全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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第16話 - 「カラオケに行こう!」

 

「定休日か〜………?」

 

 エールに連れて行きたかった目的のカフェの前に着いたが、窓の向こうに光がない。カフェは明らかに無人である

 

「閉まってるみたいですね………!!!!」

「しまったな。リサーチ不足だったか………」

 

 アタシの隣にいるのは、先ほど購入した桃色カーディガンを羽織っているメイケイエール。彼女はドレスや買った服が入った袋をぎゅっと抱きかかえていた

 カフェの扉には貼り紙が貼ってあり、直筆の油性ペンでこう書かれていた

 

『店長が流行病に感染したため、一週間お休みをいただきます』

 

 ああ……最近流行ってるもんな……

 今日もやっているもんだと勝手に決めつけていたのだが、それはもうしょうがない。店長さんには、ゆっくり養生してもらおう

 

「どうしようもないしな。また今度行こうか」

 

 アタシのそのセリフは、ふっと出た何気ない言葉のつもりだった

 するとメイケイエールは、なぜか嬉しそうにして笑ったんだ

 

「………ふふっ♪ また、ですね!!!!!!!!!」

 

 ………また。か

 その眩い笑顔に、アタシもニヤけてしまいそう。でもなんか悔しいから、彼女にイジワルしたくなってしまった

 

「メイケイエール、なんか嬉しそうだな。カフェは閉まってたのに」

「そう見えますか!!!!!!!!」

「何か嬉しいことでもあったかー」

「なんでもないですよ!!!!!!!!!!」

 

 からかってみても、彼女の眩さは強まるばかり。あーあー負けだ。我慢できずに、アタシもふふっと笑ってしまった

 

 ………知ってるよ。また一緒にお出かけする口実が出来たのが、嬉しいんだろ

 

「でもこれからどうしますか!!!!!!!?」

「何も考えてなかったな……特に決めてなかったし………」

「じゃあ、カラオケに行きませんか!!!!!!!!?」

「カラオケ?どうして突然」

 

 カラオケって………通常ショッピングモールの中にそんなものはない。前にアタシが案内地図を確認したときには、カラオケのカの字も載っていなかったはずだ

 

「ここに行く途中の道にあったのです!!!!!!!!!カラオケ館ってお店が!!!!!!!!!!!」

「ほー 知らなんだ」

 

 メイケイエールが挙げたのは、街中でよく見る有名カラオケチェーン店の名前だった。アタシも会員アプリを入れているぐらい。でも、エールの方は珍しい店を見つけたような物言いだ

 

「もしかしなくても、入ったことないのか?」

「生まれてから一度もありません!!!!!!!!!!」

 

 清々しいくらいに素直な回答が直ぐに帰ってくる。普通の子なら無知を恥じて濁したり、見栄はったりするところだ。それをしないなんて、どこまで素直なんだコイツ

 

「今までずっと気になっていたんです!!!!!!!!!カラオケって一体どんなところなんだろうって!!!!!!!!!」

「ふーん」

 

 ソングラインの名前にかけて………というわけでは全くないが、アタシはかなりの頻度で通っていた

 エールと比べたら、今更カラオケに対して目新しい新鮮さなど無い。まあまあ楽しく時間を潰せるスポット、というレベルの認識だ

 

「何か珍しいものを期待してるんだろうが、何も特別なものなんて無いぞ。ただ自分の好きな歌をみんなで歌い合う場所ってだけだ」

「それって、とっても特別じゃないですか!!!!!!!!!!!」

「どこがだよ」

 

 今のアタシの言葉のどこに、ポジティブに捉えられる要素があったよ

 

「自分の好きな人と、好きな歌を歌い合える場所なのでしょう!!!!!!!?!?そんな場所、世界のどこを回っても他にありませんよ!!!!!!!!!!」

「………………」

 

 いっぱいの笑顔で回答するメイケイエール。その笑顔はあまりに眩しく、まるで夏の地元の福島で見た、花園に咲く沢山のひまわりのように、満開で、無邪気で、それでいて美しかった

 

「………アタシの負けだ。完敗だ。行こうか、カラオケ」

「やったーーーー!!!!!!!!!!」

 

