全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
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「どうしてアタシはこんなところに……」
目の前に広がる煌びやかなパーティ会場を見て、アタシは一人呟いてしまう
右を向けば、色とりどりの豪華なドレスを着た金持ちそうな女性たちがワインを片手にオホホオホホと談笑している。絵に描いたようなセレブ像まんまだった
左を向けば、ビシッと決まったタキシード服の執事っぽい方々が、警備員のように直立している。モノホンの執事なんて、テレビドラマでしか見たことがなかった
どうして庶民のアタシがこんなところにいるんだっけ……縮こまりながら壁の方に寄りかかっていると、挨拶回りをしていた白毛の女王様がやっと帰ってきた
「……ごめんごめん。話が盛り上がっちゃって、戻るの遅れちゃった」
「勘弁してくださいよソダシさん……一人でここにいるのキツいです……」
「あらあら。敬語なんて使って、タメで良かったのに」
「いやいやそんな……流石に……」
「ライバルでも、同級生にはフランクに行きたいの。それに、エールちゃんとの会話の時には呼び捨てだったのに、本人の前ではさん付けなんて変じゃない?」
「はい……それはほんと……すいませんでした……」
「脅しじゃないって」
……先日の食堂でエールを怒らせてしまったあの日。決めつけで彼女を糾弾してしまった後悔で落ち込んでいると、ソダシがアタシに接触してきたのだ。どうやらソダシは、アタシたちの話をぜんぶ盗み聞きしていたようだった
ソダシはアタシに、エールにまつわるさまざまな事情を話してくれた。エールの普段の性格について、エールとソダシの関係性……そして、桜花賞でのアレは、決してアタシに対して悪意があって行われたことではないということ
悪意が無いってんなら、一体何が理由であんなことになったのだ。そう問いただせば、ソダシは深刻な表情でこう返したのだった
「もうすぐ開かれる競専関係者の親交パーティでは、毎回余興として各校一人ずつ学生を呼んでレースをする。そして今回、校長直々の指名でエールちゃんが中京校代表として走ることになっているの。彼女のレースを生で見れば、きっとあなたが求めている答えもわかるハズ」
巻き込まれた一人として、メイケイエールの暴走の理由を知りたかったアタシは、ソダシの提案に乗ることにした
……だから今アタシは、中京レース場のスタンドにある大きな宴会室にいるのだった
でもまさか、こんな金持ちの集まりだったなんて聞いてない。それに、アタシの今の服装だってそうだ。ブルーネイビーのオーバーオールに白のカットソー。完全に友達と遊びに行く時用の私服を選んでしまったのだった
「ドレスコードがあるならはっきり言ってほしかったよ!!」
「それは本当に悪かったし……学校終わりからパーティ開始まで時間も無いし」
「ちゃっかり着飾ってる奴に言われてもなあ……」
「制服の下に来てたんだし。一枚脱ぐだけで早着替え完了〜」
「絶対嘘だ」
……参加者の中には子供もいるが、彼ら彼女らでさえもパーティ向け相当の装いをしている。明らかパンピーしてるのはアタシだけ。こんなの、魔法も借りず土足にボロ服で舞踏会に突撃してきたシンデレラみたいじゃん
ちなみにこの女王様のコーデというと、ライトカーキのロングワンピース。ウマミミには宝石ピアスが照明に反射して瞬いている
普段の優雅なイメージと比べるなら控えめであるが、彼女から漂うセレブリティオーラは全く隠せていない
ぐぬぬ……と、嫉妬と恥ずかしさで心の中でもがき苦しんでいると、照明が突如として暗転した
会場内にマイクのハウリングが飛んでくる。MCが始まるのだろうか。談笑であんなに騒がしたかったのが、急に静かになった
「えーどうもどうも、会場の皆様。今夜の親睦パーティ、お楽しみただけでいるでしょうか」
「さてさて皆さんお待ちかね!!親交パーティの風物詩、競専対抗代表レース発走まで間も無くとなりました。今回は、函館校を除く9名が代表として出場します!」
男の太い声が会場内にこだまする。雛壇にはスポットライトが当たっていて、そこには緑色の派手なタキシードを着た男が、マイクを持って登壇していた
大体40歳後半ぐらいの肌黒な男で、ショートヘアを金色に染めている。偏見で申し訳ないが、なんだかイケイケビジネスマンのような印象を受けた
「……確か開会の挨拶もあの人だったな」
「彼が
「義理、ねぇ……」
食堂の時にソダシから話は聞いていた。白雪家で産まれたメイケイエールは、まだ名前もないほどに小さかった頃、名競家の養子として出されていたらしい
「いやぁ皆様。私のハシタナイわがままを聞いてくださり誠にありがとう!うちのメイケイエールちゃんはスプリンターですからね。是非とも皆様に、エールちゃんの一生懸命な走りを見せたくてですね。私はかねがね……」
熱心に語りを始める名競嶺二。彼はメイケイエールに対する愛情がとても深い父親らしく、彼女が出場するレースなら九州の小倉まで飛んでいくほどなのだとか
……にしても長い演説だ。5分ぐらい経ったか、ほとんどエールの話しかしていない。退屈だしスマホでも弄ろーっと
「……それにちょうどよく、エールちゃんのお友達も応援に駆けつけてくれたようですしね!!彼女にも話を伺ってみましょう」
「……え?」
「うお、眩し」
しばらくインスタのストーリーを見て暇を潰していたら、アタシの視界に突如まばゆい光が直撃する
なにこれ。あれ、もしやこれ、アタシにスポットライトが当たっている?
