World Days(旧版) 作:完結の陽炎
本編では発生していないものとして扱っています。
物語の後半から刹那と世界の百合展開(キスシーン)があります。
あらかじめご了承の上でご拝読ください。
可憐からの携帯メールで依頼があった。
ストーカーを撃退するために彼氏役になってほしいと。
世界は速攻で電話を掛けることにした。
「依頼する相手間違えてるよ可憐」
「いいえ、世界さんなら男装バッチリ似合いますって」
「私より七海のほうが合ってるよ間違いなく」
「甘露寺さんは彼氏いるじゃないですか。世界さんはフリーでしたよね?」
「そもそも本当にストーカーなの?」
「間違いありません。遠くから眺めてくるので正直キモイです。いつ襲われるかブルブルしちゃいます」
「刹那とことちゃんなら放置プレイしちゃうけどね。見られても全然気にしないよあの二人」
「そう言わずにお願いします世界さん。か弱い後輩を助けてください」
実害がない限りは警察に言っても動かないだろう。
可憐の自意識過剰という可能性もゼロではない。
だからといって見捨てるのは後味が悪すぎる。
被害が発生してからでは遅いのも事実だ。
「ストーカーってどんなヤツ? 同じ中学の男子とか?」
「はい。クラスは違いますけど学年は同じ3年です」
「受験生がなにやってんだか」
「まったくです。女の尻追い回すヒマがあるなら勉強しろって話ですよ」
「彼氏役、私じゃなくて本当は伊藤にしてほしいんじゃない?」
「そりゃそうです!! でも今はお姉の彼氏じゃないですか!!」
「まるで将来別れるみたいな言い方だね」
「先のことなんて誰にもわかりませんよぉー」
「それはそう……ラディッシュのパフェ7日分」
「長すぎます。せめて3日にしてください」
「まあいいでしょう。要するにイチャイチャ見せつけて諦めさせる作戦だよね?」
「そうです。ストーカーにラブラブデート見せつける作戦でお願いします」
「私、女だから男物の服なんて持ってないけど可憐は持ってる?」
「ある訳ないじゃないですか。私だって女の子ですよ」
こういう時に頼りとなるのが言葉だ。
後で事情を伝えて相談に乗ってもらう。
幸いにも残寒のある季節。
男物のコートを羽織れば胸を隠せる。
スカートでない男子用のズボンも必要だ。
要望に応えて言葉は支援をしてくれる。
世界に着せ替えをさせるのが楽しかったようだ。
「とっても素敵です世界ちゃん――いいえ、今は世界くんですね」
「ま、頑張って可憐の彼氏役を務めちゃうよ」
可憐と連絡をして恋人のフリをしたストーカー撃退作戦を決行。
待ち合わせは休日の朝の10時、東原己駅の前だ。
湾岸線の海沿いにあり、乙女の家からの最寄り駅となっている。
濃い目のコートで上手く胸を隠し、ニット帽でアホ毛を隠す。
冷え性対策に厚手の手袋は不可欠。
温かい色合いをした長いズボン。
運動しやすいスニーカーでのカジュアル化。
男装をした世界に可憐が目を奪われてしまう。
不思議と体温が上昇して火照ってしまうほどに。
恋に落ちる瞬間がまさにこれといっても過言ではない。
「なによ可憐。まるで伊藤の傍にいる乙女みたいな反応よ。さすが姉妹そっくりね」
「べ、べつに私はいつも通りですよ」
照れ隠しに世界の腕にしがみつく、
それだけで彼氏を手にした喜びに浸れてしまう。
まさに夢心地といっていい。
「おっ、なんか視線を感じる。可憐が言ってたストーカーかも」
「あ、あの……」
「ん? どうしたの可憐?」
「せ、先輩って呼ばせてください」
「それ、可憐にとっては伊藤だけに使う特別な呼び方でしょ?」
「あ、そっちはセンパイって呼び方は同じですけど、私の中では文字が違うんです。今のは漢字を想像しながらの先輩です」
「聞くほうはどっちも一緒だけどね。ま、今の私は可憐の彼氏だし別にいいよ」
「……先輩」
「なに?」
「でへへ、呼んでみただけです」
「何それ? ほらデートしてストーカー撃退作戦を実行するよ」
「はーい」
二人に視線を注いでいるのは果たしてストーカーなのか?
