『機甲の魔法使い』   作:きしめん丸

7 / 9
凄く…長いです…
ルミアの言動を真似るのは個人的に難しいですね


第六話 魔術競技祭

グレンが珍妙な登場を決めてズカズカと教壇へと上がっていく。

クラス全体が困惑した微妙な空気を微塵も読まず

「まぁなんだ。お前らなかなか種目決めが難航しているようだな、お前たち」

「いや、先生が『お前たちの好きにしろ』って言ったんじゃないですか…」

「あるぇー…?俺、そんなこと言っちゃってたっけ…?」

グレンの相変わらずのへ平常運転ぶりで肩の力が抜けて脱力しまったシスティーナ。

「まぁそんなことはどうでもいいとしてだな、お前らに任せて決まらないのならば、このクラスを率いる総監督たるこの俺が、その天性の超絶魔術講師的判断力を存分に生かしてお前らが出場する競技種目を決めてやろう。言っておくが──」

野心と熱情に高校とも得た瞳で、グレンが偉そうに宣言する。

「俺が総指揮を執るならば、遊びナシの編成で組んでガチで勝ちに行くぞ。お前らを優勝させるからな。覚悟しろ」

珍しくやる気に満ちた宣言でそういい放つグレン。普段の低温動物ぶりからは想像もしないこの熱血ぶりはクラス中をどよめかせた。

(あれ…先生…目が(お金)の形に…?まあいいか!)

天性の観察力を無駄に発揮させグレンの心の内を少しだけ見透かすアスラであった。

 

アルザーノ帝国魔術学院では、魔術競技祭開催前の一週間は、競技祭に向けての練習期間となっている。

それにより授業午後の三限目で切り上げられ、放課後は担当講師の監督の元、魔術の練習をしてよいことになっている。

(不思議な編成だなぁ…でも、グレン先生がこれが最適解だって言ってたし、頑張るか!!…なんか少し目が変だったけど)

放課後、アスラは競技の練習をするために練習場に来ていた。

グレンの采配は不思議であり、全生徒を競技種目に出場させるというものであった。

アスラが任された競技種目は『精神防御』であった。

『精神防御』の種目は毎年恐ろしい内容だ。軽度の精神障害をきたし、三日間寝込んだままだったりはいつもだ。毎年、競技の内容は変わっており今年の『精神防御』は二人出場であった。

練習といっても、『精神防御』は魔術の腕が全てではなく個人の精神力が大事だ。だが、

(ていうか、なんでルミアと俺がでるんだ?)

アスラは少しこの采配に疑問を持っていた。

アスラもルミアも特別秀でたことが技能がないから(アスラは一応『飛行競争』の候補に選ばれた)捨て駒として選ばられたんだろうか。

(いや、違うな…だって)

『精神防御…あーこりゃルミア確定だな。あとアスラぐらいか』

競技種目を決めたとき、グレンは迷いなくそういった。つまり自分たちに任せられるだけのものがあるのだと判断したのだろう。

(さてと、練習に来たのはいいけど…特別やることもないんだよなぁ…)

先ほども言ったように『精神防御』は魔術の腕より、本人の精神力が試される。なのでここに来るよりかは滝に打たれながら禅でも組んだ方がいいのだろうが、ここにそんなものはない

(あの機械人形もなくなってるし…俺ってなんか…全然平凡だなぁ)

「アスラ君」

「ん?なにルミア?」

アスラがぼーっとしてるとルミアが話しかけてくる。

「ええと…あのとき助けてくれてありがとね。お礼言う機会なんとなくなかったから」

「あんなの、あの機械人形ないとできかったし、今はただの学生だよ」

「アスラ君には、アスラ君の強みがあるよ。絶対。今だって、精神防御の種目を先生から任されたし」

微笑みながらルミアはそう返す。それに対して頬をかきながら

「そうかなぁ…?」

と疑問を抱えながら答えるアスラであった。

 

