World Days(旧版) 作:完結の陽炎
もうすぐで夏休みとなる。
そこで世界から計画の提示があった。
具体的には伊藤と乙女、澤永と光のダブルデート作戦である。
「榊野の施設プールにあるチケット、ことちゃん手に入りそう?」
「はい。お父さんのコネで融通してくれます」
「それで乙女は伊藤、光は澤永でプールに誘えばOKだね」
「ちょ、ちょっと世界!!」
「なによ光?」
「そんなこと言われても、水着とか用意しないといけないし!!」
「わ、私も色々準備が……」
「もう光も乙女ものんびりしすぎ。この夏休みでアタックしないでいつするの? 先にツバつけて秋の学園祭に備えないと」
乙女にはあまり悠長にするなら妹の可憐をけしかける。
チケットも可憐に渡すとなれば受け取るしかない。
世界たちは来てくれないのか?
そんな心細い様子を見せる二人だが、お邪魔虫になりたくないので辞退だ。
「もしプールで進展しなくても、まだ夏祭りもあるから大丈夫。気楽に楽しんで行きなよ」
度胸と愛嬌があれば何とかなるものだ。
ここで乙女についてもう少し踏み込む。
「乙女、以前に伊藤と一緒に映画を見たと思うけど、あれから進展なし?」
「う、うん」
「まあ、友達感覚の伊藤ならそんなものか。次はプールや夏祭りで、女の魅力をアピールできるチャンスだよ。頑張れ乙女」
乙女に対しての激励はここまで。
次は光が狙っている澤永についての注意事項。
女なら誰でもいいようで欲深い男子だ。
伊藤の繋がりで世界が狙われるかもしれない。
また言葉と知り合った場合、スケベ心に溢れる澤永ではイチコロだ。
「光、先に言っておくけど、仮に澤永が私に告白してきたら、速攻で容赦なく振るから。その時は光が慰めて進展するチャンスだと思ってね。ことちゃんもその気じゃないなら、澤永の為にもハッキリと断ってあげて」
「はい。もしそういう事があった場合、キッパリとお断りいたします。安心してください黒田さん」
「むー!! なんかとっても複雑なんだけど!!」
「光が早めに澤永とくっつけば丸く収まるってことだよ。だから頑張ってね」
こうして夏休みに突入していく。
光のバイトを手伝う予定を立てている世界。
週2、3日程度のシフトでもOKと聞いている。
体が弱い世界でも何とかなるだろう。
そんな矢先、不幸にもおたふく風邪を患ってしまう。
感染期間が過ぎるまで刹那たちの面会は不可。
風邪の苦しみだけではない。
退屈と孤独というコンボも合わさっての療養タイム。
それに嘆き耐えながらも徐々に回復していく。
やがて見舞いが可能な時期を迎え、その代表者として刹那がやって来た。
「世界、大丈夫?」
ベットの傍らで姿勢よく正座をする。
水色のワンピースに青のリボン。
夏のファッションとしてよく似合っていた。
「ああもう、軟弱な体が憎らしい。暴れ回って風邪なんて吹き飛ばしたい」
「おとなしく寝てないとダメだよ」
「何が一番辛いかって。ずっと寝るだけしかできなくて、退屈することなんだよね」
「治すためなんだから仕方ない。ところでご飯は食べた?」
「それは大丈夫。お母さんが冷蔵庫に作り置きしてくれたから」
「そう。他に何かしてほしい事ある?」
トイレに行くとき扉の開け閉めをしてほしい。
移動時にフラフラするので肩を貸してほしい。
飲み物を取りに行くのが大変なので持ってきてほしい。
もし一人暮らしで病気になったらと考えると世界は恐ろしくなる。
身の回りのこと全て自分でやらないといけないから。
「ありがとう刹那。病気になるとホント動くのキツイんだ。こればかりは慣れないよ」
「気にしないで。世界が元気になってくれたらそれでいい」
「それだけど、不調の原因に心当たりがひとつあるんだよね」
「心当たりって?」
「きっと悪い夢を見てしまうことだと思う」
「それは気にしないほうがいい。夢は夢で現実じゃない」
「刹那が一緒に寝てくれてる時は、割と大丈夫なんだけどね」
「一人で眠っている時に悪い夢を見やすいってこと?」
「そうみたい」
悪い夢で覚えているものは幾つかある。
浮気の子どもとして親戚や友達に罵られてイジメられる。
刹那が遠くへ引っ越しをして消えてしまう。
他にも高い所から転落をする夢、電車に撥ねられる等の衝撃的なものもあった。
「正夢になりそうなのは、刹那が遠くへ行っちゃう夢だね」
「どうしてそう思うの?」
「刹那のお母さんと私のお母さん、よくパリの短期出張してるじゃない。それが長期になれば、刹那がパリへ連れて行かれちゃうから」