平日は同じ中学の登下校を狙い、遠くから眺めることが可能。
しかしストーカーの男子中学生にもお休みの日はある。
24時間営業のコンビニみたいにずっとは見続けられない。
可憐が外に出るまで、寒空の下で待てる訳がない。
その日に出てくるとも限らないのだから、休日のストーカーは現実的ではない。
それなら世界が感じた視線の正体は誰になるのか?
「あ、あのせっちゃん」
「……なに?」
サングラスにマスクで顔バレ防止。
いつものリボンではなく冬用のキャップをする刹那。
言葉はストレートから三つ編みに変えている。
「お二人のことを心配する気持ちはわかりますが、さすがに尾行はいけない事では?」
「尾行じゃない。これは監視」
今回のデート作戦を知った刹那が自発的に見張り役を行なう。
世界を悪い方向へたぶらかす可憐の存在が憎い。
男装で彼氏のフリをさせているのが何よりの証拠。
これを刹那が見逃すはずがない。
「せっちゃん、怒っていませんか?」
「別に普通」
「どうして尾行――あ、いえ監視をするんですか?」
「私が世界を守る。すべては世界のため」
「なんだか映画に出る壮大な台詞に聞こえてきます」
「そっちの意味じゃない」
二人が電車で移動をするので刹那と言葉もそれに続く。
途中で湾岸視線に乗り換えて榊野町駅まで向かう。
ゲーセンで対戦ゲームやガンシューティングの協力プレイを楽しむ。
商店街で寒い季節に合う肉まんや焼き芋などの食べ歩きも堪能する。
「カラオケは個室になるから見せつけ作戦には不向きだね。あ、可憐ちょっとヘッドホンのチェックしていい?」
「いいですよ。先輩って音楽聞く時はヘッドホンなんですか?」
「家がアパートだから騒音にならないようにヘッドホンが欠かせないんだ。耳の穴に入れ続けるイヤホンはどうにも合わなくて」
「あー、わかります。耳が痛くなりやすいですよね」
家電量販店でヘッドホンを見て回る。
サンプルが展示されて着け心地も確かめることができた。
可憐が世界が使ってるヘッドホンを尋ねる。
それを伝えると可憐はその場で買う。
姉の乙女と違って決断力が早い。
「可憐ってイヤホン派じゃなかった?」
「別にそういう訳じゃないですよ。ヘッドホンは前々から使いたかったので」
「私が使ってるものってコスパ重視だから、探せばもっといいものあるんじゃない?」
「先輩が使い続けてるものなら外れはないと思って」
「大当たりって訳でもないけどね」
そんな二人を店内の物陰から観察をする刹那と言葉。
刹那は可憐のとった行動の意味を見抜く。
世界とお揃いにしたかったことがバレバレだ。
刹那の中で警戒が高まって可憐を敵視している。
「少し疑問なんですが、本当に今ここにストーカーの方が隠れて見ているのでしょうか?」
「……ことぴー」
「はい?」
「私が知った時は手遅れ。もっと早く教えてくれたら、こんなコトしなくて済んだ」
「す、すみません」
「警察・家族・先生・友達。他を当たればいいのに」
「せっちゃん、怒っていますか?」
「怒ってない」
「羨ましく思っていませんか?」
「……思ってない」
世界と可憐が移動を始めたので追跡を続行。
エスカレーターを通じて次に向かったのがゲームコーナー。
家庭用と携帯型を見て回って会話をしている。
「えー、先輩ってゲーム持ってないんですか?」
「記者みたいに情報集めしたり、見知らない場所の探検をしたり、小さい頃から外で遊ぶほうが性に合ってるの。もしゲームしたいならゲーセンか、可憐のところ行けばいいって感じで、わざわざ自分で持つ気がしないんだよね」
「携帯型のゲーム、貸しましょうか?」
「やめておく。なんか壊しそうだし。借りたものって結構扱いに気を遣うと思わない?」
「あー、それは確かにそうですね」
「ま、貸す相手には気を付けたほうがいいよ。借りパクされないようにね」
「昔、実際にいました。即切り案件です」
「それは高い授業料だったね」
「嫌な授業でしたホント」
借りたまま返さない。
その被害を受けたことがある可憐。
ちゃんと相手を選ぶべきだということを学んだ。
「言ってくれたら、私がそいつの情報流して、ブラックリスト扱いしたのに」
「やり過ぎそうな気がしましたので。先輩ってそういうところ容赦しないですよね?」
「普通に嫌だからね。親しい人が被害を受けるなんてさ」
「……」
「どうしたの?」
「あ、いえ。先輩が私のことを親しく思ってくれてるんだって」
「当たり前でしょ。でなかったら今こうして協力してないから」
今の世界が男装で彼氏のフリをしてくれているからか。
