全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

13 / 43
第9話 - 見てないで急がなくちゃ

ソングライン vs シュネルマイスター

第26回NHKマイルカップ(G1) 東京レース場芝左1600m

 

01 札幌 タスラコッカ

02 京都 エネモル

03 中山 アルバダンス

04 阪神 ハルコミニカ

05 福島 ステンドユーレイ

 

06 中山 トゥルーヴィクトリ

07 中京 タイムトゥヘヴン

08 東京 デウラヴォーリネエ

09 京都 ロイスタクティクス

10 中京 ソングライン

 

11 中山 ゾージョクラシカル

12 札幌 シチジュウ

13 阪神 ミッツテンカオー

14 京都 ブルーツー

15 中山 シュネルマイスター

 

16 京都 カーシャルトン

17 阪神 ロジスティネイピア

18 中京 メイケイエール

 

 

ハルコ(ゲートが空いたら出る。ゲートが空いたら出る。ゲートが空いたら……)

 

 いよいよ始まるNHKマイルのゲート内にて、こわばる表情の阪神ハルコミニカは、同じ言葉をゼンマイおもちゃのように繰り返していた

 “ロケットスタートを決めて、全員をあっ!と驚かせるんだ。驚いている隙にハナを取り、差を広げて他選手とのハンデを作れば、デウラやシュネルにも有利に戦える”………出走前、彼女のトレーナーから教わった事である

 

ハルコ(ゲートが空いたら出る。ゲートが空いたら出る。ゲートが……)

 

 ガシャン。唐突にゲートが開かれる。ロケットスタートのタイミングを逃したハルコミニカは、焦りで自分の脚を地面に引っ掛け、大きく転倒してしまった

 

ハルコ(ゲ〜〜〜っ!!!!!)

 

 その他17頭は、問題なく綺麗なスタートを切る

 さて、100m通過。前半のハナの奪い合い。展開予想では、阪神ハルコミニカと札幌シチジュウのどちらかがハナを取るとされていた

 そのハルコミニカは転倒。現在先頭では、シチジュウがハナを取るため加速していく。しかし、彼とは別にもう一人、大外からハナを取ろうとする選手がいた

 

 ……中京メイケイエールである。彼女は自分の暴走癖を憂慮し、バ群の中から大きく飛び出していた

 

エール(自分で本能を制御出来ないなら、最初から大きく逃げてしまえ!!!余興レースと同じ流れにはなりますが、こうじゃないとまた誰かの迷惑になってしまいます!!!!)

エール(私の最悪なやらかしを、優しいソングちゃんは許してくれました!!!また同じ繰り返しになるのは、負ける以上に嫌です!!!!!!)

 

 加速するメイケイエールはシチジュウをちぎって先頭へ。彼女の大胆な行動に、後続の選手たちはおのおの思索を巡らせていた

 

ソング(克服どころかまたバチバチに掛かってるじゃ無いか!!!!そんな簡単に治らないのはわかってたけどさぁ……)

タイム(エールちゃんペース早すぎ〜!これ真面目に追ってたら直線でガス欠するな)

デウラ(噂のメイケイエールちゃん、派手に暴走してるじゃん。どうせ勝手に落ちるから無視無視)

シュネ(ハイペースを誘ってるつもりなのか?まあオレは後方差しだからペースは乱れてくれる方がありがたいけど。ソングと仲良さそうだったし、中京組で結託している可能性も考慮しておこう)

 

図解

 

 400m通過、ラップタイムはなんと10.2。中京メイケイエールが作るとてつもない早いペースを、後続たちは追走する

 1番人気である東京デウラヴォーリネエの背後に、中京ソングラインと中京タイムトゥヘヴンが控えており、中山シュネルマイスターはそのさらに後方という形になる

 

ソング(エールのことはいい!!今はとにかく自分のレースに集中しなきゃだ)

