全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
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パカッ パカッ パカッ
阪神校のトレーニング室内にて繰り返し響くんは、ランニングマシンの回転床を、脚の蹄鉄で何度も何度も力強く蹴る音
ウチの目の前に鎮座しとる、最新鋭のランニングマシン。サイズがビッグ過ぎて、一室の三分の一を占拠するその機械の中で、ウチの相方は一生懸命にトレーニングメニューをこなしている最中やった
ごっつ金かかってるんかってぐらいに、マシンの外見はチタン合金のフレームに覆われていてテカテカしてる。性能もエグく、中の回転床の最高時速は、およそ70km/hに到達するのだとか。おったまげ〜
とーぜん、安全対策にも抜かりはない。超高速でブン回る回転床の上ですっ転べば、そのまま背後の壁にズドン。それを防ぐためベルト装着は必須だし、マシン内部の壁全面にはクッションが貼られている
パカッ パカッ パカッ
ほら、見てみぃ。数々のベルトに繋がれたウチの相方の姿を。マシンの窓越しでも良く見えるやろ
しばらくすると、徐々に回転床の速度が上昇していく。最終直線の上がりスピード68km/hにもすかさず順応する、ピンク色のショートボブ。彼女はレース終盤背後から全員抜き去る差しの子で、瞬発力を鍛えるためのトレーニングをやっている
マルハナシュッパツ。それが、ウチの相方の名前やった
「さっすが、パッさんやな……」
ふと、相方のあだ名を呼ぶ。女子は外見が命と主張するように、彼女のサラサラなピンクの髪の毛が走行の動きに伴って激しく揺れる。彼女が出場する大きなレースがもう直ぐやから、こんな夜遅くまで走り込みをやっていた
あー。自己紹介がまだやった
ウチの名前はハルコミニカ。短冊のようにまとまった黄緑の長髪がトレードマークのマイラー走者や。NHKマイルの冒頭で転倒かます大ボケやったウマって言ったら、少しは思い出してくれるやろか
………っと。相方がメニューを終えたらしい。目の前のランニングマシンが緩やかに遅くなり、やがて停止する。少しの間に息を整えた後、中から出てきた汗だくの彼女は、眉を八の字にしてウチに叫んだ
「ハル〜 また私のことパッさんって呼んだでしょ? 中でもがっつり聞こえてるよ」
「何やー。こんな夜まで走り込みしとるパッさんにお似合いやん」
「おっさんみたいでかわいくないよ………前みたくマルちゃんって呼んでってば!」
「嫌や。ウチはこのあだ名が気に入ってるし」
マルちゃんとは、昔に呼んでいた彼女のあだ名だ。なにわ生まれなにわ育ちのマルちゃんは、小さなころから地元の商店街で愛されていたらしい。8歳のウチが北陸からなにわに越したとき、初対面であるはずのマルちゃんは付きっきりでなにわのいろはを教えてくれた。競専にのぼるまで、マルちゃんはウチのかけがえのない親友やった
でも、そんなかわいいマルちゃんはもうおらんくなってもうた。何がきっかけか、マルちゃんは商店街の愛され少女から、全国級のアイドルを目指すストイックな女に変わってもうたんや
全国に通用するアイドルになる為と、なにわ言葉を捨てて標準語を日常的に使い始めた。また、普通の女の子以上に可愛さを気にし始めたりと、徐々に考え方もストイックに近づいていた。なにより大きいのは、私とのグルメめぐりに付き合ってくれなくなってしもうた事………ああ、おもんない。おもんないったらおもんないっ!
