全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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第12話① - キミはタブー 屑ゲノム

 暖色の照明で照らす賑やかな居酒屋のカウンター席に、その男はいた

 テーブルの上にドンと置かれた一升瓶。彼はお通しをつまみに、一人で静かに呑んでいたようだった

 対してこちらは、柱に隠れて様子を伺う競専女子生徒二人。お目当ての人を見つけてやや掛かりぎみ気味のメイケイエールと、やっぱり彼女が心配で付いてきたアタシ───ソングライン

 NHKマイルの翌日の夜。制服姿のアタシたちは学校終わりに、志積という男を探すために近所の居酒屋をローラー作戦で探していた。すでに3件回っていて、4件目のこの居酒屋でやっとその男に辿り着いたのだった

 

 見つけたのはいいが、どうやってアイツに近づくつもりだ? ボソリとエールのウマミミに問えば、こちらに振り向いて、任せてください!と自信満々に回答

 その自信はどこから来るのだと再び問いかけようとしたが、アタシがその言葉を放つ前に───

 

「すみませええええええええええん!!!!!!!!!」

「ちょっ、おま………」

 

 と、店中に響く絶叫が炸裂。喧騒は残響のようにシーンと静まる

 ガラリと変わった居酒屋の空気に全く臆さず、お転婆娘サマのメイケイエールはズンズンとカウンターへ進んでいった

 

「な、なんだオメェ!?」

「今日はあなたにお願いがあって来ましたあああああああ!!!!!!!!!」

 

 カウンター席に座る志積さんの目の前でなおも絶叫するメイケイエール。カウンターの向こうで料理作っていた店員は、ギョッとした目でエールを見ていた

 あー、もうバカエール!!!こんな恥ずかしい思いをするくらいなら着いてこなきゃよかった!!!!

 

「………NHKマイルのレース分析が聞きたいのか」

「!!!!!!!!!もしかして見ていたのですか!!!!!!!!!!!!」

「ああ、テレビでな。まさかオメェらも出場していたとは思わなかったが」

「それなら話が早いです!!!!!!!!!」

 

 アタシがおずおずとエールを追いつくまでには、もうレースの話になっていた。だが、志積さんは酒を呷りながら、エールの発言を軽くあしらった

 

「じゃあ聞くが、それを教えてオメェは俺に何をやってくれるんだ?」

「え!!!!?」

「人に何か物を頼むときは、報酬やメリットを提示するもんだ。オメェは俺に何をやってくれるんだ」

「それは!!! ………えーーーーーーっと、うーーーーんと…………」

 

 おおう。なんとも厳しいお返事だ

 それもそうだ。突然こちらから一方的に突撃したのだ。拒絶するような物言いも当然だ

 言葉が詰まっていたメイケイエールは、しばらくの後何か閃いたようにして笑顔になり、そして男にこう言い放った

 

「では私!!!!!!あなたが言ったお願いをなんでも聞き」

「バカ!!!!」

「あだ!!!!!!!!何するんですかソングちゃん!!!!!!!!!」

 

 なに言ってんだお前は!!!

 変なこと口走りそうになるのを察知し、咄嗟にエールの脳天にむけてチョップを繰り出してしまった

 

「女の子がそう簡単に“なんでもします”なんて言っちゃダメだろうが!!!! すいません、この子の言ったことは忘れて貰えると」

「うー……じゃあどうすればいいのでしょう………」

「…………」

 

 カウンターの向こうから、男が注文していたらしい焼き鳥の皿が運ばれる。それを見ていたメイケイエールは、また何か思いついたようにして志積さんに切り出した

 

「………もっと飲みたくありませんか!!!?」

「あ?」

「もし教えてくださるのなら、一杯分。私が奢りますよ!!!!!」

「いらない」

「じゃあ、おつまみいかがです!!!?お支払いします!!!!!!!!」

「結構だ」

「なら……全部っ!!!今晩のお会計全部!!!奢ります!!!!!!!!」

「あいにく、金には困ってねぇ」

 

 そ、そんなあ………と落胆するメイケイエール

 やれやれ。レース分析すらも聞き出せないなら、トレーナーにさせるなんて夢のまた夢だな。アタシは志積さんに聞こえないぐらいの声でエールに耳打ちする

 

