何とか引っかからないように地の文は変えたつもりですが
(魔術を学ぶのは嫌いじゃなかった、世界の真理に近づくって感じがして…)
少年は追想する、昔の出来事を
(初めて、魔術が使えたときはめっちゃはしゃいだっけ、ユナにも褒められて…)
──ユナ、その言葉を思い出した瞬間、"あの時"のことを思い出す。
(魔術は…真理なんてもんじゃなかった…!もっと身近な…人を殺す道具だった…!そんな理解もなしに俺は…!)
追想は終わる──
グレン=レーダスの初
そんなことがあった日の昼食、
アスラは食堂に来ていた。アルザーノ帝国魔術学院の学食は安くておいしい、生徒にも評判の学食である
「えーと…地鶏の香草焼き、揚げ芋添え。ラルゴ羊のチーズとエリシャの新芽サラダ。キルア豆のトマトソース炒め。ポタージュスープ。ライ麦パン、全部!あ、サラダ以外大盛りで!!」
しばらく待っていると料理が出来上がり、それを受け取る。
アスラは元気が良いので、学院の一部から可愛がられている
お盆一杯に入れられた料理を持ちながら、アスラは席を探す。
だが、もうかなり席は埋まっており、座れる場所がほとんどなかった。このまま立ち食いすることも考えたが流石に彼の理性がそれを止めた
(おっ…グレン先生だ)
彼が見る先には、グレン、そしてシスティーナ、ルミアが座っている席があった。
「え?いいんですか?私と間接キスになっちゃいますよ?」
小さく笑い、いたずらっぽく首をかしげ、指を唇に当てるルミア
「フン…ガキじゃあるまいし」
そう、そっぽを向きながら料理をルミアに差し出すグレン。
そんな平和な空気の中、
「すんません!一緒に食べてもいいですか?」
「ん?いいぞ」
アスラはグレンの隣の席に座り食べ始めようとする。
奇しくもアスラとグレンの頼んだ料理は全く一緒だった。
「あはは…なんだか兄弟みたい…」
ルミアはどちらもモリモリと食べる姿に対してそう言い放つ
こんな平和な空気の中、一人だけ重苦しい雰囲気を放つ一人の少女がいた。
システィーナである。
彼女はグレンに対し、刺々しい目を向けていた。
そんな空気だとさすがのグレンも食べにくいらしいので、
「そっちのお前、そんなんで足りるの?」
グレンはシスティーナの料理を指さした。ルミアは比較的食べてる方なのだが、システィーナは薄くジャムを塗ったスコーンが二つだけである。
「そうだよ、もっと食わねえとダメだぞ、俺も肉わけるから」
とアスラは言い、肉(一口サイズ)とトマト(肉の10倍ぐらい)を分けた。
「私は午後の授業にも支障が出るから…って多い多い!!」
「こら、ちゃんと苦手なものも食べた方がいいよ」
ニコニコとそう、アスラにいうルミア
グレンはその光景に、本人ですら気づかないほどではあるが微笑んでいた
グレン=レーダスが非常勤講師として来てから数日が経った。
「いい加減にしてください!」
システィーナは机をたたいて立ち上がる。
「む?だから、お望み通りいい加減にしてるんだろ」
日に日に悪くなっていく授業によりたまっていった鬱憤はシスティーナを怒らせるのに十分な物であった。
最後の方は黒板に教科書を直接、釘で打ち付けていたぐらいである。
子供ような屁理屈を言うグレンに対し、システィーナは左手の手袋を投げつけた
「…!!お前、マジか…?」
グレンはその行為の意図に気づき、目を見開いた。
左手の手袋を投げつけることは魔術師の中では決闘を意味することである。
クラスの全員が驚く中、システィーナとグレンは己を懸けた決闘が学園中庭にて始まる──
──グレンの惨敗であった。
もう少し詳しく結果を言えば、グレンは一度も魔術を放てず、三節呪文を唱える隙をとらえられ、システィーナに一節呪文で倒された。
今までは講師としては最悪だが、魔術師としての腕は高いのだろうと思っていたクラスの人間も、グレンに対しての評価は地の底に落ちた。
…二人を除いて。
決闘後、アスラはグレンに聞きたいことがあるので質問しに来た
「先生!」
元気にそう呼び止めるアスラ
「ん?なんだ?なんか用か?」
だらしなくそう答えるグレン、昼行燈という言葉がこれほど合う男はあまりいないだろう
「質問があって!この「分かんねーよ」」
質問を聞く前にグレンはそう答える。
「…なんでそう、言うんだ?アンタは」
「分かんねーもんは分かんねーから、以上」
基本人に寛容なアスラでもさすがにこの対応には少し怒っていた。だが、不自然にやけくそな対応をするグレンに対して、アスラは気づいた
「アンタ、
「…はあ?」
さすがのグレンもアスラの謎の発言には少し動揺していた。
「アンタは…なんか大切なもん失ったんだろ…それで自棄っぱちになって…」
「…なんでそんなこと分かんだよ。俺みたいなやつにあると思うか?」
「俺も一年前、失ったから」
一年前という言葉を聞き、グレンも目を見開く、だがすぐに顔を元に戻し
「別に…あったとしてもそんなもんすぐに立ち直れる…」
「アンタ…経歴を見たんだけど、それも不思議だった。魔術学院を卒業後、その後も何もせずアルフォネア家に居候だなんて不自然だ。そんな人間が仮にも公的機関である魔術学院に入れるはずがない!」
「……………」
グレンはそっぽを向き、歩き始める。
「アンタになにがあったかなんて知らない!説明が下手でも魔術が苦手な人でもいい!!
