全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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第21話② - でも上手にキミと言えるのかな?

 

 極限生活が始まって7日目

 断食と持久走を両方こなさなくてはならないこの生活も、徐々に慣れつつある………そう言えたのなら、どれほど幸せだっただろうか

 未だ慣れなんてやってこない。脚の筋肉はボロボロ。アタシの胃袋は“飯はまだか、飯をよこせ”と絶えず悲鳴をあげている。脚と胃のダブルパンチで、日々苦痛に喘ぐ生活を送っていた

 でも、その痛みに黙って耐えるだけではない。気を紛らわす方法を、エールと一緒に考えている。それで一番有効だったのが、この木製の割り箸だった

 発見したのはメイケイエール。割り箸を噛めば噛むほど、口の中で木の風味が伝わって美味しく感じるのだ。なんの変哲のない割り箸が、この断食生活における最高のお供になっていた

 

 まあ割り箸を噛むとこなんて、流石に人前では見せられない。割り箸を一心不乱に噛むその姿は、まるで悪霊にでも取り憑かれたのかと思われるぐらいに奇怪だからな。でも、私たちが今いる通学路でなら、誰もいないから思う存分噛みまくれる

 今日も志積Tとトレーニングをするために、アタシはエールと共に運動公園へと向かっていた。ガジガジガジと、割り箸を噛みまくりながら歩いていると………

 

「………」

 

 突如として、アタシたちの進行方向に立ちはだかった一人の影

 周囲に漂う上品なオーラと、世にも珍しい白毛の髪

 

「あれ。ソダシちゃん……ですか!?」

 

 エールの言う通り、間違いない。今を時めく白桜の女王ことソダシが、仁王立ちの状態で顔を俯かせていた

 いったい何しにここに来たんだ?唾液まみれの割り箸を下ろし、彼女を観察しようとする

 

 ───その刹那

 突如、なんの前触れもなく。彼女のクールで高潔なイメージとは全くかけ離れたすごい形相で、野太い奇声をあげながら何かを投げてきたのだった!!!

 

「エールちゃんに巣食う悪霊めえええええ!!!!!!この世から消え去れええええ!!!!!!!!キエエエエエ!!!!!!!」

 

 ハイスピードで投球されたのは、白い粉状のものを球体上に塊にしたものだった。一見雪玉のように見える。それがエールにめがけて直進していく!

 

「ぎゃ!!!!!!」

 

 エールの咄嗟の防御も間に合わず、雪玉のようなものが制服の右腰あたりに命中。制服の上に白いかたまりが崩れ、粉状のソレがポロポロと散った

 えっと、突然のことでアタシも状況を飲み込めていないのだが………整理すると、なんとソダシは出会い頭に、手に握っていた白い塊をメイケイエールに投げつけたのだった

 

「えっ ええええええええ!!!!!?!?!?!?!?何するんですかソダシちゃん!?!?!?!?」

「一体なんなんだいきなり!?!?」

 

 アタシら二人とも真剣な表情でソダシを詰める。だが、彼女から返ってきた返事は、なんとトンチンカンなセリフだった

 

「聞いて、エールちゃん。あなたに悪霊が憑いているしッ!」

「あ、悪霊ですかぁ!?!???????」

「今投げたのは“清め塩”。悪霊が反撃する前に、私は清め塩で奇襲を仕掛けたんだし」

「はぁ!?!?何言ってんだお前!?!?」

 

 コイツ頭おかしいぞ!?意味のわからない発言に混乱するアタシとメイケイエール。いや、アタシたちの奇怪な行動を“悪霊に取り憑かれているみたい”って、さっきアタシ自身の独白の中で喩えたけどさあ。本気にそう思ってるやつがいきなり現れて、清め塩してくるとは思わないよ

 

「言っている意味がわからないですよソダシちゃん!!!!!!」

「わからなくても、見ればすぐにわかるし。ほら、エールちゃんの背後に………」

「えっ ひっ 」

 

 反発するアタシたち二人を無視し、女王様はエールの背後をビシッと指さし睨みつけた。言われるままにエールが振り返ると………

 そこにはなんと、背後に黒々とした厄のオーラが宙に浮かんでいた! わけでもなく…… 青い肌をした歪な顔面の、ニンゲンの姿の妖怪が佇んでいた! わけでもなく……

 ………住宅街の道がまっすぐ伸びているだけで、何もない。アタシの視界には、何も悪霊らしいものは映らない

 

「………はぁ、脅かすなよソダシ。別になにもいな「うわああああ!?!?!? ば、化け物がっっ!!!!!!!!!」」

 

 しかし、振り返ったエールは、何かが見えてしまったかのようにして、絶叫しながら仰け反ってしまう

 え、えぇ?えぇえ???いやいや、そっちには何も無いはずなんだけど!?二人揃ってなんの冗談だよ!?

