ウルトラマンNewGenerationHero'sSaga 作:ichika
「危なかったな、取り敢えず下がってろ!」
デスドラゴと対峙するギンガが構えを取り、牽制しながらもオーブを庇う。
ダメージに思うように身体の動かないオーブは、ただ呆然とその背を見ることしか出来なかった。
「あ、アンタは……!?」
「俺はギンガ!ウルトラマンギンガだ!よろしくな……っ!?」
それだけではいけないと判断し、何者だと尋ねるオーブに、振り返りながらも返したギンガは、オーブの姿に、いや、厳密にはその纏う力に瞠目する。
懐かしい力の波動、その一端を纏っている事に気付いていしまったのだろう。
「ティガと、ダイナの力か……!?あんた一体……!?」
何故見知らぬウルトラマンが、自分達の師の力を纏っているのだと、その声は困惑に揺れていた。
しばし互いに睨み合うように向かい合っていたが、デスドラゴの威嚇する様な咆哮が彼等の注意を引き戻す。
「おっと……!今は、それどころじゃなかったよな!!」
問い質したい事は山程あるが、今はそれどころでは無いと気を引き締める。
今、後ろにいる謎のウルトラマンを守らなければ、自身の疑念を払拭できないと切り替えたのだ。
「さぁて、やってやるぜ!」
裂帛した気合と共に構えを取り、目の前の怪獣へと走り向かっていく。
デスドラゴもまた、獲物を横取りされたと言わんばかりに激高し、雷撃を放ちながらもギンガへと向かっていく。
それを、ギンガはステップを踏むような足さばきで回避、直撃があると思えば前方に飛び込んで避ける事で、一気にデスドラゴとの距離を詰める。
まさかの対処に驚いたか、デスドラゴは僅かに怯むが、腕による打ち払いを叩き込もうと動く。
だが、それより早く懐に潜りこんだギンガが、片腕で楽々と弾きながらも、がら空きになった腹にラッシュパンチを叩き込む。
そのあまりの威力に、堪らずデスドラゴは防御態勢を取ろうと、僅かに下がってしまう。
その僅かな後退を、隙を見逃さずに、ギンガはすぐさま体勢を整え、跳び回し蹴りを叩き込み、その獣を大きく吹っ飛ばした。
「す、すごい……!」
流れるような連撃に、それを見ていたオーブは感嘆の声を漏らした。
その全ての動作が、攻撃の全てが、自分よりも上の練度を持っている事を如実に示していた。
いったいどれほどの鍛錬を積めば、どれ程の修羅場を潜ればこの領域に辿り着けるのだろうかと、オーブは目の前のウルトラマンの力に驚嘆する以外無かった。
ギンガに対し、デスドラゴは分が悪いと悟ったか、逃走するための隙を作らんと雷撃を繰り出す。
「ちっ!タフな奴だ!こっちも乗って来たぜ!!」
背後のオーブも諸共狙われたと気付き、バリアを展開してその雷撃を防ぎきる。
だが、それでは逃げられると悟り、一つ博打を打つ覚悟を決めた様だ。
「ショオォウラッ!!」
飛び上がりながらも雷撃を回避、意識を上空へ向けさせることでオーブへの追撃を遮り、自身は雷撃の間を縫って、スワローキックを叩き込む。
それは雷撃を発生させていた頭部右側の角に直撃し、叩き折る事に成功した。
自身の体を傷つけられ、デスドラゴは痛みに絶叫する。
「どうだ!!」
その叫びを背後に聞きながらも華麗に着地し、体勢を整え振り向いたギンガの視線の先には、地を掘り逃げていくデスドラゴの尻尾が、小さく消えていく瞬間があった。
「あっ!待ちやがれ……!?」
咄嗟に掴もうと動くが、彼もまた体力を消費していたのだろう、カラータイマーが点滅を始める。
仕方あるまい、ギンガは光の国を飛び出した後から、ワームホールに呑み込まれ、この世界に来るまで戦い通しだったのだ、寧ろよくここまで持ったものだと、彼自身苦笑を禁じえなかった。