ソング(最終直線で全力をぶつけるためには、スタミナの消費を抑えなくては。出来るだけ走行ロスを減らして走ることを考えなくてはいけない)

ソング(……ふむ。コーナーの内はかなり走り辛そう。どうしようかな)

 

図解

 

 ソングラインは前方を見やると、コーナーのラチ側の芝生が掘られて茶色の土が見えているのを認識した

 通常、走りにくい場所を無理やり走ると、その分余計なスタミナの消耗をすることになる。だが外を回ればそれこそ距離でロスになる

 コーナーでの動きを考えていたソングラインは、万全を期すためにまだ生きている芝の道内側ギリギリを走ることに決めた

 600m通過地点。第3コーナーに入ってソングラインはその通りに動こうとする

 ……しかし、彼女以外にも同じ考えのウマがいたようだった。ソングラインの内側となりには、中京タイムトゥヘヴンが入り込んでいた

 

図解

 

ソング(そこ譲れよっ!!!!)

タイム(絶対に嫌だね!!!!)

 

 ソングラインのすぐ近くを走っていた中京タイムトゥヘヴンも、彼女同様生きている芝のギリギリを走ることに決めていた

 結果的に、タイムトゥヘヴンはソングラインを内からブロックする形になる。ソングラインは、一回り外を回らなくてはならなくなった。外周を回る分他選手より長い距離を走る必要が生まれたので、彼女にとって手痛いロスだ

 

タイム(僕だって勝ちに来てるんだ。悪いけど、お前のプレッシャーには屈しないからな!!)

ソング(……クソッ。ムカつくが、今はこのまま行くしかない。下手に動く方が体力を消耗する。これは些細なロスとして割り切ろう。覚えていろよタイムトゥヘヴン)

 

図解

 

 選手たちはアクシデントなく第4コーナーを回り、最終直線へ突入。先頭は変わらず中京メイケイエールだった。前半で大きくかかった彼女は、この時点で限界が近づいていた

 

エール(はぁ……はぁ……!!まだ、走れる。私は、まだ走れる!!!!!!)

 

 元トレーナーを名乗る酔っ払いの男が公園で彼女に教えた通り、メイケイエールの強みは“速い脚を長く使えること”にある

 それが、彼女がかかりながらもこれまで重賞を三勝できた理由の一つだった。彼女には、スプリント上位レースの高速ペースを難なく追走できる力を持っていた

 

 ……しかし、その才能だけで勝てるほど、GIマイルは甘く無い

 粘り強く追走していた、1番人気の東京デウラヴォーリネエ。彼はコース外めからメイケイエールを追い抜いたのだった

 

デウラ(お先……!!)

エール(ぐっ………!!!)

 

 前半あれだけ飛ばしたメイケイエールに、デウラヴォーリネエのスピードに追いつけるだけの体力は残されていない

 これ以上の追走が出来なくなっているメイケイエールは、主戦場から速やかに脱落していった

 

エール(……ダメです。またあの時のように、勝たなきゃ、勝たなきゃ!って本能が、胸の奥底から吹き出しそうです!!!)

エール(ここで今、“それ”を解放したら、もしかしたらデウラさんに追いつけるかも……)

エール(いやいや!!!!!それで勢い余って近くの選手さんを横から突撃してしまったらどうなる!!!?ソングちゃんも一緒に走っているんです!!!!!)

エール(そうです!!!!!自分の制御ができなくなる方が、何よりもダメ!!!!抑えろ!!!!抑えろ!!!!)

エール(……せめて、せめて暴走しないように、泣き叫ばないようにしなきゃ!!!!堪えるんだ私!!!!!!!最後まで、私のままで走り切るんだ!!!!!!!!!)

