全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer) 作:匿名423371
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私、メイケイエールが最初に重賞を勝利したあの日。お父様に沢山撫でてくれて、すごく嬉しかったことを覚えています
あなたは天才少女なのだと、あなたならGIだって夢ではないのだと。そうやってお父様は、沢山褒めてくれました
その愛に応えたくて、より沢山努力をしました。毎朝の走り込みは一日も休んだ事がありませんし、調教タイムでは学校レコードだって叩き出しました
やがて迎えた初めてのGIレース、阪神JF。絶対に勝てると思って、圧勝する姿をお父様に見せたくって……前半から強引に先頭を走ってしまったのがいけませんでした
これが“かかる”ということは十分理解していました。でもこの時私は、GIでも通用する最強の“天才少女”なんだってことを、自分自身本気で信じていました。それが、ただの慢心だということに気付かず
当然、結果は4着……最終直線、脚をためていたソダシちゃんに交わされて、競走人生初めて敗北したのでした
最初に沸いた気持ちは、恐怖でした。なぜって、私は一度も負けた事がないのです。このレースを見て、お父様は何を言うのか想像がつきません。体温は熱いのに、心は酷く凍てつく思いでした
主に恐怖で、選手控え室へ進む脚が動きません。戻ったらお父様がいると思ったからです。進行方向から目を背けるようにして、観客席の方向を向きました。多くの観客が、勝者に向けて拍手と喝采を送っています
そこで私は、目が合ってしまったのです
───観客席の中にいた、お父様の真顔。酷く冷たい、失望の目と
ゾッとするような気持ちでした。見間違え、あるいは思い違いであってほしかった。だがそれを、網膜に焼き付けた光景が否定をする
彼の目線から逃げるように、疲れ切った足を引き摺り出来るだけ急いでターフを出ました。彼が私に会いに来る前に、ここからすぐに脱出することにしました
更衣室で素早く勝負服から着替えて控え室に戻ると、暗い表情のお父様がすでに入室していました。ヒュッ、という素っ頓狂な声を出してしまいます
しかし、そんな私の気持ちを払拭するかのように、お父様は私の頭を撫でて慰めてくれました。お前はよくやれた。GIもまだ次がある。だからまた頑張ろうって、言ってくれました
刹那。脳裏にフラッシュバックする、私を冷ややかな目で見つめる真顔の男
……髪の色が白でないことを理由に、白雪家から日常的に軽くあしらわれていた過去のある私は、私を護ってくれたソダシちゃん以外、他人を心の底から信用する事ができませんでした。それはお父様も例外ではありません
お父様は私を愛してくれていましたが、それは可愛がってくれるだけで、私を叱ったりなどは一度もしたことがありませんでした
今の居場所がなくなってしまえば、ソダシちゃんのお側以外の居場所なんて無くなる
もう誰からも、捨てられたくない
わかった、お父様。今日から走り込みの距離を伸ばす。筋トレの数も増やす。調教タイムだって、自分のレコードを超えてみせる。そして、GIを勝って、貴方が望む強いウマになってみせる
だから、だから、だから…………
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メイケイエールvs…… 競専対抗代表レース 中京レース場芝1200m
1 新潟 ラテンクイン
2 京都 ハッカゲキテツ
3 阪神 マルハナシュッパツ
4 中山 ガツモ
5 福島 イケノダイホンメイ
6 東京 オウマスペルル
7 小倉 ヤハタプラズマー
8 中京 メイケイエール
9 札幌 ヘンサンカノウセ
……それは、彼女が出走ゲートを出て、すぐのことだった
ターフビジョンのレース中継には、バラついたスタートを切る9人が映っていた。外枠だったエールはすこし出遅れたか、後方からついて行くような形になる
しかし何を血迷ったか、このあとすぐにメイケイエールはバ群の外から徐々にペースを上げ始めたのだった。どうやら既に”かかって”いるらしい。バ群のペースを上回る速度で進んでいったのだ
この速度で進めば、体力を大幅に消耗し、最終直線でのスパートが難しくなるはず。誰が見ても、これは正気の沙汰とは思えない走り方だった
困惑のあまり、アタシは一緒に観戦していたソダシに問いかける
「おいおいおい、あれはなんの真似だ。あんなことやって勝算あんのかよ」
「…………」
無理やりスピードを上げていくメイケイエールは、400m通過時点で強引に先頭をもぎ取っていた
だが現時点の一時的な先頭に何ら意味はない。脚をためている後方集団に追いつかれたらその時点で負けだ!
