全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
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「……ハァ……ハァ………ハァ………」
………体内を駆け巡る血液は呼吸を絶えず要求する。酸素と二酸化炭素の交換が忙しなく回る
何百もフルパワーで土を蹴った自慢の脚から、1センチでも前へ前へと進む為に伸ばしたこの身体から、感覚の悲鳴と共に汗水が雨のようにして体外へと放出される
四つ這いのアタシがある程度の思考を取り戻すのに、おそらく2分はかかったろう。そこでようやく、観客エリアがどよめいているのに気がついた
────そうか。入線は、同時だったんだ
追い込むシュネルマイスターと逃げるアタシがゴールラインに入った瞬間。それは、ほとんど同時だったんだ
だってほら、あの掲示板。三着以下はもう数字が灯っているのに、一着と二着の枠が未だ空欄なんだ。その代わりに、各選手の着差を示す横のランプには、判定中を表す“写真”の文字が示されていた
だから観客はどよめいていたのだ。アタシとアイツ、どちらが勝ったのか。審判がその結果を下すのを待っているのだろう
レースの勝敗を定義する決勝線。それを特殊なカメラで撮影し続けることによって、ウマの順位を判別することが出来る。その結果が出ない限り、どちらが勝ったのかはわからない。アタシの記憶が正しければ、確かそうであるはずだ
それなのに………
………
なぁ
なぁ、シュネルマイスター
どうして、お前は……
……
どうして、お前はそうやって。余裕そうに笑っていられるんだよ
…………
なぁ!
なぁ!!!!シュネルマイスター!!!!
どうして………
どうしてお前は………!!!
「まるで勝ちを確信しているような表情で………アタシを見下していられるんだよ!!!!!!!」
……アタシの顔が歪んでいるのが、苦痛のせいか、憎悪のせいか。それはもう、自分でもよくわからなくなっている
だが、ヘラヘラと見下してくるシュネルマイスターは……アタシの掠れた叫びに、ゆっくりと憎たらしい声で返答したのだった
「………久しぶりに、キミのいつもの捨て文句を聞きたくてさ」
電光掲示板の、写真判定のランプが消える
一着 中山 シュネルマイスター
二着 中京 ソングライン ハナ
三着 東京 デウラヴォーリネエ 2.1/2
ギリッ、と。奥歯が擦れて音が鳴る
屈辱の火花が、アタシの口の中で弾ける
だが、四つん這いから立ち上がるだけの気力なんて、アタシにはもう……
「……………………」
最後の最後でアタシが勝利を確信して油断した理由。それは、みんな遅かったからだ
身体の発達の他にも、ウマの聴力はとても優れている。周囲5メートルなら、選手がどこにいるか、その選手の速度はどれぐらいか、脚音だけでなんとなくは把握できる
デウラヴォーリネエを抜かすちょっと前。背後から緩やかに迫ってくるシュネルの脚音なんて、アタシのウマミミは当然捉えていた
だがその時は、遅かったのだ。正確に言うとアタシよりちょっぴり速いくらいなのだが、それはアタシがまだスパートをかける前の速度。アタシをゴールまでに追い抜くには、これから炸裂させるアタシのスパートよりもずっと速くなくてはならない。このスピードと距離なら、ゴールまで全然間に合うと思っていた
エールが作ったハイペースのこともある。ハイペースになれば、選手は持久力を要求される
スピードではアイツに劣るが、持久力ではアタシの方が上だったはず。だから、彼のスピードの遅さを感じ取って………彼はスタミナ切れなんだと。アタシを抜かせるだけのスタミナはもう残されていないのだと、思いこんでいた。いいや、思いこまされた
「………のれ………」
だからシュネルマイスターのことなど放っておいて、デウラヴォーリネエとの競り合いに集中したんだ。そして競り合いに勝ち、満足し、ここでレースの勝ちも確信してしまったのが運の尽きだった。そしたらアイツは、待ってましたと言わんばかりに、超加速して迫ってきたのだ
ドイツで駿足と持ち上げられていたシュネルの全力の末脚だ。彼の全力の速さなら、先頭のアタシなんて一瞬で追いついてしまう。だからこそ、全力スパートをぶつけるタイミングを待つという賭けに出れたのだろう
シュネルマイスターは、あえてスパートをかけるタイミングを待っていた
アタシを油断させる為。それだけの為にだ!
「おのれっ…………」
そうだ。アイツの考えを今全部理解した。アタシはシュネルマイスターに、まんまと出し抜かれてしまった───ッ!
GIの大一番で、こんな恥ずかしい負け方!しかも、根本的にはアタシのせい!!アタシが油断さえしなければ、最後までシュネルを警戒していたのなら、一着入線はアタシだった!!!
シュネルマイスターは、アタシの弱い部分に気づいていたんだ!!!それどころか利用してハメてきやがった!!!
悔しい、悔しい、悔しい!!!こんなの、こんなのって!!!今までアイツと戦ってきた勝負の中で、一番最悪で屈辱的な負け方じゃないか!!!
「おのれシュネルマイスターーーーッッッ!!!!!!!!!
次こそ………!!!!次こそはっ!!!!!!!!!!!!!!
必ず……必ずアタシが……お前をっ!!!!!!!!!!!」
アタシの絶叫は、観客の喝采によって真っ先に打ち消されてしまう
聞こえないよと言わんばかりに、憎たらしいアタシのライバルは、観客の声援に応えていたのだった………