「一旦退散した方がいいんじゃないか?」

「いやまだ早いです!!!!!ここで何かしら接点を作らなきゃ、もうトレーナーになってもらうチャンスが無くなっちゃうかもしれないんですよ!!!!!?」

「バカっ!!!大声で喋るなメイケイエール!!!」

「あ? トレーナー? ……そうか、野良だもんなオメェら。アドバイスにかこつけて、俺をトレーナーにさせる算段だったんだな」

「ギクッッ!!!!!!!」

 

 あーもう!せっかく小さい声で話しかけたのに、アタシらの作戦ダダ漏れじゃないか!いい加減絶叫癖も直して欲しいものだ

 てか、擬音を口で言うやつ初めて見たな

 

「ぐぬぬ……バレてしまったのならしょうがない、こうなったら直談判です!!!!!是非とも───」

「断る」

「そんな!!!!!!!!!いくらでも報酬は払いますから!!!!!!!!!!」

「知らねえよ。金に困ってないっつったろ」

「お願いします!!!!!!!あなたくらいしかいないのです!!!!!!!!」

「話は終わったろ。とっとと失せなクソガキ共。純米酒が不味くなる」

「くぅ………!!!!!」

 

 あーあ。説得は大失敗だ

 こりゃもう何言ってもダメそうだな。アタシはエールの手首を掴み、居酒屋から出ようとした

 

「……ほらエール。帰るぞ」

「……帰りません」

「ここで頑固になったって意味ないだろ。余計迷惑かけるだけだ」

「…………」

「やっぱフリーの人をトレーナーにさせるなんて無茶だったんだよ。それに、報酬払えるだけの金があるってんなら、トレーニング塾に行けば───」

「………それじゃダメなんです!!!!!!!!!」

 

 それは、今までのとは全く違う、悲壮が混じった絶叫

 居酒屋の喧騒は、エールの声で再び静まり返ってしまった

 

「ダメって、何がダメなんだよ」

「塾に入ってしまったら、私がトレーナーと契約したことが、管理局経由で白雪家の方々にバレてしまいます」

「は、はあ?」

 

 ………たしか白雪家は、エールが名競へ養子に出される前の家のことだったよな

 でも何でその名前が出る?養子になったのなら、元の家庭なんて関係ないんじゃないのか?

 

「そいつらにバレたところで、一体何になるんだ」

「なるんですよ、ソングちゃん………だって、だって私………」

 

「“トレーナーと契約してはならない”って………あの人たちと、約束しちゃいましたから」

 

 は、はぁ?

 トレーナーと契約してはならないだぁ?

 何その、遠回しに選手やるなって言ってるような約束は………

 

「だからこそ、この人じゃないとダメなんですよ………私が白雪家の方々にバレずに、トレーニングを教えてもらうためには」

「………」

「実力があって、塾とも競専とも繋がってない。私のトレーナーになってくれる人は、この方しかいないんです」

「うーん……」

 

 やはり、彼女の話がいまいち理解が出来ない。トレーナーと契約してはならないって何?そんな、おかしな話があるかよ

 

 白雪家の生まれで、何らかの事情で競専校長に養子に出されたメイケイエール。その話をソダシから軽く聞いた時から、エールの裏にはなにかしらの縛り、或いは鎖のようなものが渦巻いているとは薄々勘づいてはいた

 もしかしたらそれが、これなのかもしれない。事情は全く窺い知れないが、とにかく“トレーナーと契約してはならない”………と

 

「………意味わからんぞ、まったく」

「…………」

 

 アタシは、エールの腕を掴んでいない空の手の方で、自分の頭を掻いてしまう

 カウンターで黙ったままの志積さんは、アタシたちのやり取りを肴に、ムスッとした表情で焼き鳥を齧っていた

 

「おい。三つ編み」

「………? 私のことですか?」

「コイツ、お前にいつも苦労掛けてんのか?」

「それは、まあ………」

 

 櫛を持った手でエールを指さす男は、アタシに続きを呟く

 驚くことに、彼の口から放った一言は………なんと、同情の言葉なのだった

 

「面倒臭ぇよな」

「………?」

「うし。気が変わった」

 

 志積さんは、鶏のもも肉を刺していた竹串を角皿へ乱雑に投げつけ、アタシたちの方角へと向き合った

 

「トレーナーの話は受けんが………オメェらのレース分析と評価ぐらいは教えたる」

「ほ、本当ですか!!!!!!!!?」

「それ聞いたら俺の前からとっとと失せな、クソガキ共」

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