恐竜惑星とジーンダイバーのMOゲームを実況します 作:あーぷ
それにしても振り返ってみると……ワールド2の後半って、結構やってることが鬼畜気味じゃあなかろうか。
まずは7万年前の[トバ火山]の破局噴火に伴うカタストロフ。
その次が1万1千年前のウィスコンシン氷期終焉時に起こった、[北アメリカ氷河湖]の大決壊。
そしてこの後のワールド2最終ステージは、中東はヨルダン。渓谷下流域に位置する[トール・エル・ハマム(英)]の街を襲った、およそ3700年前の小天体衝突事変とくるわけだった。
さしずめ、先史時代における天変地異の体験会といった風情。往年の人類が被った艱難辛苦に、その場その場でわざわざ巻き込まれてみることができる。
その上でなんでか、現地でこっちに襲いかかってくるのは、他ならぬ逃げ惑う被災者の方々というのがまた。アンタら、とっとと逃げたら?
……いやまぁ、謎のエラーを吐いてトチ狂っている古生物を殴り倒せっていうのが、このゲームにおけるステージごとの暫定目標であるからして。いにしえの人類たちについても、只々同様の扱いを受けているってだけのことではあるんだけどさ。
VWOの設定上でも、エラー生物という名の実体あるオブジェクトであって、遥かな過去に生きた実在する存在ってわけじゃあないのだし。ただ、絵面がねえ。
ま、なんつうか。ワールド1のクライマックス、白亜紀末期の隕石衝突をバックにティラノサウルスどもとやり合ったステージもまさしくそうだったけれど。背景で何かトンデモない事態が進行している状況下というのは、使い勝手がいいんだろうな。とっても。
平穏無事、のっぺりとした風景のもと。ただただ古生物を出現させるだけだと、どうしても間延びしてしまいがち。
そこのところ、ステージ進行にメリハリを付けるにあたりまして。地質学的なイベントをストーリーの背骨として組み込むことで、なんとかゲームらしい派手さ。ケレン味を確保しようとしているってことかと思う。
加えて、素材の使い回しが利きやすいって面もあるだろう。
例えば二つ前のステージ6だ。トバ火山噴火時のスマトラ島で、定期的に飛んできて爆発していた火山弾――当たると大ダメージで、種族やキャラクターのビルドによってはワンミス確定だったアレ――だけど。あのオレンジ色の火の玉ってぶっちゃけ、戦場系のFPSなんかで良く使われる、迫撃砲の直撃エフェクトそのまんまだったりするんだな。
サイズに質感。あと色味など。なんとなく見覚えのあったって方もそこそこ居られたんじゃあなかろうか。
とはいえ、大半が「なんとなく」で済んだはずだ。設定可能なパラメータを幾らか弄っただけでも、あんがい一瞬だとピンと来ないようにすることが出来る。これって、この界隈ではそこそこメジャーな手法であるそうな。
一昔前に比べると、計算リソースに関しては湯水のように使いまくれる昨今ではある。しかしながら、量産ゲーなりの工夫の一環。要所要所で作業工数を節約できるに、越したことはないってことだろう。
さて。開始時点でのムービーシーンは、これまでと少し毛色が異なる。リックくんがジーン・ダイブでスタート地点に送り込まれる、いくらか前のタイミングから映像が始まる。
トール・エル・ハマム。……もっとも、それは後年にこの街が遺跡として発掘されるにあたって、現地の呼び名から引かれたラベル名にすぎず。往時には、まったく異なる名前で呼び表されていたはずである。
地中海東部の沿岸地方、レバントの南部で栄えた都市国家郡の中心部。
この時代の中東は、各地の文明を相対的に見た場合の、先進地域のひとつだった。すなわち今映されているこの場所は、現時点における世界有数の都心だったと見ていいかと思う。
そんな二重構造を擁する都市が、ヨルダン地溝帯の合間に位置する低盆地に、何百年に渡って存続してきた。由緒ある地所。
ただ、残念ながら。現代人の感性で見ると、町並みそのものはたいへん粗雑だと言わざるを得ない。
泥塗りや日干し煉瓦で作られた家屋は、どこもかしこも薄茶色。また造形に関しても見どころは薄い。
特定の方に分かりやすい言い方をすれば、いわゆる豆腐ハウスに毛が生えるか、生えすらしてしない程度のシロモノ。あからさまな低品質が野放図に乱立しているにすぎないわけで。
しっかりとした扉はなく。建て物の区切り部分には、ただ簀の子のような板を立てるだけ。
