全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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エールちゃんが静かなの今だけ


第2話 - その接先にあった言葉と、

 

 メイケイエールと戦った翌日。学生で賑わうお昼どきの食堂

 普段一緒に食べる友達に詫びを入れた後、アタシは昼食プレートを両手に、何かを探すようにしてあたりを見回していた

 広い食堂部屋の奥の方に、目的の彼女はいた。一人テーブルの端っこで黙々と、今日のメニューである山盛り親子丼を食べていた。好都合だ

 

 彼女に近づいていくにつれ、自分の顔はしだいに顰めっ面へと変わっていく

 アタシに気がついた彼女は、昨日と同様怯えと困惑が入り混じった顔を見せてきたのだった

 

「ま、また勝負ですかね……」

 

 ビクビクしながら一言漏らす。まー仲良くなったわけでもないんだし、このリアクションも当然っちゃ当然か。喧嘩腰だったアタシにも非があるわけだしな

 しかし、このまま彼女が心を閉ざしたまんまじゃ、きっと事件の真相は何も分からずじまいだ

 ため息を一つ小さく吐き捨てる。正直半分ぐらい嫌な気持ちがあるが、致し方なし。彼女の前の席に、アタシは自分のプレートをそっと置いた

 

「メイケイエール。食べるぞ、一緒に昼食」

 

 

 

 ……そのきっかけは、今日の学校の始まり。朝に自分の教室に登校すると、隣の席に座る奴からニヤニヤと揶揄われてしまった事が発端だった

 

「聞いたよライン。昨日メイケイエールにレースを仕掛けて呆気なく惨敗したんだってぇ?」

「うるさい」

「大丈夫?シュネル君との対戦も控えてるってのに」

「……次煽ったら顔面殴るから」

「ひっ」

 

 すぐ調子に乗って軽口を叩くから、握り拳を見せて黙らせる。こいつの取り扱いにもだいぶ慣れてきた

 右耳に時計の髪飾りをつけているこいつはタイムトゥヘヴン。同じマイル路線狙いの(おとこ)

 アタシの数多いライバルの一人で、席が隣になってからというもの、なにかと喋る仲になっていた

 

「……それで?メイケイエールちゃんってどんな感じだったの?」

「なんか意外と普通っていうか、すごく落ち着いてる子だった。悪事とか思いつかなそうな感じ」

「ふうん」

 

 メイケイエールは、アタシが怒鳴ればヒィと鳴き、勝負の時以外の彼女はずっと腰がひけていた

 あれは決して自分から嫌がらせをやってくるような性格ではない

 

「だけど、ますますアイツがアタシに突進した理由がわからなくなったぞ……」

「あれ、まだそのこと考えてるの?」

「昨日の夜からずっとな」

 

 ため息を一つ吐きながら、カバンを閉じて机の横に引っ掛ける

 そうして椅子に座ったアタシは、タイムに向かって話を続けた。煽った分だけアタシの話に付き合ってもらおうか

 

「でも一つだけ、あの彼女がアタシに妨害しうるあり得そうな推理を思いついたんだ。エールの裏には真犯人がいて、その誰かが彼女に妨害を指示したんだ」

「……なるほど?競争相手を一人でも多く減らすことで、真犯人さんが勝ちやすくなるように?」

「そうそう。彼女結構押しに弱そうなタイプだったし。きっと脅されていたのかもしれない」

 

 ふふん。この推理、我ながらなかなかイイ線いっているんじゃないか?

 しかし、タイムはバカを見るような目をアタシにむけてきた

 

「……そもそもさあ、キミって強い奴にマークされるほど注目されてなかったろ」

「なっ…!! うっさいなぁ!」

「7番人気」

「何が悪いっ!GI出場ってだけですごいことなんだぞ!?」

「はっ。次のNHKマイルにはボクも出るから関係ないね」

 

 挑発のように鼻で笑うタイムトゥヘヴン。まだ一勝のくせに、先日のGIIで2着に食い込んだからって調子に乗っていやがる

 覚えてろよ……?お前にだけは絶対勝つから

 

「そーいえば。メイケイエールちゃんのこと、インターネットでは結構話題になってんだ」

「へー。やっぱり非難轟々か」

「いや賛否両論だね。擁護意見も結構目にする」

 

 なんだと?と、つい声が出てしまう。あの暴走機関車に擁護する要素なんてどこにあるんだっての

 

