全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
この幕間はエールとソングがお出かけするお話になります。時系列だと2章から3章の間
第14話 - 「そのきっかけ」
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桜花賞から、だいたい一ヶ月ぐらいが経った
燦々に輝く太陽のような笑顔を見せてくれる、天真爛漫なポニーテールの女の子。メイケイエール
彼女とアタシ───ソングラインは、お互い専属のトレーナーがいない者同士ということもあり、最近は一緒に自練習する仲になっていた
放課後にいつもの待ち合わせ場所に向かい、学校の練習用ターフにて自分で組んだメニューをこなし、終わったら一緒に女子寮へと帰るスケジュール。半分チームのような関係だ
前までアタシは被害者として、一方的に仇敵のエールにイラついていたが、現在では一緒に練習する仲になってるなんて。ちょっと前のアタシじゃ考えられないな
ここ一ヶ月。放課後は基本エールと過ごすようになっていたのだった
「ソングちゃああああああん!!!!!!!!!!!今日は何をやりますか!!!!!!!!!?」
「タイム更新です!!!!!!!!!やりましたああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「帰りにアイス買っていきましょおおおおおおお!!!!!!!!!」
「そういやソングちゃんとインスタ交換してませんでしたね!!!!!!!!!!私と交換しませんか!!!!!!!!!」
あ、そうそう。彼女のハイテンションさは唯一無二で、毎度のセリフが喧しい。最初はアタシがあからさま怒りを表にしていたから、彼女もウジウジしてたのが、共に練習を重ねるにつれて、どんどん元気な面をアタシに見せるようになった
ソダシがエールのことを好く気持ちもわかる。彼女のオーバーな動きや満点笑顔を見てるだけで、自分もなんだか元気を貰える。最初はあんなに嫌いだったのに、こうも印象が180度変わるとは
といっても、彼女を友達と呼べるかどうかはまだ微妙かもしれない。そもそもメイケイエールとはクラスが別で、授業の時間ではなかなか彼女と遭遇しないのだ。また、LINEやインスタ上での連絡も大して行っていない。メイケイエールとは、ホントに自主練の時ぐらいしかやりとりをしないのだった
そして…………ここからが本題なのだが
最近、なんだかエールが妙にそっけない
「あ!ソングちゃん!今日もトレーニング頑張りましょうね!!」
「今日一日、小テスト尽くめで大変でした!!」
「うーん………上がりタイムが落ちてきちゃってます………!!」
「明日もよろしくお願いしますね!!ソングちゃん!!」
以上のセリフは、今日の練習でのエールのセリフだ。表情はいつものニコニコ笑顔で、一見いつも通りのハイテンションに感じられる。だが、先ほどのセリフ群と比較して、テキストでの明らかな相違点がわかるだろうか
そう。メイケイエールの感嘆符が足りない。それも、8つぐらい足りない。彼女のハイテンションな声量が、最近だと半分以上削がれていたのだった
「………それがきっかけで、ソングちゃんは私に連絡をよこしたんだし?」
「ソダシなら、何か知ってると思ってな」
女子寮の個室で一人。アタシはベッドで横になりながら、通話相手に問いかける。スマホのスピーカーから聞こえるシルクのような声は、あの桜花賞を制した、白毛の女王ことソダシの声だ
寮の個室に帰った後、ふと不審に思ったアタシは、エールのことを知り尽くしているらしい彼女へと通話をかけていた。ソダシとの関係値はそれほどだったが、エールの話なら乗ってくれると踏んでの選択だった。ソダシのLINEは、競専パーティの際に交換していた
「いつもやかましい奴がいきなり落ち着いたら、何かあったか疑っちゃうだろ」
「でも今日のエールちゃん、別にいつも通りだったし。今日だってずっと元気で、今もすやすや幸せそうに寝てるし」
特別に二人部屋でエールと暮らしているソダシは不思議そうに返答した。どうやら、あっちは通常運転だったらしい
「なんて言えばいいんだろ。アタシと会話するとき、発言のうるささが足りないっていうか」
「セリフに付いてるビックリマークの数でしょ?平均して8個から12個。大体その数で、彼女の今の気分や体調は丸わかりだし」
「わかるんだ」
「エールちゃんは裏表のない、素直で素敵な子なんだし」
自分のコンディションが周りに筒抜けなの、アタシはちょっと嫌かもな
「それで、今日は何個だった?」
