World Days(旧版)   作:完結の陽炎

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 本編のハッピーエンドからの後日談です。
 よって世界は桂家の居候という独自設定がされています。
 あらかじめご了承をお願いいたします。


天文部の合宿

 言葉は料理下手とされている。

 指導をした世界と刹那で既に原因は調査済み。

 砂糖と塩を間違うような思い込みのミス。

 調理器具の扱いに不慣れという経験不足。

 アレンジという味付けの改悪問題。

 独学に不向きで誰かに教われば呑み込みが早い。

 母からレモネードの作り方をマスターできたのが良い例である。

 これは幼少期から習い事をしたことに影響をしている。

 そのため誰かに与えられる知識や技術を受け付けやすい。

 自分から得る知識は曲解をする妙なクセがある。

 だから間違った方向での思い込みは厄介なことになる。

 軽度の男性恐怖症がそれに当たるだろう。

 

「ことちゃんマニアの私が分析するとこんな感じね」

 

 場所は言葉の部屋。

 言葉のレモネードと世界のレモンティーで飲み比べ。

 双方の違いを楽しみながら会話に興じる。

 

「刹那はことちゃんとは逆で独学向き。自分から学んで、人から与えられても疑って調べる感じ。これは刹那のお母さんが間違いなく影響してるよ。学歴じゃなく実力で本社の重役にまで出世したからね」

「せっちゃんのお母さんは努力家なんですね」

「私が刹那にコンプレックスを抱かないのは、独学で苦労をした刹那を誰よりも一番よく知っているから。実際にやってみたけど、途中で投げ出してしまう私には無理だったね。これはもう尊敬しかないよ」

「初めてせっちゃんと出会った時、すぐに馴染んでしまって不思議に思いました。せっちゃんの頑張りに魅かれて、きっと私は憧れているのだと思います」

「刹那の凄い所、それは私がことちゃんにコンプレックスを抱く時はあっても、刹那にはそれがないことだよ。そんなヒマがあるなら、独学をして自分を磨く方向へ進むから」

「なるほど。世界ちゃんはよく見ていますね」

「まあね。刹那が私を見守るのと同じぐらいのことはしてるよ」

 

 とある休日の昼過ぎ。

 言葉が刹那の部屋へ遊びに行く。

 手土産は世界に教わった手作りおはぎ。

 刹那にコーヒーをいれてもらって、その洗練されたコクと深みの味に驚く。

 これは世界がお勧めをするのも頷けてしまう。

 

「遊びに来るのはいいけど、私は世界みたいにお話上手じゃない」

「それは私も同じですが、世界ちゃんに関するお話ならどうですか?」

「……世界が何か変なことした?」

「あ、別にそういう訳では。世界ちゃんが私たちをよく見ていることに感心をしまして」

 

 言葉は何気なく尋ねてみる。

 どれだけ仲の良い関係でも喧嘩の一つや二つはあるもの。

 世界と刹那でそれはなかったのか?

 刹那は答える。

 一度だけ本気で喧嘩をしたことがある。

 それはあだ名事件。

 お互いの名前はセから始まるので、せっちゃんというあだ名を奪い合った。

 他の全ては譲ってもいいが、あだ名だけはどうしても欲しかった。

 形あるものはいつか壊れるが、形のないあだ名は一生残るから。

 それが一つあれば、刹那はそれだけで満たされ、前へ進める強さを持っている。

 

「どちらがせっちゃんに相応しいか。ことちゃんに選んでもらう話になった」

「私とせっちゃんが初めて出会ったあの出来事でしょうか?」

「うん。世界の紹介で私とことぴーが出会った日」

「ことちゃんとことぴー、両方のあだ名を頂けて私は嬉しかったです」

 

 世界が初めて刹那に譲った幼き日。

 しかも刹那が唯一望んだせっちゃんというあだ名で。

 世界が言葉に言ってくれた。

 せっちゃん呼びは刹那にするようにと。

 

「そこで私は譲られる気持ちを知った。世界も譲る気持ちを知った。ことちゃんがお互いを思い合ってるって褒めてくれるのは、そこから始まったと思う」

「私が最初のきっかけになったのですね」

「なぜあだ名を譲ってくれたのか? 世界は気が変わったって言ってた。私とことぴーが一緒にいる所を、とても嬉しそうに見ていた」

「尊い関係に見えるみたいですよ私たち。世界ちゃんがそう言ってました。おかげで私に対するコンプレックスもあまり感じなくなったみたいです」

「それは認める。せっちゃんと呼んでくれることぴーのことは好き」

「世界ちゃんよりも?」

「それはない。私にとって世界は特別。親友であり家族だから」

 

 性格も好みも考え方も異なる世界と刹那。

 それでも深く繋がっているのが見てとれた。

 しかし言葉は言ってくれる。

 

「実は似ているんですよ。せっちゃんと世界ちゃん」

「どこが?」

「後ろ姿です。髪の色違いはありますが、それで世界ちゃんがリボンをつけたら、大きくなったせっちゃんに見えます」

「世界、リボン恥ずかしがってつけてくれない。居合の時みたいに思いつきでするだけ」

「あれは私も驚きました。今までの世界ちゃんが本気を出していなかった。そう疑ってしまうほどに素晴らしい居合でした」

「うん。とてもカッコ良かった」

 

