World Days(旧版)   作:完結の陽炎

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ノーマルエンド「お揃いのリボン」

 母の夢を応援したいが、世界は自分の健康が悪くなることを予期している。

 不慣れな海外生活で一人頑張っても限界が訪れるだろう。

 明らかに時期が悪すぎる。

 せめて榊野学園を卒業してからにしてほしい。

 それなら留学という形を取ることも吝かでない。

 もっとも、その時は大学や会社の寮暮らしで離れる選択肢もある。

 必ずしも一緒に行かなくてもいい。

 親離れ上等といった自立心で正当性を立てられるから。

 

「刹那……」

 

 世界が思わず呟く。

 大切な親友であり腹違いの妹。

 たとえ言い辛くても言わねばならない。

 誰よりも一番先に刹那へ伝えるべきだ。

 さもなくばこの先ずっと後悔をするに違いない。

 携帯を持つ世界の手が緊張で震えた。

 

「世界、どうしたの?」

「……」

「世界?」

「……おばちゃんから何も聞いてない?」

「うん。お母さん機嫌が悪い。今は何も聞かずに部屋へ避難」

「そっか。あのね刹那……伝えないといけないこと、あるの」

「言いにくいこと?」

「うん。でも刹那には言わないといけないと思って」

「言って」

「……」

「世界」

 

 刹那の催促に世界は深呼吸を繰り返す。

 そこから勇気を振り絞って重い口を開いた。

 

「刹那に、お別れを伝えるために電話したの」

「……なにを言ってるの?」

「お母さんのパリ転勤が決まった」

「それ、いつもの短期出張じゃないの?」

「うん。長期でずっとパリ行きになったって。それで私も連れて行くって」

「それでお母さんの機嫌が悪いんだ」

 

 これで事情が呑み込めた。

 世界は話を続ける。

 

「もう私、刹那の傍にいることができない。困った時はことちゃんを頼って」

「ダメ」

「え?」

「世界はパリに行ったらダメ」

「なんで?」

「世界、自分でわかってるはず。急に環境を変えると具合が悪くなるって」

「まあね」

「世界がパリで体を壊したら、誰が世界の看病をするの?」

 

 頼れる親戚がいない訳だからパリでも同様だ。

 フランス語がサッパリな状態ゆえにストレスも半端ではない。

 ハッキリ言って世界がパリへ行くには無謀すぎる。

 

「世界はおばさんの夢を邪魔したくない。だから無理をして病気になっても隠す」

「見透かしたこと言わないで」

「図星。ずっと一緒にいたからわかる。だから世界がパリへ行くのは断固反対」

「刹那の部屋にずっとはお母さんが許してくれない」

 

 それができるなら最初からそうしている。

 世界のパリ行きを覆すことは不可能だ。

 しかし刹那がこう言ってきた。

 

「私が世界の代わりにパリへ行く」

「それこそ無茶だよ。私のお母さんじゃなく、おばちゃんがパリ行きにならない限り」

「そうなるようにする。私に任せて」

「……そしたら刹那がいなくなっちゃう」

「私は世界みたいに体が弱くない、急にパリへ行っても大丈夫。それにフランス語もわかる」

「刹那はそれでいいの? 皆と離れちゃうんだよ」

「世界が無茶をするぐらいなら私が行く。たとえ遠く離れても、それが世界のためになるなら私はそうしたい」

 

 刹那の決意は揺らがない。

 こうだと決めたら意地でも貫く。

 そういう強気なところは昔から変わっていない。

 

「刹那に電話をした時点で、なんとなくそうなる気はしてた」

「他に電話した?」

「ううん、真っ先に刹那のことが頭に浮かんだから、今こうして電話を入れたのは刹那だけだよ」

「私だけ特別。ことぴーじゃなく、私を頼ってくれた」

「……刹那、後悔しない?」

「する訳がない」

「パリの件、刹那に任せちゃっていいの本当に?」

「いい。上手くやるから安心して」

「刹那が身代わりになるのは正直辛いよ。でもそれが刹那の意思なら、友達としても家族としても、受け入れないといけないよね。もし成功したら、お別れパーティーで盛り上げるからそのつもりでいてよ」

「わかった」

 

