花弁が舞い、蝶が瞬く。
外国の古い映画で出るような、陽気な商人や着飾った紳士と婦人。
真新しい色合いをした中世風の建造物。
ここは十九世紀の倫敦。高貴と優雅で彩られた都に、一際目立つ白と黒がそこにあった。
「待ってろよーーーーー!!!ビッッックべェェェェーーーーーンンン!!!!!」
「街中で叫ぶなこンの馬鹿妹がァァァァァァーーーーー!!!!」
白いパーカーのフードを被った蜂蜜色の少女、春咲優里菜の宣戦布告まがいの言葉は黒いモッズコートを着た黒い短髪をした姉の春咲希美に空しくも止められてしまった。
優里菜の言葉を聞いた人たちはくすくすと笑っている。思わず希美は軽く謝罪の意を示して、迷惑をかけた妹を樽のように担いでその場を後にする。
希美達が去って行った先に、青い上着を腰に巻いた現代的な装いの銀髪の男、黒い革ジャンのロングコートを着た
咥えタバコの男、紫の上着を肩にかけた隻眼の男の姿が見えた。
「はじめての海外ではしゃいでンのか、お前さんは」
「まったく、十九歳ってのによォ…ガキじゃあるめーし」
「そういう銀にぃは綺麗なお姉さんを口説いてたよ?」
「…………」
優里菜の言葉にそっぽ向いた坂田銀時の様子を見て、高杉晋助は「お前も人に言えねーな」と嘲笑った。
そんな重箱の隅を突きあいを土方十四郎は横目で見ている。
「このろくでなし共が……そもそもここには悪神とか何とかの対処しに来ただろーが。バカンスじゃねーんだよ」
「けっ、ここでも仕事モードかよ。少しは自由にさせてくれよー副長さん」
「お前らが自由に動き過ぎなんだろーーが!!!」
二十一世紀の日本。優里菜達が住まう東京は悪神ルフレによって滅びの未来が確定事項とされていた。
そんな中、神格の一柱であるロキウス・オベリスクの干渉で異世界の侍達が東京に来訪した。その侍こそ———坂田銀時であった。
そんな侍達が優里菜達が所属する十三階段の事件に巻き込まれ、さらにはもう一つの組織である十二門徒の事件に巻き込まれ————今では十三階段の仕事である異世界の特異点修復の任務に派遣されるようにもなった。
だが……そこに至るまでの道のりは数多くの犠牲で出来上がっていて。
多くの絶望と慟哭が積みあがっていて。
十三階段と十二門徒の冷たい戦争に巻き込まれた先の特異点。
そこは十九世紀の倫敦、一見すると何の異常もない異世界であった。
————しかし、十三階段の総統括である春咲美麗はこういった。
『この世界で魔法や固有魔法を使うのは最低限まで控えて』
『この世界の十九世紀の欧州は、カンタベリ修道騎士団っていうカトリック系の騎士団の活動が活発なの』
『異端や異教徒を徹底的に駆逐する魔女狩りが衰退した頃になってもなお、魔女狩りを続けているのがカンタベリ修道騎士団』
『だから気を付けて……彼らの前で魔法とか使ったら、何されるかわからないと思って』
『最悪の場合————————』
「……捕縛されることもありうる、か」
希美は晴天な空を見て美麗が言った言葉を思い出す。
今の今まで固有魔法等に頼って特異点を修復してきた、けれど魔女狩りが活発化している世界では固有魔法等を使う事は死に直結しかねない———
――――――だがきっと、そんな警告も無駄になるだろう。
なにせあの事件の現況が目の前にいるから。
だがそんなことはいくら何でも悟られるわけにもいかない。
だから希美は取り繕った。
「参ったな……魔法を極力控えろってなぁ…それこそ土方無双じゃん」
「俺が無双って‥‥そうでもねぇぞ?そもそもここは俺の知ってる世界じゃねぇからな…確かに対人戦は負けねぇが、相手がどう動くがもわからないのが正直な所だ」
「でも俺は知ってるよ、土方はやってくれるってさ」
土方は希美を見据え、希美は土方を見つめる。
「そういえば…優里菜が可愛い雑貨屋があったから見に行くーってよ」
「今度はちゃんと報告してきたな」
さて、と呟き希美と土方は噴水の広場から立ち上がった。
差し伸べられた土方の手は、暖かい温もりを感じるはずだった。
一方優里菜は、路頭に迷ってしまった。
確かに優里菜は銀時達に可愛い雑貨屋があったから見に行くと言って向かったが。お目当ての品を買い終わって、噴水の広場に戻ってきたが—————
「誰もいないって、ぴえん超えてぱおん超えてぼかん」
広場には希美達の姿はなかった。あたりを見回してもいなかったので、とっさに携帯を取り出しLINEで確認する。すると既に希美達は宿舎に着いたとのこと。ちゃんとマップも張り付けて送られていた。
しかし優里菜にはマップを読める知識が乏しく、やはりまた路頭に迷いこんでしまった————
「そこのお嬢さん、どうかしましたか?」
一人の青年が優里菜に話しかけた。優里菜はその青年の顔を見る。
見た目は姉に似た短髪の黒髪に緋色の瞳。左耳にはイヤーカフ。しかし服装はマンガに出てくるような貴族の装い、だが黒いロングコートに紋章が付いた腕章をつけてるので恐らく騎士だろう。
「あ、あー…えっと、道に迷いました…!」
「なるほど迷子になったのですか…目的地はどちらまで?」
「えっと……べ、ベロニカっていう店!」
「ベロニカ……あそこですか。私の行きつけのところなのでよかったらそこまで案内しますよ」
「ほんとうですか!ありがとうございますっ!私は春咲優里菜といいます!!お兄さんの名前は?」
「あぁ、私ですか—————」
そして青年は名乗った。
「————リュシアン。リュシアン・ブツァーといいます」