 思いつきのキーワードは世界をより連想させる。

 良くも悪くも世界の突発的な発想に振り回されてきた。

 後先を考えないから失敗をしやすく、刹那と言葉で対処することもあった。

 その最たるものが天文部である。

 

「毎日徹夜なんて言い出した時、私は追い詰めすぎたと反省」

「せっちゃんをよろしくお願いする時点で、縁起でもないと思いました」

「世界は昔から体が弱い。それで自分の命を軽んじるのが世界の悪いクセ」

「看病をする私たちに謝る世界ちゃんをよく見ます。まるでご自身を責めているようで、痛々しく思える時がありました」

「わかる。どうせ私たちの足を引っ張っている。お荷物になって申し訳ないって思ってる。そんなヒマがあるなら治せって叱ったことがある」

「……世界ちゃんには支えてくれる人が必要だと思いますか?」

「思う」

「その支える人がいなくてもいいように、自立しようと世界ちゃんが体調に気を付けて頑張っていることは知っていますか?」

「無論。一人で抱えこもうとしないよう、ちゃんと相談してって言ってある」

「私もそれは伝えてあります。一人で無茶をして取り返しのつかない事になってはいけませんから」

 

 ここから話題を天文部へと戻す。

 3学期は卒業式の影響でクラス委員の活動が忙しい。

 世界は光の洋菓子屋おおはらでバイトを始めた。

 そんな中、全く天文部をやらない訳にはいかない。

 屋上の使用維持のために、定期的なレポートの提出が欠かせないから。

 

「ことぴー、天文部の活動予定は?」

「明後日の夜間、お母さんが早めに帰る予定なので活動は可能です」

「それは天気次第。晴れなら実行、雨なら中止。足りない場合、日中の太陽観測を検討する」

「他校の天文部と合同観測で補う方法もありますが?」

「それは他校の都合があるから保留で」

「世界ちゃんが用意したお月見団子、とても美味しかったと他校生に評判でした」

「私たち家庭部じゃなくて天文部」

 

 頭脳コンビとして補佐をしてくれる。

 刹那と言葉がいれば天文部は安泰だ。

 機材の扱いも自分たちで出来て形となってきている。

 

 榊野学園での昼休み。

 1年3組の教室へ世界が天文部メンバーを集めた。

 そのため4組の乙女と言葉も今回は混ざっている。

 事前連絡はしているので、その日は全員で弁当だ。

 そして世界が中心となり、昼食をとりながら切り出す。

 

「七海、女子バスケ部って春休みに合宿とかある?」

「ないよ。そういうのは夏休みにするものじゃない?」

「別に春休みにしてもいいんじゃん。という訳で天文部で合宿をしてみたい」

 

 部活といえば合宿である。

 そんな世界の思いつきに呆れる刹那。

 また始まったと思ったのだろう。

 

「世界は唐突すぎる。皆の都合を考えて。それと合宿先や費用などはどうするの?」

「春休み中ずっと都合悪い、なんて事はないでしょ。あと合宿の細かいことはことちゃん頼みで問題なし」

「言、世界があんなこと言ってるけど?」

「大丈夫です七海さん。世界ちゃんのご要望にお応えするアテはあります」

 

 言葉の父からの紹介があれば、天体観測ができる温泉旅館で合宿は可能だ。

 条件がつくとしたら、言葉の妹である心を連れて行くことだろう。

 さもないと心が一人になってしまうから。

 光は澤永、乙女は伊藤を連れて行きたい様子。

 あとで二人の都合を確認するように伝えておく。

 なお、七海の彼氏は春休み期間中も忙しいらしく不参加だ。

 一方、離れた所から立ったままチラチラと刹那を眺める田中がいる。

 それに気付いている世界は、一時的にその場を離れて近寄った。

 

「田中、春休みヒマだったら天文部の合宿来る?」

 

 世界の誘いに田中がヒザを崩して激しく落ち込む。

 春休みに柔道の大会があるからだ。

 逆にいえば大会が終わった後なら参加は可能。

 そこで世界が意味深に笑って挑戦状を叩きつける。

 

「柔道の試合でいい結果を出したら、合宿の日程を田中の都合がいい日に合わせてあげる」

 

 これで田中のやる気が一気に高まった。

 少しはいい所を見せてほしい。

 刹那に片想いをするほど見る目がある男だから。

 その様子をジーと見つめている刹那。

 用件が終わった世界は教室の隅っこへ移動。

 そこで手招きをすると刹那は素直に動いてくれる。

 周りに聞こえないように至近距離となり小声で会話をした。

 