「んまあ〜………1個か2個程度ぐらいのイメージだな」
「………ふーん」
ソダシは少し考えるような声を放つ。そしてしばらくの後、白毛の女王はアタシに訝しむように囁いた
「それ、貴女に原因があるのではなくて?」
「アタシに?う、うーん………そうなのかなぁ………」
「エールちゃんのテンションは、自分の気分だけではなく、相手次第でも代わりうる。私の前だと通常通りで、貴女の前だとそうでないなら………原因はエールちゃん自身ではなく、貴女にあるのかも」
うむぅ。確かにそうかも
エールはびっくりするほど素直で、自分を偽ることが出来ない性格だ。そんな彼女がアタシにだけあーいう態度なのだから、アタシに原因があるという理屈もわかる
「でも、アタシは身に覚えなんて無いぞ」
「無自覚にエールちゃんを傷つけていた、ってこともあり得るんじゃない?」
「あー………」
無自覚に、かぁ。自分自身に心当たりがないのが良い証拠って言われたら、何も反論ができない
ソングって、面倒見が良い割には意外と鈍感だよね。もうそろ一年の付き合いになる、同じクラスのララクリスティーヌにそんなことを言われたことがある
面倒見がいいつもりは全くないけれど、自分が視野が狭いのは、けっこう思い当たる節があった
「………話は変わるけど、貴女って友達の前だと、結構笑うタイプの子なんだね」
「え。いきなりなんの話だ?」
「@sl_0304。これ、貴女のインスタアカウントでしょ?」
「ちょっ、どうして知ってんだよ!?!?」
それはファン向けのアカウントではなく、友達にしか共有していないプライベートのアカウントだった。ソダシに共有した覚えなどない
「いつのまに………てか、どうやって特定した」
「エールちゃんのフォロー欄から辿ってね。彼女のフォロー数は随時監視してるし」
「えっ……… こ、怖ぁ………」
確かに先日、彼女とインスタ交換したけどさぁ……… そういう行動、エールになんか言われないのか?
「勝手にソングちゃんの投稿をいろいろ見させてもらったし。それで気になったんだけど、他の友達と笑顔で写ってる写真がよく目に付くし」
「そうか?自撮りはそんなに上げてるつもりないんだけどな………」
アタシのプライベート用インスタアカウントは、出かけた時に撮ったオシャレな写真を上げるのがメインだ
自分が写った写真とかは、他の子に比べたらそこまで上げてないと思う。皆みたく積極的に自撮りはしないタイプだし。まあ時々、友達が撮ってくれた写真をあげたりはしているけども
「そういうことじゃなくて、貴女っていっぱい笑う子だったんだなって。ほら、私やエールちゃんに対しては、ずっとムスッとした顔で接していたでしょう?だから貴女のこと、そういうツンツンキャラだと思ってたし」
「いやいや、桜花賞の一件があったんだから当然だろ。当事者のエールと関係者疑いのソダシにツンツンするのはさ」
「それはそうかもだし。でも、今は違う」
そして、穏やかな声のトーンだったソダシは、なぜか一転して冷徹な白雪の女王様に変貌し、アタシを静かに揺さぶった
「ソングちゃんの楽しそうな写真。エールちゃんが見たらどう思うんだろうね?」
「………はぁ。そんなの───」
そんなの、ふつうは気にしないだろ。言いかけたところでハッとした
………メイケイエールを取り巻く様々な問題は、本人とソダシからいくつか見聞きしている。白雪家から嫌われていることと、名競家へ養子に出されたこと。そしてなにより、レース中の危険な暴走癖
彼女は今までの人生、家庭環境やら自分の気性やらに散々振り回され続けながら生きてきたということだ。なのにどうして、アタシは気がつかなかったのか
「………エールちゃんは、結構気にするタイプなの。特にあの子は、友達と写真なんて経験したことがなかったから」
唯一の親友であるソダシを除き、メイケイエールは十数年の人生の中で、良い友人関係というものに恵まれなかったらしい
そんな彼女が、ようやく自分と仲良くなれそうな奴を見つけられたのに、その人が見ず知らずの他人ととても楽しそうにしている様子を見てしまったら、彼女は一体どう思うだろうか。ソダシが言いたいのは、そういうことなんだろう
……ララのいう通り、アタシって本当に鈍感なのかもしれない。受話器に聞こえないように、アタシは静かにため息をついた
「………わかったよ。何やればいいんだ」
「ん?」
「アタシがエールに出来ることって、一体なんなんだ」
「ふふっ………まだわからないし?」
ソダシは不思議そうに聞き返す。だがその声から、嫌味めいたものは感じられない。いつものフワフワした声だ
