蝶番うデュプリケイトナイト   作:神埼梨花

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第三幕:花は黄昏の空に揺られ

花の香りが頬をくすぶり、鳥のさえずりが聞こえる。

 

紅茶と焼き菓子の匂いも、後からやってきた。

 

微睡む目を開くと、そこは八十年代の少女漫画に出てくる花園が広がっていた。その花園の傍らには、お城を彷彿させるような大きな建造物が建っている。

 

……遠くのあるのは塔なのだろうか。まるでファンタジーの映画に出てきそうな雰囲気をしている。

 

「ここは…どこなんだ?」

「魔法学園都市アシュラム……現世と隔絶された城塞都市であり、今回の本拠点だときいている」

「隔絶された城塞都市ね……随分仰々しい場所じゃねーか」

 

土方は希美の手を引き身を起こさせた。しかし希美達が立ち上がり終わる前に、明音は既に意識が覚めたのかてこてこと歩き始めた。

勿論銀時が明音に「人にぶつかるぞー」と忠告した。

 

 

「そこの方ぁ!!避けて欲しいでありますーーーーー!!!」

「ふぇっ?—————ぴっ!」

 

 

緩やかな坂道でつまずいたのか、昭和のアニメみたいな転げ方をした制服姿であろう恰好の紅色のサイドテールに紫の瞳の少女が迫ってきた。

あまりの突然のことに明音は混乱をして、その様子をみた沖田と土方がとっさにサイドテールの少女を抱きとめた。

 

 

「あぶねぇなァ……こんなありきたりなすっ転び方、土方さんにしかやりやせんぜ…」

「今の今まで昼寝をしていたお前が言うかァ!!!つーかお前の連れの雪乃は来てないのか!?」

「雪乃は部活で遅れてくるって連絡ありやした……おら、立てるか?」

 

 

沖田は目を回しているサイドテールの少女に話しかけ、少女は自分の状況をようやく察知したのか急に背筋を伸ばし、敬礼した。

 

 

「だ、だだっ、大丈夫であります!!し、しかし……皆様方は一体……そもそも、ここにどうやって——」

「学園長から聞いてないのか?“大切なお客様”だとかどうとか」

 

 

土方たちをみて驚く少女に、希美が駆け寄って話かけた。すると少女は意気揚々に話し始める。

 

 

「勿論聞いていますぞ!なんでもこの世界とははたまた別の世界から来た……はっ!も、もしやあなた方が件の“大切なお客様”でありますか!?」

「あぁそうだよ…でも丁度いいや、学園長室まで案内してくれ」

「は、はい!私でよければ喜んで!」

 

 

言動から否めないポンコツ感と若干な不安を抱きながら、リデルと名乗る少女に学園長室まで案内してもらった。

 

 

 

 

魔法学園都市アシュラム。

人間の世と隔絶されたその学舎で、ペンタグラムと呼ばれる少女達が寝食を共にし、日々学んでいる。

 

 

「ようこそいらっしゃいましたわ!異界のお客人方!私はここの学園長をしておりますソローと申します!極東から遠路はるばるよくぞここまで!」

「あ……あぁ、よろしく」

 

 

否めない駄神ははおやの気配を若干感じつつも、ソローに一礼をした。

すると土方と沖田の周りを薄緑の短髪に紫紺の眼をした少女が食い入るように近づいた。

 

 

「うわー!私これ知ってる!ニホントウってものでしょ!!持ちたい!すっごく持ちたい!」

「あぁいいですぜ、どうなるか試してみるといい」

「うにー!総悟ーー!駄目ーー!」

「危険なことはしないでくれ、メル」

 

 

メルと呼ばれた少女は蒼髪のサイドテールに赤目をした少女、沖田は優里菜に差し止められた。勿論双方は不服そうに頬を膨らませた。

 

 

「そうですわよ!ニホントウは触れただけでも切れると聞きましたわ!でも…この方のニホントウは少し違いますわね」

「ぴ、ピカちゃんまで……ひっ」

 

 

銀時の方にもブロンドの髪をした少女が洞爺湖の木刀に興味を抱いていた。しかし、長い銀髪に碧眼の少女は高杉の目つきに少々たじろいでいた。

すると、ソローの視界から隠れるように明音が隠れようとしており。黒いおかっぱ頭に赤目の少女が少し難しい顔をしていた。

 

 

「あら、この子は……どうかしましたか?」

「あー…悪いソローさん。明音は以前の学校で酷い扱いをされてたんだ…しいて言うなら学校ぐるみのいじめ—————」

「まぁなんてことを!こんなかわいらしいお嬢さんが虐げられていたなんて…!」

 

そうしてソローはしばらく考え込んだ後。

 

「———そうだ!こちらのお嬢さんを特別に編入させましょう!!もちろんほかの職員にも聞きますが…虐げられていた記憶が薄れるほど、この学校で学びましょう!」

「ほんとーに…?こわいことしない……?」

「えぇ!勿論ですわ!お嬢さんのお名前は?」

「明音…澤城明音……!」

「アカネさんね!ようこそアシュラムへ、歓迎いたしますわ!」

 

