全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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第11話② - 痛いのはまだ、まだ慣れてないからかな

「アタシたちの目標を一旦整理しようか」

 

 東海道新幹線は新富士を通過した。朝に乗った時は窓の外の富士山を見て、呑気にインスタに上げる用の写真を撮っていたが、今はそんな気分じゃ無いし、というか夜だからそもそも見えないし

 水筒の中身を全部飲み干した後、アタシはエールに話を続けた

 

「アタシはシュネルに勝ちたい。エールは自分の暴走癖を克服したい。お互い、その目標を達成する為に練習をして来たが、今日の本番NHKマイルでは全くの成果が実らなかった」

 

 シュネルマイスターへの恨みつらみを抑えるには、一度頭を冷やす必要がある。アタシにとって、目標を見直すのは冷静になる為に必要なことだった

 

「問題なのは、現状のトレーナーのいない野良の状態だよなぁ。やっぱり二人三脚で支えてくれる経験豊富なトレーナーがいないと……」

「ちょっと待ってください」

「ん?」

 

 メイケイエールは突如、真顔でアタシの話を静止した。彼女が真面目な話をしだす時は、あのやかましい感嘆符を、一切つけずに真顔で喋る。アタシはこの真顔エールを、“プレーンエール”と密かに呼んでいた

 

「ソングちゃん。全くの結果が出なかったというのは、自分を卑下しすぎだと感じます」

「何だと?」

「だってNHKマイルハナ差で二着だったんですよ!?もう実質優勝してるみたいなもんじゃないですか!!!!!!!!」

「早速話の腰を折ろうとするなよ。あの時のシュネルは本気じゃなかったんだって言ったろ? ほとんど同着だったと高をくくっちゃ、次の勝負だって負けてしまう」

「あーいや、そうではなくて…… うーん、なんて言えばいいでしょう……!」

 

 早速わけもわからず、うんうんと悩み始める真面目少女。アタシはいち早く今後の話を進めたいのに

 

「……シュネルさんは言うまでもなく強かったです!!!!でも一旦、強い勝者と比べるような相対的評価ではなく、レース全体を俯瞰した絶対的評価で見てみるのはいかがでしょうか!!!!!!!!!」

「絶対的評価」

 

 お、メイケイエールのテンションがちょっとだけ上がりはじめてきたぞ

 

「ですです!!!!!!!!先程も申したとおり、今回のNHKマイルの時計は歴代で二番目に早かったんです!!!!!!!会場にいらっしゃった職員の方々は、口を揃えてレベルの高いレースだったと語っていました!!!!!!!!!」

 

 それは初耳だった。しばらく控え室に篭っていたから、実のところレースの結果の詳細はよく知らなかった。エールの順位すらさっき知ったぐらいだった

 彼女のほうは、どうやらエール・エンジンがかかってしまったようで、どんどん前のめりで早口でやかましくなっていった。彼女の口角も自然と上がっていた

 

「ということは!!!!!レースで上位に食い込んだ選手さんは、とてもレベルが高いってことなのでええええええええす!!!!!!!!

 そうでなくても、超超ちょーーーーおエリート学校の東京校から来た、一番人気のデウラヴォーリネエさんに、ソングちゃんは二バ身差つけているんですよ!!!!!!!!!これが実力の証明と言わずになんと呼ぶのでしょう!!!!!!!!!」

 しかもソングちゃんの場合、トレーナーのいない野良であるのにも関わらずここまで来た選手ということになります!!!!!!!!!そんな丸見えのダイヤの原石、ほっとくトレーナーさんなんていませんよ!!!!!!!」

 

 そして最後に、彼女は一拍を置いてから、ニッコリと結論を述べた

 

「つまり野良である現状を案じなくても、これからソングちゃんの元に、沢山のトレーナーからのスカウトが大挙してくるってことなのです!!!!!!!!!!!!」

 

 ………ほーお、なるほど。スカウトかぁ

 シュネル敗北に意識が持っていかれすぎていて、そこまで自分のことを想定することが出来なかったが、そうかそうか。アタシに、スカウトが来るかもしれないのか

 

 ───そっか。アタシって、ちゃんと強くなっているんだな

 

「中京は残念ながら校内のトレーナー制度が明確に禁止されていますが、東京、中山、阪神、京都などの強い競専専属トレーナーならば!!!!!!!!きっとソングちゃんのことをスカウトしにくるはずでええええええす!!!!!!!!