 二人は早速そのカラオケ店へと向かって入店する。そして受付を終わらせ、案内された部屋に入室した

 ソファに座る前に、曲予約用端末をエールに手渡すと、なんですかコレ!!?と聞かれてしまった。本当に何も知らないようで、一緒に操作方法を教えてあげてから、アタシはソファに腰掛けた。なんだかんだモールの中を結構歩いていたから、ようやく休める

 足を休ませながら、曲予約のために検索ページを開く。あいうえおキーボードが展開し、横の候補曲には最近流行った曲のタイトルが並んでいた。そういや、エールって流行曲とか聞くのかな

 

「エールって、普段何の音楽聞くんだ?」

「勉強してる時はシューベルトやドヴォルザークとか聴いています!!!!!!!!!」

「それクラシックピアノじゃないか………歌える曲とかないのか?」

「わかりません!!!!!!!!!」

 

 おいおいとツッコむアタシ。好きな曲が歌えるとかなんとか言ってたくせに、なんのためにカラオケ入ったんだっ。軽めのつもりで1時間にしてみたが、見立ては当たっていたな

 うーむ。気を利かせて知ってそうな曲入れたところで、コイツ知らない可能性高いんだよなぁ〜………

 

「もう遠慮とかしないで、アタシの一番好きな歌とか入れちゃって大丈夫だよな」

「はい!!!!!!!!!むしろそっちのほうが嬉しいです!!!!!!!!ソングちゃんの好きな曲が聴きたいので!!!!!!!!!」

「………………」

 

 コイツマジなんでそんな“私はあなたに好意があります”みたいなセリフを、笑顔で恥じらいもなく言ってしまえるんだよ………もしかしてアタシ、嵌められたりしてる?

 気を取り直して、アタシは入れたい曲の予約ボタンをタップする。間も無くその曲の演奏が始まる。心地の良いオルゴールの後、ホルンとストリングスがけたたましい壮大なオーケストラのイントロへと移行する

 選曲は、やくしまるえつこの『ニュームーンに恋して』だ。カラオケに入ったら必ず歌う、アタシの一番好きな曲だ。マイクにスイッチを入れ、アタシは歌い始めた

 

「 恋せよ乙女 花の命は儚く美しい

  なりたいものに なれる魔法かけてあげる 」

 

 ちょっと前に、テレビアニメの主題歌になった曲らしい。セーラームーンが大好きな地元の友達に勧められてから、気がつけばよく聴くようになっていた

 

「 揺れるそのまなざし 微熱がみせる幻は

  悲しいほどに 完璧な世界 笑えないよ 」

 

 女性ボーカルの歌声に惚れ込んで、アタシもこういう歌が歌ってみたいと思った。一人でカラオケに通い詰め、採点機能で何度も練習した。95点に到達したときは嬉しかったなぁ

 

「 今夜何かが起きる 予感が扉を叩く 」

 

 エールの方をちらっと見やると、じっとウマ耳をすまし、真剣に聴いてくれている。嬉しい反面、少しこそばゆい心地だ

 

「 月明りが消えて パレードのはじまりはニュームーン 」

 

 歌の旋律は盛り上がったまま、一番の終わりへと向かってゆく

 ………なぁ、メイケイエール。アタシ、上手に歌えているかな

 

「 キラキラめくるめく流星群 」

 

 今日一日、アタシとのショッピングで楽しんでくれてたかな

 ………いや、どう考えても楽しんでいたか。お世辞で表情取り繕うとか、出来ないタイプだろうしな

 

「 ときめき満ちていく 」

 

 なぁ、メイケイエール

 お前の瞳には、アタシがどんなふうに写っているのかな

 

「 きみの引力に気づいてしまった 」

 

 

 

 ………そして、その後の二番も、アタシは最後まで歌い切った。気持ちよく歌えると清々しい気分になるな。自然と口角も上がる

 カラオケの演奏が終わると、ニコニコエールからパチパチと拍手を送ってくれた

 

「歌、めちゃくちゃ上手いですね!!!!!!!!!!!」

「好きな曲だからな。回数こなすうちに歌えるようになった」

「やっぱり名前に“ソング”ってあるからですかね!!!!!!!!!!!!」

「そのボケかましたの、お前で百万回目だぞ…!」

 