なぜなら、先ほどまでの冷徹な女王の面影はいつのまにか消えていたから。そこに残っていたのは、エールを心から心配する一人の少女のみだった
「エールちゃんに、友達らしいことをやってあげて」
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「友達らしいこと、ねぇ………」
「どうしましたか!!!」
「………いや、なんでも」
空は夕焼け。太陽は間も無く沈み、名古屋の街の電灯が一斉に灯ってゆく
今日も学校で自主練をこなし、エールと女子寮に帰っている道中。薄暗い歩道を二人で歩きながら、アタシは昨晩の、ソダシとの相談電話を思い出していた
エールに、友達らしいことをやってあげる………か。アタシがオフの日は大抵、友達と予定を合わせ、どこかへ遊びに行っている
たとえば、友達グループで近場に遊びに行く時。教室でだべってるときに行きたい場所の話が自然と上がって、あとは流れで日程合わせて行くだけだ。誰かが行きたがっているのに便乗するか、アタシが行きたいから連れていくかのどちらかだ
でも改めて、“友達らしいこと”のつもりで遊びに誘うのは、とてもやりづらい感じがする。“友達らしいこと”を実行する以上の動機などなく、その上相手は、まだ友達とはギリギリ呼べなさそうな微妙な間柄だ
………でも。私たちはまだ友達と呼べない間柄なのかもしれないけど。でもエールには、喧しいぐらいの元気な姿のままでいてほしい。変に壁を作ったままよりも、元気でいてくれた方がアタシも嬉しいよ。TPOはもうちょっと弁えて欲しいけど
「なあ、エール」
「どうしましたかソングちゃん!」
「………………………その、あれだ」
いきなりお出かけのお誘いなんて、突拍子無さすぎて不自然だ。投げかけるギリギリのところで言い淀んでしまった。どうしよう!
こういう時は、導線になる話題を振ってから、本当にしたかった話へと寄せるのが安牌だ。そういや、エールと休日どう過ごすかの話とかしたことがなかったな
「………エール。最近のオフの日とか、何して過ごしてるんだ?練習以外で」
「えーと………朝起きて朝練こなしたあとは、ご飯食べて勉強して勉強して………寝てます!!!」
「えっ それだけ?」
「それだけです!!!」
しまったな。つま先まで真面目ちゃんなのか
てかコイツ。こんな優等生みたいな子なのに、逆になんで暴走癖なんて持ってるんだ。そういう縛り?
「ご飯と勉強以外に、趣味とか無いのか」
「寝る前に本を読んだりしています!!」
何も後ろめたいものが無いというふうに、サラッと回答するメイケイエール
趣味は読書か………うーむ困った、エールに出かける趣味は無いのか。しょうがないから、ドッキリのネタバラシをするように、アタシは胸の内を告白する
「いやさあ、たまにはエールと何処かへ出掛けてみたりしたいなぁって───」
「行きましょう行きましょう行きましょう!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うおっ」
すると、メイケイエールは目を輝かせ、もの凄い勢いで食いついてきた。今までの元気を取り戻したかのよう。突然の出来事に、アタシはたじろいでしまう
「行きたいところとかあるのか?」
「うーーーーん………!!!!社会の勉強中に出てきた観光地とか、旅行してみたいなあって思います!!!!!!!!」
「普通に旅行じゃないかそれ!!!………ハードル高いから却下」
「えーーー!!!!!!?」
不服そうに絶叫するメイケイエール。当然だろう、とアタシは吐き捨てる
「旅行とかじゃなくてさ。近所の遊べるところに遊びに行くみたいな、そういうもっとスケールの小さい話だよ」
「私、そういうのよくわからなくて………!!!!」
「行って楽しかったところとかないの?」
「ソダシちゃんに誘われて行ったパーティとかは楽しかったですが………!!」
「金持ち基準やめい。はちゃめちゃにスケールがデカすぎるぞ」
色々聞いてみたが、メイケイエールの場合、本当に何も知らないんだろうな
おしゃれなカフェで一緒にコーヒーやチーズケーキを食べたり、アパレルショップで似合う服を探し合ったり。そういう小さなイベントが、とっても楽しいってことに
「………じゃあわかった」
「?」
それなら、彼女の希望に寄り添うよりも、彼女を一度アタシ流に染めてみるのが、最も手っ取り早い方法なのかもしれない。アタシはエールに向かって、ニヤリと笑ってみせたのだった
「エールを、アタシの好きなスポットに連れていく。最近モールに出来たカフェのケーキがすっごく美味しくてさ! きっとエールも気にいるぞ!」
「わぁ……!!!!!!!!!!!!本当ですか!!!!!!!!!!!」