 また競専外なら、名古屋のトレーニング塾からのスカウトだって全然あり得ます!!!!!!!!強いウマが所属しているだけで、塾の広告になりますからね!!!!!!!!!」

 

 もしそれが本当に現実になるってんならありがたい

 ……でもちょっと待った。都合の良い想定がそう易々と現実になるとも思えない

 

「エール。将来の話には出来るだけ空想や妄想といった類を詰め込みたく無い。その話にどれぐらいの確証があるのかだけ、聞いてもいいか?」

「私がこう考えたきっかけは、レース後の競専関係者席にいた方々がみんな、ソングちゃんの話で持ちきりだったからなんです!!!!!」

「関係者席?おいおいちょっと待て、学生のお前がいつ関係者席に行くんだよ」

「えっ!!!!!!忘れちゃったのですかソングちゃん!!!!!!!!!」

 

 アタシの反応に驚愕した様子のメイケイエールは、高らかに、そしてうるさく宣言する

 

「私は!!!!!!!!!!!!

 中京校校長の!!!!!!!!!!!!!!

 義理の娘なんですよ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「わかったわかった!!!!関係者と近しい立ち位置だから話も入ってくるってことね!!!!理解しましたよ!!!!!というか、もうそろそろやかましいぞメイケイエール!!!!!」

 

 そういやそんなこと言ってたなぁ……メイケイって冠名は確か、中京校の古い名前、“名古屋競専”から来てるんだっけか

 だがメイケイエールは、アタシの憤怒に臆さないどころか、クスリと笑って一言

 

「ふふ♪ ソングちゃん、元気出てきましたか!?」

「お、お前なぁ………」

「そうやってハッキリ怒ってくれる方が、いつものソングちゃんみたいで安心します!!!!!!!」

「アタシのこと怒りん坊だと勘違いしていないか?言っとくけどこれ、お前に対してだけだからなぁ?」

 

 さっきよりは元気なのは、否定しないけどさ

 

「となると、わりかし期待してもいいってことだよな。具体的な話は、実際に来てから考えるよ」

「スカウトが発生するなら今のうちにソングちゃんの親御さんに話を通しておく必要があります!!!!!!GI二着を材料に説得してみるのもアリかと!!!!!!」

「二着賞金も出ているはずだしなぁ………名古屋に帰ったら電話してみるよ」

 

 桜花賞のちょっと前にも、似たような事で親に説得を試みたことはあるが、“ここまで来たなら野良でGI取りたく無い? そっちの方がお金かからないし”とか抜かしていたからなぁ

 必要なんだって話をすれば、いくら守銭奴の母さんでも流石に折れてくれるだろう

 

「これでアタシの話は終わったな。じゃあ、エールの方はこれからどうするつもりだ? スカウトが来たらエールの話も出してみるけど」

「あー………気持ちは嬉しいのですが、スカウトに来たトレーナーさん達に私の話は出さないでいただけると助かります!!」

「え?なんで?」

「私は競専厩舎にも塾にも、入りたくても入れないので」

 

 エールの笑顔に、少しだけ影が射す

 アタシと同じ親の都合だろうか。校長の娘なら簡単に厩舎にも塾にも通えそうだけどな。コネもあるし、お金の心配とかなさそうだし

 あまり理由が想像できない。聞くのがてっとり早いだろうが、語りたくなさそうな雰囲気だしなあ

 

「それに!!!!!!!!!!厩舎や塾に入らずとも、私にはトレーナーのアテがありまああああああすっ!!!!!!!!!!!!!」

「うるさいって!!新幹線の車内なんだぞここ!!」

 

 少し気持ちが暗くなったと思えば、一転して花丸笑顔のメイケイエールに様変わりしてそう豪語する

 突然の変わりっぷりにアタシもびっくりだ。ジェットコースターかお前は!

 

「てか、トレーナーのアテって何!?」

「ほらほら!!!!!ソングちゃんも面識のあるあの方ですよ!!!!!!!!!昔トレーナーやってたっておっしゃっていたあの方!!!!!!!!!」

「はぁ!? それって───」

 

 アタシが知っている中でそんな奴、一人しかいない

 

「お前まさか………前に公園で会った、酔っ払いのおっさんのことを言っているのか!?」

「ご名答でええええええす!!!!!!!!!」

「はぁああああ!?!?!?」

 

 あんな胡散臭いオヤジをトレーナーにするだとぉ??アタシなんて、あの酒臭い奴と関わるだけで嫌だったのに……

 エールは身振り手振りでジェスチャーを交えながら話を続けた

 

「実はですね!!!!!!!!!私の権限を使って、競専のデータベースにて検索をかけてみたんですよ!!!!!!!!

 活動年代と性別の情報だけでざっと80人ぐらいまで絞れたので、そこから顔写真をシュシュシュ〜〜〜っとスワイプで一人ずつ確認していったのです!!!!!!!!!

