恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します   作:あーぷ

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ヒヤリハットは当然に…

 

 

「それで?」

 

 プグラシュティクの王室戦闘メカ、コントロールルーム前方。タッチパネル式のコンソールの上に置かれた薄ピンク色の通信機に向かって、ジト目になったティルが告げる。

 

「いったい、どうしてあんなところに飛ばされたんだ? 合流地点が沿岸帯に位置するとは聞いていたが……作戦のベースとしては、近隣の平野部にこの機体を配置しておき、その周りにいくらか外部施設を設える。そういう手はずになっていたはずだろう?」

 

 

 

 なおコントロールルームの内装は、黄色いタイルを幾何学的に敷き詰めたかのような独特のものだ。

 

 真正面に、外部映像の投影などに用いる横向き長方形の大型フロント・モニター。そこには今現在、海岸沿いの高台からテチス海を見渡すリアルタイム画像が映っている。

 

 その正面以外にも。左右の壁際には、何に使うんだかよくわからない多角形の機材やディスプレイが、いくつもいくつも埋め込み式で設置されているのが見て取れる。

 

 

 

 各種小ディスプレイの表示画面をそれぞれ見ていくと。テトリスのバーにごちゃごちゃオマケが付いたみたいなのが、横向き、多段式にズラっと並んでいるものがあるかと思う。

 

 あれってプグラシュティクの書き言葉なんだな。作中キャラクターとしてのリックくんにしてみれば母語となる。当然彼なら一目見ただけで、造作なく記載内容を読み取れるんだろう。

 

 

 

 しかしプレイヤー視点だと当然チンプンカンプンだ。同様に他種族のキャラクター目線でも、独自にプグ語を学んだ経験でもない限り。意味不明なしるしの羅列にしか見えていないはず。

 

 概ね、インカムの自動翻訳機能が対応できるのは口語のみってことになる。

 

 文書レベルの読解には別途リーダーを噛まさなければいけないのが、VWO内における技術水準のアベレージとされる。そこらへん、現代の肌感覚からすると少々違和感を覚える部分かもしれない。

 

 あくまで20世紀末の作品がベースになっているから、21世紀に入ってから起こった画像認識&映像把握能力の飛躍的向上なんかについては、意図的に描写から省かれているのだった。

 

 

 

 ちなみに背後の扉から通路に出ると、居住区や機材置き場。そして格納庫方面へと移動することができる。

 

 いずれのフロアについても、ワールド2攻略におけるプレイヤー用ロビー・スペースとして用いられる。

 

 

 

 諸々を俯瞰的に見た感じ……このプグラメカ。だいたい5~6人くらいの人員が、そこまで不便のない日常生活を送りつつ、任務や個人的目標を遂行可能な設備がまるっと収まっていると見て良いだろう。

 

 

 

 リックくん個人にしてみれば、だいぶん居心地がいい空間なんじゃないかねえ、ココ。

 

 なにせ同族用のでっかいモーターハウスみたいなもんである。しかも王侯貴族サマ御用達の最高級機種ときた。

 

 先ほどのティルの言から、どうも頑丈さなんかは純軍用に比較的劣るみたいだけど。反面、居住性の良さについては比べ物にならないだろうしなあ。

 

 

 

 『ジーンダイバー』原作ではティルと行動をともにしていたユイやパック。またエウロパ人のドライ6の姿は、今のところ何れも見かけない。

 

 それから、ある意味当然のことながら。原作ストーリー中で死亡済みのフラウ・ニー、バン・ニー両名の姿も無い。

 

 現時点でこの機体を利用しているのは、権利上の持ち主であるティルと、あと、機材置き場に常駐しているギラグールの哺乳類研究者であるハル――彼の正式名称は『春の最初の満月の夜に生まれた最初の息子』なんだけど、聞いての通り異様に長くて取り回し最悪なため、同族のギラグール以外はみんなしてハルと呼んでいる。なお、その略称を命名したのは『恐竜惑星』の主人公たる萌……っていうか、VWO上の扱いだと「萌さん」か――の二人だけだ。

 

 リックくん≒プレイヤーキャラが、後付けの乗組員として何人か追加されたと仮定しても。このプグラメカ、生活スペースの余裕を十分以上に残していることが察せられる。

 

 

 

 

 

 

『……ごめん、ティル。たぶんだけど、パックから僕のところに送られてきた座標データがズレちゃってたみたいだ』

 