「どうよ刹那?」

「なにが?」

「田中にとってはクラス替えで離れちゃうかもしれないし。クラス委員も終わってしまうから、合宿がラストチャンスで張り切ってるのがわかるでしょ?」

「別にどうでもいい」

「そう? でも悪い気はしないんじゃない? それだけ本気ってことじゃん」

「世界こそ、わざわざ田中を誘って気があるんじゃないの?」

「普通に焦れったいからよ。もう1年終わるのに何やってんのって話だからね」

「何もしなくていい。私、そういうつもりないから」

「それは刹那の意思だから何も言わないよ。私個人としては、いつも刹那がお世話になっていますという気楽なノリでやってるから」

「そんなノリは捨てて。あとお世話にはなってない。指示を出して面倒を見たのは私」

「じゃあ、いつも刹那はお世話してますというノリで」

「意味わからない。とにかく世界は余計なことしないで」

「ひっどぉい。超絶可愛いせつにゃんのために気を回してるのに」

「頼んでない。あとせつにゃん言うな」

 

 部活・バイト・委員会など各自それぞれの活動が行われる。

 大変となるのは学期末テストの勉強だろう。

 屋上は寒すぎて使えない。

 部屋の中では温かいから眠くなって集中がしにくい。

 だからといって足先や膝元が冷えてしまうのも辛い。

 桂家で居候をしている世界。

 その部屋で刹那がお泊り勉強会を行なう。

 今回は各自の都合もあってマンツーマンである。

 

「わざわざお泊りしてまで勉強会しなくても」

「しないとダメ」

「どうしても?」

「どうしても」

「何があっても?」

「くどい」

 

 刹那に与えられた問題を苦心の末に解いていく。

 どんなに嘆いても目の前の現実からは逃げられない。

 やるべきことをやり終え、時間が流れての就寝となる。

 広いベッドで二人が添い寝してもスペースがあって余裕だ。

 ふと眠っていた世界が目を覚まし、それに合わせて刹那も起きる。

 

「楽しい夢でも見た?」

「うん見たよ。清浦世界になって、せっちゃんのおねえちゃんになってた」

 

 二人っきりだから呼び名を変える。

 親友から家族へと雰囲気が違う。

 秘密の関係という使い分けをお互いにした。

 

「……ズルい。私はそんな夢、見たことない」

「そう言われても……」

 

 ここで世界は押し黙る。

 異変を鋭く察知した刹那。

 具合でも悪くなったのかで心配をするが。

 

「夢を見たことで思い出しちゃった」

「なにを?」

「今のラディッシュ榊野町、お母さんがパリへ行って、新しい店長がいるんだけど」

「うん」

「友達に調べてもらって、せっちゃんのお父さんが店長してることがわかってさ」

「っ!?」

「だから会おうと思えば会えるよ。せっちゃんは私に遠慮しなくていいからね」

 

 刹那の驚きをあえて気にせずに伝える。

 父に会う会わないは刹那の自由だ。

 世界では姉にはなれても父の代わりにはなれない。

 それがわかっているので、会って刹那が幸せになるなら尊重をする。

 

「瞬さんのこと嫌い?」

「正直顔も見たくない。いまさら父親面されても、憎しみが増すだけだから私は無理」

「ごめんなさい」

「せっちゃんが謝ることじゃないでしょ……二人だけのお父さんだったら良かったのにね。そしたら受け入れることもできたのに」

 

 他にも女がいて子どもがいる。

 その時点で許容範囲を超えてしまう。

 どこまでも節操なしの男であると見限るには充分すぎた。

 

「真面目に生きて二度と浮気しないって約束を守っても?」

「それ真面目にやってる人たちに失礼よ。そもそも本当に真面目な人なら最初から浮気なんてしないし、そんなポンポン軽はずみに子どもを作ったりなんてしないから」

「ごもっとも」

「せっちゃんは望みは、約束を通じてせっちゃんのお父さんと仲直りって所かな?」

「仲直りは私じゃない」

「あ、おばちゃんのほうね。両親仲良くを望むのは、子どもの立場的に願うことだから納得」

 

 刹那の母と和解をしてほしい。

 本命の妻として刹那の母だけを愛してあげてほしい。

 刹那の理想はそこにあるのだろう。

 たとえ不可能であることがわかっていてもだ。

 しかし……。

 

「おねえちゃん、私に何か隠してない?」

 

 世界はビクッと反応をする。

 情報網を広げても噂程度だから鵜呑みにはできない。

 まさか店長代理に女の影があるなんて言える訳がない。

 目撃者がいたとしても見間違いという可能性はある。

 よって上手くごまかす事にした。

 

「私の譲れない所として言っておくね。私にお父さんはいない。この世から消えた。だからその人はせっちゃんのお父さん」

「おねえちゃん……」

「せっちゃんだけのお父さんって言ってあげたいのに。それが言えない現実って残酷ね」

 

 世界にとって約束を守る守らないは関係ない。

 親子の縁を切りたいほどの嫌悪感がある。

 でも刹那のために表面には出さない。

 雰囲気が重々しくて暗い。

 そこで世界は気持ちを切り替えていく。

 

「せっちゃんに彼氏という想像をすると、正直おねえちゃん複雑よ」

「それ今ここで言うこと? あと彼氏なんていない」

「あえて言うよ。私はモテないのにせっちゃんはモテる。私の中にある嫉妬の悪魔がメラメラと燃え上がるの」

「ことぴーには負ける」

「贅沢ね。一人モテるだけでいいじゃない」

「誰のこと?」

「とぼけちゃって。もし合宿で告白されたら、せっちゃんは返事してあげないといけないよ。受けるにせよ断るにせよ」

「……おねえちゃんはどう思うの?」

 