同業を助けに来て、目の前で倒れるなど笑い話にもならないのだから。
「逃がしたか……!」
仕留めきれなかったことに歯噛みし、ギンガは警戒を続け、デスドラゴの気配が完全に消えてから臨戦態勢を解いた。
「た、助かったよ、ありがとう……!」
ダメージから持ち直したオーブが、礼を言いながらもギンガに歩み寄ってくる。
如何に一戦交えた後とは言え、無様を晒して助けられたのだから、感謝を伝える事が礼儀だと。
「良いって事さ、それはそうと変身を解こう、聞きたいこともあるしな。」
助け合いは大事だろと、ギンガはオーブの礼を受けて答えながらも、変身を解除、手近な人気のない路地を選んで降り立つ。
それに倣い、オーブもまた変身を解き、彼の前に降り立った。
向かい合ったのは癖のある黒髪を持った男と、長いプラチナ髪の女。
2人は互いに向かい合い、次の出方を窺っている様だった。
「さてと、改めて、俺は比企谷八幡、ウルトラマンギンガだ、よろしくな。」
その空気に、自分から話さねば埒が明かぬと察したか、八幡は自身から名乗った。
地球人同士だろうが異星人間であろうが、コミュニケーションは何よりも大事なものだ。
「アタシはミソラ、天都ミソラ、光の巨人、オーブよ。」
「ミソラだな、俺は八幡って呼んでくれ。」
「分かったわ、八幡。」
ミソラと八幡は歩みより、敵意が無い事を示すように握手を交わす。
「さっきは本当にありがとう、八幡のお陰で命拾いしたわ。」
命を救われたと、ミソラは感謝の気持ちを八幡に伝える。
実際、彼が来てくれなければどうなっていたか分からないのだから、感謝してもしきれないというモノだ。
「良いって事さ、ウルトラマン同士助け合いが大事だからな、無事でよかったよ。」
無事が何よりだと、八幡は笑って返した。
彼自身、色んな人たちに何度も助けられてここにいるのだと。
だから、見ず知らずとは言えど、誰かを助ける事が出来たからそれで良いのだと。
「それよりも、聞きたいことがあるんだが、良いか?」
だが、ウルトラマン同士であるならば聞いておきたい事があるのも事実。
故に、先程までの雰囲気を崩し、少しだけ表情を硬くしながらも尋ねる。
「俺も出せる情報は出すつもりだ、だから、応えてくれると嬉しい。」
「えぇ、勿論よ、でも、場所を変えましょう?」
八幡からの要請に、ミソラも快く応じる。
お互いに素性と置かれている状況、持ちうる手札を知っていれば協力もしやすいというモノだ。
「良いぜ、案内頼んでいいか?」
「任せて頂戴。」
互いに頷きながらも、ミソラが先導する形で二人は歩き出す。
路地から出て、彼等は目的の場所へと移動していった……。
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「ここならいいでしょ?」
暫くして、八幡とミソラはとある店の前にいた。
外観は洋館風の純喫茶という佇まいで、閑静な住宅街にマッチしていた。
店の名は《アイユール》、フランス語で異郷を意味する言葉だ。
「喫茶店かぁ、俺にも馴染みが深いな。」
「あら、こういう所、お好きなの?」
「というよりもちょっと前まで喫茶店のマスターしてたよ。」
「そうなの?」
八幡の言葉に、ミソラは驚いた様に声を上げる
ウルトラマンやりながら店のマスターを兼業するなど本当にできるのか、そう問いたいのだろう。
「おう、別の地球では色々やってたんだぜ。」
「そ、取り敢えず入りましょ。」
詳しくは聞き出せないと、言われたところで理解しきれないだろうと判断したか、ミソラは入店を促し、八幡を伴って店に入る。
扉を開けて中に入ると、アンティーク調に整えられた、落ち着きある趣の店だった。
「へぇ、結構いい店だな。」
その誂えに、八幡は感嘆の声を上げる。
