全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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第13話 - この先に必ずあるなら

「お願いです、志積さん!!!!!!私はもうあなたしか、頼れないんです。どうか、どうか私のトレーナーになってください!!!!!!!!!」

「……オメェ、俺の名前をどこで」

 

 居酒屋を出た先の静かな夜の中。メイケイエールは志積さんという元トレーナーの男に、とても綺麗な最敬礼で頭を下げていた

 志積さんについては、メイケイエールが事前に自分の権限を使って調べ上げていたのだった

 

「はぁ。なんにせよ知らねぇよ」

 

 志積さんは厄介そうな顔で背を向け、その場を去ろうと駅方面へゆっくり歩き始める。その姿にも負けじと、頭を上げたエールは彼についていきながら、背中に向けて果敢に話し続けた

 

「………私は暴走癖───いわば、気性難を持っている。一般的にはとても危険な選手という扱いです。レース中に暴れて他の選手を妨害するなど、選手として言語道断」

「聞いてねぇ。黙れ」

「そんな私がトレーナーと共にレースに出て、また桜花賞と似た事件を起こしたとしましょう。契約していたトレーナーさんには管理責任を問われるでしょう」

「オメェの事情など聞いてねぇつってんだろ。黙れ」

「だからこそ、前々から私の気性難を見抜いていた白雪家の方々は、私に“トレーナーと契約してはいけない”という約束を強制しました。そうでもしないと、トレーナーの迷惑になってしまうから。白雪出身の子供にそんな不届きものがいてはならないから」

「………じゃあ何か?俺になら好きなだけ迷惑かけても良いって言いたいのか?」

「そんなつもりは毛頭ありません!!!! でも、あなたしかいないんです………」

「遥か昔にトレーナーを引退したあなたは、競専とも管理局とも無関係。もし私がレース中に暴走しても、あなただけは管理局から管理責任を問われることはありません」

「なぜなら………私たちの関係は、勝手にアドバイスしあっているだけの、赤の他人どうしなのですから」

 

 チッ。男の鋭い舌打ちが、静寂な夜にひどく響いた

 エールがおそらくこの時考えていたのは、公園や居酒屋で行ったアドバイスの延長線。つまり、今後とも定期的に会い、選手としての助言をもらいたいということなのだろう

 助言をもらうだけなのだから、本当に契約するわけではない。これなら、白雪から課せられた“トレーナーと契約してはならない”という約束を破らずに、トレーナーの援助を受けることができる。真面目少女が思いついたとは思えない、言葉の穴を突くような発想だ

 

「私は白雪家という一族に生まれ、幼い頃養子に出されました」

「………………」

「養子に出されるまで、白雪家は私を忌み子のように扱ってきました。髪が白くないこと、気性難を持っていること。きっと本当は、私を競走選手になどさせたくなかったのでしょう」

「………」

「でもソダシちゃんや、私を引き取ってくれた義理のお父様は……そんな私でも、みんなの前で走って欲しいと、言ってくれたのです」

 

 無視を続ける志積さんの足はなおも進んでゆく。それでもエールの懇願の叫びは止まることがなかった

 

「だから………!!!!!!!!私がどんなに世間から腫れ物扱いされたとしても、二人の期待と応援に応えるために、走り続けなくてはならないっ!!!!!!」

「じゃあオメェの勝手にしろや」

「でも………やっぱり一人だけじゃ、ダメなんです。あなたのような、腕の立つトレーナーさんがいないと………」

「………」

 

 先ほどから黙っているアタシは、エールの背後について歩き、静かに彼女の説得を聞いていた

 バカ正直な真面目少女らしい、ひたすら自分の内実を嘘偽りなくぶつける説得。まあその純粋さが、メイケイエールの良いところと言えなくもない

 だが、それにしても────

 

「────説得が下手くそすぎだ。自分が今思っている事情をぶつけたところで、いったい誰が納得するというんだ?」

「ソングちゃん………」

「トレーナーになってくれるよう説得させればいいんだよな」

 

 アタシに任せとけ、メイケイエール。歩くのをやめない志積さんの背後から、アタシも説得を試みることにした

 おそらくこの男は、金や名誉じゃ決して折れないだろう。メイケイエールの、聞く人の情に訴えてくる赤裸々な告白にも、彼はぴくりとも反応しなかった

 でも彼は、先ほど教育とは何かみたいな話を説いていた。教育者としての心が残っているというのなら………

 