「海外転勤の話なんてない。それは世界の考えすぎ」
「わかってるよ。あ、ことちゃんの家に泊まった時も特に悪い夢は見てないな」
「……やっぱり世界には支えてくれる人が必要」
「そういう刹那はいなくても平気だね。むしろ一人でいるほうが気楽でいいって思ってそう」
「そんなことない。世界がいないと寂しい。だから早く風邪を治して」
表情はクールなくせに寂しがり屋だ。
刹那に冗談の一つでもかまして和ませてやりたい。
そこで世界は思いつきで言ってみた。
「それじゃあ治ったら、お祝いに刹那とデートしたい」
「うんいいよ。世界とデートする」
「あのね刹那、私たち女同士でデートはないから。ここは否定する所だよ」
「そう? でも久しぶりに世界と二人っきりで出かけたい」
「言われてみると、ことちゃん、七海、光、乙女でワイワイしちゃって、刹那と二人だけで行くことって少ないよね?」
「うん」
「そっか。だったらこれを楽しみにして風邪を治すね」
「約束。世界が元気になったら一緒に出かける」
後日、世界はおたふく風邪から完治をする。
そして出かける約束の当日を迎えた。
身支度に時間が掛かり、特にクセ毛の対処が厄介だ。
周囲の髪と打ち解けず、ここぞと主張するかの如く跳ねてしまう。
このままでは待ち合わせの時間に遅れる。
それだけは何としても避けたい。
ため息をついてアホ毛を隠すための野球帽を被る。
蒸れずに手軽に装着できるメッシュのタイプだ。
場所は小さい頃に遊んだ公園。
そこで刹那は昔を懐かしむようにして立っていた。
「ごめんね刹那。待たせちゃったね」
「大丈夫。世界がおしゃれに時間かけることぐらい知ってる」
「相変わらず髪の跳ねが出ちゃって」
「かわいいのに?」
「かわいくないってば」
「今日はどこへ行く?」
刹那に問われて世界が向かうのはカラオケ。
溜め込んだストレスを発散するのが狙いだ。
刹那にとあるラブソングをリクエスト。
今でも愛するという刹那らしさを感じる曲でピッタリだ。
真珠のような輝きに透き通った美声で単純に上手い。
次に夏の日々を思わせるオープニングの曲を追加。
こちらも恋愛がテーマで、夏の海と砂浜をイメージしている。
「刹那ってば最高。もう耳が幸せになっちゃう」
「今度は世界が歌う。私だけ歌うのは不公平」
「私、刹那みたいに綺麗な声じゃないし、上手くないよ」
「おだててもダメ」
「ほらほらポテト食べる? あ、ドリンクもあるよ」
「ごまかしてもダメ。次は世界の番」
「そうは言っても、私って英語の発音が苦手なのよね」
「歌詞のほとんどが日本語。英語は一部だけ」
刹那の言うように歌詞の全てが英語になっている訳ではない。
そういう曲もあるが、それを選ばなければ済むこと。
曲選びをしている時に世界が目に止まったのは……。
「ことちゃんがいたら、この歌をリクエストしてたよ」
「……失恋の曲?」
「悲しみの先をテーマにしてて、歌詞の中に偶然にも私の名前とことちゃんの名前があるんだよね。ほら、ことちゃんってスプラッターなホラー映画が好みだから、これがピッタリくるんだよ」
「世界歌って。聞いてみたい」
「えー、なんか私の首がバッサリと斬られそうなイメージしちゃう」
「なにそれ?」
「あ、ことちゃんが見せてくれたホラー映画の話。よかったら刹那も今度見てみる?」
「遠慮する。そういう趣味ないから」
「うん。グロいから正直あまりお勧めはしない」
「世界はそういうの好み?」
「普通だよ。刺激があるから退屈はしない程度」
おねだりをされた世界が歌い始める。
英単語がシンプルで少ないから発音はそこまで苦にならない。
流れる悲劇的な音楽と歌詞で逃れられない死を連想させる。
そこは理屈抜きで刹那に何となく伝わったようだ。
「世界、その曲暗すぎる」
「だよね。逆にこころちゃんがいたら、この歌を要望しちゃう」
「……魔法少女?」
「こころちゃんならこれ以上にないハマり役でしょ。音楽も元気に溢れる明るい感じでピッタリだし」
「世界、次はこれ歌って」
「ちょっと刹那、ここで笑いを取れと? どう見ても私のキャラじゃないからね」
「戦隊のリーダーと思って歌えばいい」
「だったら刹那が歌ってよ。悪の秘密結社ラスボスみたいな感じで」
「なぜ私が悪役?」
「このアニメに出てくるボスが刹那にそっくりだから。召喚された敵のロボットなんて田中のイメージに近いし」
押し付け合ってキリがない。
二人で歌って笑いのネタにした。
その後も制限時間まで歌が繰り広げられる。
そしてカラオケを出た後に世界が思い出した。
