全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
第1話 - 壮大な夢の続きと、
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校舎から外の方を見やると桜が満開で、晴れやかな日差しと共に桃色が輝いて見える
しかし外の景色とは裏腹に、アタシの気持ちはちっとも晴れやかじゃなかった
むしろイライラムカムカ、不機嫌の極み。あのことを思い出すだけで許せない気持ちでいっぱいだ
アタシは初めて入る隣教室の、既に開いていた扉側面を、わざと全員に聞こえるよう拳で殴りつけた
「出てこいメイケイエールッ!!!いるのはわかってるんだぞっ!!!!」
突然の出来事に、ザワザワジロジロと見ず知らずの同級生が好奇の目でアタシを見てくる
教室の中をくまなく見渡すと、奥の方で一人だけ酷く怯える少女が見えた
長い鹿毛の髪をまとめたポニーテール。ヒトミミの位置に身に着けているパシュファイヤー。あとむかつくほどデカい胸
間違いない。用があるのは正にその彼女だった
別クラスであることなんて気にせずに、アタシは中をズカズカ進んでいく
「昨日ぶりだなぁメイケイエール……アタシのこと、覚えているだろう?忘れたとか、人違いですなんて言わせないからな」
「は……はひ……!!!!」
顔面が青ざめるメイケイエール
なぜアタシがここまでイラつきまくっているのかを、彼女自身もよく理解しているようだった。そうでなきゃ困るんだけれども
……競走バの誰もが夢みる、最も名誉ある大会。GIレース
その中の最強牝バ決定戦一戦目である桜花賞にて、アタシはとんでもない出来事に巻き込まれてしまった
その主犯が、コイツだ。レースが始まって200mぐらい走った地点だったか。突如としてメイケイエールは、初対面であるはずのアタシの事を、横からタックルするように押しのけてきやがったんだ!
明々白々、立派な妨害行為。しかもそのせいでアタシは力を出し切れず、15着という大敗を喫した
ちなみに同じレースでビリになった彼女は、その日のうちに中央競走管理局から直々に戒告処分を食らったらしいが、そんなことでアタシの気は収まらない
母さん手作りの勝負服を纏い、わざわざ福島から会場の阪神レース場まで来てくれた家族に良いところを見せようとしたのに……
あーまたどうしようもなくムカついてきた。おのれ、おのれ、おのれ……っ!!絶対に許さないぞメイケイエールッ!!!
「その節は本当に申し訳ないと思っており…!!!!!!!!!!!」
「御託は結構っ!!!!!」
感情のままにアタシは机を思いきし手のひらでドンッ!!と叩いて脅す。エールのヤツはひぃ!!!!と怯えたネズミのような大声を出す
「表にでろ。妨害の借りを返してやる」
「えと……今お金の持ち合わせがなくて……」
「カツアゲなわけないだろう!!!!」
「な、なら……借りって一体……」
「そんなの決まってるだろう」
そうしてアタシは、この教室にいる同級生全員に聞こえるくらいの大声でこう宣言したのだった
「アタシの名前はソングライン。アタシと、一対一で勝負だメイケイエールッ!!!!!」
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何をやったとて過去は絶対に変えられない。そんなこと、嫌というほどわかっている
でも万全を期して挑んだ大一番が他人の妨害のせいで全部パーなったんだ。こんなこと、易々と水に流せる奴なんていないと思う
GIに出場するだけでもとても凄いとはよく聞く話だが、だからって15着なんて格好が付かない。一番とは言わずとも、もっとやれていたはず
アタシはどうしてもこの汚名を返上したかったのだった
校舎の玄関に向かって廊下を進んでいく。後ろには申し訳なさそうに縮こまるメイケイエールが着いてきている
アタシに思いっきり妨害してくるほどの度胸があるやつ奴だし、取っ組み合いの喧嘩も承知の上だったが、案外物静かだな。拍子抜けした
二人の間には沈黙が流れている。黙っているのもあれなので、アタシはエールに自分の考えを話すことにした
「本当は参加者をもう一度集めて桜花賞のやり直しをするのが理想だったんだが、流石にそれは現実的ではないと思ったんだ」
「…………」
「そこでアタシは考えた……全員と戦わなくても、一番強かった奴に勝てばいいってな」
正面玄関の下駄箱に辿り着く。運動靴に履き替える前に、アタシは背後に振り返り改めてエールに宣言する
「今からお前に大差付けて勝つ。その後アタシはエールとの対戦結果をダシにして……桜花賞をレコード勝ちしたソダシに勝負を吹っ掛けるつもりだ」
「……っ!!!!!!」
ソダシの名前を挙げたところで彼女のウマミミがピクリと反応したのを、アタシは見逃さなかった
アタシが唯一持っていたメイケイエールの事前知識。もともと才女として校内で有名だったソダシと血縁関係にあり、仲もとても良いということは噂で聞いていた
『エールに一対一で戦い大差付けて勝った奴が貴方との勝負を望んでいる』………この言葉だけで十分、ソダシを誘い出す餌になり得るはずだ
玄関で運動靴に履き替え、二人は学校の調教コースに出る
そこにはすでに練習しているジャージ姿のウマ達が沢山。今から模擬レースやるからと、頼み込んで開けてもらった
おいおいなんだなんだと、野次ウマたちもちらほら増えている
1600m地点のスタートラインに立った私は、わざと観客に聞こえるぐらいの声でエールに呼びかける
「言っておくが、手加減したら許さないからな」
「は、はい……」
「アタシが望んでいるのは真剣勝負だ。ちゃんと本気でかかってこい」
噂に必要なのはそれを話す証人だ。これだけの野次ウマが集まったのなら、噂としての信憑性は担保されるな
そんなことを考えていると、今度は横に立っているエールから声がかかる
「あの」
「……なんだよ」
「勝っても、いいんですよね」
アタシにビビり散らかしていた弱々しい声から、妙に落ち着いた声に変わる
そこには、重賞レースを半年以内に三勝した"天才少女"としての、メイケイエールの姿があった
「……もちろんだ。むしろ、その気持ちで走ってくれなきゃ、勝負の意味がないしな」
……正直、その気迫に少しだけ怖気ついてしまった
成績だけでいうなら、アタシはエールと比較にならないぐらいに弱い。エールの重賞三勝に比べ、アタシの勝ちレースは未勝利と紅梅ステークスの二つだけ
でも関係ない、アタシだって彼女以上にやれるはず。これはそれを証明するための模擬レースなんだ!