 

明音の緊張がほぐれた表情に、希美達は安堵の表情を浮かべた。

空は、黄昏色に染まり始めている。ここからまた、忙しくなりそうだ。

 

 

 


 

 

和気藹々としている春咲希美達を、喜瀬舞奈香は遠距離デバイスで見つめていた。

仲睦まじそうにしていると微笑えんでいるのを、神威は後ろから覗き込んだ。

 

 

「先についたのなら顔を合わせに行ってもよかったんじゃない?」

「そうしたいのは山々さ……でも希美さん達も長旅で疲れているだろうからね」

 

その言葉に神威はつまらなさそうな相槌を呟いた。

 

「じゃあ、僕らの仕事を始めるとするか」

 

 

 

―――――黄昏色に染まり始めた空は、駆ける兎の姿を映していた。

 

人々の活動が静まりかける街中とは反対方向に動く俊敏な影は、誰も捉えられない。

 

 

蒼髪に赤い眼、スタンドカラーの襟のシャツの上から白いマントをたなびかせた少女は、カンタベリ修道騎士団の拠点内付近の大木の枝に乗る。

 

「……急ぐよ、神威。どうやら討ち入りの日らしい」

「討ち入り?随分と物騒なことをするね。でも舞奈香が言ってた通りなら、この時代って魔女狩りって終わってたような…?」

「あぁ、確かに終わっている。でも…あまり言い方はよくないけど“時代とは真逆の事をしている連中”って訳さ……ほら、行くよ」

 

 

赤毛の三つ編みの少年——神威は舞奈香の言葉とともに中へと侵入してく。

 

 

独立して忙しかったのは承知ではあったが、特異点修復を円滑に進めるためにも、事前に調査を進めていた。

そしてしばらくして、この世界に特異点が表出したのと同時に、舞奈香達はある存在を見つけた。

 

出処不明の熾天使騎士.......どうやら彼らが特異点を生み出したという。

 

しかしそれ以外の情報が少なく、総統括の春咲美麗に問うても濁った返事ばかりで___

 

........薄々は気づいてはいたが、どうにも確証が取れない。

故に証拠を回収して、彼女に問わなければならない。

 

必然的にそのタスクが生まれたのだ。

 

 

カンタベリ修道騎士団の本拠点に到着し、書庫に来た二人。

辺りを見回していくと……本棚には英語表記で書かれた難しい本や資料が大量に置かれており、神威はその活字の量に目を回していた。

 

そしてその奥に禍々しいオーラが漂う本棚を見つけ、舞奈香はその本を一冊手に取る。

 

「Heretical……異端か。神威、この本棚を中心的に調べてくれ。彼らの事だ、件の騎士に警戒して資料も少ないに違いない」

「いや—————そうでもないかもよ?」

 

神威が取り出したのは、Top Secret-重要機密-と背表紙に書かれた一冊の本があった。

中身はSeraphim Knights-熾天使騎士-というワードが確かに刻まれていた。

 

その単語以降はほとんど熾天使騎士の事についてだけではなく、この世界の技術、情勢、そして……今起きている冷たい戦争についても書かれていた。

 

 

「……事態は急を要するかもね」

「じゃあこの本を回収して終わり—————」

 

 

 

ひゅん、と音がした

 

 

 

 

————気が付けば、ライフル弾のように直進して神威の横の本棚に矢が刺さっているのがみえる。

 

 

「―――――!!」

「―――――!!」

 

 

一本、一本、また一本と矢が放たれ、神威と舞奈香は即座に物陰に隠れた。

 

 

……気配は完全に消していた。目立った足音も立てていない。

一体なぜかと、舞奈香は考えを巡らせていた。

 

「————あは、やっとまともな敵が来たね」

「ニンニクの刺激臭…あぁまずいな。神威、その矢に当たっては駄目だ。黄リンの可能性がある」

「…ちぇ、何のことかはわからないけど、逃げないといけないのか」

 

嬉々として敵襲に立ち向かう神威の服を掴み制止させる。

……むやみに攻撃しても見えない影の矢に当たって何れは追いつめられる。しかし、このままいても追い詰められて脱出口をふさがれる。

 

術式を使って脱出するのも策ではあるが、魔女狩りが横行しているこの時代で使うのは自殺行為で、そもそも穏便解決の道はない。

 

 

……つまり、解決方法は、もう一つしかない。

 

 

 

一瞬の隙を見た舞奈香。

 

 

 

その手に、サプレッサーが付いた黒塗りの銃を握りしめ。

 

 

銃口を、闇に向ける。

 

 

 

引き金を引き、けたましい銃声を響かせ。

 

 

 

虚空を、打ち抜いた。

 

 

 

 

 

「っつ————————!!!」

その弾丸を切った影の動きは止まり。二人はあまりにも危険な逃避行を始めた。

 

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