「あ、そろそろ洗剤を切らしそうなのよね」
「それなら帰りに一緒に買う。私も日用品の補充がある」
「了解。次どこへ行こうか? 刹那は行きたい所ないの?」
「特には……でもお昼近いから何か食べよう」
「光たちと立ち寄るいつものピュアバーガー、うちのお母さんが働いているラディッシュ、ことちゃん情報にある榊野ヒルズの高級レストラン予約制」
「世界、適当なこと言ってない?」
「うん。思いつくものをそのまま言っただけ」
「ラディッシュは世界がダメ出しをしてる。榊野ヒルズはそもそも予約してないし、お財布にも優しくない」
「刹那と一緒に新しいお店探しもいいけど、今の時期は暑いからね。あんまり長い時間出歩くのは、病み上がりの私にはキツイから」
「いつものピュアバーガーで」
世界に無理をさせたくない刹那が即答。
世界と一緒ならどこでもいいというのが正直な気持ち。
無難な選択として、馴染みのピュアバーガーへ立ち寄った。
店内が混んでいたので、テイクアウトで済ませる。
またお腹が空くようなら、適当な出店でかき氷やたこ焼きでも買えばいい。
「世界、そろそろ帰る?」
「時間的にもう一押し。神社でお参りでもしよ」
「なぜ神社?」
「祈るために決まってるじゃない。刹那が幸せになりますように、なんてね」
「またそうやって人の事ばかり、世界は自分の幸せを考えて」
「私は無病息災一択よ。それが叶ってくれるなら万々歳だね」
「世界……」
何ものにも代えがたい健康。
それがあれば心配をかけさせなくて済む。
ないものねだりだとわかっていても願う。
最寄りの神社で小銭の賽銭をしてのお参り。
両手を合わせて目を閉じている世界と刹那。
しばらくして二人は神社をあとにする。
「刹那の願いを当ててあげる。ズバリ、刹那のお母さんみたいな成長をしますように、でしょ?」
「違う」
「えー、刹那のお母さん綺麗だし、絶対にそうだって思ったのに」
「世界のお母さんだって美人」
「嘘でしょ。あんな子どもの性格をして美人なんて似合わないよ」
雑談をしながら日用品の買い出しを済ませる。
夕焼けを浴びながら帰り道を歩いていく。
今日はどちらの母も帰りが遅くなるので。
「刹那、今日はそっち行っていい?」
「いいけど私の部屋、特に面白いものないよ」
「刹那らしいスッキリとした空間が好きなの」
「世界の部屋、別に散らかってない」
「そりゃあ、いつ誰が来てもいいように掃除ぐらいしてるもん」
刹那の食卓で夕食タイム。
和風定食で舌鼓を打つ世界。
刹那の孤独感を癒してくれる。
そこにいるだけで満たされる幸せがあった。
夏休みの宿題。
先に済ませるか? 後に済ませるか?
どちらにしてもやらない訳にはいかない。
世界が泣きつく先は言葉。
わざわざ言葉の家に出向いて助けを求める。
そこに七海もいて考えている事は一緒だった。
「いやー、私はバスケの練習で忙しかったから」
「私はおたふく風邪でダウンしてたから」
「という訳で言」
「そんな訳でことちゃん」
宿題手伝ってと同時にハモらせる。
言葉は笑って了承をするも、世界に対しては別の一言を添えた。
「世界ちゃん、せっちゃんに頼まないのはどうしてですか?」
「ほら、刹那には看病で迷惑かけたし。さすがに宿題まで甘えるのは気が引けちゃって」
「せっちゃんが好きでやっている事です。きっと気にしないと思います」
「そうだとしても、刹那には刹那の時間ってあるじゃん。私だけでなく、もっとこう視野を広げるとか、自分を大事にとか、何かそういうのあると思わない?」
世界なりに思う所があるようだ。
いつも一緒だからこそ相手を意識して気に掛ける。
親しき仲にも礼儀ありというべきか。
「まあ、刹那っていつも世界の事ばかり見てるし。何となく世界の言いたい事わかるよ」
「そういう事なら私は特に何も言いません。あとでせっちゃんが拗ねるかもしれませんが」
「その時は七海を囮にして逃げるから」
「ちょっと待ちな世界。なんでアタシが囮なんだ?」
「ほら、バスケでリーダーみたいな活躍してるし、その偉大なる七海を頼りにしたいなって」
「調子のいいこと言ってんじゃないよ。しかも囮って言い方ってものがあるからね」
「バスケで直球好きだから、言い方もストレートがいいかなって」
「バスケ関係ないし。まあ、回りくどい言い方が好まないのは認めるけどね」
言葉のおかげで二人の宿題は順調に進んだ。
それは問題なかったが、言葉の推測が当たってしまう。
あとで刹那にバレてしまってふてくされたのだ。
夏祭りを一緒に行けば機嫌が直るだろうか?