 

「どうやら、まだ祓えていないようだし………」

「ソダシちゃん………いったいこれはなんなんですかっ!?!?!?!?」

「お前らが一体なんなんだよ!!!?」

 

 と、とにかく。どうやら、エールとソダシの二人には、良くない何かが見えているみたいで………いやまあ、絶対ぜったい意味わからんが、きっとこれは、二人がふざけているだけだ。明らかに演技くさすぎる

 

「これはヒダル神。名古屋に言い伝えられる悪霊の一種だし。コイツに憑かれてしまうと、激しい空腹感と疲労を覚えてしまうんだしっ!!」

 

 顎に手を当てて分析するように語るソダシ。アドリブのおふざけだろうに、よくそんな知識がポンと浮かぶなぁ

 

「ヒダル神………私も、古い文献で目にしたことがあります。西日本中心に目撃が多い、山道や峠によく現れる餓鬼憑きの一種、と」

 

 え?真面目少女のメイケイエールまで、なんでそんな詳しい解説できるの??絶対アドリブだよな???

 あれ、おかしいのって………もしかしてアタシの方???さては、二人には本当に悪霊とやらが見えているのか??

 ………いやいやバカ言え、そんなことないだろ。正気に戻すため、自分の右頬を軽く平手打ちする

 冷静になれ、アタシ。メイソダのおふざけ領域に飲み込まれるんじゃない。二人を正気に戻させるつもりでアタシは声を荒げた

 

「いや、だから!!悪霊なんて何も無「しかし、強力な清め塩を使ったはずなのに、どうしてエールちゃんの悪霊が祓えていないんだし?」」

「普通の悪霊ならこれで一撃ですのに…………」

「おい!!今のわざと被せたろ!!」

 

 おのれ二人とも。どうしてそこまでして本気でこの茶番をやりたがるんだ

 てか普通の悪霊ってなんだ。知らない設定を当たり前のように言うんじゃない

 

「………ひとつだけ、心当たりがあります」

「ふむ。言ってみるし」

 

 顎を触るメイケイエールは、じっくり考えるような素振りをしたあとに………

 まっすぐ。アタシに向かって、指差したのだった

 

「私に清め塩をしても祓われないということは、ソングちゃんにも悪霊が憑いているからなのでは───?」

「ハッ!! そうだしッッ!」

「───ッ!?!?」

 

 何かを察したアタシは、いつのまにか二人から逃げるよう駆け出していた

 二人を正気に戻す暇なんてものはない。ただ早くこの場から逃げないと、こいつらに塩をぶっかけられるっ!!!

 

「図星だったみたいです!!!!逃げたってことは、ソングちゃんは今悪霊に操られていまあああああああす!!!!!!!」

「そんなわけないだろ!!!?!?」

「無自覚に操られているやつはみんなそう言うんだし!!!!」

 

 あーもう。コイツらに何言っても無駄だ

 おふざけ領域に飲みこまれたくなくて、アタシは全力で逃走に集中しようとする………が

 あれ、おかしい。逃げようにも、自分の身体がやけに重い。断食生活のせいで、スタミナがだいぶ落ちてきている!?

 

「ふふー……捕まえたし………♪ 必死な割には、随分とノロマだったし」

「くっ………」

 

 アタシは女王様に、背後から羽交締めされる。体力が落ちているせいで、抵抗することさえ満足に出来ない!!