 そしたら一目ですぐにこの人だ!と思う写真を見つけちゃいまして!!!!!!!!右眉毛上部にあった二つのほくろ!!!!!!!!!」

 

 メイケイエールは話しながらアタシにスマホを手渡す。当時最新機種だったiPhone 12の大画面には、職員名簿のスクリーンショットが映っていた。(組織内保管の個人情報データをスクショして持ち出すのってアウト寄りのアウトじゃない? とは言えなかった)

 

 名前、志積清。男性。1956年生まれ

 証明写真に映るその男は、ロン毛でものすごく若々しい男のように見える。だがエールの言っている通り、ムスッとした表情からあの酔っ払い男の面影を感じられた

 

 この名簿には、彼の情報が事細かく記載されているようだった。1972年に競専のトレーナーライセンスを取得し、およそ15年間中京校でトレーナーとして活躍していたらしい

 ……中京って、昔はちゃんとトレーナー制度あったんだなあ。もっと昔に生まれてたら、アタシもちゃんとしたトレーナーの元で頑張っていたのかな、なんて

 

「でも、ちょっと気になる点が二つほどありまして」

「ふーん。一つ目は?」

「下部の戦歴データを見てください………」

 

 顔写真の下部に目を落とすと確かに戦歴が書いてある

 どれどれ。通算勝利数203勝、うち重賞10勝、GI0勝……… あれ、GI0勝?

 

「この方、トレーナーとしてGIを勝利させた経験がありません」

 

 ……公園で彼と接触した時、彼は自分の教え子にGIを勝たせたことがあると自慢していた。つまりは、彼はアタシ達にフカしていたってことになる

 

「コイツアタシたちに嘘ついてたって事じゃん!!!もう信用できないじゃないか!!!」

「ソングちゃん、まだあるんです」

「えぇ……?まだ何かあるかよ」

「二つ目、この方は数十年以上前にトレーナーを引退したって言っていましたが……次のページの経歴欄を見てください。経歴の最後の部分です」

 

 エールは指を伸ばし、アタシが持つスマホの画面をピンチする。経歴の最後には、こう書かれていた

 1987年 日本中央競走専門学校 中京教場 解雇

 

「ここ、“解雇”になっているんです。“退職”ではなく、“解雇”ということになっています」

「……ん? それって、何が違うんだ?」

「職を辞めることを示す“退職”とは違って、“解雇”は会社側から一方的な労働規約の終了を示しています。私も詳しくは存じ上げないのですが、少なくともこの方は、競専もしくは管理局から、クビをきられたってことです」

 

 はぁ? おいおいおいおいちょっと待て………

 クビにされたって、それってつまり……要はそいつ、少なくとも何かヤバいことやらかしたって……コトじゃん!?!?

 

「超超ちょーーーーおマズイ奴じゃないか!!!!!!!お前よくそんな奴をトレーナーにさせようと思ったな!!!!!!!!!!!」

 

 アタシはエールにスマホを突き返しながら、ついつい彼女のことを怒れないくらいには大声で反応してしまった

 

「不思議なのは、インターネットで人名検索しても、何も出てこない所なんですよね。犯罪を犯したのなら、何かしら報道がなされていてもいいはずなのに……30年以上も前だから、記録に残っていないだけなのかもしれませんが」

「それがどうした!!アタシたちに戦歴盛ってしかもクビにされた人間!!どう足掻いても関わるべきじゃ無いだろ絶対!!!」

「すこし、引っかかるんですよ」

 

 はぁ?一体何がだよ

 

「管理局における“解雇”は、何かしら犯罪でも犯さない限り起こりえません。内部に何かしらいざこざがあったとて、重篤なものでも無い限りは自己都合の“退職”にするので

 また、犯罪行為を行った人は、新聞やテレビなどの報道機関によって、大衆の面前に晒されるのが普通です

 でもインターネットには報道の痕跡が無い。まだ当時の新聞までは探し尽くしていませんから、私の早計かもしれませんが、きっと

 彼は何か失態を犯し、それを誰かから庇われた経験がある」

 

 エールはスマホに映ったトレーナー名簿を憂いた表情で眺めながら、なにか確信めいたようにしてそう言った

 ……いや待て、いろいろ話が飛躍しているし。それに、

 

「だからなんだってんだよ! それとトレーナーにするべきかどうかの話に全く関係ないだろ!!」

「…………私も、そうでしたから」

「………?」

 

 メイケイエールは、アタシに目線を向けないまま話を続けた

 

「不自然だと思いませんでしたか?桜花賞でソングちゃんにぶつかったあの一件。普通なら、テレビとかで大々的に報道、晒されてもいいはずなのに、実際には報道機関はそれとなく私の話題を避けました」

 

