全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
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「導ねぇ………」
まったく。想像力が豊かなおじいさんだこと。放課後の廊下を歩きながらそんなことを思う
アタシは、先ほど他校のトレーナーから最後のスカウトを受けたばっかりだった
その男はあの後も、函館校再興の立役者になれるだの、厩舎無所属の希望の星だの、浮ついた言葉ばかりをアタシの前に羅列していった。いやまあ、おだてられるのはとても嬉しいんだけどさぁ、あいにくアタシは別にそんな、持たざる者が最強になる〜みたいなドラマっぽいことを意識して走っていないんだってのっ! てか、血筋的には恵まれてる方だし!
アタシがトレーナーとして欲しいのは、ちゃんと走りを分析してくれるリアリストだ。そういうふわっとした話よりも………実践的というか、現実的な意見が聞きたかったぞ
軽く裏切られた心地だ。申し訳ないが、アタシはロマンや学校の再興に付き合う暇なんてない。気分を紛らわすように、アタシは中京校校舎の廊下を早歩きする。危ないけど、正面玄関で彼女を待たせていたしな
「あ!!!!!!!!!ソングちゃああああああああん!!!!!!!!!!!!!」
「ごめんエール。待たせちゃったな」
「全然大丈夫ですよ!!!!!!!!」
学校の正面玄関で、すでに外履きに履き替えているメイケイエールが、こちらに向けてブンブンと手を振ってくれた
自分の下駄箱にたどり着いたアタシも、外履きを取り出し履き替える。これからエールと共に、隣町の運動公園へと向かうことになっていた
「エールが前に言ったじゃん。ソングちゃんにはこれから沢山のスカウトが来ますって。そしたら今日マジでたくさんのトレーナーがスカウトにやってきててさ」
「おお!!!!!!!本当ですか!!!!!!!!!!!」
「それも二人三人ってわけでもないぞ? ………なんと、七人来た」
「ええ!!!!!!!!そんなにですかあああああああ!!!!!!!!!」
「授業中に何度も呼び出されて、トレーナーたちの説明聞くのが大変だったよ」
エールのオーバー過ぎるリアクションで、アタシも自然と笑顔になってしまう。一部の競専トレーナーたちは、GIレースのNHKマイルで二着をもぎ取った、アタシのことを注目しているようだった
まあそれとは反対に、報道メディアの方はというと、シュネルやソダシなどのGI覇者のことばかりで、アタシのことなど話題にすら挙げないが………
「中山からが二人。阪神、函館でそれぞれ一人ずつ。んで、市内のトレーニング塾からも三人きた」
「うわぁお!!!!!!モテモテですね!!!!!!!」
「モテるならもっと前からモテて欲しかったんだがなぁ………」
スカウトしにきた連中はみんな口を揃えて“貴方には才能がある!”って言ってくるのだが、それを聞くたびに、見抜くのが遅いぞって突っ込んでしまいたい気持ちだ
「あーでも………そんなにモテモテなら、ソングちゃん、転校になっちゃうかもですね………!!!!!!!!!」
「………それがさぁ。なかなか、コレだ!って言えるぐらいの良いトレーナーがいなくて」
「七人もスカウトしに来ているのにですか!!!!!?!?!?!?!??」
笑顔から一転して驚嘆するメイケイエール。自分でも贅沢な事言ってる自覚はある