 さておき。薄ピンクの通信機から、男の子の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。

 

『年代のケタが、前後にひとつ入れ違ってて、そのせいでだいたい6万年くらい過去の沿岸部座標に転送されてる。時代は合っていて、でも座標だけがズレてて。今モニターに映ってる海……テチス海って言うんだけど。始新世は、この海が南北の両岸から、勢いよく狭まってきている時期なんだ』

 

 外の風景を映していたフロント・モニターの映像が外部遠隔操作され、電子音と共にパッと切り替わった。続いて新生代における南部ヨーロッパ~中東あたりの再現地図が、画面上にくっきりと映し出される。

 

 どうやら置かれた通信機経由で、ディスプレイ上の画像データを他所と連動させることが出来るらしい。

 

 

 

 万年単位の日付の目盛りが動く。それに伴って、プレート・テクトニクスに裏打ちされた大陸の変形が進んでゆく。

 

 ぐねぐね、もぞもぞと、海岸線が歪む。当初は北にユーラシア大陸、南にアフリカ大陸を望む横一線の海域が開けていたのが、時代を下るごとに閉じていき……やがて、どことなく見覚えのある形の地形図へと収束を遂げる。

 

 

 

 見てのとおり。変形前の当初、アラビア半島のあたりは完ぺきテチス海の底だったんだよなあ。

 

 アラブとくれば石油王とも言われていた。かつての中東名物たる油田の大本が何だったのかというと、テチス海に無数に生息していたプランクトンの死骸なんかの有機物が、長年海底に降り積もり、圧縮されて変成作用を起こした成れの果てだったりするわけだ。

 

 

 

『テクトニック・プレートは、年あたりでだいたい数cmから数十cmくらいは動いてるって、前に虎哲が言ってた。この時期のアフリカ大陸プレートは、えっと、今調べたら全体平均で年8cmちょいみたいだから。6万年も過去の地図だと、5kmとか、6kmくらいの位置的な違いが出るんだね』

 

 学んだ知識を反芻しつつ、といった感じで慎重に言う。

 

『今回みたいに対象が大質量だと、バーチャル世界側での位置補正にも限度があるみたいで、ズレた座標そのままで転送処理がされてしまった。……その結果が、さっきのアレ』

 

 アレっていうのは、もちろんさっきのドボンだな。

 

 現在プグラメカは、何とか海中から引き揚げられて高台に横たわっている。ただしあちこちに海水が入り込んでいるため、戦速航行が丸っきり不可能な状態らしい。ジーン・ダイブも無理、とのこと。

 

「……」

 

 無言のまま瞼を伏せ、小さくため息を付くティル。

 

 ある意味で、生殺与奪を握られている側の彼女として。やられたことのザルっぷりにはゾッとしないものがあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 とはいえ……一介の中学生に、バーチャル世界内における時空間移動なんていう精密機器の運用を任せてるって時点で、そもそもが相当にトチ狂った話ではあるのだった。

 

 今さら通信機の向こうの彼のことを詰めてみても。どうなるものでもないわけだよ。

 

 組織的人災のど真ん中、起きるべくして起きた事故と言うべきか。責任者出てこいって案件だな。

 

 

 

 おまけに、ヒト文明におけるバーチャル世界へのプラットホーム。バーチャル・ステーションが実在している現実世界の方なんだけど。

 

 毒電波だか謎の病原体だかにより、生命体各種が変異して生まれた『テレゾンビ』とかいうバケモノが世界中を闊歩している。そのせいで、惑星上の文明圏が軒並み揃って瀕死のタヌキ。

 

 数少ない生き残りの子どもたちが、半ば絶望的な戦いを強いられるって情勢下にあるらしいのだ。

 

 

 

 『恐竜惑星』の時代ではまだ地上のメディア・タワーが最前線だったのが、10年間でメタメタにされて、戦線については後退一途。

 

 『ジーンダイバー』時点だと、宇宙空間に建造されたメディア・ステーションで籠城を決め込むことで、何とかかんとか凌いでいる。

 

 

 

 実際のTV番組内での扱いが、どうだったかはまぁ置くとして。とりあえずVWO公式サイトの説明書きを読む限り。このゲームの設定では、そんな感じのヘビーな経緯が採用されているらしい。

 