 世界の母は自分の夢が叶うためなら娘がどうなっても構わない。

 そんなつもりはないと否定をするだろうが、現状が見えていないのが全てだ。

 ところがしばらくして状況が変わる。

 パリ本社から再検討の指令が下された。

 一部の評価だけではなく総合評価で改めて選抜をしろ。

 海外の働きだけでなく、国内での働きも含めて調査せよ。

 長期で働いてもらうスタッフは慎重に選べということだ。

 

 海外スタッフからラディッシュ榊野町店にも視察が入る。

 世界の母が店長として全て作ったと自負する店だ。

 バイトスタッフのやる気のなさ、客層のガラの悪さ、複雑メニューで対応しきれない等の問題点が未だに改善されていない。

 調べれば調べるほどにマズイと思わせる情報が出てきた。

 店長を支える副店長あるいはマネージャーがいないのも欠点。

 店長のワンマンで好き勝手をしているようだ。

 言葉の母は経営コンサルタントとしてアドバイスはするが、その店の従属関係ではない。

 そこから流れが変わった。

 視察の情報がパリのほうへ送られて再検討として協議。

 結果、逆転勝利だった世界の母の取り消しが下ってしまう。

 抗議をしようにも様々な問題点が指摘されてしまい、刹那の母がパリ支店スタッフとして正式に迎え入れることになった。

 この決定はパリ本社も認めたので今度は覆らない。

 

「刹那、一体どんな魔法を使ったの?」

 

 この知らせを聞いた世界は驚きを通り越して感心を抱く。

 思わず刹那の所へ直接確認に行った。

 

「別に。私のお母さんが本気を出しただけ」

 

 刹那が勝利のVサインを見せつける。

 自信満々に勝ち誇る姿が頼もしい。

 

「うちのお母さん、ふて寝しちゃって立ち直れなくなってるよ」

「天罰。世界を蔑ろにしたから」

 

 海外の本社を動かすほどのことをした。

 国内本社の重役として海外本社との繋がりが深い。

 刹那から世界のためと詳しく話を聞いて張り切ったようだ。

 

「刹那のお母さん、あの手この手で色々やったんだね」

「うん。大人の事情」

 

 実に怖いものである。

 隙があればそこを突いて相手を蹴落とすことが可能。

 今まさにそれが証明されてしまった。

  

「刹那に助けられちゃったね。正直無理だと思った」

「世界にはことぴーがいる。光と七海、乙女もいる」

「刹那、これで心置きなくパリへ行けるって思ってるんでしょ?」

「正解」

 

 ここまでされたら認めるしかない。

 気持ちよくパリへ行ってもらうのが恩返しとなるだろう。

 そのためにもお別れパーティーを開きたい。

 まずは参加メンバーの確認である。

 当事者となる刹那と主催者となる世界は確定。

 言葉・心・光・七海・乙女・可憐・伊藤・澤永。

 合計で10人となる。

 なお、田中は骨折という怪我の都合で不参加。

 伊藤の妹である止は来る日が合わないため無理である。

 世界は各自の都合を調べて、そのリストを書いて記録する。

 それを参考に言葉を屋上へ呼び出しての相談だ。

 今は放課後で互いに予定もない。

 曇り空の下、ベンチに座って肩を寄せ合っている。

 

「ことちゃん、大人数で貸し切りできるパーティー会場ってある?」

「はい。榊野ヒルズに貸切パーティーが可能なレストランがあります」

「メモに最適な日程をいくつか書いたけど、上手く予約とれるかな?」

「大丈夫です。家のお父さんが榊野ヒルズにコネを持っていますので」

「問題はお金だよ。私は貧乏で手持ちが心許ないの」

「こちらで全額負担をしますのでご心配はいりません」

「わお、気前がいいねことちゃん」

「気持ち良くお別れができるように思い出作りをしたい。それは私も同じですよ」

 

 女神のような微笑みを見せてくれる。

 眩しく目を細めてしまうほどの善意に満ち溢れている。

 刹那への思いやりが感じられて世界は純粋に嬉しかった。

 

「料理は自分たちで好きに取って食べられる形式がいいかも」

「ブッフェスタイルですね」

「それ何語?」

「フランス語です。セルフ形式で食事を楽しめる意味があります」

「パリへ行く刹那にピッタリだね」

 

 世界が方向性を決めて細かい所は言葉に任せる。

 これで飲食の手配は特に問題はない。

 他のアイデアとして思いつくことを口にする。

 