「ネットの掲示板とかは結構燃えてたけど、Twitterでは彼女のファン達が『普段は真面目でいい子なんです!』って必死に庇っててさ。どうやらメイケイエールちゃん、“真面目すぎて暴走”しちゃう子なんだってさ」

「は、はぁ?何言ってんだお前」

 

 ……言っていることの意味がまるでわからなかった。だってその言葉の並び、矛盾してるじゃないか

 

「ボクもチラッと見ただけだからあんまりよく知らないんだけどさ。彼女の場合、レースで勝たなきゃ!って気持ちが昂っちゃって、それで焦って前の人を必死に追い抜こうとしちゃうんだって」

 

 なんだそりゃ……そんなイミフな理屈で『はいそうですか』で納得できるわけないだろ

 

「あのなあ。現にアタシはアイツに走行妨害されたんだぞ?『本当は真面目なので、かかって無理やり先頭を走ろうとしたり、周りの選手に妨害したりするのも許してください』?………それが罷り通るならレース規定なんて要らないだろ!」

「まあそれはそうなんだけど、ねぇ……」

 

 ああ、まーたムカムカしてきた。気を抜いたら恨みつらみが無限に口から吐き出されそうだ

 だけれど全部爆発させるのもアレなので、アタシは精一杯気持ちを自制しながら、だがはっきり断言できる客観的事実をタイムに返答した

 

「てか、そもそも“真面目すぎて暴走”なんてありえないだろ。妨害行為なら尚更だ」

「うーん……向こうにもいろいろ事情があると思うんだけどねぇ……緊張とか」

 

 もう意味わからん。いけないとわかっていても、またもや溜息をついてしまう

 

「……そんなにエールちゃんのことが気になるのかい?」

「気になるどころじゃない。許せないからこそちゃんとハッキリさせたい」

 

 そしてタイムのやつは、アタシにこう提案をしてきたのだった

 

「なら本人に直接事情を聞いてみればいいじゃん」

「お前、簡単に言うけどさあ……」

 

 

 

 ……というわけで。メイケイエールから話を聞く為、昼食時に突撃することにしたのだった

 

「あの、今財布は個室の方にあって」

「だからカツアゲじゃないっつーの!アタシのことなんだと思ってるんだメイケイエール!」

 

 許可も取らず我が物顔で前の席に座り、箸を掴んだアタシは山盛り親子丼の卵がかかった鶏肉を口に放り込む

 エールの方は私が来てからというもの、箸を動かす手が止まっていた。だいぶ怯えているなあ

 

「じゃあ今度は一体何を……」

「別に何もないぞ。一緒にご飯食べて雑談することで、親睦を深めるんだよ」

「親睦って言っても……ソングラインさん、今もすごく怒ってるじゃないですか」

「怒ってない」

「あの……ずっと怖い顔してますよ?」

「……これは生まれつきだ」

 

 咄嗟に嘘を吐いてしまったが、手で眉間を触ると確かにシワが寄っていた

 無意識に睨みを効かせていたようだ。ソングラインめ、相手を余計にビビらせてどうするんだ

 なるべくシワがよらないよう顔に意識を向ける。すると今度はエールの方から、すこし引っかかるような事を言ってきたのだった

 

「……私が知っているソングラインさんは、そんな怖くなかったです。もっと明るい雰囲気の人でした」

「何? ちょっと待て、桜花賞以前に面識なかったろ」

「ああいえ、私が一方的に知っているだけで……」

「いつ、どこで」

「中京レース場で開催された紅梅ステークスで、ソングラインさんが勝ったところを」

「嘘っ、あのレース見てたの!?!?」

 

 衝撃事実に、ついつい前のめりになってしまう

 なぜって、自分が勝ったレースを見てたなんて言われたら、選手なら誰だって嬉しくなるもん。なによりアレは、アタシ史上一番カッコ良く勝てたレースだった

 

「え、ええ……たまたまソダシちゃんに誘われて見ることになったんですけど……でもでも、凄かったですよね!他のウマをも寄せ付けない三バ身差の圧勝で!!!」

「いやぁ、まぐれだぞアレは」

「まぐれで圧勝なんてできませんよ!!!あの時のソングラインさん、我が道を征くって感じでカッコよかったです!!!!!!」

「へへっ、そうかそうか」

 

 なんてことないって風にサラッと流してみせるが……やばい。結構嬉しい。褒めに弱いからすぐ口元が緩んでニヤニヤしてしまう!

