全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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~前回までのあらすじ~
元トレーナーの中年男志積から「断食持久走」という過酷なトレーニングを課されたメイケイエールとソングライン。二人の運命は如何に!?

断食持久走のルール
・口にして良いのは、蒸し大豆と水のみ
・大豆は一日にタッパー1箱分だけしか食べれない
・水はいくらでも飲んでも良い
・それ以外の食材および飲料水は絶対に口にしてはならない
・飢餓状態のまま、50km分の持久走を毎日行う



第20話 - 闇を喰らえ!謎を喰らえ!今日を生きる、そのために!

 

 

「思っていたより、だいぶキツイなぁ………」

 

 志積T(トレーナー)からの特別トレーニングをはじめて5日が経つ。強烈な筋肉痛と極度な空腹感に耐えられなくなったアタシことソングラインは、深夜の寮室のベッドで横になりながら弱音を上げていた

 

 朝起きて学校に行き、トレーニングをしてから寮に戻って就寝するという、この一日のスケジュール。この中で、活動エネルギーを補給する為の食事を行ったのは、昼休みの時間一回きり。それもタッパー1箱分の蒸し大豆のみという鬼畜っぷり

 それに加えて、トレーニングの内容も果てしなくキツい。運動公園のトラックを走るだけという至極単純なトレーニングなのだが、いくらなんでも距離が長すぎる。昼3時から夜9時までの6時間。50kmもの距離を走らされていた

 アタシたちサラブレッドは身体能力がヒトよりも優れているというのは有名な話だが、だからって飢えた身体でこんな鬼畜特訓したら潰れるって!

 

 ………いやいや。強くなるために過酷なトレーニングは必須。その覚悟で私は、志積Tの特別トレーニングの話を受けたのだろう?

 宿敵シュネルマイスターに勝つためなら、アタシはなんだってしてやる。それがアタシなりの、競走選手としての覚悟だったはずだ

 

 でも、眠れないのはだいぶきつい。普通運動で疲れたらすぐに眠れるのだが、とてつもない空腹感が入眠を妨げてくる。今日も今日とて、まともに眠れる気がしなかった

 

「超〜ひもじい………」

 

 とりあえず、水だ。水を飲みに行こう。水ならいくら飲んでも良いとされていたから、この空腹感を紛らわすにはちょうど良い

 燃料切れの体にどうにか鞭打って、ベッドから這い出る。そろりそろりと寮室を出て、私は一階の共用キッチン室へと向かった

 消灯後の女子寮の廊下は暗いので、壁つたいにゆっくりと歩く。ちょっとずつキッチンに近づくと、部屋の中から“じゃーーーーー”という、蛇口から水が流れる音を耳にした

 誰かが蛇口を閉め忘れたのだろうか、もったいないなあ。ため息を一つ吐いてから入室してみる

 

 すると………なんとそこには、見知った先客が蛇口に口を近づけて水道水をガブ飲みしていたのだった

 

「ゴブゴブゴブゴブゴブゥ!!!!!!!!」

「何やってんだメイケイエール!?!?!?」

 

 

 

「ゲホッ!!!!!!!!!ゲホッ!!!!!!!!!!!!ガハッ!!!!!!!!!」

「お前もついに気が狂ってしまったか!!!!」

 

 水道水で咳き込むエールの背中をさする。エールの口まわりは透明の液体で濡れていて、先ほどの水道水なのか、よだれなのかがわからなくなっていた

 

「ソングちゃあああん………お腹空きましたああぁあぁぁ………………」

 

 メイケイエールは涙目になり、普段とは真逆の弱々しい声で悲鳴を上げる。ハイテンションガールの異名を持つ彼女らしくない。エールは元気の一かけらもなくなってしまっていた

 それもそのはず。彼女も断食持久走の参加者だ。エールもアタシ同様に、痛いぐらいにお腹が空いているのだろう

 そんなエールを横目に、アタシも自分の胃袋を満たそうとする。キッチンの棚からコップを取り出し、とにかく水を飲む、飲む、飲む………

 

「………うぇぇぇ……… き、気持ち悪い………」

 

 なんだこれ。飲めば飲むほど気分が悪くなっていく……… おなかはすいているはずなのに、胃が水を受け付けてくれないのだ。まるで嘔吐一歩手前のような不快感だった

 それに、たった今大量の水を飲んだけれど、空腹感はまるで消えなかった。むしろ不快感が重なり、より症状は悪化していた

 

「まずいぞメイケイエール………アタシも吐きそうだ………」

「どどど、どうしましょう………」

 

 内容を聞かされてからある程度覚悟はしていたつもりだったが、ヒトと比べて沢山ご飯を食べるサラブレッドにとって、断食生活がこんなにもキツいのか

 

 なにか、食べたい。口にしていたい。食欲がどうにも抑えきれない

 満たされないこの感情を、アタシたちは一体どう解消するべきなのだろうか………

 

「うーん………」

 

 地獄みたいな空腹感の中、必死にアタシは頭を回す

 もちろん、明日の分の大豆はまだ食べられない。明日の昼の分がなくなってしまうからだ。でもだからって、水はもう飲みたくない………

 

「水、水………いや、待てよ?」

 

 志積Tから課せられた断食持久走のルール。アタシの記憶が確かなら、水ならいくらでも飲んで良いってルールだった。ならば、水に一工夫加えれば………?