 つまり、既に責任者も居なけりゃ、罰則を適用する公的機関もありゃしないというね。

 

 アポカリプスなう、だよなあ。世知辛ー。

 

 

 

 

 

 

 『ジーンダイバー』の劇中。エウロパ人たちのバーチャル世界内部勢力は、古生代デボン紀に生息していた初期の両生類[イクチオステガ]を攫って巨大な瓶詰めにするなど。地球生命の進化の前段階を物理的に抹消することで、人類を歴史から消去しようとしていた。

 

 他ならぬヒトたる往年の視聴者からすると、お前ら何してくれてんだって感じがある。デボン紀の後も数億年に渡って存続してゆく生命の系譜が、丸ごと存在しなかったことにされるわけで、被加害対象数はまさしく天文学的な数になる。

 

 その後の彼らの抜本的な方針転換も含めて、少々強引な話運びの感があった。

 

 

 

 しかしながら、前述のアポカリってる裏事情を勘案した場合。エウロパ人たちの判断にも、実はそこそこ妥当性があったと言えるのかもしれない。

 

 

 

 人類文明壊滅済み。生き残りも僅かで未来は真っ暗。

 

 コレもう、ほとんど滅んじゃってるんだから。スネーカーへのちょっかいがてら消してしまっても別に構わないよね、的な。そういう発想。

 

 

 

 彼らエウロパ人もスネーカーに相当追い詰められていて、事実上の背水の陣だったって事を思えば。形振り構わない行動に出ること自体は、そこまで分からなくもないわけだ。

 

 もちろん、消される側からしてみれば、たまったもんじゃあないってことは1ミリ足りとも変わらないんだが。

 

 

 

 

 

 

 ……とまぁ。今さらだけど、通信機の向こうで話しているのはアキラだな。

 

 『ジーンダイバー』におけるバーチャル・ステーション側のオペレーターで、だいたい年代的には中学生前半ってくらい。どこか気弱さ、頼りなさが拭いきれない男の子ではあるものの。劇中の事件に巻き込まれる中で、精神的にしっかり成長した一人でもある。

 

 性格的にはやや引っ込み思案で、また些かギーク寄り。ただ、ワールド1のフォロル基地にいた前作の同ポジションたるツトム――基地で恐竜の遺伝子データを集めるサブクエストを担当していたことからも分かるとおり、『恐竜惑星』作中での彼は、概ねステロタイプな恐竜オタクとして描かれていたかと思う――と比べると、こっちのほうがいくらか社交的ではあるのかねえ。

 

 

 

 今のプレイ画面をそのまんま見れば分かると思うが、『ジーンダイバー』劇中だと実写の人物として登場していたはずの彼のポートレート画像。本作においては二次元アニメ化されている。

 

 整ったマッシュスタイルの黒髪に、黄色いラメの入った赤いジャケット。中学一年か二年の男子にしては、そこそこ上背のあるアニメ・キャラクターが映っている。

 

 

 

 非営利の二次創作とはいえ、なんだかんだ「ナマモノ」は危ないという判断だろう。

 

 それに画像や映像生成のコスト面を見ると、実写とアニメーションで優位性が逆転して久しいっていう技術的な実情もあるかな。

 

 そこらへんの扱いも、ツトムとだいたい一緒ってことだ。まぁ『恐竜惑星』の事件から十年ほど経過して、二十歳すぎの好青年に成長していたあっちとは異なり。アキラ(こっち)は原作どおりのビジュアルの延長線上で、描画されてはいるけども。

 

 

 

 

 

 

「……そうか。状況は、分かった」

 

 わずかに天を仰いだ姿勢で、ティルが呟くように言った。

 

 正直、文句のひとつも投げたいところかと察するが。ただ、この場では彼女もしっかり目上の人間である。

 

「お前たちが、碌な処理能力も無い中頑張ってくれているのは知っている。虎哲がユイたちの方に回っているぶん、なおさら余裕がないこともな? ただ、ジーン・ダイブを任せるということは、アキラ。お前にわたしも命を預けているわけだ」

 

『……』

 

「今回のようなことが繰り返されるようだと、これまで通りにはやっていられなくなってしまう。いつの時代も航路の安全確保は喫緊の課題だ。出来ないことをやれとまでは言わないが。何らかの対応策は、そちらでも考えておいてくれないか?」

 

『うん、ホントごめん』

 

 それでもってアキラの側も、単に平謝りするだけでは終わらない。

 