 いやはやアタシも単純だ。いくら怨敵だろうとも、こうやって褒められちゃあ怒りもだんだん引いていくような心地がする

 

 いやいやいかんいかん、懐柔されてどうする。今日の目的を忘れるなソングライン。今日はあの日の真相を確かめるために凸ったんだろう?

 今の話でアタシに直接的な恨みがあったわけではないのは判ったが、だからってエールのペースに飲まれちゃいけない。多少強引にでも軌道修正だ

 

「褒めてくれるのは嬉しいが、恥ずかしいから一回置いといてだ……」

「ご、ごめんなさい」

「なんで謝る………あー。こほん……今の発言で少し気になる事があるんだが……お前、ソダシに誘われてアタシのレースを見たって言ってたよな」

「あっ、はい!!ライバルの偵察って言ってました」

「そうか……」

 

 少し考え込みながら、アタシはご飯と鶏肉を一緒に摘んで一口食べる

 そうだな……とりあえずエールから、ソダシとの二人の関係性を引き出すことにするか。なんせソダシは桜花賞優勝している。アタシの勘が、“決して無関係ではない”と告げていた

 

「じゃあ、そのソダシって一体どんな奴なんだ?とても強くて美しいぐらいは知っているが、別クラスで特段関わりもないからさ。詳しく知りたいんだ」

 

 するとエールは、萎んでいた風船が空気を得て膨らんだような、そう思わせるぐらい元気になったかように立ち上がって、

 

「ソダシちゃんって!!!!すごくすっっごく素敵な人なんですよ!!!!!!!!!!!」

「うおっ」

 

 感嘆符増し増しの食い気味で語り始めたのだった………

 

「ソダシちゃんといえば、皆を魅了する美しい立ち姿とGI二勝という圧倒的なレース成績ですが!!!!!!!!!実は!!!!!!!!!プライベートの彼女ってとっても友達想いで優しいんですよ!!!!!!!!!」

「おう……」

「私が高熱を出した時は付きっきりで看病していただきましたし!!!!!!!!!!!!!」

「そうか…………」

「私が小さかった頃はずっと!!!!!!!!!!!ソダシちゃんがそばにいて守ってくれました!!!!!!!!!」

 

 な、なんだこのメイケイエール…… こいつ、さっきまでしょぼくれていたのに、ソダシの話になると途端にエンジンかかったみたいにすごい饒舌に喋ってくる。自分が好きな物の話題になったらめっちゃ喋るタイプなのか。てか声うるさ!!

 

「要はお前、ソダシに甘えてばっかだったってこと?」

「ひ、否定はできません!!!!!!!」

 

 ……ふむ。彼女が語ってくれた“ソダシちゃん優しいエピソード”にはあまりピンとこなかったが、まあこれだけの熱量だ

 親戚関係の枠を超え、実の姉妹レベルと言っても過言ではないくらいには仲が良いのだろう。その語り口からソダシへの想いが伝わってくる

 

「それに優しいだけじゃなく、カリスマもあってカッコいいのです!!!!!!!!」

「ソダシちゃんと私は同じ白雪家で産まれたのですが、彼女は私に『白雪家を大きくする為、私が先頭に立ってこの家を牽引していくんだ』とも語ってくれました!!!!!!!!!なんと彼女は、白雪家の勢力拡大という偉大な使命を持って選手活動をしているのです!!!!!!!!」

「強く美しくて、さらに意志が強くてカッコいい!!!!!!!!!まさに完全無欠の牝バ!!!!!!!!私の一番の憧れでええええええす!!!!!!!!!」

 

 クソデカい声とオーバーな身振り手振りと共に、ニコニコ笑顔で熱弁を振るうメイケイエール。きっとこれが彼女の素の部分なのだろうな

 しかし、アタシは今の話を聞いてこう考えていたのだった

 ───メイケイエール。やっとボロを出してくれたな?

 

「へえ……?じゃあその使命感が人一倍強いというソダシさんなら、自らの目的の為に悪い事とか平気で考えてそうだなぁ」

「えっと、なにがでしょうか?」

「はん。とぼけちゃって」

 

 アタシはも一つ鶏肉を口に入れて噛み砕き、牛乳パックで流し込む

 そして静かに箸を置いてから、真面目少女の瞳を静かに睨みつけながらこう言った

 

自分が勝つ為に手段を選ばず、他人に妨害工作を行わせるとか、な」

「…………どういう意味でしょうか」

 