自分の店も内装には気を使っていたが、師匠との思い出の雰囲気を壊したくなかったから改装はしなかった。
だが、それとこれとは話が違う、参考になりそうなモノなら取り入れたいと言うのが、経営者としての彼の本音だった。
「いらっしゃいませ、お気に召されましたかな?」
カウンターの向こう側からちょび髭スキンヘッドの男性が声を掛けてくる。
少々強面だが、バーの雰囲気に合った、落ち着いた趣を醸し出していた。
「おや、貴方は……?」
「ぶ、ブラック司令……!?」
その相手に、店のマスターも八幡も見覚えがあったのか、互いに驚きの表情を浮かべていた。
そう、八幡は嘗てその男にあった事がある。
師の紹介でラーメンを喰わせてもらった事がある。
彼はブラック司令。
宇宙に悪名高い円盤生物を率いた者として名が知れている存在。
八幡の師であるASTRAYとは旧知の仲であり、八幡にとってもそれなりに親交のある相手だったのだ。
「ウルトラマンギンガじゃないですかい、まさか、この宇宙でお会いするとは。」
「店長がいるって事は、ここはやっぱり別の宇宙って事ですか。」
「え、何?知り合いだったの?」
数年前、八幡達がまだ地球にいた頃に新しい土地を探して旅に出たとは聞いていたため、彼はここがすぐに自分達がいた世界の地球ではないと察することが出来た。
やはり別世界に飛ばされたかという想いも強いが、異世界でも知人に会えたのなら不安は少ないというモノ、八幡の表情には笑みがあった。
まさか顔見知りだとは思わなかったのだろう、ミソラはまたしても驚きに目を丸くする。
「えぇ、貴女の先輩というやつですよ、オーブ。」
「先輩なんて止してくださいよ、先生達に比べたら俺なんてまだまだです。」
先輩と呼ばれるには威厳が足りないでしょうと、八幡は苦笑する以外になかった。
「ま、お座りなさい、いや、少し手伝って戴けますかな?」
ミソラには着席を促し、八幡には手伝いを依頼する。
どうやら、彼がASTRAYが残した店を継いだことを知ってくれていたのだろう、その手並みを視たいと言わんばかりだった。
「勿論です、それじゃあ、紅茶淹れますね。」
それに気付き、八幡はカウンターの内側へ。
用意されていたティーカップの容器を湯に浸ける事で温める。
温めている間に茶葉の香りと特性を把握、適切な湯温に沸かした湯でティーポットを温め、一度湯を捨ててから茶葉を適量投入、少量の湯を入れて茶葉を蒸らす。
湯に色が出てきたところで馴染ませる様にポットを軽く揺する。
馴染んだところで調節するようにポットへ湯を注ぎ、薫りと色が十分に立ったところで優しく、空気を含ませながらカップに注ぐ。
「お待たせしました、紅茶です。」
ミソラとブラック指令にそれぞれ紅茶を差し出す。
呑んでみてくれと、少しの自信と共に。
「あら、良い香り……、いただきます。」
出された紅茶をありがたく頂戴し、薫りを楽しみながら口を付ける。
「美味しい……、御上手に淹れるのね。」
「良い味です、かの御仁にも勝るとも劣らない、よく修行為されたのですなぁ。」
ミソラは風味と口当たりの良さに驚き、ブラック司令は懐かしい味に近付いている事を感じて微笑んだ。
嘗て、八幡の師であるASTRAYの、特にセシリアが淹れた紅茶の味に遜色ないと。
「ありがとうございます、先生に追い付きたい一心ですよ。」
それを受けて、八幡もまた笑みを浮かべながらも紅茶に口を付ける。
自分ではまだ追い付けていないと感じているのだが、第三者から評価を受けられたなら、自信もつくというモノだった。
あの背中に追い付こうと、10年以上努力を続けてきたのだから、少しは成長していなければというモノだ。
「ねぇ八幡、さっきから2人が言ってる人ってどんな人なの?」