『僕の手もとの端末じゃ、転送に関わるパックからの超時空通信はデコードできないから、どうしてもやれることに限界はあるんだけど……とりあえず。ある程度以上大規模なジーン・ダイブのときは、ちゃんとパックから二重でデータをもらって、シミュレーションで検めることで正確性を保てるようにしてみるよ。今回のコレで良く分かった。ゲンゴロウと同じだと思ってやると、危ないね』

 

 

 

 

 

 

 んー……ちゃんとその場で改善案を出して来られるあたり。しっかり優秀な人材ではあるんだよなあ、アキラ。

 

 原作中でも、物語後半における主人公チームの活動拠点兼乗り物。航空航宙何でもござれの多機能艦『ゲンゴロウ』のパーツを、バーチャル世界内に送り込むためのプログラム――本来弾かれるべきデータを別データでコーティングすることで誤認識させてファイアウォールを潜り抜けさせるってあたり、アレのコンセプトって完ぺきコンピュータ・ウィルスだが――を自ら考案したりと、要所要所で冴えたところを見せてくれていた。

 

 年齢のことを考えると、経験不足で脇が甘いのは致し方ないんだろう。

 

 結局、VWO上の背景設定(バックグラウンド)と、アホダラAIライターが何もかも悪い。この場はそういうことにしておくとしよう。サンドバッグにされるのも連中の仕事だ。

 

 

 

「なるほど、妥当なところだろう。次回以降はそれで行ってもらえると助かる」

 

『パックの仕事が実質二倍になっちゃうから、なるべく避けたいところではあるんだけどね。ただ、やっぱりこればかりはね。相変わらずこっちのマザー・コンピュータはうんともすんとも言わないし、それに他の時代の拠点も、所属しているメンバーのバイタルと通信維持にエネルギーを取られちゃってて、動力源の反物質の余裕は全然ないみたいだし。今は、任せられる誰かに任せるしかないと思う』

 

「フフッ、パックは以前も虎哲に言われていたな。恨むのなら、己の超天才的な能力を恨めと。退っ引きならない状況であるほど、負担は腕のあるものに、ひどく偏る」

 

 と、何を思い出してか。ティルはわずかに苦笑いを浮かべる。

 

「重ね重ねで心苦しくはあるが……しばらくの間は、あいつの力に頼らせて貰おう。そのぶんの埋め合わせは、別途何かしら考えておいたほうが良さそうでもあるがな。アキラ、何か良いアテは無いか?」

 

 

 

『そうだなあ。んー、テチス海で採れる魚なんか、良いんじゃないかな?』

 

「魚?」

 

『うん。魚介類全般が、パックの好物だったよね。今、ユイたちが居るのはペルム紀だから、あっちの魚よりは始新世のやつの方がずっと質が良いはずだよ。基本的に、時代を下るほどタンパク質のアミノ酸が複雑になるから、それに伴って魚介類の旨味も、どんどん増していったんだってさ』

 

 

 

 実際に、かなり古いタイプの生き物である[カブトガニ]なんかも、辛うじて卵嚢部分は食用とされるそうだが、その味わいについては相当ヒドいものらしい。

 

 未来は過去よりもより良い。ダン・クエール閣下の名言は、食生活にもバッチリ応用を利かせられるってわけだった。

 

 ……コジツケが過ぎる? まぁ、ハイ。否定はしません。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……今、聞いてのとおりだ」

 

 ティルがコンタクトの途切れた通信機から顔を上げた。そして座席から立ち上がって振り返ると、さっきから部屋の斜め後ろで状況を覗っていたリックくんへと告げる。

 

「恥ずかしい話だが、わたしたちも運用面ではかなりの無理を重ねていてな? とりわけ、本国との通信が途絶えてバーチャル世界内の処理能力でやりくりせざるをえない現状……時代を跨いでの相互連携に関しては、どうしてもパックの能力任せになっていた。あいつに負担を掛けすぎていたツケが回ってきたらしい」

 

 リックくんが頷く。リアクションいつもの。

 

「……そう言ってもらえるとありがたい。何れにせよ、我々のやることは変わらない。やらされていること、と言うべきか」

 

 皮肉っぽい笑みを浮かべつつ、ティルが続ける。

 