練習は毎日行い、遂に迎えた魔術競技祭当日。

魔術学院正門前は、女王陛下の行幸を出迎えるため、学院関係者でごった返していた。

先発で到着した王室親衛隊の面々が周囲に目を光らせ、あふれかえる生徒達を仕切っていた

女王陛下の到着を今か今かと待つこの中の空気は、独特な緊張感に包まれていた

「うぅ~緊張するなぁ…つーか本当に大丈夫かなぁ…俺」

「だーいじょうぶだ。俺が選んだんだ。そうそう他のやつらに負けるこたぁねえよ」

アスラの不安がる声にいつものように緊張感なく答えるグレン

「貴方なら大丈夫よ。アスラ」

いつものように凛としてアスラを励ましてくれるシスティーナ。

「あぁ…ありがとう。先生…システィーナ……良し!」

アスラは少し緊張がほぐれ、息を大きく吸い気合を入れる

「ていうか…本当に陛下、今日来んの?」

「貴方、いまさら何馬鹿なこと言ってるのよ!?」

すっとぼけたことをつぶやいたグレンを呆れたようにたしなめるシスティーナ

「あはは…ちゃんとお越しになられるはずですよ?陛下はこういうこと、大切にするお方です。」

そんな反応に、ルミアも苦笑いするしかない

「いや、だってこっから帝都までめっちゃ遠いじゃん?転送方陣も使えねえし…俺が陛下だったら絶対、面倒くさくてこねぇ」

「あ、ちょっとわかります」

「貴方もアスラも何を言ってるんですかッ!!不敬でしょうが!」

そういって、ぺチンとグレンとアスラの背中をはたくシスティーナ

すると、大した力を加えたわけでもないのに、グレンがよろめいた

「「…先生!?」」ルミアとアスラの声がハモる

即座にルミアが駆け寄り、グレンのことを支える。

「っとと……すまん。つーか来るならさっさと来てほしいんですけど……俺、もうなんていうか立ってるだけで腹が限界つーか…あ…やべぇ…セリカの顔が見える…いやあいつ死んでねーわ……」

(あ、そういうことか)

魔術学院の講師、ハーレイと三か月分の給料を賭けた件と合わせてアスラはなぜ、グレンが優勝を目指しているか分かった

(金ないなら言えばいいのに…てか奢ったんだけどな)

なんやかんやあり、女王陛下は来て魔術競技開催式が行われ、魔術競技祭は開催されるのであった。

 

(ルミアなんか変だな…大丈夫かな?)

競技場の外周に等間隔のポールが経っており、その外側を飛行魔術を起動させた選手たちが風を切って飛び駆けている。アスラは『飛行競争』を見ながらそんなことを考えていた。

アスラには人の心をなんとなく察知できるぐらい感能力が高い。故にルミアが少し変なことにも気づいていた。

ルミア=ティンジェルは心の強い子だ

アスラがルミアと話すごとになんとなくグレンが『精神防御』でルミアを選んだ理由が分かった。

彼女は「強い」のだ。他の誰にも負けないほど

それがどういう強さがどういうものなのかはイマイチわからないが、彼女からは何か、確固とした()()がある。

「おっ!すげえ!!」

『飛行競争』もラストスパート。アスラ含む観客席の生徒たちは、競技場の外側を大きく回るように飛翔する生徒達の意外な勝負展開に歓声を上げていた

『差し掛かった最終コーナー!!二組のロッドくんがぁ!!!!ロッド君がぁ!!!!伊達じゃない!!!まさかの二組が!!!抜いた───!!!!!』

魔術の拡声音響術式による実況担当者が実況席で興奮気味の声を張り上げている。

一位、二位確定の先頭集団はそっちのけで、グレンの担当クラスである二組チームにご執心の様だ。

『そのままゴォオオオル!!だれが予想できた!!この結果!!!』

ワァ──ッッ!と観客席から洪水のように大歓声が溢れた。その発生源は主に競技祭に参加できなかったものだ。

(やっぱりみんな…参加したかったんだな…絶対答えなくちゃ…)

アスラはそこの競技祭に参加できなかった生徒たちに向けてそう決心する。

(でも…やっぱ先生はすごいや!)

