ウルトラマンNewGenerationHero'sSaga   作:ichika

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迷える瞳

 

「マスター、仕入れと仕込み終わりました、表の掃除してきますね!」

 

「頼みましたよ。」

 

朝7時、涼やかな風を感じる時間帯の店内に、八幡の声が響く。

近所迷惑にならない程度に、それでもテキパキとした動きで開店準備を行っていく。

 

彼は今、ブラック司令が営む喫茶店《アイユール》のモーニング営業の準備を行っている様だ。

 

「やはり堂に入っているようだ、見事な手際ですよ。」

 

ティーポットやカップの準備から、モーニングで使う軽食の仕込み、珈琲や茶葉のセッティング、指示は出したと言えど八幡の動きは長年の経験に裏打ちされていた。

 

その手際を見て、ブラック司令は柔らかい笑みを浮かべるばかりだった。

 

「ははは、これでも店長やってたんで、何でも出来ないと、でしたから。」

 

手放しの賛辞に笑みを浮かべながらも、八幡は店先へ出て掃除を始めていた。

慣れた手付きに動く手順、その全てに熟練した効率の良さが見て取れた。

 

そんな彼が助力しているのだから、普段よりも早いペースで開店の準備が整えられていく。

 

「ふぁぁ……、本当に手伝ってるのね……、よくやるわ……。」

 

そんな表の慌ただしさ、というより八幡の仕事に起こされたのだろう、ミソラが眠そうな目を擦りながらも姿を見せた。

 

ラフな格好に着替えてはいるが、ホットパンツに無地のTシャツという、場に相応しいとは言えない身なりだった。

 

スレンダーながらも、男ならば釘付けになるであろうそれが、無防備の状態なのだから。

 

「義理堅いお方ですから、それに引き換え、貴女はなんともだらしのない姿をしておられる。」

 

「良いじゃない、客が来るまでには引っ込むわよ。」

 

ため息を吐きながらも自身の格好を指摘するブラック司令に、ミソラは見られても減るもんじゃないと言わんばかりに宣う。

まぁ、異性として認識していない事に加えて、彼女自身の羞恥心の少なさも関係しているのかもしれないが……。

 

「まったく……、しょうがない方だ。」

 

そんなミソラに呆れつつも、ブラック司令はニュースを見ながらも、この地球の情報を集めていた。

 

「またならず者の事件探してるの?」

 

「これが、あっしに出来る地球の護り方ってヤツです、共生は無理でも、共存は出来ると思ってますんで。」

 

ミソラの言葉に、彼はそれが仕事だと返す。

今現在、この地球には活動している怪獣や、公にこそ知られていないながらも、侵略を目論む者達も僅かながら潜伏している。

 

怪獣は最早自然災害と同じ分類であるから如何ともしがたいが、異星人であるならば話は別だ。

彼等が悪さをしないように目を光らせるのも、ブラック司令が独自に行っている事だった。

 

それが、どの宇宙に渡っても地球を根城にする、彼なりの愛の示し方なのかもしれない。

 

「そ、マスターが良いならあたしが何か言う事じゃないわ。」

 

自分にはあまり思う所はないと言いたいのか、ミソラは冷蔵庫を漁って牛乳をパックごと持っていこうとしていた。

まぁ、風来坊かつ異邦人の彼女からしてみれば、この地球がどうなろうと関係ないというのが本心だろう。

 

尤も、先日のグエバッサーのように見過ごせない暴虐が訪れたのならば、戦いはするというスタンスは持っており、完全な無関心という訳ではないのだが、それをどうこう言えるほど、ブラック司令も思う所がないとは言わなかった。

 

彼の旧知の超人達も、縁を何よりも大事にしていたし、関係の無い者をあっさりと切り捨てられる無情さも併せ持っていた。

 

だから、それに比べればまだマシと言う感想しか浮かばなかった。

 

「掃除終わりました!今日のおすすめも書いときました。」

 

「ありがとうございます、お陰で仕事がありゃしない。」

 

八幡の仕事ぶりに、ブラック司令は感嘆の声を漏らす以外になかった。

これまでは自分で行っていた業務が無くなっただけでなく、自分以上にテキパキと動いて、短い時間でこなしてしまうのだから、驚く他ないというのが本心だった。

 

「まぁやってること同じなんで!それはそうと……。」

 

ずっとやって来たことだからと謙遜しながらも、八幡はミソラを見やる。

 

「ミソラ、お前何やってんだよ……。」

 

だらしのない格好をしているミソラに小言でも言うつもりかと、彼女は少しムッとして返す。

 