「定番の集合写真はしておきたいね」

「いいですね。私は賛成です」

「後で皆に確認してみるね。個人的に贈り物をするかは各自に任せるってことで」

「世界ちゃんは何かプレゼントをしますか?」

「推理小説にハマっている刹那には、可愛い栞を贈ってあげようかなって」

「それは素敵な贈り物ですね」

「ことちゃんはどうなの?」

「集合写真を撮られるとの事なので、写真立てを考えています」

「きっと刹那は喜んでくれるよ。私が保証しよう」

「それは心強いです」

 

 世界はパーティーの余興も検討してみる。

 言葉が中学卒業まで習い事をした中でピアノがある。

 心もピアノをたしなんでいるので一緒にセッションをすればいい。

 それで演奏を披露すれば会場は盛り上がるに違いない。

 

「えっと……そんなに期待されるほど上手くはないのですが」

「一人では心細くてもこころちゃんがいれば大丈夫。姉妹で協力して頑張れ」

「心が引き受ける前提ですか?」

「断ると思う?」

「いいえ」

「ノリノリで演奏してくれるならそれでいいじゃん。楽しんだもの勝ちだよ」

「世界ちゃんらしいですね。わかりました」

 

 ここで世界は可憐に電話をかける。

 事情を説明した後、刹那の送別会で一発芸をしてほしい。

 そんな世界の唐突な要望に可憐は戸惑ってしまう。

 

「いやいや世界さん、私は芸人じゃないです。そんないきなり無茶振りされても」

「刹那への挑戦状を叩きつけて盛り上げて」

「はい?」

「名付けて分身当てクイズ!! どっちが本物かを見分けろゲームだよ」

「……なるほど読めました。お姉と同じ姿で刹那さんに見分けてもらうんですね?」

「そういうこと。実は個人的にも興味あるの。本当に見分けがつかないのかってね」

「わかりました。あとでお姉に言っておきます」

「よろしく。お礼は榊野ヒルズの高級レストラン食べ放題飲み放題で」

「マジですか!? ちょっと世界さん、お金は大丈夫なんですか!?」

「ことちゃんが手配をしてくれるから大丈夫。おかげで主催者となる私は企画に集中できるって訳よ」

「へえー、言さんってスゴイ金持ちなんですね」

 

 これで加藤姉妹の一発芸を確保。

 可憐との電話を切り、次は光へ電話をかける。

 

「光、話したいことがあるんだけど今大丈夫?」

「別に大丈夫だけど、どうしたの?」

「お別れパーティーの余興を企画しててさ。光も何かやってみない?」

「ちょっと世界、話が飛び過ぎてわかんないって。ちゃんと最初から説明しなよ」

「おっと失礼」

 

 順を追って経緯を話す。

 親の都合でパリへ引っ越す刹那のために送別会を開く。

 それについては大いに賛成をしてくれた。

 だが余興は何をしていいのかで悩む。

 すると世界が思いつきの提案をした。

 

「例えば澤永と漫才するとか」

「ちょっと世界!! 真っ先にそれってどうなの!?」

「試しに澤永と話してみなよ。乗ってくれるよきっと」

「そりゃ泰介はそういうのノリやすいとは思うけど、大体なんで私とセットで考えるの!?」

「恋人同士だから」

「そういう事をサラッと言わないで!!」

「いいじゃん別に。付き合ってるんだから堂々としなよ。って事でどうよ?」

「……刹那のためだからね」

「決まりね。榊野ヒルズのレストランをパーティー会場にする予定だからよろしく」

「そういう世界は、何か余興しないの?」

「今は皆に思いつき企画を話してる最中だし。それが終わってから考える」

 

 その後も七海は簡単な手品をやってくれるとの事。

 伊藤は乙女と一緒にカラオケをするようだ。

 言葉にカラオケの設備もお願いして一任をしておく。

 

「これであとは私だけか……ことちゃん」

「はい?」

「感謝状を作りたいから、専用の紙と筒をお願いしてもいい?」

「はい任せてください」

「ありがとう、いやー助かるよことちゃん。これで私の余興は、感謝状を読み上げて渡すってことで決まりっと」

 

 こうして送別会の準備を順調に進めていく。

 参加者へのお知らせは主催者である世界が行なう。

 その他諸々の細かいことは、言葉が全面的に支援をしてくれた。

 