アスラがそう驚く理由は今回の『飛行競争』のルール一1周五キロスのコースを二人で交代しながら計二十周するというものだったからだ。

だからこそ、グレンは出場者のロッドとカイに飛行の最高速度を上げるのではなくペース配分を意識するように訓練をするように言われた。

傍から見れば、このルールの意図を最速で見抜き、それに合った最高の采配をした名軍師に見えるだろう。実際、結果からもそうである

だが、当のグレンは

(うそーん…)

と目を点にして呆然としていた

「やったぁ、凄い!先生、三位!ロッド君とカイ君、三位ですよ!?」

グレンの隣ではルミアがそうはしゃぐ。グレンの様子には気づいてないようだが…

(いや、まぁ、まさかここまで上手くハマるとは…)

「幸先良いですね、先生!」

システィーナも顔を上気させ、興奮気味にグレンに話しかける。この展開は計算済みだったのかと質問するがそれに対してグレンは

「…と、当然だな」

と返し講釈をたれ始める

(あ…あはは…先生もしかしてあんま考えてなかったのか…)

だが、グレンの考えが結果的にはいいものをもたらしているのは事実なのでアスラは何も言えなかった。

そして生徒達はこの結果とグレンの後付け講釈でグレンに尊敬と畏怖の目を向け始めた

「ひょっとして俺たち…」

「ああ…まさかとは思ったが、先生についていけば、ひょっとしたら…」

生徒達がグレンを持ち上げるとグレンは少し苦しそうな表情を見せる。

そんな中、土壇場で負けてしまった四組の生徒と二組の生徒が言い争っている声が聞こえてくる

「たまたま勝ったからって調子に乗ってるんじゃないぞっ!!」

「たまたまでも偶然でもない!!俺たちにはグレン先生がいるんだ!!!」

「何をぬかせっ!!!そこのアホ面晒しているやつがそんなこと!」

「へっ!そっちこそ!お前たちは所詮掌の上で踊ってるに過ぎないんだよ!」

「何を―ッ!!覚悟しろ!!まずは貴様ら二組から潰してやるぞ!」

「返り討ちにしてやる!先生がいればお前らなんかに─!」

「ああ!先生がいれば、俺たちは負けない!!!!」

グレンは更に苦しそうな表情を見せる。

(ほんとに大丈夫かな…?)

アスラは苦笑いでそれを見守るしかなかった。

 

それからもグレンのクラスの快進撃は、奇跡的に続いた

平凡な生徒が三位という好成績を収め、自分たちでもやればできる、戦える。勝負事において士気の高さが何よりも重要であることを二組の生徒たちが証明していった

そして、すべての生徒たちが使われていることによって体力や魔力を温存する意味がなくなり全力で戦えることから勝率が上がったのであろう

『あ、中てたっ!!!二組選手セシル君が中てた!距離三百メトラの自由自在に動く円盤を当て、撃ちぬいた──!!またもや盛大な番狂わせだあああああ!!!』

「や…やった…動く的に狙いを定めるんじゃなくて、狙いをつけたところに的が来るまでまてっていうグレン先生の言うとおりだ…!これなら…ッ!」

快進撃は続く。

 

『さぁ空に文字が浮かぶ!!!出題されるのは…《竜言語》だとぉ!?先ほどの前期古代語もそうだが容赦がなさすぎるぞ今回──!?さあ各選手【リード・ランゲージ】で解読にかかる!!一番最初に解くのは一体──』

「分かりましたわ!!」

『はっ早い!!二組のウェンディ選手!!先ほどからも絶好調だったがまさか竜言語まで!!!』

「やっぱりすごいな…みんな…」

アスラは感心しながら試合を眺める。自身の出番が近いので、少し不安を抱きながら。

快進撃は続く…だが、

(地力の差は大きい…か)

グレンが腕を組みながら考える。

確かに二組の成績をものすごい。成績上位者にこれだけ対抗できるならとても褒められたものだ。だが、それでも()()であった。現在グレンのクラスは十クラス中三位一位から三位の点数はそれほど離れていない。だが、一位のハーレイのクラストはじりじりと、離されていっている感覚はある。

(偉い、お前らは、ここまで食い下がって…本当にすごい。俺の言うこと本気で信じて、この一週間本気で一生懸命頑張ってきたんだな…)

