ウルトラマンNewGenerationHero'sSaga 作:ichika
「うぅ……ッ!」
光線の撃ち合いに競り負けたオーブが、背中から地に叩き付けられる。
直撃はしていないながらも、それでも受けたダメージは相当なものの様だ、身体を捩り、悶えることしか出来なかった。
対して、闇の靄を纏う巨人、オーブダークにダメージらしいダメージは見受けられなかった。
効いていないと、傍目からも解るほどに、余裕綽綽と言った様子だった。
「何やってるミソラ……!立つんだ……!!」
雑兵たちを蹴散らし、霧散させたギンガは、倒れ込むオーブに叫ぶ。
戦う事に脅えが見て取れる、何にそんな脅えているんだと。
「(そう言えば、さっきも脅えていた……!あの感じは……!)」
そこで、彼は嘗て相対した敵の能力を思い返す。
超時空魔人エタルガー、その能力は相手の記憶から最も苦手とする存在を呼び出し、戦わせることが出来る。
それに加え、嘗ての光景をフラッシュバックさせる事で、相手を恐慌状態へ陥らせる事が出来るというモノだった。
非常に厄介な能力であり、八幡達だけでなく、あの宇宙最強のASTRAYをも一度は下し捕らえるまでやってのけられるのだ。
そう、それは使用される相手がより深い闇を、トラウマを抱えていればいる程に強く作用するのだ。
「もし仮に、コレがエタルガーの能力と同じだったら……!!」
自分には何故マグマ星人やダダが宛がわれたかはまるで分らないが、それでもミソラが何を見ていたかは、凡そ察する事は出来た。
「何とかしてやらねぇと……!!」
これに対処するには、強い意志のみ。
生半かな心持では、突破する事など叶うまい。
外部から出来る事があるとするならばそれは……。
『あーぁ、あっけないわねぇ、昔の貴女は、もっと強かったでしょ?』
身体に着いた煤を払う様に余裕を見せながらも、オーブダークはオーブの腹を強く踏みつける。
「うぅ……ッ!」
突き抜けるような痛みに、オーブは抵抗すら出来ずに悶えるだけだった。
『くだらない……、くだらないくだらないくだらないッ!!』
何度も、何度も、オーブダークはオーブの腹や胸を踏み抜かんとする。
叩き付けられる蹴りは、凄まじいダメージとなってオーブを蝕み、遂には完全に意識さえ刈り取らんとしていた。
そしてついに、オーブは変身を維持する事が出来ずに光の粒子となって消える。
オーブが消えた後には、人間体に戻ってしまったミソラが気を失って横たわっているだけだった。
『さようなら、ウルトラマン、この一撃で、地獄に行きなさい!!』
倒れるミソラ目掛け、オーブダークは黒い剣を振り下ろそうとして――――――
「ギンガサンシャイン!!」
ミソラを庇う様に立ちはだかったギンガのクリスタルがピンクの輝きを放つ。
突き出された拳からは強烈な光が迸り、オーブダークを襲う。
等身大からの攻撃とはいえ、ギンガサンシャインは闇に対する攻撃力が高い。
そのため、闇の靄であるオーブダークには効果覿面だったようだ。
ダメージに藻掻くその闇を無視し、ギンガはミソラを担ぎ上げ、戦線を離脱していく。
今この場で戦う事は決して良い事ではないと。
わき目もふらず、彼等は光の速さで逃走していく。
闇が漸くダメージから抜け出した時には、既に2人の姿と気配は辺りから消えていた。
『――――――』
闇は何かを呟いて、まるで最初からなかったように霧散していった。
後に残されたのは、あちらこちらに咲く、黒い花の群れ、ただそれだけであった……。
――――――――――――
――――――――――――
「マスター!!」
戦場から離脱し、ミソラを担いだまま、八幡は喫茶店《アイテール》に駆け込んだ。
休憩として一旦店を閉めていたからか、店内にはマスター、ブラック司令の姿しかなかった。
「手酷くヤラれたものですね……!机を並べます、ここへ!!」