「………志積さん。本当にいいんですか? このまま放っておいて、彼女の才能を腐らせてしまっても」

「………」

「聞いていたでしょう。エールが縛られている“約束”の件。あなたが彼女をフってしまえば………また彼女は、野良のまま一人でトレーニングをする羽目になります」

「………」

「そうなれば、彼女はずっと変わらないままなのかもしれません。暴走癖を引き摺り続け、彼女の持ち味を活かせないまま引退してしまうかもしれない!」

「………」

「せっかくあなたが褒めてくれた彼女の脚を腐らせてしまうってことなんですよ!?それでもいいんですか!!?」

「どうでもいい」

 

 クソッ。全く手応えがない。それでも元トレーナーかよ

 しまったな。志積さんに対して切れるカードはほとんど残されていない。それにこのままじゃ、アタシたちのことをしつこい連中として警戒され、この街に二度と現れない可能性だってある!

 こうなりゃどんどん責めて行くしかない。アタシは捲し立てるようにして、説得の言を紡いでゆく

 

「あなたのメリットが何もないのは重々承知しています」

「でも彼女は………頭のてっぺんから足のつま先まで、根っからの真面目な子なんです。今までだって、毎日ずっとがむしゃらにトレーニングに励んでいた」

「トレーナーと契約できない状況にも関わらず、わからないなりに強くなる努力を重ねてきたのです!!そんな彼女をほっといていいんですか!!!?」

「………………………」

「私からもお願いします、志積さん。どうか一週間だけでも、メイケイエールの面倒を見てやって頂けませんか?」

 

 アタシがそう言った刹那

 突如として、志積さんの足が止まる

 

「………………メイケイ、ね」

 

 食いついてきたぞ! でも何にだ。彼はいったい何に反応したのだ

 彼の反応を一つでも取り逃がすまいとして、慎重に息を飲む。志積さんは、こちらへと振り返らずに続けた

 

「そういや、テレビでレースをみていた時から気がかりだったんだが………“メイケイ”ってアレ、冠名だよな」

「はい」

「“メイケイ”というのは、名古屋の名に競走の競と書いて、“名競”なんだよな」

「はい。その通りです」

「名競は中京校の昔の略称だ。ならオメェは、名競のなんなんだ?」

「………私が養子に出された先は、競専中京校校長の地位を代々継いでいた名競家でした。私は、現校長の義理の娘にあたります」

「父親の名前は?」

名競嶺二(めいけいれいじ)、です」

「嶺二………………」

 

 エールの返事を聞き。彼はついに、ゆっくりとこちらを振り返る

 その顔に張り付いていたのは───

 

「ククッ………そうか。こりゃあ、面白い巡り合わせだなァ………!!」

 

 ───今までのムスッとした顔とは全く真逆の

 初めて見る、不気味な笑みだった

 

「ククッ………たかが一週間で何ができる。最低でも二ヶ月だ」

「えっ それって」

「ああそうだ。二ヶ月間だけ面倒を見てやる。それまでにオメェら、俺に実力を見せてみやがれ」

「ほ、ほほほっ、本当ですか!!!!

本当に、本当ですか!!!!!!!!!!!」

 

 ようやく折れた志積さんの承諾に、メイケイエールは感極まって満開笑顔でぴょんぴょん跳ねた

 

「やったー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! やったやったーーーーッ!!!!!!!!!!!! ついに私にもトレーナーさんが付きました!!!!!!!!!!!」

「………アイツ、いつもこんな声とテンションなのか?」

「まあ、はい。大体こんな感じですね………」

「まっ ジジイの耳には優しいわな。おかげでアイツに聞き返すことはなさそうだ」

「………」

 

 喜ぶエールを傍目に見るアタシだったが、この時はきっと、微妙の表情を浮かべてしまっていただろう。実を言うと、あまり素直に喜べなかった

 だって、彼はエールの立場を聞いてから手のひらを返したのだ。それが露骨にあやしい!!

 金や名誉じゃ納得しないと思っていたが、アタシの見立てが外れたのだろうか。彼はエールが座っている校長の娘という立場を使って、なにか企てる可能性がある

 それにこの男は、何らかのヤバい理由で競専から解雇されているし、彼がアタシたちに向かって、昔教え子にGIを勝たせたことがあると嘘を吐いたのも妙に気がかりだ。怪しさ満点で、アタシは信用できない

 

「志積厩舎再結成………いや厩舎じゃねぇか。競専とは関係ないところで勝手に指導するわけだから、言わば同盟関係だな」

「そうなりますね!!!!!!!!」

「オメェらと俺、三人だけの師弟同盟ということになるが、いいんだよな」

「あっ!!!!!! えっと、ソングちゃんは───」

 

 え? 三人?