グレンに魔術競技祭への興味は毛頭なかった。だが、皆が一丸となって、楽しそうに、必死で頑張る姿を、見せられれば

「……ったく、勝たせてやりたくなっちまうだろうが……あぁ、面倒臭ぇ」

(だが、どうする?ここまで健闘できていること自体、まぐれっつーか、奇跡の賜物なわけで、地力の差は歴然だ…)

今は善戦してるが、それは士気の高さもある。一度落ちてしまえば、そこからはずっと落ちていくだろう。

「…えーと、確か次が午前の部最後の競技だったな……えーと、なんだったか」

グレンはそういいながらプログラム表を見て次の競技種目を確認する。そして、その競技を見た瞬間、グレンはニヤリと口角を上げた

(…!なるほど…これならいけるかもしれねーな…!)

 

ルミアとアスラは競技場中央フィールドの上に立っていた。

この上に立っている者は自分たち含め20人。次の競技は魔術競技祭の中でも最も恐ろしい競技である、『精神防御』だ

精神汚染攻撃の対策は魔術師の中でも必須級の技能であり、この競技はそれを競う種目である。

今年は二人一組ででて、最後まで残った組が唯一得点を得られる

「がんばろうね!アスラ君!」

「…うん」

(ルミアは大丈夫だろうけど…俺…本当に大丈夫かな…?)

観客席の四方からは戸惑いの声が聞こえる。なぜなら…

「お…おい…見ろよ…大丈夫なの……か?」

「女の子がこの競技に出場するなんて……」

「あのクラスの担当講師は、一体、何考えているんだ…?」

ルミア以外の『精神防御』の出場者には男生徒しかいない。当然だ。『精神防御』は毎回急患者が出るレベルで危険な競技であり、そんなのをか弱い子にやらせようとするなど言語道断…と思われるであろう。

(それにしても、横の人…でかいな…)

アスラとルミアの横に立っているのはアスラよりも一回り大きくルミアよりも二回り三周りも大きい。

魔術師らしくない大柄な体格、浅黒く焼けた肌、赤く染められた髪、その強面は見る人間を委縮させるような威圧感がある。

(思い出した…確か…ジャイル…不良なんだっけ…)