状況を把握し、ブラック司令はすぐさま机を幾つ並べて、簡易ベッドを作る。
八幡も直ぐに動き、ミソラを寝かす。
「すぐに回復させます!」
八幡はすぐにギンガに変身し、浄化回復技であるギンガコンフォートを放つ。
これまで何度も自分や仲間の窮地を救った回復技は、更に精度を増して傷ついた者を癒してきた。
緑色に輝く穏やかな光がミソラの身体を包み込み、傷口を覆っていく。
痛みに呻いていたミソラの表情が徐々に和らぎ、穏やかな吐息が聞こえてくる。
どうやら、治癒が成功したのだろう事が八幡達にも見て取れた。
「ふぅ……、どうやら間に合ったみたいだな……。」
何とか助けられたと、八幡は変身を解きながらもため息を吐いた。
死んではいないとは思っていたが、それでも見捨てておくなど出来る筈も無かった。
「えぇ、しかしながら、オーブがここまでひどくやられるなんて、一体どんな奴が出てきたんです?」
同じく安堵のため息を吐きながらも、ここまで手酷くヤラれた事に驚きを隠せない様だった。
一体どんな相手が出てきたのかと、その表情は硬かった。
だが……。
「いや、それが、分からないんです……。」
「分からない、とは……?」
何とも歯切れの悪い言葉が八幡からは発せられる。
本当に分からないと、めぼしは着いているが、正体が分からないと。
その様子に、ブラック司令も首を傾げた。
対処法や噂を知っていれば、ギンガだけでもなんとかできると考えていたからこその困惑だった。
「それが、俺が見たのはダダやマグマ星人みたいな、昔戦った事のある奴だったんですが……。」
思い返しながらも、八幡は眠るミソラを見やりながらも、どういえば良いのかと口ごもる。
「彼女が何を見たか、俺には分からない……、だから、何とも言えないんです。」
八幡が想像している通りならば、この話はミソラの過去の話になってしまう。
本人が何かを語ろうとしてくれてはいたが、それでもその先に踏み込むには、八幡は彼女にとっての他人に過ぎた。
「なるほど……。」
彼の口ぶりから敵の正体におおよその当たりを付けたのだろう、ブラック司令もまた、それは仕方のない事だとため息を吐いた。
だが、今この言葉で敵のおおよその正体は掴むことは出来た。
「しかし、そうであるならば敵は相手の恐怖心やトラウマに関するモノを召喚するだけではなく、簡単な雑兵程度ならば簡単に生み出せる、そういう能力があるという事ですな。」
「なるほど、俺の時にダダ達が出てきたのは、単なる足止め、って事ですか。」
ブラック司令の言葉に、八幡は自分に雑兵が嗾けられたことに少々ご立腹の様だ。
苦笑しながらも、嘗められたものだと思わざるを得なかった。
「しかし、分かりませんね、わざわざ怖いものを呼び出せるって言うのに、なんで俺の怖いものを出さなかったんだか。」
「読み取れなかった、若しくは、それを再現できなかった、ですかね?」
八幡の疑義に、ブラック司令は大したものだと笑ってのける。
彼に刻まれたトラウマは、今ここを襲っているモノには再現できない。
それは、彼の持つ苦手意識がある物の存在が、再現できないほどに強大過ぎるからであると同時に、それを乗り越えた八幡の心がしなやかかつ強靭なモノとなっているからこそだと。
良い鍛え方をしている、良く乗り越えて来れたと、最初に会った時の彼と見比べて、その成長が頼もしかったのだ。
その優しく温かい、成長を喜ぶ親の様な目に、八幡はむず痒いと言わんばかりの苦笑を浮かべる。
そこまで変わってないと、まだまだ修行の半ばだと、彼自身が感じているが故だった。
「う……。」
その時、ミソラが身体を捩りながらも目を覚ます。
ダメージは既に回復しているのだろうが、それでも動きは緩慢で、覚束ない様子だった。
「目を覚ましたか、ミソラ!」
それに気付いた八幡が駆け寄り、痛むところはないかと声を掛けていた。
何とか助けられたと、目を覚ましたからこそ安心できたのだろう。