 

「………メイケイエール。気休めだが、空腹感を誤魔化すとっておきの方法を思いついた」

「本当ですか………!!!?!?」

 

 アタシは早速、思いついたそのとっておきの方法を実行する為に、キッチンの大きな収納をガサゴソと漁る。お目当ての機械は、収納の奥の方に仕舞われていた

 それは、上部に回転ハンドルのついた、水色のプラスチック製の機械

 そう。それは夏の風物詩、かき氷機だった

 

「かき氷つくるぞぉ!!!」

「えええ!?!?!?!!!?!?」

 

 アタシも相当に、頭がやられていたのだった

 

 

 

 早速アタシは冷蔵庫にあった大量の氷を拝借し、専用の氷入れに全部ぶちこむ。それをかき氷機にセッティングし、準備は完了

 上部の回転ハンドルをガリガリと回し、下部に配置していた器に削れた氷が少しずつ盛られていく

 それを、二皿分。アタシとエールの分で大盛り用意する。その様子を、エールは困惑した表情で見守っていた

 

「これを………食す、と?かき氷って言ってもただの氷ですよねこれ!!!!!!!!!」

「はぁ〜………いいかメイケイエール。この白い山をよく見てみろ」

 

 確かにそれは、皿の上に山盛りのかき氷があるだけの光景

 でもよく見れば………それは、まじりっけのない純白な雪。結晶一つ一つがキラキラしていて眩しく、よだれが出てしまうぐらいに美しい

 そう、まさしくそれは───

 

「───山盛りの白米に、見えてこないか!!!?!?!?」

 

 アタシは自分で言い聞かせるみたいに叫んだ

 ………だが、横のメイケイエールは冷静に一言

 

「いや、何言ってるんですかソングちゃん………頭おかしくなっちゃったのですか?」

 

 ………アタシだってなぁ。これがただのかき氷だってことぐらい、わかってるんだよ!!

 

「なんでマジレスするんだよメイケイエール!!そんな事言ったらたら自己催眠が解けちゃうだろ!!!?そこは空気読んで乗ってくれよ!!!」

「しっかり者だったはずのソングちゃんが、断食でここまで精神がやられているとは、思いもしませんでしたね………」

 

 くそぉ。こうなったら、ゴリ押しだ

 仕上げに割り箸を引き出しからかっぱらってエールに押し付ける

 

「うるさい!!!!いいか!!!これはかき氷じゃない、白米だ!!!!」

「え、えぇ? 割り箸?」

「そりゃ手で食べるわけにもいかないだろ!!!」

「でもかき氷って、スプーンで食べるものじゃ………」

「は・く・ま・い・だ・か・ら・だ!!!!!!」

「わ、わかりました。付き合いますよ………」

 

 アタシの熱弁に、終始困惑しっぱなしのメイケイエール。悪いな、こうでもしないと、アタシは気が狂いそうなんだ………いやもうだいぶ狂ってるか。狂ってるわ

 割り箸を割り、いざ白米味なしかき氷を実食する。山の頂上に箸を入れ、一口分の白米の塊ただの氷を摘む。目立たないよう一箇所しかつけていなかったキッチンの照明が、白米の粒ただの氷を煌めかせていた

 そしてついに、摘んでいた白米ただの氷を、一口でパクりといく!

 

 ………ガリッ

 

 ………………………ガリッ

 

 ………………………………………ゴクッ

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

「ただのスライスした氷だなこれ………」

「ちべたいだけでええええええす………!!!!!!!!!」

 

 最初っから、わかっていたことだ。わかりきっていたことだった………

 口の中では、冷たい氷の食感だけがあり、それ以外は何もない。虚無みたいな食事体験だった

 視覚はなんとか騙せても、味覚はどうにも誤魔化せないみたい。以前胃袋は水以外の何かを求めている状態で、このかき氷はとても食えたものじゃなかった

 

 ………氷だし、そのままシンクに流してしまおうか。そんなことを考えていると、メイケイエールの方から、何か思いついたようにして呼びかけられた

 

「………ソングちゃん。味をつければ良いんですよ」

 

 味、か。確かにかき氷シロップがあれば、幾分かマシになるだろうな。でも………

 

「断食持久走のルールを忘れたのか。水と大豆以外の食材は口にしてはいけないはずだろ」

「すこし、違います。市販されているような、甘いシロップをかけるのではありません」

「じゃあどういう意味だよ」

「今ソングちゃんが自分で言っていた、唯一私たちが口に出来る食糧。これを使うのです。これで、かき氷に味をつけるんです」

「………まさか、まさかとは思うが………」

 