だけど、過去のことでいつまでもいじけて、足を止めてるような先生は俺はいやだ!!」
感情を高ぶらせそうグレンに伝えるアスラ。
「…そうかよ」
そうつぶやくグレンの足取りは重くなっていた。
「はーい、授業始めまーす」
眠そうに授業を始めるグレン、質問をしても辞書を持ってきたりするだけ
「すんません先生!質問が─」
「無駄よアスラ、その男は魔術の崇高さを理解していないわ、あなただって理解できたでしょう?あの男の魔術に対する姿勢…」
「そりゃ確かに、自棄っぱちだけどグレン先生だって本気でやれば…」
「はぁ…魔術は崇高だのなんだの…魔術って…そんな偉いかねぇ?」
グレンの一言が教室を支配する。
「グレン先生!!さすがに─」
魔術を偉大な物として信仰するシスティーナに対し、その発言はまずいと思ったのか、アスラが止めにかかる
「何がどう偉大なのかってそこのお前に聞いてんだ」
そう聞くと、システィーナをたじろぎ、だが
「魔術はこの世界の真理を追究する学問よ」
いつもはその答えに「そんなもんか…」となるグレンだったが今日はなぜか熱が入っておりそのまま口論は続いた。
最終的に魔術は人殺しの道具だというグレンの回答に泣いてしまったシスティーナのせいで気分が悪くなったグレンが授業を勝手にやめて口論は終わった。
その日の夕方…人のいない廊下にて
「システィーナ、大丈夫か?」
アスラはシスティーナを優しく慰める。アスラとシスティーナはなんだかんだ言ってそこそこ長い関係だ。彼女の弱い部分もある程度理解できている。システィーナは涙をぬぐいながら、
「大丈夫よ…私は…誇り高きフィーベル家…魔術師の…」
「……きついこと言っちゃうけどさ…」
そういうとシスティーナはアスラの方を一瞥する
「俺も…グレン先生の言ってること、少しわかる」
「…!!アスラまで、なんでそんなこと…」
彼女はまた目元に涙を浮かべ始め、そういい放つ。
「俺の家族も昔…魔術に殺されたんだよ…」
そういうと彼女は目を見開いた。仲がいいシスティーナでもアスラのその昔話は知らなかったからだ。
アスラは必要以上に自分のことを話さないので、好かれる反面、心の底から仲のいい友達がいない。
「一年前と…結構昔…今でも、思い出すと…」
拳を握り締め歯軋りを立てる
「だからさ…夢見んな…とは言わないけどさ…もう少し魔術のあり方を疑ってみるのも悪くないと思う」
「………」
システィーナは泣きながらも友人であるアスラの言葉を聞き、ぐっと拳を握り締めた。
──翌日
「おい、白猫」
システィーナの頭上から、ぶっきらぼうな言葉が降ってくる
「…なんですか」
システィーナの言葉は刺々しい、だが昨日のような突き離そうといったものではない。
「お、なんか変わってんじゃん」
呑気なことを言うグレン、それに対しシスティーナは
「人を動物扱いしないでください!なんですか白猫って!」
「いやー、なんか白猫は白猫って感じがしてな」
「どういうことですか!?」
「いやそれはそれとしてな…いや、昨日のことについてなんだが…」
「…何が言いたいんですか」
グレンは申し訳なさそうに頭を少し下げてきた。
「すまなかった」
「…!!」
システィーナは絶対に出ないであろうと思っていた言葉がグレンから出たことが驚きだった。
クラスの人間もその言葉に対し、驚いたようであった。アスラとルミアを除いて
ルミアはグレンの方をまっすぐ見据えており、まるで信頼しているかのようであった。アスラはグレンが謝ったとたん、にやりと口角を上げた
「いや…なんていうか…俺も子供だった…俺は魔術嫌いだったからあんなこと言っちまったけど、あれを魔術大好きなお前にどうこう言うのってのは…なんていうか…その、本当にすまんかった」
本当に少し、微々たるものだが頭を下げ、システィーナに謝るグレン。
それに対し、システィーナは──
「…ふん、謝ってくれるならそれでいいんですよ。」
「おっ!?マジ!?じゃあお言葉に甘えさせてもらいまーーーす!!」
悪びれもなくそういうグレンに対して
「この…!!こっちがこういえばすぐに…!!!」