「八幡……?ここは……?」
状況を把握しきれていないのだろう、ミソラは辺りを見渡していた。
自分はどうなったと、ここは何処なのかと。
「ブラック司令の店だよ、何ともなさそうでよかった。」
場所の説明をしながらも、彼女の様子に安堵の笑みを浮かべる。
これならば、問題はないと分かったから。
「八幡が、運んでくれたのね……、世話掛けたわね。」
礼を言いながらも起き上がるが、それでも八幡と目を合わせることは出来なかった。
迷惑をかけたからではない、それよりも悟られたくない事が、今の彼女にはあるのだ。
「良いって事さ、それよりも、座れ。」
だが、それを悟っているが故に、八幡は少しだけ表情を硬くして椅子に腰かける。
逃がすつもりは無いと、ミソラにも着席を促した。
何を言われるか、聞かれるかなど分かり切っていた。
ミソラは視線を彷徨わせながらも、助けを求める様にブラック司令を見やる。
「……。」
それに気付いていながらも、ブラック司令は何も言わない。
今、助け舟は出せない、出すべきではないと判断し、ここは静観を決めた様だ。
助けを得られないと判断したか、何かを決心したかのように八幡と対面する形で椅子に腰かける。
黙っていても何も解決しないし、この状況が終わるわけでもない。
だから、早く終わらせたいと、早く楽にならせてくれと。
重苦しい沈黙が店内を支配する。
誰も何も話さない、話せない。
何を切り出すべきか、何を話すべきか、言葉を掛けるべきか。
3者の想いが、入り乱れていたのだ。
「ミソラ、あんたは何に脅えているんだ?」
沈黙を破る様に、八幡が切り込んでいく。
さっきの戦闘で、いいや、その直前の靄が現れた時から、彼女が恐慌をきたしていたのは分かった。
その理由が何にあるのか、何がそうさせたのか。
彼は知りたかった、癒せるわけでもないけれど、それでも、だ。
「……。」
痛いところを、いやな所を突かれたと、ミソラは俯き話さない。
さっき、八幡に軽く話したあの話には続きがある。
彼女にとっては今もまだ、止め処なく血が溢れ出てくる傷をえぐる行為にも等しいのだから。
それを話せといわれて、世間話として話せる訳などある筈も無かった。
ブラック司令もまた、気遣わし気に2人を見やる。
どうなるかと、事の趨勢を見守っていた。
「あんたに何があったかなんて俺は知りようもないし、そこに介在する余地はねぇ。」
自分には何も出来ないし、何も知らないと断言する。
だがその上で、彼は目を逸らす事をしない。
嘗てそれで、自分も救われた事があったから。
「だから、話してくれ、一体何に脅えていたんだ?」
それを態度でも示すために、彼は敢えてストレートに切り込んでいく。
それが、彼なりの誠意というモノだった。
まだ、ミソラは語れない。
話すべきか、縋っても良いのか、楽になっていいのか。
今まで、たった一人で抱えてきた荷を、曝け出してもいいのかと。
縋る様に八幡を見返す。
彼はその視線にも目を逸らさない。
真摯に自分に向き合うと、その目が雄弁に物語っていた。
「……、あたしは……。」
絞り出す様なミソラの言葉に、八幡は無言ながらも力強く頷く。
受け止めてみせると、逸らす事はしなかった。
それを受けて、ミソラは一度瞑目、もう一度覚悟を決めた様にため息を吐く。
「あたしには、嘗て、相棒がいたの……。」
語り出す口調には、痛みが滲み出ていた。
まるで己の罪業を吐き出す様に、そして、赦しを何かに求める様に。
そして……。
「その相棒は、あたしのせいで死んだのよ……。」
語られる内容は、彼女の過去を、その罪を語る、懺悔そのものだった……。
次回予告
逃れられないもの、取り戻せないもの、それは過去。
嘗てあったそれは、今を曇らせる。
次回ウルトラマンNewGenerationHero'sSaga
再臨編 相棒
お楽しみに