 ゆっくりと180度横に半回転。ソダシによって、身動きの取れないアタシは、エールの方角に向きあわされる形になった

 

「今だしエールちゃん!!!!私ごと、ソングちゃんの悪霊を祓うんだし!!!!」

「でも私はどうすれば!?!?!?清め塩なんて持ってないですよ!!!!」

「あー………えーと………」

 

 ………おいおい、考えてなかったってのかよ

 これじゃ締まりが悪いな………そう考えていると、ふと、エールがバッグに付けている白色のそれが目に付いた

 

「御守り、とか?」

「?」

「いやほら、白い御守りがあるだろ。エールの通学バッグにつけてる」

 

 ソダシに羽交締めされた状態のまま、アタシはそれがある方向を指し示すように首を動かす。赤い文字で“必勝守”と縫われた白い御守りは、静かに揺れていた

 すると、彼女は感心したように“採用だし”と呟き、エールに向かって叫んだ

 

「聞いてエールちゃん!!!私が前にあげた御守りを使うんだし!!!」

「御守りですか!?!?!!!!?」

「こんなこともあろうかと、悪霊を祓う力を込めていたんだし!!!私が止めていられるうちに早くっ!!!ソングちゃんの悪霊も祓うんだし!!!」

 

 言われたエールはさっそく覚悟を決めたようで、通学バッグから手際よく御守りを外し、それを片手で持ち上げた。吸血鬼に十字架をかざす要領で、御守りでアタシの悪霊とやらを祓ってくれるらしい

 ………んー、まー。二人が作り出した空想の悪霊なんだが、ここまできたらアタシも付き合ってやった方がいいのかなあ

 誰も見てないとはいえ二人は真面目に演技をやりきったのだ。ならばアタシも、その気合いを買ってあげるべきかもしれない

 とてつもなく恥ずかしいが、多少はアタシも二人の茶番に付き合ってやろう。ついにアタシも、二人に合わせて演技をし始めたのだった

 

「………ははっ!そのちっぽけな御守り程度の力で、小娘に憑いた悪霊たるアタシを祓えるとでも思っているのかメイケイエールッ!!!」

「見え見えの虚仮威しですね悪霊さん!!!!!!!!貴方を祓うのは、この御守り一つだけじゃありませんよ!!!!!」

「そう。悪霊を祓うのは御守りだけではない。除霊師の才能を持つソダシとエールの二人によって、互いの力が何度も共鳴しあい、悪霊を祓うための聖霊力が何百倍にも増幅していたのだった!」

「あっ そ、そういう設定なんだな」

 

 そしてメイケイエールは決め台詞と共に、御守りを自分のおでこにかざしながら、アタシとソダシの方向へ駆け出して行ったのだった───

 

「さあ堪忍して成仏してってくださああああああああい!!!!!!!うおおおおおおお!!!!!!!!」

「行けええええええ!!!エールちゃああああああん!!!!!!」

「ぎゃああああああ!!!!!!!!」

 

 

 

「──────で、一体何だったの。さっきまでのしょーもない茶番は」

「ふふ………何?っていわれても」

「ただの楽しいおふざけでえええええす!!!!!!」

「だから………それじゃ説明になってないぞ」

 

 あークッソ恥ずかしかった。自分の顔の皮膚が熱いのを感じて、ああ今アタシ凄い赤面しているのだなって理解する

 歩道の端っこで、立ち話をするアタシたち三人。アタシは腕を組み、今さっき行ったよくわからない茶番について、ソダシとエールから問いただそうとしていた

 

「昔からソダシちゃんと二人で行っているごっこ遊びです!!!!!!!!!」

「暇な時とかに、事前に共有した設定でアドリブロールプレイして遊ぶんだし」

 

 エールはすこぶる元気に、ソダシはヘラヘラとにやけツラを晒しながら回答する。すごくお腹が空いているはずなのだか、メイケイエールはさっきの茶番のおかげかすっかり元気になっていた

 

「悪霊がどーたらこーたらみたいな設定も、前々から二人の間で決めてたのかよ」

「その通りです!!!!!!!!!!悪霊祓いごっこは昔によくやっていましたから!!!!!!!!!!!」

「ソングちゃんも、今日から私のことは除霊師と呼ぶし」

「呼ぶわけないだろ!?」

 

 普通に回答しているけどさ、お前らこんなことやってて恥ずかしくないのか??いろいろびっくりというか、普通にドン引きなんだけど。誰も通行人が来なくて本当よかった……

 てか、なんでこうもソダシはノリノリで厨二病みたいなノリを先導しているのだ。普段の気品のあるミステリアス女王様キャラはどこに行った?キャラ崩壊も良いところだぞ??