 あー。アタシもチームとして入ってる認識なのね………

 いや。このチャンス、逃す手は無いな。アタシは急拵えの作り笑いを志積さんにかけた

 

「………そうですね。三人です」

「ちょっ、いいんですかソングちゃん!!!!!!!?ここまで付き合わなくても大丈夫なんですよ!!!!!!!」

「事実アタシだって野良だしさ」

「いやでも、あなたには競専トレーナーからスカウトが来るかもって……」

「おいおい、そんなのまだわからないだろう? それとも、お前はアタシと一緒なのが嫌なのか?」

「いやいやいや!!!!!!!一緒ならすごくすごくすごおおおおおく嬉しいですけども!!!!!!!!!」

「なら文句はないだろ?」

 

 スカウトが来なかったら、アタシだけ野良のまんまだもの。それはなんとしてでも避けたい。万が一の滑り止めは欲しかったところだった

 だからってトレーナーなら誰でも良かったというわけではないし、この男は色々と怪しいが………話を聞く限り、この人のウマを見る眼は確かだ。観察と数字で鋭い分析を行うリアリスト。一番の理想は熱血系だったが、冷徹系トレーナーも悪くない

 それに、たとえヒトよりも強いウマだからって、こんな怪しい男とエールを二人っきりにさせるわけにもいかないしな

 

「だが勘違いするなよ?この関係は俺の気まぐれだ。報酬もねぇから、こっちから一方的に切ることだってできる。主導権および決定権は全て俺にあると思え」

「はい!!!!!!!!!」

「わかりました」

「その上、オメェらに飲んでもらう条件が三つある」

 

 彼は一本ずつ指を立てて、この同盟関係の条件とやらを挙げていった

 

「一つ。俺の命令に一切の反抗および文句を禁ずる。言った時点で同盟は即解消」

「非公認の師弟同盟ということは、俺は管理局のトレーナー規定を順守しなくても良いということだ。この状況を、俺は大いに活用したいと思う」

「今うっすら考えているトレーニングだけで、トレーナー規定を堂々と破るようなスパルタメニューを考えている。オメェらが望んだ師弟同盟だ、文句を言うなよ」

 

 規定破りのトレーニングか

 面白いじゃないの。甘っちょろいトレーニングじゃGI覇者のシュネルに勝てっこない。怪我の心配はあるけど、そう来なくっちゃ師弟同盟を結ぶ意味がない!

 

「望むところです!!!!!!!!!」

「大丈夫です」

「一つ。この師弟同盟を他言することを禁ずる」

「特に競専職員あたりは絶対にバラすな。ただえさえ、学生とジジイが定期的に会ってることを知られたら面倒なことになるが………個人的に、中央競走界の関係者とできるだけ関わりたくなくてな」

「特にメイケイエール。お前の父親には何があってもこの関係を漏らすなよ。表面上はこれまで同様、野良のままで通してもらう。わかったな?」

 

 ………まあ、この人競専から解雇されているもんな

 怪しさはプンプン匂うが、アタシが強くなることには関係はないだろう。志積さんがアタシたちに問題行動を起こさない限り、余裕で目を瞑れる

 

「承知しました!!!!!!!!!」

「承知しました」

「さあ、最後の一つ。やるからには一切の妥協を禁ずる」

「甘くなった現代のトレーナーと比べりゃ、俺はかなりのスパルタ派でな。生半可なトレーニングじゃ、絶対にGI勝利には手が届かないと思っている」

「邪な妥協心は抜かりを産む。だからオメェらには、完全で圧倒的な勝利を目指してもらう。だからこそ、必要なトレーニングも、相当キツイものになる」

「受ける覚悟があるというなら返事をしろ。これで同盟成立だ」

 

 おいおいおい。そもそもアタシたちは強くなるために、トレーナーさんを探していたんだぞ

 さっきの通り、アタシはスパルタトレーニングなんて承知の上! ぬるいトレーニングなんて、こちらから願い下げだ!

 エールも同じ気持ちだったようで、アタシとエールは二人で一緒に、ハッキリとした返事を志積さんに放った

 

「「上等です」!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ならば良し。オメェらを怪物にしてやる」

「俺の名前は志積清(しずみきよし)だ。じゃあ最後に、オメェらの名前と、それぞれの目標を聞かせてもらおうか」

 

 ───目標、か

 そんなの、アタシたちの中ではとっくのとうに決まりきっている

 アタシは冷静に、エールは元気よく。志積さんに意気込むようにして、答えたのだった───

 

「メイケイエールです!!!!!!!!!GIを勝って、みんなの応援に応えられるようなウマになりたいです!!!!!!!!!!!!!」

「ソングライン。絶対に勝ちたい相手がいます」

 

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