全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
ちなみにブチコの子供ソダシはブチちゃんらしい
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オーストラリア先住民族アボリジニ。彼らは、旅の途中で出会ったあらゆるものを歌にしてきたとされている。先祖が残した旅の足跡たるその歌は、オーストラリアの迷い人に道を示し導いてくれたのだという。後にそれは、“ソングライン”という名前で呼ばれるようになったそうだ
最近、どこかの誰かから言われたことだ。誰だかはもう忘れてしまった。レースの熱狂の最中、関係ないのにふと思い出していた
最終直線に入るまで、メイケイエールは一切の暴走を行わずにここまできた。それどころか、じわりじわりと先頭の走者に迫ってきていた
このままいけば、勝てるかもしれない………っ!!脳裏にそんな期待の言葉がよぎる。思わずアタシは拳を強く握りしめていた
行け………行け………抜かせっ! もうすぐで先頭だっメイケイエールッ! そんな心からの声援が、喉元から出かかった───その時だった
「エェェェーーールッッちゃあああああああああああああんっ!!!!!!!!!!!」
誰よりも真っ先に絶叫の堰を切ったのは、アタシの隣にいた白髪の少女だった。ターフの上で必死に追走する真面目少女に向けて、腰壁から前のめりに絶叫したのだった
「お願いっ!!!!!!!そのまま!!!!!そのまま抜かしてぇええっ!!!!!!!!!!」
声が裏返るほどの大きな絶叫。普段の女王然とした高貴な風格などどこにも無い。ただただメイケイエールを真に想う一人の少女として、ソダシは全力で喉を振り絞っていたのだった
………ソダシにとってメイケイエールは、血縁関係をも超えたかけがえのない親友だ。そんなエールが、今まで散々非難された暴走癖を乗り越えてここまで来たんだ!彼女の一生懸命な走り姿を見たら、誰だっていてもたってもいられなくなるさ
………アタシも、負けていられないな
「メイケイッッ……エェェェーーールッ!!!!!!!!!!!!」
気づけば、アタシも喉が枯れるほどの声を張り上げていた。観戦スタンドの手すりを強く握り、前のめりで腹から絶叫する。懸命に走る彼女に、絶対届くように
「勝てるっ!!!!!!勝てるぞっ!!!!!!行けええええメイケイエーーールゥゥーー!!!!!!!!!」
届け……届けっ!!
私たちの声援よ、エールの背中を押してくれ。その思いだけで、一生懸命で叫んだ
観客の声援、風の音、そして心臓の鼓動。全てが高鳴る中、全力疾走するメイケイエールの脚はさらに力強く地を蹴り、前へ前へと進んでいく
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春先のよく晴れた日の、二人っきりのお屋敷の一室。私がまだ名競家の養子になる前で、“メイケイエール”ではない別の名前で呼ばれていたある日
ふと、ソダシちゃんにある質問を投げかけたことを、今になって思い出していました
───理由なんてないし、私がシロちゃんのことを好きになる理由なんて。大好きだから、大好きなんだし♫
でも、気になるんです。私なんて、ソダシちゃんと比べたら………何の取り柄もありませんし
───あなたの取り柄なんて、そんなの星の数ほど………いや、う〜ん………
どうか、しましたか?
───………いいかしら?取り柄の有無なんてものは、あなたが思っているよりもすごく些細なことなんだし
どういうことでしょうか
───みんなそれぞれ得意なことがあって………反対に不得意なこともある。私たちは互いの不得意を、互いの得意で補いながら暮らしているんだし。だから私は、人を好きになるのに、取り柄の有無なんて関係ないと考えているんだし
………………
───それにね、シロちゃん。私があなたのことが大好きなのには、たった一つの大きな理由があるんだし。取り柄なんかよりも、とっても大切な理由が
それは、一体?
───それはね………あなたがずぅっと、私の隣にいてくれたから
窓の外に咲いていた桜の花のように、暖かく微笑んでくれたあなたの笑顔を、私は今でも覚えています
小さな頃からずぅっと一緒。物心がついた時から、自分のことより私のことばかりを優先するソダシちゃん。その愛情に気がついてから、私の心には少しずつ陰りが育っていきました
これから、当主として白雪家を背負っていくことを宿命付けられた彼女。そんなあなたが私なんかのために、時間と気持ちを使っても良いのか、と
ソダシちゃんに、どうして私を好いてくださるのかを質問した際も、彼女の回答には正直納得することができませんでした。“隣にいてくれたから”といっても、たまたま私が血縁者だったというだけです。それのどこに、好きになる要素があるのでしょうか
白雪の象徴とも呼ばれる、ソダシちゃんの輝くような真っ白い髪の毛。それと正反対の地味な鹿毛の私なんかに、彼女の無償の愛を受けとる価値があるとは、自分では到底思えなかったのです
………せめて、今まで頂いた大きな恩だけは絶対に返したい。そう思って私は、競走選手としての努力を続けていました。ソダシちゃんと肩を並べる選手になるため。ソダシちゃんと並んでも恥ずかしくないサラブレッドになるため。ソダシちゃんが、愛して良かったと心の底から思えるような、そんな私になるためっ!