 訊かれた以上はしっかりと答える。

 ありのままの本心を全力で。

 

「あんな焦れったくてイライラさせる人に、大事な親友であり、大事な妹を任せられるものか」

「……」

「その一方で、この人なら大事な親友かつ妹を幸せにしてくれる。そんな期待もある」

「……おねえちゃんのバカ」

「そりゃバカにもなるよ。半身のように過ごした大切な人を取られちゃうんだから。それぐらいの本音ぶっちゃけさせてよ」

「だったら私も言わせて。おねえちゃんのほうが絶対にいい。私よりもおねえちゃんのほうが付き合ってて楽しいと思う」

「ノーノ―。家庭的なせっちゃんのほうがお嫁さんとしてバッチリで最高よ」

「ぷっ、話が飛びすぎ。なんでお嫁さんなの?」

「付き合うってことは最終的に結婚も考えるじゃない。そしたらせっちゃんは結婚に向いてるとおねえちゃんは思うのよ」

 

 言いたい放題である。

 これでもかとストレートに伝えてくる。

 向けられる姉バカな感情に刹那はポカポカと叩く。

 おとなしくさせるためにギュッと抱きしめる。

 動けなくなった刹那は世界の胸へ顔を埋めた。

 

「要するにせっちゃんが幸せなら私も幸せ。それだけは覚えておいてね」

「……もう寝る」

「おやすみせっちゃん」

「……おやすみおねえちゃん」

 

 眠った時に刹那の願望が反映されたのか。

 西園寺刹那としての夢を見たとの事。

 あまり現実と変わらないような立ち位置だったらしい。

 

 放課後の委員会が終了。

 刹那と田中は階段の踊り場にいる。

 身長差の激しいデコボコなコンビ。

 そこでガチガチ状態の田中に向かって刹那は言った。

 

「田中、世界のこと好き?」

「?」

「西園寺世界のこと好き?」

 

 田中がわかるように苗字を付け加えた。

 ちょっと待てと両手を突き出す田中。

 想いを寄せているのは目の前にいる刹那であり世界は違う。

 親切にしてくれて感謝をしているが、刹那に向ける気持ちとは別だ。

 相性的に多少の苦手意識はあるが断じて嫌いではない。

 だからといって好きかと言われてしまったら返答に困る。

 考えた末、田中がやっとの状態で一言告げた。

 

「いい人」

 

 これが田中にできる精一杯な回答である。

 すると刹那の目が一気に鋭くなった。

 クールで固い表情が心なしか眉をひそめている。 

 

「世界がいい人止まり? 都合がいい相手とかそんな風に思ってる?」

 

 それは誤解だと顔を激しく横に振った。

 都合よく世界を利用するなど思いもよらない。

 田中は悪い人ではない。

 それは刹那もわかっているつもりだ。

 しかし願ってしまう。

 世界の男性不信を田中が取り除いてくれたらいいのに。

 田中が世界を支えてくれたらいいのに。

 世界に譲ってしまう刹那らしさが滲み出てしまう。

 

「田中、これだけは言っておく。もし世界を泣かせたら許さない」

 

 小柄な刹那の目に激情がこもって警告をする。

 思わず田中でも後ずさりをするほどの気迫であった。

 刹那は言いたいことを言って去ってしまう。

 そんな後ろ姿を見送るしかできない田中は途方に暮れた。

 

 背に腹はかえられぬ。

 後日、田中は世界に相談を持ちかける。

 昼休みの屋上に二人だけで会う形をとってくれた。

 外の冷え込みは激しいが少しの間だけなら話ができる。

 

「私のほうがお似合いみたいに押し付けてるね。これというのも田中がハッキリしないからよ」

 

 すみませんと田中が頭をペコペコと下げた。

 気持ちと伝えられない己の不甲斐なさは自覚している。

 

「ちゃんと田中が告白していれば、刹那にそんなこと言われることもないんだからね」

 

 説教をするにも屋上は寒い。

 手短に言うべき所を言わないと風邪を引いてしまう。

 そうなれば原因を作った田中に刹那が激怒するかもしれない。

 それはさすがに田中が気の毒である。

 

「刹那に何か言われても合宿で答えを出すって言いなさい。試合のことを言われても必ず勝つの一言だけで充分よ」

「はい」

「田中がすることは、柔道の試合に勝つこと。合宿で刹那に告白すること。この二つだけ」

 

 ビシッと二本指を立てて突きつけた。

 それは勝利のVサインも兼ねている。

 

「刹那がどんな答えを出しても受け止めてあげてね。私も刹那の意思を尊重するから」

「わかりました」

「寒いから中に戻るよ。柔道、頑張ってね。あと委員として今しばらく刹那をよろしく」

 