 

図解

 

 残り300メートル。デウラヴォーリネエの背後にて、タイムトゥヘヴンは先頭へ抜け出すタイミングを見計らっていた

 左の内か、右の外か。どちらでも走りやすさに有利不利はないが、自分の右にはソングラインがいる。自分が外方向に進路を取れば、彼女はまた余計外を回る必要が出てくる

 ソングラインに対しても危険視していたタイムトゥヘヴンは外を選択。彼は外方向に進路を取って、デウラヴォーリネエを交わそうとする

 

 だが、一歩遅かった

 

図解

 

ソング(どけっ!!!)

タイム(ひっ!!!危なっ!!!)

 

 彼同様虎視眈々と抜け出しを狙っていたソングラインが一歩早く動き出していたのだった。デウラヴォーリネエとソングラインが接近することにより、タイムトゥヘヴンが狙っていた進路が絶たれてしまう

 ここでタイムトゥヘヴンは、ラストスパートをかけるタイミングを逃してしまったのだった

 

ソング(悪いなタイムトゥヘヴン。さっきのお返しだと思ってくれ!!)

ソング(……さて、ここからが本番だ!!!)

 

 ソングラインは後方からの競馬を得意とする。最終直線で切れ味の高い末脚を起爆させ、先行バを纏めて交わす戦術だ

 タイムトゥヘヴンをふさいだ彼女は、そのまま本レースにおいて最も大きな脅威であった一番人気デウラヴォーリネエに急接近。彼を追い抜くたった今この瞬間が最大の正念場であると判断した彼女は、このタイミングで自らの末脚を炸裂させた!

 

ソング「だぁらあああああ!!!!!!!!!」

デウラ(ヤバ!マジかマジかマジかっ!!)

 

 一番人気の東京デウラヴォーリネエは、先行での最高速の持続と粘り強さがストロングポイントだった。前々走のGI朝日杯では強みの粘り強さを最大限に発揮し、1:32.3というレースレコードタイムで阪神のマイルを走り切った

 しかし本レースの勝ちタイムは、それを0.7秒上回る1:31.6……デウラヴォーリネエは、メイケイエールが作り出したハイペースにはなんとか対応できても、後ろから抜きにかかる差しバのスピードに対応できるほどの体力は残されていなかった

 

 先頭は、東京デウラヴォーリネエから中京ソングラインに変わる

 

ソング(しゃあ……!!デウラとか言うやつに、なんとか競り勝てたぞ……っ!!!)

 

 前方はもう誰もいない。自分一人の独擅場だ。ソングラインはゴールまでの景色を見て、無意識に口角が上がっていた

 

ソング(ぶっちゃけこうなるとは思ってなかった。上位人気はシュネル含め実力者揃い。今回のレースでは、シュネルより順位が高けりゃそれで充分だと思っていた)

ソング(だがたった今!!!!!実力者犇くバ群の先頭はアタシになった!!!!)

ソング(ハハ…………桜花賞でぶち当たった不運が、ここで幸運になって帰ってくるとはなぁ!!!!)

ソング(見えた!!!アタシの初GI勝利!!!やった!!!いけるぞぉぉぉ!!!)

 

図解

 

 そしてソングラインはダメ押しにと、デウラヴォーリネエの進行方向へ被せに行く

 斜行に該当しない進路変更。被せによって、デウラヴォーリネエの直線再加速を防ぐ算段だった

 ソングラインにとって、たった今交わしたデウラヴォーリネエこそが最大の不安要素。彼の進路を塞ぎ、目前の勝利を完全なものにする……そのつもりでの行動だった

 

 ────だがその選択が……警戒する相手を見誤ってしまったことが、彼女の敗北を決定的なものにしてしまった!

 残り200メートル。誰もいない前方の光景を拝むソングラインは、無意識下で自分の勝ちを確信していた

 

 その彼女の確信を、嘲笑うかのようにして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソング(しまっ………)

 

 ソングラインの確信を嘲笑うかのようにして、背後から絶大なスピードで上がってくる選手がいた

 それは、ソングラインが本来もっと前から警戒すべきだった。古くからの因縁の相手………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図解

 

 “速度大師”

 中山シュネルマイスターだ────

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。