とりあえず誘って様子を見るしかない。
「刹那、今度の夏祭り一緒に見て回らない?」
「……」
「そっか無理なら仕方ないね。それならことちゃ――」
「行く。ただし二人だけで」
「え? 私だけでいいの?」
「世界だからいい」
「そっか。人混みのある祭りで人数増えると動きにくいからね。それなら頼りにしてるよ刹那」
世界に頼られて満更でもない。
いつもそうだったから当たり前のようになっている。
世界が幸せに感じてくれるならそれでいい。
ふと世界が思い出したように財布の中身をチェックする。
おたふく風邪により、光の店でバイトができなかった。
手持ちの少ないお金では祭りの出店で買い物は厳しい。
「世界、少しなら私が出してもいい」
「うーん、半分っこ作戦で何とかするしかないか」
「私はそれでいい」
「いいの? 食べる量が少なくなるよ」
「腹八分。食べ過ぎはよくない」
「刹那はもっと食べたほうがいいんじゃない?」
「それどういう意味?」
「さあーて、浴衣どこにしまってあるかなぁー。いや、あえて私服でいいかも」
「ごまかした」
夏祭りまでの現状確認。
気になったのは乙女と光の進展具合だ。
施設のプールでどうなったのか?
結果報告ということで言葉の部屋へ集まった。
「七海いいの? てっきり彼氏優先で付き合い悪くなるかと思ったけど?」
「なに世界、私だけのけ者にするつもり? それに先輩はバイトだから別にいいんだよ」
「そっか。あ、まず光から訊きたいんだけど、澤永を連れてプールに行ったんだよね?」
「うん、行くのは行ったけど……」
「けど?」
「アイツ、他の女に鼻の下伸ばしちゃって」
「うん、それは予想してた。光が強引に澤永を引っ張り込む姿も想像できちゃう」
「だ、だってそうでもしないと――って見てたの世界!?」
「そんな訳ないでしょ。光の行動が分かりやすいだけ。光とも付き合い長いからね。どうせ泳げないから教えてって感じで、澤永に相手してもらったんでしょ?」
「う、うん。でもアイツ、ちょっとでも目を離すとすぐ他の女を見ようとするの」
「耳とかほっぺとか、あるいは脇腹でもつねってやったら?」
「やったわよ!! ホント目の前に私がいるのにあり得ない!!」
「その様子だと、下の名前で呼び合う展開なんて望めないよね。きっかけ作れそうにないし」
ボケとツッコミの漫才コンビのようなやり取りになったのだろう。
友達としてなら笑いが取れて楽しめるかもしれないが、男女の仲として持っていくには厳しい。
メロメロに射止めるにはまだ足りない。
夏祭りでもうひと勝負仕掛けてみるといいだろう。
そのように励まし、次は乙女の進展を尋ねる。
乙女の表情がやや暗いので、世界は優しく声を掛けた。
「そっか振られたんだね」
「振られてない!!」
「だったら聞かせてよ。伊藤とプール行ってどうだったの?」
「……中学の頃の話をしながら一緒に遊んだよ。そんな時に知らない男にナンパされることがあって、誠が私の前に立って庇ってくれてさ」
「おっ、やるじゃない」
「それで騒ぎになって、警備の人が来たから相手が逃げ出して、幸い怪我をすることはなかった。あの時の誠、カッコ良かった」
「ふむふむ、それでその先はどうなったの?」
「今言わないと一生言えない気がして。勇気を出して私から想いを伝えたの。そしたら誠はお礼を言ってくれたけど」
中学から仲良くしてきた伊藤と乙女。
それ以上の関係になるのに迷いがある様子を見せたらしい。
他に好きな人がいるのか?
それとも乙女とは友達のままでいたいのか?