 こうして昼休みが過ぎての授業中。

 田中は考え事を巡らせていた。

 刹那のことは異性として惚れている。

 世界については厳しいながらも親切で優しい人として好印象。

 恋愛対象は刹那で間違いないので、どっちを選ぶかとなれば刹那一択だ。

 迷いはない。

 そしていつまでも遠くから眺めるだけではダメだ。

 2年生になればクラス替えで刹那と一緒になれないかもしれない。

 だから世界のアドバイス通りに試合に勝って合宿で告白をする。

 これしかない。

 田中の視線に刹那、刹那の視線に世界。

 世界は教科書を立てて、隠れるように居眠りをしていた。

 休み時間になると刹那が真っ先に世界の所へ向かう。

 立てられた教科書を拾って世界の頭を叩いた。

 

「授業中に寝るな」

「んもー刹那ってば、教科書は武器じゃないよ」

「規則正しい生活をしないと体調崩れるよ」

「睡眠学習法をご存知ない?」

「それで学習できたの?」

「いや全く。あの先生は催眠術の使い手だよ間違いない」

「ふざけない」

「ところで話は変わるけど、刹那は見られている自覚ある?」

「今更気にしない。とっくに慣れた」

 

 ここで田中の連絡先を知らないことを思い出す。

 刹那に問い合わせると知らないという素っ気ない一言。

 委員活動を通じて連絡先の交換は特にしていないようだ。

 

「直接会って話せばいい。電話やメールはいらない」

「そっか。試合結果を聞くなら柔道部に確認。ちょっと面倒だね」

「世界が田中と連絡先を交換すればいい」

「っていうか、そもそも田中って携帯持ってないんじゃない? 触ってるの見た事ないよ」

「持ってないかも。訊いてみたらいい」

 

 世界が尋ねてみると持っていないことが判明。

 自宅に設置した電話の番号はあるようだ。

 知っておいて損はない。

 世界は自分の携帯に登録をしておく。

 これでわざわざ柔道部で確認という手間を掛けずに済む。

 

 それぞれの学園生活を送っていく。

 学期末テストを乗り越えて終業式も過ぎた。

 宿題のない春休みを大いに満喫をしたい。

 そのためにも体調管理に細心の注意を払う。

 言葉や刹那が見守ってくれるので安心だ。

 

 春休み中の夜。

 自室で休んでいた世界は田中の自宅へ電話をする。

 試合結果を確認するためだ。

 よほど天文部の合宿に行きたかったのだろう。

 愛の力は偉大というべきか。

 一勝をあげる程度に思っていた世界だが、その予想を大きく超えた。

 

「大会優勝ってマジ?」

「はい」

 

 どんな規模の大会かは素人の世界にはわからない。

 でも田中が優勝をしたのは事実。

 証拠となる賞状も授与されている。

 

「優勝おめでとう。ことちゃんに伝えて、合宿先でお祝いしてあげる。楽しみにしてて」

 

 電話を切って言葉の部屋へ向かう。

 楽しそうに言葉が了解をしてくれた。

 これで日程の調整とお祝いの料理について手配をしてくれる。

 

 合宿の当日。

 参加メンバーは部員となる世界・刹那・言葉・光・七海・乙女。

 さらにゲストメンバーには、伊藤・澤永・可憐・心・止・田中。

 少女の心は言葉の妹、幼女の止は伊藤の妹。

 自分よりも年下で小さい女の子に喜びを見せる心。

 まるでお姉ちゃんになったような優越感を味わう。

 

 旅館内での出来事。

 女子の入浴中に澤永が覗こうと企む。

 伊藤がやめとけと忠告をするが、男として譲れないと澤永は行動をとる。

 ふと警告用のトラップに足を引っかけてタライが落下。

 それは澤永の頭に命中し、メモ書きが添えられている。

 おとなしく引き下がらないなら容赦はしない。

 だが、この程度で逃げ出す澤永ではない。

 男の意地を賭けて特攻あるのみだ。

 すると見張っていた世界と刹那の奇襲が入る。

 水鉄砲を浴びせて澤永が怯んだ。

 その隙に乗じて可憐が持参したバスケットボールを投げる。

 澤永の顔面へめり込むように命中。

 仰向けに倒れた所に田中が寝技で抑え込む。

 ここから連携を組み、ロープで縛り上げることに成功。

 あとは彼女である光に引き取ってもらい、存分にお仕置きをしてもらう。

 

「どうよ刹那? 私と可憐が考えた防衛作戦、役に立ったでしょ?」

「澤永が単純なだけ」

「まあ、それは否定しないけどね。協力してくれてありがとう可憐。あと田中もナイス寝技」

「いえいえ、実際にやってみると楽しかったです」

「うむ」

「これ以上、世界に変なこと吹き込まないで」

 

 世界と可憐の間に割り込むのが刹那。

 わざわざ両手を広げての威嚇をしている。

 敵の敵は味方で手を組んだに過ぎない。

 

「ありゃりゃ。もしかして私、刹那さんに嫌われてます?」

「可憐はどうなの? 刹那の事は嫌い?」

「本人目の前でそれ言います? あ、でも私の答えは――」

「行こう世界。待機していることぴーに報告。田中は引き続き見張って」

「うわーん!! 刹那さんに無視されちゃいましたぁー!!」

 

 可憐が嘘泣きをしても効果はない。

 田中は緊張をしながらも何とか頷く。

 そして田中を残して向かうのは最終防衛ライン。

 大浴場に入るために必ず通る広場がある。

 細長めの紅いリボンで長い髪を束ね、居合の道着で帯刀をしている言葉。

 いつでも真剣が抜けるように姿勢を正して待ち構える。

 周りの空気が冷たく静まり返っていた。

 

