超昂大戦SS 閂市総力戦! ダイビートVSアルダーク ~優しき戦士は愛する街のために 作:環 藍河
「はあ…っ、はあ…っ…」
閂学園防衛戦は、底無し沼の様相を呈していた。
既に百体以上ものフーマンを切り刻み、過負荷に悲鳴を上げて垂れ下がり、言うことを聞かない利き腕。
斬撃を諦めたトパーズは、剣を両手持ちに切り替えて独りごちる。
(何体だって…突き刺して、蹴飛ばして、絶対追い払ってやる…!)
「くうう……、~~っ!!」
魔眼でフーマンの正気を失わせ、あわよくば同士討ちを狙うも、大半をウィップで打ち据え続けるアメイズも、もはや限界寸前。
「…頭脳労働の、CEOなんだけど、私…!
単純労働は、キッツいなあ…。」
《トパーズ、アメイズ。…撤退しろ。》
「!!」
《防衛線を下げる。2名は基地まで帰還せよ。》
それはトキサダが、学園の放棄と敗走を選択したということ。
「何言ってんのっ! ここをあたしらで護らなきゃ、ルビーたちを行かせた意味が無いでしょーがっ!」
「長官くん…ルビーたちは大丈夫なのね? 答えてっ!」
「! アメイズ…?!」
《ああ…ルビーとサファイアにも撤退指令を出した。間もなく2人とも基地へ帰投する。》
「そんな…!」
エスカチーム4名への、撤退指令。
それはタワーが敵の手に落ち、学園防衛にも失敗したことを意味する。
《繰り返す。トパーズ、アメイズ! 帰還しろ!》
「…負け、たんだ…!」
「トパーズ?」
「あたしたち…負けたんだ…!」
張り詰めた闘志が、ぷつんと切れた。
フットワークを止め、トパーズは瞳の焦点を失い、悲嘆に心を支配される。
〔『【ブーーーッ!!】』〕
その隙を見逃さず、フーマンが黄輝の超昂戦士にたたみかける。
びしっ!〔『【ブーーーッ!?】』〕
「!?」
迫る肉弾を鋭くなぎ払う、妖蛇の一閃。
「トパーズ…負けじゃない。撤退は負けじゃないよ…!」
「…アメイズ?」
「…生き延びるの。たとえどんな屈辱でも、再起できない犬死によりは、ずっとマシ。
だから…今日は帰って、落ち延びて、いーっぱい泣くの。
明日は絶対勝つんだって、心に刻んで消えなくなるくらい…!」
それはまるで、大切な誰かをたくさん失ってきた、歴戦の戦士のような悲しみをたたえ…。
アメイズの説諭にトパーズは、一切の反発を失い…戦線離脱の退路を切り拓いた。
……
…
戦線が、決壊した。
レジェンドやビートアイドルを筆頭に、数多くの異界戦士が力を封じられ。
精鋭の戦士・閃忍・神騎すら、物量で押し切られて後退を余儀なくされ。
閂タワー、閂学園、駅前ロータリー…主要な拠点を、ことごとく放棄した。
国防陸軍との共同戦線で、ようやく踏みとどまる防衛線を築くのが精一杯。
それは閂市の生活区域のはるか後方…。
もはやダイビートは、アルダークの蹂躙を阻む術を失っていた。
「正直に言うね。怪電波への対策…全く目処がたたない。
ビートポータルへの干渉、DDDシステムの妨害、ダイナライト鉱石から得られるエナジーの脆化…あらゆる攻撃をいっぺんに仕掛けてきて、一つに対策を打っても、他の手段で割り込んできて、追いつかない…。」
「そうか…。」
未来のテクノロジーを具現化しビートポータルとADDDを実用化し運用するほどの天才科学者・高円寺さやかでさえ音を上げる、アルダークの怪電波装置。
「…わたしが3人…いや、2人いれば、少しは対抗できるのに…!」
ダイビートの技術スタッフもまた、マンパワーでアルダークに押し切られていた。
……
…
戦火に焼け出された市民のため、市営体育館・公民館・図書館…辛うじて侵略を免れた公共施設が、次々に避難所として開放されていく。
だが、防衛線の後退に反比例して、避難者数はうなぎ登り。増設が追いつかず、どの施設も次々に避難民で溢れかえっていった。
平穏な日常を奪われた市民の、やり場の無い悲しみと怨嗟が鬱積する避難所の一つに…
「…超昂戦士?」
ざわっ…!!
エスカ・ルビーは…変身コスチュームの姿で、市民の前に立つ。
撤退し、基地に帰投するも、負傷の治療もエナジーの回復も受けず、その足で避難所を訪れた。
「な…何しに来たんだっ、何のつもりだっ…?」
「…皆さん。」
がばっ。
「閂市を…タワーも、閂学園も、商店街も…。
護りきれなくて、本当に、申し訳ありません!!」
直立し、謝罪の声とともに…ルビーは深く頭を下げ続けた。
…はっ。
「お…お前が頭を下げたってなあ、俺たちの生活は、帰ってこないんだよお!」
「俺は職場を潰された! 明日から給料も出やしない! もう貯金を使い果たして飢え死にするしかないんだよ!」
「俺だって、買ったばかりの新車を潰された! 住宅ローンが15年残ってる家だってぐしゃぐしゃだあ!」
「こんな暴動じゃ、火災保険もおりやしない! どうするんだよ、俺たちこれから!!」
平穏を奪われ、暗転した日常。
その不安を口々に吐露する避難者たちも、理性では理解していた。
超昂戦士が悪いのではない。真に憎むべきは侵略者たち。
…それでも、自らの崩れ落ちる精神の拠り所を求め、哀しく八つ当たりの叫びをぶつける。
「どうせお前等は、このまま負け続けても、基地ごとこの街を捨てて、逃げればいいもんな?!」
「えっ…?!」
「だってそうだろう! 未来から来たとかおかしなこと言って!