ちゅーわけで、ウチは尊敬と嫌がらせの意味をこめて、マルちゃんことマルハナシュッパツを、パッさんと呼ぶようにしていた
「もう疲れたやろ。休憩したら帰ろか」
「あーごめん……先帰ってて!緊急でトレーナーと打ち合わせしなきゃいけなくなっちゃってて」
「ま、またなんかぁ………」
ただでさえ一緒の時間も減ってきているのに、帰りの時間まで無くなってしまうというんか
まあ、確かに。大きいレースが近いし、彼女も頑張っているってことなんだろうけども………
………しゃーない
「待つ。ウチも待つよ」
「ホント!?ごめんねっ、すぐ終わらせるから!!」
トレーニングをこなしたばっかでお疲れのはずなのに、汗だくのパッさんは大慌てでノートと筆箱をテーブルに展開して、打ち合わせの準備としてノートに何かを書き入れている。その姿を横目に、ウチはとりあえず、トレーニング室にある備え付けのベンチに座った
………ふと、ウチはテーブルの上に、新品の雑誌が置いてあるのに気づいた。それは、とあるモデル雑誌やった。表紙には、端整な顔立ちを持つ白髪の美少女が、見る人全てを魅了させるような美しいポージングをとっている。白桜の女王との呼び声の高い、中京校のソダシさんや
彼女に自分も魅了されたか。ウチはいつの間にか、その雑誌を手に取っていた
「あっ!勝手に読まないでよ!!」
「ちょっとぐらいええやろ〜暇なんやし」
「私まだ読んでないの!!今月のソダシ様特集すっごく楽しみにしていたのに………」
ソダシとは、上品でミステリアスな雰囲気を漂わせる孤高の美少女。世にも貴重な美しい白髪を靡かせ、優雅な姿で阪神JFと桜花を制覇したのは記憶に新しい。またモデルとしてのメディア露出も多く、女性層を中心とした支持があつまっていた
それに………何を隠そう、パッさんもそのファンの一人。ソダシさんが掲載されている雑誌は全部買う勢いでお熱やった。ウチは雑誌のページをパラパラとめくった
「“レース界に降臨せし純白の姫。白桜の女王ソダシの秘密に迫るインタビュー12ページ”………大ボリュームやな」
「読んでもいいけど、後でネタバレしないでよね」
「“Q.女王様にインタビューなんて、なんか変な感じですね笑 A.(微笑)いえいえ。この度は、発信の機会をいただき嬉しく存じます。ファンの皆様方に、今までお見せできなかった私の新たな一面を披露したいですね”」
「わーーー!!!言った側から!!!」
「読んで良いって自分で言ったやろ」
「読み上げて良いとは言ってないでしょ!?」
顔を上げれば、もー!と膨れっ面になるパッさんがそこにいた。ウチへの薄情な仕打ちを考えると、このぐらいの嫌がらせは許されるんやない?
もう一度雑誌をパラパラ捲る。インタビューの他にも、ソダシさんのクールな姿の写真がいくつか掲載している。黒のドレスが映えますなあ
「そら抜群に綺麗やけど、なんでそんな陶酔するんやろか………」
「その“抜群”が文字通り、アイドルモデルをやってる他の美人たちの群を、圧倒的に抜きん出て綺麗だからだよ。ハルは知らないん?ソダシ様の名前の由来」
「知らんわ」
「サンスクリット語で“純粋、輝き”を意味するんだって!いいよねぇ~!穢れのない真っ白な髪の毛もさ、本当に輝いてるって感じするし!」
いつの間に様呼びするほどになっていたとは、いったいどこまで好きなんだか………
あー、おもんないおもんない
「………“A.毎日のヘアケアは欠かせません。外見で一番自慢できる部分なのですが、外だとどうしても目についてしまうので、プライベートでの変装に苦労しています笑”」
「ちょっと!やめてってば!!」
「またおもんないこと抜かしたら、インタビュー文章一つずつネタバレしていくで」
「うわあ、悪質だ」
「つーか、そんなに輝きたいっちゅーなら、めんどい髪のお手入れよりも確実な手段を教えたる。バリカンで頭の毛ぇ全部毟ってツルッパゲにすりゃええねん」
「………ハルも言うようになったねえ。その口の悪さ、どこで学んできたのだか」
定規を引いてノートに表のようなものを書いている彼女は、ウチに一瞥もせずにそう言った。まー、もう。なんでもええんやけど
パッさんがノートに書き記しているところをぼーっと眺めていると、奥の扉がガチャリと開く音がした。Yシャツ姿のイケメンが、トレーニング室に早歩きで入ってきたのやった
彼に気づいたパッさんは、すぐに立ち上がってお辞儀をする
「山崎トレーナー!お疲れ様です!」
「シュッパツお疲れ。早速打ち合わせしたいんだけど、いいかな?」
「大丈夫です!準備は出来てます!」
阪神校山崎厩舎代表トレーナー、山崎駿太
由緒正しき山崎厩舎の三代目である彼は、頭の回転が早く、指導者としての成績も抜群、さらには人を惹きつけるカリスマ性まで備えている。おまけに顔立ちも良く、美人な奥さんと結婚しているなんて、まるで神様から二つも三つも才能を授かったような存在やった
彼は部屋の奥からホワイトボードをカラカラと引っ張り出し、テーブルの前に配置した。そして、パッさんを前にして“緊急打ち合わせ”とやらを始めた
暇なウチは二人の打ち合わせを尻目に、ソダシさんのインタビュー記事の続きを読むことにした