 失笑したあと、喉を癒すため、ドリンクバーで取っておいたホットココアを一杯

 その合間に、エールの端末から一曲予約が飛んだ

 

「おー。歌える曲見つけた?」

「はい!!!!!!これなら私も歌えるかもしれません!!!!!!!!」

 

 スイッチをオンにしたまま、エールにマイクを手渡す。彼女は両手でマイクのつかみを持つ。花束のような持ち方だ

 

「あっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ぎゃあ!!!」

 

 突然の大音量で耳が壊れる!!エールは突如として、マイクに向かって叫びやがったのだ

 室内に響くキーンというハウリング!!アタシはすぐ彼女から、マイクをひったくって電源を落とした

 

「何やってんだメイケイエール!!!お前にマイク渡したアタシがバカだった!!!」

「すみませんふざけすぎました!!!!!!!!!ちゃんと歌うんで返して下さい!!!!!!!!!!」

 

 またやったら承知しないぞと釘を刺し、慎重にマイクを返す

 ちょうどその時、歌い出しまでのカウントダウンを示すクリック音が鳴った。イントロのない、歌唱から始まる歌のようだ

 

「 飛翔いたら 戻らないと言って

  目指したのは 蒼い 蒼い あの空 」

 

 選曲は、いきものがかりの『ブルーバード』だった

 イントロのオケからして力強く、そしてどこか爽やかさもあるかっこいい曲。かなり昔に流行った曲のはずで、エールの選曲はアタシにとって意外に感じた

 

「 “悲しみ”はまだ覚えられず “切なさ”は今つかみはじめた

  あなたへと抱く この感情も 今“言葉”に変わっていく 」

 

 アタシの父さんが軽く追っているようで、家族のドライブでアタシもたくさん聞いた曲だ。父曰く、リリース当時ものすごく流行った曲なんだと

 

「 未知なる世界の 遊迷から目覚めて

  この羽根を広げ 飛び立つ 」

 

 でも、いきものがかりといえば、『じょいふる』のようなハチャメチャな元気ソングの方が、エールのイメージに合うと思っていた。思っていたのだが………あの、ちょっと待ってください

 メイケイエールさん。歌、上手くないですか?

 

「 飛翔いたら 戻らないと言って

  目指したのは 白い 白い あの雲 」

 

 キリッとした真剣な表情で奏でられる、青空を突き抜ける鳥の羽音のような、抜けの良い美声。繊細なビブラートに、なめらかに歌い上げられるメロディーの起伏

 素人のアタシでもわかる。これはプロの歌声だ

 いやなんか、あまりにもカッコよく歌っちゃうもんだから、アタシの開いた口が塞がらない。無邪気に爆音撒き散らかす暴走少女のかけらも見えない。つーかこれでカラオケ初めてって絶対嘘でしょ?って感じだ

 

「 突き抜けたら みつかると知って

  振り切るほど 蒼い 蒼い あの空 」

 

 この真面目バカが嘘つくとは到底思えない。じゃあ家でこっそり練習していたのかも。そうでないと、彼女の歌声の説明がつかない

 まさか、まさかとは思うが………

 

「 蒼い 蒼い あの空 」

 

 ………メイケイエールは

 歌の分野でも天才だと言うのか───?

 

「 蒼い 蒼い あの空 」

 

 

 

「………ごめんなさい!!!!!!!!!2番からわからないです!!!!!!!!」

 

 マイクに向かって大声で喋るメイケイエール。またもや室内をキンキンハウリングさせるが、アタシはそれにツッコむ事ができないまま、黙って演奏停止のボタンを押した

 

「………エール。お前、歌超上手いな」

「お褒めに預かり光栄です!!!!!!!!!!!!」

「どこでそんな歌の技術をつけてきたんだ?」

「昔、沢山習い事をしていた時期がありまして、その中で合唱団もやっていたのです!!!!!!!!!!!!!」

 

 なるほど、合唱団か。だからあんなに綺麗で通る声が出せるのか。それなら納得がいく

 イイトコ育ちのお嬢様ってみんな習い事しているもんなんだなぁ。今までどんなことやっていたのか非常に気になる………

 あーいや、今はそれよりも───

 