アーチなんかも、せいぜい形の粗いものが排水路の底に使われているくらいで、建築物に組み込まれたれっきとした「アーチ構造」と呼ぶに値するストラクチャーは見当たらない。
別にそれはこの街に限った話ではなく、全世界的な傾向と言える。
この時代、既に大工さんか、それに近い職人集団はちゃんと存在していた。しかし彼らにおいても、蝶番的な細やかなギミックだとか、あるいは大掛かりな建築プロジェクトを計画的に実現するだけの、技術力の蓄積が成されていなかった。
紀元前17世紀。この段階だと、ホモ・サピエンスとしての共有知は、まだまだその程度のレベルに留まっていたんだということだ。
行き交う人々の衣服は、粗末な麻づくりのものがほとんどである。それどころか、半ば以上裸みたいな格好でうろついている人間すら珍しくない。
また、体格も見すぼらしい。体内に大なり小なり寄生虫を飼っているせいか、腹が変に出ていたり、顔色が黄土色じみていたりもする。
初期の都市定住者の平均寿命は、それ以前の狩猟採集時代よりも、むしろ縮んでいたんだそうだ。
過酷な生活。この頃に比べれば、21世紀中葉とは、もはやユートピアを射程圏に収めた年代である。そう言い切ってしまっても、そこまで大げさではないんじゃないか。
でも、往年の人々は彼らなりに、その日暮らしを健気に楽しもうとしていたし、実際に楽しんでもいた。それもまた、確かなことではあるはず。
……この後に起こる出来事により。彼らの日常は、前触れもなく派手に吹っ飛んでしまうわけだけども。
夕暮れ近づく昼下がり。
空気を切り裂く甲高い音が、はじめはほんの微かに。そしてだんだん深く、大きく響いてくる。
この街どころか、当時を生きる誰にとっても耳慣れない音。コイツはいったい何事かと、街の住民たちが、ひとり、またひとりと、キョロキョロと周囲を見回し始める。
そのなかで、ひとりの初老の男が「あっ」と声を発し、北の空に向かって節くれだった指を差し伸ばした。
彼が見つけたのは、赤みを帯び始めた空の片隅で、ちかちかしている真っ白な光の粒だった。
その粒は、今や明けの明星より遥かに明るく。しかも次第に、光量を増してきているように見えた。
男の声につられて周囲の人々も同じ方角を見上げ、遅れてあちこちでも行動が連鎖する。そしてじきに、謎めいた光のことを、街人の多くがその瞳に収める形となった。
なんだ、あれは? ……誰も分からない。
程なく光量が太陽すらをも上回る。未だ陽に高さの残る時間帯にも関わらず、街なかは、正午よりもよっぽど明るく照らしだされる。
見上げる目線の角度的な関係で、その光はすじ雲めいた帯となって、北から南にまっすぐトール・エル・ハマムを横切り……そのまま、地平線の向こうへと消えていったかに思われた。
人々は、その不可思議な光景を、ある者は引き続き眺め続け、ある者はすぐに興味をなくしてしまい。またある者は不吉なものを感じ取って、自宅や物陰へとそそくさと引っ込んでいった。
もっとも、その振る舞いの多様性は、個々人が得られた結果の違いを、ほとんど齎しはしなかった。
大掛かりな理不尽は、その力学的な規模の大きさゆえに、ひどく平等。まるでヒトの手の及びようがないものだったからである。
街から南側へと離れた空の高みで、一瞬の、決定的なタイミングが生じた。
大気の壁に衝突しながら突き進む物理的な実体が、衝撃に堪えきれずついに破砕した。その瞬間、真っ白な光が突如として膨れ上がり、猛烈な勢いで全方位へと広がっていった。
その影響は直接的、かつ甚大だった。
まず、何千℃という熱線が。続いてメガトン単位の爆発に伴うエアバーストが。トール・エル・ハマムを含む周辺一帯を壮絶に焼き焦がし、あっという間に薙ぎ払い、更にはずたずたに引き裂いてしまった。
ほんの数秒で、すべてが様変わりすることになった。
瓦礫の山と化したトール・エル・ハマム。街の全域から次々に火の手が上がりだし、またあちらこちらから人々のうめき声が聞こえてくる。
物言わぬ屍の数はうめき声よりも遥かに多く。消火活動に手が回る人だなんて、まず居ない。
余りにも唐突で、理不尽な滅びが、いよいよ現実味を帯びてくる。
……リックくんがジーン・ダイブでこの場に降り立ったのは、まさしくそういった瞬間だった。
『ここは……紀元前の、だいたい今から3700年前くらいの中東地域みたいだね』