「乙女、もしかして返事は今すぐでなくていいから、って伊藤に言った?」
「うん。誠を困らせたくなくて」
「期限なしの保留はマズイよ。伊藤からすれば、今後乙女とどう接したらいいかで、それこそわからなくて困るじゃない」
「そ、そう言われても私、告白するしか考えられなくて」
「うん乙女はよく頑張った。それはハッキリ伝わってくるよ。だからこそ報われてほしいって私たちは応援している訳だし」
「世界、私これからどうしたら……」
「私が伊藤の気持ちを確かめるよ。一週間もかからないと思うから任せて」
世界は言葉に視線を向ける。
まだ伊藤が言葉への未練があるのかもしれない。
解散をした後、一緒に帰る刹那に相談をする。
「伊藤はことちゃんを諦めてない可能性があるよ」
「世界、別の可能性もある」
「それは?」
「伊藤は世界のことが好きかもしれない」
刹那の瞳は真剣そのもの。
今の状況で嘘や冗談を口にする訳がない。
世界は思案顔となって心当たりがないかを考えてみた。
それで思い当たる点は一つある。
「原因はいたるちゃんだね。刹那の言う通りなら、私は容赦なく振る事になるよ」
「本当に?」
「いたるちゃん、お父さん嫌いって言っててさ。お父さんに何か嫌な事されてるかもしれないんだよね」
怪我はないので物理的な虐待はないだろう。
だが精神的な虐待ならあってもおかしくはない。
幼い止の喋り方はそれに関係があるのかもしれない。
あくまで推測の域でしかなく、部外者の世界では詳細不明だ。
「世界、止ちゃんに自分を重ねた?」
「否定はしないよ。まあ、私は浮気の子どもだから元から籍なんて入ってないけどね」
「……」
「伊藤に関しては今も興味はない。いたるちゃんのお兄ちゃんでなかったら相手にしていない。乙女の恋愛応援に徹して深く踏み込まなかった」
「世界も伊藤に興味ない。私と同じ気持ち」
「なによ刹那、やけに嬉しそうじゃない?」
「別に普通」
「まあいいけど。あーあ、伊藤の気持ちを私一人で確かめるのは少し怖いな」
「大丈夫。私も一緒だから」
「刹那が私を守ってくれるなんて頼もしいね」
「任せて」
委員会のない放課後。
屋上まで伊藤を連れて行く。
世界が襲われないように刹那は護身用のアイテムを常備。
言葉から貰った催涙スプレーとスタンガンをポケットに忍ばせている。
世界もタクティカルペンを隠し持ち、いつでも刺せるように用心をする。
閉めた扉を背にする世界。
その正面に立つのは刹那。
伊藤の視点では世界が頭の部分しか見えない。
「刹那、これだと伊藤が見えないよ」
「見えなくても会話はできる。そのまま世界は話せばいい」
「伊藤、悪いけどこれで話をしてもいい?」
「別にいいけど、二人して俺に何の話があるんだ?」
「ちょっと待ってね」
世界はメールを送り、間もなく乙女の返事が来た。
打ち合わせ通りに屋上の扉越しで待機をしてもらう。
扉に近い位置で会話をすれば乙女からも聞こえる。
そして世界はおもむろに切り出した。
「乙女が伊藤に告白した件について」
「っ!?」
「映画やプールのお膳立てをしたのが私。乙女の恋を応援する仲人役をしているから無関係じゃないよ。それで現在、伊藤が保留にしている所まで乙女から聞いている」
「……」
「乙女が返事を今すぐでなくていいと言ったのは、告白して困らせてしまったと思ったから。伊藤からすれば、いきなり友達と思っていた女の子から好きって言われてビックリしたと思う」
「ああ」
「私が知りたいのは二つ。一つ目は乙女の気持ちに伊藤がいつ返事をするのか? 二つ目は伊藤が他に気になる女の子がいるのか?」
「気になる女の子……」
「とりあえず伊藤に好きな人がいないことは確定だね」
「なんでそう言い切れるんだよ?」
「だってそうでしょ? もし伊藤が乙女を好きなら即OKすればいいし、他に好きな人がいるなら断っているはず。まさか二股かけるような真似なんてしないよね?」
「するか!!」
「好きまでは到達していないけど、気になる女の子はいないの?」
「それは……」
「別に名指しは求めてないよ。あくまでいるか、いないかを知りたいだけ。どうなの伊藤?」
ここで長い沈黙となる。
根比べ上等として世界からは何も言わない。
伊藤が返事をするのをひたすらに待つ。
やがて伊藤が重い口を開いたようで。
「……いる」
「わかった。二つ目はそれでいいよ。一つ目の方について私からの提案。それは学園祭で返事をすること。一緒に学園祭を回ったり、フォークダンスを踊ったり。まあ、その時点で答えているようなものだけど、女の子はハッキリと口に出してほしいものなの。だからその時はちゃんと言ってあげてね」
「学園祭か……わかった。その時にちゃんと返事するよ」
考える時間がほしい伊藤としてはありがたい事だ。
引き延ばしにするつもりもないのだろう。
学園祭はこれ以上にないタイミングといっていい。