「怖い」

「桂さん、普通に怖いです」

「久しぶりに見たけど、相変わらずヤバいね」

 

 刹那・可憐・世界が遠巻きからコソコソと観察。

 立ち入るのに躊躇してしまうほどの恐れを抱く。

 だからこその奥の手であり、最終防衛ラインを任せたのだ。

 すっかり雰囲気に呑まれてしまった三人。

 それから囲むようにして密談を始める。

 

「可憐行って来て」

「無理です無理です。マジ怖すぎて脚ガクガクしてます」

「別に死にはしない。行け」

「だったら刹那さんが行ってくださいよ」

「断る」

「よし多数決にしよう」

「いやいやそりゃないですよ世界さん。絶対二人で私に押し付ける気満々じゃないですか」

 

 そんな三人の気配が丸わかりだったのだろう。

 もう終わったのかと思い、言葉が自然に近付いて声を掛ける。

 それが不意打ちとなった。

 恐怖の余り腰を抜かしてしまう可憐はすっかり涙目。

 世界の前で震えながらも両手を広げて庇う刹那。

 そんな一生懸命な刹那を見ることで、世界は逆に落ち着きを取り戻した。

 

「ことちゃん、気配消して接近したら皆ビビるってば」

「す、すみません。普通に近寄って声を掛けたつもりですが」

「無意識なら仕方ない。ほら刹那、もう大丈夫だからそんなに震えない」

 

 後ろから頭に手をのせて優しく撫でる。

 しばらくすると刹那の震えがおさまった。

 

「とりあえず、澤永が覗きに来たけど、縛り上げて光に回収してもらったよ」

「お怪我はありませんでしたか?」

「安全に作戦を組んだから大丈夫だよ。他のメンバーが大浴場出たら見張り交代ね」

「わかりました」

「あ、ことちゃんの刀、少しだけ見てもいい?」

「はいどうぞ」

 

 鞘ごと差し出してくれたので受け取る。

 せっかくだからと刀のチェックを始める世界。

 居合を習って扱い方は心得ている。

 落とさないように柄と鞘をしっかりと握り、ゆっくりと鞘から抜く。

 その抜き身の刀を、様々な角度から見定めをする鑑定家の気分だ。

 お手入れがされて、刀身が綺麗に輝き、刃こぼれもない。

 

「なんか相当な業物らしいね。どういう分類の刀だったっけ?」

「古青江という歴史のある刀だとお父さんから聞いています」

 

 納刀をして鞘入り刀の重さを堪能する。

 思わず居合構えをしてしまうほどに体が覚えていた。

 世界は満足をしたようで言葉に刀を返す。

 

「私が居合を習ってた時、ことちゃんに刀の相談をしたことがあったね。家は裕福じゃないから、なるべく安い練習用の刀を知りたいって」

「はい覚えています。それで私のお父さんに相談して、世界ちゃんに古備前の刀を贈られました」

「あの時はホントありがたいと思ったよ。ことちゃんのお父さんは太っ腹だね」

「そんなに太っていないと思いますが?」

「そっちの意味じゃないから。でも刀に触れているとさ、一緒に居合を習った頃が懐かしくなっちゃうね」

「また今度、居合をしませんか? いつでも言って頂ければ場所を提供できますので」

「うん。それはまた今度ね」

 

 その後、交代をして全員の入浴を済ませた後。

 大広間の和室で田中の優勝祝いをするための鍋パーティを開く。

 巨大な体格で食いっぷりが凄まじい。

 見てるだけで胸焼けがしてもおかしくない量を平らげる。

 それから腹ごしらえとばかりに、心と止の遊び相手になってくれた。

 

 世界は言葉に頼んで旅館の離れにある和室を借りる。

 天文部のミーティングやレポートの作成で使っている場所だ。

 そこの窓辺にある座椅子に腰をかけて煎茶を味わう。

 しばらくして刹那がやって来た。

 空いてる座椅子へ促して煎茶を振る舞う。

 そして二人で窓越しに星空を眺めていたが……。

 

「二人っきりで誰もいない静かな所ね」

「うん。誰もいない秘密の場所」

 

 旅館の離れとしてプライベート空間が確保されている。

 周りに気を遣わなくて済むからリラックスができる。

 普段の親友から変わり、秘密の姉妹として過ごす特別な時間だ。

  

「いつでもいいよ。どんな内容でも私は受け止める」

「ズルい。いつもなら質問してくるのに」

「そっちの言いたい時に言ってくれたらいい。これでも気を遣ってるんだよ。親しき仲にも何とやらね」

「礼儀。それぐらい覚えて」

 

 煎茶を一口して間をとる世界。

 刹那も真似をして煎茶を飲んで黙り込む。

 同じタイミングで互いに目を合わせる。

 そして刹那のクールな表情から衝撃的な発言が放たれた。

 

「瞬さん、約束破って浮気した」

 

 世界は右手をおでこに当てた。

 頭が痛いのかと心配をして近付こうとする刹那。

 大丈夫だと左手を突き出して制止させた。

 