可憐のときめきが止まらない。
何度も頭の中で世界が女だと言い聞かせているのに。
世界の優しさに寄りかかってしまいたくなる。
「可憐、ストーカーを諦めさせるならラブシーンが外せないよね?」
「え!?」
「でもフリだからどこまでやるかだよね? 私としては抱きしめるが定番かなって、可憐はどう思う?」
「そ、そうですね。冬の寒さに負けないぐらい熱い抱擁がいいです」
「了解。あとは実行する場所だね。可憐の最寄りとなる東原己駅でやろうか?」
「ひ、人目が多すぎませんか?」
「じゃあ冬の海岸なら人目少なくてムードも悪くないんじゃない?」
それならと可憐は頷く。
電車で移動して目的の海岸まで向かう。
時間的にこれで最後にして帰ることになる。
世界から優しく抱きしめると可憐が強めに抱き返した。
妙に緊張しているようで力加減ができていない。
苦しそうに呻く世界。
愛されているという錯覚をして体で感じる。
次の瞬間。
「天誅」
刹那の回し蹴りが可憐の尻にクリティカルヒット。
可憐が悲鳴を上げて世界を押し倒す形で倒れる。
その勢いでアクシデントが発生。
お互いの歯がぶつかり痛がって涙目となる。
刹那は二人がキスをしたというショックで唖然。
言葉は見ちゃったドキドキ感で目が離せない。
「ちょっと可憐!! 痛いじゃない何すんの!?」
「違います!! 私じゃなくて刹那さんが蹴ったからです!!」
「というか何で刹那がここにいるの!! ストーカーは!?」
「ま、まさかストーカーの犯人は刹那さ――痛い!!」
ややこしい事態になると思ったのだろう。
サングラスとマスクを外した刹那。
座り込んでいる可憐の頭を叩いて黙らせる。
そして言葉も同じように変装を解いてから二人に説明をした。
「それで二人とも怪しげな恰好してたんだ。いかにも尾行してますって感じだよ」
「……世界」
「はい?」
「唇、血が出てる。動かないで」
「あ、はい」
いつも刹那と違って威圧感が半端ではない。
逆らってはダメと世界の本能が告げている。
おとなしく従って手当てを受けるべきだ。
世界は座り込んだまま微動だにしない。
だが刹那の顔が明らかに近すぎる。
これでは治療ができないのではないか?
世界がそう思った瞬間。
「んむっ!?」
刹那から唇を重ねてくる。
予想外の行動に世界の体がビクッと大きく震えた。
反射的に逃げようとしても刹那が抱きしめて動かせない。
目を閉じている刹那にうっとりとろける世界。
ダランと脱力して世界は無抵抗となる。
それは思考ではなく本能。
もっと感じたい。
刹那に身も心も委ねてしまう。
近くで見ている可憐は口元を押さえて驚きを示す。
言葉も似たような仕草でその場から動けずに固まってしまう。
男装している世界だから男女カップルのラブシーンのようだ。
刹那のファーストキスで世界の血の味がした。
ゆっくりと離れる刹那。
とろけきった世界を自分の胸に抱き寄せた。
今の世界を他の人に見せまいとするかのように。
また可憐に対してのこれ見よがしもあるのだろう。
世界は絶対に渡さない。
そんな独占欲が透けて見えていた。
その日の夜。
刹那の部屋へお泊りを口実に世界は来た。
お互いにルームウェアでベッドに女の子座りしている。
そして向き合っている中で世界は真剣に問う。
「刹那、どうしてキスしたの?」
「世界が好きだから」
「好きでもキスはおかしいよ。あれはカップルでやることだよ」
「あの子はよくて私はダメなの?」
「可憐は事故でノーカンってか刹那が蹴ったせいでしょアレは」
「あの子、世界のことが好き。世界に恋して誘惑した」
「誘惑って……」
「ギュッて強く抱いて。世界苦しそうにしてた」
「それは可憐が緊張してたからでしょ」
「違う。あれは世界が好きだから、世界のこと欲しいってあの子は思った」
刹那の言うことを信じない訳ではない。
だが認める訳にもいかなかった。
それを認めてしまえば後戻りができない。
既に手遅れだと心のどこかで思っても歯止めをする。
「私は女の子で刹那も女の子。それで好きになったらダメだよ」
「関係ない。私は世界だから好き」
「友達の好きならいい。でもキスは恋人としての好きだからダメ」
「私、世界に恋してる。だから恋人」
「そんなの錯覚だよ。私たち近すぎて――きゃっ!!」
いきなり刹那に押し倒されてしまった。
刹那の唇を意識してしまう。
世界の頬が赤く染まり鼓動はドキドキと高鳴っていく。
「ダメだよ」
「嫌なら抵抗して」
「嫌とかじゃなくて」
どう答えたらいいのだろうか?