 週末の夕方に送別会。

 榊野ヒルズ内で貸切予約をしたパーティ会場。

 華やかな内装で広々としてテーブルや椅子が充実している。

 和洋中問わずに高級な料理の数々が並べられている。

 ドリンクコーナーもカラフルで見栄え良く飲み放題だ。

 そして余興ができる舞台があり、ピアノやカラオケの設備が置かれていた。

 

「うほーすげー!!」

 

 澤永のテンションが上がって興奮をする。

 誰もが多かれ少なかれ高揚感が生じていた。

 パーティーの主役となる刹那が恐縮をしている。

 もっと質素でいいのに。

 そんな気持ちがあるのだろう。

 ここから世界が進行役を務めていく。

 協力をしてくれた言葉の思いを無駄にしないために。

 

「はーい皆さん!! 飲み物は持った!?」

 

 舞台に立って世界が飲み物を片手にする。

 乾杯音頭をする姿勢で皆がそれに合わせた。

 注目を浴びる世界。

 スタンドマイクを使って口上を述べる。

 

「今日は刹那の送別会に集まってくれてありがとう。刹那のお母さんがパリで転勤となり、刹那も一緒についていくためパリへ引っ越すことになったんだよね」

 

 堅苦しさを抜きに世界らしく話す。

 周りが世界の知っている人で緊張とは無縁。

 思ったことを正直に言うだけなのでスピーチの紙も不要だ。

 

「私のお母さんと刹那のお母さんは親友で仕事のライバルなの。私がパリへ引っ越すことになってもおかしくなかったんだけど、生まれつき体が弱い体質もあり、刹那の働きかけもあって今に至ってるんだよね」

 

 刹那のクールな表情は相変わらず。

 微塵の後悔も感じられない。

 むしろ誇らしいと思っているように世界には見えた。

 

「身代わりになった刹那に対して、守ってくれてありがとうとごめんなさいが半々。ずっと一緒にいる幼馴染だから、いなくなってしまうのは悲しいに決まってる。それでも刹那の強い決意を、私は誰よりもわかってる。だから私は私のできることをするよ」

 

 行かないでと引き留めたいのが本音である。

 だがそんなことをしても刹那を困らせるだけだ。

 刹那の意思を無駄にしてはいけない。

 

「ここには私たちだけで貸し切ってるから何も遠慮はいらない。細かいことは抜きにして皆で楽しもう!! まずは豪華な料理食べたいので、はい乾杯!!」

 

 大雑把な世界らしい乾杯の仕方である。

 刹那は呆れながらも、世界はそれでいいと受け入れてしまう。

 そして全員の乾杯が入っての開幕となった。

 

 序盤は空腹もあって料理を堪能する。

 食事をしながらの雑談がメインだ。

 世界の傍に刹那と言葉、心がいた。

 心が人懐っこい笑顔で話しかけてくる。

 望む所とばかりに世界は楽しく応じた。

 

「こころちゃんってパリに行ったことある?」

「うん。家族旅行であるよ」

「そっか。もし次も行くことがあったら、刹那に会えるかもしれないね」

「うん。その時はよろしくね刹那さん」

「う、うん」

「ことちゃんとこころちゃんが羨ましいな。その気になればパリで刹那と会えるんだから」

「次の旅行先、パリにしてもらって世界ちゃんもご一緒しませんか?」

「パスポート、手数料高いでしょ? 貧乏な私はバイトしないと無理」

「必要でしたら私がお支払いしますので」

「またことぴーはそうやって世界を甘やかす」

「でもせっちゃん、世界ちゃんにパリで会えたら嬉しいですよね?」

「……うん」

 

 言葉のおかげでパリに行っても会うチャンスがある。

 だから遠くへ離れても寂しくはない。

 それを楽しみに頑張ることができる。

 

 中盤で余興を始めていく。

 先手は言葉と心の姉妹がピアノを演奏。

 明るいメロディーで激励をするようにした。

 演奏が終わって拍手をした後。

 その流れに乗って今度はカラオケ。

 伊藤と乙女がデュエットして歌う。

 別れの悲しみを吹っ飛ばすような情熱系の曲である。

 場が盛り上がり、次の余興は七海のマジックだ。

 

「七海、どんな手品するの?」

「カード使った定番のヤツ。数字当ての」

「私がカード取りしてもいい?」

「いいよ」

 