 ……競走バは皆、自分が勝ちたいと思っている。その気持ちに例外なんてない。しかし、勝利する見込みが自分にないならせめて、自分の友人に勝ってほしいと望んで行動に走ることも少なくない。友人がそれらしい使命を持っているなら尚更のこと

 友人の都合の良いようにレース運びを進めるため、あるいはライバルの邪魔をするため(まあ露骨に突進してくる奴なんて滅多にいないが)。それは一勝の価値が重い大舞台であればあるほど起こりうる

 お分かりだろうか……レース妨害に対する直接的な罰則はあれど、この世界のレース規定に出走者同士で結託してはいけないというルールは存在しない

 自分の勝利を犠牲に、本命の誰かを勝たせる妨害工作が事実上可能なのだ

 

 タイムめ。小馬鹿にしていたが、やっぱりアタシの推理どうりだったじゃないか

 確かに彼女は真面目だ。話していてすごく伝わる。根はすごい良い子なのだろう。ならばその、“暴走する”という方が真っ赤な嘘だとしたら?

 

「アタシはメイケイエールについて、“真面目すぎるが故に暴走する”と聞いていた。だけど正直この表現に納得ができなくてな。だって真面目な奴が暴走なんて、そんなフザけた真似なんてしないだろ?」

「…………」

「そして見たところ、お前は真面目だ。アタシが何か突っかかってきたらそれを抵抗できるだけの度胸もない。なら、間違ってるのは暴走の方………アレは暴走じゃなかった、本当は暴走している“フリ”だったんだ!」

「…………………」

「さらに、お前のソダシに対する想い、感情。そこまでソダシを尊敬しているんだ、彼女から妨害を指示されたら素直に従うだろう?まあ、お前自身が自発的にやったとしても筋は通るだろうがな」

「…………………………」

「とにかく、だ。お前はソダシを絶対に勝たせたかった。彼女の脅威になるやつはできるだけ間引きたかった。だからアタシを妨害したんだろう!!!!違うかっ!?!?」

「…………………………………っ!」

 

 恨みと共に次々と捲し立て、彼女の精神に揺さぶりをかけていく

 揺さぶりのためにハッキリ断言したが、それを立証するだけの証拠など残っていないだろう。だが、真面目な奴ほど嘘をつくことを嫌って避けようとするはず。エールならきっと、ここまで追い詰めれば罪を認めざるを得ないだろう

 さあ白状しろメイケイエール。アタシは恨みの念を込めながら強く睨みつける。うつむいた真面目少女は、ギリリと奥歯を噛み締めた後……

 

 なんと、アタシに向かって強く怒鳴ったのだった

 

「……ソダシちゃんはそんな汚いことする子なんかじゃありませんっ!!!!!!!!!!仮に私が自発的にやったとて、それで喜ぶほど腐ってもいませんっ!!!!!!!!!アレは……アレは私の……!!!!!!!!」

 

 ……あんなに騒がしかった食堂が、しんと静まり返る

 そして、絶叫の途中で我に帰ったメイケイエールは途端に赤面し、

 

「……ごっ、ごごごごめんなさい!!!!しししっ失礼します!!!!!」

「まっ、待ってくれ!!」

 

 食べかけの昼食プレートをほったらかしにして、彼女はどこかに行ってしまったのだった

 ……ハッとしたような気分だった。メイケイエールの怒りの叫び、あれはきっと嘘偽りのない叫びだった。つまり、アタシの推理は間違いだったってことで…………

 

「あぁ、最悪だあ………しくったかもしれない」

 

 

 

 ───エールちゃんと初めて出会ってから結構経つけれど、彼女の怒声は初めて聞いたかもしれない

 今日もエールちゃんとお昼を過ごそうと、食堂のいつもの席に向かっていたら、そこにはすでに先客がいたようだった

 怒鳴られたショックで頭を抱えている、三つ編みと藍色リボンの女の子。彼女のことなら知っている。桜花賞でエールちゃんの餌食になってしまった子だった

 

「………」

 

 二人の対戦の話は噂は私の耳にも届いている。彼女も強い遺憾が残っていて仕方がなかったのだろう。なんせ全国3000人いる牝バの中の成績優秀者18人だけが参加できる、一生に一度の大舞台。水に流せと言う方が無理な話だ

 だからこそ、このまま放置するのはいけない。エールちゃんのためにも、いつか彼女に接触する必要があった

 放置されたエールちゃんの配膳トレーの隣に自分のを置き、私は彼女に声をかけたのでした

 

「ご一緒しても、よろしくて?」

「えっ。ソダシ……さん!?」

 

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