「私が伊藤に対してどう思っているのかを伝えておくね。いたるちゃんの優しいお兄ちゃんであり、友達である乙女の彼氏になるかもしれない人。それ以上でもそれ以下でもない」
「友達じゃないんだな?」
「クラスメイトよ。それでハッキリ言っておきたいけど、私は恋愛的な目で伊藤を見ていない。乙女の仲人をしているのがその証明だからね」
「なるほど……って、そこまでズバッと言われると男として自信失うって」
「そこは根性でどうにかしなさい。仮に告白をされても、悪いけど他を当たってと私は断るから」
「俺じゃなくてもか?」
「それを伊藤が知る必要はない。厳しい言い方をしちゃうけど、もし伊藤が私を気になる女の子として見ているなら、今この場でキッパリと諦めてね」
「マジで一刀両断だな。逆に清々しくなってきたよ」
「私なんてまだ生易しいほうだよ。ねえ刹那?」
「なぜこっちに振る?」
刹那は正面を向いたまま動かない。
あくまで世界を守ることに徹底をしている。
体は小さいのにとても心強い存在だ。
「刹那のほうが言い方に容赦ないから。上には上がいることを教えておこうかと」
「確かに清浦って委員長やってるだけあって厳しいよな」
「ま、そういう訳で、乙女を受け入れるか断るかは伊藤の自由だよ。もし断っても、それが伊藤の気持ちなら私たちは尊重するし、別に恨んだりもしないから安心して」
「わかったよ。西園寺ってマジでいい奴だな。何か俺よりも男らしいぞ」
「私はちゃんとした女よ。ただでさえ可憐に、男なら狙ってたとか言われてるのに」
「アイツ、結構そういう冗談言うタイプだからな。でもまあ西園寺が男だったら、泰介みたいに友達になれたかもしれないな」
「伊藤が同性愛じゃなければね」
「アホか!! 俺にそっちの趣味はない!!」
「私は差別しないよ。伊藤が澤永と恋愛に発展してもクラスメイトに変わりないから」
「やめろ!! 泰介は普通に友達としてしか見てねえよ!!」
「世界、冗談はそこまでにしなさい」
「はーい」
シリアスばかりでは堅苦しくてたまらない。
こういう時の世界は冗談を挟む悪いクセがある。
世界と刹那で互いにアイコンタクト。
もう話は終わりでいいいだろう。
刹那に隠れたまま、世界は携帯のメールを送信。
それを合図として、扉の前にいた乙女は見つからないように退場をする。
「それじゃあ話は終わり。伊藤は先に屋上出てよ。私は戸締りしないといけないから」
伊藤が出て行けるように世界が扉から退く。
息を合わせて刹那も動いてくれる。
ちゃんと世界の正面を維持して守り続けた。
「なんか清浦が西園寺の護衛をしてるみたいだな」
「世界は私が守る」
「おかげで私は安心して役目を果たせたよ。ホント刹那に感謝だね」
「それって俺に対して警戒してるって事だよな?」
「か弱い女の子なので」
「どの口が言うか?」
「この口が言うよ――って漫才がしたいなら澤永とやりなよ。私もそこまでヒマじゃないんだし。伊藤はとっとと退場しなさい」
「うわあ冷たいな。俺は用済みかよ全く」
この後、世界と刹那は手筈通りに乙女と合流。
加藤家に入ると可憐が待っていた。
今回の件が気になるようで結果を知りたがっている。
一緒に客間に入って確認を行なう。
扉越しで乙女の耳に聞こえていたかについてはイエス。
世界の報告と乙女の聞いた内容で一致もしている。
そして可憐に用意をしてもらったお茶を飲んで一息をつく。
「やっぱり世界は気付いていたんだね。誠の気持ちに」
「これで乙女は安心して、学園祭まで伊藤の返事を待つことができるね」
「安心も何も。私は最初から世界を疑ってないから」
「信じてくれてありがとう。可憐も聞いての通り、あとは伊藤の返事次第だから」
「わかりました。しかし世界さんは、そんじょそこらの女子とは訳が違いますね」
「可憐のその口ぶり、女の友情は男の前では脆いって言いたげね」
「友達だと思ってた子が裏切るなんてよくある話なんです。抜け駆けなんて当たり前、油断して奪われるほうが悪い。割り込み上等の早いもの勝ち理論なんです」
「なるほど、経験者は語るだね。随分と苦労したようでお疲れ様」
世界は理解を示して大変だった可憐を労わる。
だが静かに聞いていた刹那は逆だ。
射抜くような鋭い目で可憐を睨みつける。
世界に変なことを吹き込むな。
そんな無言の圧力で威嚇をしてしまっている。
「刹那さん、そんなに睨まないでくださいよ。お姉がビビってしまいます」
「び、ビビってないし」
「ビビってるじゃん」
「落ち着きなよ刹那。これこそ刹那が教えてくれた人それぞれじゃない。裏切らない友情もあれば裏切る友情もあるってことよ」
「……ふん」
「ごめんね可憐。刹那は根が真面目でちょっと融通が利かない所あるから」
「私、刹那さんに嫌われちゃいましたかね?」
「刹那、可憐のこと嫌いになった?」
「別に」
「可憐、刹那は嫌ってないってさ」
「いやいや、素っ気ない返事で明らかに嫌われてますよ」