状況のモニタリングを開始したアキラから、インカム経由での状況説明が入る。
『だけど、いったいこれ、何があったんだろう? 街がむちゃくちゃだ。ただの火事ってわけじゃないみたいだし……』
そこかしこに人が倒れ伏し、半ば地獄絵図と化した大通りの片隅で。ジーン・ダイブ直後のリックくんは、油断なく身構えて周囲を観察する。
おそらく今彼のいる場所は、壁内における中心街の一角だったんだろう。下町に比べればまだ多少整然としていたはずの町並みだが、今やもう、見る影もない。
大半の建造物がボロボロの半壊状態。中には全壊といって差し支えないものだって、数多く見られる。
と。局所性フラクタライズ・エラー独特のノイズを帯びて、人々が立ち上がる。
エアバーストによって吹き飛ばされたり、熱線で酷い火傷をおって地に伏していた、生死すら定かでない人々が。
端々をジャギらせた状態で、幽鬼が如く次々と身体を起こし。そして、リックくんに向かって一斉に、虚ろな視線を揃えてみせるわけだった。
『うええ!? またこの手のエラー症状か!』
慌ただしくしながらも、どことなく余裕があるって感じもするな。
既にトバ・カタストロフと氷河湖の大決壊。それぞれでエラー状態となったヒトの群れに襲われるリックくんのナビゲートをこなしている。
加えて現実世界での
『うわ、周りのそこら中で、反応がどんどん増えてるよ……。このままじゃ囲まれちゃう。えっと、リックさん、まずは北に向かって? そっちの方が、いくらか反応が少ないみたいだ』
オーケイ、了解。
……正直、ホラー映画もかくやで、絵面的にはR-15くらいありそうだ。中学生に道案内やらせるようなシチュエーションじゃあなかろうよと思いもするが。
でもま、今さらここに来て替えの人材なんて居やしないわけで。やむ無しか。
ていうか、コレねえ。相変わらずどっからどうみても、所謂ゾンビゲーム用のグラフィック・モデルと、行動パターンとを流用しているとしか思えない。
こっちも向こうも(種族はまぁおいといて)人間のはずなのに、なんか齧りつこうとしてくるし。揃ってうーあー呻いているし。バレバレすぎていっそ潔いくらいとすら言える。
量産型ゾンビAIを積まれて襲い来る、粗末な麻の服に身を包んだ現地住民諸賢たち。彼らをあるときはブチのめし、またあるときはやり過ごしながら、燃え盛るトール・エル・ハマムの街を脱出する。
ワールド2の最終ステージとは、概ねそういったゲームなわけである。
老若男女の他にも、後ほど飼い犬や飼い猫が、ゾンビ犬やゾンビ猫と化して立ち塞がる。
また脱出間際には、ノーンかその血族に飼われていたと思しき二頭のライオンが、知性と痛みを忘れた姿で遮二無二襲いかかってくる。
描画内容の鬼畜っぷりから目をつぶれば、それなりにやりごたえがあって面白いステージではあるんだけども。しかし本来のゲーム・コンセプトからは、ズレてしまってる感が無きにしもあらず。
だいたい、既に文化的な遺跡や遺物が残っているって時点で。この年代だともう古生物学っていうより、余裕で考古学、ないし歴史学のエリアに両足突っ込んでるもんなあ。
最古の楔形文字が、確か紀元前3000年ちょいあたりだから、とっくに[原カナン文字]だかが、ここら一帯でも広く用いられていたはずだ。
アルファベットの原型の、さらに原型って感じで、現行の文字体系とは相当受ける印象が異なるだろうが。ともあれ先史時代は過ぎ越され、完全に有史の範疇に含まれているのが間違いない。
この頃にはもう、生命体の歴史は、遺伝子という物質的な軛から半ばほど解き放たれ、言葉や文字という文化的な記号へと乗り換えられていたってこと。
ただ……天体衝突という地質学的な事件が絡んでいるので、コジツケ的に見れば、辛うじて踏み留まっているとも取れるかもしれない。
それに、『ジーンダイバー』においてもストーリー終盤は、
ま、この点については「良い」んだってことにしておきましょう。あんまり重箱の隅突っついてもロクなことにはならないだろうし。
とにかく、行く先を塞いでいるゾンビもどきを急いで倒しつつ。アキラの助言どおりに、さっさと北へと向かうとするか。
幸い、局所性エラーによってここ一帯の空間が丸ごとフリーズ中。おかげでこれ以上家屋の延焼や倒壊が拡大することはないようになっている。