 舞台に七海が入ってトランプカードのマジックをする。

 種も仕掛けもない前振りで世界にトランプを見せる。

 七海に見えないように束の中から一枚選ぶ。

 世界が手にしてたのはハートのセブンだ。

 他の人にもハートのセブンであることを見せつける。

 それを束の一番下に戻すように言われて従う。

 七海がトランプをシャッフルしてからトランプの束を全て表にした。

 そしておもむろに七海が一枚のトランプを取る。

 

「世界が選んだカードは、このハートのセブンだね」

「わお、正解だよ七海」

 

 世界が拍手すると他の面々もつられて拍手をする。

 心が手品好きのようでカード取りをやってもらう。

 スペードのエースを当てられ、ジョーカーも当てられた。

 当てずっぽうのまぐれではない。

 これにより魔法使いみたいだと尊敬の眼差しをする心。

 七海としても悪い気はしなかった。

 

 次は澤永と光の漫才。

 下ネタを禁止にしているのだが、澤永が口が滑りやすく、光がツッコミのチョップをかまして止めている。

 二人の掛け合いは絶妙で、ボケとツッコミの役割がしっかりできていた。

 

 次は注目の催しとなる分身当てクイズ。

 乙女と可憐が同じ私服のポニーテールとなる。

 背丈も同じで、二人とも乙女にしか見えない。

 なお、バレる可能性があるため声は出さないルールとする。

 

「誠、彼氏のお前ならわかるんじゃないか?」

「声出してくれたらわかりそうだけど、見た目だけではちょっとわからないよ」

「うわーうわー!! 分身の術みたいですごぉーい!!」

「パッと見、どっちも加藤だね。世界わかる?」

「いや全然。七海は?」

「わかんない。ホント妹さん上手く化けてるよね」

 

 澤永・伊藤・心・光・世界・七海は戸惑ってしまう。

 これなら間違われても納得をするレベルだ。

 舞台にいる姉妹に近づいてじっくりと見つめる刹那。

 その気分は探偵であり、細かな所まで厳しく観察をする。

 乙女に化けている可憐はワクワクと胸を躍らせる。

 無意識に楽しそうな笑顔になってしまう。

 それを刹那は見逃さなかった。

 

「乙女に化けた犯人」

 

 ビシッと指差しをする。

 推理小説の探偵にある決めポーズだ。

 それは乙女に化けている可憐に向けられている。

 

「うぐっ!! な、なんでわかったんですか!?」

「体は正直」

「い、今のはまぐれ当たりです!! 次はお姉が私に化けますから絶対見破れませんよ!!」

 

 一旦離席をしてからしばらく待つ。

 今度は可憐の私服でツインテールの二人。

 可憐になりすましている乙女を果たして見破れるのか?

 刹那が鋭く睨みつけて観察を行なう。

 可憐にそっくりの乙女は無意識に肩に力が入る。

 内心でバレないかで緊張が走ってしまう。

 それを刹那は見逃さなかった。

 

「可憐に化けた犯人」

 

 ビシッと指差しをする。

 推理小説の探偵にある決めポーズだ。

 それは可憐に化けている乙女に向けられている。

 

「もうお姉!! そんなガチガチにしてたらバレるに決まってるじゃん!!」

「なによ。そっちだってさっきバレたくせに人の事言えないでしょ」

「くーやーしーいぃーーーー!!」

 

 どちらにしても刹那の目を欺くことはできない。

 そんな中、世界はニヤニヤと笑っている。

 可憐は負けを意識する余りに気付いていない。

 刹那が可憐の名前を呼んだことを。

 今までの刹那は可憐を警戒して呼ばなかった。

 しかし海外に行く事もあり、もう呼んでもいいと思ったのだろう。

 ふと世界は何気なく言葉を見て、ランプを照らすかのような閃きが起きる。

 思い立ったら即行動。

 舞台に駆け寄って可憐に要求をする。

 

「可憐、もう一回乙女に化けてくれない? 次はことちゃんに当ててもらうから」

「え!? 私ですか?」

「さあ可憐、このまま負けっぱなしで引き下がるのは悔しいよね? 今度はことちゃんが挑戦するから、もう一回乙女に変身よろしく」

「わかりました!! 今度こそ見事に騙してみせます!!」

 

 可憐の気合いは充分。

 だが乙女は結果が見えている様子。

 同じクラスの付き合いで感じる所があるらしい。

 

