全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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第18話② - あたしは手を握ってしまった

 

「なら、その阪神校の学費。中京校が、全額払って差し上げてもいいんですよ?」

「………何言ってんだメイケイエール」

 

 学校が、払う? 何言ってんだメイケイエール。あまりに話が飛んでる提案過ぎて、聞かなかったことにしようとするアタシ

 しかし、先ほどまでのエールのハイテンションさはいつの間にやら消えていて、真剣な眼差しで彼女はアタシを見つめていたのだった

 

「繰り返しにはなりますが、やはりソングちゃんのような才能のある選手は、優秀なトレーナーと契約した方がいいに決まっています。お金がないから契約できないなんて、そんなのすごく勿体無いです」

「でも、中京校校長なら、ソングちゃんの困り事を解決できるほどの資金力がある。義娘である私から嘆願すれば、きっとお父様も納得して出資してくれます!!!!!!!!」

「だから、大丈夫なんです!ソングちゃんなら阪神でも………」

 

 エールが説明を全て言い切る前に、アタシは彼女の流星の上からデコピンをくらわせた

 

「あだ!!!!!!!!!!!!!」

「バーカ」

「ちょっと、なんで!!!!!!!!!」

「余計なお世話だってんだよ。このおてんばお嬢様が」

 

 困惑するメイケイエール。なんでデコピンをくらってしまったのか分かってないような感じだ

 ………メイケイエールは、アタシのことを真剣に想っているからこそ、咄嗟にそんなことを言ってくれるのだろう。そこはとても嬉しい

 だがお前は、なーんもわかっちゃいないよ

 

「学校からの直々の出資なあ。そんな大金さぁ………アタシはどうやって返せばいいんだよ」

「いやいやあげるんですから、別にソングちゃんは返さなくてもいいんですよ!!!!!?」

「そういうわけにはいかないんだよ普通は!!!!」

 

 校長の娘権限で出資してもらうって、あまりにも常識はずれ過ぎる提案だ。友人間における手助けの域を超えている!

 

「とにかく、二度とアタシに金の話を持ち出すなよ!!!!!!」

「そ、そんなぁ………」

 

 アタシの説教に、項垂れてしょんぼりするメイケイエール。ウマミミも垂れ、歩く速度も、“とぼとぼ”という擬音が似合うくらいにはスローになっていた。良かれと思って行った提案が、ここまで否定されるとは思わなかったのだろう

 

「お金もスカウトも必要ない。競専正規じゃなくても、アタシらにはいるだろ。エールが引き合わせてくれた、志積トレーナーがさ」

 

 身元不明の元トレーナー、志積清

 たまたま倒れていたとこを二人で助け、エールの才能と能力を見抜いた男だ。人としてはちょっと信用出来ないが、それでも選手を見る目だけは信じられる。ウマとしての身体的優位性を過信しているわけではないが、最悪異変を感じたらすぐ逃げりゃいいしな

 たとえアタシに来ているスカウトを全部蹴ったとしても、アタシには志積トレーナーがいるんだ。正味な話、アタシのトレーナー問題はどうとでもなる

 

「いやでも、アレって私の私情ですし………それにだって、私まだソングちゃんに………」

「てか、アタシのことより、自分のこと心配しろよメイケイエール。人に手を差し伸べる立場じゃないだろ、名古屋の暴走娘さんよ」

「うっ、うぅ………!!!!!!!!!」

 

 アタシはさらに追い討ちをかけると、エールは胸を矢で射抜かれたような声を発した

 名古屋の暴走機関車とネットで揶揄されているその症状。メイケイエールはレース中、強いストレス負荷により心神耗弱の状態へ陥り、やがていわゆる“暴走状態”へと至るのだ

 

「なんとかしなきゃ、ですよね………」

「そうだな。出来るだけ早くなんとかしなきゃいけない」

 

 彼女はすでに一度、レース中に暴走して走者を妨害している。イエローカードが出てしまっている

 次やらかせばレッドカード。いくら校長の義娘だとしても、退学処分は免れない。彼女が競走選手を続けるには、一刻も早くその暴走癖の治療をしなくてはならなかった

 

「エールの暴走癖を潰す、いい方法があればいいのだがなぁ………」

 

 まー簡単に解決策が見つかるのなら、彼女も今みたいに苦労していないだろう。暴走癖を潰すいい方法なんて、そんな都合よくあるわけ………

 

 

 

「メイケイエールの暴走癖を確実に潰す方法が存在する」

「本当ですか!?!?!!!!!!!!!?!?!?!?」

 

