全力疾走っ!青春声援物語 グレイブンロード (挿絵無しVer)   作:匿名423371

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第6話② - キラリ お日様がおはようのウインクした

 

 

 とある日。いつものように練習トレーニングを終わらせ、学校から女子寮へと帰る道すがら。アタシたちは列をなして走るウマの集団を見かけた。自転車を漕ぐ細身のヒト男性が先頭で、その背後に10人ぐらいの牝牡を引き連れている形だ。校外にて活動するトレーニング塾生のフィールドワークは、ここ名古屋の街ではよく見る光景だった

 重賞レース含む中央競走に出場するためには、管理局が管轄する競走専門学校(競専)への入籍が必須。だが、学校内だけにトレーニングを完結させる必要はない。名門大学の進学を志す学生が勉強塾に入るのと同じように、競専のカリキュラムだけじゃ物足りないウマはトレーニング塾の門を叩くのだ

 

「いいなぁ………」

 

 走る彼らを目で追いながらポツリと呟くメイケイエール。そうだな、とアタシは返す

 彼女が羨ましがる気持ちもわかる。アタシたち二人はトレーナー不在の状態で練習をしている。こなしているトレーニングメニューは、アタシのお父さんから譲り受けた特訓ノートをなぞっているだけだった

 

 ……中京校には、他校のようなマンツーマンや少数人チームで生徒を支えられるだけのトレーナーが足りていないのだ

 中京校生徒数880名に対して、約20名ぐらいしかいない中京校のトレーナー職員たちは、せいぜいクラス担任としての役割を果たすのがやっと。生徒一人ひとりの個別のニーズに対応する、なんてことが困難だった

 つまり、中京校の生徒たちは、自分自身の能力と限界を自分で見極め、自力でトレーニングプランを立てなければならないのだ。それを学校側は“自立する学生の育成”と主張するが、そんなの耳さわりの良い言い訳だ。そもそも学生が考えたトレーニングプランで勝ち上がれるほど、競走世界は甘くない

 だからこそ、指導者不在でどうすれば良いのかわからない生徒をターゲットに、ここ名古屋の街にはトレーニング塾がいくつも存在していたのだった

 

「アタシも入りたいなぁ。トレーニング塾に」

「ソングちゃんってどうして野良のままなんでしたっけ!!!!!!!!」

「福島に住んでる分からず屋の親に止められているんだよ。授業料高いし、なにより塾のトレーナーはみんな免許もってないんだから信用出来ないって」

 

 “野良”とは、塾に通っていないウマのことを指すスラングだ。塾に入ってるという意味の“塾組”と並んで使われるこのスラングは、生徒に留まらず競専職員の中でも使われている

 野良と塾組の能力格差は、度々競専や管理局の間にも問題として上がるらしい。無料動画教材の配布やトレーニング室の一般開放など、職員側からも様々な対策をやってくれてはいる

 しかし、レースの栄光を勝ち取っていくウマの表彰台には、いつも頼り甲斐のありそうな大人が隣に寄り添っていた。支えてくれるトレーナーの有無は、どうしても埋められ難い差なのだった

 

「というかメイケイエール。お前こそ野良なのに、なんで三度も重賞勝ててんだ」

「ふふん♪ それはもちろん、自己鍛錬を欠かさなかったことが一番大きいです!!!!!!!!加えて、私独自で考えたトレーニングメニューのお陰もあったのかなと分析します!!!!!!!!!」

「ほぉ、オリジナルか。どんなメニューなんだ?」

「町内一周20km!!!!!これを毎日走ります!!!!!!!!!」

「……それスタミナしか付かないんじゃないのか」

 

 自信満々に答えるハイテンションガールをジト目で見つめながらツッコむ

 メイケイエールの主戦であるスプリントは瞬発力が命。だからスタミナしか付かないであろうジョギングトレーニングは、彼女の脚質に噛み合った練習とは言えない

 そもそもエールが野良なのも不自然だ。家庭の財布事情的には問題なさそうだしな。近縁らしいソダシでさえ塾組だ。なのにこのお転婆ガールは一体何を考えているのか

 