「見て分かんない?」

 

「あぁ分かるとも、だからこそだ。」

 

言い返してきた言葉にかぶせる様に話しながらも、八幡は彼女に近付いていく。

 

「な、なによ……?」

 

その圧に、八幡の表情に気圧されたか、ミソラは少し後退る。

ずんずんと近づいてきて、ミソラの眼の間で立ち止まった八幡は―――――――

 

「早く着替えて店手伝え。」

 

ただ単純に、店を手伝えと言うのみだった。

 

「は、はぁ……!?」

 

何を言われるかと身構えていたが、肩透かしを食らいながらも声を上げる。

何故自分が手伝わなければならないのかと。

 

「なんであたしまで……!?」

 

「お前も居候だろうが、働かざる者食うべからずってやつだ、ほら、さっさと行ってこい!」

 

ブラック司令から受け取ったウエイター服を押し付けて、更衣室へと押し込もうと背を押す。

 

「ちょ、ちょっと……!?分かったから押さないでよ……!!」

 

抗議の声を上げるも店員モードの八幡には通じない、ぎゃいぎゃいと騒ぎながらも、2人は店の奥へと消えて行った。

 

「やれやれ、騒がしいところまで師に似なくても良かったでしょうに……。」

 

そんな2人の様子に苦笑しながらも、ブラック司令は何処か噛み締める様に呟く。

嘗て、彼等と共に旅をした、あの騒がしくも懐かしい日々の事を……。

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

「うぅぅ……、ど、どうしてあたしがこんな……。」

 

それから暫くして、ウェイトレス姿のミソラが涙目になりながらも出てきた。

相当しっかり言いつけられたのだろう、逃げられなかったのだ。

 

「おう、逃げずに着ただけ良しだ、じゃ、提供は任せたぞ。」

 

同じくウエイター服に身を包み、くせ毛もワックスで固めて纏めた八幡が表に出て開店のために鍵をあけ放つ。

 

「こ、こんなヒラヒラした服、好きじゃないのに……。」

 

スカート自体が好みでないのか、彼女は落ち着かないと言わんばかりにモジモジと所在なさげだった。

 

「いやはや、やはり華がある方が店には良いですな。」

 

突っ込むだけ怪我すると判断したか、ブラック司令は稼ぎに繋がるとだけ考えて深入りしようとはしなかった。

 

「おはようマスター、今日は新人さんがいるのね。」

 

「マスター、珈琲ください、砂糖なしで。」

 

「え、紅茶がオススメ?気になるなァ。」

 

開店した途端に幾人もの客が訪れる。

ブラック司令からしてみれば常連であるが、八幡とミソラにとっては初の相手ではある。

 

さて、どうするかと見やるが……。

 

「はい、今日から暫く厄介になってます、よろしくお願いしますね。」

 

人当たりのいい笑みを浮かべ、恙なく接客を熟しているのは八幡だ。

基からのスキルがあるからか、配膳やオーダーを受けるのも完璧、非の打ちどころの無い接客だった。

 

それとは対照的に、ミソラはとにかく硬い。

配膳や注文はしっかり取れても、何処かぎこちない。

 

いや、一番は笑顔がとても硬い事が原因であった。

 

「い、いらっしゃいませ。」

 

「うぉ……!?」

 

美人であるが故にその歪な笑みが余計に恐ろしい、迎えられた男性の客が驚いて後退ったりしていた。

 

見兼ねた八幡がフォローしながら動いているから特段大きいミスはないのだが、接客業としてはあまり向いているとは言えないだろう。

 

「ふふふ、そこがまぁ、面白いところですよ。」

 

しかし、店員と客が織り成す物語が紡がれるのも一興と、ブラック司令は笑みを浮かべ、オーダーされたものを用意する。

 

何かなくては面白くないと、そういった想いだったのだろう。

 

それが正しいかったのか、八幡のフォローもありつつ、彼等は客から受け入れられている様だった。

 

そうやって、モーニングの時間は大きな問題もなく、寧ろ八幡達新人のお陰もあり繁盛しているくらいだった。

 

「いやはや、お2人のお陰で私も楽が出来ますね、一旦休憩にしましょう。」

 

客足が落ち着いたところで、彼等は休息をとる。

八幡が用意した、自家製タルタルソースを挟んだだけのサンドウィッチと紅茶という簡素だったが、腹ごなしには丁度いいものを、食していた。

 

「ふぅ……、どうも接客は苦手だわ……。」

 

「まだ午後からの営業もあるんだ、何言ってんだか。」

 