と憤っている様子であった。だが、その関係は昨日より確実に良くなっており昨日のように一触即発の空気ではなかった。
その様子にクラス中が困惑し、猜疑の目をグレンに向ける、だが、グレンは意に介さず、踵を返し黒板へと向かう
「さて、授業を始める。かったりーけど」
その言葉にクラスが驚き、硬直する。
「さて、これが呪文の許可書かね?」
グレンはその教科書をぱらぱらとめくりながら、目を通す。
「ふーん…そぉい!!!!」
突如として窓を開け、教科書を投げ捨てるグレン、生徒たちはまたいつものことかと自習し始めようとする。だが…
「お前らって本当に馬鹿だなぁ!」
唐突に暴言を吐くグレン、その言葉で生徒たちはグレンを睨みつける
「だけど間違ったことじゃねぇだろ。今までのお前らの勉強方法見てれば、やれ呪文の共通語訳を教えろだの、魔術式の書き取りをするだの、お前らって魔術のことなぁ~んにもわかっちゃいねぇんだな!」
「【ショックボルト】程度も一節詠唱できないような
誰が言ったか、その言葉によってクラスの空気が凍る。
「…まあ、正直それ言われると耳が痛いな」
耳をほじりながらそう不貞腐れたようにグレンは言う
「ただ、今【ショックボルト】程度って言ったやつ…誰だ?」
そういうと眼鏡をかけた優等生の少年、ギイブルが席を立ち、言った
「僕ですよ、何も間違っていないでしょう?【ショックボルト】なんて魔術師が一番初めに覚える初等の中の初等呪文でしょう」
やれやれといった感じで首を振る、ギイブルに対してグレンは…
「はーい、そうですね!一番初めに覚える呪文ではありますねー!じゃあさお前らって【ショックボルト】のことどれだけ知ってんの」
クラス内に苛立ちが募っていく。実際、【ショックボルト】は魔術師が初めに覚えれる呪文だ。魔術式も簡素で覚えやすく、魔力操作も簡単だからだ
「ふん、そんなの人体が痺れる程度の雷撃を飛ばす呪文…それだけですよ…」
「あーあーそういうことじゃねぇよ!そんな見たまんまのこと教えろって言ってんじゃねえから…馬鹿なお前らに説明してやんよ。」
そういうとグレンは黒板に【ショックボルト】の呪文と魔術式を書き始める
「はいはいこれが【ショックボルト】の詠唱呪文と魔術式でーす。なーんか思春期の恥ずかしい詞みたいな文章がみっしり書かれているが…これに書いてある術式を暗記して呪文を詠唱するだけで…《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」
そういうとグレンの手から紫色の紫電が迸り壁に激突した。
「あーら簡単、こんなにも簡単に呪文を出せちゃいました。これが呪文を覚えるだ。」
相変わらず三節詠唱ができないグレンを軽蔑する生徒だが、
「じゃあお前ら、呪文がこうなったら…どうなると思う?」
そういい黒板の呪文を《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》に変えた。
「まあ、詠唱条件は…速度二十四、音階三階半、テンション五十、マナ・バイオリズムはニュートラル…いっちゃん基本的なやつにしてやるよ。わかるやついるかー?」
だが、それに対しクラス中沈黙していた。
「おいおい全滅か?ひでぇなこりゃ」
グレンが呆れたような表情でクラスを見渡す。
「そんな呪文…存在しませんわ!」
クラスの生徒の一人──ツインテールの少女、ウェンディがそういった瞬間、グレンは腹を抱えて笑い始めた
「ぎゃ──ははははッ!?ちょっお前マジで言ってんのか!?ははははッ!」
「その呪文は、マトモに起動しませんよ。必ず何らかの形で失敗しますね」
ギイブルがそう答えると…
「必ず何らかの形で失敗します、だってよ、ぷぎゃ─ははははっ!?」
「なっ─」
「あのなぁ…完成されてる呪文を変えてるんだから、失敗すんに決まってんだろ!どうやって失敗すんのかって聞いてんだよ!」
「そんなの、わかりませんわ!!結果はランダムですの!!」
「ラ ン ダ ム !? ぎゃーははははははッ!?お前ら、こんな簡単な魔術式一つ取って、こんなに条件与えてこの程度のこともわかんねーのかよ!?お前ら俺を腹の皮をよじり殺す気か!?ぎゃはははははっ!?」