 それに、エールもエールだ。どうしてこんなヘラヘラ女王様のノリを素直に飲み込むのだ。疑問持てよ少しは

 

「エールちゃんのアドリブが上手くなったおかげで、いろんな遊びができるようになったし」

「なんだかんだずっと付き合ってますからね!!!!!!!!!清め塩はびっくりでしたけど、すぐにわかりました!!!!!!!!!」

「ふふ………エールちゃんもすっかり元気になっちゃって。ふざけがいもあったってものだし」

 

 ………ゴールドシップという、ちょっと前まで現役で強かった競走選手を思い出す。彼も、こんな感じのおちゃらけたノリで有名だった。もしかして二人とも、それに憧れてたりするのかな。流石にないか

 

「あっ!!!!!!!!!私、ソングちゃんを巻き込んだの上手じゃありませんでしたか!!!!!!?」

「そうそう。エールちゃんが今起こってる事件とを上手に絡めてくれたおかげで、いい感じに無関係だったソングちゃんが話が入ってくれたし」

「いや、まあ、うん………アタシは話の設定を理解するのにだいぶ時間かかったけどな。困惑してたし」

「今回だと貴女は無知の立場だからそれで良いんだし。でも困惑するのも無理はないし。流石に急すぎたし」

「事前に軽く設定を説明しなくちゃいけないかもしれませんね!!!!!!!!」

「説明かぁ………それだとなんだかイタい感じがして、私はタイプじゃないんだけれども………」

「いやいや、最初から充分イタいだろ………」

 

 というかさらっと省会すんじゃないぞ。こんなところで真面目さを発揮してどうするよ

 ………んまあ、なんにせよ、だ。こんなおふざけをやってのけるぐらいには、エールとソダシの二人はすごく仲が良いってことなのだろう

 ドン引きっちゃドン引きだけど、別に誰かを傷つけたわけでもないし、外野のアタシがやいのやいの言わない方がいいのかもしれない。多少アタシの尊厳が傷つけられた気もするけど

 さて、だいぶ立ち話してしまったな。もうそろそろ志積Tとのトレーニングの時間だ。早いところ話を切り上げないと。アタシは最後に、一番気になったことをソダシに問うた

 

「………ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ面白そうだなって思っちゃったけどさぁ。そもそもどうしてアタシがいるところで始めたんだよその茶番。二人だけの遊びだったんだろ」

「私も少し疑問でした!!!!!!!!今まで誰の前でもこんなことしていなかったですよね!!!!!!!!!」

「ふふ………久々にエールちゃんと遊びたくて我慢できなかったってのもあるんだけれど………」

 

 するとソダシは、さっきまでのニヤニヤ笑みを辞めて、深刻そうに返した

 

「実はね、アナタたち二人に外せない用事があったから」

 

 外せない用事?エールならまだしも、アタシにもか?

 用事らしい用事なんて、アタシとソダシの間にゃ何もないはずなんだけど………

 

「用事って、なんのことだよ一体」

「少し、二人に聞きたいことがあってね」

 

 彼女はポケットから白い手帳型のスマホを取り出し、何かを操作するそぶりを見せる

 

「さっきまでのようにエールちゃんが空腹でおかしくなる前から、実はとある噂を聞いていたんだし。およそ34年前に、競専内部で幾たびも重篤な違反行為を犯し、ついに秘密裏に競走界から追放された男が、最近市内にて目撃されていると」

「………ちょ、ちょっと待て。追放された男??なんだってんだいきなり」

 

 またもや話が飛んでいる。重篤な違反行為ってなんのことだよ。さっきの茶番をもう一度する気なのか?

 そんなアタシの考えは当たらなかった。すっかり真面目フェイスになった彼女は、スマホの画面をアタシたちに見せる。そこに写っていたのは、一枚の証明写真

 ………それは、既にアタシとエールが目にしている顔だった

 

「この男について、何か知ってたりする?」

「───ッ!!!!!!!」

 

 眉の上の二つのほくろをつけた、ムスッとした表情の男

 競専に隠れて、エールとアタシの二人と師弟同盟を組んだトレーナー

 それは、志積清トレーナーの、若かりし頃の顔写真だった

 

 どういうことだ、志積トレーナーはそんなにやばい奴だったのか!? そしてなぜ、アタシらと志積トレーナーとの関係を、ソダシは知っている────!?




ソダシは、エールの幸福の為ならいくらでも肌を脱げる女です。エールが笑顔になってくれるなら、簡単にプライドをポイと捨てておちゃらけられる女。でもそれはエールの前だけで、他の人の前では女王としての壮麗でミステリアスな姿勢を絶対に崩さない。たとえエールの頼みでもそこだけは譲らない。自分の持つ威厳と権力と地位が、巡り巡ってエールを護る力になりうることも理解しているから
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