「ねえ可憐、諦めて降参したほうがいいよ」

「なんでよお姉!? ここまで来て引き下がれる訳ないじゃん!!」

「絶対にバレるって。そういう流れじゃん」

「大丈夫!! 刹那さんは無理だったけど、言さんなら勝てる!!」

「まったくもう、あとで悔し泣きしても知らないから」

 

 刹那が舞台を降りて言葉と交代をする。

 姉妹が再度離れて別室での作戦タイム。

 とにかく平静を保つ。

 無心で能面の表情にする。

 変に緊張せずに開き直れ。

 そして乙女に化けた可憐と共に舞台へ戻った瞬間。

 

「あーえっと、可憐さん」

 

 言葉は一目だけで当ててみせた。

 これには見分けができない伊藤たちは唖然とする。

 ただし世界はニヤリとしたり顔、刹那は予想通りと平然としていた。

 可憐は負けず嫌いである。

 必死でまぐれ主張をして、今度は乙女に化けさせる。

 乙女はもうわかりきっていたが、可憐の好きなようにさせた。

 口で言ってもわからないので、結果でわからせるしかない。

 

「乙女さん」

 

 結果は変わらない。

 可憐に化けた乙女に向かって言葉は呼びかけをした。

 その場で可憐は膝を崩してしまう。

 

「あり得ないですよ!! 刹那さんはじっくり観察したからまだわかります。でも一瞬見ただけで当ててしまう言さんはおかしいです!!」

「可憐、だから言ったでしょ。いい加減認めなって」

 

 乙女に言われても素直に受け入れ難い。

 今まで見破れなかったことで相当自信があったのだろう。

 そこへ世界が入り込んで言葉に問いかける。

 

「ことちゃんに質問。どうしてわかったの? 姉妹そっくりで見分けつかないのに」

「気配が全く別人でしたので」

「なるほど。刹那みたいにじっくり見抜くのではなく、雰囲気ですぐに察した訳ね」

「すごいよお姉ちゃん!! こころ全然わかんなかったのに!!」

 

 瞬時に正解をする姉の姿に心が大興奮である。

 世界は心に見せたかったのだ。

 貴方のお姉ちゃんはとても凄い人だと。

 そんな世界の気持ちを刹那はわかっていて嬉しそうであった。

 

「じゃあラストの余興は私だね。ことちゃん」

「はい」

 

 刹那を舞台に立たせて、そこに世界と言葉が行く。

 向き合う形で正面に立つ。

 そして世界は感謝状を手にして構えた。

 

「親愛なる刹那へ。これまで厳しく叱り優しく助けてくれてありがとう。海外へ行っても元気でいてね。刹那のことはずっと忘れない。また会えたときは一緒に遊んだりご飯を食べたりしよう。今までの感謝をこめて改めてありがとう」

 

 今日の日付と世界のフルネームで締めくくる。

 刹那に受け取ってもらい、言葉からはプレゼントをまとめて入れた紙袋が渡される。

 

「どうぞせっちゃん」

「ありがとう」

「それじゃあ、皆で集合写真を撮るよ!!」

 

 しゃがまなくてもいいように上段用の長い踏み台が用意されている。

 見晴らしのいい景色を背景に撮れる位置にあった。

 下段は心・言葉・刹那・世界・七海。

 上段は澤永・光・乙女・伊藤・可憐。

 それぞれ5人ずつで立ち並んでカメラに収まった。

 写真は後ほど現像して各自に配る予定である。

 こうして思い出に残る送別会を存分にやり遂げた。

  

 空港での見送りは代表として世界と言葉が行なう。

 この時にサプライズをすると世界が事前に宣言。

 一体どんなことをして刹那を驚かせるのか?

 そして……。

 

「せっちゃん、パリへ行ってもお元気で」

「ことぴーも、世界をお願い」

「はい任せてください」

 

 空港内で刹那と言葉が握手を交わす。

 お互いに清々しい顔をしている。

 ふと刹那はキョロキョロと周りを見渡す。

 

「……世界はまだ来てない?」

「いいえ、柱の陰に隠れています。すぐ連れてきますね」

 

 空港にある柱の陰へと言葉が動く。

 刹那の位置からは見えないが世界の声が聞こえた。

 