八幡が言う師の存在が気になったのだろう、ミソラが八幡に尋ねてくる。
訳知り顔で話されても、自分が殆ど部外者になってしまっている状態は面白いものではないだろう。
「あぁ悪い悪い、俺の聞きたい事にも関わって来るし、ちょうどいいかな。」
ミソラに軽く詫びながらも、八幡は居住まいを正して話を始める。
そうだ、この店に来たのは何も談笑するためではない。
今の彼等の置かれている状況を確認するため、場所を変えたのだ。
「さっきから俺達が言ってる人達は、宇宙に名を馳せるアウトロー集団、ASTRAYの事さ、俺の師匠達だよ。」
「ASTRAYってあの……、って、師匠……!?」
ミソラは2つの意味で驚いた声を上げる。
ASTRAYと言えば、数多の宇宙に名を馳せる最強のウルトラマン達の総称。
何処の組織にも属さず、どの陣営にも組しない自由の風。
その伝説と繋がりがあるだけでも驚愕に値するのに、まさかの弟子だとは考えが及ばないのだ。
「まぁ、驚きますわなァ、あっしも最初は驚いたもんです。」
当時を知るブラック司令も、本当に驚いたと懐かしむ。
10年以上過ぎても、彼等が弟子を取ったという情報を知るのは、特に親しいウルトラマン達か、ブラック司令の様に交流があった者だけだ。
八幡達が名乗る事もあるにはあるが、そう名乗った相手はよっぽどの悪党で、その殆どを悉く斃したために広まって無かったこともある。
それはさておき……。
「そう言えば、奥様はご一緒じゃないんで?」
いつも一緒にいた八幡の妻、沙希の姿が見えない事に彼ブラック司令は首を傾げる。
まさか独りでこの世界に来たのかと、そう言わんばかりの様子であった。
「先生達からの修行メニューに沿って、俺とビクトリーとXの3人で色々やってたんですが、怪獣墓場で戦闘中に空間変異に巻き込まれたんです。」
「それは、災難ですな……。」
なるほど、彼の口ぶりから察すれば時空断層に巻き込まれてしまったのか。
ワームホールの途中で逸れたのだろう事は、ブラック司令にも容易に想像できた。
「ま、俺が大丈夫なんだ、沙希も彩加も、迷子くらいでくたばる様なタマじゃないですよ。」
だが、離れ離れになってしまった事にも、生死の不安も彼にはなかった。
自分が生きている事が何よりの証拠、妻も親友も、きっと大丈夫だと、そう信じていた。
その表情に、信念に、信頼に、ミソラは釘付けになった。
八幡から、実力以上の心の強さというモノが、ヒシヒシと伝わってきたのだ。
「そんな訳で、俺達と先生の関係はそんなもんで良いだろう、ここからは、俺の質問に答えてもらえるか?」
自分の話はもう良いだろうと、凡その情報は渡したと話を切り上げ、ミソラに視線を向ける。
その視線に、ミソラは表情を硬くし、僅かに俯き加減になる。
聞かれる内容が分かっているからか、身体も何処か強張っている様に見えた。
「ミソラ、あんたはティガとダイナの力を力を使ってたみたいだが、どうして彼等の力を持っているんだ?」
それに気付いていてなお、八幡は容赦なく切り込んでいく。
気遣いはしたいが、今は少しでも情報が欲しいところだ、聞けるところは聞いておかなければならない。
「俺もそうだけど、俺のダチにも他のウルトラマンの力を使うやつはいるし、俺達みたいに託されたのなら言うことはない。」
八幡の言葉通り、自分達と同じように別のウルトラマンから力を託されたのなら、別にその力を戦力として使うのならば何も問題はない。
だがしかし、万に1つの確率だったとしても、その力を掠め盗ったのであるのならば……。
「だけど、あんたの場合はどうもそれをメインにしている気がしたんだ、そういう所も含めて何があったか、教えちゃくれないか?」