 アタシはエールの方を見やる。アタシ同様飢餓に苦しむ彼女は、グルグル目になっていた

 

「そう。大豆を、シロップにするんです」

 

 アタシの極限状態による狂気は、真面目少女にも伝染していた

 ………普段のアタシなら、すぐに彼女の提案を取り下げさせるところだったろう。大豆は断食中のアタシたちの大事な生命線だ。そんな下らない提案の為に消費してはもったいないと

 だが、そう指摘できるほどの冷静さなど、当然今のアタシにはなかった

 

「流石だメイケイエールっ!!!その手があったか!!!作るぞ大豆シロップ!!!!!」

 

 アタシたちは急いでそれぞれの自室へと戻り、部屋の中にあるミニ冷蔵庫に入れていたタッパーを持ってきた。明日の分の蒸し大豆………いや、もう深夜0時回っているから、これは今日の分で良いはずだ!!!

 そしてシロップ作りに肝心なのが、収納にあったフードプロセッサー。食材を粉々にしてくれる機械。アタシとエールの大豆を半分ずつ器の中に入れ、そのまま電源を入れてスイッチオン。ウィーンという鳴き声とともに、蒸し大豆は徐々にペースト状になっていく

 もとの大豆の面影がなくなったのを見計らい、フードプロセッサーのスイッチを落とす。そしてアタシとエールは中身を確認した

 

「シロップというより、薄いベージュ色の味噌みたいですね………」

 

 味噌という表現はかなり的を得ていた。出来上がっていたそれは、あまりかき氷用のシロップとは言い難いものだったのだ

 

「いいやまだだ!!!水を加えてかき混ぜるぞ!!!」

 

 アタシはもうなんでも良かった。収納から取り出したボウルに、味噌みたいになった大豆を全部移し、水道水を大豆と同じ量ぐらいまで加える。それをこれまた収納にあったホイッパーで、どうにかシロップになってくれることを祈りながらかき混ぜた。ひたすら、ひたすらアタシはかき混ぜた………

 

 そうして完成したのは、綺麗なクリーム色の大豆シロップ───などでは無く、ただただ半透明の濁っているだけの謎液体だった。水に溶けなかった大豆たちもなんか浮いてる

 

「………豆乳、ですかねこれ」

「豆乳と呼べるほど綺麗じゃないだろ。米のとぎ汁みたいに濁ってるじゃないか………」

 

 シロップ作りは大失敗だった。水を入れ過ぎたのが不味かったのかもなぁ………

 失敗したからといって、これを無駄にするわけにもいかない。明日の生命線を代償に作ったものだ。濁った液体を、溶けかけになっている二皿分のかき氷の頂点にそれぞれかける

 液体はほとんど水みたいになっているので、かき氷に素早く浸透していくが、視覚的変化はほとんど無い。溶けなかったペースト大豆が少し乗っているだけだった

 

 アタシとエールは再度割り箸で、白米をつまむようにして、氷と大豆のシロップを食す

 

 パクっ………

 

 ………ガリッサ

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………

 

 ぐ に ゃ あ ………

 

「「まっっっっず………………」」

 

 視界は歪み、平方感覚は混濁する。口腔内の味蕾は、得体の知れない料理が生み出す不快感によって犯されてしまう

 アタシたちは、絶望的な表情で顔を見合わせた

 

「なんの味付けもしていない純粋な大豆のはずが………いや、だからこそマズいな………」

「大豆の味を中途半端に薄めたことによって、水の不快感が際立ってますね………数少ない食糧が、こんなことで半分に………」

「どうすんだよ、これ………」

「食べるしかないですよね………」

 

 口の中で溶ける氷と、薄められた大豆の味が混ざり合う

 最悪だ。普通に食べた方が格段に美味いのに、水に混ぜたせいで台無しに………

 それでも、しぶしぶアタシたちは箸を動かし続ける。少しでも、明日のエネルギーの足しにしないといけなかったから

 氷の山が半分になったころ、切迫詰まった表情のままのエールはアタシに呼びかけた

 

「あの、ソングちゃん………私すごい大発見をしました………」

 

 アタシはゆっくりと彼女に振り向く。メイケイエールは持っていた割り箸を、なんと自分の口に突っ込んでガジガジと噛んでいたのだった

 

「割り箸の方が………格段に、うまいでぇぇぇぇす………」

 

 その光景を見て、アタシも無心で、エールの言われた通りに自分の割り箸を口に含んだ………

 

「ほ、本当だ………………割り箸うまっ………」

 

 驚きのあまり、アタシは思わず声を上げてしまった。確かに、木の香りと微かな甘みが口の中に広がる。なんとそれは、今まで食べてきた味のない氷や大豆シロップなどとは比べものにならないほどの味わいだったのだ!

 

 時計は0時30分を指している。薄暗い深夜の共用キッチンにて、無言でひたすら割り箸をかじる二人組

 ………なんだこの構図、ヤバすぎるだろ。いろいろ終わってるよ、生き物として

 

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