「刹那は誰にでもこんな感じだから気にしないで」
刹那を落ち着かせるためにギュッと後ろから抱きしめる。
小柄で全体的に細めの体つき。
フレッシュな香りは自然に近くて刹那に合っている。
好奇心に駆られた世界は刹那の髪と首筋に鼻を近付けた。
「嗅ぐな」
刹那に速攻でバレる。
でも世界は引き下がらない。
「刹那っていい匂いするけど何でだろう? シャンプーとボディーソープ、同じ銘柄を使ってるのに私だとこうはならないよ」
刹那が困り顔でくすぐったそうに身をよじらせる。
爽やかな香りが些か濃くなるも引き際を弁えた。
刹那の左側へ肩を寄せるようにして世界は座る。
そして可憐に学園祭に来るかどうかを尋ねてみた。
「もちろん行きますよ。お姉が振られるかどうかの瀬戸際ですから」
「振られるとか言うな」
「お姉とは友達でいたいとセンパイは返事しそうですけどね」
それはあり得ると思ったのだろう。
乙女が俯いてしまって激しく落ち込む。
思ったことをすぐに口に出すのが可憐の悪いクセだ。
咎めるような視線を投げる刹那。
これはマズイと思った可憐は自分の手で口を塞ぐ。
だが既に手遅れで吐いた唾は呑めない。
すかさず世界は動く。
乙女の両肩に手を乗せて元気付けた。
「乙女が私に嫉妬しないで信じてくれたように、私も乙女の想いが成功することを信じている」
「世界……」
「顔を上げて胸を張り、堂々と学祭まで待っていればいいの。何も心配はいらないって。もし辛い時があるなら、話を聞いてもらったり、思い切り遊んで気晴らしでもすればいいよ」
「あ、ありがとう」
「どう? 少しは元気出た?」
「出た出た。なんかもう落ち込んでるのがバカバカしくなってきたよ」
「でしょ。ま、乙女はそれでよしだね」
乙女から離れて今度は可憐のところへ接近する。
世界の不穏な空気に可憐が少したじろいでしまう。
どことなく厳しい刹那と重なって見えてしまった。
「あのさ可憐、すぐに思ったことを口に出すクセは直そうよ。私もそれで刹那に注意されたことがあるから人の事言えないけどね。ただ今みたいに大切な家族を落ち込ませるなんて、可憐だって望んでないでしょ?」
「す、すみません」
「謝るなら私じゃなくて乙女にしなよ」
「う、うん。ごめんお姉」
「いいよ別に。アンタのそれって今に始まったことじゃないし」
その後、空気を和ませるために天文部の話題に変える。
可憐は入学をしたらバスケ部と天文部で掛け持ちをしたいと言ってきた。
天文部で新入部員は特に募集をしていない。
あくまで屋上を使えるようにするのが目的だから。
天文部の活動はそのための手段に過ぎない。
「えーそんなー、お姉は良くて私はダメなんですかぁー?」
「実質、活動してるのは私と刹那とことちゃんの三人であとは幽霊部員だよ。可憐だって別に天文部に興味なんてないでしょ?」
「まあ、星を眺めるなんてガラじゃないのは認めます。でも私だけ仲間外れなんてズルいですよ」
「やめなって可憐。募集してないって言ってるんだから無理言わない」
「ま、可憐が入学してきたら前向きに検討するね」
「うぅ……わかりました」
やる事が終わったので加藤家を出る。
姉妹に玄関で見送られて立ち去っていく。
電車で乗り換えて最寄り駅となる模手原坂下で降りる。
世界は心身の消耗が激しい軟弱な体質。
誰かのために尽力をした後はクタクタ状態に陥りやすい。
ここで刹那に隠し事は無駄だから素直に愚痴をこぼす。
「ああもう、こんな状態でご飯作るのしんどいな」
「世界、私が作りに行くから休んで」
「家に食材ないよ」
「私が買ってくる」
「そこまで刹那に迷惑を――」
「いいから黙って休め」
刹那が譲らずに命令をするのは珍しい。
世界が無茶をしないために心を鬼にする。
それは心配をしていることの裏返し。
刹那の不器用な優しさを感じ取り、世界は素直に言う事を聞く。
「何か食べたいものある?」
「オムライス」
過去に刹那に教わったが卵の包みが面倒である。
腹の中に入れば一緒。
雑な理論で卵混ぜのチキンライスで手間を省くのが世界だ。
せっかくの機会ということで刹那に作ってもらう。
アパートの狭いキッチンでも器用に料理をこなせる。
味付けが丁度良く、盛り付けの見栄えも良く、食べるのが楽しくなる。
栄養が取れるように野菜たっぷりのコンソメスープも味わった。
すっかり御馳走になり、洗い物を済ませて食後のコーヒーまでいれてもらう。
そして世界の部屋でベットに座り、隣合わせで会話をする。
「ことちゃんのアドバイス通り、栄養の摂取で体が楽になる。これが回復するって感覚なんだね」
「栄養バランスは大事。世界は一人だとズボラで、その辺りが適当になる」
「そこは栄養のあるズボラ料理で対策するって。一人鍋とか簡単で洗い物が減らせるし」
「世界らしい」
「……ねえ刹那」
「なに?」
「泊まる気満々だね。着替えまで用意して」
「ダメ?」
「いつも通りにいいよ。刹那には苦労をかけるね」
