全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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プロローグ - おとぎ話がはじまる日

 

「ソダシちゃあああああああん!!!!!!!!!!!!!」

「わぷっ」

 

 真昼の名古屋空港、出入り口のロータリー。大量のお土産袋を腕にぶら下げキャリーバッグを引き連れていると、マフラーとコートを着た鹿毛の彼女が凄い勢いで飛びついてきた

 助走を付けてのダイビングハグ。ヒトミミならバランスを崩してすっ転ぶところを、私は自慢の脚を開いてなんとか踏ん張ってみせる

 

「おっとと。危ないところだったし」

 

 紙袋ごと力一杯抱き締めてくれる

 しょっちゅう電話してたから知っていたことではあるけれど、一月ぶりでも彼女は相変わらず元気溌剌で安心した

 しばらくの後、満足した彼女は私を解放し、向日葵のような笑顔で出迎えの言を叫んだのだった

 

「おかえりなさい!!!!!!!!!ソダシちゃん!!!!!!!!!」

「ふふ……ただいまだし。エールちゃん」

 

 釣られて私もニコリと微笑む

 同じ白雪の血が流れる親戚同士で、そして何より、小さな頃からのかけがえのない幼馴染

 大好きなメイケイエールちゃんがこうやって元気にしてくれるだけで、胸の奥から嬉しみが立ち昇る思いだった

 

「……わわっ!!!!!!!!!!!そういえば荷物が沢山ですね!!!!!!!!!!!半分お持ちしますよ!!!!!!!!!」

「ふふ……助かるし」

 

 紙袋のいくつかを彼女に手渡す

 袋の中には不特定多数にばら撒く用のお菓子詰め合わせと、他何十人かの友達には個別に買っている

 

「京都のお土産だし。もちろんエールちゃんにも、いっぱい買ってきたし」

「やったー!!!!!!!!楽しみです!!!!!!!!!」

 

 ぴょんぴょこ跳ねて喜びを表現するエールちゃん

 そんな嬉しそうな彼女を見てしまったら、今ここで全部あげたくなってしまう

 もちろんそんなわけにはいかない。そもそも私は、エールちゃんにどうしても渡しておきたいとっておきのお土産をいくつか買っていた

 私は中京校の寮に戻るためのタクシーを探しながら、愛しのエールちゃんに京都遠征の思い出を語りはじめるのだった──

 

 

 

 荷物を寮の自室に置いた後、私はエールちゃんと中京レース場へと向かった

 目的は、次の桜花賞に出走予定の子のレース。二つ目のGIを勝ち取るためにも、ライバルのレースは全てチェックするつもりでいた

 私たちが見ているターフでは、次のレースの準備が進められている

 ちょっと行儀が悪いけれど、ターフと立ち見エリアを区切る柵に私は体を乗せて寄りかかった。普段は・行儀のいいエールちゃんの方は、上品な姿勢を維持して直立している

 

「言っておくけど、たとえエールちゃんでも桜花賞は譲らないし」

「望むところです!!!!!!!!!……って、胸を張って言いたいところなんですけどね……」

「……どうしたし?」

「ほら私、いつもいつもレースで……あんなことになっちゃうじゃないですか」

 

 エールちゃんの表情に陰りが差し込む。彼女の複雑そうな反応の理由は自分のことのように知っている

 

「……」

「同じ選手たちに迷惑をかける私なんかが、競走選手を続けていいのかなって……」

「そうだ、忘れてたし」

「?」

 

 わざとらしく、遮るようにして声を出す私。落ち込むエールの姿は出来るだけ見たくなかった

 幸いにも彼女のテンションを戻す"とっておき"を持ってきていた。腕にかけていた手提げバッグから、お土産の一つである小包を探し出して中の物を手渡す

 エールちゃんの目はぱっと開いて輝く。それは『必勝守』と書かれた、白色のデザインが可愛らしい京都の下鴨神社のお守り

 

「わぁ……!!!!!!!」

「そんなこと言わないで。エールちゃんには、神様と私がついているから」

 

 どうにか安心させようと優しい笑顔を作る私

 どちらかというと、神頼みのアイテムとして渡したわけではない。それはレースのことで沢山思い悩む彼女へ宛てた、私自身の気持ちの証としてのお守りだった

 ……あなたはいつも、一人で抱え込んじゃうから。私がついていること、頼って良いんだってことを、お守りを通して覚えていて欲しかったのでした

 

「ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!ずっと!!!!!!!!!ずっとずっとずっっと大切にします!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「それならよかったし」

 

 お守り一つで叫ぶほど喜んでくれるなんて。正直自分のチョイスに不安だったから、他にも色々買っておいていたのだけれども、ここまで嬉しい表情をしてくれるのならえらんだ甲斐もあったというもの。やっぱり他のお土産も全部貢ごうかしら

 

 しばらく経った後、私の目的である第10レースが始まった。ターフビジョンにはターフを走るウマたちが写っている

 実況の名前に上がるウマの半分以上が知らない名前。他校から出場する子もいるし当然ではある

 

 コーナー奥から、土を蹴って進みゆく無数の足音が徐々に近づいていく。ゼッケンと体操服の姿、みんな必死の面持ちをしている

 そこから……一人だけ。三つ編みを後ろで二つ結びにした女の子が、涼しい表情をしながら抜け出したのが見えた

 彼女こそ、桜花賞に出場予定である観察対象その人だった

 

 それはまるで、自分の道を拓いていくような堂々とした走り姿

 一バ身、二バ身、三バ身と、彼女は背後のバ群をするすると離していく

 何人かが彼女に追い縋ろうとバ群から飛び出すも、尻尾でさえ届くことはない

 ……着差三バ身の圧勝。正直重賞でもないから大したことないだろうとタカを括っていたが、これほどの強さを見せつけてくるとは

 

「へぇ……やるじゃん」

「……」

 

 GI覇者らしく、柵で肘をつきながら強者っぽいセリフを吐いてみる

 しかし内心、ほんのちょっぴり焦りを覚えてしまっている自分もいた。真面目な話、彼女の切れ味のある脚は非常に厄介だ

 他にも厄介そうな差しと追込がいることはリサーチ済み。となると後半でどれぐらい後続組との距離を作れるかが鍵になりそう

 いつもどおり前半は先頭集団に控え、後半の直線では早めに仕掛けるのがよさそうだ

 

 拍手と歓声が勝者にたむけられる。ターフの上ではあの青鹿毛の彼女が嬉しそうにガッツポーズをしている

 目的も果たしたし、そろそろ戻るし。横のエールちゃんにそう問いかけると、微動だにせずターフの方に見つめている。どうやら青鹿毛の三つ編みの子に釘付けになってしまっているよう

 

「………すごかった、ですね」

 

なんだかエールちゃんは、新しい憧れの一つを見つけたような、そんなキラキラした横顔をしていたのだった




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