「………他には?他にどんなトレーニング何やってたんだ」

「…………!!!!!!」

「なんだその無言なのか無言じゃないのかわからない妙なリアクションは。他にどんなトレーニングしてたのかって聞いてるんだメイケイエール」

「…………………!!!!!!!」

「筋トレとかペース走とか全力走とかいろいろあるだろ。ほかにもなにかやってたんじゃないのか」

「………………………!!!!!!!!」

「……まさかとは思うが、ジョギングだけしかしてなかった、ってことはないよな?」

「……………………そのまさかです!!!!!!!!」

「どこが独自のトレーニングメニューだメイケイエール!!!単にジョギングしてるだけじゃ無いか!!!!」

 

 えへへ〜!と誤魔化すように笑うメイケイエール。どうしようもないやつだ。コイツが元気と真面目だけの考え無しなのはなんとなくわかってきた

 ……てか、これで重賞3勝!?何かの冗談じゃないのか!?!?

 

「走る分だけ強くなると思って、今まで走り込みしかしてませんでした!!!!!!!!」

「あのなぁ……トレーニングってそんな単純じゃないんだぞ?」

 

 インターネットのとある記事によると、筋肉をつけるためにはジョギングのような有酸素運動と、筋トレのような無酸素運動をバランスよくやる必要があるのだとか

 まあそういうアタシも、エールにとやかく言えるほど詳しくはない。まだまだ不勉強だから、どうしても専門的な知識が欠けてしまっている

 アタシの次走───GI、NHKマイルには、因縁の相手であるシュネルマイスターも出場するらしい。だがこの調子じゃ、勝てる見込みがない

 

「やはりトレーナーの支援が必要だよなぁ。このままじゃきっと、アタシもエールもGIには届かないだろう……」

「それはそうですねぇ……!!!!!!!!!」

 

 アタシは一つため息をつきながら、夕焼けに染まる通学路を歩んでいく

 競専のトレーナー不足は今に始まったことじゃない。昨今の中央競走ブームによって志願者は増えているようだが、東京大学並みに難関である選抜試験は相変わらずの狭き門

 生徒側として制度について色々思うところがあるが、結局は大人の世界だ。こればっかりは、子供のアタシらにはどうしようもないこと

 

「はぁーあ……そこらへんの道に落ちてないかなぁ……アタシを導いてくれるトレーナーさんが」

「本当に落ちてたら素敵ですけどね!!!!!!!!!」

「……………いや、都合よく落ちてたらだいぶ怖いだろ」

「言い出しっぺなのにいきなりマジレスしないでください!!!!!!!」

「でもさぁ、想像したら怖くない?学校の中でもないのに、いきなり知らない人から声かけられて、“君には才能がある!スカウトさせてくれ!”って言われたら」

「…………モロ事案ですね!!!!!!!!!!!!」

 

 エールのツッコミにアタシは乾いた笑いを飛ばす。どうしようもないことには、こうやって笑い飛ばして誤魔化していくしかない。学生にはハナから打てる手が無いだ

 

 でも、せっかくの青春……トレーナーと一緒に、切磋琢磨したかったな……なんて

 アタシが小さな頃から思い描いていた競走選手の生活は、こんな独りよがりなものではなかった

 友達がいるから寂しくはなかった。だけれど、やっぱり……アタシを導いてくれる、信じてくれるトレーナーとの熱い信頼関係は、小さい頃からの憧れの一つだった

 

 ……ふと。アタシの脳裏に、“引き寄せの法則”という言葉がよぎる。もう間も無く夜に差し掛かり、街灯がひとつまたひとつと灯りをともしていく中を、アタシたちはまだ歩いていた

 

 アタシたちがこんな話をしていたから、なのか

 今振り返ってみれば、この目の前の現象について、そう解釈せざるを得ない

 当時の私にとっては、珍しいけど特に不思議でもない単なる日常の風景として。でも今のアタシにとっては、何か奇跡のような物で引き寄せたかのようにして、その男は転がっていたのだった

 

 ───歩道を歩いていると、車道のど真ん中で、ボロボロの服を着た中年男性が酔っ払いのようにして行き倒れていたのが見えた

 それが、まさか……こんな薄汚れた人が、アタシたちの未来のトレーナーになるなんて……この時の二人は、思いもしなかったのだった

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