彼女が何を抱えているかは分からないが、自分達以外にASTRAYの力を使うウルトラマンがいれば気になるというモノだ。
別段、何処で手に入れたかぐらいでもいいが、この世界にいる間は共闘する事になるであろう相手の事を知りたいと思うのは、彼が彼女を信じたいからというモノもあった。
店内を重苦しい雰囲気が支配する。
ブラック司令は何か訳知り顔をしてグラスやカップを拭いていたが、意識は彼等に向けている様子だった。
「私の力、オーブの力は、他のウルトラマンの力を借りて戦うのよ。」
「他のウルトラマンの力を借りて?」
ミソラの言葉に、八幡はどういう事だと声をあげる。
彼自身、他のウルトラマンの力を使い、敵を倒してきた経験は幾度とある。
だがしかし、オーブの様にフュージョンする姿を持っている訳では無い。
それが、自分達と彼女の、大きな相違点であると。
「えぇ、アタシが使えるのは、ASTRAYのウルトラマンのカードを組み合わせた姿よ。」
彼の疑問に答える様に、彼女はホルスターからカードを7枚取り出し、八幡に手渡し見せる。
「確かに、先生達の力の残滓を感じるな……、これを何処で?」
「他の惑星で、彼等が力を分けて封印していた悪しきモノを滅した時にお溢れで貰ったのよ、最初に手に入れたのは、ティガだったかしら。」
ミソラの言葉に嘘が無いことは八幡も雰囲気から察することが出来た。
もしも、彼女が何らかの方法で彼等から掠め盗った力で戦っていたのならば、八幡としては問答無用でその力を取り返し、生きている事を後悔するまで追い込むつもりではいた。
まぁしかし、億が1の確率でも、彼等が負けるなど有り得ないと分かり切っているから、そのような事などするつもりはさらさら無いのだが。
「そのカードをこのリング、オーブリングで読み込む事で、あたしは力を借りられるのよ。」
力を借りるカラクリを示すように、彼女は自身のジャケットの懐から赤と銀の入り混じるリングを取り出し見せる。
それは先程のオーブのカラータイマーによく似ている事に、八幡は気付いていた。
なるほど、確かに力の源であるという事に嘘はなさそうだと、彼は判断したようだ。
「なるほど、アンタはコレでパワーアップしているってことか、中々面白い力だな。」
カードを返しながらも、八幡はオーブの力を大凡理解していた。
1つではなく、2つのウルトラマンの力で姿を形成している事も、それがオーブの能力なのだろうと。
「まぁ、アタシは……。」
「ん……?」
小さく、ほんの小さく零したミソラの言葉を聞き取れなかった八幡は、聞き返そうと彼女に目を向ける。
ほんの一瞬、ミソラの表情に陰が差し込んでいたが、八幡と視線が合う刹那の間に、掴み所のない笑みに変わっていた。
見間違いかと追求しようにも、雰囲気がそれを許さないコトは、八幡にもよく分かっていた。
触れられたくない事の1つや2つ、誰にだってあると彼も分かっていたから。
「それはそうと、八幡、あんたこの地球で頼れるアテはあるの?」
話を逸らすつもりか、ミソラは彼のこの世界での身の振り方を尋ねる。
確かに、八幡はこの世界において頼る宛は無い。
特段、野宿でも構わないがいつまで留まるか分からない状況だ、先立つモノも必要となってくる事に違いはない。
「あー……、確かにそうだよなぁ……、ブラック司令……、折り入って頼みが……。」
そう言えばそうだったと八幡は思い出したように天井を仰ぎ、縋る様にブラック司令を見やる。
野宿は望んでない、雨ざらしは勘弁してほしいと、まるで捨てられた子犬の様な目で、彼を見詰めていた。
「相分かりました、店の手伝い、お願いしますよ。」
友人の弟子から頼られては無碍に断れないと苦笑し、彼は客室の鍵を手渡した。
まぁ、ブラック司令からしてみても、頼られて悪い気はしないと言うものなのだから。