「世界こそ今回たくさん苦労していた」
そんなことはないと返事をしようとしたが口を閉ざす。
見透かすような刹那の真剣な眼差し。
嘘をついてもすぐに見破ってしまうことは明らかだ。
世界の個人感情的に乙女と可憐の姉妹とは気が合う。
しかし刹那のような生真面目タイプとは相容れないように思える。
まして世界に被害を与える存在となれば一切の容赦はしないだろう。
回りくどい事を抜きにして刹那の本音を探ってみる。
「刹那、正直に答えて」
「ん?」
「乙女と可憐にこれ以上関わるなって思ってない?」
「思ってる」
「ああ、やっぱり」
「あの二人のせいで世界が苦労をして体調を崩す。もう関わらないでほしい」
「そっか。正直に言ってくれてありがとう」
まさに歯に衣を着せぬ。
そんな刹那が補ってくれるから世界は好き勝手にできている。
実に難儀な立ち回りをしている。
刹那には嫌われ役よりも好かれ役になってほしいのに。
「可憐の余計な一言で、乙女が落ち込んで、すぐに励まさないとヤバいと思って。ガラにもなく可憐を叱ったりしてさ。多分この辺りがなかったら、お節介も程々に大丈夫だったと思う」
「……」
「私は私のやりたいようにしているだけ。刹那に心配かけないよう、無茶をしないように気を付けてるつもり。ただ数字で見えないから加減が難しいんだよ」
「……」
「ねえ刹那、二人と仲良くなって私の負担を減らすってやり方ではダメなの? それだと舐められたり、足元を掬われてしまうとか思ってる?」
「うん。調子に乗ると碌なことがない。歯止めは必要。何より」
「何より?」
「興味がない」
キッパリと言い切ってしまう。
体格は小さいのに一切のブレない刹那の存在感は大きい。
世界から見れば頼り甲斐があり純粋に強くて羨ましい。
「嫌われていると思われていいの?」
「いい」
「私のために嫌われてほしくないんだけど?」
「仲良くするフリをしたほうがいい?」
「それは刹那が望んでないでしょ」
「うん」
「でもさ、刹那のやってる事って汚れ役だよ」
「世界のため。一向に構わない」
刹那の在り方を世界は否定をしない。
逆なら同じことをしている。
刹那のためならどんな役回りでもするから。
「わかった。今から可憐に電話を入れて事情を伝える。あとで刹那も出てもらうつもりだから、言いたいことがあれば言えるようにして」
「いいの?」
「私の体が弱いことを二人にちゃんと知ってもらう。そうすれば自分たちの行ないについて改善をするかもしれない。まあ、できなかったら刹那が私を守ってくれたらいいよ」
「うん」
早速、世界は可憐に電話をかける。
可憐はいつになくテンションが低い。
刹那の睨まれたことを気にしているのか?
それとも世界に注意をされたことがショックだったのか?
どちらでもない。
姉の乙女にパシリで買い出しという些細なことだった。
良くも悪くも可憐は引きずらないタイプである。
「可憐、私って生まれつき体が弱い体質でね。厄介なことにストレスにも脆い弱点があってさ。体調を崩しやすかったりするの」
「そうなんですか。もしかして具合悪くなったりしています?」
「もうクタクタで家事をするのもしんどいレベル。刹那が世話をしてくれて助けられた。可憐が刹那に嫌われてると思う原因はそこなの。私は個人的に乙女と可憐と気が合うから楽しくやりたいけど、刹那はもう関わるなって注意されちゃって」
「そ、そんな事情があるとは知らなかったです」
「どれぐらいなら活動しても大丈夫かは色々試してるんだよ。可憐が持ってるゲームみたいに数字に出てくれたらいいのに。今回ちょっと調整がミスって体力ゼロになった感じなの」
「わ、私のせいですよね? 私が余計なことを言ったせいでお姉が落ち込んで、それを世界さんがフォローしてくれて、さらに私を叱ってくれて」
「予想外の対応って結構焦るから、精神的なストレスが大きいみたい。でも可憐ならきっと次は気を付けてくれるって信じてる。私も気を付けて自己管理するから、可憐もすぐに思った事を口を出すクセは直すよう頑張って」
「はい。本当にすみませんでした」
「謝罪は確かに受け取った。じゃあ今から刹那と交代するから、覚悟して聞いてね」
「ふえっ!? ちょ、ちょっと刹那さんがそこにいるんですか!?」
「私の目の前で聞いているよ。大丈夫、刹那はクールだから怒鳴ったりしないよ」
「待ってください!! 私に心の準備を――」
これ以上の問答は無用。
携帯を差し出すと刹那はしっかりと受け取ってくれる。
そこから先は煮えたぎる怒りを背負った刹那の淡々とした非難。
言いたいことを存分に吐き出してもらう。
最後まで聞き終えた可憐は一時的に再起不能となった。
あとで乙女が事情を知り、世界と刹那に慌てて謝罪をする。
世界はいつも通りで大丈夫と言い、刹那は次から気を付けるように警告。
そして乙女と可憐は、自分たちの行ないを反省して改めるように努めた。