「ねえことちゃん、本当に変じゃない? 大丈夫だよね?」

「はい、とってもかわいらしいです」

「まだ心の準備が――」

「これで3回目です。大丈夫です。必ずせっちゃんは喜んでくれます」

「わわっ、押さないで!!」

 

 キリがないので言葉が強引に世界を押し出す。

 意外にパワーがあるようで抵抗をしても無駄だった。

 刹那が真っ先に注目をしたのは世界の頭。

 外に出る時は帽子を被っているはずだ。

 しかし今は……。

 

「私とお揃い、かわいい」

 

 刹那と同じ赤いリボンを身に着けていた。

 髪の長さは元々刹那と同じだが、左右の分け方で似せてある。

 特徴のアホ毛は相変わらず健在だ。

 

「ことちゃんに協力してもらったけど、サプライズ成功って思っていい?」

「うん。ビックリした」

「まあ、刹那の分まで頑張るって決意表明だけどね」

「そう」

「刹那もパリで頑張りなよ。きっと刹那なら上手くやれるって信じてるから」

 

 世界が勝利のVサインを突き出す。

 それにつられて刹那もピースを返した。

 

「ことぴー、世界が張り切り過ぎて無茶しないように気を付けて」

「はいせっちゃん」

「刹那、パリの生活が落ち着いたら連絡くれると嬉しい。そうしないと、皆が気を遣って刹那に連絡できないから」

「わかった。慣れたら連絡する」

「ま、気が向いたらでいいけどね。元気でいってらっしゃい、私の大切な親友、そして……大切な妹」

 

 妹と言われて刹那が感動の余りに泣きそうになった。

 でも泣かない。

 世界も泣かずに笑顔で見送りをしているから。

 ここで刹那からワガママを言いたくなった。

 世界の目は言いたい事があれば遠慮なく言えと促している。

 だから正直に伝えた。

 

「私のこと、せっちゃんって呼んで」

「えー、それすると私に対しての呼び方が――」

「私からは!!」

 

 声を張り上げて遮る。

 刹那にしては珍しいこと。

 これには世界も驚いて黙り込む。

 

「私からは……おねえちゃんって……ダメ?」

 

 昔、せかぴーという変なあだ名で喧嘩になったことがある。

 母親が違うとはいえ、世界と刹那は血を分けた姉妹だ。

 おねえちゃんと呼ぶことは間違っていない。

 あだ名よりかは断然にマシでむしろ嬉しい。

 今までそうしなかったのは世間の目があるから。

 

「周りに言いふらさない。二人っきりの時だけ。これを約束できる?」

「約束する」

「他の人がいる所では……わかってるよね?」

「うんわかってる」

「まあ、ちょっと練習したいから耳かして」

 

 呼んでみたくなったのだろう。

 刹那に耳を貸せと促す。

 素直に従ってくれたのでそっと囁く。

 

「せっちゃん」

 

 ぶるっと身震いをする刹那。

 するとお返しとばかりに世界の耳へ。

 

「おねえちゃん」

 

 世界の顔が真っ赤に染まる。

 頭の赤いリボンに負けないぐらいに気恥ずかしい。

 楽しそうな足取りでバイバイと手を振って歩く。

 世界と言葉も手を振って最後まで見送った。

 

「世界ちゃん、とっても嬉しそうですね」

「おかげ様でね。刹那が遠くでいなくなっても、ちゃんと繋がりを実感しているから」

「お揃いのリボン、お役に立って何よりです」

「ありがとうことちゃん。わざわざプレゼントしてくれて」

「世界ちゃんにはお世話になっていますから。日頃の感謝をこめています」

 

 飛行機の中での刹那はとても機嫌がいい。

 これは刹那の母にとっては予想外。

 てっきり世界と離れることで泣くかと思ったから。

 理由を尋ねても刹那からは秘密の一言である。

 

 1年3組の委員長は世界が引き継ぐ。

 副委員長は骨折から復帰した田中が継続。

 刹那の転校で田中のショックがあったのは間違いない。

 結局、刹那に想いを伝える勇気は出なかった。

 

「なによ田中、どうせリボンが似合ってないとか思ってるんでしょ?」

 

 これには激しく首を振って否定をする。

 刹那のお姉さんのように見えて魅力的だ。

 他のクラスメイトも似たような反応である。

 父親が同じなので半分は正解といっていい。

 