「実は、シュッパツが出場するCBC賞に、要注意選手が新たに出走登録を出したんだ」
「なるほど。有力選手なのですか?」
「そうであればまだマシだったんだけどね〜。残念ながら、危険という意味での要注意選手なんだ」
ウチは記事を読みながら耳だけは二人の会話に向けていた。山崎トレーナーの声が低くなるときは、たいてい何か厄介な話題が持ち上がったときや。つられてパッさんの声も低くなる
「それって、まさか」
「───名古屋の暴走特急、メイケイエール。出走登録を出したのは彼女だ」
「げ〜っ………」
パッさんの方をチラリと見やると、山崎トレーナーの報告に、マジか、という嫌な顔を浮かべていた
中京メイケイエールの悪評は流石のウチでも知っている。一見アイドルやれそうなぐらい、スタイルの良い美人さんであるのにも関わらず、ターフの上では暴走して他選手を蹴散らす台風のような存在だ
悪い意味で一緒に走りたくない選手ダントツ一位。パッさんが“うげ〜”と思う気持ちもわかる
「ふっ………ご愁傷様やね」
「ハル〜?他人事だからってその言い方はないんじゃない〜?」
「いたたた足踏むなって!………そういやなんであの子、あんな大やらかししてんのに、まだレースに出場できるんやろ」
「ホンット、ありえないよね〜………大怪我にも繋がるとんでもない妨害を行ったにもかかわらず、厳重注意だけでハイ終わり。良いとこの娘だからって、不当に守られてるって噂」
「うっわぁー………なんそれ。初耳なんやけど」
続くパッさんの説明はこうだった
始祖シラユキヒメから代々白毛血統を継いでいる財閥一家、白雪家生まれ。代々中京校校長を継いでいる名家、名競家育ち。二つの名高い家系の出自を持つというメイケイエールは、背後に立つ権力を駆使して審判を手懐けているんだそう。だからこそ、あんなレース荒らしをしていても許容されているのだと
まあ、ソースも信ぴょう性もない、単なる噂話らしい。正直どうでもえーなっておもっていたウチは、適当に“ふーん”とだけ返した
「それで僕たちは、メイケイエールの動きを含めたレースプランを立てなくちゃならなくなった」
「はい」
「考えうる彼女の暴走パターンは二つある。それぞれ対策は既に用意しているから、今から教えることを頭に叩き込むように」
「承知しました!」
山崎トレーナーの一言で、パッさんの背筋が伸びる
ふー、さて………ここからウチは完全に部外者やね。再度雑誌に目を落とし、ウチはインタビュー記事の続きを読むことにしよう
えーと、どこからだったっけ………
Q. ソダシさんの、日々の生活においての気分の上げ方というのはありますか?
A. やっぱり、皆さんからの声援を聞くことかしら。いつも私は私というブランディングを意識しているから、素直に表情を出すことができないのだれど、本当はいつも叫びたくなるぐらいに嬉しくなっちゃうの
みなさん、いつもありがとう。この場合を借りて申し上げます。これからも、私のことを応援してくださると嬉しいです
Q. ………僭越ながら一つだけ、女王様に進言させていただいてもよろしいでしょうか?
A. (笑)貴方まで私のブランディングに付き合わなくてもいいですのよ? はいはい、許可します。なにかしら?
「彼女の暴走パターンの一つ目は、メイケイエールが最初からかかって破滅逃げをするケースだ」
「破滅逃げ………ペースを度外視した大逃げ。そういや、他にも同タイプの走者がいましたよね」
「2番人気、東京校の鉄砲玉ことアゼナオーディン。だが彼の本質は往年のツインターボと同様、ペースを無視した破滅逃げタイプだ」
「ほっといても勝手にスタミナが切れ、最終直線の早々に落ちていく。だから彼は脅威ではない。覚えています。となると………メイケイエールとアゼナオーディンが、二人で逃げる形になりますね」
「だね。メイケイエールがいるレースで、最も都合のいい形になる」
Q. 進言の許可、感謝いたします。では、申し上げますと………読者の皆さんが気になるのは、ソダシさんのプライベートの面なのではないのかな、と
A. あらあら、ごめんなさい笑。そういう話でしたわね。わかりました。私の秘密を、包み隠さずお教えしましょう
「以前教えた通り、このパターンでどうなるかというと、レースタイム上はハイペースになる。逃げの二人が勝手にペースを早めていくからね。でも、後方の走者たちは、逃げの二人が作り出すハイペースに乗らないだろう」
「破滅逃げの超高速ペースに乗っかったら、最終直線でスタミナ切れて逃げ共々潰れてしまう、ですね」
「そうなると、盤面はどうなるか。シュッパツはわかるよね?」
A. ………ええと。やっぱり学友との懇談が1番かなぁ
Q. おしゃべりで気分が上がる、と。ミステリアスな女王様にしては、なんだか意外ですね
A. ふふ………意外でしょう。これでも結構おしゃべりが大好きなんです。同じ中京校や、私の通ってる塾………クラブ・フランシスレイの学友との交流は勿論。他校の皆様とのお話の機会も、いつも楽しみにしているんです!お話しした方の名前を覚えちゃうぐらい♫