時間経過で逃げ道が塞がったり、煙に巻かれたりしてそのまま詰む心配はないってことだ。少なくともステージの進行中においては。
ただし燃えてる炎を踏んだり触ったりすると、ダメージゾーン扱いでHPがモリモリ減っていく。道中のルート選定については、俯瞰的に見ながら要領よく進んでいく必要はあるだろう。
それに一体一体では雑魚のゾンビもどきも、複数体に殺到されるとあんがいバカにならない。出現ポイントも中々厭らしいから、余裕かましてるといつの間にか囲まれていて、ガブガブ噛まれてご臨終という、ゾンビ映画序盤のヤラレ役みたいな状況すら懸念される。
のんびりマップをうろうろするよりも、ある程度割り切った上で大胆に進めていくのが本ステージのコツなのだった。
◆
無事、トール・エル・ハマムからの脱出を果たし。近隣の山岳地帯半ばの高台から、ズタボロになった麓の街を見下ろすリックくん。
『……ひどいね、これは』
手もとのコンソールを用いてバーチャル世界のデータ履歴を掘り返すことで、事態をおおよそ把握したアキラが、沈んだ声色で呟いている。
『直径100メートルにもならない隕石でも、ある程度近くに落ちると、こんなにどうしようもないことになっちゃうんだ』
その言葉を受けて、リックくんも無言で頷いた。かなりの標高から見下ろしているため、フリーズ状態が解除された後のリアルなグロテスクを見せつけられるハメにはなっていない。
ただ、それでもなお目の前の光景は衝撃的。息を呑む場面だと言っていい水準のものだ。
ダストに可視光線を遮られ、傾いた太陽は、血のような赤へと染めあがる。
その下で立ちのぼっている無数の白煙は、生活の証の対極にある表象。
滅びる間際の街。これらがわずか数分前まで、活気あふれる古代都市だったと言われてみても、なかなか信じるのは難しいだろう。
『あっ。誰か来る!』
と、アキラ。眼下の街へと続く坂道を、一組の家族が、ほうぼうの体で逃げてくるのがリックくんの目にも入ってきた。
壮年の男が先頭に立ち、間に若い女性二人をはさみ。そしてやや離れて最後尾に年かさの女性という四人連れだ。
四人とも、僅かな家財道具を両手で抱え、あるいは背中に背負ってやってくる。
局所性エラーはもう解除されているから、彼らは特有の症状を起こしておらず、自然体。とはいえこの世の地獄からすんでのところで逃げ果せたばかりとあって、揃ってひどく恐怖に駆られた表情をしているのがありありと分かる。
ケース・バイ・ケースではあるが、エラー現象中は現地の絶対時間は進行を停止していることが多い。
とりあえず今回はそのパターンだったようだ。そのため時系列を考えると、今はまだエアバースト発生からほとんど間が空いていないはず。
にも関わらず、ここまで来られているということは。おそらく彼らには元々、危険な夕暮れ間近に街の外へ出ていかざるを得ない何らかの事情があった。そのおかげで、運良く災禍から免れることができたんだってことだろう。
不運に見舞われたと思しきことが、実際のところは幸運だった。人生万事が塞翁が馬、というやつだな。恐らく。
リックくんが両手のドリルで地面を掘り、急いでその場で身を隠す。
これほどまでの規模の都市国家を構築できている時点で、わざわざ言うまでもないことだけれど。この時代、人々の認知能力は、既に現代人とそこまで変わらない域にある。
彼らから見たリックくんは、別世界の未来から来た異邦人にあたる。そんな存在とひとたび出逢えば、相手にどんな影響を及ぼしてしまうか知れたものじゃない。
たとえバーチャル世界内における仮想的な存在であろうと、現地住民との直接接触は極力すべきでない。という彼の判断は至って常識的なものだ。
ただでさえ夕暮れどき。そこにエアバーストによって吹き散らかされた煤や塵が立ち込め、周囲の視界は普段よりも一層悪くなっている。
リックくんが身を隠した穴のすぐ近くを、四人はまったく気にかけることなく通り過ぎ。さらに、その先へと急ぎ進もうとする。
と、そのとき。
さっきのそれよりも、いくらか光量は小さく見えるものの。ほとんど同じ白い光が北より現れ、これまた似たような軌道を描いて、南に向かって飛んでいく。
宇宙の彼方からやってくる飛来物は、しばしば、宇宙空間や大気圏内で事前に砕けて連なった列を成す。それらが前から順に降り落ちてくることで、今のように少しだけズレたタイミングで、事実上の往復ビンタをやらかすことがあるのだった。