しかし、私自身の未熟さのせいで、その努力すらも台無しにしまいました。幼稚さゆえ勝つことばかりに必死になり、ついにはソングちゃんのレースを妨害してしまうという、大きな失態を犯してしまったのです
───あなたはどうして、私をここまで信じてくださるのですか?
ソダシちゃんの時と同様、いままで私はソングちゃんにずっと疑問を持っていました。あんな過ちを犯した私に、どうしてソングちゃんは付き合い続けてくれるのか
だって私は、人として付き合う価値がないどころか、ソングちゃんと一緒にいる資格すらもない。退学になっていないのがおかしい極悪人なのです
なのに………それなのに彼女は、今日までずっと私を気にかけてくださりました。その上、“アタシはお前の味方だ”なんていう、勿体無いお言葉さえいただきました。だから、思い切って問いかけることにしたのです。何故私をここまで信じてくださるのか、と
───別に不思議なことじゃないだろ。一緒に練習してきた仲間を信じるのは
理解が追いつきませんでした。たまたま一緒に練習してきたというだけで、仲間と呼ばれる資格が私にあるはずない
だって、そもそもの話は違うのです。私は、あなたに多大なご迷惑をおかけした走者なのですから
───そんなのアタシは気にしてないぞ
いいや、私はずっと気にしていました。忘れもしない、桜花賞のあの出来事。素敵なあなたと一緒に過ごすたび、胸のどこかに大きな後ろめたさが尾を引いていました。なのに何故、あなたは、簡単に私を許してくださったのですか………??
───さあ、何でだろうな
そして、私の前に対峙する三つ編みの彼女は、ため息が混じりながらも、笑顔を向けてこう答えたのでした
───その後もずっと、お互いにぶつかり続けてきたからじゃないか?
それはやっぱり、私にとっては納得いかない返答でした。ぶつかることは悪いことなのに………何を言っているか、ちっとも理解できません
でも………それでも。不思議なことに、何だか私の胸は暖かな気持ちになりました。胸の奥からじわりと込み上げてくる、あの時と同じ感情。言葉にすることのできない確信のような感情が、私の心を静かに支配していくのでした
………なぜなら
ふとした瞬間に見せた、黒鹿毛のあなたのその爽やかな笑顔が
いつぞやの、白毛のあなたの暖かな笑顔と、重なったように見えたから───
───最終直線に差し掛かり、私は目の前にいる二人の女の子を捉えます。少しずつ、少しずつ距離を縮めます
けれど、だんだん悪い予感が次々と立ち込みました。スタミナは底を尽きかけ、脚は鉛のように重い。筋肉は悲鳴を上げ、呼吸が乱れるたびに視界が歪む
暴走癖克服を目的とした断食により、もともとのスタミナは大幅に削られている。このままでは、ゴールまで先頭の二人には追いつくことができない
(別にここで勝たなくても、二人はきっと許してくれる………?)
ふと、そんな甘い囁きが、耳元でそっと聞こえてきました
(暴走はしなかったのですから、私にしては上出来です。ここでスパートをやめても、ソダシちゃんもソングちゃんも、きっと私を責めたりしないでしょう)
断食効果も相まった極限状態の中、すでに限界だった私は、思わず二人の優しさに身を委ねそうになります。もう楽になってもいいのだと思い込んでしまって、地面を蹴る脚の力が少しずつ抜けていきます
私はもう大丈夫。勝たなくてもいい
───まさにその瞬間、でした
あの絶叫が、聞こえてきたのです!
遠くの観客エリアにいて聴こえないはずの、二人の
「お願いっ!!!!抜かしてっ!!!!抜かしてっ!!!!エールちゃああああああん!!!!!!!!!」
そう。それは………
いままで弱い私を暖かく見守ってくれた、ソダシちゃんの
「そのままだっ!!!!行けっ!!!!行っっっけぇええええメイケイエェェェェェェル!!!!」
弱い私に立ち上がる勇気をくれた、ソングちゃんの
(………何を考えていたんですか私は!!!!暴走癖克服なんてマイナスがゼロになっただけ!!!!!私が本当に目指しているものは、そんなものじゃなかったはずです!!!!!!!!!)