 桜花賞翌日に起こした、アタシの頭に血が登ってエールの元に突撃した、最初の出会いの記憶を振り返る

 あの頃は確かに、ウェブのニュースでは全くと言っていいほど桜花賞のエールの失態を話題にしなかった。タイムによれば、インターネットの大騒ぎも中身は賛否両論だったと言っていた

 

「まさか。まさかだとは思うが、裏でエールを庇うように動いた奴がいたって、言いたいのか?」

「私が直接指示したわけでは無いので詳しく存じないのですが、お父様ならきっと、そうしているのでしょう。もしかしたら、ソダシちゃんも一枚噛んでいるかもしれない……」

 

 そりゃ、自分の娘だ。娘を守るために中京校校長が動くのは想像に難くないな

 

「そして私は、30年前にも、志積さんの元でそれと似た動きが起こっていたのだと踏んでいます。実際に何が起こったのかまでは、流石にわかりませんが」

 

 報道規制。あるいは組織ぐるみの隠蔽工作ね

 うーん。なんともスケールがデカい話だ。話を聞いてても、なんだか置いてけぼりを喰らいそう

 ………というかさっきから、エールは人が変わったかのように推理を披露しているけど、一体どこの入れ知恵なんだろうか

 

「あー……もう一度言うぞ?仮にそれが事実だったとて、だからなんだってんだよ。トレーナーにするべきかどうかの話に全く関係がないし、てか逆に、そんな奴トレーナーにするべきじゃ無いじゃん!!」

「………うーん。どうしてもなにか、彼にシンパシーを感じるんですよね。私とどこか、似ているといいますか」

「推定還暦超えてる老人にシンパシー感じ始めたら女子校生として終わりだろ……」

「自分でもよくわからないんですよね。なんででしょう…………」

 

 ……問題児としてのシンパシーか

 まあ人相悪かったし、志積という男は少なくとも善側の人間では無いよなと薄々思っていた。だからこそエールは、この人なら自分の持つ気性難の面と向き合ってくれると思ってしまったのだろうか

 

 うーん………どうだかなぁ。メイケイエールは120パーセント善側の真面目少女だ。エールと犯罪犯してるかもしれないこの男の息が合うとは、アタシには到底思えなかった

 

「それにですよソングちゃん。私にトレーナーを得られる条件は、トレーナーとして最低限の知識があるという事に加えて、競専やトレーニング塾などの管理局の息がかかっている団体に、所属していないトレーナーである必要があります」

「は、はあ!? 聞いてないぞその条件!?」

「理由は、長くなるので別の機会に」

 

 何その新情報、どういうことだよ本当に。メイケイエールお前、管理局にめちゃくちゃ嫌われてるってことなのか!?!?!?

 

「ほとんどあり得ないみたいな条件ですよね。実をいうと、私はずっと一人で戦うしかないんだなと、諦めていました

 ですが、私はその条件を満たす可能性のある人物と巡り合うことが出来た。競専から解雇され、おそらくトレーニング塾にも所属していないこの方

 彼こそが!!!!!!!!!私の最後の頼みの綱なのです!!!!!!!」

「うーーーーん………」

 

 エールに聞き出したいことはいくつもあった。不可思議なトレーナーの条件に、どうしてそこまでして自分と彼を重ねているのか、とか

 でも、もう彼女にとっては決まっている事なんだろうなぁ。止めたところで、きっと聞かないんだろうな

 

「まあ、色々考えてるってんなら、アタシは止めないけどさ。アタシ無関係だし」

「とにかく、なんとかして志積さんをトレーナーにしてみせますよ!!!!!!!!」

「でも一つ気になるんだが、相手はトレーナー辞めてる奴だぞ?トレーナーになってくださいって、お前に説得できるわけ?」

「………!!!!!!!!!」

 

 アタシの発言に、笑顔のまま凍り付くお転婆少女。まるで何も用意してないのを指摘されたみたいだ

 おいおいおい。一番肝心な所だろうに、そこは全く考えてなかったのかい!

 

「…………私のお小遣いで、なんとかなりませんかねえええ!!!!!!!!」

「いくら持ってるかは知らないが、学生のお金で大人が動くわけないだろ」

「話せばきっとわかってくれます!!!!!!!!!」

「犬養毅じゃないんだからさぁ。お前やっぱバカだな」




レース中に暴れるだけで、エールちゃんは結構賢い子なのだと思ってます。武英智調教師もそう言ってるし(出典→ https://tospo-keiba.jp/forecast/8706
コミュ力とか女子力とかそういう世渡り的な能力はソングの方が上ですが、学力や洞察力は圧倒的にエールの方が上のイメージです。多分ソングはそのことをまだ知らない。なんならぶっちゃけ舐めてると思う
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