Q. へー、凄いですね!
A. このインタビューも凄い楽しみだったんですよ、蠣崎進さん!
Q. ………わっ、凄い!笑 (自分の)下の名前まで!
A. 先日名刺を頂いた時に、覚えちゃいました笑
「───先頭の二人が作るハイペースに皆がついていかないのなら、レース盤面は実質のスローペース展開になる。つまり、スローな分スタミナを残せる先行バが有利で、差しの私が不利になる盤面ですね。となると警戒すべきなのは、先行策の選手たち」
「正解。そして、差しであるキミが盤面有利の選手に勝つにはね………」
「………勝つには?」
「キミは、攻めの競バをする必要がある」
Q. おしゃべりが大好き。とのことでしたが、ソダシさんのいちばん交流のある方はいます?
A. それはもう、メイケイエールちゃんですね
Q. おお、即答ですね
A. ふふ………あまり人間関係で優劣はつけたくないのですが、彼女は私にとっての特別なのです
「………攻め、ですか」
「自分のスタミナ切れも承知で、早めに仕掛けなくちゃいけないって事だよ。つまりキミは、直線に入った直後にすぐスパートをかけて、先頭との差を早い段階で詰めなくちゃいけない」
「なるほど………追い抜く余裕がないから、どんどん詰めていく必要があるのですね」
「そのとおり」
A. どれくらい特別かといいますと………実を言うと、エールちゃんとは小さい頃から一緒のベッドで寝ていた仲なの
Q. そうなんですか!?血縁関係にあることは存じていましたが、初耳でした
A. 5歳の頃はね………どこにいくにも一緒がいいって。とてとて私の後をついてくるような、とっても愛くるしい子だったんです!勿論今も可愛いのですが笑
「パターンの一つ目、メイケイエールが逃げを打つ場合はこんな感じでいいね」
「はい!」
「それで、パターンの二つ目。これが結構、厄介でね………」
A. ………でも、やっぱり。ほっとけないって気持ちもあります。あの子、凄い不器用だから
Q. 不器用、ですか。それは、えーと
A. ふふ、言いにくいことなのは理解しています。レースを荒らす暴走少女なのは、紛れもない事実なのですから
Q. あー………
A. でも、私はエールちゃんの裏の顔も知っている。この機会に皆さんに知ってほしいの
Q. ソダシさんの知る………エールさんの裏の顔、ですか
「厄介?」
「うん」
「それって、どう厄介なんです?」
「えっと、実を言うとね………」
A. 実を言うと、エールちゃんって、裏では凄い努力家なの
「出遅れたメイケイエールが後方に来ちゃったら、キミはもう絶対、勝ちを諦めるしかないんだ」
「え、ええ!?!?」
A. 私が言う不器用ってのはそういう意味で、彼女はひたすら自分を追い込む癖があるの。競専に入った直後の話なのだけれどね、毎日町内を走りますっ!といって、雨の日も風の日も、毎朝何十kmの距離をがむしゃらに走る時期があった
Q. それは凄いですね。雨の日って、大荒れの日とかでも………?
A. そうなの。大荒れの日の時は、流石に私も止めようとしたのよ?でも私の静止を振り切り、ずぶ濡れで帰ってきてしまった。とっても心配だった私は我慢ならなくなって、エールちゃんに聞いたの。何でそこまでして走ろうとするんだって
「諦めるって、そんなあっさり!?」
「いやだって、キミは差しだから、後方に控えなくちゃいけないわけでしょ?」
「確かに、私のすぐそばにメイケイエールがいる形にはなりますが、でも………」
A. でもあの子、なんら苦しくないとでも言いたげな満面の笑顔で、こう言ったの。“一度決めたことは絶対に守りたいのです!真面目すぎなのが私の唯一の取り柄ですからね!”って………だからね
「でも、メイケイエールの暴走ったって、そんなの回避すれば………」
「口では簡単に言えるけど、そう簡単には行かないよ。それにキミはスタミナ温存のために、後方定位置から大きく動けないでしょ。こうなってしまった以上はもう、神にでも祈るしかないんだ。だって、」
A. 私の知っているエールちゃんは、天使みたいないい子なのです
「メイケイエールの暴走は、誰にも制御できないんだからさ」
マルハナシュッパツ←競走選手活動の傍ら、ソダシと肩を並べる存在になる為アイドル活動中。暇な時はLINE漫画で悪役令嬢ものを読んでる
ハルコミニカ←ガラの悪い関西弁は龍が如くの影響。関西弁にわか