「さあさ、そこの三つ編みが似合うお嬢さん、どうぞこちらへ。君こそが、エールちゃんの友達なんだよね?」
「ん?アタシ?」
「何その展開。聞いてないんだけど……」
期待するような眼差しで、エールの父親はアタシに目を向ける。彼が何を促しているのかを理解するのに、アタシは少し時間をかけてしまった
え、えーと、もしかして………今からエールのお友達代表として登壇しろと?
そもそもアイツは友達どころか恨むべき怨敵だし……てかそれよりも、アタシ今ゴリゴリの私服なんだぞ!?!?!?!ここにいるだけで恥ずかしいのに、アタシを公開処刑する気かよ!!!?
突然の出来事にアタシが混乱する中、ソダシが静かに声をかけてくる
「……ソングちゃん。ここは私が代わりになんとかするから、貴女はここから逃げてちょうだい。後から私もここを出るから、下の立ち見エリアで合流しましょう」
「え、わ、わかったぞ……」
ソダシに急かされ、アタシはすぐにドアの方へと走り始めた。周りの目を気にしつつ、でも一刻も早くこの場を離れたい一心で脚を進めるのだった……
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風の吹く夜の寒さなんて、あの部屋に居続けることに比べればなんてことはない
この恥ずかしさを落ち着かせるため、アタシはターフの方をぼーっと見ていた。コースは等間隔に並んだ電灯で照らされていて、夜でも競走できるようになっていた
「本当にごめんなさい………まさかエールちゃんのお父様があんなアドリブかますなんて……ツメが甘かったし」
「まあなんとかなったから気にしなくても。さっきは助かったし」
立ち見エリアにはスタッフとカメラマンを除き無人。アタシとソダシは、ゴール前の地点で観戦することにした
ソダシはどこからともなくA4サイズの紙を取り出し眺めている。スケジュールの紙だろうか
「なんだそれ」
「招待状と共に配られていた今日の出走表だし」
「ふーん……アタシにも見せてくれ」
出走表
1 新潟 ラテンクイン
2 京都 ハッカゲキテツ
3 阪神 マルハナシュッパツ
4 中山 ガツモ
5 福島 イケノダイホンメイ
6 東京 オウマスペルル
7 小倉 ヤハタプラズマー
8 中京 メイケイエール
9 札幌 ヘンサンカノウセ
他校だから当然ながら、エール以外の全員が知らない名前だ……
「注目株は二人。スプリント界の牝バアイドル、阪神マルハナシュッパツ。若くして高松宮を制した最速王者の牡おとこ、東京オウマスペルル」
「名前だけじゃ誰が誰だかわかんないぞ」
「今回はエールちゃんだけを見ていればいいし……」
出走ゲートは向正面にあるので、ここからじゃよく見えない。選手の様子を知るにはゴール板近くのターフビジョンを見る必要があった
現在は既に本バ場入場しているウマが数字の若い順で紹介されている。本番よろしく実況とカメラマンがいるらしい。余興レースなのに金かかってんなー
「それで?エールがなんで暴走するのか、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「……エールちゃんの気性はレース本番じゃないと発生しない。桜花賞の時と同じく、おそらく今回もおこると思っているし」
「いやそうじゃなくてさ」
アタシは彼女の要領の得ない返答で不満げになる
しかしソダシは、今日一番の深刻な表情でこう答えたのだった
「……貴女に、生で彼女の走りを見て、判断して欲しいんだし。アレが一体、なんなのかを」
「アレって、なんだよ……」
レース場内の実況は、ついにメイケイエールの名前を呼んだ
ターフビジョンには、緊張からか汗がダラダラになりながら、固まったように棒立ちしている彼女の姿が映し出されていたのだった