600m通過。第3コーナーに入り、他のウマたちも次々スパートをかけ始め、一人また一人と抜かされてしまう
当たり前だ。かかったせいでスタミナがもうないのだろう
先頭集団は最終直線に入る。メイケイエールのレースは、この時点で既に終わっていた
ペース配分というレースの基本中の基本を無視したんだ。ここで巻き返せるだけの脚も残されていない。敗北は当然の帰結だった
1000m通過、ゴールまで残り200m。エールはなおも追走しようとする。だが、瞬発力が並外れている最強のスプリンター達のラストスパートに、食い下がるだけの力などありはしない
ゴールに迫る夥しい脚音。ゴール板前で観戦していたアタシは、ターフビジョンの中継映像から、こちらに向かって走る生のバ群へと目線を移す。先頭には目もくれず、エールがいるであろう後方あたりを注目した
……中継映像は、ウマのそれぞれの位置は分かっても、彼ら彼女らの表情まではわからない
夜でモニターが見えづらいのと、そもそも中継映像は最終直前まで馬群全体を多く映すからだ
だから、初めてだったのだ。アタシは初めて、
あ
あ
あ
「あぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
……魂の叫び。もがく様な走り。そして、汗と共に零れる大粒の涙
それは、競走選手として勝ちを目指す健全な走りとはいえなかった。恐ろしいナニカに追われ、必死に逃げているような……命懸けという意味での、“一生懸命”な走りだった
「おいソダシ……説明しろ。“アレ”は一体なんだ」
「……」
「そりゃ選手はみんな、勝ちを目指して必死になる。だがな、今のエールみたいに……まるで負けたら本当に死んでしまうかのように泣いて走る奴なんざ、レース人生一度たりとも見たことがないぞ」
ソダシは、ゴール板を過ぎたバ群を深刻な表情で見送っていた。そのまま彼女の口が重々しく開く
「……メイケイエールちゃんは、重いプレッシャーによって、レース中一時的に
「心神耗弱?」
「心神の正常な判断がいちじるしく困難になる状態のことよ」
「…………」
「あくまで私の推察だけれど、レース中の彼女は、“なんとしてでも一着を取らなくてはいけない”という気持ちでいっぱいいっぱいになって、ウマとして正常な判断が出来なくなるの」
それが、“真面目すぎて暴走”の真相だったわけか。勝ちを強く意識したがために、かえって自分自身を追い詰めていたのか
にしても、なんでそんな緊迫するのかなぁ。アタシだって、負けたら死ぬつもりってぐらいには本気で走っているが、何もレース中に泣くほどじゃない
アレは明らかに普通じゃない。メイケイエール自身の精神に、何か大きなトラウマのような問題があるのは明白だった
「……なんで、お前は止めないんだよ」
「…………」
「あんな泣かせてまで、走らせることもないだろ!?」
「出来るなら私だって止めたいよ。見てられないもの……」
煩悶で眉間に皺が寄るソダシはこう続ける
「……でもね。あの子本当に、超が付くほど真面目な子でね……毎朝欠かさず数十kmの走り込みをしているんだ。たとえ雨が降っていてもそう。私が止めても言うこと聞かなくって。“努力しなきゃ、レースに勝てませんから!”って笑って走りに行って、それでずぶ濡れのままで帰ってくるの。慌ててシャワーに連れてって、その時私は聞いたの。こんなことしたら風邪ひいちゃうでしょ、なんでそうまでして走るんだって」
ターフから一陣の夜風が吹き、ソダシのながい白毛が揺れた
「そしたらね……“一度決めたことは絶対に守りたいのです!真面目すぎなのが私の唯一の取り柄ですからね!”って……」
「……………」
直向きに努力する競走選手を止めさせるという事は、そのまま今まで積み上げてきた物の否定につながる。メイケイエールはそもそもレースそのものが嫌いというわけではないようで、ソダシの言っている意味はそういう事なのだろう
大バカ野郎……目の前に本人がいたらそう叱っていただろう
どうやら、アタシに衝突してきたメイケイエールとやらは、とんでもない真面目バカだったようだ
どーしたもんか。頭を掻きむしりながら、ため息を一つ吐く
……アタシは不真面目な奴がキライだ。たとえば、レース中にふざけた真似をするやつとかな。アタシがアイツの突進を不快に思っていた理由の半分がそうだ、暴走=おふざけと認識していたのだ
だが……ちゃんと真面目に生きてる奴が割を食ってるところを見たり、苦しんでいるのを見過ごすのは、もっともっとキライで不快だ
怯えるよう泣きながら走る真面目少女を、ほっとけるはずはなかった
「……わかった。ソダシ、ちょっと頼みがある」
「?」
「メイケイエールと、話をさせてくれ」
メイケイエールvs…… 競専対抗代表レース 中京レース場芝1200m
結果確定
1着 オウマスペルル
2着 マルハナシュッパツ
3着 ラテンクイン
……
7着 メイケイエール