「局所性フラクタライズ・エラーの解決に当たって現地に飛ばされる人員は、時間線上における距離がより近い位置にある人間が選ばれることが多い。当面、我々はこの新生代を中心に活動していくことになるだろう。わたしはこの機体のレストアをしなくてはならないから、申し訳ないが、しばらくは貴官が主戦力だ。技術士官の男も先ほど着任したと聞いている。彼とともに、内部の施設に関しては好きに使ってくれていい」

 

 例によってあちこち飛ばされる理由ってナゾのままだし、シナリオの最後の方まで事実関係が明かされることもなかったりする。

 

 そんなシチュエーションにも関わらず誰もが妙に従順なのは、当面の衣食住が確保されているからか。ボイコットしてもムダなことを分かっているからか。それとも、ただ単にお話の都合というやつなのか。

 

 

 

 ……ああ、ちなみに技術士官っていうのがくだんのハルのことだな。中生代、ジュラ紀後期のギラグール基地から後追いで飛んできたらしい。

 

 タイム・ホール発生用の反物質に関しては、フォロルよりもギラグールのほうが余裕があるってことのようだ。それでももちろん、潤沢とは到底言えまいが。

 

 

 

「改めて自己紹介させてもらう。わたしはティル・ニー・ノグ。プグラシュティクの王家の騎士だ」

 

 リックくんが背筋をピンと伸ばし、手のひらを前に向けて片手を挙げるプグラシュティク流の敬礼をする。

 

 これまでも何度か見る機会はあったけれど。今みたく、彼の全身動作がはっきりと画面に映ったのは初めてかねえ。

 

「……ふぅん。そちらの所属に聞き覚えはないが、察するに軍属か。わたしのような者との共同戦線は気に食わないかもしれないが――えっ、なんだって? 教科書にも載っているって? ……わたしのことが?」

 

 ここに来るまで、組織人じみた堅実な振る舞いが多かったリックくんからすると珍しいことに。敬礼を解き、少々興奮したような身振り手振りを行う。……へぇー?

 

 

 

「……そ、そうか。貴官は、わたしより、かなり先の絶対時間から、このバーチャル世界に呼び寄せられたんだな?」

 

 リックくんの反応を受けて、ティルがビミョーにしどろもどろになっている。

 

 相当いいとこの出なだけあって、儀礼上、敬われることに関しては彼女も慣れているはずなんだけど。たぶん、リックくんの態度は今までに向けられたことのないたぐいのもので、そのせいで少々面食らったってことかもしれない。

 

 

 

「そんなに畏まらないでくれ。わたしがやったことなんて、そう大したことじゃない。……は? プグラシュティク史上最高位の、ダイヤモンド付き騎士名誉爪章? そんなもの、過分にも程がある!!」

 

 『ジーンダイバー』劇中では、ほとんど見られなかった慌てた表情だった。乳白色の毛に覆われた両手を、手前で振ってあたふたする。

 

 本編シナリオ中、彼女にとって友好的な同族というのは姉のフラウ以外に一人も居なかった。その点、これはこれで、原作では表に出てこなかったティルの一面ということなのかねえ。

 

「いや、その。確かに、ノグの烙印を刻まれた者たちの、地位向上に貢献できたのは嬉しく思う。だけど、貴官のそのわたしへの扱いは、間違いなく買いかぶりだよ。謙遜じゃあない。わたしなど、ただ、45億年前のあの瞬間に、たまたま居合わせることが出来ただけの一人にすぎないんだから――」

 

 

 

 

 

 

 ……ここ、自キャラがプグラシュティクだった場合、こんな感じのやり取りになるんだなあ。

 

 いやさ。キャラクターの種族ごとに、同族のNPCとの間には特殊なテキストが設定されているってケースがあって。それによって、プレイヤーキャラクターの出自というか。バックグラウンドを徐々に匂わせていくっていう、一種のシナリオ上の仕込みがされていることがあるんだな。

 

 今のやり取りがモロにそんな感じだった。一応別キャラ使って通しでプレイしている自分としても、今回のティルとの会話は後半部分がほぼ初見である。

 

 

 

 おそらくだが……今しがたティルが、己自身のポジションについて歯切れの悪い口ぶりだった理由。それは彼女の名前の最後にくっついている、「ノグ」という単語に関するものじゃないかと思う。

 

 ノグとは、プグラシュティク社会において「妾腹の子」を示すものだ。すなわち身分差別のための負のブランドであり、蔑称にあたる。

 