「そっちね。調べたの?」

「少し前、ことぴーにお願いをして探偵に依頼した」

「うわあ、私よりもガチだよこの子」

「この子じゃない。せっちゃん」

「悪かったねせっちゃん。それで結果が出たの?」

「うん。私たちより一つ年下の女の子に誘惑されてヤッた」

 

 これには思わず世界に殺気が溢れる。

 目に静かな怒りが宿って火傷しそうな勢いだ。

 

「へえー、相手が誘ってきたから仕方なくって感じ? そのケダモノ刺していい?」

「ダメおねえちゃん。それは絶対にしちゃダメ」

「冗談に聞こえなかった?」

「おねえちゃんの本気わかるから」

「私、その男と絶対会わないほうがいいね。怒り狂って滅多刺しすると思うから」

「……私、瞬さんに言った。嘘つき大嫌いって。それで二度と会わないって絶交した」

 

 それを聞いた世界は両手を広げた。

 姉として出来ることにするために。

 世界の胸の中で刹那は泣いた。

 優しく背中をさすって存分に涙を流し尽くす。

 やがて泣き止み、涙で濡れた顔をおしぼりで拭いた。

 

「次からもっと早めに言いなさい。今みたいに泣かせるぐらいはできるから」

「うん」

「それでまだ他にも報告あるんでしょ?」

「ある……田中から告白された」

「ああ、ようやくだね。おめでとう」

「私は断った」

「訂正、田中にご愁傷様」

 

 刹那がその気でないことはずっと前から認識していた。

 だから断ることは世界の想定内。

 田中も薄々ながらわかっていたらしい。

 それでも言わないままで後悔はしたくなかった。

 

「振った後、田中に何か言われた?」

「ありがとうございましたってお礼言われた。そして一礼をして去った」

「潔い。そんな田中だから、副委員長として推薦したんだけどね」

「……おねえちゃん、田中をどうするの?」

「どうもしないよ。これで関わる理由がなくなったからバイバイだね」

「私が振ったから?」

「なによ。私に田中を押し付けようとしてる? 振ったから遠慮しなくていいとか言うつもり?」

「ううん、それはおねえちゃんの自由。私がどうこう言うことじゃない」

「その通り。私もせっちゃんが振ったことにどうこう言わないよ。せっちゃんなりに考えた上での答えだと信じてるから」

 

 お互いに残った煎茶を飲み切ってしまう。

 そっと湯呑みを置いて再び窓を眺めた。

 夜空の浮かぶ新月と広がる星が綺麗に見える。

 

「私とおねえちゃん、二人一緒に幸せになる方法があればいいのに」

「刹那が付き合って幸せになってくれるなら、それで私は幸せを感じられるけど、それじゃあダメなの?」

「ダメ。それだったら、おねえちゃんが先に付き合って、私に安心と幸せを感じさせてほしい」

「安心については、一人になっても大丈夫なように、無理のない範囲で健康維持の努力は続けるよ。でも先に付き合っては無理な相談ね。私、男の人が信じられないから」

「だったらどうして、田中を私に勧めたの? 信じられないなら私に押し付けないよね?」

「そういう矛盾を突くのはやめてよ。私、せっちゃんほど頭よくないのに。田中の片想いは私じゃなくてせっちゃん。それを応援したいと思ったからしたの。そこに小難しい理屈なんてない」

「おねえちゃんと田中が付き合う可能性はないの?」

「ない」

「田中のこと嫌いだから?」

「付き合おうと思う感情がないからよ。だからせっちゃんは断ったんでしょ。それと同じだと思って」

 

 ふと世界は気付いてしまう。

 二人とも幸せになる方法を。

 だがそれは絶対にしてはいけないことだ。

 

「おねえちゃん」

 

 刹那の目が輝いている。

 長年の付き合いで瞬時に察する。

 刹那も気付いてしまったのだと。

 

「却下よせっちゃん」

 

 言わせないために世界が待ったをかける。

 刹那はまだ何も言ってないと不満そうな目。

 世界にしか見せない態度である。

 

「おねえちゃん、話だけでも聞いて」

「それなら私からその内容のヒント出してあげる」

「ヒント?」

「二人だけの何々だったら良かったのに、でしょ?」

「何々って?」

「そこ突っ込まないの」

「……私一人ではダメ。おねえちゃんと一緒じゃないと――」

「やめて。私たちのお母さんみたいなことしないで。将来せっちゃんの子どもが出来た時、浮気の子どもとして親戚に陰口叩かれて、同じ悲劇を繰り返すつもり?」

「ご、ごめんなさい」

「あんな思いをするのは、私たちで終わりにしないとダメだよ」

「うん、そうだね」

 

 確かに軽率だったと深く反省をする刹那

 世界は先行きのことで重く受け止めている。

 自分たちが味わった辛い過去があればこそだ。

 そして世界のおねえちゃんモードは続く。

 

「正妻と妾がある昔の時代だったら、せっちゃんの望みは叶ってたね。でも一夫多妻が認められない現代社会では無理よ。バレなきゃ何をしてもいい訳でもないからね」

「うん」

「二人平等に愛してくれる人なんて、漫画や映画、小説の中だけで満足しなさい。くれぐれも現実に持ち込まないで」

「わかった」

 