類似の事例としては、[シューメーカー・レヴィ第9彗星]なんかが有名だろうかね。
『ジーンダイバー』の劇中前史において、エウロパ人の生活に多大な影響を与えたという設定の、1994年7月、木星に続けざまに衝突した小天体群。
もちろん、サイズや個数、あと一発ごとのインターバルの長さについては、シューメーカー・レヴィの方がこっちよりも比べ物にならないほど大きかったんだけれども。
ともあれ、大きさか。それとも大気圏突入時の形状の違いによるものか? 今度の飛来物は空中で爆発することはなかった。
しかし、その代わりに。砕けた隕石の二発目は、トール・エル・ハマムから20kmほど南方に広がる[死海]の湖面に浅い角度で突き刺さり、一瞬で湖底にまで到達して……炸裂した。
そうして、隕石落着によるダイレクトな影響が、再びレバント南部一帯を激しく襲った。
まずは震度7オーバーの瞬間的な大地震。続いて死海の湖底から捲りあげられて吹き飛んだ、燃え盛る飛礫と、煮え滾って気化した塩水とが、勢い込んでやってくる。
概ね、あたり一面に隈なくといったところ。
皮肉なことに、成層圏の更に上くらいの高さから眼下を見れば。この飛礫と高熱のガスの混合物は、アラビア半島北部の大地をゆったりと覆い隠してゆく、優しく柔らかいヴェールのような姿に見えたのかもしれない。
一発目の熱線とエアバーストによって、既に住人の大半が死傷。おまけに街丸ごとを巻き込んだ同時多発的な大火事に見舞われている。
それでも都市としての基礎構造をかろうじて保っていたトール・エル・ハマムだが。ここに更なる追い打ちを食らったとあっては、流石にたまったものじゃあなかった。
ダブルタップの結果として、周囲の村落を合わせて数万人を数えた居住人口がほぼ全滅。また、一帯に撒き散らかされた死海の高濃度塩分により、周辺地域に長年に渡る重度の塩害が発生。
文明化以降、集落人口の維持は継続的な農業なしには成し得ない。結局、今後数百年に渡って、古代人たちはこの地域にほとんど住み着くことすらできなかった。
――生存者たちについて。
ほんの僅かな位置取りの差が、彼ら四人の生死をきっぱりと分かつことになった。
隕石落着が引き起こした第二の災厄が、またたく間にこの高所にまで及んでくる。
最後尾を進んでいた年かさの女性。彼女だけがうねるような蒸気となって降り注ぐ高熱の塩水の直撃を受け、悲鳴を上げる間もなく、もんどり打って倒れる。
現代の整った登山道とはわけが違う。倒れた女性はそのまま崖から転落し、急角度の斜面を真っ逆さま。
かなり下ったところで張り出した岩に引っかかり、何とか止まりはしたようだ。しかしそこから彼女を救い上げるには、相応の備えと時間が必要なことは誰の目にも明らか。
そして当然、そんな余裕がこの場に在るはずもなかったわけだ。
「父さん! 母さんが!!」
若い娘のひとりが、今しがた背後の母親を襲った悲劇を察して、叫び声をあげる。
もう片方の娘も事態に気づき、なんとかして助け出すべく身を乗り出そうとする。
しかし、髭面の父親は、悲痛な面持ちを浮かべながらも。毅然として娘を押し留め、絞り出すように叫ぶ。
「……ダメだ!! 振り返るんじゃない!」
真っ当な判断だろう。さっきの飛沫はほんの兆しにすぎず、衝突によって空高く打ち上げられた湖底の岩石や、砕け散った隕石の残骸が、いよいよこれから続けざまに降ってくるはず。
ものの数分もすれば、この場所は塩と硫黄まみれの焦土世界と化してしまう。
そうなる前に、ただちに洞穴などに身を隠し、嵐が過ぎ去るのをひたすら待つこと。
それだけが彼らが生き延びられるルートであって、不運な母親にかかずらっている時間的余裕などありはしない。
やむを得ない話だった。そもそも生死すら定かでない。どうしようもないことだった。仕方なかった。
辛く後ろ髪引かれつつも。一切振り返ることなく遠ざかっていった三人の男女のことを、土中から見届けたのちに。
リックくんはバーチャル世界側から起動されたジーン・ダイブによって、強制的に拠点へと帰還させられるのだった。
ステージ終了。リザルト画面へ。
――うーむ。何回見ても酷いムービーシーンだ。
これじゃ、神がかりなたぐいとして語り継がれもするってもの。天罰覿面、とでも思わなけりゃ。やってられなかったんだろうなあ、実際……。