨めるように観察しっぱなしでいた。
「ええっと。マザー・ソピア? なんでしょう」
確か役職は神祇会付属学院の教授さん、だったっけ? ある程度お年を召されているようだけれど、僕に分かるのはせいぜい、マザー・シルよりは幾らかお若いのかなぁ、くらいのものだ。
カーン前総司令繋がりで詳しく人となりが知れているフェー議員と違って、彼女についての情報はほぼない。
それでも、神祇会って時点である程度の方向性は見て取れると思う。
「先ほど言い淀まれていた『ミサ』という御名前について、少々お聞きしたいことがございまして。よもやそれは……マエ神を産んだとされる荒ぶる星神。夜明けと夕暮れを司る祖神メーサと何らかの関わりがあるのでしょうか? ミスター・ツタァム、あなたのご見解を是非とも、伺えませんかしら」
やっぱりソッチ系かあ。正直面倒くさい。……だけどこういう話題に対しては、なるだけ真面目に応答しておくべきだよな。
マジメっていうか。彼女の興味を意図的にひくような形でというか?
フォロル族の皆さんが持つ宗教ベースの友愛感情を、ちょっと悪い言い方をすると逆手に取らせてもらう。それが僕たちヒト種が、というより僕とセラフィーとで考え出した、当面の採るべき方針なんだしね。
「美沙という名前は……萌の本名ですね。彼女の生来の名前は、そちらで。『萌』というのは、彼女がバーチャル世界に入る際に、自分自身を名付けた仮の名前なんですよ」
「まぁ……!
「風習、習慣といいますか。むしろ制度に基づいてと言うべきかもしれません。僕たちの所属組織内で用いられている、ローカルな制度が半端に反映されたのかと」
マザー・ソピアの細まった目線がこちらに向いたまま。彼女の手もとでは、小型の記録用媒体がしきりに操作されている。
エウロパ人が使っていたものをより薄っぺらくしたようなデザインで、たぶんアレって何らかの技術提携があったんじゃないかな。さておきこっちとしても一拍おいてから、続ける。
「当初僕たちは、メディア・タワーやメディア・ステーションで、ハイパー・バーチャル・システムを基礎教育用の教材として用いていました。感染災害発生前の建付けがそうなっていたからです。そのためバーチャル世界内で用いるアバターは、システムの使用者自身を完全に再現する必要がなく。事前に準備されたテンプレート素材を組み合わせて、半自動的な工程で生成されるという形式でした」
そうした流れで手を付けた学習教材の延長として、多元世界への交差点へとなし崩し的に介入するハメになった。……こんな経緯は、どこから見たって異常なものだ。
「自分自身でありながら、半ば他人のようでもある。また、異なった容姿を複数ストックすることだって考えられる。そんなアバターの一つずつに対して。新しく名前を付けるというか、改めて自らを名乗ることで、固有のものとして区別しておく下準備が求められた。萌が美沙ではなく『萌』を名乗っていたのは、そういった理由によるものだったんですよ」
その点、フォロル族含め、他種族はバーチャル世界をずっと即物的なものとして捉えている、と思う。
軍事利用がメインだってことを考えれば、そりゃそうだろうという話で。
バーチャル世界へ人員を送り込むにあたって、僕らがやるような変な手順は噛まさない。つまり使用アバターはほぼ完全に本人が再現される、特定個人の身体性をダイレクトに接続し、各々の能力を最大限活かすためにだ。
「彼女が最初にレイ……フェリロに名乗った名前は当然『萌』の方でした。ずっとそちらで通していた。『美沙』という名前については相当後になって明かしたはずですから、こうしたややこしい経緯が、伝聞を経て曖昧な形で伝わったのではないでしょうかね。ちなみに、『萌』という言葉には萌えいづる、つまり草木が芽を出し、伸び上がる様子を顕す意味がありまして――」
結局、マザー・ソピアにはそのあと一時間近くあれこれ質問攻めにされてしまった。
他の参加者も心底興味津々といった感じで、誰一人ストップを掛けてくれなかったのだ。正直言って、メインの交渉よりもこっちの方がトータルの疲労感が大きかった気がする。
……客寄せパンダ役。早まったかもしれないなあ、コレ。
ともあれ、この場での交渉は大筋うまくいったと思う。
こっちの願望も大いに入っている気はするが。それでも今僕ができる限りのことをやった。それだけは確かだ。
もちろん、中長期の将来的なことにまで目を向けると、世に心配のタネは尽きない。
なんだかんだで昔から不干渉エリアに近かった南極大陸の切り売りについては、そこまで反発は生まれないと思ってる。その意味でフォロルはヒトにとって極めて都合の良いパートナーと言える。
でも、近い未来にギラグールが確保しようとするだろう北アメリカのあたりには、地上では最も組織だったヒト・コミュニティが残っているからある程度の衝突は避けがたい気がするし……プグラシュティクの世界における最大都市圏も同じく北アメリカに位置するそうなので、あの地域については既に予断の許されない情勢下にある。
また、他の可能性文明にしても、おそらくその多くが今後僕たちの世界のどこかしらに、一定の居場所を求めることになっていく。
多元宇宙の交差点となったバーチャル世界。そこでの観測結果が直接的に反映される、いわば『正史』たるヒト世界。
その場所に橋頭堡を築くことで、個々の宇宙の観測者である固有種族としての、存在の安定性をより高めることができる。
どういう理屈でそうなるのかは、僕自身良くわかっていないけれど……とにかく、何らかの理論的、システム的な裏付けがあるってことは確かなんだそうだ。
それ自体は功罪半ばする将来見通しではあるだろうと思う。ただ、不確定性マシマシって時点で、どのみち頭の痛い話であることも間違いなかった。
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『これからどうなるのか。これからどうするべきなのか? 諸々分からないし、先行き不透明。
不安は大きい。懸念もたくさん。霧立ち込める未来へと向けて、毎日をただ歩き続ける。
その不安は、むしろ将来に具体的な算段が付き始めた最近になってより強まった……ような気もしている。
ああ、だけど。それってなんて贅沢な不安なんだろうって、そんなふうにも思わなくはないのだった。
過去に積み上がった山のような屍の数々。彼ら、彼女らはもう何も思い悩むことはない、それは絶対にとても悲しいことだ。
思い悩める贅沢ってものを受け入れよう。そしてその上で、毎日を堅実に……なんて。割り切れるのなら良いんだけど、人間、そういったところはなかなかね。
二律背反。難しいよ。
でもま、だいたい白状しておいた。
今すぐこれを公開するつもりはないけれど、でも僕にもしものことが――そりゃ、無いに越したことはないけど、今後もこれまでとは別の種類の危険が待ち受けているってことは否定できない――あったとしても。色んな事実が歴史の闇なかってオチには、たぶんならずに済むわけだ。
地球上で生きて死んでいった星の数ほどの生き物のそのほとんどが、なんの痕跡も残さずに消えてしまった。その物悲しさを思えば、こうやって何かを残せる。若しくはせめて残せる見込みが立っているってこと。
それ自体はきっと、掛け値無く恵まれたことなんだと断言できる。
いらだち。後悔。不甲斐なさ。焦燥感。
色んなマイナス感情が頭の中をぐるぐるしていて、なかなか眠れない日もある。今日みたいに。
だけど、誰かがこんなふうなことを言っていたと聞いている。未来の予定を話せるというのは、幸せの証なんだって。
それは確かに、そうだと思う。思いたい。
さあ、寝ちまおう。