「おい、そこの女」

その男がルミアに噛みつくように話しかける。

その男は仏頂面で腕を組みながらこちらを睨んでいる

「悪いことは言わねぇ。今からでも棄権しな」

「!!アンタ!そんなこと──!」

「この競技はお前らみたいに仲良しこよしで突破できるほど生易しいものじゃねえよ、犬みてえにこのフィールドに這いつくばりたくないならさっさと棄権しろ」

「!」

アスラにも少しむいてはいるが、その言葉はルミアへの威圧。

普通の女子生徒なら竦み上ってしまいそうな、威圧的な恫喝に加え、そ飢えたの野獣のような眼光が二人を刺した。

「あはは、ええと、確か…五組のジャイル君だったよね? 私のこと、心配してくれてるの? ふふ、優しいんだ」

「でもルミア─!」

「アスラ君?大丈夫だよ」

「はい」

「………」

そんな二人の様子に思わず毒気が抜かれるジャイル。

「ジャイル君、私、皆のために頑張りたいんだ。皆一生懸命頑張ってるんだもの。私だって頑張らなきゃ」

「ちっ……ああ、そうかい、後悔しねえことだな」

「それに……ジャイル君の五組は確か、今二位だったよね?」

「…?」

ルミアの言ったことにきょとんとするアスラ。ジャイルはふんと腕を組みながら

「くだらねえ。それがどうかしたか?」

「私のクラスが三位だから……もし、私たちが勝ったら……順位、入れ替わっちゃうね」

そういって、ルミアは立てた人差し指を口元に当て、いたずらっぽくウィンクする。

「…面白ぇ」

ジャイルが獲物のウサギを見つけたかのように獰猛に笑った。

ジャイルの闘争心は静かにアクセルを踏み始めていた。

誰もが自分を恐れ近寄ってこないが、この小娘がこれほどまでに分かりやすく挑戦をしてきた。

これ以上に彼の心に火を点けた者は数少ないであろう

『あー、テステス、えー、時間になりましたので、ただ今より『精神防御』の競技、開始します』

響き渡る実況の音声に、観客席から歓声が上がる。

『ではでは、今年もこの方にお出まし願いましょう!はい!学院の誇る魔術教授、精神作用系魔術の権威、第六階梯(セーデ)、ツェスト男爵です!』

すると、参加生徒たちが組んでいる円陣の中心に、突如煙が巻き起こり、燕尾服にシルクハット、髭と言った伊達姿の中年男性が現れた

紳士淑女の皆さん(Ladies and Gentlemen)、ご機嫌よう。ツェスト=ノワール男爵です」

簡単な単距離転移魔術でやや芝居がかった風に現れた男が一礼する。

「ふむ、今年は少し多いな…さて、それでは早速、競技を始めよう。選手諸君、今年はどこまでこの私の華麗なる魔技に耐えられるかな…?」

アスラは冷や汗をかきながら、ごくりとつばを飲み込む。

『それでは、第一ラウンド、スタート! ツェスト男爵お願いします!』

「では恒例の【スリープ・サウンド】あたりからやってみよう。では選手諸君…いくぞ!」

「《身体に憩いを・心に安らぎを・その瞼は落ちよ》」

ツェストが白魔【スリープ・サウンド】の詠唱をする。

「《我が御霊よ・悪しき意志より・我が識守り給え》」

同時に選手たちが対抗呪文(カウンタースペル)、白魔【マインド・アップ】を唱える

「んぐっ──」

精神統一(コンセントレイト)が遅れたアスラが、一瞬【スリープ・サウンド】をもろに食らい、意識が落ちかけるが気合で耐え抜く

『さぁ、第一ラウンド──って寝たーッ!?第一ラウンドでいきなり二人とも脱落したのは一組、ハーレイ先生のクラスだぁぁぁぁ!!』

地べたに倒れ伏してグースカと十字になって寝ている二人に観客から失笑が漏れる。

「そこの君」

「えっ?」

ツェストがアスラを呼び止める。

「あまり無茶はするものではないぞ」

「…はい」

おそらくは【機甲の天使】の事情を彼も知っているのだろう。その重要参考人が精神異常で後遺症をもたらしたら学院側も大変なのでツェストは『無理をするな』と言ったのだろう。だが、

(そんな、心配されるほど、落ちぶれていない!)

俄然その言葉で少し弱かった闘争心に火が点けられた。アスラ=アダムスは単純なガキだった

『いやーまさか二人とも倒れてしまうとは!二組のアスラ君も少し危なかったですね!!しかし、今回は去年の覇者、ジャイル君もいるところですからきっと主力温存でしょう。実質彼の勝利がもう決まっているようなもので、実況の僕としては、紅一点、二組のルミアちゃんがどこまで残れるか……これが見所だと思うんですけど、どうです? 男爵』

「ふっ、そうだな。可憐な少女がどこまで私の精神操作呪文に耐えてくれるか、いたいけな少女の心をどのように汚染しつくしてやるか、もう考えたら涎が…ふひ、ふひひ」

『すいません訂正します。この方は学院の誇りではなく埃でした』

男爵が気持ち悪い薄ら笑顔を浮かべながら、ルミアを一瞥する。

さすがのルミアアスラと言えど、これには脂汗を垂らして、思わず一歩を引いていた。アスラに至っては少しルミアの前にでて手を伸ばし守っていたぐらいには。

『さぁ教授の変態ぶりがわかったところで続いて、第二ラウンド!!』

「何を言うか!!私は変態ではないッ!私はただ、喪神しちゃったり、心がやんじゃったり、混乱しちゃったり、恐慌を起こしちゃったりした女の子の姿に、肉体が!魂が打ち震えてやまないのだよ!!」