ぐでっとテーブルに突っ伏すミソラに、八幡は呆れた様に呟く。

この程度で疲れてたら世話ないと。

 

「しょうがないでしょ……、戦うか旅するかしかしてないんだから……。」

 

慣れない事なんてするものじゃないと、ミソラは唇を尖らせつつ文句を言う。

 

ウルトラマンとしてしか生きてこなかったのだから、このような事をしたことなどないと。

 

「へぇ、ウルトラマンとして生まれたって物言いだな?」

 

その言葉から、彼女はヒトからウルトラマンになったのではないと考えたのだろう、八幡は得心したかのように呟く。

 

自分とは違う成り立ちだとしても、ウルトラマンとして生きてきたのならば、その道のりを知りたいと。

 

「……ッ。」

 

彼の言葉に、ミソラの表情に陰りが見えた。

聞かれたくない事を聞かれた、というよりはそれに纏わる嫌な思いがあるのだろう。

 

八幡も、それに気づいてはいた、追及を止める気などない。

 

手解きを約束したからには、弱みさえも知っておかなけらばと考えての事だった。

 

「ギンガ、彼女は……。」

 

ブラック指令が代わりに答えようとするのを、ミソラが視線だけで制する。

自分が話すと、それぐらいなら出来ると。

 

「あたしはウルトラマンの力を授かった、只の風来坊よ。」

 

「授かったって事は、元は俺と同じ人間って事か。」

 

「そういうこと、ま、地球人じゃないけどね。」

 

軽い遣り取りを交えながらも、八幡はミソラが元はヒューマンタイプの異星人であると察する。

なるほど、敬意は幾らか違っても、自分達と同じ境遇なのかと。

 

「あたしは、O-50って場所でウルトラマンになったの。」

 

「O-50……?」

 

聞きなれない単語に、八幡は首を傾げる。

星雲か、それとも惑星の名か、判別が出来なかったのだろう。

 

「O-50、戦士の頂があると言われる場所ですよ、力を求める者達がその頂上を目指し、選ばれた者が力を得る、と聞いています。」

 

「戦士の頂……、そんな場所があるなんて……。」

 

挑む者を選別し、力を与えるとは、ギンガの力とは真逆であると思わざるを得なかった。

 

ギンガは嘗て、自分の命を救ってくれた。

そこに選別などという感情があったかどうかは分からないが、それでも本質が異なっていると考えざるを得なかった。

 

「そこでは何人かのウルトラマンが生まれ、様々な宇宙へ渡ったと言われています、尤も、宇宙警備隊の様に守護を目的にしているかどうかは、全く分かっていないのですがね。」

 

八幡の疑問に答える様に、ブラック司令がO-50の事で分かっている事を話す。

なるほど、宇宙警備隊やASTRAYの彼等とも違う意志があるという事かと、八幡は納得する。

 

何時か関わり合いになるかもしれないのだ、情報は一つでも多い方が良いと。

 

「そういえば、貴女と以前来られていた、あの方は――――――」

 

何かを思い出したように、ブラック司令はミソラを見ながらも問いかけるが、強烈な殺気が彼の口を閉ざす。

 

いや、ブラック司令や八幡の、それなりに修羅場を潜った猛者には通じない程度の殺気ではあったが、その主が語って欲しくないというのが口を閉ざした理由だった。

 

「―――――それ以上は、赦してないわ、踏み込んでほしくない過去だってあるのよ。」

 

怒りと哀しみを湛えた瞳で、彼女は席を蹴り飛ばすように立ち上がり、奥へと引っ込んでいった。

 

その様子に、ブラック司令は悔やむ様に、そして憐れむ様にため息をついていた。

彼女を知る者として、余計な事を口走ったと。

 

そして、それは、八幡に何かを気付かせるには充分過ぎた。

 

「(なるほど、ソイツに何かあって、ミソラは……。)」

 

彼女の様子からして、仲違い程度の話ではないだろう。

そうなれば、その相手は今……。

 

そこまで考えて、八幡もまた天井を仰ぎ見て嘆息する。

本来の力を使えない事にも繋がっているというのならば、それは……。

 

「俺にしてやれることって、なんだろうなぁ……。」

 

彼女は納得してはいないだろう手解きを、本当にやれるのかと。

だからこそ、彼は思案に耽るしかなかった。

 

彼が示せるものを、未だ見付けられていないが故に……

 




次回予告

向かい合うミソラと八幡。
過去を語る彼等の前に、過去からの侵略が忍び寄る。

次回ウルトラマンNewGenerationHero'sSaga
再臨編、過去からの侵略

お楽しみに
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