アタシも心を落ち着かせ、始まりの合図に神経を尖らせる。スタート役とゴール役はそれぞれ野次馬の人に頼んでやってもらっている
準備は万端、エールとのバトルがいよいよ始まる
ソングラインvsメイケイエール 中京校調教コース芝1600左回り
………スタートッ!その声が聞こえた瞬間足を蹴飛ばす!駆け出しはアタシの方が早かった!
このままぶっちぎることも考えたが、出遅れの分を取り返そうと加速するエールが既に横に並びかけていることに気づく
今後の展開を鑑み、アタシはそのままハナをメイケイエールに譲った
(先行バであることを考慮しても妙にペースが早いな。なにか焦ってるのか?)
彼女に追走する形で第1、第2コーナーを曲がり、そのままバックストレッチを進む
今現在メイケイエールとアタシには大体二バ身の差が空いている。だが何ら問題はない、これは予定通りだ
アタシの専門は"最後に差して勝つレース"だ。前半は出来るだけ体力を温存し、最終直線で自慢の脚を爆発させて先頭集団を追い抜く
レース終盤の先行バは、基本脚を使い切ってスピードが落ちていく。そこを背後から捕らえるのが差しバの勝ち方。アタシが一番カッコいいと思う勝ち方だ
10と書かれたハロン棒が見える。あれは、ゴールまで残り1000mであることを表している。エールが先頭なのは変わっていない
しかし……アタシの体感、だいぶペースが早いように感じる
まあハイペースである分先行バは疲れやすくなるから、後方のアタシにとっちゃ有利なのだが
第3コーナーに入り緩やかに左折する。6の数字のハロン棒がみえた。ゴールまで残り600m!
「ここだっ!!!!」
最終直線を待たずして、アタシはラストスパートをかけた。早めにしかけなきゃ、大差付けて勝てないからな!
前のエールとの差は徐々に縮んでいく!激走する彼女に並び、そして抜かそうとした──……その時だった
「っ!!!!!!!!!」
近づくアタシに勘づいたメイケイエールは、なんとアタシより速いスピードで加速し始めたのだった!
お前、いったい何処にそんな余力を残していたんだ!?
最終直線に入り、アタシと彼女の差がみるみる伸びていく
マズイマズイマズイッ!このままだと逆に大差付けられて負けてしまうっ!威勢よく啖呵切ったアタシがそんなこと、絶対みんなに笑われちゃう!
「クッ……ソォォォ!!!!!」
何とか彼女に追い縋るため、アタシは無理やり脚の回転数を早めようとする。しかし差を詰めるどころか、徐々に距離が離れていく!
そして、ゴール板を過ぎるまで。アタシは彼女の尻尾にさえ掴めなかったのだった………
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「ちっ………くしょう……」
ゼェゼェはあはあ。なかなか息が整わなくて、アタシはターフに手をつく姿勢のままでいる
……これだとせっかくのアタシの計画がおじゃんだ。ソダシと戦う以前に、メイケイエールにすら勝てないとは……
「え、えと……か、勝ちました!!!!!!!!!!!」
観客に向けて両手の拳をまっすぐ上げるポーズを取るメイケイエール。何なんだよそのポーズは!!!
それに応じて野次馬はパチパチと拍手をする。悔しい、悔しい、悔しい……
おのれメイケイエールっ!!!!次は絶対、負けないからな!!!!
「じゃあ、私はこれで……」
「おいちょっと待て」
アタシは、その場を去ろうとする彼女を引き止める。最後に一つだけ、本人にどうしても聞きたいことがあったのだ
ターフからゆっくりと立ち上がり、アタシは彼女に投げかける
「な、何でしょう……?」
「お前……なぜアタシに、あんな妨害めいた事をしたんだ」
「……」
途端に、エールは気まずそうに目を逸らした。気にせずアタシは続ける
「ちゃんと真面目に走っていたら、掲示板には入っていたんじゃないのか。今走ってもらったエールの実力なら、少なくともビリじゃなかったろ」
「…………」
「それに、アタシと別クラスで元々面識すらなかったはずだ。お前に恨みを買うようなことをした覚えもない。なのにどうして」
「え、えと………その…………」
エールの言葉が詰まる。どうしようか困ったような面をしている
そしてしばらくの後、
「……………………さ、さようなら!!!!!!!」
「えっ」
とだけ言い残し、エールはターフから校舎の方へと走って行ってしまった
「あっ、おい待て!!!!!!!!!」
くそう、逃げられてしまった………