甘い囁きさんの言うとおり、二人は負けた私をみても、怒ることはないでしょう。ソダシちゃんもソングちゃんもすごく優しい女の子です
でも、それだけじゃダメだ。ダメダメの私が二人に追いつくには、暴走癖克服だけじゃダメなんだ!
(今の私にできることはなんだ。私のために背中を押す、二人への最大の恩返しとはなんだ!!!!!!!!!!!!!)
そもそも私からの恩返しなんて、二人とも最初から期待していません。でも、今の私がやるべきことは、その優しさに甘んじることでもありません
勝利を信じる二人に向けた、今の私にできること。それは、二人が信じてくれた私───メイケイエール自身を、最後まで貫き通すことっ!たったそれだけなのですっ!
強く地を蹴るたびに、脚に力が戻るのを感じます。スタミナが尽きたと思っていた体が、再び燃えるような感覚に包まれます
私の視界が開き、目の前に広がった光景は………天から差し込む太陽の輝きが、まるでゴールまでの道筋をはっきりと示しているようでした
………ソダシちゃん!ソングちゃん!
二人とも、しっかり見ていてください!
私………まだまだ───
───全力疾走、できますから!
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終盤は早めのスパート勝負になると予想している。通常なら太刀打ちできないところだが、相手が早めに仕掛けてくれるなら話は別だ
早めにスパートをかけた相手が大きく消耗したところの漁夫の利を狙え。メイケイエールは、一番最初にスパートをかけた走者の後ろについていくだけでいい
志積トレーナーの指示は以上のみだった。そして中京メイケイエールは指示通りに、一番早めにスパートをかけた阪神マルハナシュッパツを背後から静かに追走し始めた
ただメイケイエールには、マルハナシュッパツと比較して瞬発力がない。マルハナシュッパツが先陣を切ったことによる、小倉ヨカヨカとの激化したスパート勝負に、メイケイエールは参加することは出来なかった
………だがそれが、結果的にメイケイエールの功を奏したのだった!
マルハナ(おかしいおかしいおかしい!!………絶対ありえない!!!!あの暴走特急メイケイエールが、なぜ私の背後にいるの!?!?)
マルハナシュッパツが背後の彼女に気がついたのは、スパートを使い切った後だった
激しいスパート勝負の代償として、マルハナシュッパツとヨカヨカは大きく体力を消耗していた。対して、メイケイエールはスタミナの無い地力のみの状態で着実にスピードを上げていく。ゴールまで残り100メートルだ!
マルハナ(暴走しなかった分スタミナが残っているのか!?!?やばいやばいやばいこのままだと抜かれちゃう!!!!!)
振り返らずとも分かる。背後から迫る中京メイケイエールの足音が、マルハナシュッパツの心を追い詰めていく。彼女は大きなストライドで、シュッパツとの距離を徐々に詰めていたのだった
………マルハナシュッパツが得意とするピッチ走法は、細かく地面を蹴ることで瞬発的な加速を生む走法である。対してメイケイエールのストライド走法は、長い歩幅を活かし、スタミナを維持しながら持続的なスピードを発揮するもの
シュッパツの背後にエールがたどり着いてからゴールまでの間には、少しの距離的猶予があった。この状態で、体力を大幅に消耗したマルハナシュッパツを追い越すことなど、天才少女にとっては造作もないことだった
マルハナ(だからって……なんで私よりも速く走れているのよっ!!!!!!)
マルハナ(おかしいおかしいおかしい!!!こんなの絶対おかしいっ!!!!!!)
表情を引き攣らせながらも、阪神マルハナシュッパツは必死に脚を動かし続ける。だが、どれだけ力を振り絞っても、彼女の脚はまるで別次元の速度で進んでいく。ついに二人が並ぶ!
マルハナ(いや……違う!間違っていたのは、私の方だ!!)
マルハナ(悪評の陰に隠れていた、重賞三勝という彼女の実績!!!知っていたはずなのに、偶然だってみくびっていたんだ!!!)
マルハナ(そうだ。“名古屋の暴走特急”なんて悪評を真に受けて、私は彼女の真の力量を完全に見誤っていたんだ!!!)
───そして決着の瞬間。ゴール板を最初に駆け抜けたのは、しなやかに揺れるポニーテールだった
真面目すぎた天才少女
その異名に恥じない、圧倒的な末脚。彼女は見事、四つ目の重賞トロフィーをその手に掴み取ったのだった!
GIII CBC賞 小倉レース場芝1200m右回り 結果確定
一着 中京 メイケイエール
二着 阪神 マルハナシュッパツ アタマ
三着 中山 エイトウカッサル 1