『変態じゃねぇか!』

あいつ、クビにしよう。学院長リックがひそかに心の中でそう決心したのは露知らず、男爵は次々と呪文の威力を上げて生徒達へとその恐ろしさを見せつける

『ツェスト男爵の【コンフュージョン・マインド】の呪文、決まった─!!うわぁ、やばい!!八組の選手、六組の選手、それぞれ耐え切れず──ッ!?』

「暑い…!!暑い!!!暑い!!!!!」

「ンッ─!」

アスラは【マインド・アップ】をかけるが、やはり練度が足らずもろに食らってしまう

「ぎゃあああ──ッ!?ちょっと君!男子生徒に脱がれても私は決してそんな趣味は──ッ!?」

『少しは自分の欲望を隠せ─ッ!?この馬鹿男爵!?』

「しかし、かのロラン=エルトリアもこう言った。『汝、他者を望みを炉にくべよ──」

『そんな都合のいい言葉じゃねぇよ!!あー早く精神浄化精神浄化!?』

 

「次は白魔【マリオネット・ワーク】だ! 皆を私の操り人形にしてせんじよう! さぁ踊れ!」

『ぷっ、だっははは─!?耐え切れなかった十組の選手、踊りだした─ッ! ていうかセクシーダンスかよ!!いちいちキモイな!』

「……ちっ」

『ルミアちゃんの方見て舌打ちしてんじゃねぇよ変態エロ親父!?』

 

盛り上がる競技フィールドとは裏腹に、観客席は冷めていた。傍目からは地味な競技であり、そして、ジャイルが勝つ。そういった結果が見えているのだから。

結果が見えている試合程つまらないものはない。実際、どんどん過激になっていく呪文の中ジャイルは冷めた目で、平然と立っていた。

 

魅惑の呪文をかけられ、男爵に告白する者がいたり、宇宙的恐怖が見える呪文をかけられたり、それはそれは阿鼻叫喚の地獄絵図だったが、ラウンドが進むごとに観客席はざわざわとどよめき始めた

それは真っ先に脱落すると思われていたルミアとアスラが、いつまでも残っている。アスラの方は少し呼吸が浅くなっているが、ルミアの方はけろっとしている。まるで隣のジャイルのように

アスラは毎回、それなりにダメージを食らい、徐々に疲弊していく。だが、一度たりとも折れることはなかった。

そして、観客の疑念のどよめきはやがて、期待と変わっていき

『九組脱落──ッ!?なんとだれが予想したかこの展開!? 残るは五組代表ジャイル君と、二組代表アスラ君、そして──ルミアちゃんだぁぁ!!!』

この予想外の展開に観客たちは大いに盛り上がり、今、大歓声を上げていた。

(キツイ……だけど…)

アスラは執念深く二人に追いついていく、素の精神力で比べれば彼らと彼女らにはアスラは敵わない。だが、追い詰められればられるほど、アスラの執念は強くなり、やがて引きはがせなくなる。

この予想外の展開には男爵も困惑気味だった。

「むぅ、なんと……ジャイル君はともかく、ルミア君、そしてアスラ君までもがここまで粘るとは…

さて、そろそろ白魔【マインド・ブレイク】の呪文に行ってみようか」

そういい、ツェストは次の呪文の宣言をする。

『とうとう、来た!!! 第二十七ラウンドからは【マインド・ブレイク】だ──ッ!!!!ありとあらゆる思考力を破壊し、下手すれば一瞬で人を廃人にするといわれる恐怖の呪文ッ!?』