 競技場トラックを見下ろすベンチで、老眼鏡をかけた志積Tトレーナーはあっけらかんとした口ぶりでそう言った

 彼の座るプラスチックの観戦ベンチには、一つのリュックサックと複数の書類がバラバラに広げられており、まるで彼が取り囲まれているかのようだった

 

「俺はいままで何人も気性難バを育て、レースに送り出したことがある。そいつらは殆ど素行不良者だが、その枠に当てはまらない奴もいた。まさに、メイケイエールのようにな」

「そうなのですか!!!!!?」

「トーイウェズカン。そいつは、普段は冷静という言葉が似合うような牡バだった」

 

 志積Tはムスッとした表情のまま、早速自分の古い記憶を辿るように語る。運動公園の競技場は無人で、陸上向けのグラウンドコースの上には、日向ぼっこしにきた小さな鳥の群れが囀っていた

 

「外向きは物静かで冷静沈着だったんだがな、心の方はというと非常に幼かったんだ。何回やっても未勝利が勝てない自分の能力不足に憤り始め、トーイウェズカンは次第に荒れた行動を見せるようになった。彼はレース中に癇癪を起こし、他者へ妨害をするまでに堕ちていってしまった」

「………………」

 

 声のトーンを一切変えることなく、無表情な状態で昔話が続けられる。隣のエールの方をチラリと見やると、少しだけ悲しそうな目をしていた。わからないけど、話に出ていた教え子に同情しているのだろうか

 

「元々担当だったトレーナーは手がつけられないとチームから除籍。別の厩舎に入ろうとも、噂が出回っているから他のトレーナーは誰も引き取ろうとしない。気性難バの宿命だな………そんなウェズカンを、まだ若手だった俺は引き取った」

 

 わざわざ気性難を取る人もいるんだな。アタシは気になって質問してみた

 

「何故、わざわざそういう走者を………」

「手柄目当てだよ。大きな戦果を上げずとも、じゃじゃウマをマシに育て上げるだけでキャリアになるからな。危険な気性難を受け持つ理由なんてそんなもんだ」

「なるほど………」

「それ以前に、実力のあるベテランは見え見えの地雷を取りたがらない。俺がいなくても、どっかの新人に押し付けられていたさ」

 

 好きで不良してる奴は自業自得だけど、どうしようもない奴にとっては大変なのだな

 

「さて、ここからが本題だ。暴走癖を確実に止める方法ってのはな、とある“特別トレーニング”の事を指す………トーイウェズカンやメイケイエールのような、自分の意思に反して気性が荒くなる走者を更生させるために編み出したものだ」

「ふむふむ………!!!!!!」

「ウェズカンにその“特別トレーニング”を三ヶ月みっちりこなしてもらった。するとどうやら、それが肉体面と精神面共に、覿面に効いてくれてな」

「おっ、おお!!!!!」

「その後、そいつは二度とレース中癇癪を起こすことなく、未勝利とオープン特別を勝ち上がっていった。重賞にはまだまだ届かなかったが、よく健闘してくれたよ」

「す、すごいでえええええす!!!!!!!!!」

「う、うーむ………………」

 

 ………なんだか、眉唾に聞こえてしまう。アタシは志積Tの分析眼を買っているが、彼の話は正直疑いの目で見ている。すでに彼は、アタシたちに戦歴の嘘をついているからだ

 でもエールの興味津々な様子を見るに、話を鵜呑みにしているみたいだ

 

「“特別トレーニング”のメニューはものすごく単純だ。ある事を禁じられた状態で、ある運動を毎日こなすだけ。やろうと思えば、誰にでも容易に実行できる物になる」

「ふむふむ!!!!!!!」

「………だが問題なのは、メニューがトレーナー規定に抵触することだ」

「規定違反なんですか!?!?!?!?!?!?!?!?」

「そのぐらい過酷なんだよ」

 

 うわぁ………なんだよそれ

 競専にはトレーナー規定という法が存在し、中には過度なトレーニングを禁止するための項目もあった。でも規定違反って、体罰とかはもちろん、時間制限と食事についてぐらいしかなかったはずだ………

 気性難というのは簡単に治らないから厄介なのだ。それをたった三ヶ月で克服させるなんて、絶対に普通のトレーニングじゃないと思っていたところだ。予想するに、長時間の運動を行わせるとかなのかな

 

「用意は済ませてあるから、早速今日から実行してもらおうか」

 

 そう言って、志積Tは隣のイスの上に置いてあったリュックサックを漁る

 そして彼が取り出し、アタシたちに押し付けたのは………

 

「“特別トレーニング”の正体は、これだ」

「これは………」

「大豆、ですか????????」

 

 家のキッチンによくある、食品保存用のタッパー。その中にはぎっしりと、クリーム色の蒸し大豆が詰め込まれていたのだった

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