「もういいか…、答えは「右に曲がる…ですか?」」
アスラがそう答えるとクラス中が驚いた表情で彼の方へ顔をむける。
アスラは正直に言うと実技の成績はあまりよくない。【ショックボルト】の詠唱も未だに三節呪文でないとできないのでこの問題に答えられたのが驚いたらしい
「いや…昔、練習してるときに色々なことやってたらたまたま出たんだよ!同じのが!」
「おっすげーじゃん。グレン様ポイント+5しといてやるよ」
「いよっしゃーっ!」
謎ポイントを与えられるアスラだが普通に喜ぶ
「まあこいつの言った通り…《雷精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》」
そう呪文を唱えると、グレンの手から雷撃が迸り、生徒の一人に激突しそうになった瞬間
「「「「「「!?」」」」」」」
「まあこんなもんよ」
「加えてこんなことすると《雷・精よ・紫電の・衝撃以て・撃ち倒せ》」
黒板にそんな呪文を書きながら詠唱するグレン。
「射程が三分の一ぐらいになる」
またもグレンの言ったことと同じ現象が起きる。
「さらには…《雷精よ・紫電 以て・撃ち倒せ》」
今度は呪文を元に戻し、一部を消す。そうしながら唱えると…
「出力がものすごく落ちる」
急にグレンに手を向けられ、【ショックボルト】を当てられた生徒は慌てたが、何もされなかったような感覚に目を丸くさせていた。
「まあ、【ショックボルト】
グレンはニヤリと口角を上げながら生徒たちのほうにに振り返る。
ムカつく態度なのは変わりないが、生徒たちはこの講師がただのロクでなしの講師でないことが今、はっきりと理解した。
「まあ、今日は馬鹿なお前らのために【ショックボルト】を用いて魔術のド基礎を教えてやるよ。──興味ないヤツは寝てな。」
今この瞬間、眠気を抱いているものは一人としていなかった。
ダメ講師、グレン 覚醒
今までのぐーたらぶりはどこへやら、魔術の土台を教える授業は、これまでの魔術式や色んな種類の呪文を覚えたりするだけの授業とはまるで違った。
すぐさまグレンの評判はうなぎ上りになり、他クラスからグレンの授業を聞こうと様々な生徒が集まってきた。さらには、この魔術学院に所属している教師までもがグレンの授業を参考にしようと、一目見に来て、その手腕に感心するほどである。
とある日のグレンの授業後
「先生!」
アスラはグレンを呼び止める。
「ん?なんか質問でもあんのかー?まったくお前らはこのグレン=レーダス大先生がいねぇとおしめの一つも──」
相変わらずムカつく態度なのは変わらないが、その目には生気がありこれまでの死んだ魚の様な目とは違った。
「やっぱ、やればできる人じゃないですか!!」
そういわれると、グレンは少し硬直する
「なんとなくできると思ってたんですよ!おかげで俺も【ショックボルト】の一節詠唱ができるようになったし!」
「そうかい…よかったじゃねーか」
「もしかしたら…あんときもシスティーナに勝てたんじゃないすか?わざと負けてたとか…」
そういうとグレンは言葉を遮り、アスラに言い放つ
「それはねーよ…まあ俺は魔術講師としては天才グレン様だが、魔術師としたら【ショックボルト】も三節詠唱できないド三流魔術師もいいとこだ。」
「そこまで卑下しなくても…でも、そうですか…まあ三節詠唱だとかはもうセンスの問題ですし気にしないで行きましょうよ!昼飯一緒に食いませんか!」
「奢ってくれたらな」
「はい!!」
アスラはそう元気に答える。
アルザーノ帝国魔術学院は今日も平和だった。
放課後、アスラは帰り道をゆっくりと歩く
「お帰りー、アスラ君」「こんばんはステラおばさん」
「坊主ぅ!いい魚が取れたんだ、貰っとけ貰っとけ!」「あんがとうございます!!」
「魔術学院の兄ちゃーん!一緒に遊んで!!」「後で遊んでやるよ」
フェジテは平和だ、豊かで人々もやさしく、アスラも一人暮らしだが、その人懐っこさで生きていけてる。
だが、アスラは心の中で自身の言ったことを思い返す
『アンタになにがあったかなんて知らない!説明が下手でも魔術が苦手な人でもいい!!