「もちろんですよ、一宿一飯の恩ってヤツです。」
鍵を受け取り、八幡は恩は返すと笑った。
それだけ義理堅い性格は、今も昔も変わらなかった。
八幡が店の奥に引っ込もうとしたその時だった。
「あぁそれと、手前勝手な頼みにはなりますが、オーブに稽古つけてやっちゃくれやせんかね?あんたなら、指導も出来るでしょう。」
「マスター!?」
思い出したように告げられたブラック司令の言葉に、ミソラが驚きの声をあげる。
何故自分が稽古を受ける必要があるのかと、そう言いたげな表情だった。
「俺は構いませんが、ミソラがそこまで弱いとは思えませんが?」
八幡はミソラを見やりながらも、その必要があるのかと尋ねる。
確かに先程の戦闘では怪獣相手に遅れを取っている様に見えたが、よくよく聞いてみれば直前まで別の怪獣を相手取って討伐したという事情もある。
別の奴等が連れてきたデスドラゴに、エネルギーが枯渇したところを追い詰められたと解っていたからこそ、力を疑う事はしなかった。
とは言え、彼からしてみれば連戦くらい熟せてこそだと思わなくもないが、その基準を彼女に押し付ける訳にはいけない。
その基準で己を律しているのは、八幡達ASTRAYに連なる者だけなのだから。
「いいえ、力こそ弱くは無いから故に、あなたに頼むですギンガ。」
そう言うことだけではないと、ブラック司令は微笑みを湛えて言の葉を紡ぐ。
それは、物理的な力よりも、もっと別の事への言及だった。
「……ッ。」
その言葉に思うところがあるのだろうか、ミソラの表情が翳りを見せる。
その表情は、先程一瞬だけ見せた暗い表情。
何かを思い詰めた様な、余裕のない気配そのもの。
その様子から、八幡は何かがあった事を察することが出来た。
それも、簡単に触れてほしくないという様な、強い拒絶さえも……。
「(これは、確かに様子見たほうが良いな……。)」
なるほど、心の稽古をつけてやれという事かと、八幡は内心納得する。
自分もそこまで律しているつもりはないが、何かの足しになるならばと。
「分かりました、ミソラ、手前勝手な話だが、俺があんたのコトを見させて貰うよ。」
「……。」
彼の真っ直ぐな瞳は、純粋な想いとなってミソラの瞳を映し出す。
嘘偽りなど無いと、そう信じて貰うために。
「……、ハァ……、勝手にして頂戴、助けられたのは事実だし、ね。」
何処か諦めた様に、彼女は八幡の申し出を受け入れた。
勝手にしてくれと、それでもギンガの力は認めていると。
「サンキュ、これからよろしく頼むぜ。」
「こちらこそ、中途半端な指導だったら、承知しないわよ?」
契約は成ったと、互いに握手を交わす。
これからよろしく頼むぞと……。
「話がついたなら、早速店を手伝ってください、そろそろお客が来るものでね。」
「了解です、マスター。」
ミソラから手を離し、八幡は着替えのために一度客間へと引っ込んだ。
残されたミソラへ、ブラック司令は笑みを向ける。
「彼なら、師としてはこれ以上無い相手です、何、彼等はあのASTRAYの連中を癒したんだ、うってつけってなもんですよ?」
「……。」
彼の言葉にミソラは何も答えない。
いいや、答える事が出来なかった。
だって、彼女が抱えているモノは……。
それに対して、ブラック司令は軽く溜息を吐き、開店のための準備を始める。
慌ただしく動く中で、この世界での新たな戦いの幕は開こうとしていた。
嘗て光を追い求めた者と、光を借りて戦う者の、交わるはずのなかった物語が、幕を開けたのだ……。
次回予告
穏やかなひと時を過ごす八幡達だったが、ある一言からその関係は拗れていく。
次回ウルトラマンNewGenerationHero'sSaga
再臨編 迷える瞳
お楽しみに