「でもアタシにも事情やら色々思うところがあってさ。聞いてくれよメイケイエール」
学校の正門を抜けて、運動公園の方角へ歩を進める
目的地への道のりまではけっこう遠い。でもそのおかげで、どんなトレーナーがきたのかをエールに話せるぐらい時間がある。昼過ぎの街中を歩きながら、アタシは口を開いた───
4時間目の授業中。教室の入り口から、またもや事務の先生が申し訳なさそうにアタシを呼び出した。しょうがないことは分かってるけど、途中退出するところをクラスメイトにジロジロ見られるのは恥ずかしいな………
またもや授業中の廊下を歩き、またもや面会の為の応接室に入室すると、またもやアタシをスカウトしにきたというトレーナーがいた。これで数えて五人目になるその人は、なんと珍しい、女性のトレーナーだった
深田穂(ふかだみのる)と名乗った黒髪ロングの彼女は、ビシッと決まった黒いスーツを纏い、背筋を伸ばした綺麗な姿勢でソファに腰掛けていた。眼鏡越しに見える瞳からは、一言でプロフェッショナルと呼ぶに相応しい、凛とした雰囲気が漂っていた。アタシも自然と姿勢が伸びてしまう
軽い挨拶の後、彼女から名刺が差し出された。習った通りの作法でそれを受取ると……
「貴女、シュネルマイスターに勝ちたいのでしょう?」
「!?」
瞬間。単刀直入ってな感じで、彼女は唐突に切り込んできた
その言葉に、アタシのウマミミはびくりと反応してしまう。なぜ、あなたはアタシの宿敵の名前を
「NHKマイルのあの日………私には聞こえていましたよ。僅差で敗北したシュネルマイスターへの、強い呪いが籠ったあの絶叫を」
「あ、あはは〜………」
………それは、アタシがシュネルに屈辱的敗北を食らわされた時のこと。結果が灯る掲示板を背景に、いつものニヒルな笑みでシュネルがアタシを見下した瞬間。アタシはシュネルの意図を全て理解した
端的に言えば、彼はアタシの弱さに付け込んだ勝ち方をしたのだ!それがものすごく悔しくて、エール以上のバカでかい声で吠えてしまったのだった
「お、恥ずかしいところを見られていたようで……」
「いいや。恥ずかしい事なんかじゃありません。勝者の資格とは絶大な“感情”。その身一つが到底抱えられぬぐらいに、底知らずの“感情”を持っていること」
「走者における感情とは、彼ら彼女らが全力疾走するためのガソリンであり、勝ちたいと願う渇望の全ての根源なのです」
「……………」
深田トレーナーの鋭い瞳は、私の心のより深くまで見透かそうとしているみたいでなんとも不気味だ。アタシを確実に捕えたいのか、深田トレーナーは次々と説得のセリフを捲し立ててゆく
「シュネルマイスターが所属している検見川厩舎。その厩舎には私も深い因縁があります。私は共に戦ってくれる心強い仲間を集めていたのです」
「…………!!!」
「貴女も私も、宿敵を討つという目標は同じです。もしかしたら、同志とも呼べるかもしれません。ソングラインさん、NHKマイルで飲んだ苦汁を力に変えて、私と一緒に頂点を目指しませんか?」
…………彼女のスカウトは、アタシにとってものすごく魅力的に聞こえてしまっていた
確かにアタシはシュネルマイスターに勝ちたいと思っている。あんな負け方をしたのだ、それはもう徹底的にけちょんけちょんにしてやりたいと思っている
そこに、アタシと同じぐらい熱意を持ったトレーナーが手を差し伸べてきたのだ。もし彼女が私のトレーナーになったのなら、これ以上ないくらいの心強い味方になってくれるだろう!!
