全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
奥歯を深く噛んで、ひきずった負の感情をどうにか押し殺そうとする
夜の8時を過ぎた東海道新幹線。NHKマイルが終わり、そのままエールと共に住んでいる名古屋まで移動している道中だった
大会に出場するためにわざわざ東京まで行ったのに、中京校では明日も変わらず授業がある
ホント、キッツイスケジュールだ。ゆっくり身体を休めるどころか、感情を落ち着かせる暇さえ与えてくれない
「負けちゃい、ましたね……!」
「…………そうだな」
「でもでも、GI2着も相当凄いですよ……!」
「重賞三勝の天才少女サマに言われても」
「いやいや!私はGIレースで一度もバ券内に入ったことないので!!それにほら!私なんていいとこなしですよ!!」
「お前暴走してたしな」
隣に座るメイケイエールはえへへと控えめに笑う。てかコイツ、やけにグイグイ話しかけてくるな。そんなにアタシとしゃべりたいのか
とはいえ声量は控えめで、なんだか気を使っているようなそぶり。ふと自分の眉間に触れると、皺が深く寄っていたのに気がついた
それもそうだ。アタシは今、めっっっっちゃくちゃにムカついていたのだった
NHKマイルの一着シュネルマイスターと、二着のアタシの着差はハナ。数値にして1センチあるかどうか。それが公式の結果だ
だが、本当はそうじゃない。あのハナ差は本当の実力差を反映したものではない。シュネルマイスターは、絶対にもっとやれていた筈だった
………アイツが最初からガチだったなら、おそらく2バ身差はつけられていただろう
なのにアイツは、わざわざアタシを油断させるためだけに、本気を出すスパートのタイミングをわざと遅らせていた
そうだ。彼はアタシを超舐めていたんだっ!!しかも一番悪いのは、舐められるレベルの実力しかない自分自身っ!!その事実がどうしようもなく、悔しいっ!!!
怒りと悔しさがフラッシュバックし、ギリギリと奥歯同士を擦り付ける。アタシのその姿にも臆さず、またエールはアタシに話しかけてきた
「知っていますか?今回のNHKマイルの時計、歴代で二番目に早かったみたいですよ……!!!!!!!!」
「………誰かさんがハイペース展開にしたせいでな」
「へへへ……結局12着になっちゃいましたけれど……!!!!私ってまだまだ全然ダメダメですよね……!!!!!!!!」
「…………」
愛想笑いを浮かべながら、アタシの毒突きを呑気に受けとめていく真面目少女
勘弁してくれよ………お前ってやつは、空気も読めないのか。こりゃ直接言ってやらないとわからないな
アタシはゆっくりエールの方を睨みながら切り出した
「……メイケイエール。ちょっと静かにしてくれないか」
「えっ」
「アタシ、今すごいイラついてるんだ。今お前にも構ってる余裕なんてない」
「あっ………それは大変っ、も、申し訳ございません………」
途端に彼女から愛想笑いが消え、アタシの睨みを避けるよう下を向く
「………私また、ソングちゃんにご迷惑を………」
そして訪れる重い沈黙。非常に気まずい空間の出来上がり
………バカだろアタシ。エールを凹ませてどうしたいんだ
彼女に当たったところで、何も変わりゃしないというのにさ
それどころか、彼女との間に壁を作ってしまった。そんな短慮女だから、シュネルにも負けたんじゃないのかっての
あーもう、こんな自分にはほとほとうんざりだ
「………そこは、“ごめん”だけでいいだろ」
「…………」
「あーいや。その…………アタシもちょっと、言いすぎちゃった。ごめんなメイケイエール」
「いえ………」
「…………おしゃべりしたかったんだろ?」
「え?」
「いいぞ、付き合うよ」
「そんな。無理しないで下さい」
「気が変わったんだ。黙りこくってるよりかは、お前と喋ってる方が気分が紛れそうだしな」
「大丈夫ですって。私が喋りたかったわけではないですから」
そうなのか? と、エールの方へと振り向く。真面目少女はなおも俯き、重い表情を浮かべながら呟いた
「ただ、苦しそうな表情を浮かべるソングちゃんの力に、なれたらって」
…………お前ってやつは、本当に
ほんのちょっぴり照れ臭くなったアタシは、エールの頭頂部に手を伸ばし、栗毛の髪の毛を軽くわしゃわしゃ掻き乱した
「わ!!!!!!!何するんですか!!!!!!?!?」
「別に〜?なんでも〜?」
驚いてついアタシに顔を向けるメイケイエール
そうそう。クヨクヨしてる時よりも、断然こっちの方がいい。笑顔ならもっと良かったけどな
「アタシのこと考えてくれて嬉しいよ。でもなぁ、あえて話し掛けずにそっとしておくことも、時には必要なことなんだぞ。覚えておきな」
「そういうものなんでしょうか」
「まあな……… でもやっぱ話そうよ、アタシたちのこれからのことをさ。そっちの方が、アタシはいいや」