 

 

 おかげでティルは、「王家の騎士」といういかにもお偉方といったふうな役職にも関わらず。劇中では、一般兵からすらイマイチ粗略な扱いを受けていたらしき描写があった。

 

 

 

 しかしながら、『ジーンダイバー』本編後半における活躍により、ティルはプグラシュティクの進化史上のナゾを解き明かし。バーチャル世界に裏付けられた存在そのものの安定化に成功、種族全体における英雄的存在となっている。

 

 リックくんはティルよりもかなり未来の人物と見られる。そのため彼の認識だと、本編中の彼女の功績っていうのは、もはや義務教育の教科書に載るような歴史的偉業として知られている、と。

 

 

 

 かくして偉大な史上人物へと成り上がったティルの影響により……ノグという蔑称自体が、いつしか種族英雄を表す尊称へとニュアンスをシフトさせていった。

 

 そんな流れが、ティル目線での未来。ないしリックくん目線での過去では起こっていたんじゃあなかろうか。

 

 

 

 そのへん踏まえてみると、リックくんの些か浮足立った態度も腑に落ちる面があるだろう。

 

 バーチャル世界、多元宇宙の交差点という極めて特異なこの場所においても。教科書に大々的に載ってるような人物との邂逅なんぞ、そうそう都合よく臨めるようなもんじゃないはずだ。

 

 

 

 現実に擬えるのなら……たとえば、海上自衛隊の士官が東郷平八郎に会えましたとか。そんな感じかねえ?

 

 或いはフランス人にナポレオン、医療従事者にナイチンゲール? そりゃあもう、サインのひとつやふたつは強請りたくなるシチュエーションではありましょうさ。

 

 

 

 

 

 

 ……とまぁ、これにてワールド2冒頭の会話イベントは終了だ。

 

 このあとはロビーの散策に移るとしよう。ワールド1のフォロル基地よりも移動可能なスペースが狭いため、施設の把握だけなら大して時間は掛からない。

 

 一通り紹介と準備を終えたら、次のコマからさっそくワールド2の攻略開始の方向で。

 

 

 

 さて。それでは何よりもまず、ハルの居る「機材置き場」に直行するか。

 

 この拠点の名目上の主はティルではあるが。プレイヤー目線だと、彼女よりもよっぽど、ハルの頭を覆う薄紫のヘルメットのことを目にする機会が多くなるかと思う。

 

 

 

 なにせ、装備品のアップグレード、アイテムの販売。更にはサブクエストの受領に至るまで、ワールド2における彼の役割は多岐に渡っているからだ。

 

 

 

 彼から請けられるサブクエストの方式については、フォロル基地でツトムから受けていたのとほぼ一緒。ターゲットが恐竜から哺乳類各種に変わったというだけ。

 

 ステージ中で指定されたエラー生物を狩って、生体サンプルを規定数ゲットせよ、というやつだな。

 

 ツトムクエスト同様、ハルクエストからは通常の金銭報酬に加えて、装備品の強化素材が確定で入手できる。積極的に受けておくべきだ。

 

 例によって、新しいステージが開放されるたび、そのステージに登場する古生物のクエストが次々貼られていく形になっている。努々、受け忘れることのないように!

 

 

 

 ……ワールド1を通してもう三回くらいツトムクエスト受領漏れのある自分が言っても、どの口がってふうではあるけどな。

 

 

 

 おかげさまでリックくん。現時点で未だに、武器の強化が初期武装『039年式ドリル・改』Rank2のまんまだったりする。

 

 攻撃力は討伐時間にダイレクトに響いてくる。したがって仮にオンラインのパーティプレイに参戦した場合、現状のリックくんはほぼほぼ地雷キャラと化していたりする。スマン。

 

 

 

 時期を考えると、そろそろ武器改造で作れる特定生物種用の特化武器――今後のステージの生態系を鑑みるに、[獣脚類]キラー派生が幅広く刺さるのでまずはオススメ――なんかにも手を出しておきたいところ。

 

 しかし懐事情的に、ベースとなる初期武装を複数制作しておくだけの素材が足りない。

 

 どこかしらで枠を取って、リソース稼ぎの単純作業をこなしたほうが良さそうだなあ。せめてワールド3に入る前までには手を付けておかないと。ハルクエストの消化がてら、同じステージをぐーるぐるだ。

 

 

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