「でも断っちゃった」
「ええ~~~!?!?!?!!?!?!?!?今の話、絶対スカウト受ける流れだったじゃないですか!!!!!!!」
困惑した表情を浮かべながら、馬鹿でかい声で驚嘆するメイケイエール
わかる。わかるぞメイケイエール
その程度でなんで断ったんだと、そう言ってしまいたいのだろう。でもなぁ………
「中山校には絶対に転校したく無くてさ。シュネルがいるし」
「そりゃあシュネルさんはいますけど………もしかして、シュネルさんがいるってだけの理由で断っちゃったのですか!?!?!?!?」
「うん。それだけ」
彼女の困惑の表情はより深くなる。“流石にありえないですよ………”と言わんばかりのエールのこんな顔、アタシ初めてみたぞ
「中山に転校したら、シュネルと毎日顔合わせることになるだろう? かなり嫌だなぁ〜……って思ってさ。もう一人の中山校トレーナーも同じ理由で断った」
「そんなっ、めちゃくちゃ勿体無いですよ!!!!!!!!!」
中山校は競専のなかで、東京校に次いで二番目に強い学校とされている。競専受験時代、アタシが第一志望にしていたのも中山校だった
だが、NHKマイル以降、アタシはシュネルのことがますます嫌いになっていた。人を小バカにするような眼差し。呼吸するたびに溢れる煽りセリフ………全部嫌いだ。同じ空気も吸いたくない
死ぬかもしれない超過酷なトレーニングを毎日寝るまでやるか、シュネルと同じ学校に通うかなら、アタシは迷わず前者を選ぶぐらい。それ程にまで、彼に対するヘイトが溜まりに溜まっていた
「いやいやソングちゃんような才能のある選手は、強いトレーナーと契約すべきです!!!!!!!!」
「アタシだって条件が合えば契約したいと思うけどさぁ………無理なものは無理なんだよ」
「うむむ………七人もスカウトが来たのですから、一人ぐらい良さそうなトレーナーさんとかいるんじゃないんですかねぇ………!!!!!!!!!」
「………まあ、いるにはいる。強いていうなら、一番最初に来た阪神のトレーナーかな」
唯一アリだなと思ったのは、若くて清潔感のある男だった。山崎と名乗ったハンサムは、七人の中で一番熱心に勧誘してくれた
自分たちの厩舎には最高の設備と最高の仲間たちが揃っている。ボクとキミなら、マイルレース最高峰である、安田記念やマイルCSだって掴み取れる………と
「何より魅力的と感じたのは実績だな。競専設立当時から存在する歴史のある厩舎らしくて、GI覇者は歴代で12人」
「おおっ!!!!!!!!!多いですね!!!!!」
「それに現役選手も悪くない。現在抱えの生徒は、GIレースでちょくちょく活躍しているハルコミニカとマルハナシュッパツ。共に一線級の選手だな」
「とてもいい環境じゃないですか!!!!!!!!!!!!!」
いい環境………そう、本当にいい環境だ。なんだけどな……
アタシは苦悩に頭が重くなって、目線が徐々に下がっていく。アタシには、阪神校転校をどうしても即決できない理由があった
「でもお金の問題がなぁ………阪神校って、学費が中京の数倍かかるじゃん。ちょっと払える額じゃないっていうか………」
「あ、あぁ〜……!!!!!!」
結局………親の経済力頼りになってしまうのが現状だ。他校より比較的に安い中京校の学費でも、なんとかギリギリ払えるかどうかって程度には、アタシの家庭は火の車だった
ちなみに、アタシが獲得したNHKマイルの二着賞金は、母親がアタシに黙って家のローン返済に使われてしまった。おのれ母さん、アタシに一言ぐらい言えっての
「お金の問題だと、アタシにはどーしようもないからな。塾もお金の事情で蹴っちゃった。元々貧乏が理由で野良やってたし」
「………………」
「まあクラシックのこの時期だし、本当にいいトレーナーは今更スカウトなんてしないよなぁ………トレーナー制度のない中京校に来た時点で、ぶっちゃけ正規の競専スカウトなんて最初っから諦めていたっていうか………」
すると、横にいたメイケイエールは、憂いを帯びた瞳で、突然とんでもない提案を持ちかけたのだった
「なら、その阪神校の学費。中京校が、全額払って差し上げてもいいんですよ?」
「………何言ってんだメイケイエール」
Q.シュネルは手塚厩舎では?
A.そんなこと言ったらエールは武英厩舎だしソングは林厩舎だよ!史実ベースのフィクションなので色々変えてます