「なんだ、お前にもカラオケで歌える曲たくさんあるじゃん。合唱曲がさ」

「えっ 合唱曲なんてあるんですか!?!?!?!?」

 

 端末のキーワード検索で“合唱”と入力すれば、学校で歌ったことのある名前から、難しそうなものまで、いろんな合唱曲がズラッと羅列する。それをエールに渡すと、食い入るようにリストをスクロールした

 

「すごい………!!!!!『野生の馬』まであります………!!!!!!!てっきり私、流行曲しか入ってないものだと!!!!!!!!」

「合唱曲どころか………昔の演歌とか、英語中国語韓国語などの洋楽とかも入ってるぞ」

 

 歌える曲があってよかったな。これならなんとか、時間いっぱいまで二人で歌って過ごせそうだ

 予約端末をエールから返してもらったのち、そうしてアタシは、学校で歌ったことのある合唱曲を探すのだった

 

 

 

 

「楽しかったですね!!!!!!!!」

「まさかCosmos合唱があんなに盛り上がるなんてな………」

 

 エールが合唱曲を歌えることが判明した後、アタシの好きな曲とエールの合唱曲を交互に歌う布陣になった。時間はあっという間に過ぎ去り、カラオケ大会は結局、二時間延長した後にお開きとなった

 

「もっとソングちゃんの歌も聴きたかったです!!!!!!!!!」

「アタシ充分歌ったろ。まだ満足しないのかお前は」

 

 カラオケ館の外に出ると、空一面夕焼けが広がっていた。あるあるだけど、窓のない室内にずっといると時間感覚がバグってしまうな

 さて、このあとはどうしようか。エールに訊く為口を開こうとする。すると、すんでのところでエールの声に遮られた

 

「ソングちゃんこれ!!!!!!!見てください!!!!!!!!!」

「あ?」

 

 突然、彼女からスマホの画面を突き出される。何を自慢げに見せるものがあるのだと、それをよく見てみると………

 

「げっ!!!!いつのまに!!!!」

 

 それは、エールが内カメで撮ったカラオケでの写真。アタシとエールのツーショットなのだが、問題はアタシが笑顔で気持ちよく歌っている最中の写真だったということだ

 

「こっそり撮っちゃいました!!!!!!!!!」

「お、お、おのれメイケイエール!!!!よりにもよって、アタシが自己陶酔している瞬間を!!!!」

 

 なんかこの写真!?マイクを持つ手の小指が上がってるし!!変にカッコつけているみたいで恥ずかしい!!!

 写真を消してしまおうと、エールのスマホをひったくろうと手を伸ばすが、彼女の腕が引っ込むのが早い!

 

「バカっそんな写真すぐに消してしまえ!!!」

「いやでええええええええす!!!!!!!!!!絶対消しません!!!!!!!!!」

 

 強引にでも消してやろうと追うアタシ。スマホを取られまいと逃げるエール。夕焼け空の下、駅前ロータリーの軽いスプリントレースが始まった

 

「待てったら待つんだバカエール!!!!」

「嫌だったら嫌でええええええす!!!!!!!待ったら絶対消しちゃうじゃないですか!!!!!!!!!!」

 

 内心の照れを隠そうとしながらお転婆少女を追う最中。アタシは、彼女の楽しそうな笑顔が溢れているのを見た

 本当にお前は、しょうがないやつだなぁ!彼女の絶叫に対抗するように、アタシも笑顔で絶叫したのだった

 コイツがそんなことを絶対しないこと、分かっている。そんなのを知った上で、叫んでやるんだ

 

「こんにゃろー!!イタズラにでも使ったら、承知しないからなぁー!!!!」

 




余談
二人が好きそうな曲=イメソンではないので、できるだけ俺の音楽趣向と関係ないところからピックしようとしました。俺が思う二人のイメソンは全く別。機会があれば言いたいぜ

ソング←やくしまるえつこ好きそうなイメージがあったので、Twitterからファン探して呟きからピックした。今まで俺は『ニュームーンに恋して』を一度も聞いたことが無かったのですが、曲と歌詞聴いてすぐ決め打った
エール←引退式の「Yell」繋がり。そうじゃなくても多分テレビで人気な曲を好んで聴くタイプだと思う。この子の「じょいふる」めっちゃ聴きてぇ〜!
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