全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
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5月9日、日曜日。元トレーナーを名乗る酔っ払いと話した日からだいたい一週間が経った
早朝の南武線にて、座席に座るアタシは、車窓から神奈川の街をボーっと眺めていた
朝5時から名古屋駅で新幹線に乗り込み関東へ。新横浜を降りてからは在来線を使って、東京レース場がある府中本町駅まで向かっていた
関東に行くのはこれが初めてだ。一人でいくのは不安だったから、本当はエールと一緒に行動したかったのだが……彼女は中京校校長の娘としての用事があるみたいで、先に現地入りしなくてはならないみたいだった。その上、親が宿泊費を節約しろとうるさいので、アタシだけ当日合流という流れになっていた
勝負服衣装は会場に郵送しているので、ほとんど手ぶらでいいのが気楽だ。ダボっとした白のチルデンニットに明るいデニムジーンズという春コーデ。一般の体育大会は学生服やジャージで会場に向かうのが普通らしいが、競専は私服での移動が許されていた
手提げバックには財布とメイクアイテムとちょっとしたアレコレだけ。側から見たら、アタシがこれから時速60kmの大レースに身を投じること、わかんないんじゃないかな
日曜の朝だからか、車内には少し多めの乗客。前の座席も乗客がギチギチに座っている。その中に、競走新聞を広げている男二人組が目についた
「メインレース誰応援する?俺はシュネル」
「いや普通にGI覇者のデウラヴォーリネエでしょー。前走の朝日杯見てないん?」
「見たけどさぁ〜、アイツそんな強くないと思うんだよな〜」
片方は紫色に、もう片方はピンク色に髪を染めている二人組。派手なネックレスとパンクな服装。オシャレというより奇抜で、あまり近寄りがたい装いだ
盗み聞きするつもりはなかったのだが、ウマミミの聴力では嫌でも声を拾ってしまう。話によると、彼らも東京レース場に向かっているところなのだろう
「ハルコミニカちゃんもありかもなー。なんてったってカワイイし」
「それ強さ関係ないじゃん笑」
「可愛さと強さはヒレイすんだよ」
「適当いうな〜笑」
競走新聞の表紙一面には、今日のメインレースがどデカく特集されており、支持を集めている出走者の顔写真が鮮明に載っている
自分で言うのもなんだが、ウマは例外なく美男美女揃い。俗に顔ファンと呼ばれる客も少なくなく、むしろ管理局の広報はその容姿端麗さを猛プッシュしている節さえあった
てか、出走者の一人がここにいることもバレちゃうかもな。そわそわしていると、聞き馴染みのある名前が聞こえた
「メイケイエールちゃんも可愛いよ」
「そりゃ顔はな!!美人でスタイルも抜群だけどさー、レースになると頭おかしくなるじゃん」
「可愛いと強さは比例するんじゃなかったの?」
「いろんな意味で強いじゃ〜ん!!笑笑」
「その強さはダメだろ笑 てかなんでまたレース出てんの?笑」
「ねー俺も思った笑 またアイツ荒らすんじゃね?」
……まあ、世間の認識なんてそんなもんだよな
真面目に走っているつもりだとしても、側から見たら危険存在。レース中に暴れて他者を妨害するなんて、そんなの言語両断だ
アタシだって、彼女に向き合っていなければ、今日までずっとエールにキレ散らかしてたかもしれない
この風潮は彼女自身が招いたこと。アタシには関係ないと、そう思おうとするが……
「一緒に走るやつカワイソーだよなー。危ないし」
「間違いないね」
「………」
号泣するメイケイエールに投げかけた言葉が頭によぎる
────言ったからには、アタシも……アタシなりにお前のこと、考えてみるからさ……
(でも、そう言っちゃったしなあ〜〜………)
エールがいきなり辞めるだなんて言い出すから、なんとかそれを止めさせる為に咄嗟にいろいろ口にしていたことを思い出す
この風潮は彼女自身が招いた事だが、彼女一人で名誉挽回出来るとも思えない
本人はもう忘れてるだろうが、言ったからには、なあ………… アタシは小さく、二人組にバレないようため息をついたのだった
ソングライン + メイケイエール vs ………… 第26回NHKマイルカップ(G1) 東京レース場芝左1600m
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「ボクが8番人気なんておかしいでしょ!?もっと高くていいのに!!」
「妥当だろタイムトゥヘヴン。未勝利しか勝ってないんだから」
「重賞2着入線してるよ!?しかも二回も!!!」
「それじゃ足りないってことだろう」
東京レース場の地下通路では、勝負服に着替えた選手たちがパドックに向かって歩いている
GIレースはみんなが夢みる大一番。選手たちはみんな派手な衣装を着てレースに望む
その中で、深い緑と黒を基調とした派手なスーツを着こなすのは、同じクラスのタイムトゥヘヴン。彼は、自分の人気の無さに不満げな様だった
「あのなぁタイムトゥヘヴン。GI覇者の1番人気、デウラヴォーリネエは言わずもがな。前走でお前を負かしたハルコミニカは3番人気にいる。一体、この順位のどこが不満なんだよ」
「2番人気のシュネルくんだよ。重賞経験たったの一回でそれも2着でしょ!?彼が2番人気で、重賞2着二回経験のボクが8番人気なのおかしくない??」
「そのシュネルの重賞って、タイムも出場してた弥生賞だろ。お前何着だった?」
「…………………6着」
「ダメじゃん」
といっても……人気なんて、どれだけ大衆から支持されているかを測る数値に他ならない
1番人気のウマがあまり走らなかったり、人気薄だったウマが勝ったりすることなんてザラだ
「ボクが低いのはしょうがないとしてさあ、なんでラインは7番人気で、僕より人気高いんだよ」
「エールの妨害を食らった桜花賞除けば[2-1-0-0]だからな〜。たった一勝しかしてないお前よりかは期待されてるってことだな」
「ぐぬぬ……」
ニヤニヤとタイムを揶揄うが、ぶっちゃけ7番人気も8番人気もあんまり変わらない。上位以外は結局、どっちも大して注目されていないってことだからな
タイムと雑談しながら歩いていると、地下通路の出口が見えてきた。パドックは目前で、観客たちのざわざわ声も聞こえてくる
……おおっと、危うく“彼女”を置いていくところだった。観客からは見えないギリギリ死角のところで、アタシは何も言わずに立ち止まった
「ん?行かないの?」
「待ってる奴がいるから。先行ってて」
ふーん。と興味なさそうにして、そのままタイムはパドックへと進んだ
ここから見えるパドック内部では、すでに何人かの選手が入場しているよう。この時間ではパドック内部を何度も周回して、観客に自分の競争能力をアピールしなくてはならない。選手たちも、観客に向けて意気込みを語ったり、他選手に挑発をかけたりと、なにかしらのアピールしていた
アタシにファンらしいファンなんてそんなにいないけど、せっかくなら何かしようかな。ふとそんなことを考えていると、パカパカと背後からコンクリートの上を走る音が。彼女こそが、アタシの待ち人だった
「お待たせいたしました!!!!!!!!!」
「もう。遅いぞメイケイエール」