だけど、過去のことでいつまでもいじけて、足を止めてるような先生は俺はいやだ!!』
(俺だって捨てきれてないのに、あんなこと言って…)
アスラの心は繊細でとても脆い。そんなことは本人だって気づいていた。妹が死んだ
だからこそ、天国にいるユナに恥ずかしい姿を見せないため、彼は何事もなかったかのように振舞っている。
そんなことを考えていると、路地裏から
「ねえ…すこし僕の芸に付き合ってくれないかい?
と、声をかけられた。そちらを見てみれば、民族的な紋様が刺繍されたローブを被っている一人の少年がいた。
髪は銀髪で、目深なフードのせいで顔はよく見えないが、相当な美少年であることがうかがえる。
「すんません、早く帰りたいんで…それに今、お金ないですし…残念だけどお断りさせて…」
「ただでいいよ、だぁ~れも来ないものでね…誰でもいいから少しは見てもらいたかったんだ」
「うぅん…そんだけ言うなら見ますけど、どんな芸です?」
少年の優しそうで断りづらい雰囲気に気圧され、つい承諾してしまう。
「人形劇さ。僕の人形繰りと合わせてナレーション台詞入りで表現するんだよ。子供っぽいって言われるから、大人からは不人気なんだけどね」
「別に…いいと思うけどなぁ…俺結構好きだし」
「そう言ってもらえると…嬉しいね」
少年は屈託のない笑顔でいう。
「じゃあそれでは始まり始まり──演目は『機甲の魔法使い』」
──機甲の魔法使い
それはこの帝都に伝わる御伽噺の一つである
かつて…超魔法文明とまで呼ばれていた時代があったのはご存じだろうか。
原始の時代に次元樹を旅して別世界からやって来たティトゥス=クルォーによって魔術がもたらされ、
だが、それゆえに科学の発展が遅れ、魔術ばかりが神秘を持つことを嘆いた一人の研究者がいた。
その研究者は科学も、魔術と同じような神秘を持つと主張し、一つの超科学文明を立ち上げようとした。
その研究者の「科学」はとても素晴らしいものであった。どんな病気にかかっても治せる薬があり、自立して動き人々の言うことを聞く機械人形、たった一つだけで何でもできてしまう箱、魔術と同レベルの「神秘」を彼は実現した──
そして、最高傑作は疑似的な魔術と科学を合わせた、超兵器「
それは天を駆け、地を泳ぎ、海を歩いた。正に神に届くほどの
その研究者は魔術が使えなかったが、進化しきった「技術」は魔術の神秘にも届きうる。だからこそ、彼は「機甲の魔法使い」と呼ばれるようになった。
この話は、「例え魔術が扱えずとも何かを必死で究め切れば魔術をも超えることができる神秘を手に入れることができる」と言った魔術を使えないものに対する励ましの噺だ。
故に魔術を絶対とする魔術師などからは嫌われており、あまり表で話されることはない。
演目が終わる──
「どうだった?面白いと思わない?君たちみたいな魔術師からは少し評判が悪いんだよね」
「いや…結構面白かったです…なんていうか、ちょっと希望が出てきた気がします。俺もちょっと…魔術が苦手で…」
「…それはよかったね、良かったら…これをあげよう」
と少年はいい懐から何かを出し、アスラに渡してきた。それは指輪であった。シンプルなデザインであり、宝石がついている部分にはちょこんと小さいが綺麗な石が入れられていた。
「これは…?」
「指輪だよ」
「いやそれは分かるんですけど…」
「君が本当に何かを想ったときにその想いをその石に込めるように念じるんだ…まあ、お
「…?よくわかんないけどありがとうございまーす!」
といい、アスラは立ち去ろうとする。
「あっ!そういえばアンタの名前ってなんだっけ?」
立ち去る時、少年の方を一瞥しながらそう聞くと、
「…僕は
まるで昔からの友だったかのように少年──フェロードは言い放った。
感想くれると嬉しいです。
それと誤字脱字などがあったら教えてくださるとうれしいです