「いくらなんでもそこまで強くは唱えぬよ。せいぜい三日位放心状態で寝込む程度に抑える。倒れた場合、ルミア君の治療と看病は私が責任もってせんじよう!」

『…ジャイル君とアスラ君の看病は』

「……アスラ君の方は考えてやらんでもない」

『やっぱり変た──』

「いざ行くぞ」

華麗に司会の言葉を無視し、粛々と【マインド・ブレイク】を唱えた

応じて、三人とも【マインド・アップ】を唱える。

呪文が起動し甲高い金属音が鳴る。そのまま静寂がその場に訪れ…

「ふむ、大丈夫かね? 三人とも大丈夫なら返事を─」

「……ちっ。この程度がなんだっつうんだよ」

「──はい、私も平気です」

『なんとルミアちゃんとジャイル君、【マインド・ブレイク】すら耐えたあああ──ッ!?しかし粘ってきたアスラ君もここでは退場か──!?』

アスラはピクリと動かず脱力させ、顔を下に向けている

「ふむ…さすがに無理だっ「大……丈夫…です」

か細い声が聞こえる。近くの者でも耳を澄ませねば聞こえないほどにか細い…だが、

「大丈夫です!」

アスラはそういうと小さく右手でサムズアップをした。

『アスラ君も耐えたああああ──!!!!三人とも、まさかの【マインド・ブレイク】を耐えて次ラウンドに続行ゥ──ッ!!!!!』

この熱い展開に、観客はどっと沸き立つ。

「お前、もうむりだろ。今ので限界だ。さっさとギブアップしな」

「アスラ君、あとは頑張るから…」

ルミアがそう優しく言う。ジャイルも厳しくではあるが決して、害意を持って棄権を促しているわけじゃない

「そうだよ、限界だ…」

アスラが弱弱しい声でそう答える。

「もう、無理だ。棄権して楽になりたい。そのくらい限界だ。でも、皆が頑張ってるのに…俺だけが逃げるわけには…

それに…限界だからて負けていいわけじゃない…それくらい…乗り越えてやる」

アスラか細く、しかし力強くその言葉に魂を込める。

誰かに認められたい。【機甲の天使】じゃなくても人よりもうまくいきたい。そんな普通の願いが彼の心を動かしている。彼の一年前、こぼれ落ちた心は埋まっていってるようで穴から抜け落ちている。だからこそ、自分が満足するまで、貪欲に、誠実に、まっすぐ動ける、そんな魔術師らしい魔術師だ。

「…絶対優勝します。俺たちで」

その言葉に観客は歓声を上げ、嵐のような拍手が巻き起きる。

「ふむ、君の覚悟、よくわかった。君の覚悟に答えて見せよう」

「……はい!!」

「…面白ぇ!」

 

続く、第二十九ラウンド。さらに、第三十ラウンド、そのたびに呪文の威力が上がり、ラウンド数もじりじりと上がっていく

そして迎えた第三十一ラウンド。ここで異変が二つ起こる。

一つ

「…ッ!」

今まで耐えてきたルミアの体が、ぐらっ…と傾き、膝をついた

そして二つ目

男爵が呪文をかけるとき…

(負けない…耐えてやる!)

アスラがそう心で強く思い、次来る【マインド・ブレイク】を身構える

その瞬間、アスラの意識が覚醒する。

感覚は澄み渡り、この競技場のどこまでも把握できそうな、そんなトリップ状態にも近い感覚。この感覚は以前にも経験したことがある。ネメシスに乗ったときだ。

その状態で呪文がかけられる。だが、

『ここで二人ともダウン──!?だが、ジャイル君は全く動じず仁王立ちのまま! こ、これはさすがに決まったかあああッ!?…って男爵?』

「ッ!?」

ツェストが呪文をかけた瞬間冷や汗をかき、少し足を引いた。

その瞬間、アスラから、膨大な()が見えた。暗く、深く、不快で、そんな闇が。

(やはりアスラ君は…何かがおかしいな…あの機械人形のことといい…)

精神操作魔術で相手の心が見えるというのは珍しい現象ではない。だが、男爵は驚愕した。こんな幼い少年が、ここまでの闇を抱えているものかと

そして、アスラも倒れた、【マインド・ブレイク】によるものではなく、張り詰めた緊張感による極度の疲労のものであることが様子から察せられた。

「アスラ君は医務室へ、君は…ギブアップかね?」

「…………いえ」

少し意識が朦朧としていたらしい

返答にラグが数秒あったがルミアは頭を振って気丈に顔を上げ、立ち上がった。

『では続行ゥ──!!最後はまさかのルミアちゃんとジャイル君の一対一!!!!では続いて、第三十二──!』

(ちくしょう……)

アスラの意識はもうすでに消えかかっており、体を動かすこともままならない。

そして、アスラの意識はそのまま深く沈んだ




カットカットカット!!!
省略できるところはとことん省略するつもりで行きます
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