「ねえ七海」

「なに? もしかしなくても世界のこと?」

「刹那がいなくなってからの世界、明らかに雰囲気変わったと思わない?」

「まあ、光の言いたい事は私もわかるよ。確かに変わったね。刹那と同じリボンして以前より明るくなった感じ?」

「うん。落ち込んでないか、ちょっと心配だったけど」

「あの様子なら何も気にしなくてよさそうだね」

 

 教室内で光と七海の雑談。

 友達として世界を気にかけている様子。

 いい意味で変わったという評価であった。

 

 時が過ぎ去ってのクリスマス。

 光の洋菓子屋おおはらで臨時のアルバイト。

 サンタのコスチュームでのケーキ販売という王道な商売。

 メンバーが足りないので世界だけでなく言葉も加わっていた。

 

「光がことちゃん受け入れるなんて、あまりにも珍しいから雪が降ってるよ」

「他にいないんだからしょーがないでしょ。七海も加藤も彼氏優先で。私だって本当は泰介とクリスマスしたかったのに!!」

「まあまあ、あとで澤永がいつものお姉ちゃんパシリで買いに来るから。その時に休憩入って一緒すればいいじゃない。光がいない間、私とことちゃんでフォローするし。ねえことちゃん?」

「はい任せてください」

 

 ご機嫌斜めの光をなだめて仕事をする。

 しばらくすると澤永が来た。

 いち早く見つけて接近をする光。

 お互いに見つめ合って二人だけの甘いムードが漂ってしまう。

 

「お二人さん、イチャつくなら他へ行ってよ。ほら、仕事の邪魔だから早く行った行った」

 

 光の幸せな顔があてつけになったのか。

 少しからかってから追い出す。

 そして言葉と共にケーキ売りに励んでいく。

 

「世界ちゃん、このあと予定はありますか?」

「まったくなし。今は繁忙期だからって、お母さん帰り遅いし」

「もし良かったら、私の家に来ませんか?」

「ことちゃんの両親も今夜の帰り遅め?」

「はい」

「そのままお泊まりしたら迷惑かな?」

「いいえ歓迎しますよ。心も喜びます」

 

 世界は母にメールでお泊まりを伝え、バイト終了後に一旦着替えを取りに行ってから言葉の自宅へ向かった。

 心が無邪気に迎えて抱きついてくる。

 光の店にある売れ残りケーキを手土産にクリスマスを過ごした。

 

「世界さん、まるで刹那さんのお姉ちゃんみたい」

「よく言われる。ことちゃんのお姉さん気分がよくわかるよ」

 

 刹那と同じリボンをした世界を心が気に入っている。

 まるでサムライみたいだと褒め方は微妙だが。

 冷え性の世界は心を抱っこして温まっている。

 心も気持ち良さそうにして懐いていた。

 

「ねえ世界さん、お正月も遊びに来てよ」

「あーごめん刹那が帰ってくるから。正月ぐらいはこっちで過ごしたいって」

「そうなんだ。刹那さん、げんきしてる?」

「元気も元気。フランス語ペラペラで優雅なパリ生活を過ごしてるって。こころちゃん、習い事で英語やってなかった?」

「やってるよ。でも英語とフランス語ってなにが違うの?」

「それはこころちゃんのお姉ちゃんに訊いてね」

 

 クリスマスを過ごしてから言葉の部屋で勉強をする。

 フランスの文化や言語など留学に向けて努力中だ。

 将来は刹那のいるパリへ行くことを目標としている。

 刹那の母がスタッフをするパリ支店で働くかもしれない。

 

「世界ちゃん、上達が早いですね」

「目標があれば頑張れちゃう。お揃いリボンの御守り効果バッチリだよ」

「夢を追う世界ちゃん、とっても素敵だと思います」

「刹那がパリで頑張ってるんだよ。私だってやれば出来るってことを見せないとね」

 

 ひたむきに努力をする世界の支援を惜しまない。

 おかげで成績もこれまでと違って急上昇。

 いずれは言葉を超えてしまうかもしれない。

 

 年末の空港でお出迎え。

 お揃いの赤いリボンで世界と刹那は再会を果たす。

 二人だけのため挨拶は決まっている。

 

「一時帰国でもあえてこう言うよ。おかえりせっちゃん」

 

 感極まる刹那が世界へ飛び込む。

 受け止めるように抱きしめてお互いの存在を感じた。

 そして……。

 

「ただいまおねえちゃん」

 

【END】

 

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