『侵略者と闘う』んなら、ここじゃなくてもいいんだろう! ここで負けたって、見捨てて隣町でも他の国でも行って闘えればいいんだろう? 違うか!?」
「そんなこと…(あ…!)」
ルビーは言葉に詰まった。
エスカ・ルビーは出自不明の超昂戦士でなくてはならない。
この街を最後まで護り抜く…その真心からの決意には、何の担保も添えることができなかった。
「…何だよ、図星かあ!?」
「あんなこれ見よがしな基地まで建てたくせに、この街と心中する覚悟も無かったのかよ!」
「何で黙ってるんだ! 何とか言えよ!」
「…護ります…!」「あん?」
「必ず、皆さんの生活は私たちが…ダイビートが、取り返します…。
今は…今は、それしか言えません…!」
ルビーの精一杯の誠意と覚悟を込めた、静かな宣誓。
気圧される市民達だが…その言葉には何の確約も無く。
再び、鉛の沈黙が避難所を窒息させる。
「…あんた、エスカ・ルビーって言ったか。」
(…あっ…!)
重い空気を破り、老人が一人、前に出る。
(商店街の…肉屋のおじさん…。)
それはアカリが幼い頃からよく知る、閂市を誰より愛する市民。
「あんた…園崎アカリちゃんって知ってるか?」
「な…なっ?!」
あまりにも不意にでたその名に、ルビーは喉から心臓が飛び出るほど狼狽える。
(バ…バレちゃったああああっ!?)
「あんた達の戦いを見て、自分も超昂戦士になるんだー、なんて言って。
今はあんたらの基地で、倉庫係をしてる女の子だよ。」
「えっ……は、はいっ、あの子ですね! 知っています!」
身バレの危機を回避したことを悟り、内心で安堵のため息を深く吐きながら、取り繕うルビー。
「…俺はどうなってもいい。肉屋なんて跡継ぎもいねえし、閉店が数年早まったくらいさ。」
「そんな…」
「…でもよ。この街を誰よりも好きな女の子が…未来ある子が、あんたらを信じて頑張っているんだ。
万が一にもあんたら、あの子をたぶらかして、信じるだけ信じさせてよお…
負けそうになったら街ごと見捨ててポイ、なんてやってみろ、ただじゃ済まさねえぞ。」
「そ…そんなこと、絶対しませんっ! 信じてください!!」
「…言葉が過ぎた。あんただって、戦ってぼろぼろになってんのに、真っ先にここに来たってのにな。」
タワーでフーマンに何度も引き倒され、戦闘服はずたぼろに破れ、腕も足も顔も汗と埃にどろどろにまみれ…ルビーは戦闘直後そのままの姿で、汗も拭わず市民の前に立っていた。
すっ…がばっ。
「えっ…!?」
やおら老人はルビーに深々と頭を下げ、言葉を継ぐ。
「頼むよ、エスカ・ルビー。アカリちゃんみたいないい子を…悲しませないでくれ。
それが俺の…老いぼれのなけなしの願いだ。」
(…おじさんっ…!!)
この人だけじゃない。
閂市に生まれ育ち、平凡でも静かな生活をこの街で重ねてきた人たち。私を慈しみ、絶望の淵でも未来を、希望を示してくれた人たち。
そんな素敵な人たちに護られ、私は私になれた。
その恩を返したくて飛び込んだ超昂戦士の世界だったのに…!
「あなたの…皆さんの思い…重く受け止めます。心に刻み込みます。
…失礼します!」
…だっ!
……
…
たたたたたたっ…
みんなの思いに応えられない、非力な自分を突きつけられたルビーは居たたまれず…
老人へ一礼するや否や、避難所から全力ダッシュで基地へと駆け抜ける。
(私…うぬぼれてた…。
何が超昂戦士だ。何が正義のヒーローだ。
こんなに弱くて。こんなに惨めで…!)
どんなに、自分の想いが強くても。
決意なんか、何の意味も持たないじゃないか。
そんなもの、護れなきゃ…護る力がなけりゃ、ゴミクズ同然だ…!
弱者の烙印に心を灼かれ、痛ぶる心を振り切ろうと、そのブーツで地を蹴る少女戦士。
最後の理性で慟哭を抑えながら…
(力が…欲しい…!)
ルビーは翠の瞳を熱く腫らし…悲壮な決意で涙を吹き飛ばす。
【第2章 完】
筆者です。第2章は残念ながらマジメパートであります。
微エロは次章でたっぷり。現在鋭意執筆中ですが…ヘタすると2章分のボリュームになるかも…?
ただ、20年前に超昂戦士エスカレイヤーの鬼畜ルートに衝撃を受けた一人ですが、あれを超える表現力など、この筆者にはあろうはずもございません。
自己ベストめざして頑張りますが。過度な期待はナシでよろしく、です。
…それでも、乞うご期待、です。