 ここで世界は将来を考えてしまう。

 誰とも付き合うことなく人生を終えるかもしれない。

 それも一つの生き方である。

 恋愛至上主義から脱却をしてもいい。

 そのためには体が弱さを地道に克服しないといけない。

 さもなければ一人暮らしをするのは夢のまた夢となるだろう。

 

「おねえちゃん、また無茶なことを考えてる」

「当ててごらん」

「私を捨てて一人になろうとするの?」

「捨てるなんて人聞きの悪い。自立よ自立。せっちゃんもいずれ親元離れて自立するでしょ?」

「うん。お母さんを安心させたいから」

「そうそう。いつまでもあると思うな親と金ってね」

「どこで覚えたの?」

「可憐」

「……」

「もうそんなに怒らないの。別に間違ったことじゃないでしょ?」

「あの子が関わると碌なことにならない」

「その様子だと信用よりも警戒のほうが上回るみたいね」

 

 侮れない存在だと認める。

 それは高く評価していることの裏返し。

 そうでなければ何も気にせずに無関心で流せばいい。

 刹那に警戒される可憐が凄いと世界は思った。

 

 翌朝、田中が世界へお礼を述べる。

 お膳立てのおかげで気持ちがスッキリとしたようだ。

 これからは柔道一筋で頑張ると宣言をする。

 

「刹那を好きになってくれてありがとう。柔道頑張ってね」

「はい」

 

 お互いに気持ち良くやり取りをして離れた。

 それぐらいでちょうどいいと満足をする世界。

 欲の少ない刹那に似てしまったかもしれない。

 合宿で何気に偶然見てしまうのは、伊藤と乙女、澤永と光のラブシーン。

 こっそりとキスをしたり、抱きしめ合うといった恋人として自然と求める愛情表現。

 それは本能もあるので仕方ないと、見てしまった世界は空気を読んで静かに去るのみだ。

 

 合宿が終わって帰りとなる電車。

 それぞれの最寄り駅で別れていく。

 ただし桂家で居候をしている世界は手荷物だけ言葉に預ける。

 そして刹那が住むマンションまで送ることにした。

 

「わざわざ送らなくてもいいのに」

「そういう気分なのよ。誰かさんがいるかもしれないから」

「お母さんが追い出していると思う」

「絶縁してるとは聞いてるけどね」

「おねえちゃん、刺したらダメだよ」

「タクティカルペンなら死なないでしょ?」

「それ、ことぴーがあげた護身用。攻撃するためのものじゃない」

「もし会ったら問答無用。話す気は全くないのでよろしく」

「よろしくじゃない」

 

 刹那の帰ってくる日は事前にわかっている。

 だから刹那の母がその時間に合わせて迎えてくれた。

 そして久しぶりに会う世界を歓迎してくれる。

 

「おばちゃん久しぶり。刹那を泣かせた悪い人から守るためにここまで送ったよ」

「ありがとう世界ちゃん。その人なら二度と来ないわよ。仕事先も変わったから」

「ラディッシュ榊野町の店長が変わったの?」

「ええ。そこで淫らな事してたことがバレてクビになったからね」

「逮捕されないのが不思議」

「あの人のお父さんが悪事をもみ消すだけの権力を持ってるのよ。警察とも深く繋がりがあってね」

「刹那のおじいちゃんヤバそうだね。ま、私は興味ないから別にどうでもいいけど」

 

 世界が帰ろうとすると刹那がギュッと袖を掴む。

 まだ帰らないでと目を見るだけでわかる。

 寂しがり屋な刹那の頭をそっと優しく撫でた。

 すると刹那の母が夕飯を食べて行くように言ってくれる。

 

「すみません、親子水入らずを邪魔しちゃって」

「水くさいわよ。世界ちゃんは私にとっても家族同然なんだから」

「おばちゃんの娘になったら、清浦世界になって楽しそうだね」

「世界、勝手に人の苗字を名乗らない」

「個人的に清浦という苗字は響きが良いし、呼びやすくて好きだけどね。西園寺はお寺のお坊さんみたいなイメージになるし」

「……いつまで頭を撫でるつもり?」

「刹那が超絶可愛いからもう少し」

「子ども扱いするな」

「つれないなぁー」

 

 からかって遊んでしまう世界。

 それに拗ねてしまう刹那。

 母は生暖かい目で二人を見守る。

 まさに姉妹のようで微笑ましい光景となった。




 読了ありがとうございます。
 原作ゲームで屋上が使える理由を、世界が天文部を立ち上げて使えるようにしたとあります。機材もなく何も活動しないのに屋上がずっと使えるのは、さすがに都合が良すぎます。よって本編で補完をし、この番外編では合宿という定番イベントを追加してみました。そして本作の集大成としてまとめたつもりです。
 ストーリーとして書きたかったのは主に二つ。父親と決別をする刹那と田中の告白に対する刹那の答えです。ある意味、世界よりも刹那のほうが主役といっていいかもしれません。
 最後になりますが、これをもってWorldDaysの完結を宣言いたします。
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