世界が困ってしまうと刹那から問う。
「世界は私のこと嫌い?」
「嫌いな訳ない」
「じゃあ好き?」
「……嫌いじゃない」
それは逃げの返事。
素直にならない世界。
ここで刹那が追い打ちをかける。
「好き?」
「言わない」
「なんで?」
「言ったらダメだから」
「世界、さっきからダメダメばっかり」
「言わせてるのは刹那だよ」
「人のせいにする世界にお仕置き」
じわじわと顔を寄せていく。
刹那のことが嫌いじゃないから顔は背けない。
でも目を見られるのはダメ。
刹那に見透かされたくないから目を閉じる。
それは誤解を生む。
世界がキスのおねだりをしている。
そう受け取った刹那の行動は当然のごとく口付けを交わす。
「んっ……」
目を閉じたことで感覚が敏感になり、世界の脳は気持ち良さに支配された。
生まれつき体が弱いことが影響しているのか。
快楽に弱く溺れやすい体質のようだ。
もっと欲しくなって刹那の首に腕を回していた。
これでもう言い訳ができない。
世界が気持ちよくなって感じてくれる。
自分だけを見てほしくて刹那は少しだけ離れて見つめた。
「世界」
呼びかけられたので世界は目を開ける。
至近距離から刹那と見つめ合う。
吸い込まれそうになって視線を逸らせない。
「刹那」
思いつく言葉がそれしかない。
既に思考はストップしてしまっている。
その場の流れに身を任せるしかなかった。
読了ありがとうございます。
世界が男装をする番外編として世界は言葉の練習相手があります。
今回は相方が可憐ですが、世界と刹那の関係が一気に変わってしまいます。
同じ男装でここまで変わったのは何故だろうか?
言葉の男性恐怖症を世界から善意で練習相手になったこと。
ストーカーを牽制するために可憐から世界へ頼んだこと。
さらに刹那は言葉のことをことぴーと呼ぶほどの親友であり、可憐には名前も呼ばない世界に悪影響を与える敵である。
言葉はあくまで友情で、世界を独り占めしない。
可憐は恋愛感情が芽生え、世界を奪う兆候が見られた。
本編で刹那が可憐に対して警戒をするのはそういう事なのでしょう。
世界に関わらないように忠告するのも、可憐なら世界に恋愛感情を抱くかもしれないから。
世界が男なら真っ先に狙うと言っているぐらいです。
それが刹那には冗談に聞こえないのでしょう。
本作の世界と刹那は譲り合いができるほどの仲良しです。
一方的に譲る譲られる関係だったら、刹那は譲り続けて嫉妬しなかったかもしれません。
それだと原作やアニメと同様、刹那に席の交換をしてもらって略奪愛に突き進む世界になってしまう。
それは救済の創作理念に反するため却下です。
このストーリーの場合、世界の選択肢は言葉ではなく刹那に相談が妥当かもしれません。
頭のいい刹那なら、可憐のストーカー対策を恋人のフリ以外で提示ができます。
むしろ世界を守るために刹那から動くことは確実。
ストーカーを潰しにかかるか。あるいは可憐にストーカーをあてがうか。
後者はストーカーの人間性によってはあってもおかしくはないです。
そして関係は今まで通りで保てると思います。